DISC REVIEW
Overseas
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ODESZA
In Return
美しくポップで、また世界をゆったりと旅するような壮大でエモーショナルなサウンドスケープを電子音楽で紡ぐシアトル発のプロデューサー、Harrison MillsとClayton Knightによるユニット、ODESZAのニュー・アルバムが完成。今作もエキゾチックで、多幸感たっぷりの音の旅ができる作品となっているが、「Kusanagi」や「Koto」だったり、またその他の曲でも日本を感じさせる音色やエッセンスがさりげなく盛り込まれていて、郷愁感もわいてくる。ソウルフルな歌声から夢見心地な歌声まで多岐にわたる女性ヴォーカルをフィーチャーし、そうした歌声の個性もまた音色のひとつとしてサウンドを構築。このエアリーな音のアンサンブルが、自然と肌になじんで、さまざまな想像力を喚起させてくれるのだろう。長い夜にぴったりの作品だ。
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LES SINS
Michael
ロック~クラブ・ファンまで絶大な人気を誇り、単独での来日公演はもちろん、FUJI ROCK FESTIVALやTAICOCLUBなどへの出演も果たしているTORO Y MOIことChaz Bundickが新名義、"LES SINS"として始動させたダンス・プロジェクト。"Carpark"傘下に立ち上げた自身主宰のレーベル"Company Records"からリリースされる1stアルバムでは、ムーディなクラシック・ハウスからUKベース・ミュージック、グルーヴィ且つスモーキーなビートまで、ポップ・ミュージックのルーツを辿るかのように多彩な音楽性を繰り出している。TORO Y MOIの持つダンサブルな要素を突き詰め、彼の様々なモードを楽しむことができる作品。
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Untold
Black Light Spiral
震えるように微かに刻まれるビートと、反響するサイレンの音―― 窓の外からうっすらと聞こえてくる街の喧騒を再現したかのようなTrack.1「5 Wheels」が始まった瞬間から、言い知れぬ不安感が聴き手を侵食していく。James Blakeを輩出したレーベルHemlockの主宰としても知られるロンドンのプロデューサー、Untoldが今年2月にアナログと配信でリリースした1stアルバムの完全版。ダブステップの内省的なビートとインダストリアルの無機質かつ歪な不協和音を絡ませ合いながら、彼はこの現実社会の哀しみと恐怖を、アルバム1枚通して陰鬱且つ強迫観念的な音世界で描き出した。"レイヴ・カルチャーへのレクイエム"と呼ばれたダブステップは、James Blakeのメランコリーと共に、このUntoldの残酷なまでの写実性へと行き着いた。
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THE RIGHT ONS
Volcán
スペイン、マドリード発の5人組ソウル・カレージ・ロック・バンド、THE RIGHT ONS。本国でも順調に人気拡大し、今作で満を持してのメジャー進出を果たす。今まで英詞で歌ってきた歌詞をスペイン語にチェンジして放たれる『Volcán』は、本国スペインの照り付ける暑さ、否"熱さ"を凝縮したような4thアルバムとなった。ソウルもファンクも一口で飲み込んでビンテージ・ロックとして吐き出されるサウンドからは、どっしりとした重厚感や男気を感じる。その堂々たるサウンドから彼らの貫禄と風格が透けて見えるようだ。THE BAWDIESのROY(Vo/Ba)も"彼らは本物だ!"とコメントしているように、彼らの魂が映し出されたかのようなこの音を聴けば、天性たるソウル魂を知ることができる。
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Ariel Pink
Pom Pom
ARIEL PINK'S HAUNTED GRAFFITIiではなくAriel Pinkソロ名義としては初のアルバム。膨大な数のローファイ宅録音源を作り続けていたところをANIMAL COLLECTIVEに見出され、2009年の『Before Today』で一躍インディー・シーンの寵児となり、後のチル・ウェイヴ勢などに大きな影響を与える"2010年代の音"の礎を築いたAriel Pink。このタイミングでのソロ名義とは、やはり『Before Today』と『Mature Themes』の2作で確立したHAUNTED GRAFFITIの"存在意義"にAriel自身が重荷を感じていたのかもしれない。故に本作は全17曲2枚組、各曲の完成度は高いが、しかし全体的には初期を思わせるやりたい放題盤である。70年代ポップスにハード・ロックにポスト・パンクにニュー・ウェーヴ......すべてを繋ぎ合わせ、時代のゴミ箱を宝箱に変えてしまう、その錬金術はやはり圧倒的。
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ZOLA JESUS
Taiga
これまでダーク・ウェイヴやゴシックの文脈で語られてきた彼女のイメージからすれば、現代の広義なエレクトロポップに寄った今作の質感は大きな変化かもしれない。アメリカ生まれながらロシアの血を引き、学年を飛び級した才女も今年で25歳。リード・トラックの「Dangerous Days」のビート感を耳にすると、かなりポピュラー路線にハンドルを切った印象だが、ロシア語で"針葉樹"を意味するタイトル・トラックなど他のトラックでは、ミニマルに削ぎ落としたSF映画のサントラ、例えばSteven Priceの音楽に、Zolaのどこまでも人を射抜くような意志的なヴォーカルにフォーカスした、ジャンルレスな楽曲が大半を占める。アクは減退したけれど、ヴォーカリストとしてはLORDEらと並ぶ存在感を本作で打ちたてるのでは。
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Johnny Marr
Playland
前作からわずか1年で新作をリリースしてしまうところに絶好調が窺える。THE SMITHS解散後、数々のプロジェクトやバンドに参加してきたUKロックが誇るカリスマ・ギタリスト。ソロ名義としては2作目となるこのアルバムには前作の延長上でツアーの熱気を反映させたロックンロールが満載。全編アップ・テンポで押し通したところが潔い。曲の出来とツアーを共にしてきたバンドのコンディションに自信があるから、あれこれやる必要がなかったんだろう。ポスト・パンク調のサウンドも彼の血肉となっているものだ。最も得意としていることをやっているだけにそこに迷いは微塵もない。ギタリストのソロと言うと、歌にオヤ?となることが多いが、Marrの溌剌としたヴォーカルも大きな聴きどころだ。
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Dinosaur Pile-Up
Nature Nurture (Japan Edition)
今年8月、知る人ぞ知る存在だったにも関わらず、爆音を轟かせたパワフルなパフォーマンスによって、SUMMER SONICを沸かせたイギリスの3人組。その彼らの日本デビュー盤となる2作目のアルバム。日本盤化にあたって、アルバム収録曲と比べても何ら遜色ない6曲が加えられている。バンドもその影響を認めているように、そのサウンドはNIRVANAを始めとする90年代グランジ直系。今時、珍しいと思えるぐらいシンプルな演奏が痛快というか、潔い。それはやはり曲のクオリティに加え、思いっきり歪ませたギターの爆音は何にも代えられないほどかっこいいという自信があるからだろう。時折WEEZERを連想させながら、そこまで泣いているわけではないメロディにもこのバンドらしさが感じられる。
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OK GO
Hungry Ghosts
"FUJI ROCK FES'14"の最終日、レッド・マーキーのベスト・アクトという声も高かった彼らの4年ぶり、通算4枚目のフル・アルバム。そのステージの印象から、ポップでカラフルな楽曲をイメージしがちだが、ポップではあるもののモノクロームな色合いが似合うアンドロイド的なサウンドでまとめられている印象。最もキャッチーなのは2ヶ月でMVが約1000万回再生されたという話題の「The Writing's On The Wall」。CGなどに頼ることなく、人力の騙し絵的手法で次々と展開していく映像は観終わったあとにMVのエンディング同様、拍手を送りたくなるはず。やはり彼らの魅力はMVもセットで楽しんでこそ本領発揮のようで、次作MVは日本で撮影、制作がおこなわれたというから非常に楽しみだ。
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MAROON 5
V
すでに全米チャート1位に輝き、バンドにとって7年ぶりのナンバーワン・ヒットとなった本作。デビュー時のなんとしてでもソウルやファンクのグルーヴをロック・バンドのメカニズムで表現しようとする衝動と、それを牽引したAdam Levineのホワイトソウルなヴォーカルにどうしてもパワーとポップスの挑戦を感じていた身には、今回のアルバムもR&BやEDM、トラディショナル・ミュージックを思いっきりポップに消化し、万人受けするチャート・ミュージックに濾過された印象は否めない。先行シングル「Maps」がメイン・ストリームの洗練されたR&Bになんとか彼ららしい生音のジャシーなギターやピアノをアレンジしていた熱量が本編でも反映されたら......。Adamのメロディ・センス好きにはいい作品ではある。
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THE VASELINES
V For Vaselines
NIRVANAのKurt Cobainも愛したグラスゴー出身の男女デュオ、THE VASELINES。90年代に1度解散した彼らの、2008年の再結成後2作目となるフル・アルバム。何故、Kurtはこのデュオを愛したのか? その答えは、ピュアで、繊細で、下手っぴで、でも強い音楽愛に満ちたそのギター・ポップ・サウンドにすべて表れている。VASELINESはロックの"純潔"の象徴だった。衝動的に掻き鳴らされるギター、ラフでパンキッシュなサウンド、可愛らしいメロディ、柔らかなふたりの歌声―― そのすべてが、"俺を見ろ!"とのたまう男根主義的ロック・スターとも、ハリボテの煌びやかさを売りにする商業主義ポップスとも一線を画すものだった。本作でも、そんな彼らの本質は少しも変わらない。HomecomingsやJuvenile Juvenileあたりが好きな人は絶対に出会っておくこと。
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KINDNESS
Otherness
チルウェイヴ以降のシーンに現れ、インディーR&Bの隆盛やディスコ・リヴァイバルの先駆者的立ち位置にいながらも、しかしどこにも属さないし属せない孤立無援の花――ロンドン出身のプロデューサー/ミュージシャンであるKINDNESSことAdam Bainbridgeの存在を乱暴にレジュメすると、こんな感じだろうか。本作は2012年にリリースされた1stアルバムに続く2ndアルバム。ディスコやR&Bだけでなくファンクにジャズ、ポストロックの要素も取り入れた、曲によって様々な表情を見せる繊細なサウンド・メイク。さらにRobyn、Kelela、Dev Hynesなど、今をときめく才能を招集した豪華なゲストたち。そのすべてを繋ぎとめるのは、KINDNESSが描く"ソング"の美しさにある。まるで彼の自室に招かれ向き合っているような、とても親密で静謐な世界観。傑作。
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ICEAGE
Plowing Into The Field Of Love
モヤッとしているんだけれど、聴いていてなんだかスッキリする―― 今作にそんな矛盾した印象を与えている所以として、喉の奥につかえている鬱蒼とした気分を吐き出すように歌うフロントマン、Elias Bender Rønnenfeltの存在が大きいだろう。過去作と比べて、彼の変貌ぶりをありありと感じられるのは、歌詞を包み隠すことなく聴き手へと直接投げかけるようになったという点。サウンド面でも、特有のダークさは健在でありながら、管楽器とヴァイオリンを取り入れた「Forever」、アップ・ビートなカントリー・ナンバー「The Lord's Favorite」など、ポスト・パンク色の強かった過去2作での激情を洗練された音楽へと見事に開花させている。バンドの音楽的野心が結実した快作。
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TWEEDY
Sukierae
今年結成20周年を迎えたWILCOのフロントマン、Jeff Tweedyがサイド・プロジェクト"TWEEDY"として息子のSpencerとともに制作したデビュー・アルバム。今作にはTWEEDY親子だけでなく、元THE YOUNG FRESH FELLOWSのScott McCaugheyやLUCIUSのメンバーも参加。本家WILCOとそう変わらぬ作風だが、この布陣でしかなし得なかった親密且つ冒険心に満ちたサウンドを展開している。穏やかなトーンで統一されているものの、楽曲それぞれの個性も生き、バラエティに富んだアンサンブルや楽曲に深みとムードを与えるコーラス・ワークなど、シンプルでありながら聴きごたえのある作品に。往年のWILCOファンはもちろん、WILCOを知らないかたにも聴いて欲しい良作。
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DORIAN CONCEPT
Joined Ends
ウィーンで生まれ、10代のころに独学で鍵盤やサックスなどを習得し、同時にコンピューターで音楽制作をはじめたDORIAN CONCEPTことOliver Thomas Johnson。大学でサウンド・デザインを学び、THE CINEMATIC ORCHESTRAやFLYING LOTUSのライヴ・メンバーとして舞台に立つなどプレイヤーとしてのセンスやスキルが高くかわれているが、彼自身の作る音楽はとてもロマンティックだ。2ndアルバムの今作は、ウーリッツァーのエレクトリック・ピアノとアナログ・シンセが中心のミニマルな音ながら、柔らかなベールを重ねたような透明感と陰影のあるサウンドを描く。桃源郷の世界から漏れ聞こえてくるような歌声など、音の立体感の妙があり、そんな緻密な計算とは裏腹に自然に心に寄り添い、優しく溶かしてしまうから不思議。
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FLYING LOTUS
You're Dead!
FLYING LOTUS最新作のテーマはズバリ"死"。無限に広がる死の世界という、誰もが迎えるであろう未知の領域を表現したサイケデリックな音像を聴かせている。USヒップホップ・シーンの代表的ラッパー、Kendrick Lamarや大御所感漂うSnoop Doggが参加しているほか、「Moment Of Hesitation」では度々来日している天才ベーシスト、THUNDERCATと共にジャズ界の巨匠、Herbie Hancockも参加。ジャズ、ヒップホップ、エレクトロが混然一体となった様子はFLYING LOTUS版の『狂気』(PINK FLOYD)とも受け取れる。"このアルバムは、終わりをテーマにしているわけじゃない。これは次なる体験に向けた祝福なんだ"と彼が語るように、スピリチュアルな体験を求めているかたにはドハマりしそうなアルバム。
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WEEZER
Everything Will Be Alright In The End
デビュー20周年を迎え、改めて原点に立ち返り、本来のWEEZERらしさを追求したんじゃないかと思わせる4年ぶりのニュー・アルバム。3パートからなる組曲に加え、新境地を思わせる絶妙な転調やデイスコ・サウンドやトラッド・フォークといった新機軸を取り入れながらも、1枚目と3枚目を思い出させるという意味で、これほどWEEZERらしいと思えるアルバムを作ったのは、たぶん10年ぶり?! ファンはきっとこういう作品を待っていたはずだ。たぶん1枚目と3枚目を手がけたプロデューサー、Ric Ocasekを三たび起用したことも大きかったに違いない。全体的に抑え気味ながらも聴きごたえはあり。Rivers Cuomo(Vo / Gt)も本来のメタル愛をストレートに表現。随所でメタルふうのリフやソロを披露している。
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TAHITI 80
Ballroom
来年デビュー15周年を迎えるフランスのポップ・マエストロ・バンドの前作から約3年半ぶり、通算6作目となる新作アルバム(日本先行リリース)。全編に亘りリバーブがかかり奥まった定位から聴こえてくるヴォーカル、Xavier Boyerの声は一聴すると女性のようにも聴こえるし、80年代のシンセ・ポップを彷彿とさせる音作りが懐かしくもあり新鮮でもある。ダークで妖しげなメロディの「The God Of The Horizon」、ゆったりと時が流れるようなドリーミー・ポップ「Solid Gold」など時代も性別も超越して理屈抜きで楽しめる、じっくり聴いてほしい極上のポップ・アルバム。2013年のFUJI ROCK FESTIVALで彼らを目撃したファンは必聴。
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Tricky
Adrian Thaws
MASSIVE ATTACKとともにトリップホップ/ブリストル・サウンドの立役者と謳われるTrickyがロンドンで完成させた11作目のアルバム。多くの女性シンガーを迎えたヒップホップとポスト・パンク、そしてレゲエ/ダブのミクスチャーという基本路線は変わらないものの、ラヴァーズ・ロックの代名詞とも言えるJanet Kayによる1979年のヒット・ナンバー「Silly Games」の意表を突いたカヴァーが、息が詰まるような緊張感に終始しがちなTrickyの作風に風通しの良さを加えている。その一方ではイスラエルによるガザ地区空爆に対する抗議とも言える「My Palestine Girl」のようなプロテスト・ソングも歌い、あいかわらずの硬派ぶりも印象づける。現代のブルース・シンガーを名乗るTrickyの面目躍如と言える1枚だ。
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CHERUB
Year Of The Caprese
ディスコだ!ファンクだ!R&Bだ!......と叫んだところで、今、世界中のポップ・シーンはそれらに埋め尽くされているわけで、やはりBLOOD ORANGEやFKA twigsのように、ジャンルで語ることが野暮になるほど、サウンド自体を蹂躙してしまうアーティストの圧倒的な"自我"のようなものをリスナーとしては欲してしまう。その点で言うと、このナッシュビル出身のデュオ、CHERUBのメジャー・デビュー作にそれはない。でも、いいと思う。何故いいかと言えば、彼らはとっても"上手い"から。身を任せるのにちょうどいいゆったりとしたリズムも、心のひだをさらっと撫でるメロウなうわものも、全体的に凄くハイファイだけど、時折ちらりと覗くハンドメイドな耳触りも......全部、上手い。かなり優れたポップス職人だと思う。
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