Skream! | 邦楽ロック・洋楽ロック ポータルサイト

Skream! 公式X Skream! 公式YouTube Skream! 公式アプリ

DISC REVIEW

A

I

A11yourDays

I

様々なバックグラウンドを持ったエレクトロ・ポップ・バンド、A11yourDaysによる1年ぶりのミニ・アルバムは、すでにライヴでも披露している「Blue」、「Stella」など全7曲を収録。力強いバンド・サウンドでありつつ、キラキラとした鍵盤と、SOGYONによる光溢れるペールトーンの声色がアンサンブルを輝かせ、曲を明るく仕立てている。声のキャラクターを生かした伸びやかで高揚感のあるメロディは、今作でさらに磨かれた。日常の温度を少し上げて、気持ちを引っ張り上げてくれる日々のエンジンになり得る楽曲たち。聴き手にいい距離感で寄り添って、時に背中を押し、またドリーミーな音響感でひとりの時間を優しく彩る作品になった。バンドとしての自信や、湧き出る発想力が形になっているのを感じる。

you,

A11yourDays

you,

バンド名にもアルバム・タイトルにも、"聴いてくれる人と共に歩んでいきたい"という意思が表れているが、楽曲や歌詞に関しても同様で、リスナーと同じ目線で描かれており、一本筋が通ったバンドであることがわかる。ポップスど真ん中を射抜くUKと、ヴォーカリストらしいパーソナルな感性を覗かせるSOGYONという、ふたりのソングライターの特徴も興味深い。曲名や歌詞とリンクするようにベルの音が散りばめられた「Bell」、青空のもとでシンガロングしたいフレーズも盛り込まれている「Kite」、プレイヤビリティが光るファンク・チューン「Talk About」など、どれもポップでありながらひとさじのスパイスが加えられていて、百花繚乱の音楽シーンの中でも埋もれない可能性を感じさせられる。これからも楽しみになる第一歩だ。

#1

AA=

#1

THE MAD CAPSULE MARKETSの上田剛士によるソロプロジェクト。その肩書きからくるイメージを裏切らないハードでデジタルな作品で、その緻密なプログラミングには脱帽する。やはりKYONOのソロプロジェクトWAGDUG FUTURISTIC UNITYと違うところは、聴いた人が一緒に歌えるようなポップな曲が多いということ。改めてTHE MAD CAPSULE MARKETSはKYONOと上田剛士の絶妙なバランス感覚の上で成り立っているバンドなのだなと実感した。軍隊のマーチのリズムをベースに、"平和"を題材とした「Peace!!」や、トランシーでBPMの速いリズムにポップな歌の乗せ方が印象的な「Freedom」など、聴き所満載。ラウドロックアレルギーのインディーロックファンにも是非オススメしたい作品だ。

歓喜

ab initio

歓喜

バンド存続を賭けて臨んだアマチュア・バンドのオーディション"BANDWARS"でグランプリを獲得したab initioが、LINE RECORDSからリリースしたデビュー作。アコースティック・ギターと歌によるミニマムの編成から歌が始まり、次第にストリングスが加わると、最後に穏やかなバンド・サウンドが広がるドラマチックなバラードには、大切な人と生きてゆくことを決意する、そんな歓喜の瞬間が綴られている。SMAPの「らいおんハート」や「SHAKE」などで知られるコモリタミノルをサウンド・プロデュースに迎えたことで、これまでバンドが大切にしてきた"メロディと言葉"がより研ぎ澄まされた。些細な日常を健気に生きる"君と僕"の物語を大切に紡いできたバンドが贈る、ハートフルな勝負作。

ユーラブユー

ab initio

ユーラブユー

リード曲の「リアルファンタジー」では"世界は素晴らしい"と歌われている。一方、「心のスープ」では"きっとこの世界は/残酷で無情で儚い"とも歌われている。ab initio(読み:アブイニシオ)がリリースする2ndミニ・アルバム『ユーラブユー』は、その両極端の価値観が矛盾せずに存在する作品だ。それはきっとこの世界が俯瞰するほどに醜くて、日常を見るほどに小さな喜びが溢れているものだから。主にソング・ライティングを手掛ける宮崎優人(Gt/Vo)はそんな日常をとても大切に歌詞にする。心地よい二度寝からなかなか抜けられなかったり(「なのにね」)、休日をムダに過ごして後悔してたり(「Holiday」)。チャーミングで憎めない歌の登場人物たちがとても魅力的。

もしもし、奇跡ですか

ab initio

もしもし、奇跡ですか

"地位や賞賛が欲しいんじゃなくて/君も僕も笑えりゃそりゃ/素晴らしいこと"。「エンターテイナー」で歌われるこのシンプルな一節が、アルバムの通奏低音的なムードとなっている。ひねくれてみたり、エンドロールが流れているのに"君"のことばかり考えてしまったり、おセンチにも卑屈にもなってしまったりするけれど、ふいに流れてきた音楽に思いもよらぬツボを突かれてしまうこともある。そういうふいにポンと視界に飛び込んでくるパワーと、キャッチーな勢いがあって、何やら楽しそうにドカスカとリズムを打ち鳴らし、歌を歌っているバンドだ。奇をてらったサウンドやアレンジでなく、グッド・メロディをまっすぐに。ということを真面目にやっているんだけれども、どこからかポップな愛嬌みたいなものが漏れ出ているのが、チャームポイント。

Start & Complete

ABOUT GROUP

Start & Complete

HOT CHIPのAlexis Taylorのサイド・プロジェクトによる2ndアルバム。エレクトロ・ポップなどとよく評されるHOT CHIPと、サイケデリック・ロックの雄SPIRITUALIZED、ポスト・パンクの伝説的バンドTHIS HEATのメンバーが集結したバンドの音色は、HOT CHIPのイメージを想像した人にはちょっと驚きかもしれない。Alexの魅惑の歌声を前面に押し出したうえで、あのアビーロード・スタジオでなんと一日のレコーディングで作り上げたというサウンドが、1曲1曲それぞれに異なる個性を与えている。その面白さを特に象徴する1曲を挙げるなら、現代音楽家Terry Rileyのカバー「You’re No Good」。原曲の20分にも渡る超実験的音楽も凄いが、メンバー全員がお互いの存在を肌で感じながら音を奏でる姿が見えるようなABOUT GROUPバージョンの10分強のセッションもすごい。心地よくも、緊張感たっぷり!

Future

Absolute area

Future

コロナ禍やフェス出演など、この3年間の様々な初めての経験の中で見つけた自分たちに必要なものや、新たにやりたいこと。それらを惜しげもなく詰め込んだポジティヴな1枚だ。リード曲「僕が最後に選ぶ人」は、鍵盤の音色やドラムの変化で畳み掛けていくアップテンポなポップ・チューン。さらに電子音やストリングスのループを据えた「遠い春の夢」とサウンド面での挑戦を見せると、壁にぶつかった瞬間に得た気づきから生まれたメッセージ・ソング「マイナスの要素たち」や、年月を重ねてきたふたりの日常を絶妙な温度感で描く「いくつになっても」、「ANNIVERSARY」を経て、ノスタルジックな景色から壮大に夢を描く「橋を越えれば」で美しく締めくくる。経験を取りこぼしなく実力に変え、頼もしく未来へ向かうアブソに期待。

あなたへ / ミライゾウ

Absolute area

あなたへ / ミライゾウ

平均年齢19歳の3ピース、Absolute areaのニュー・シングル。2曲の中にバンドの魅力がぎゅっと詰まった、名刺代わりに相応しい1枚である。「あなたへ」は、複雑な気持ちをまっすぐに歌うメロディのピュアさと、ミドル・テンポながら頭から最後までエモーションを止めないアレンジのスキルが詰まった、バンドの可能性を感じる楽曲。幅広いリスナーに愛されそうなキャッチーさを誇っているが、熱く骨太な演奏には、ラウドロックという彼らのルーツが見える。「ミライゾウ」は、ライヴで映えそうな口ずさみたくなるノリの良さのなかに、しっかり意志が込められた楽曲。ライヴを大事にしていきたい、という彼らのスタンスが表れている。若さだけではないセンスを持った新星の登場だ。

Inside The Running Subway

ABSTRACT MASH

Inside The Running Subway

2004年結成、千葉を中心に活動を続けるエモ・ロック・バンドABSTRACT MASH によるファースト・フル・アルバム。NOTHING'S CARVED IN STONEでの活動でも知られる、ヴォーカル/ ギターの村松拓の作り出す楽曲は、グルーヴィであり、且つ力強さを感じさせる。一曲一曲のクオリティも非常に高く、説得力ある村松の歌声も相まって、1枚目ながら彼らのオリジナリティ溢れる世界観が早くも完成されているようだ。1年振りの音源であり、これがまだ一枚目の作品ということを考えると彼らの成長そして、今作への意気込みが伝わってくる。日本人離れしたその分厚いサウンドとバンド・アンサンブルはライヴではさらに力を増すのではないだろうか。

present

A(C)

present

2004年に白江宗司(Vo/Gt)と野崎寿美(Ba)を中心に金沢で結成し、2006年に大谷めぐ(Dr)が加わり現在の編成となった、男女混成の3ピース・バンド。失礼かもしれないが、白江の好青年風な見た目とは裏腹に、攻撃的とも言えるような尖ったギター・アプローチに女性のリズム隊が負けじとばかりな硬いグルーヴを作り出すそのギター・ロック・サウンドに、J-POPの王道ラインともいえるメロディが絡み、ソリッドさとポップさが本当の意味で同居した、彼らにしか出し得ないグルーヴを生み出している。現在も金沢を活動の拠点に置いており、地元での10-FEETやアルカラなどといった名立たるバンドとの対バンも経験を経て、今作は1つのブレイク・ポイントになるだろう。

BLUE JEANS

Academic BANANA

BLUE JEANS

夏にフォーカスしたコンセプトEPを幕開けるのはタイトル曲「Blue Jeans」。萩原健太のスラップ・ベースで始まるファンキーなサウンドに乗るのは、齋藤知輝による、スーツ姿の人波に抗いジーンズ姿で自由に、前のめりに突き進む自身を投影したラップ。新しいことにしたいというハングリーさが程良く泥臭い要素となったこの曲から、情緒的で、印象的な夏のワンシーンが浮かぶ曲が並ぶ。爽快な風を感じるギター・ロックや、ピアノを基調とした線香花火のような儚い美しさを持つバラードもあり、前作で林 直次郎(平川地一丁目)が参加した「Summer Tuner」のアカバナVer.も収録した今作には、どこか感傷的な晩夏の香りや、色気があるのが彼ららしい。

Love Letter

Academic BANANA

Love Letter

前作『SEASON』から1年、作詞/作曲を手掛ける齋藤知輝(Vo)とアレンジを担当する萩原健太(Ba)のふたり体制となったAcademic BANANAの2ndアルバム。1曲目のリード曲「五月雨」はバンドの真骨頂というべきジャジーで都会的なネオ歌謡曲となったが、アルバムでは様々なサウンドの曲が並ぶ。今作では通常盤A、通常盤Bと収録曲違いでリリースとなっており、A盤では男性目線の「青いラブレター」、B盤では女性目線の「夕暮れに染まった手紙」を収録。それぞれの立場からの曲を置くことで、それ以降の曲は、同じ曲が収録されながらもドラマの主人公が変わって見えてくるような仕掛けとなっている。齋藤の繊細な歌声やその歌が表現する心の機微がシンプルに引き立ったそれぞれの曲も魅力で、余白の効いたラヴ・レターとなった。

SEASON

Academic BANANA

SEASON

ロック、ジャズ、クラシック、フュージョンなどメンバーそれぞれの音楽的な背景を絶妙にブレンドし、自ら"ネオ歌謡曲"を掲げ活動するアカバナ。2019年には小林太郎とのスプリットEP『ESCAPE』を、昨年はラッパー T-iD a.k.a Takuya IDEをフィーチャーしたシングル「マーガレット」を発表したが、このたび初のフル・アルバムを完成させた。齋藤知輝の中性的で哀愁を帯びたシルキーVoが生きる、キャッチーで叙情的なメロディ、物語性のあるピアノの調べ、柔軟性の高いドラム&ベースという、スキルフルな4人ならではのポップスが揃う。どこか懐かしい、湿度高めの歌謡世界を体現しつつ、グルーヴやさりげないオマージュもちりばめたアレンジの洒脱さがその音楽を軽やかに、自由に響かせている。

ESCAPE

小林太郎 × Academic BANANA

ESCAPE

レーベル・メイトである小林太郎とAcademic BANANAによるスプリットEP。先行発売されていた本作のライヴ会場限定版とは異なるデザインで、収録曲もボリューム・アップした全国流通版がリリースされる。小林太郎の力強いロックな歌声と聴き手が包み込まれるような優しい歌声、Academic BANANAの"ネオ歌謡曲バンド"節が炸裂したノスタルジックな世界観を堪能することができる楽曲をそれぞれ4曲ずつ収録。ラストを飾る共作曲「Escape」での息ピッタリのデュエットやメロディからは、お互いの音楽をリスペクトしている姿勢も窺える。まるで異なるジャンルの音楽性を持つ2アーティストだが、"らしさ"を全力でぶつけ合うことでお互いの良さを引き出す、絶妙なコラボが実現した。

東京

Academic BANANA

東京

2017年12月に東京にて結成した、全員が地方出身のAcademic BANANA。2018年4月には小林太郎のツアー全公演にO.A.として出演するなど目まぐるしく活動する彼らが、1st EPをリリースする。バラエティ豊かな全7曲入りの本作では、多様な音楽にインスパイアされた懐かしさを感じるメロディとは対照的に、今どきのアプローチが印象深い独自の"ネオ歌謡曲"が体現されている。皮肉っぽく"東京の街をEnjoyしよう"と歌うグルーヴィな「Tokyo Dada City」、上京当時や学生時代に書かれた楽曲、バラードながらノリのいいラヴ・ソングと続き、ラストの「東京」では、東京で生きていく決意ともどかしさがグランドピアノに乗せて優しく歌い上げられ、温かい気持ちの中から夢を追う力を湧き起こさせる。

L.O.V.E.

ACE COLLECTION

L.O.V.E.

YouTubeから火がついた人気を足掛かりに、頭角を現してきた4人組ロック・バンドが、ミニ・アルバム『L.O.V.E.』でメジャー・デビュー。王道の哀愁メロディとグルーヴを武器に、ファンキーでダンサブルなアプローチも交えながら、アンセミックなロック・ナンバーからストリングスをフィーチャーしたバラードまで、バンドが持つ可能性を存分にアピールしている。R&Bやラップ/ヒップホップの影響も滲ませるところは、まさにイマドキ。しかし、ことロックにアプローチするときの彼らは、どこかノスタルジックというところが興味深い。タイトル通り愛をテーマにしながら、いろいろな場面や形を、言葉の使い方を変えながら描いた歌詞も含め、幅広いリスナーの耳に引っ掛かりそうだ。

Stay in my hand

ACIDMAN

Stay in my hand

消えてしまうものに、あるいは触れられないものに手を伸ばそうとする人の姿は、いつだって美しいものだ。ACIDMAN、4月の『EVERLIGHT』に続く今年2作目のシングルである本作。タイトル・トラック「Stay in my head」は力強くアグレッシヴなロック・チューンで、疾走感溢れるバンド・サウンドの上で大木は振り絞るように歌い叫ぶ。"いつかは誰もが 消えるだろう/数えきれぬ星も 全て/もう少しもう少しだけで/触れられる様な気がして"――どれほどのキャリアを積もうと、消えてしまうであろう煌きに手を伸ばし続けるACIDMANの姿は、かくも美しい。おなじみ"second line"は、しっとりしたジャズ・アレンジの「スロウレイン」に、静謐なエレクトロ調の「HUM」。バンドの音楽的成熟を感じさせる。

EVERLIGHT

ACIDMAN

EVERLIGHT

暖かい季節になった。朝、起き抜けにベッドから飛び出し、窓を開け放ってみる。すると、陽の光が降り注ぐ。このちっぽけな地球の、ちっぽけな日本の、ちっぽけな街に住む、ちっぽけな僕にも、陽の光が降り注ぐ。この「EVERLIGHT」という曲には、どうしようもない孤独と痛みを抱える人間が、それでも太陽から降り注ぐ光を浴びて、自らのふてぶてしいほどの生命力を感じずにはいられなくなるような、そんな瑞々しい力強さが宿っている。壮大なサウンドスケープに乗せて、私たちがどれほどの哀しみと共にあろうと、心臓は鼓動し、光に向かって足は自ずと動き始めてしまうのだと、人間の"生"という性(サガ)を目一杯の確信で描いている。もはやキャリア15年。しかし、その眼差しは変わらずロマンティックな煌きに満ちている。

新世界

ACIDMAN

新世界

結成15周年&デビュー10周年を迎えたACIDMAN。アニバーサリー・イヤーを締めくくるシングルはACIDMANらしい力強いロック・ナンバーだ。未来への希望をただ歌っているわけはない。熱く伝わってくるのは確固たる意志と信念だ。大木(Vo/Gt)が"世界は生まれ変わる"と叫ぶ。自然と生まれ変わるのではなく、世界が、そしてそこにいる"僕たち"が前を向き生きていこうとする自分たちの力で生まれ変わるのだ。Track.2とTrack.3は過去の作品をリアレンジするセルフ・カバー・シリーズ「second line」の新作。これは「second line」の楽曲でライヴも行われるほどの人気シリーズで、原曲が好きなファンは勿論のこと、知らないリスナーも十分堪能できる完成度の高いリアレンジとなっている。

LIVE LUCK

ACO

LIVE LUCK

代表曲のセルフ・カヴァー、海外アーティスト楽曲のカヴァーに加え、新曲も織り交ぜたニュー・アルバム『TRAD』と同時リリースされるACO初のライヴ・アルバム。『LUCK』(2012年)リリース直後のライヴを収録しており、バンド・メンバーは中尾憲太郎、岩谷啓士郎、柏倉隆史、塚本亮という強力な布陣だ。『LUCK』は"2010年代版クラシカル"をテーマに生楽器を用いてシンプルな構造で作られたアルバムで、ライヴという空間ではどの曲も更に映える。ジャジーなピアノの音色と、生花のように美しく繊細で、同時に力強さを放つACOのヴォーカルは心地よさだけでなく緊張感を醸す。より心の近くで鳴らされているような熱を帯びた1音1音は、胸の奥を突き刺し、優しさとぬくもりを与えてくれる。

LUCK

ACO

LUCK

2010年リリースのミニ・アルバム『devil's hands』が記憶に新しいACO。だが、考えてみれば、2003年発表の『irony』以来、フル・アルバムはなんと9年振り! 今作は全編セルフ・プロデュース。中尾健太郎(Ba)をはじめとするバンド編成で制作されており、"2010年代版クラシカル"をテーマとし、生楽器への強いこだわりが感じられる作品に仕上がった。あくまで主張しすぎない各パートが、曲を美しく彩り、ヴォーカルをより引き立てる。シンプルな楽曲構造ながら、聴き飽きさせない、深くブルージーな味わいを持っているのは、曲の中心に消え入りそうで、どこまでも突き抜けたACOの"うた"があるのに他ならない。彼女のシンガーとしての力量をまざまざと見せつけられる名盤だ。

devil's hands

ACO

devil's hands

90年代後半は圧倒的に、個性的な女性ヴォーカリストの存在感が際立っていたように思う。UA・Cocco・椎名林檎・Sugar Soul・BONNIE PINKなど、女性アーティストの活躍が光っていた。そして彼女もその中の1人であることをここに記しておく。ACO 4年半ぶりとなる新作アルバム『devil's hands』では、全て(1曲は共作)自身で作詞・作曲をしている。全体的にポップに仕上がったメロディに、エキセントリックな歌詞が絶妙なバランスで綴られている。また女性が併せ持つ強さや弱さを艶っぽく歌いこなせるのは、生まれ持った才能という以外表現しようがない。シンガーソングライター・ヴォーカリスト・女性として彼女の存在感を改めて実感できるアルバムだ。

Mercy

ACTIVE CHILD

Mercy

2011年リリースの1stアルバム『You Are All I See』で、当時もてはやされていたチルウェイヴ的サウンドの一歩先を提示したACTIVE CHILDことPat Grossiによる4年ぶりの2ndアルバム。当初から持ち合わせていたインディーR&B的な感覚が一層研ぎ澄まされ、ソウルフルなヴォーカル・ワークが際立つ今作。エレジーなスウィート・ソウル・チューン「1999」で幕を開け、本編最後の「Too Late」で癒えない傷を抱え生きる者に一筋の光を授ける。ここにあるのは単なるノスタルジックで逃避的なシンセ・ポップではなく、人間の心の奥底に内在する孤独や悲しみ、情けない心情をもロマンチックなものへと昇華するソウル・ミュージックだ。そしてそれは愛を求め、傷つきながらも気高く生きる者に捧げられる慈悲の音楽なのだ。

Rapor Ep

ACTIVE CHILD

Rapor Ep

LA出身のPat Grossiのソロ・プロジェクト、ACTIVE CHILDによる2011年のデビュー・アルバム以来となる新作。収録された6曲は全て彼の自宅スタジオで書き下ろされたものとのことだ。Rihannaのヒット・シングル「Stay」にフィーチャーされたことで有名なアメリカのシンガー・ソングライターでありプロデューサーのMikky Ekkoをフィーチャーした「Subtle」を筆頭に、チルウェイブやシンセ・ポップの域に収まりきらないディープな音像を構築。Ellie Gouldingをゲストに招いた「Silhouette」ではEllieと中性的なPatのヴォーカルによるコーラス・ワークと、徐々にスケールを増す音色に恍惚とした。ドリーミーななかに漂う毒気がひやりと心地よい。

OUTLAST

ADAM at

OUTLAST

ピアノ・インスト・シーンで活躍するADAM atだが、洒落たムードや繊細さだけではなく、むしろ熱が滾っているのが本作の特徴だろう。オープニングに据えた表題曲を再生した瞬間に、そのラテン風味全開のピアノ、ギター、ベースのリフが容赦なく脳内を支配する。かと思えば静謐でドラマチックなピアノのメロディがその喧騒を一掃するなど、彼ならではの音像で新鮮に聴く者を惹きつけていく。さらに、UKからADAM atが敬愛するGrant Nicholas(FEEDER)や、旧友 FRONTIER BACKYARDが参加した楽曲もあり、作品に新たな彩りを加えている。活動10周年を迎え、確固たる自信を携え、より自由に自身のルーツと今やりたいことを融合、具現化した意欲作だ。

Daylight

ADAM at

Daylight

コロナ禍で生み出された各曲には、ジャンルに拘泥しないどころか彼のパーソナリティ、"今できる最大限に愉快なこと"が詰まっている。伊地知 潔(ASIAN KUNG-FU GENERATION/PHONO TONES/Dr)を迎えた「Spring Field」に感じる風の匂い、働いていたピアノ修理工場の名前を付けた「ARIA」に溢れるピアノへの想い、従姉妹の旦那様でもあるシルク・ドゥ・ソレイユのヴァイオリニスト、Paul Lazarらと作ったお伽話調の「猫と竜」。異彩を放つBenji Webbe(SKINDRED)のシャウトをフィーチャーしたラウド・ジャズ/メタルな「ケイヒデオトセ」は、イギリスとのデータのやりとりで誕生した。インストだからこそ接続できる普遍性と実験性が同居した作品。

サイコブレイク

ADAM at

サイコブレイク

インストやジャズという形容詞をいったん無視して聴いてみると、演奏のダイナミズムやシャレの効いたタイトル、そこから連鎖的に広がるイメージに思わず楽しくなってしまうのが本作の強みだろう。ラウド/ヘヴィ・ロック・バンド顔負けの重く速いタイトル曲「サイコブレイク」、ベース・ラインとギター・カッティングにウルフルズの名曲を思い出してしまった「Hang New's High」、ブラジリアン・ミュージックの中でもポピュラーな楽曲に近いイメージの「Rodrigo de Izu」、the band apartのアコースティックが好きな人にも訴求しそうな「エウロパ」、PHONO TONESとのスプリット所収の「シエノとレイン20形」、ぐっとチルアウトなボサノヴァ調の「Port Ellen」まで、迫力と洒脱を行き来する全10曲が楽しめる。

CLOCK TOWER

ADAM at

CLOCK TOWER

あるひとつの空間に、複数の人間が楽器を持って集い、夜通し音を奏でる。そして朝が来たら、人々はそれぞれの場所に帰っていく。たった一晩の出来事。だからこそ、そこで奏でられた音楽には崇高さすら宿る。――この静岡出身のインスト・バンド、ADAM atのメジャー・デビュー作を聴いていると、そんな光景を思い浮かべる。その理由はやはり、中心人物であるキーボーディスト、タマスケアット以外に、このバンドが固定メンバーを持たないからだろう。ADAM atの音楽には出会いと別れがある。音を鳴らしている、その間だけはみんなで大いに楽しもうぜ! という切実な想いがある。ボサノヴァやジャズを消化したウォームなサウンド。流麗な鍵盤の音色と躍動感のあるドラムが紡ぐ調和と摩擦。SAKEROCKやSPECIAL OTHERSが持つ音楽の"野性"がここにもある。

High Drama

Adam Lambert

High Drama

人気オーディション番組"アメリカン・アイドル"で全米を虜にし、その圧倒的な歌唱力とミュージカルで鍛えられた表現力で、スターダムを駆け上がってきたAdam Lambert。現在はQUEENのヴォーカリストとしても活躍する彼が、自身のルーツとも言えるようなアーティストや、共感するアーティストの楽曲をカバーし、1枚のアルバムに仕上げたものがこちら。Adamのパワフルな声量を生かした派手なヴォーカル・ワークはもちろんのこと、中性的なファルセットや、しっとりとした静かな楽曲の中にも、まったくつけ入る隙のない本物の上手さがあり、ただただ脱帽するしかない。各楽曲には大胆なアレンジもあり、懐かしの名曲が斬新なダンス・ポップとして現代に蘇ったという意味でも、非常に音楽的価値のある作品だと思う。

aufheben

the adonis

aufheben

名古屋を中心に活動中の4ピース・バンド、the adonisがインディーズ・デビュー作としてリリースするミニ・アルバム。静かに、且つダイナミックに「アウフヘーベン」で幕を開けてから、「ヘーゲルの手記」で幕を閉じるまで、とにかく彼らの楽曲が心地よく体中に染み渡ってくる。そして、なんといってもこのバンドで外せないのは、東(Vo/Gt/Cho)と小野(Vo/Gt/Cho)が繰り広げるツイン・ヴォーカルだ。それによって2人の歌声はより深みと力強さを増し、the adonisならではのハーモニーを鳴り響かせ、メロディ・センスが光る楽曲と美しく重なり合うことで"心地よさ"をさらに後押しする。抜群のグルーヴ感と、聴くものを惹き付ける音楽性を併せ持つ彼らの今後に期待だ。

Survival & Resistance

Adrian Sherwood

Survival & Resistance

英国産ダブのオリジネーターであり、名プロデューサーのAdrian Sherwoodが主宰するOn-Uも昨年で30周年を迎え、来日イベント開催、故Ali UpとのNEW AGE STEPPERSのリリースといった目下精力的な活動を経て、ようやく6年ぶり、待望のソロ作が到着した。“抵抗して生き延びる”という彼らしいモットーを冠した本作はクレジットを見る限り、信頼できる人選に絞った充実作。相変わらずの素晴らしい空間処理に耳を惹くも、随所に美しいピアノをはじめとするメロディと音色の豊かさに驚く。これら全く独自な音にしているのは、1音1音スピードを落とし、引き伸ばすといったチューニングという手法を施しているからだとか。なるほど、ヘヴィなダブの中にも円熟したチルアウト・アンビエントの響きを感じる。

Bodies

AFI

Bodies

結成30周年を迎えるAFIの、4年ぶり11作目となる最新作。パンク/ハードコア・シーンに芽を出し、エモやゴス/インダストリアル、ポスト・パンク/ニュー・ウェーヴなど果敢に自らをアップデートしてきた彼らだが、今作ではそうした要素がバランス良く表出した印象。Track.1、2のような耽美さを湛えながら疾走するナンバーを中心に、Davey Havokが妖しげなヴォーカルを聴かせるTrack.3、退廃的なビートに壮大なコーラスが絡むTrack.7、荒々しくうなるギターがエネルギッシュなTrack.10、実験的なテイストも持ったTrack.11まで、進化と成熟の両方を高いレベルで提示している。オルタナティヴなロックからパンクまで、幅広いリスナーのツボを刺激しそうな快作だ。

Afi

AFI

Afi

結成25年目にして、オリジナル・アルバム初のセルフ・タイトル作。メロディック・ハードコアからスタートして、ポスト・ハードコア、ゴス、インダストリアル、ポスト・パンク/ニュー・ウェーヴと音楽性の幅を広げていったAFIがここではポスト・パンク/ニュー・ウェーヴに加え、改めてメロディック・ハードコアにアプローチ。前半こそ、THE CUREやJOY DIVISIONの影響とともにダークなロマンチシズムを印象づける耽美系の曲が多めに並んでいるが、後半はMISFITSやTHE OFFSPRINGを連想させるパンキッシュな曲が並んでいる。抜き身のサウンドがバンド自ら"The Blood Album"と呼ぶ原点への回帰を印象づけつつ、ラストを締めくくるブルース・ナンバーがアピールするのは、バンドの新境地だ。

伝説の夜を君と

a flood of circle

伝説の夜を君と

こんなにドラスティックで芯の太いロックンロールを今の時代に真っ向からやれるのは、a flood of circleくらいじゃないか。そんな感想が思わず第一に出るくらい、雄々しく意気盛んなアルバムだ。結成15周年のアニバーサリー・イヤーだった2021年。コロナ禍ではあったが、そのなかでリリースもライヴも最大限にし尽くしてきた年の最後に届けたオール新曲の本作は、ボロボロになりながら、キラキラを振りまきながら、危険な香りもぷんぷんさせながら転がり続けてきたAFOCらしさ全開。リード曲「北極星のメロディー」を筆頭に、自分たちの鳴らす音楽が最高だという自信に満ちたムードがこぼれ出しているのだ。「クレイジー・ギャンブラーズ」の一節"最後は俺らが爆笑だぜ"も、痺れるくらいかっこいい。

2020

a flood of circle

2020

新型コロナの感染拡大による混沌とした社会に、"2020"と名付けたアルバムではあるが、コロナの影響を受けて作られたものではない。今作には、どんな時代であろうとも、社会や自分自身との戦いの中で、ファイティング・ポーズを崩さずに転がり続けてきたバンドのスタンスが地続きのまま表現されている。暗闇の中で、"それが一体なんだっつーんだよ?"と唾を吐く「2020 Blues」をはじめ、本能のままに牙を向けと鼓舞する「Beast Mode」といったバンドの真骨頂と言える熱い楽曲のほか、「天使の歌が聴こえる」といったローテンポの楽曲ではメロディの美しさも冴える全12曲。ラスト・ソング「火の鳥」に辿り着いたとき、暗闇の先に希望が見えた。強い生命力を宿したロックンロール・アルバム。

CENTER OF THE EARTH

a flood of circle

CENTER OF THE EARTH

バンドの体制が整った今だからこそ生まれた、4人の生身の人間によるロックンロールの肉体的サウンドとグルーヴを追求した、アオキテツ(Gt)正式加入後初めて制作されたフル・アルバム。バンドの歴史が走馬灯のように駆け巡るAFOC節が効きながらも、質感はひたすらにフレッシュ。歌詞もストレートでパンチのあるワードが多く、1分台のロカビリー調の楽曲やパンク・ナンバーなど、繊細さや一抹のセンチメンタリズムは失わずとも陽のエネルギーに溢れている。"ハイテンションソング"なんてタイトルでありながら楽曲はシリアスめで歌詞はシニカルであるなど、随所にバンドの遊び心も感じられるところも爽快。"俺たち元気でバンドやってるよ"という手紙のような、体温が通った作品が完成した。

a flood of circle

a flood of circle

a flood of circle

サポート・ギタリストのアオキテツが正式加入、2度目のセルフ・タイトル作品、UNISON SQUARE GARDENのソングライター兼ベーシストである田淵智也プロデュース楽曲と渡邊一丘(Dr)作詞作曲による楽曲の収録、イギリス人エンジニア Xavier Stephensonとの3度目となるタッグ、デモ制作過程の変化など、盛り沢山のトピックからもバンドのクリエイティヴィティやポジティヴなモードが窺える。どの楽曲もスケールの大きなサウンドスケープで、自由度が高くフレッシュ。新しいスタートを切って飛び出した瞬間のような未完成感だけでなく、バンドの深いところにある核心も感じさせる、新生AFOCのプロローグとしては申し分のない濃厚な内容では。今後さらに加速し、強度を高めていくことを確信させる。

LEO

佐々木亮介

LEO

a flood of circleの佐々木亮介(Vo/Gt)が、自身のルーツであるブルースやソウルを辿り初のソロ作品をリリース。ロックンロールやブルース発祥の地・メンフィスで本場の一流ミュージシャンとともに制作、レコーディング、マスタリングを行っている。サウンド・アプローチがバンドと異なるのはもちろんだが、驚いたのはメロディ・ライン。特にファルセットが取り入れられたTrack.2や、トーキング・ブルースが主体となったTrack.3はブラック・ミュージックというサウンドがもたらしたものでは。そこに英語だけでなく日本語も交ぜ込んで乗せるスマートな力技も心地いい。佐々木節の効いた名ミッド・ナンバーや、喋り言葉で思いの丈を弾き語りで叫ぶ曲など、どの楽曲も彼の熱源に触れるようだ。

NEW TRIBE

a flood of circle

NEW TRIBE

オリジナル・フル・アルバムとしては約2年ぶり。ロンドンで出会った世界有数のエンジニアであるXavier Stephensonとタッグを組んだことで、バンドが元来持つ表情をさらに丁寧に紡いだ楽曲が揃った。音色ひとつひとつにオリジナリティがあることで楽曲の個性も際立っており、強さの中にある繊細さがひと際煌びやかである。これまで自分の決意を曲にしてきたソングライターの佐々木亮介(Vo/Gt)だが、今回はそれぞれの楽曲にメッセージを宛てた相手が存在しているとのこと。その結果、リスナーと手と手を取り合うような優しさがどの曲にも生まれた。そこに宿るのはこれまで様々な困難も乗り越えてきたバンドだからこその説得力。AFOCが情熱と愛を持って音楽と人に向き合っていることを改めて痛感した。