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DISC REVIEW

I

Let It All In

I AM KLOOT

Let It All In

90年代後半、UKシーンでひっそりと起こった“ニュー・アコースティック”なるムーブメントがあった。アコギを主軸にした流麗なメロディを持ち味に、このI AM KLOOTはじめKINGS OF CONVENIENCEやBADLY DRAWN BOY、そして含まれていたことに驚くほど世界的にブレイクしたCOLDPLAYなどで括られながらも、いまひとつ盛り上がりに欠けあっさりと消えてしまったこの動き。しかし今振り返ると、各アーティストはそんな“枠”に囚われることなく真摯に歌と向き合い、オリジナリティを拡げる充実したアルバムをリリースしていったのはおもしろい。前作で商業的な成功を収めるまでになったKLOOTだが、新作も負けず劣らず、深遠で、暖かく、美しい、崇高な音楽が溢れている。

Sky At Night

I AM KLOOT

Sky At Night

マンチェスター出身の3ピースバンドI AM KLOOTが5枚目となるアルバムをリリース。ミュージックビデオに人気俳優を起用し話題になったシングル曲であり、1曲目に収録されている「Northm Skies」はオーガニックでゆるやかな楽曲に仕上がっていて、このアルバムの壮大な音楽の旅の幕開けを予感させる。哀愁漂う「Fingerprints」、泣きのメロディにアコギが響く「Proof」、大人なスロウナンバー「It's Just The Night」と全体的に静かなロードムービーのように押し付けがましくない優しさが広がっている。ブレずに独自のロックを突き詰め、さらに高められた美しいメロディには感服するばかり。ソングライティングを手がけるJohnが“UKロック最大の詩人”と賞賛される理由がわかった。

Hearts

I BREAK HORSES

Hearts

大聖堂で繰り広げられるMY BLOODY VALENTINEの讃美歌か、天国の階段を駆け上がるULRICH SCHNAUSSか……この霧のようなホワイト・ノイズの先には、幾重もの荘厳なイメージが湧き立つだろう。エレクトロ・シューゲイザーの新たな夢想家、スウェーデンはストックホルムから登場したI BREAK HORSESである。上述した例でお分かりのように、古典を紐解き、現代的なアレンジでシューゲイザー文脈を辿っているが、なんといっても魅力はルックス含めヴォーカルMaria Lindénの透徹な囁きだろう。心地良い冷気を纏い陶酔境へ誘うは、まさに新世代の歌姫となる可能性を秘めている。今年8月にBELLA UNIONからデビュー・アルバムをリリース。また、12インチ・シングル「Herts」にはTom Rowlands(THE CHEMICAL BROTHERS)によるノイジーなダンス・リミックスが収録されているので、クラブ・ミュージック・ファンにも注目の存在だ。

Plowing Into The Field Of Love

ICEAGE

Plowing Into The Field Of Love

モヤッとしているんだけれど、聴いていてなんだかスッキリする―― 今作にそんな矛盾した印象を与えている所以として、喉の奥につかえている鬱蒼とした気分を吐き出すように歌うフロントマン、Elias Bender Rønnenfeltの存在が大きいだろう。過去作と比べて、彼の変貌ぶりをありありと感じられるのは、歌詞を包み隠すことなく聴き手へと直接投げかけるようになったという点。サウンド面でも、特有のダークさは健在でありながら、管楽器とヴァイオリンを取り入れた「Forever」、アップ・ビートなカントリー・ナンバー「The Lord's Favorite」など、ポスト・パンク色の強かった過去2作での激情を洗練された音楽へと見事に開花させている。バンドの音楽的野心が結実した快作。

You're Nothing

ICEAGE

You're Nothing

不穏で、不機嫌で、鬱屈したこのモヤモヤをどうしてくれようか?答えのない、どうしようもない怒りに翻弄されるような激しさ、思春期性を思わせるもの。しかし、少年たちの蒼き瞳はとても澄んでいるのだ。磨きがかった刃物で切り裂くようなサウンド、言葉、そのひとつひとつはまるで低温火傷のような痛みを与えるポスト・パンク。デンマークはコペンハーゲンから世界を震撼させたアンファンテリブル、ICEAGEが帰ってきた。アメリカの名門レーベルMATADORに移籍しての2枚目だが、彼らの本質は潔くブレることはない、冷徹なまでの知性が切り開くコンセプチュアル・アート。ありがちな、仰々しいアレンジに手を染めてないことも嬉しい。とにかく刺激的な「Ecstasy」を求めているあなた、必聴!

New Brigade

ICEAGE

New Brigade

聴くとなんだか無性にバンドを組みたくなる。本能に突き刺してくる鋭利なサウンドに言葉、ってことかな。すべてに唾を吐き出すようなアナーキズム、自暴自棄なほど疾走するニヒリスティックと、とにかくこのモヤモヤをどうにかしてくれ!とばかりに“不機嫌な子供たち”がデンマークはコペンハーゲンから登場した。すでに昨夏海外ではリリースされ瞬く間に注目を集めているが、まだ全員10代の4人組、ICEAGEがいよいよ日本デビューである。GANG OF FOURやJOY DIVISIONの尖った知性を80年代USハード・コアばりのテンションで駆け抜けるかっこよさ、そしてコンセプチュアル・アート指向な美意識も完遂されていて気持ちいい。これは若気の至りではない、本物と断言する。この冷めた時代、シーンも己も“健全”であるがための音楽がここに。

Hostess presents NO SHIT! 2

V.A.

Hostess presents NO SHIT! 2

2000年創立以来、旬なアーティストや海外でも評価の高いバンドを次々とリリースして来たホステス・エンターテインメントのレーベル・コンピ第2弾が登場。前作も充実の内容だったが今作はそれを上回る豪華さ。RADIOHEADやARCTIC MONKEYSの新作からはもちろん、2011年の年間ベストに軒並みランク・インしているBON IVERなどが収録されたDISC1は今年の洋楽シーンを手っ取り早く知る意味では最適の1枚。続くDISC2は話題沸騰のHOWLERを始めICEAGEなどこれからが期待される新人が並ぶ。ジャンルを横断しながら今の空気をしっかりと伝えるセレクト。個人的にはDISC2をしっかり聴き込んでほしい。とにかくお得なアルバムだ。

This is... Icona Pop

ICONA POP

This is... Icona Pop

全世界で大ヒット中のシングル「I Love It」で話題騒然のスウェディッシュ・ガールズ・デュオ、ICONA POPが待望のデビュー・アルバムをリリース。筆者は最近よくあるEDMデュオくらいの認識だったが、そう思っていたことを心から詫びたい。確かに音は今の時代にぴったりのEDM。だが彼女たちはEllie GouldingのようなEDMの歌姫と言うよりは、PASSION PIT的なエレクトロ・バンド感が強い。ポップでありつつもアコースティック感のあるアプローチとUKロック的なエッジとシニカルさ。そしてどの曲でも圧倒的な存在感を放つのは、強くまっすぐ伸びる彼女たちの歌声だ。ポップ・シンガーにしては2人とも荒々しく我の強さを感じさせる攻めっぷり。直情的な音がハートを揺さぶる。

Idiography E.P.

IDIOT POP

Idiography E.P.

昨年、アルバム『Idiot Pop』初回生産盤1000枚を一ヶ月で売り切り、その後も記録的なロング・セールスを記録。テクノとTKの間に勝手に道を作って独自のポップ・ワールドを築きあげるIdiot Popの6曲入りファースト・シングル。『Idiot Pop』で提示した世界観を凝縮し、さらに過剰にしたようないびつなメルヘンなポップ・ワールド。Idiot Popの代名詞とも言えるチャイルド・ヴォイス使いもより顕著に。基本はもちろんダンス・ミュージックなのだが、既存の枠組みには収まらない振れ幅を見せる新機軸も披露。この振れ幅の広さと過剰なまでのポップさが、Idiot Popの肝。見たことはないけれど、とにかく面白そうで手が伸びてしまうようなオモチャばかり詰まったオモチャ箱。

Idiot Pop

IDIOT POP

Idiot Pop

宮崎県延岡市出身というIDIOT POP。彼のホームページからそのまま拝借すると、テクノドランクアーティストだそうだ。TKから始まり、テクノと共に育ってきたという彼の音は、DE DE MOUSEとKITSUNE周辺のエレクトロの間で無邪気に遊ぶ酔っ払いというか。一つのジャンルやテイストに拘るのではなく、節操なくやりたい放題やりながらも、雑多な要素を絶妙のバランス感覚でブレンドしている。テクノ、エレクトロのどこかではなく、どこもかしこも取り込んで生み出された突然変異的ダンス・ミュージック。変態的なのに、ポップ。キャッチーなのに、尖っている。気が付いたら、彼のことが気になって気になって仕方がない自分がいる。この夏、IDIOT POP中毒が多発しそうな予感大。

Joy As An Act Of Resistance.

IDLES

Joy As An Act Of Resistance.

日本でパンクと言えばポップ・パンクやエモが主流だが、この自らを"偶像"と名乗る英ブリストルのポスト・パンク・バンドは、イギリスらしい陰鬱さや本気の怒りを滲ませる。1stアルバム『Brutalism』が本国で高い評価を獲得し、FOO FIGHTERSのO2アリーナ公演のオープニングを務める人気バンドの2ndアルバムは、1曲目からNINE INCH NAILSから神経質さを抜いたようなインダストリアル・パンクを聴かせる。80年代ネオ・サイケな不安定なギター・リフとスカスカなスネアが、ラフゆえに不思議な耽美さを醸し出していたりして、往年の"英国的"破天荒とエネルギーが充満しているのが逆に新しい。2000年代のR&Rリバイバルのスタイリッシュさはなく、いい意味で素。9月の初来日で実像があらわになるのも楽しみなところだ。

Everything Ever Written

IDLEWILD

Everything Ever Written

2009年に活動を休止したスコットランドの5人組が7作目のアルバムをひっさげ、シーンに帰ってきた。90年代後半、ブリット・ポップ・ブーム終焉後のUKシーンに突如現れた"遅れてきた"ハードコア・バンドはその後、作品を重ねるごとに成熟を遂げてきた。現在の彼らは自分たちの音楽がシーンのトレンドになることはないとしっかり自覚したうえで、だからこそ本当にやりたいことができるんだという信念の下、音楽に取り組んでいるようだ。70年代臭ぷんぷんのブルース・ロック・ナンバーでスタートするこのアルバムもオルタナ世代らしい距離の取り方でさまざまなルーツ・ミュージックを咀嚼しながら、胸を焦がす歌が作品全体を貫いているという意味では、まさにIDLEWILDらしいといえる聴きごたえあるものに。

Black Humor

I Don't Like Mondays.

Black Humor

人生を謳歌するパーティー・チューンを放ってきたバンドが、社会的なことや人間の本能を表現することでリスナーに引かれるとか、そういう意識やレベルにはすでにいない、成長とリアリティを存分に発揮してくれた。2019年11月の「gift」から直近の「馬鹿」まで約1年半に渡り配信リリースしてきた12曲に、新曲をプラス。コロナ禍で誰しもが陥った孤独や非現実感が色濃い前半から、次第に物理的に遠くても近くても離れがたい存在に想いを馳せ、未来のことも想像できるようになっていくアルバムとしての流れも、結果的なものだとしても素晴らしい。そつなく生きる都会の男性の内面の痛みや切なさ。それらを圧も特定のジャンル感も抑え、洗練された音像に落とし込んだのも見事だ。まだ続くこの日常の隣に置きたい。

FUTURE

I Don't Like Mondays.

FUTURE

avexに移籍後、4月から4ヶ月連続でリリースしてきたシングル、ライヴでも人気の高いバンドを代表する2曲「LEMONADE」、「FIRE」の新録バージョン、そして今回お目見えとなる新曲の計15曲を収録。まさに過去と今のモードが融合し、"FUTURE"を指す、約3年ぶりとなるフル・アルバムに相応しい、ビッグ・スケールな内容となっている。R&Bやディスコ、ヒップホップ、ロックやEDMなど、歴史を紡いできた様々な音楽の持つ普遍性に目を向け、そこにアップデートできる可能性を見つけ、オリジナリティへと昇華することに成功。あくなきこだわりとヒップなユーモアに溢れた、2019年のポップ・ミュージック・シーンを沸かせる1枚となるだろう。

Do Ya?

I Don't Like Mondays.

Do Ya?

所属レーベルを離れ、1年間の自主活動期間を経て、avexに移籍しての第1弾シングル。テーマを"90年代ヒップホップ"に置き、目的も曲の展開もシンプルになったことが見事にヒットした。SHUKIの生ドラムと打ち込みを駆使したリズムのレイヤー、KENJIのベース・ラインとその音色はより豊かに響き、スタイリッシュな曲とのマッチングが印象的な、CHOJIのオールドスクールなロックをルーツとするギターもまた、新鮮に鳴っている。そして、フロントマン YUのヴォーカルもまた、あえてわかりやすいワードをリズミカルに連発することで、言葉の持つ牽引力と声の魅力が増大。"今最も楽しいパーティーはここだ"と言わんばかりの熱量と、この先彼らが迎える絶頂期を予感させる1曲だ。

SUMMER

I Don't Like Mondays.

SUMMER

流行に敏感なオシャレな女の子を踊らせるため、表参道で結成されたI Don't Like Mondays.。彼らが、夏の夜、星空の下で聴きたくなるメロウな楽曲を揃えたニューEP『SUMMER』をリリース。"誰かに無理だと笑われたって"と自分の目指す道へと突き進もうと思える「On my way」、Yu(Vo)の甘く魅惑的なヴォイスで泣きたい夜も笑えるようにと歌い上げた「PRINCE」、さらにKSUKEがリミックスした「TONIGHT」の抜群のグルーヴ感があるサウンドを聴いていると、心地よくて踊り出さずにはいられない。さらに今作は"ことば"を大切にした楽曲も揃い、メッセージ性の強さもパワーアップ。そんな今後さらなる飛躍も感じられるアイドラは、今時のオシャレ女子たちだけじゃなくもっと幅広い層にも愛されるべき存在であろう。

WE ARE YOUNG/Super Special

I Don't Like Mondays.

WE ARE YOUNG/Super Special

月曜日が嫌い、といえば真っ先に浮かぶのはNEW ORDERの「Blue Monday」。この楽曲は、その名の通りメランコリックで陰鬱な趣きはあるものの当時の最先端のサウンドが鳴らされている。実は、このI Don't Like Mondays.にも同じことが言えるのではないかと思う。それこそMAROON 5やTaylor Swift、Justin TimberlakeあたりのBillboardのトップ・チャートにランクインするようなアーティストの作品と肩を並べても違和感のないヒップなサウンドや、ライヴハウスよりはやはりクラブが似合うその佇まいにおいても。よりスタイリッシュでダンサブルなTrack.1、シルキーなファンキー・チューンTrack.2など月曜日の憂鬱を吹き飛ばすにはちょうどいい1枚。

Play

I Don't Like Mondays.

Play

オシャレな女の子を踊らせるため、2012年に表参道で結成された"月曜日が嫌い"な4人組、I Don't Like Mondays.が1stミニ・アルバムでメジャー・デビューを果たす。ねごとやSPYAIRらの作品でおなじみのヒット・メイカー、河野圭をプロデューサーに迎えた今作には、聴けば聴くほどシンガロングしたくなる6曲を収録。90~00年代UKロックの影響を感じさせるサウンドに抜群のポップ・センスを重ね、アジア版COLDPLAYと形容しても過言ではないほど、キャッチーでパーティ感に満ちた仕上がりとなっている。パーティといっても単にバカ騒ぎするわけではなく、ダンサブルなメロディの端々に切ない色気が盛り込まれ、ムーディな印象。カクテル片手に楽しみたい大人な1枚。

Salt On Sea Glass

IF BY YES

Salt On Sea Glass

CHIMERA MUSICが贈る幸福な時間。本田ゆか、Petra Haden、あらきゆうこ、そしてコーネリアス・グループの清水ひろたかによる4人組、IF BY YESのデビュー・アルバムだ。それぞれメンバーの多岐に渡る活動を総括したような、尖鋭的であり、しかし優しく耳触りのよい、幻想的なアヴァン・ポップ集。02年には本田とPetraが共同で曲を書き始めており、その後不定期ながらコラボレーションを行い、07年にはこの布陣でライヴも始め、昨年本格的なレコーディングとなり本作が届けられた。そんな長い時間は熟成していくワインのように、アルバムは芳醇なポップ・ソングで満ちている。ゲスト陣も豪華にDavid Byrne、小山田圭吾、そしてWILCOのギタリストNels Clineと巧みな職人が名を連ねている。さまざまなジャンルを越境した、ここにしかない音楽が誕生した。

∀

iLL

すでに様々な方面で活躍しリミキサーとしても遺憾なく才能を発揮しているiLL ことナカコーから、豪華なメンバーを迎えたコラボレーション・アルバムが到着!向井秀徳、POLYSICS、clammbon、ASIAN KUNG-FU GENERATION、RYUKYUDISKO、Base Ball Bear、the telephones、aco、MEGなど様々なメンバーが参加している。このメンバーをみて分かる通り、聴く前から期待して問題なし!ロック・ナンバーからダンス・ミュージックまで楽しめる内容で、12分の長尺のトラックもあるが全く気にならない。最後まで飽きることなく聴ける1枚。それにしても向井秀徳の歌うスタイルに、只ならぬ貫禄を感じてしまうのは私だけでしょうか?

P.Y.L

illion

P.Y.L

RADWIMPS、野田洋次郎のソロ・プロジェクトが3年ぶりに再始動。プログラミング・ソフトを取り入れた楽曲が大半を占め、リズムを主体にした実験的なアプローチは彼の知的好奇心の結晶のようだ。もともと彼はRADWIMPSでもillionでもジャンルにとらわれない楽曲作りやミクスチャー・センスを見せてきたが、このタイミングでさらにその方法論を広げている。水の中に潜っていくような心地で、それ以外にもはたまた眠りにつく瞬間のまどろみのような、現実が少しずつ歪んでいくような......と聴き手の感性を刺激し、様々なイメージを次々と立ち上らせる。自由に音楽と戯れる彼の思考や心情、人間性がそのまま音楽になっていると言ってもいいのでは。さらに勢いを増す天性の才能には恐れ入るばかり。

UBU

illion

UBU

日英独仏にてリリース、初ライヴはロンドンにて開催など、海外進出が大きなトピックとなっているRADWIMPS野田洋次郎のソロ・プロジェクト"illion"。初作品『UBU』は野田洋次郎というひとりのアーティストの音楽的才能がとめどなく溢れる荘厳なアルバムだ。生楽器と打ち込みは歌声と共に丁寧に音を編み込み、国やジャンル、理論や制約など、枠組みや既成概念を消してしまうように解き放たれてゆく。冷ややかでありながらぬくもりが滲み、哀しくも優しく、無機質でありながらも肉体的で、時に牙を剥いて襲い掛かり、時に人懐こく懐に潜り込む。そんな奔放さは捉え方によって様々な印象を得られるが、一貫しているのは揺るぎない自身の音楽への信念と挑戦。その姿勢はどこまでも勇敢で美しい。

Power

ILLUMINATI HOTTIES

Power

WEYES BLOOD、COLDPLAYといったアーティストたちと仕事をし、今年2月にはプロダクション/エンジニアリングで携わったBOYGENIUSのデビュー・アルバムがグラミー賞で最優秀オルタナティヴ・ミュージック・アルバム部門受賞を果たす等、着実に成功を収めつつあるSarah Tudzin率いるILLUMINATI HOTTIESの最新作。フレッシュなパワー・ポップ「Falling In Love With Somebody Better」をはじめ、オーガニック且つ繊細な手触りの「Rot」、ベッドルーム・ポップの質感を持ったタイトル・トラック、UKのシンガー・ソングライター CAVETOWNを迎えた「Didn't」を含む全13曲が揃った。全体的にトーンは暗めだが、甘酸っぱさやリアルな体温を感じる側面もあり、聴くたびに奥深さが増す1枚。

The END.

iMagic.

The END.

u.(Vo)、Shunsuke(Gt)、manao(Ba)、shingo(Dr)、GALA(Mani)の5人からなるデジタル・ポップ・ロック・バンド、iMagicがリリースする2ndミニ・アルバム。オリエンタルなイントロからダイナミックなサビまで一気に突き抜けるタイトル・トラック「The END.」から、Track.3「白夜行」ではラップ、さらに壮大な英詞のバラード「キリン」まで、様々な楽曲を歌いこなすu.には、同じく滋賀県で結成された人気バンドUVERworldのヴォーカル、TAKUYA∞のカリスマ性に近いものを感じる。重厚かつ疾走感のある楽器隊に、エモーショナルなu.の歌声が重なり、マニピュレーターがいることによってさらに音の厚さが増している。聴けば聴くほどに深みの出る作品。

Smoke + Mirrors

IMAGINE DRAGONS

Smoke + Mirrors

2012年のデビュー・アルバム『Night Visions』が全世界で400万枚の大ヒットとなったアメリカのロック・バンドの待望の2ndアルバム。すでに海外ではリリースされアメリカ、イギリスで初登場1位を獲得している。Track2.「Gold」の実験性や混沌としたグルーヴをスタジアム・レベルでやられたら興奮間違いなし。「Smoke And Mirrors」や1stシングル・カット曲「I Bet My Life」ではヴォーカル、コーラス・ワークの秀逸さもあってスケールの大きな音像を広げている。そうした曲が続くだけに「It Comes Back To You」「Dream」のシンプルなメロディに惹かれるのだが、後半からはやはり大仰なアレンジが入り込んでくるのが良くも悪くもこのバンドの個性かも。

No World

INC.

No World

Cee Lo Green、Pharrell Williams等のスタジオ・ミュージシャンとして活動していた、ロサンゼルス出身のAndrewとDaniel Aged兄弟によるユニットのデビュー・アルバム。R&B、ポップ、ソウル、ヒップホップと様々な要素を巧みに融合させ、耳馴染みが良いのと同時にとても深みのあるサウンドに仕上がっている。静かながらもソウルフルで聴き応えのあるAndrewのヴォーカルと卓越したギター・プレイ。そしてDanielの滑らかなリズムを奏でるベース・プレイ等今までのスタジオ・ミュージシャンとしての経験が大いに反映されているのではないだろうか。深い低音が心に沁み渡り、全編を通して幻想的な雰囲気を醸し出している楽曲が並び、別世界へと連れ出してくれるようなアルバムだ。

Crying End Roll

indigo la End

Crying End Roll

佐藤栄太郎(Dr)が加入してからのindigo la Endはさらに様々な音楽性や表現手法を取り入れているが、今作もそれに違わない。トラックメイカー Qrion、ゲスの極み乙女。のちゃんMARIが手掛けたリミックス曲を含む全12曲のバリエーションはもちろん、各プレイヤーのフレージングや音色も多彩に。インタールード2曲で挟まれた中盤のゾーン(Track.4~8)には"命"をテーマにした曲が揃い、異次元へとワープするような構成も物語性が高く美しい。楽曲それぞれの物語は完結しているというよりは、続きを含んでいるような余韻がある。次回作への伏線、今後のindigo la Endの序章にも成り得るアルバムではないだろうか。まるで夜明け前の空のよう。彼らの彩る藍色がさらなる輝きや潤いを得る日も近い。

藍色ミュージック

indigo la End

藍色ミュージック

川谷絵音がメジャー・デビュー時にインタビューで語った"今日のバンド・シーンに入っていくため"の骨頂が前作『幸せが溢れたら』ならば、『藍色ミュージック』はindigo la Endの感性が反応する音楽を追求したものだろう。ロックはもちろん、ブラック・ミュージック、ファンク、ダンス・ポップ、チルウェイヴなどを取り込んで作られた独自の音楽性は落ち着いていてシック、まさしく藍色。各楽器に演奏のスキルがあるからこそ、聴き手がじっくりと聴き入ることができる。それを日本のポップ・ミュージックとして成立させているのは歌の力が大きい。琴線に触れるメロディ・ラインは歌詞同様の哀愁を綴り、歌詞もまた柔らかく滑らかにメロディを紡ぐ。日本の音楽シーンに新たな歴史を拓く作品に成り得るのでは。渾身の勝負作。

悲しくなる前に

indigo la End

悲しくなる前に

indigo la End史上、最も感情的な3曲だと思う。川谷絵音はこれまで絶妙な機微をメロディと言葉に落とし込み、バンドは淡く美しい世界を描いてきたが、昨年加入したベーシストの後鳥亮介と、今年加入したドラマーの佐藤栄太郎の強力なリズム隊が、楽曲の中に大きなうねりを生んでいる。彼らは爽やかさのある楽曲の中にある切なさとやりきれない感情を大きく引き立て、そしてその上で舞う色鮮やかな2本のギターの交錯も躍動的だ。新たな一歩を踏み出したことが嬉しくてたまらないと言わんばかりに力強いアンサンブルがめくるめく。ソウル・ミュージックの匂いのあるTrack.3はまさしく新境地。曲の心地よさはもちろん、川谷絵音のヴォーカルがこれまでにないくらい眩く、その歌に胸が焦がれた。

幸せが溢れたら

indigo la End

幸せが溢れたら

このアルバムでindigo la Endは本当の意味で歌を大事にしたバンドになった。それは川谷絵音のヴォーカルの変化が大きい。"いい歌詞が書けたから、ちゃんと伝えたいと思った"。これまではそれを主に感傷的なサウンドや緻密なアンサンブルで表現していたが、この11曲では歌詞と自分の心の奥に一歩踏み込んだ彼の歌が煌く。ストリングスなどを取り入れたことでさらに音の幅は大きく開け、昨年夏に後鳥亮介が正式加入したことで、過去最高にベースの存在感が強い、人間の力を感じられる躍動的な音像に仕上がった。悲恋や失恋がテーマゆえに、聴いているだけで自らの過去のそれが如実に思い起こされ、胸も痛む。だが聴き終えたときに残るのは"幸せだったあのころ"という切なくもあたたかい尊さ、そしてindigo la Endの優しさだ。

瞳に映らない

indigo la End

瞳に映らない

川谷絵音は他者のことを冷静に見つめ、深く考えられる人間だ。だからこそ彼の頭の中で生まれた音楽はバンドという音になり、盤という形になる。そしてそこにはひとつひとつ大きな意味が存在する。ベーシストの後鳥亮介を正式にバンドに迎え入れた第1作目は、メジャー・デビューを機に更に知名度を高めたindigo la Endのモードにシンクロし、よりポップ・センスを高めた開けた楽曲が表題を飾った。"あなたあなたあなた"と繰り返す1回聴いただけで頭に入る中毒性の高いサビは歌謡曲的で、ロック・シーンに身を置く彼らが今以上に広い場へと羽ばたくことを予感させる。昨年リリースのライヴ会場限定シングルに収録された「幸せな街路樹」を含め、indigo la Endというバンドを象る4本柱というべき楽曲群だ。

あの街レコード

indigo la End

あの街レコード

2012年4月に全国デビューを果たしたindigo la Endの約14ヶ月ぶりの新作。このアルバムが完成した後にバンドのメジャー移籍が決まったとのことで、意図せずこの作品が彼らのメジャー・デビュー作となったが、より広い場所へ身を移し発する第1作に相応しい開けたサウンドになっている。バンドの魅力でもあった歌が主体になりつつもプログレ的展開を見せるサウンドスケープはより明快に。川谷絵音が自身を投影した心情描写に情景描写が絡む映画のような歌詞もドラマティックに流れる。フィクションとノンフィクションの間を華麗に行き来する楽曲群に翻弄され、聴くたびに違った景色が広がるのは、indigo la Endが人の心にしっかりと寄り添う、ぬくもり溢れるミュージックを奏でているからだ。

夜に魔法をかけられて

indigo la End

夜に魔法をかけられて

昨年4月にデビューしてから2枚のミニ・アルバム、1枚の会場限定シングルをリリースとハイ・ペースでリリースを続けてきた彼らの待望のフル・アルバムであり、2枚のミニ・アルバムから続いた3部作の完結作。「sweet spider」で彼らのメランコリックなメロディと淡い世界観をストレートに表現し、(彼らにしては)過去の楽曲である「she」や「大停電の夜に」もしっかりと今の音にアップデートされている。個人的なハイライトである「スウェル」では彼らにしか成し得ない超展開とエヴァー・グリーンなメロディ、そして全てをしっかりと完結させる完成度の高さは彼らの成長を強く感じる。Indigo la Endの1年が凝縮した作品であり、今の尖り続けるロック・シーンに一石を投じる意欲作。

渚にて

indigo la End

渚にて

前作『さようなら、素晴らしい世界』でデビューしたindigo la Endのニュー・ミニ・アルバム。収録されている6曲のうち2曲がインタールードという点と、彼らの楽曲1曲1曲がドラマ性にとんでいるのもあり、1冊の小説のような統一された空気感をまとったコンセプチュアルな作品に仕上がっている。ライヴでも既に定番曲になっているTrack.2「レナは朝を奪ったみたいだ」は彼らの持ち味である尖ったギター・サウンドと次々と変わる展開が独特の疾走感を生み、Track.4の「渚にて、幻」は壮大な世界観をシンプルに描写したこのミニ・アルバムのキーとなる楽曲。彼らが変化球を投げ続けねばならないシーンのただの“アクセント”ではないことを証明するには充分すぎる完成度の高い作品だ。

さようなら、素晴らしい世界

indigo la End

さようなら、素晴らしい世界

東京在住、今回のリリースまでに3本のデモをリリースし、自主企画では200人を超える動員を叩き出し耳の早いインディー・ロック・リスナーの間では話題になっていた彼らの初全国流通盤。鮮やかなメロディが川谷絵音(Vo,Gt)の声を際立たせる「緑の少女」から始まり、「秘密の金魚」、「ジョン・カーティス」では彼らが最近流行のセンシティヴで心象風景を綺麗に奏でる"だけ"ではなく、内に秘めたヒリヒリとした"ロック"を感じる事ができる。そしてライヴでも最後に演奏される事が多い「素晴らしい世界」で彼らの最初の物語は幕を閉じる。色彩豊かな"メロディ"そして"歌"がこのバンドの武器であることは言うまでも無いが、緻密に構築したサウンドを縦横無尽にせめぎ合うバンド・サウンドにも同じくらい注目していただきたい。

Cuts & Bruises

INHALER

Cuts & Bruises

MÅNESKINらとともに新世代のロックを担う存在として注目されている、INHALER。そんな彼らの2ndアルバムは、誰もが胸を熱くするキャッチーなギター・ロックと、アンニュイなポスト・ロックのエッセンスが、今っぽいスタイリッシュなサウンドに進化したものとなった。ブルージーで骨太なサウンドを奏でても、マッチョでも泥臭くもないのは、声量はあるのに力の入りすぎないElijah Hewsonの味のあるヴォーカルのせいか、それとも軽やかな鍵盤の音がポイントになっているのか。とにかく、すでに大物の貫禄ある堂々たる演奏、直球でわかりやすい音楽性でありながら作り込まれたカラフルなアレンジには、素直に魅了される。"SUMMER SONIC 2023"での来日も要チェックだ。

It Won't Always Be Like This

INHALER

It Won't Always Be Like This

ダブリン発4ピースのデビュー作。NOEL GALLAGHER'S HIGH FLYING BIRDSやTHE COURTEENERSのサポート・アクトを務め、様々なミュージック・アワードでノミネートされるなど王道"ロック・バンド"の登場と高まるなか発表された今作は、アイルランドのバンドとして13年ぶりにデビュー作で全英チャート1位を獲得した。骨太さも繊細さも併せ持ったギター・サウンドからは、THE CUREやJOY DIVISIONの香りが立ち上る。アレンジは雰囲気的だったり冗長だったりする装飾がなく、細やかに音が構築された心地よい緊張感が全体を貫いているのがいい。ソウルフルなグルーヴを帯びたヴォーカルがサウンドに色味を添え華やかに躍動させる。音の一体感、それが呼ぶカタルシスがある。

IN MY OASIS Billboard Session

INORAN

IN MY OASIS Billboard Session

繊細で美しく、柔らかで芳醇な音たちをここに。2019年から展開してきたアコースティック・ライヴ・シリーズ"Billboard Session"の味わいそのままに、今回新たにBillboard Live YOKOHAMAにてライヴ・レコーディングされた全12曲は、このたびソロ活動25周年を記念するアルバムとして世へ送り出されることとなった。今作にはTourbillonでINORANと活動を共にしてきた葉山拓亮(H.Hayama)がピアニストとして参加しているほか、R&Bシンガー 傳田真央嬢もゲスト参加しており、Cyndi Lauperの「Time After Time」など計3曲をじっくりと聴かせてくれている。また、今作のために書き下ろされたという新曲も必聴。オアシスのごとき癒やしを音としてご堪能あれ。

ANY DAY NOW

INORAN

ANY DAY NOW

そよぐ風が吹き抜け、まばゆい光が降り注ぐような音。明確な意思と、未来や希望を感じさせる歌詞。2020年9月の『Libertine Dreams』、今年2月の『Between The World And Me』に次ぐ、コロナ禍での作品群の第3弾となる今作は、INORANが今年に入ってより強く意識するようになった、"止まっていられない"というスタンスを音楽作品として具現化したものとなる。変に肩肘を張ったようなトゲトゲしさとは無縁の、全編に心地よさとポジティヴな空気感があふれるこの作品からは、このような時代にこそ重要になってきている、"しなやかな強さ"を感じ取ることもできるのだ。アルバム・タイトルは"今すぐにでも"という意味であるだけに、彼のここからの動きもまた非常に気になるところ。

Between The World And Me

INORAN

Between The World And Me

それでも日々は続いてゆく。パンデミックが勃発しようとも、意外と世界というものは終わらないものらしい。深刻なニュースが氾濫したとて、また朝がくればそれなりに凡庸とした日常が無慈悲に始まっていくことを、この1年ほどで我々は思い知るハメとなってしまったではないか。昨年9月に発表された前作『Libertine Dreams』と今作は、この容赦なき不穏な時代をINORANというアーティストが彼ならではのフィルターを通して克明に描きだしたドキュメンタリー的音楽作品となる。シニカルで閉鎖的な色合いも漂っていた前作と、どこか平穏を取り戻し空気が動き出したことを感じさせる今作。根底では繋がっていながら、確実な変化を見せているこの2枚を改めて対のものとして味わうことをぜひお勧めしたい。