DISC REVIEW
C
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CABBAGE
Nihilistic Glamour Shots
むせかえるような不穏な空気にシビれる。2015年の結成以来、ポリティカルなバンドとして注目を集めてきたマンチェスターの5人組が、ALT-J、BLOC PARTYらを擁するInfectiousからついにデビュー・アルバムをリリース。アジテーションっぽいナレーションから始まるTrack.1「Preach To TheConverted」から、いきなり気分は70年代後半~80年代前半のイギリスに! ポスト・パンクはポスト・パンクでも、いまどきMAGAZINEやNick Caveを思い起こさせるバンドも珍しい。中にはTHE CRAMPSっぽいダークなガレージ・ナンバーも! UKシーンをリードする存在になるかどうかはわからない。それよりもマニアに愛されるカルト・バンドとして生き残ってほしい。いかにもなジャケもかっこいい。
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the cabs
回帰する呼吸
“際(きわ)”はいい。“際”にはセンシティヴでナイーヴな“ぎりぎり”という美しさがある。ある物が、別のものへと生まれ変わる、まさにその一瞬。the cabsには“生まれる”と“消える”が結合する一瞬を鳴らしたような美しさがある。スピード感のある圧倒的なバンド・アンサンブル故に、脆さとスリルが共存するサウンドは “今にも崩れそうなバランス感”を漂わせ。流麗で美しい画を描きながらも悲しく退廃的な意味を孕んだ歌詞と、強く儚い首藤のヴォーカルは、僅かに痛々しい。情緒を乱さない俯瞰的な世界観も、均整の取れたものが壊れる瞬間や、無垢なものが傷を負う瞬間の刹那が生み出す、破壊的な美しさへと繋がっているのだろう。これは退廃の美学ではない。消失と再生の美学である。
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the cabs
一番はじめの出来事
残響records発、スリー・ピース・バンドの1stミニ・アルバムが到着。これぞ残響recordsといった激しさの中にギター・アルペジオが美しくメロディを紡ぎ、絶妙のズレがクセになるリズムに澄んだ歌声がのったときにエモーショナルが爆発して音となる。一見歪なようだか、ギリギリでバランスをとっているような切迫感があるサウンド。そして奥深い文学的な歌詞はどこか心にざわつきを残していく。“僕たちに明日はない”なんて歌っているけれど彼らは歌うことで希望を見出し、発信しているんだろう。最近は特に、わかりやすい表現っていうのはもう消滅してきているように思える。リスナーが謎を紐解いていく、そんな聴き方が求められているのではないか。そんなようなことを考えさせられた1枚。
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cadode
カモレの夏 EP
ヴォーカル、音楽プロデューサー、ゼネラル・マネージャーの3人からなる異色のユニット cadodeが放つ、クリエイター・チーム"カモレの夏"とのコラボレーションEP。微睡んだ空気に包まれるタイトル・トラックに始まり、メランコリックな「波止場にて」や「ポストスクリプト」など、退廃的でありながらも圧倒的に美麗なアンビエント・サウンドは、"廃墟系ポップユニット"というコンセプトを掲げている彼ららしいところでもあり、コラボ作品として親和性もばっちり。また、夏の夜の匂いが漂ってくるダンサブルな「感嘆符」や、軽快なクラップに和太鼓、さらにはアンセム・パートも盛り込まれた「旅に立ってまで」といったライヴの光景が鮮明に浮かんでくる楽曲もあり、さらなる扉を開いた印象も。
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CAGE THE ELEPHANT
Social Cues
USケンタッキー発の6人組、CAGE THE ELEPHANTによる約3年ぶり通算5作目のフル・アルバム。グラミー賞の最優秀ロック・アルバム賞に輝いた前作『Tell Me I'm Pretty』は60~70年代のヴィンテージ・ロックに接近していたが、今作ではそこに彼らの持ち味であるガレージ・ロック・サウンドも組み合わせ、さらに奥行きのある作品を作り上げた。BECKがゲスト参加しているTrack.4ではレゲエ調のトラックに挑戦した一方で、オーケストラを携えじっくりと聴かせるTrack.8や、アルバムを締めくくるバラードのTrack.13など、静と動の二面性がエモーショナルに表現されている。デビューから10年以上を経たバンドの円熟味を堪能できる作品だ。
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CAGE THE ELEPHANT
Cage The Elephant
アメリカはケンタッキー州ボウリング・グリーン出身の5人組。昨年6月のデビューから、まずはUKメディアに絶賛され火が付き、その後2009年に入りZOMBAと契約しUSデビュー。そしていよいよ日本上陸となった。ファンキーでダイナミックなサウンドとアメリカのバンドならでは土臭さを併せ持ち、またそこにソリッドなギターも加わって、新種のミクスチャー・サウンドの誕生を感じさせる。ヴォーカルMattのエキセントリックなライヴ・パフォーマンスも話題を呼んでおり、出演が決定しているFUJIROCK FESTIVAL09ではぜひとも注目したいアーティストである。「好きなものを放り込んだだけ」と語る彼らのエネルギッシュなライヴをぜひ体験してみたい。
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CAMERA OBSCURA
Desire Lines
筆者がCAMERA OBSCURAのことを初めて知ったのは、2006年の『Let's Get Out Of This Country』というアルバムで、可愛らしい女性が頬杖をついているジャケットが印象的だった。しかしよく見てみると、その女性の表情がただ可愛らしいだけじゃなく、どこか愁いを帯びて切なく、しかし晩御飯の献立でも考えているようにのんびりした感じもあり、彼女は今どんなことを考えているのか、なんとも想像力を刺激するのだ。そして、それはバンドの音楽性にも言える。出身地グラスゴーらしい爽やかでレトロな質感のネオアコ・ポップを主体としながらも、その中にはソウル、ニューウェーヴ、音響系ポスト・ロックなど様々な要素が入り混じり、いろんな表情を映し出す。通算5作目となる本作も本当に表情豊かで、僕はまた恋に落ちた。
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the Canadian Club
City
岐阜・中津川発の2人組ロック・バンドが贈る、5年ぶり2枚目となるアルバム。"長野マラソン"を筆頭に、地元にて多数のテーマ・ソングを手掛ける彼らの音楽は、単純に"歌"だけに耳を傾けても心に残るほど、ツイン・ヴォーカルのハーモニー、良質なメロディが光る。さらに今回、ピアノ・サウンドを全面的に取り入れることで、格段に叙情性を増し、より幅広い層にアプローチする仕上がりとなった。そんな中で、彼らのバックボーンを覗かせるロック・ナンバー「Voice」、「遮る」も聴きどころ。1曲ごと、そしてアルバム全体を通して移り変わる時間や季節、それがわかる風景描写、そこから感じ取れる微妙な心の動き......。誰にだって故郷や思い出の街があるだろう。今作には、その記憶を呼び覚ます1曲が必ずあるはず。
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CANDY GO!GO!
IDOROCK-legacy-
"IDOROCK(アイドロック)の王道、語り継がれゆくこれまでと、突き進むこれから"の意味を持つ"legacy"を冠した、約4年半ぶりのフル・アルバム。無念にもコロナ禍で活動10周年を迎えた2020年発売の10周年記念ソング「Infinity」や「Since 2010~」、力強く前向きな気持ちを歌った「Understeer」(2021年)、勢いと希望に溢れた彼女らの最新型が見える「IN THE GAME」(2022年)。そして本作収録の最新曲たちと、波乱万丈ながら着実に前へ前へと足を進めている彼女らの軌跡が見える。各メンバーが作詞を務め、歌詞を書いた人がリードを取るシステムにより、楽曲からそれぞれの個性や考えが見えてくるのも面白い。曲調だけでなく、現状に満足することなく"こんなもんじゃねぇ"と吠える彼女らの姿勢に"アイドロック"を感じる。
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CANTERBURY
Thank You
ENTER SHIKARIの2ndアルバム『Common Dreads』って、物凄くいいアルバムだし、Skream!読者層にこそ聴いてほしいんだけど、結果的にラウド層からもインディ層からもほぼ注目されなくて残念だった。今からでも是非聴いてください!そんなことは置いておきまして、イギリス南岸にあるハンプシャー出身の若手バンドCANTERBURYが日本デビュー。“ENTER SHIKARIの弟分”とされていますが、そうは言っても、彼らのようなハードコア的要素は薄く、もっとポップでダンサブル。MUSE以降の壮大で叙情的なオルタナ感を持ちつつ、近年のポップパンクを彷彿とさせるエモっぽいメロディもあったりして、なかなか掴みどころがなくて面白い。掴めないから何回も聴いてしまう。次作で大化けするかも!?
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CAPITAL CITIES
In A Tidal Wave Of Mystery
2014年1月に実現する来日ツアーを記念して、CAPITAL CITIESのデビュー・アルバムがついに日本盤化された。ディスコ・ビートや80年代風のシンセ・サウンドといったどこか懐かしいエレクトロかつポップなロック・サウンドが歓迎されたロサンゼルスのデュオ。SUMMER SONIC 2013の会場をダンス・フロアーに変えた本作収録の「Safe And Sound」がグラミーのベスト・ミュージック・ビデオ部門にノミネートされ、彼らの人気はさらにもうひと盛り上がりしそうな気配。そんなタイミングでリリースされた日本盤には、映画『Iron Man 3』に提供した「One Minutes More」やBEE GEESの「Stayin' Alive」のカヴァーなど、ファンなら聴き逃せないボーナス・トラックが4曲追加されている。
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DAPHNI
Jiaolong
CARIBOUとして広く知られるカナダのエレクトロニカ・アーティストDan Snaithが別名義のプロジェクトDAPHNIとしてアルバムをリリース。シングル5曲に新曲4曲を追加した本作は、自身が金曜の夜にDJをする時に掛ける曲を考えながら作ってしまうというほどダンス・フロア仕様の楽曲が満載。しかしとてもバラエティ豊かな内容で、アフリカン・ミュージックからチル・ウェイブ、テクノや流行りのダブステップまでを網羅している。ダンス・ミュージックの歴史を感じつつもモダンな音に仕上がっており、今欧米でメインストリームを圧巻しているEDMと呼ばれるエレクトロ・ハウス、派手目のダブステップ等の音とは一線を画している。FOUR TETとのスプリット・シングルにも収録された「Ye Ye」も本作に収録されており聴き応えたっぷりだ。
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CARL BARÂT AND THE JACKALS
Let It Reign
THE LIBERTINESのフロントマンのひとり、Carl Baratが新たに組んだバンド、THE JACKALSとリリースする1stアルバム。2作目のソロ・アルバムを作り始めたが、ひとりでの作業に疑問を感じて、Facebookでメンバーを募ったそうだ。しゃがれ声にJoe Strummerの面影が浮かぶオープニングからロックンロールを基調としながらギター、ベース、ドラムという基本編成にとらわれない多彩な曲が並ぶ。アコースティック・ギターの弾き語りにストリングスを加えた曲がある一方で、掛け声風のコーラスで盛り上げるストレートなパンク・ロックもある。ソロ・アルバムのアイディアを、巧みにバンド・サウンドに落とし込んだ結果なのだろう。今後はTHE LIBERTINESと掛け持ちするそうだ。ちょっとドキドキしながら活動を見守りたい。
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CARRY LOOSE
にんげん
1stアルバムにはバラエティ豊かな曲調で13曲が収められていたが、本作ではその中の"エモくてカッコいい"方向に舵を切ったような印象だ。表題曲「にんげん」は、躊躇する気持ちと、それを奮い立たせて前に進もうとする意志を、疾走感溢れるバンド・サウンドに乗せて歌い上げた1曲。メンバーひとりひとりの顔と、それぞれの歩んできた道のりが思い浮かぶほどのリアリティは、この曲が彼女たちだからこそ歌える曲であることを物語っている。これまで以上に磨きを掛けた、感情が迸るような歌声も聴きどころ。c/w「23:59」の作詞を手掛けたのはウルウ・ルで、前作でも感じさせた彼女の作詞の才がここでも大きく花開いている。一語一語丁寧に紡がれた言葉は、歌詞カードを片手にじっくりと堪能してほしい。
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CARRY LOOSE
CARRY LOOSE
BiSH、GANG PARADEらが所属する"WACK"の新ユニット CARRY LOOSEが、デビュー作にしていきなりの名盤を完成させた。Track.1「やさしい世界」は、ギター、ベース、ドラムのシンプルなバンド構成で優しく柔らかなサウンドスケープを実現した、チルでロックな珠玉の1曲。作詞の才能が開花したウルウ・ルの美しく叙情的な歌詞も堪能してほしい。続く「CARRY LOOSE」での感情が迸るヴォーカルと、心を揺さぶるようなエモーショナルなサウンドは、YUiNA EMPiREいわく"エモくてカッコいい"を目指しているグループを象徴するナンバーに。そんな軸があるからこそ、エレクトロあり、ロック・ナンバーありと、バラエティ豊かながらもまとまりのある1枚に。
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Cullen Omori
New Misery
00年代のUSインディー・ムーヴメントにおいて、徒花的存在感を示したSMITH WESTERNS。そのフロントマン、Cullen Omoriがバンド解散後にソロ名義で完成させた1stアルバムが到着。甘くポップなキッチュさのあるサウンドで、ロックンロールの刹那性を感じさせたバンド時代とは異なり、ソロ第1作では熟達したソングライティングをアピールする。作品の肝となるのはTHE CUREなどにも通じる、あたたかくもメランコリックな80'sシンセ・サウンドを基調とした濃密な音像。喪失感が通奏低音的に響く今作には、ギター・ポップ的な軽快さを覗かせるTrack.3や、英国的な憂いを含んだメロウなTrack.8、サイケな酩酊感のあるTrack.11など、作品性を保ちながらも幅のある楽曲が収録される。気だるげなポップさの中にTHE BEATLESの影がちらつくのがたまらなくいい。
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CAST
Kicking Up The Dust
活動を休止しているイギリス・リヴァプールの伝説的バンド、THE LA'Sでヴォーカル・ベースを担当していたJohn Powerが率いるバンドの5年ぶりとなるスタジオ・アルバム。今作はクラウドファンディング・サイト"PledgeMusic"でキャンペーンを行い制作されている。ベケベケしたチープなベースとドラムの音から始まるタイトル曲は、ディレイのかかったギターが加わりドラマチックな展開を見せるサビを持った佳曲。オリエンタルでジャリジャリしたギター・リフが印象的なTrack.3やメランコリックなTrack.5、しみじみと感動が伝わってくるバラードTrack.9など、独特の憂いのある歌声とそれにマッチしたサウンドは最前線ではないものの、THE KINKSのRay Daviesにも似た誇り高きUKロックの系譜を感じさせる。
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CAT ATE HOTDOGS
omanju
関西を拠点に東京、名古屋へも活動範囲を広げている2018年結成の4人組による初の全国流通盤。彼らのサウンドは、ギター・ロックを基調にしつつ、ファンクやガレージの香りもするのが面白く、なんといってもヴォーカル、ひこの少ししゃがれた声に存在感があっていい。ライヴではほぼ毎回演奏してきたが、音源化せず温めていた「kikanju」を、今回満を持してオープニングに置き、洗練されたメロディと歌詞のギャップも面白い「ヤドカリ」、多彩なフレーズで曲中どんどん印象が変わっていく「雨宿り」、狂騒的な怪しいムードを纏い、正解のないものに翻弄される悶々とした想いを歌う「Heart beat」など全6曲を収録。個性を追求していきたいと語る彼らの今後にも期待が高まる。
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THE CAT EMPIRE
Cinema
なんて心地いいグルーヴ!勝手に踊りだしちゃう、このノリ。ラテン、ジャズ、ソウル、ヒップホップ……あらゆる音楽を飲み込んで自分たちのものにしている。オーストラリア・メルボルン出身のTHE CAT EMPIREの新作が到着した。リズムはラテン的に、そこにホーンが加わってスカっぽくもあったり、けれどもメロディがキャッチーで聴きやすい。人懐っこいヴォーカルも魅力的。そして彼らは11月に来日予定とのこと。今後、フェスなどでも引っ張りだこになりそうな予感(2006年のSUMMER SONIC出演時にはベストアクトの呼び声も高かったとか)。地元オーストラリアでは国民的人気アーティストのようだが、その波ももうすぐここ日本に到達するだろう。要注目。
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Cell The Rough Butch
ロンバートストリート
結成10周年を迎える札幌のギター・ロック・バンド Cell The Rough Butch。4年ぶりの流通作品となるミニ・アルバム『ロンバートストリート』がついに完成。10周年の集大成というより、"今この瞬間に見えている景色"をパッケージしたという今作。先行シングルにもなっていた「MOMENT」を始め、昨年よりスタートした自主企画のサーキット・フェス"MOMENT FES"で感じた思いを綴った「再会の場所」、結成10年にして登翔一(Vo/Gt)が初めてピアノを弾いたという「日々」など、エモーショナルな歌声と熱い思いを込めたメロディアスなサウンドを収録。"ロンバートストリート"のように紆余曲折を経た彼らだからこそ描ける"今この瞬間"を全6曲に落とし込んだ1枚だ。
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CENT
PER→CENT→AGE
セントチヒロ・チッチ(ex-BiSH)がソロ・プロジェクト CENTとして1stアルバムをリリース。文字数の都合ですべて記載ができないのが悔やまれるが、本作には真島昌利(ザ・クロマニヨンズ)、峯田和伸(銀杏BOYZ)、富澤タク(グループ魂/Number the.)、おかもとえみ(フレンズ)ら豪華アーティストが多数参加しており、"セントチヒロ・チッチの「好き」が詰まった作品"と謳われていることにも納得の内容だ。ジャンルを飛び越えたバラエティに富む楽曲に乗せて、時には優しく丸みを帯びた歌声で、時にはストレートな歌声でと、様々な表情を見せる彼女の歌唱の引き出しの数には驚かされた。元清掃員(※BiSHファン)にはもちろんこと、広い音楽リスナーにおすすめしたい。
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Cettia
月夜
「月夜」の"見せかけの優しさも/嘘だらけの言葉だって/わたしには綺麗だと思えたんだ"というフレーズは、夜の中で彷徨う主人公の姿を映し出しながら人間の脆さを描いているが、同時に、自分が抱いた感情がいつだって真実であることを打ち出している。「Noisespiral」では、周囲に惑わされず自らを信じて進む人間の強さを描いている。柔らかな手触りの表題曲と疾走感溢れるカップリング曲ではサウンドが与える印象は相反するが、結局歌の真ん中にあるものは同じなのではと思う。それは"人は誰しもひとりであって、それ以上でも以下でもない"という大前提。単身上京し、かつての見知らぬ土地で音楽とともに生きる彼女自身のリアルな温度がそのまま宿った2ndシングルだ。
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Cettia
ララバイグッバイ
昨夏、UK.PROJECT主催オーディションにて特別賞を受賞したCettiaが、2月のデビュー・ミニ・アルバムに続き1stシングルをリリース。この春上京した彼女が故郷を思い浮かべて書いたという「ララバイグッバイ」も、"綺麗な本当なんていらないよ"という歌い出しの「escapism」もどちらも揺らぎの曲。夢と現実、出会いと別れの境界で揺れる18歳の視点を瑞々しく音楽へ落とし込んだ。2曲とも曲の終わりには一歩前へ踏み出す主人公の姿があり、それはステージ上で堂々と歌声を響かせるCettia自身の強さと重なる。"今"しかできない表現を積み重ねながら、きっとCettiaは形作られていくのだろう。まっすぐなサウンドを聴いていたらそんな予感がした。
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CHAD SMITH'S BOMBASTIC MEATBATS
More Meat
今年のSUMMER SIONICのヘッド・ライナーに大決定したRED HOT CHILI PEPPERSの長身ドラマーChad Smith率いるインストゥルメンタル・ロック・バンドBOMBASTIC MEATBATSよる2ndアルバム。2009年のファースト・アルバム以来の約2年振りとなる今作はChad Smithの力強いドラムを中心にファンキーでプログレッヴなサウンドが組み立てられている。70年代の王道のフュージョンを消化しつつも全く退屈させないアレンジと遊び心で聴かせてくれる、ダイナミックで強力なグルーヴ感はもちろん泣かせるブルースもありアルバム全体としてバラエティに富んでいて飽きる事無く楽しめる内容。メンバー同士がリラックスし楽しんでプレイしている様な雰囲気が伝わってくる様なアルバムだ。
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CHAI
WINK TOGETHER
CHAIは世界の自由人を引き寄せるようで、本作は3rdアルバム『WINK』を世界各国のクリエーターが料理したリワーク集だ。STUTS印なビートと洗練された上モノが気持ちいい「Nobody Knows We Are Fun」、向井秀徳のカッティング・ギターの切れ味、新たに歌詞も追加し歌も歌っている「ACTION」のハマりの良さ。韓国次世代ラッパー BEENZINOが韓国語、英語、日本語を織り交ぜて歌う「Donuts Mind If I Do」は実験的なのにほっこり。いつまでも踊っていたいフレンチ・ハウス仕様の「PING PONG! feat. YMCK」、ビッグ・ビートが痛快な「END」、最新のUSインディー味たっぷりな「Miracle」と、どれも笑顔になれる全6曲。
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CHAI
WINK
NIRVANAらが在籍した米レーベル"SUB POP"からも発売されるが、音像はどちらかというと"88rising"的かも。つまりトラック的になりネオ・ソウル、エレクトロ、R&B、ヒップホップなどを融合しつつ、チルでメロウな仕上がりに。ニュー・フェーズを感じさせた、NY在住のピアニストのBIGYUKIをプロデューサーに迎えた「チョコチップかもね (feat. Ric Wilson)」の驚きは、エレガントですらある「It's Vitamin C」でも感じられるし、かと思えば4人がラップするブレイクビーツ・チューン「END」、YMCKのセンスが光る8ビット・チューンっぽい「PING PONG! (feat. YMCK)」や、包み込むようなメッセージも。肩肘張らず世界基準にタッチした印象。
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CHAI
わがまマニア
2度目のUSツアーはいわゆるジャパン・カルチャー的な括りのないなかで成功を収め、世界共通言語として拡大しつつあるCHAIワールド。まだ彼女たちのフリーダムでクリエイティヴな音楽に触れていない人には、アルバム『PINK』以上に入りやすいこちらのニューEPがおすすめ。録り音が最高にトラッシュなポスト・パンク調の1曲目は「We Are Musician」と、堂々たるタイトルに偽りなし。マナ(Vo/Key)の近年のラップのフロウばりの歌もクールだ。また、今のCHAIを代表する曲になりそうな「アイム・ミー」は演奏もタイトでシュアなドリーム・ポップ。開き直りじゃなく、私は私。そう思うほど自由になれる、そんな音と演奏はCHAIがそういう人生を生きている証なんだと思える。聴く人をハッピーにするCHAIの決定版的EPだ。
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CHAPEL
Sunday Brunch
ダブステップの影響や厚いシンセが今っぽいと思わせるところもあるが、全7曲に共通する80年代調のエレポップ・サウンドを聴き、懐かしいと思った筆者は、彼らが掲げる"We play music our parents like."というステートメントを知って、思わず絶句してしまった。R&Bにもアプローチする異色のメタルコア・バンド、ISSUESのTyler Carter(Vo)がマネジメントするCHAPELは、それぞれNIGHTMARES、FAVORITE WEAPONなるメタルコア・バンドの元メンバーだった男性Voと女性Drからなるふたり組。なるほど、出自は隠せないものなのか、R&Bを歌うにはこのヴォーカルは、ややストレートすぎるきらいがあるものの、その熱い歌声がこのデュオの存在をユニークなものにしている。
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Chapman
CREDO
結成から1年8ヶ月、"SUMMER SONIC 2019"出演を果たすなど話題となっている平均年齢25歳の5人組バンド Chapmanがついにリリースする初の全国流通盤となる1st EP『CREDO』。"信条"、"主義"、"価値観"を意味するタイトルどおり、ブラック・ミュージックにマニアックにアプローチしながら、70~80年代の日本のシティ・ポップ(の源流)にも通じるバンドの身上を、ファンキーでソウルフル、そしてグルーヴィな6曲に凝縮している。Track.1「カーニバル」の冷めた視点に冒頭から意表を突かれるが、楽曲のみならず、強めのメッセージを込めた歌詞の書き方も含め、いわゆるシーンに一石を投じようとしているChapmanに、多くの人たちがすでに注目し始めている。
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THE CHAPMAN FAMILY
Kids
ノイズを撒き散らしながら、鬱屈した感情を吐き出すようなパンキッシュでロックンロールを爆音で鳴らすTHE CHAPMAN FAMILYの日本デビューとなるミニ・アルバム。陰鬱なニュー・ウェーヴと初期衝動全開のパンクの間で不協和音を撒き散らすようなスタイルは、既に本国イギリスでは注目を集め始めている。John Lennonを殺害したMark Chapmanの想像上の子供達が、父親の釈放を願う歌を歌うというアイデアから付けられたこの物騒なバンド名からして、本国ではカルト的な非難と賞賛を同時に集めているというが、ここまでギター、ベース、ドラム、ヴォーカルあらゆる音に棘が立ちまくっているバンドも最近では珍しいし、胸をざわつかせる何かが感じられる。
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Chapter line
夜が終わり
朝は残酷なほどに爽やかだ。"このルーティン・ワークが明日からも続くのか"、"今自分が営んでいる生活の先に未来はあるのか"。深夜に眠れなくなって、来る朝がどうしても怖くなってしまうという経験が誰しもあると思う。拭っても拭ってもまとわりつく閉塞感と不安を抱えた人々を、このChapter lineというバンドはひとりぼっちにはさせないだろう。初の全国流通音源にて、前へ前へと進み続けるバンドのサウンドとブルース色の濃いヴォーカルにこもっているのは、"変わりたい"というエネルギー。自分らしさを殺さずに生きるのが難しい時代だからこそ"変わる"にはエネルギーが必要なのだ、そして"変わる"のは代わりのいないあなたであり今しかないのだ、と彼らは叫び続ける。
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Chapter line
大言壮語の逆襲
東京を中心に活動する3ピース・バンドの1stシングル。店舗でリリースされる作品としてはデビュー作だというのに決して華々しいものではなく、そこで歌われているのは、動き出せない自分と"変わりたい"という想いとの内なる葛藤。弱さと強さの境目で揺れる姿。しかしそれらこそが彼らをバンドという表現へと突き動かす根源のように思えるし、だからこそ聴き手の胸を抉るものがある。叫ぶように歌うやや無骨なヴォーカルと、焦燥感を駆り立てるサウンドで、どうしても諦めることのできない人間のカッコ悪さと美しさを同時に体現していく4分弱。ラストに"今を越える 心をさらけ出してくれ"と渾身の叫びをかますサマは非常に痛快だ。TOWER RECORDS店舗限定&1000枚限定販売なのでチェックはお早めに。
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Chara
Secret Garden
THE NOVEMBERSの参加などの事前情報でエッジーなサウンドが大半を占めるのでは?と想像していたが、いい意味でCharaはもっと大きな存在だった。それこそ名盤『Junior Sweet』のころから彼女の音楽を愛してやまない人にとって、R&B~ソウルやフォーク、エレクトロニカなどをCharaというオルタナティヴなフィルターを通すと、なんとも言えない彼女ならではのスタンダードになる、そんな穏やかさと強さが2015年版として更新されたアルバム。音と言葉と曲の空気感すべて涙が出そうな「スーパーセンチメンタル」、エレクトロ過ぎない生のグルーヴとの融合がエモーショナルなタイトル曲や、mabanua参加の「はちみつ」、素朴さとガレージ感が混ざった「ラッキーガール」など長く愛したい逸品。
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Chara
うたかた
Charaが輝いている。彼女の放つその光は、10代の少女が無意識に放つような一瞬の光ではない。アーティストとしての多彩なクリエイティヴィティ、洗練された女性としての色香、強い意思を歌声に込めることの出来るヴォーカリストとしての表現力の高さ、それら全てが透明な純度でもって極めて高い水準に達しようとしているのだ。"うたかた"という脆く儚いこのひと時のほとんどを、鍵盤とギターとヴォーカルのみで作り上げているというのも驚きである。ため息をつくような密やかな歌声は、豊かで鮮やかな色と、無限に広がる空へヴェールをかけるだけの包容力を持ち、オーロラのごときサウンド・スケープを描き出す。デビュー20周年目にして、女性として、アーティストとして、そしてヴォーカリストとして、Charaは満開の時を迎えた。
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Charisma.com
Charisma.BEST
2011年の結成から現在までのCharisma.comのオリジナリティを凝縮した全19曲からなる初のベスト・アルバム。バキバキのEDM寄りのエッジーな「HATE」、「お局ロック」、「サプリミナル・ダイエット」。OL時代の女子に対する様々なツッコミも、圧倒的なラップに乗ると切れ味抜群の新しい表現に聴こえる。この発明は、女性のみならず他のラッパーも似た者がいないMCいつかの独壇場。生音など、トラックメイクの方向性が変化した『not not me』以降の楽曲センスは、まさにこれから進化しそうなだけに残念さも募るのだが......。新曲「りぼん」と「グララ」の曲調の違い、また、今をときめくTokyo Recordingsによる「Hello 2」のトラップ以降のラップ・ミュージック世界基準の音作りもクールで上品。
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Charisma.com
not not me
従来の攻撃的なエレクトロ・サウンドと重低音の効いたサウンドメイクから、グッと音数を減らし、圧で押すより曲そのものの同時代性に快哉を叫びたくなるメジャー初のフル・アルバム。ダンサブルでありつつ、ギターなど生音のグルーヴが新鮮なTrack.1「#hashdark」。OKAMOTO'Sのハマ・オカモトのベース1本で展開する驚きの新境地であるTrack.6「classic glasses」、SOIL&"PIMP"SESSIONSの社長らしさが功を奏した、ビッグ・バンド風のTrack.8「婿においで」、二度目のタッグとなる西寺郷太との洗練されたファンキーさが粋なTrack.5「Lunch time funk」など、リスニング・アルバムとしても十二分に楽しめる。攻撃的なだけじゃないメロディやメロディに近いラップを聴かせるMCいつかの表現力、全体の構成力にも注目を。
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Charisma.com
unPOP
視聴者のイタい経験談を番組内で吸い上げて曲にしていくという、彼女たちならではの企画から誕生した「unPOP」は、Michael JacksonやPRINCEの研究でも知られるNONA REEVESの西寺郷太との共作で、これまでバッキバキのエレクトロ・ダンス・チューンが特徴だったそのイメージで聴くと、意表を突かれるシティ・ポップ感や、サビでBPMが下がるというシュールな展開も面白い。また、フルカワユタカとのバンド・サウンドがベーシックにある「もや燃やして」も、ギター・サウンドが新鮮。従来の音を踏襲した「999」はアタックが強く、90sのJ-POPのごとき煌くサビメロとドスの効いた迫力のラップ・パートの落差が激しすぎる「恨み積もって山となる」の展開も強烈。転換期の実験作として注視したいEPだ。
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Charisma.com
愛泥C
MC いつかとDJ ゴンチによる現役OLエレクトロ・ヒップホップ・ユニットの2ndミニ・アルバム。その舌鋒はますます鋭く冴え渡っており、ダイエットを口癖にしながら実行できない人間に痛烈にツッコミを入れるTrack.1「サプリミナル・ダイエット」、クレーマー消費者へ向けた痛快なTrack.5「GODcustomer」、自撮り女子に強烈な"ディス"を送るTrack.8「自撮ーる」など、テーマとなっているのは自己愛に満ちた人々。核心を突いたリリックに耳が痛い人も多いと思うが、キャッチーなサビメロとエレクトロ・サウンドが融合したTrack.2「骨抜きに恋して」やダンサンブルなTrack.7「ベルサッサ」といった楽曲で聴けるサウンドは理屈抜きにカッコいい。TOWER RECORDS限定盤にはもう1曲追加収録。その曲名は「豚」! (岡本 貴之)
一見、キラキラしたリア充女子も、年がら年中、恋バナをしてる女子も、どうも他者への愛じゃなく、それって自己愛の塊なんじゃ?という場面に遭遇すること多くないですか? そこに違和感を持つあらゆる人は痛快な気分に、そして若干、自分ごととして刺さる女子のみんなさえ踊らせる、それがCharisma.comの許容量なのでは。テーマが愛や恋なぶん、歌詞はさらに攻撃的になりつつ、トラックはバキバキの四つ打ちエレクトロ以外にも大きくウィングを広げた本作。ゆったりめのBPMが歌詞のアグレッシヴさを強調するTrack.1、ミニマル・ファンクが今っぽいTrack.2、ダークで冷淡ですらあるR&BのTrack.8など、サウンドが洒脱になればなるほど、内容が刺さるという展開に唸りながら笑うしかありません。
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Charisma.com
OLest
もし怒りが込み上げても、すぐにそれをぶつけずに、ちょっと冷静になってごらん......というのは、筆者が昔、誰かに言われた言葉である。"知らんがな"って言わないで。本当にそうだと思うのだ。"怒り"とは往々にして、一方的なエネルギーである。Charisma.comがインディーズ時代から支持を得たのは、MCいつかの紡ぐリリックが、"怒り"を放つと同時に相手を"受け止める"懐の深さを持っていたからだと思う。彼女は怒りながらも冷静だ。満を持してのメジャー・デビュー作、MCいつかは過去最高に優しい。中間管理職になった(らしいですよ)からだろうか。ポップで穏やかな「アラサードリーミン」などは涙が出てくる。悩むアラサー、嫌な上司にお局、ダメダメなカップル......でも"本気で生きている"人には、このふたりは優しい。
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Charisma.com
DIStopping
最高。もう最高。現役OLエレクトロ・ヒップホップ・ユニット、Charisma.com待望のフル・アルバムである。前作『アイ アイ シンドローム』で見せた、鋭い社会批評を取り込んだ刺々しいリリックの殺傷能力は俄然高まり、同時にトラックは一層のポップネスと奥深さを手に入れた。まるで隠れた場所から手榴弾を投げつけるテロリストのように音と言葉を放っていた『アイ アイ~』と違い、本作からは、ミュージシャンとして真っ向からこの社会に喧嘩を売ろうとする2人の確信に満ちた姿が浮かび上がる。だからだろうか。この作品からは全編通して、今、この世の中を生きる人々に対して捧げられる母性的な優しさすら感じさせる。そう、怒りとは愛なのだ。Charisma.comは怒りという名の全身全霊の愛で、この社会を抱きしめている。
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