DISC REVIEW
Overseas
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BLUR
The Magic Whip
九龍のスタジオでの5日間のレコーディングはまるでインディー・バンドのようだったことはインタビューで明確になったが、仕上がりのいい意味で余白の多い音像にもそれは現れている。Graham Coxonのクランチ気味でどこか神経症的なギターのTrack.1、まさに"BLUR=模糊"なニュアンスな投げやりなDamon Albarnの歌やコーラスが聴けるTrack.3や、シンセ使いがシニカル風味のポスト・パンクなTrack.6などの不変の英国的センス。かと思えばエレジックなTrack.8や、サイケデリアに彩られたブルージーなTrack.12なども。現行の若い世代のバンド......例えばPALMA VIOLETSやSAVEGESの荒削り、もしくはBELLE AND SEBASTIANの繊細......どちらが好きな人も改めてベテランの才能を知って欲しい。
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ALABAMA SHAKES
Sound & Color
Track.1の「Sound & Color」で温かいフェンダー・ローズとベースの呼吸するような絡みが聴こえてきただけで鳥肌が立って、"音楽がこの世に存在してありがとう"と言いたくなってしまった。Brittany Howardのソウルフルなヴォーカルはもちろん、このバンドのアンサンブルはあらゆる音楽の本質のその芯の芯をセンスで捉えて表現し、奇跡的な爆発力を発揮する。その稀有なセンスは例えばD'ANGELO、ARCTIC MONKEYSなどジャンルを越えて"この音でこのリフでこのビート以外ないだろう!"という確信を持った人間にしか鳴らせないものだ。LANA DEL REYのセッション・ミュージシャンでも知られるBlake Millsの共同プロデュースもオルタナティヴな完成形に一役買っている。
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PALMA VIOLETS
Danger In The Club
PALMA VIOLETSほど、リスナーの世代によって"懐かしいけどいいもの""まったく新鮮なもの"と印象が二分するバンドも珍しいと思う。目新しい要素の切り貼りより、ロックンロールの奇跡を今の自分の身体と精神を通して具現化する彼らは、真価を問われるこの2ndアルバムでも基本的に不変のスタンスをとっている。Chilli Jesson(Ba/Vo)は本作制作にあたってパンク前夜のレコードを聴き漁っていたと発言している通り、1stにあった、どこか所属レーベルの先輩THE SMITHSにも似た儚さや厭世観は影を潜め、THE RAMONESやJohnny Thundersにも通じる、放蕩者の自由やいい意味でのいい加減さを、ミディアム~スローな楽曲で堂々と鳴らしているのがいい。特にタイトル曲の"締めくくらない"物語性は今どき、稀少だ。
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METZ
II
トロント出身のポスト・パンク・バンドの2ndアルバム。首尾一貫、ローファイな音が鳴り続けるいかにもSUB POPなグランジ・アルバム。NIRVANA以降もグランジのみならずBAND OF HORSESやCSSなど、多様なアーティストを輩出してきたSUB POPの先祖返り的なサウンドで、今時こんなアルバムができるのかとちょっぴり懐かしさすら覚えてしまう。イギリスの鬼才エンジニア/プロデューサーJoe Meekの仕事のような小曲「Zzyzx」に続く爆裂パンク「IOU」、「Landfill」、ラストの「Kicking A Can Of Worms」まで、とにかくやかましくてたまらない音楽が好きな方にはおすすめの1枚。できればデカい音量でかけられるシチュエーションで聴いて欲しい。ヘッドフォンで聴くと耳が悪くなりそうだから!
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VILLAGERS
Darling Arithmetic
アイルランドはダブリン出身の青年、Conor O'Brien率いるVILLAGERSの3rdアルバム。サウンドの基調となるのはオーセンティックなフォークだが、そこにエレクトロニカやポスト・ロックを昇華したアレンジを塗すことで、深く己の内面世界に入り込んでいくような静謐なサウンドを産み出している。その内省的な音から想起したのは、デビュー当初のBRIGHT EYES。VILLAGERSには当時のBRIGHT EYESほどの荒々しさはないが、しかし、自らの心の奥底を見つめる、その眼差しの鋭さと熱さには通じるものがある。その後、BRIGHT EYESの視線は外側へ、社会へと向かった。VILLAGERSはどうだろう。内側か外側か――どちらにせよ、その眼差しに"変革"への意志が宿ったとき、化けるのではないだろうか。
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HELSINKI
A Guide For The Perplexed
BABYSHAMBLESのベーシスト、Drew McConnellのサイド・バンド、HELSINKIの2ndアルバム。そもそも、THE LIBERTINESが00年代のUKロックにもたらした成果のひとつに、ロックンロール誕生以前のフォークやトラッドや大衆音楽までも昇華した音楽性が挙げられるわけだけど、やはりこのへんの人脈はその素養が強く出てくる。2日間のライヴ・レコーディングで仕上げられたという本作は、可愛らしいフォーク・ポップから幽玄なアシッド・フォーク、果てはサイケにレゲエも飛び出して、でもどの曲もグッド・メロディが心地よい小品集。THE STROKESのAlbert Hammond, Jr.も参加していて、でもやっぱり『Up The Bracket』原理主義者としては、Track.3でPete Dohertyの声が聴こえてきたときに、グイッと引き込まれた。
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SURFER BLOOD
1000 Palms
THE WHO、THE KINKS、THE BEACH BOYS、GUIDED BY VOICES、WEEZERといった偉大なアーティストたちを想起させながらも、確実に現代性をもった素晴らしいソング・ライティングで独自の世界を築き上げてきたUSバンド、SURFER BLOOD。夏が来るには少し早いが、彼らの新作が到着した。Track.1「Grand Inquisitor」から早速、力強いエヴァーグリーンなメロディが押し寄せ、抜群のポップ・センスに胸躍る。キラキラと眩しい太陽を彷彿とさせるような明るいハーモニー、多彩なギター・アレンジとコーラス・ワークはもちろん今作でも健在だ。みずみずしい若葉から差し込む木漏れ日のような、暖かく優しい初夏の趣を存分に味わえる1枚。
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NIGHT FLOWERS
Night Flowers
ロンドン出身の男女混合5人組バンド、NIGHT FLOWERS。彼らの日本デビュー作となる今作は、柔らかく霞がかったギター・サウンドと、気だるくメランコリックに、そして甘く囁きかけるヴォーカルが印象的な「Bound」で幕を開ける。ステレオから音が零れた瞬間、もう出会うことがないと思っていた昔の恋人を偶然見かけてしまったかのような胸のざわつきを覚えた。なぜなら、SLOWDIVEやMY BLOODY VALENTINEといった偉大なる先人たちを思い起こさせるロマンティック且つメランコリー満載のド直球なシューゲイズ・サウンドが、限りなくピュアな衝動を以って鳴らされているから。永遠に続くことのないこの瞬間を思うからこその甘酸っぱいイノセントな輝きと、蒼き憂いの両方がここにはあるように思う。
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THE JON SPENCER BLUES EXPLOSION
Freedom Tower - No Wave Dance Party 2015
8年ぶりにリリースした前作『Meat And Bone』を原点回帰と絶賛する人たちも少なくないが、原点回帰というなら、ルーツなロックンロール路線だった前作よりも断然、R&B/ファンク/ヒップホップに改めて取り組んだこちらだろう。ジャンクなロック・サウンドとブルース/R&B/ファンク/ヒップホップの組み合わせこそがJSBXの真骨頂。そこに20年のキャリアに相応しい円熟と老獪さが加わった現在のJSBXはまさに無敵と言ってもいい。Amy Winehouseの『Back To Black』他、多くの名作を生んできたニューヨークのハウス・オブ・ソウルことDaptone Studiosでレコーディングを行い、最高のサウンドとともにとらえた3人のケミストリーを聴けば、誰もが再始動後の彼らが絶好調だと確信するはずだ。
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THE PRODIGY
The Day Is My Enemy
6年ぶりの来日を果たすTHE PRODIGYのニュー・アルバムが完成した。90年代からエレクトロ/ロック・シーンをボーダーレスに行き来してきた超硬質のデジタル・ハードコアはここでも健在。ビートとヴォーカルをメインに押し出したソリッドなサウンドで、ループによる覚醒感とブレイクダウンからの爆発感、ジェットコースターのように上り詰め急降下していく興奮ありという、極限のPRODIGY節たるスタイルを突き詰めた内容だ。一発でそれとわかる音のアイデンティティを提示しつつ、昨今のEDMをどやしつけんばかりの勢いとパワーをぶっ放しているのがいい。ダブステップの旗手Flux Pavilionやヒップホップ・パンクSleaford Modsといったひと癖あるUKアーティストをゲストで起用しているのも一興。
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Ryan Hemsworth
Alone For The First Time+5
Kanye WestやCAT POWERなどのリミックスを手掛け、LA拠点のプロデューサー集団WEDIDITにも所属するカナダ発のDJ、Ryan Hemsworthのアルバムが、5曲の追加トラックを収録した豪華盤でリリース。tofubeatsとのコラボ・トラック(Track.9)も収録され、両者の個性が折衷されたセンチメンタルなメロディとポップで捻りのあるエレクトロ・サウンドを展開しているが、アルバム全体のトーンとしても、どこか内省的でいて、夢うつつの境界をふわりふわりと漂うような心地がある。浮遊感のあるインディー・ロックのエッセンスを、エレクトロ・サウンドへと織り込んで小宇宙を作り上げたアルバム。ユニークなビート使いでエモーショナルな歌を鮮やかに際立たせていて、雰囲気でまとめない面白さがある。
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DARLIA
Petals
イギリス・ブラックプールを拠点に活動する3人組ロック・バンド待望の日本デビュー・ミニ・アルバム。かねてから洋楽ロック・ファンの間では話題となっていた彼ら。OASIS、NOEL GALLAGHER'S HIGH FLYING BIRDSらのマネージメントを手掛けるIgnitionの秘蔵っ子と謳い文句にあるが、なるほどヴォーカルはLiam Gallagherそっくり。Track.1「Stars Are Aligned」からワクワクさせられる力強いバンド・アンサンブルとシンガロングできそうなメロディが飛び出してきて、思わず嬉しくなってしまった。歪んだギターと豪快で重たいリズム隊がNIRVANAを彷彿とさせる「Candyman」など、UKロックとUSインディーの魅力を併せ持ったサウンドは決して二番煎じの懐古バンドではない迫力。今後活躍がますます期待できそうだ。
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Courtney Barnett
Sometimes I Sit And Think, And Sometimes I Just Sit
きっとTHE ROLLING STONESが好きなんだろうね。それとNIRVANA。あ、Bob Dylanも大好きに違いない!海外の音楽マスコミがこぞって注目しているということで気になっていたが、ついに完成させたデビュー・アルバムがこんなにロッキンな作品だったなんて嬉しい驚きだ。メルボルン在住のシンガー・ソングライター。いくつかのバンド活動を経て、ソロに転向したことや、すでに書いたようにこのアルバムを聴く限り、シンガー・ソングライターのひと言ではその魅力を伝えきることはできない。日々の気持ちの変化をバラードも含む幅広い曲に反映させながらあくまでもギターの歪みが心地いいラフなロックンロールとして聴かせているところが気に入った。新たな女性ロック・アイコンの誕生を予感させる快作だ。
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Esme Patterson
Woman To Woman
USインディー・フォーク・グループ、PAPER BIRDのフロント・ウーマンの2ndアルバム。"ポピュラーなラヴ・ソングに女性のキャラクターの立場から返答する"という、なかなか面白いアイディアをコンセプトとして制作されたとのことで、Elvis Costello「Alison」、Michael Jackson「Billie Jean」、THE BEATLESの「Eleanor Rigby」他、全10曲のアンサー・ソングが収録されている。古いレコードを流しているような「Valentine」、カリプソ調の「Oh Let's Dance」など、多彩なアレンジと柔らかい音でまとめられた心地の良い作品だが、こういうコンセプト・アルバムを聴くうえで英語が理解できたらもっと楽しめるのにな~と思ってしまうのは筆者だけではないはず。もしかして女性の立場からとてつもない毒舌を吐いているのかもしれないかも?と想像しつつ聴いてみて!
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THE GO! TEAM
The Scene Between
Ian Partonを中心とする6人組、THE GO! TEAM。前作のリリース後、メンバーは各々の活動を行い、特にIanはももいろクローバーZの「労働讃歌」を作編曲したことでも話題となった。4年ぶり4作目となる今作『The Scene Between』は、Ianが"メロディとソングライティングによって動かされるアルバムを作りたかったんだ"と語る通り、"歌"に寄り添った作品。アメリカやフランス、ブラジルや中国のDIYアーティストをヴォーカルに起用し、無国籍なサウンドにも一層磨きがかかる。時にサイケデリック、時にメランコリックな、総じてキュート且つ祝祭感の溢れる楽曲が並び、聴くものを楽しませる。ギミックや突飛なアレンジがなくとも楽曲の地力だけで魅せられる珠玉のポップ・ソング集。
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Franz Nicolay
To Us, The Beautiful!
ニューヨーク大学のミュージック・プログラム学科を卒業後、様々なバンドでキャリアを積み、THE HOLD STEADYのメンバーとしての活動歴もあるマルチ・インストゥルメンタリスト/コン ポーザー、Franz Nicolay。『To Us, The Beautiful!』は彼の4作目となるアルバムだ。Ian MacKayeとともにDCハードコア・パンク・シーンに貢献してきた元JAWBOXのJ. Robbinsをプロデューサーに迎え制作された今作は、ロック、ブルース、カントリーなどアメリカン・トラッドなテイスト満載。プロデューサー/アレンジャー/セッション・プレイヤーとしても活躍する彼だからこそとも言うべき丁寧に作りこまれた滋味深い1枚に仕上がっている。
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PEACE
Happy People
B-TOWNと呼ばれるバーミンガムのインディー・ロック・シーンの急先鋒として2012年にデビューした4人組。彼らが2年ぶりにリリースする2ndアルバムには精力的にツアーを続けながら遂げてきた成長がしっかりと反映されている。80年代のネオ・サイケ、90年代のマンチェスター・サウンドの影響を、自分たちの個性としてよりはっきりと意識したうえで、それをどう聴かせるか。そこで試した様々なアイディアが成長を印象づける変化として表れている。因みに日本盤は海外のデラックス盤にライヴ・バージョン3曲を加えた計21曲を収録。1番の成長はツアーを続けながらこれだけたくさんの曲を書き上げたことだ。中には原点回帰を思わせる曲もあるが、それが今後、どう彼らの音楽に反映されるかも楽しみだ。
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THE CHARLATANS
Modern Nature
90年代初頭、THE STONE ROSES登場直後の英国ロック・シーンに現れ、そのダンサブルなグルーヴとアンセミックなメロディが見事に融合したサウンドで人気を博したTHE CHARLATANS。一昨年、結成時よりのドラマーを脳腫瘍で亡くすという悲劇に見舞われた彼らが、その苦境を乗り越え作り上げた通算12作目のアルバム。代わりのドラムには元THE VERVEのPeter Salisbury、NEW ORDERのStephen Morris、そしてFACTORY FLOORのGabriel Gurnseyが参加。アルバム全体に通底音として漂うのは、やはり喪失感、メランコリー。しかし本作には、それでも1歩を踏み出すために沸々と湧き上がる力強さがある。雪解けのあとに芽吹く新緑のような瑞々しい生命力がある。本編ラスト前の「Trouble Understanding」が何より感動的だ。
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José González
Vestiges & Claws
デビュー・アルバム収録の「Heartbeats」が2005年、SONY BRAVIAのCMに使われ、世界中で知られるようになったスウェーデンのシンガー・ソングライターが8年ぶりにリリースする3作目のアルバム。フォークとブルースの影響が色濃い曲の数々を、アンビエントなサウンドとともに聴かせるという意味では、彼らしい作品と言えるが、力強いビートを始め、若干、楽器や音色の数が増したことで、これまでになかった躍動感が息づきはじめた。初のセルフ・プロデュース作品。中には6分を超えるブルース・ナンバーもある。聴きごたえがあるのはやはりTrack.3の「Stories We Build, Stories We Tell」を始め、フォークとブルースの影響に彼のルーツである南米の音楽のエキゾチシズムが加わった曲だ。
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DUTCH UNCLES
O Shudder
マンチェスター出身の5人組、DUTCH UNCLESの4作目。彼らと同じく2009年にアルバム・デビューしたBOMBAY BICYCLE CLUB同様、ポスト・ロック~エレクトロニカ以降の皮膚感覚で、叙情的かつ構築的なハイブリッド・ポップスを奏でている。が、彼らがBOMBAY BICYCLE CLUBと違う点は、XTCやTALKING HEADS、SCRITTI POLITTIといった80年代ニュー・ウェーヴ勢からの影響があっけらかんと出てくるところ。リズムに対する冒険心と和音やメロディに対する美意識が拮抗するヒリヒリとした感触が、あの時代のバンドに似ているのだ。常に肉体的かつ歪でありながら、息をのむほどの美しさも持っている。そして、そのすべての要素がとても生々しい。そこがいい。
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