DISC REVIEW
Y
-
yahyel
Human
バンド名に込めた意味を考えれば、前作『Flesh and Blood』に対するごく一部のリスナーからの批判は、メンバーたちの想定内だったのだろう。その前作のリリースを機に、物議も含め注目度を高めた5人組が、それならと思ったかどうかはわからないが、約1年4ヶ月ぶりにリリースするこの2ndアルバムでは、前作で提示したオルタナティヴなR&Bとエレクトロニック・ミュージックの追求をさらに突き詰めたことを思わせる、濃密且つ鬼気迫るような世界を作り上げている。個人的には、巷間言われている批判に対してあまり意味がないと思う一方で、正直、少なからず共感できるところはあるものの、ここまで自信と確信(に加え、覚悟?)を見せつけられてしまうと、ぐうの音も出ないどころか、ただただ圧倒される。
-
YAJICO GIRL
沈百景
2016年に多くの新人コンテストで軒並みグランプリを獲得したことで話題になっている、5人組ロック・バンド YAJICO GIRLによる初の全国流通盤。フェード・インするシンセのリズムが心地いい「光る予感」から幕を開ける全5曲は、ASIAN KUNGFUGENERATIONやくるりを筆頭とする00年代産の邦楽ロックを始め、WEEZERやRADIOHEADらの影響を現代的な感性で咀嚼した、幅広い音楽性を感じるポップ・ロック・アルバム。現在は全員が大学3年生。若さゆえの突き刺すような衝動が作品には色濃く表れているが、同時に愛すべき先人たちが作り上げた音楽へのリスペクトが至るところに溢れていた。リード曲「サラバ」で、不確かで曖昧な未来へ進もうとする決意を、葛藤や弱さも含めて描く歌詞もいい。
-
YAMP KOLT
Yes
ポップ・ミュージックの肯定的な力、“YES”のストーリー――即興パフォーマーからイベント・オーガナイザー、そしてプロデューサーなど多面的に活動する音楽家、藤乃家舞がYAMP KOLTとして初のアルバムをリリースする。8人の個性派女性ヴォーカリストを迎え歌われるコンセプトは、とある森を舞台に繰り広げられる、太陽に恋をして、地を駆けるシマリスの誘い。純然としたポップスからジャズやレゲエ、はたまたエレクトロニカと多彩なサウンド・アプローチでそれぞれのシーンを描く。特筆すべきは、やくしまるえつこのフェミニンな歌声に寓話性帯びた「おひさまは太陽」、暖かみ溢れた一十三十一の「キマグレ ジシャク」だろうか。そっと寄り添うように響き渡り、まるで子守歌のような優しさを与えてくれるだろう。
-
Yap!!!
I Wanna Be Your Hero
the telephones/lovefilmで活躍する石毛 輝(Vo/Gt/Syn/Prog)の新プロジェクト"Yap!!!"。彼らの記念すべき1stミニ・アルバムは、まさに"踊れるロック"の再来だ。Track.1「Dancing in Midnight」でのシンセサイザーで始まるイントロと石毛の持ち味であるハイトーン・ヴォイスには思わず胸が高鳴った。だが、今作には一味違う"聴かせる"楽曲も。それがTrack.5「Before You Leave」。ピアノのしっとりした音色から始まり、波の音が時々流れつつ、石毛の声が遠くまで響き渡るシリアスな1曲に仕上がっている。3ピースという必要最小限のメンバー構成でありながら、繰り出される音の厚みは最大限となった今作。これからの音楽シーンに彼らがどう風穴を開けていくのかとても楽しみである。
-
YAPAN
Hello World
双子テクノ・ユニット、RYUKYUDISKOの弟・廣山陽介によるソロ・プロジェクトがこのYAPANだ。単にJAPANをドイツ語読みにしたという由来からも、彼が沖縄音楽とダンス・ミュージックを融合させたRYUKYUDISKOのアイデアをさらに推し進めようとしているのが窺える。YMOとDAFT PUNKをマッシュアップしたかのような「China Talk」から始まり、FATBOY SLIMを思わせるパーティ・チューン「Party People」、ユニークなビート感がクセになる「Yapclap」…と聴き所を挙げればキリがないが、オリエンタルなメロディを基盤としながら、多様な異国音楽のエッセンスをも散りばめられている。多彩かつ変幻自在、まるで万華鏡の様にポップ!
-
yashka
hotel new continental
3ピースのガレージ・ロック・バンド、sixのヴォーカル・ベースとしてフロントマンを務めるヨシカが新たに結成した6人組バンドの1stアルバム。クラシカルなホテルの1室に集まった楽団を思わせるジャケットから受ける印象はムーディーなジャズといったところだが、その内容はジャンルも国も横断した血沸き肉踊る音楽が詰め込まれた名アルバム。挨拶代りの「鍵のかかる部屋」~「カロン」で聴ける各メンバーの演奏が、このバンドが腕利きのミュージシャンで結成されていることを物語る。ヴァイオリン、アコーディオンといった楽器を活かした無国籍な音像は1曲ごとに表情を変えて飽きさせず、ノスタルジックな「赤い空」の昂揚感をハイライトに1枚を何度もリピートできる作品となっている。
-
yEAN
NATURAL
2012年に初の全国流通盤をリリースしてから、メンバー・チェンジを繰り返しながらもライヴを行い、バンドの地盤を固めてきたyEANが、とうとう現在の6人編成になって初作品であり、約3年ぶりとなるミニ・アルバムをリリース。USインディーの匂いのある楽曲に、大所帯らしさを利用した様々な音色が鮮やかで、キーボードが前に出たり、ギターで引っ張るなど、各曲でその曲を活かすアプローチを取っている。キャッチー師匠とサナキのツイン・ヴォーカルも、音の持つささやかでありながら普遍的な幸せを辿るようなあたたかみがあり、コーラスを含めた三声のハーモニーになるとその説得力が倍増する。肩肘張らない素朴なポップ感とその裏にある切なさ。かけがえのない人と一緒にいるときに感じる喜怒哀楽と似ている。
-
yEAN
4C
2010年結成の男女ツイン・ボーカル4ピース・ロック・バンドyEAN。初全国流通盤となる今作は新しいジャンルすら作り得る可能性に満ちた秀作である。冒頭を飾る「m.B.E.b」の語りかけるようなミサキ(Vo&Ba)のヴォーカルと個性的な歌詞、リリースに先駆けPVも公開された「11010」のカラフルかつ秀逸なシンセ音とコーラス・ワーク、現時点でのアンセムといえる「アシンメロディ」のキャッチーなメロディなどが、聴く者を時に高揚させ、時に陶酔させる。様々な要素が一曲の中で独特な展開を演出し、作品は進んでゆく。そして聴き終えた後には哀愁すら帯びた心地よい浮遊感が心に芽生え、まるで映画を観終えたような感覚になる。ミニ・アルバムとは思えないほどの満足感を得ることができるだろう。
-
YEARS & YEARS
Night Call
ヴォーカルのOlly Alexanderのソロ・プロジェクトとして再始動後初のオリジナル・アルバムで、すでにUKでは初登場1位を獲得。LGBTQ+のアイコン&アクティヴィストであり、80年代のゲイ・コミュニティを描いたドラマ"It's a Sin"が世界で話題になったことで、アーティストとしての存在感と自信がポップなチェンジ・メーカー的な作風に結実した印象だ。従来よりビートが前面に出たダンス・フロアへ誘われるパッシヴでエレガントなトラック、ジェンダーレスで透明感がありつつ、R&Bやソウルの温かさや力強さを兼ね備えたヴォーカルが無比。幸福感に満ちたダンス・チューンのTrack.2、電話の呼び出し音が効果的なTrack.3、ストリングスが美しいTrack.6、日本盤にはSIRUPのリミックスも。
-
THE YELLOW MONKEY
Sparkle X
結成35周年、5年ぶりとなる10枚目のアルバムは、"Sparkle"=輝かしい、"X"=10枚目、未知のものというタイトルが示すよう、バンドにとっても、ファンにとっても、これからの生きる道を照らすかのような作品となった。王道でシンプルなロック・サウンドはむしろ新鮮さもあり、ストレートな歌詞は誰の人生にも重ね合わせることができる。死を意識することでより明確になった生きることへの覚悟。その覚悟がそのまま希望へと繋がり、堂々と、且つ自然体で鳴らされる。その音のひとつひとつが身体の細胞に染み渡る感覚といったら、もうとてもじゃないが言葉で言い表すことなんてできない。大切なメッセージも、彼ららしいユーモアも、ロックの醍醐味もすべてを包括した1枚。生命力に満ち溢れている。
-
HEESEY
33
イエモンのベーシスト、HEESEYによる4年ぶり3枚目のソロ・アルバム。"33"とは制作期間中にハマったという数秘術にもとづいて計算されたHEESEYの個性を表すナンバー。"変人"の自分を全力で楽しむ気分で制作したことで、ジャンルも言葉遊びもリミッターを解除するような1枚になった。闇の中で高らかなシュプレヒコールを上げる「NEW DAYS」を皮切りに、生のホーン・セクションが新しい世界の幕開けを祝福する「ROCK'N'ROLL SURVIVOR」、孤独に濡れるジャズ・ナンバー「雨音のララバイ」、雷門がテーマの「THUNDER GATE SHUFFLE」から、エヴァーグリーンな名曲「INFINITY OF MY GROOVE」まで。どこを切ってもロックンロールへの愛情が溢れている。
-
Yellow Studs
DRAFT
逆境を、ある意味自分たちの売りにしながら、生きる証として音を鳴らしてきたバンドである。そんな5人組による10thアルバムは、いつも以上に気迫に満ちたものになっている。それは18年に迎えた結成15周年を機に、多くの人から好かれたいというスケベ心を捨て、衝動の赴くままやりたい放題やろうと初心に返ったことに加え、ライヴができないフラストレーションを演奏にぶつけたからだ。ブルースとジャズとロカビリーとパンクがごた混ぜになった全9曲。ラテン、ワルツ、ポルカ、パリ・ミュゼットのテイストが感じられる曲もある。聴く者の胸を抉る言葉を突きつける野村太一の嗄れ声の歌はまさに絶唱。流行とは無縁のロックンロールを背負っていこうという意地とプライドが感じられる。
-
Yellow Studs
TRIANGLE
ガレージ・ロック、ジャズ、ブルース、男前なロックの要素を盛り込んだサウンドにしゃがれ声によるヴォーカルが魅力の5人組ロック・バンドの9枚目となるアルバム。ライヴ・バンドならではの実感のこもった歌詞が興味深い楽曲「ハイボール」、同じくライヴハウスを歌いながら民族的な演奏の楽しさとカッコよさを教えてくれるポルカ・ナンバー「ライブハウスポルカ」、洒落た音使いとこみ上げるメロディに気持ちが高ぶる疾走感溢れる「アルマエラ」など、生楽器の音の良さと空間を活かした隙間のあるアンサンブルが、デジタルな音圧に慣れてしまった耳に心地よい1枚。6月4日には恵比寿LIQUIDROOMでのワンマン・ライヴも決まっており、ライヴを重ねることで支持を得てきたバンドの充実度が伝わってくる。
-
Yellow Studs
Alarm
完全無所属を掲げ、DIYの活動を続けながらじわじわとファンを増やしてきた2003年結成の5人組が完成させた7作目のアルバム。ロカビリー、ジャズ、ガレージをバックボーンとしながら、それだけに止まらない変幻自在の12曲が収録されている。モダンな感性が窺えるギター・ロック・ナンバー、ピアノが跳ねるポップ・ソング、バンジョーが軽快に鳴るフォーク・ナンバー、そしてバラード。全曲が変化球と言える多彩さが支離滅裂に聴こえないのは、野村太一(Key/Vo)のしゃがれ声のインパクトとエッジを際立たせたバンド・サウンドによるところが大きいのだろう。社会風刺を交え、日々の悲喜劇を飾らない言葉で描いた人間臭い歌詞も魅力的。こういう歌を必要としているリスナーは少なくないはず。
-
YENMA(ex-Charles)
Piñata
Keyを交えた4人編成となりバンド名をCharlesからYENMAに改名しての1stアルバム。どこか懐かしいポップスの香りが漂い、カラフルでスピード感溢れる音の嵐で、ひと息でリスナーの心をさらう「シャンデリア」に始まり、10代で"閃光ライオット"出演時にあった曲がアップデートされた「さよなら」、男女Voだからこそのデュエット・ソング「Blue Monday」など幅広い曲が揃う。アレンジのアイディアも多彩で、他ジャンルを恐れなく投入して調理する大胆さがあり、松岡モトキ、ヒダカトオル(THE STARBEMS/GALLOWの日高 央)を編曲に迎え貪欲に栄養を摂取し、成長を遂げている。4人の頭の中にはたくさんのポップ設計図があって、高いテンションでそれを形にしている楽しさが伝わる。
-
YES GIANTESS
Siren
PASSION PITやEllie Gouldingの発掘で話題を集めるレーベル、NEON GOLDから新たな刺客、YES GIANTESS!レーベル・カラーとも呼べる激キャッチーなキラキラ80'sサウンドを武器に、とことんフロアをアゲるカラフルなデビュー・アルバムを届けてくれた。ヴォーカル・スタイルはプリンスやマイケル・ジャクソンなどが影響源だろうか、ちょっと背伸びしちゃった感の印象も受けるが、それが微笑ましく純粋な音楽観を垣間見るようでうれしい。アッパーものからムーディーと多彩に、シンセ3人ドラム1人という特異な編成で編み出される、どこまでも楽しいダンス・ミュージックだ。そして、いよいよサマソニで来日決定!なにやらパフォーマンスは小道具を用いたユニークなネタもあるとかないとか!? まずは今作で予習をしてから、幕張でレッツ・ダンス!
-
V.A.
Trademarks01
最新で最旬の新世代インディ・アーティストを詰め込んだ好企画盤。NEON INDIAN、WASHED OUT、YES GIANTESS、DUCKTAILS、TORO Y MOIなど、これからが楽しみなアーティストばかり。エレクトロ、インディ・ロック、ポップまで実験的なメロディとリズムを満喫できる1枚。個人的には、NY出身4人組THE AMPLIFETESの「It's My Life」のベースとエレクトロの挑戦的なリズムサウンドがクセになりそう。そしてスペインはマドリードを拠点とする4人組DELOREANの爽快感溢れるポップ・ナンバー「Deli」はなんとも清々しい。全体的に様々な音が沢山詰まっていて、おもちゃ箱をひっくり返したような感じだ。
-
YES GIANTESS
Yes Giantess EP
来日公演も大盛況だったPASSION PITを輩出したインディ・レーベルNeon Goldが送り出すボストン出身期待の新人バンド。PASSION PITのメンバーであるAyad Aladahamyがプロデュースを務める曲もあり、路線としては80'sシンセ・サウンドを全面に押し出したハッピーなエレクトロ・ポップ。今まさに旬の音にさらにエネルギーを注入したような元気の出るナンバーが並ぶ。特に今作のリード・トラックである「The Ruins」は突き抜けたファルセット・ボイスとエモーション溢れるメロディが印象的なアンセム・チューン。まだまだアメリカからは元気なバンドが登場しそうだ。SUMMER SONIC 2010にも出演が決定し夏にはフル・アルバムのリリースも予定されている。
-
Yeti
宇宙人
色とりどりながら、未知なるものに足を踏み入れる興奮や緊張が味わえる6曲が収録された7thミニ・アルバム。1曲目に相応しい勢いと、ミステリー小説のような歌詞――さらに結末は"僕ら みんな犯人だった"と、深いメッセージを感じさせる「理解不能」。"僕は幽霊 幽霊さ 誰も見つけられない"という寂しさも匂う歌詞を、ファンキーにキュートに響かせる「ゆうれい」。"あと少し早く歩けていたらなって後悔の連続だった"と、素直すぎる独白が胸に染みる「森羅万象」。そして、"溶けない魔法の中で生きていたいから"という理想が、美しいサウンドで掲げられる「Fantasy」。どれも、読み解く面白さがあるように様々な要素が絡み合いながら、あくまでポップな仕上がりになっている。
-
Yeti
光
"雪山から彗星のごとく人里に現れたバンド"という設定は正直謎だが、本作に今現在のYetiの意志が満ちていることに間違いはない。転がり続ける四面体をバンドの姿に喩えた「xi-sai-」を始め、"伝えたいの"、"叶えたいの"と祈りを繰り返すように歌う「high light」、ブリキのおもちゃの物語を描いた「doc」など、曲のカラーはそれぞれ異なるが、どれも"光"という名の希望へと手を伸ばす人間の姿を描いている。バンドの内側にポジティヴな空気が流れているからこそ、このような曲たちが揃ったのだろう。結成から約4年間、決して平坦ではなかった歩みを経た現在。"これからも光に向かって進むんだ"という想いと聴き手を共に連れて行く決意を託した5枚目のミニ・アルバムだ。
-
YOASOBI
THE BOOK 2
Ayaseのコンポーザーとしての活躍や、ikuraが既発曲の英語バージョンでヴォーカル表現のレンジの広さを認識させるなど、昨年の驚くべき登場からさらにポテンシャルを広げたYOASOBIが約1年ぶりにEPをドロップ。2ndフェーズの第1弾「怪物」のダーク・サイドと救いを膨大な情報量で行き来するスリル、ハイパー・ラテン歌謡の今日的解釈と呼べそうな「大正浪漫」、ミドリーズの合唱によって、より全世代に自然にアプローチする「ツバメ」など、今年を思い返したとき、リスナーそれぞれのマイ・テーマ・ソングになるほどポピュラーな楽曲揃い。さらに舞台のみで解禁されていた未配信楽曲「もしも命が描けたら」のラテン、レゲエをJ-POPに落とし込んだ複雑なアレンジとメロディは無二の個性だ。
-
YOASOBI
THE BOOK
2020年最も聴かれた「夜に駆ける」をはじめ、配信サービスや、YouTubeで展開してきた楽曲すべてに、新曲「アンコール」や「Epilogue」と「Prologue」のインストを加え、初めてCDというパッケージに落とし込んだ本作。楽曲の解説は今さら無粋なので、EPとしての連続性の中で聴く楽しみで言うと、「Epilogue」で使われているSEやビートが、「アンコール」に繋がっていく聴感から得られる面白さ。それぞれが異なる物語をもとに書かれているにもかかわらず、リスナーにとっての"このふたり"や、"あの夜"がリンクしていくあたりもAyaseという作家の一貫性。軽くないテーマ、膨大な言葉数、しかしスッと聴けるこのメカニズムは、YOASOBIが確立したJ-POPのニュー・スタンダードなのは間違いない。
-
Yogee New Waves
to the MOON e.p.
『PARAISO』、『WAVES』、『BLUEHARLEM』の"島3部作"を経てヨギーが向かったのは月だった――というのは比喩として、表題曲に溢れるリバービーでどこか幻惑的、メジャー・コードのサイケ感は、たしかに月に向かって車を走らせるようなSFムードに満ちている。東京ニーゼロニーゼロと五輪に向け浮き足立つ東京とは別の自分の東京を生きるのだ、そんな生き様がサウンドにも歌詞にも現れる。この浮遊感、フィッシュマンズ「WALKING IN THE RHYTHM」も彷彿する。シャッフルで少し軽快になるTrack.2、再び超リバービーで響きの中に溺れてしまいそうな、ロマンチックなTrack.3など、自分が美しいと思うものを美しいと言えばいいという角舘健悟(Vo/Gt)のイズム満載。
-
Yogee New Waves
SPRING CAVE e.p.
もはや多言は無用かもしれないが、テン年代シティ・ポップという形容は単なるタグ付けに過ぎなかった。はっぴいえんどや山下達郎、サニーデイ・サービスやフィッシュマンズといった日本の70s、90sからの影響のほかにも、UKのネオアコなどのエッセンスも存分に吸収したヨギーは、現代において奇跡的な存在なのでは。メジャーからの初作となる今回は、相変わらずロマンチック。風のように自然で人間的なエモーションに溢れ、且つ他者に向ける眼差しが頼もしい。ポップ・ソングとして完成度の高い「Bluemin' Days」、愛すべき対象への瑞々しい感情を閉じ込めた「Boyish」。少々無機的でミニマルな音像にバンドが音楽作りを楽しむ様が窺える「Summer of Love (Sinking time ver.)」など、彼らの現在地を示す。
-
Yogee New Waves
CLIMAX NIGHT ep.
東京出身4人組バンドの4曲入りデビューEP。昨年6月に活動開始したばかりのようだが、2013年の"出れんの!?サマソニ!?"の最終選考に選ばれ、その際に初ライヴをおこなったというから、すでに演奏技術は他のバンドで各々鍛えられていたのだろう。今回の音源は自主制作でライヴ会場のみでリリースされソールド・アウトとなった音源で、それもうなずける印象に残る曲が並んでいる。メンバーたちの嗜好なのだろうが、曲はいずれもどこか老成している感じすら覚えるレゲエ・タッチのシティ・ポップ。乾いた音にミュートをかけたカリカリなギターがたまらない。「Baiuzensen」のようなダブ・ポップをライヴで延々とやられた日にはかなりトリップしてしまいそう。轟音ギター・ロックに疲れた耳にオススメしたい、今後の活躍が相当期待できそうなバンドだ。
-
YO LA TENGO
Stuff Like That There
2014年に結成30周年を迎えたUSインディーのレジェンド・バンド、YO LA TENGOのニュー・アルバム。今作は従来のメンバー3人に加え、初期メンバーのひとりであるDave Schrammが参加して4人編成で制作されている。SFドラマ仕立てのMVも話題のTHE CURE「Friday I'm In Love」を始めとするカバー曲、「Deeper Into Movies」他オリジナル曲のセルフ・カバー、新曲2曲「Rickety」「Awhileaway」で構成された内容は、全体的にリラックス・ムードが漂う近年の彼らのライヴ・パフォーマンスを反映したアコースティックなもの。THE LOVIN' SPOONFUL「Butchie's Tune」、Hank Williams「I'm So Lonesome I Could Cry」といったカントリー曲のカバーが最高に心地良く、広い草原の中で寝転びながら時間を忘れて聴いていたくなる。来日公演の実現にも期待したい。
-
YO LA TENGO
Extra Painful
日本でも根強い人気を誇るUSインディー・シーンのベテラン・バンドYO LA TENGOが1993年に発売した6枚目のアルバム『Painful』のバンド結成30周年を記念したデラックス・エディション。現在は廃盤となり入手困難なオリジナル・アルバム(Disc1)に加えデモやアコースティック、ライヴ・バージョンを収録したDISC2、さらに90年代初頭のレア音源全17曲のDLクーポン付きという、まさにファン垂涎の作品となっている。静寂とノイズが交差する楽曲たちは発売当時のグランジ・ムーブメントを懐古させつつも現代の音楽シーンの先鞭をつけているようにも聴こえる。より荒々しく聴こえる「Double Dare」のデモ・バージョン等を聴くことができ、マニアックなファンにはたまらないクリスマス・プレゼントだ。
-
YO LA TENGO
Fade
2012年11月には東京で"Q&Aセッション"という貴重なライヴを行った彼ら。リクエストでもなくファンとの対話からインスピレーションを得たオリジナルやカバーを演奏するなんて、やはり3人の音楽的造詣と愛情の深さを感じずにいられない。そのライヴでも披露されていた新曲も収録した14作目のスタジオ・アルバムは、初めてTORTOISEのJohn McEntire がプロデュースを担当。そのせいばかりではないだろうが、グッド・ミュージックを独自のサイケ、ノイズ、ドリーミー・ポップへと位相を転換する構造は不変でありつつ、サウンドスケープの質が豊饒な光のかたまりのような印象に変化。US郊外都市の光と影、荒涼とした中にある温かさという彼らの魅力を損なうことなく、同時に実験も行った新鮮な1枚。
-
YO LA TENGO
Popular Songs
U Sインディ・シーンを牽引し続けるYO LA TENGO が、通算13 枚目となるフル・アルバム『Popular Songs』をリリースする。今作は、ネオアコ有り、THE DOORS直系のサイケ・ガレージ有り、ソウル有り、ドリーミー・ポップ有りと、相変わらずそのインスピレーションとクリエイティビティは留まることを知らない。そのどれもが「popular songs」と呼ぶにふさわしい普遍的なメロディを持つ美しい楽曲。そして、シンプルなアレンジでありながらも、豊かな膨らみを持つ音像は彼らにしか生み出せないものだ。この温もりに満ちた音の端々から滲み出る音楽への愛情と深い音楽的バックボーンこそ、彼らがこれだけ長きに渡って愛され続け、それに応え続けている原動力だ。これだけ安心して新作を待つことができるアーティストはそうそういないだろう。
-
YOLZ IN THE SKY
DESINTEGRATION
兼ねてより“ミュータント”、“カテゴライズ不能”と評されてきた彼らの音楽だが、“崩壊”と名付けられた今作では、更なる深化を見せている。インダストリアルで無機質なミニマル・人力ビートに掻き乱す様なギター・サウンド、それに甲高いハイトーン・ヴォーカル。自分としては正直抵抗を感じてしまう声質ではある…が、それにも関わらずすんなり聴けてしまうのは、永遠の様な反復運動の中、そこに突如として現れては消えていく歌声が、非日常的に―言い換えるなら聴き手を揺さぶる“異物感”として、効果的に働いているからか。声の魅力ばかり取り沙汰してしまったが、重要なのはその冷めた音楽性にある。特に、22分に渡る大作「Waver Waver」で変貌を遂げていくサウンドは一聴の価値アリ。P.I.Lを彷彿とさせるメタル・ボックス缶仕様もグッド。
-
YOLZ IN THE SKY
IONIZATION
大阪発のオルタナティヴ・ロック・バンドYOLZ INTHE SKYのセカンド・アルバム。その独自の音楽性とライヴ・パフォーマンスで関西に留まらず、各地でその名を轟かせる彼等。無機質なようで全く無機質じゃない熱を帯びた反復ビート、萩原孝信のハイテンション・ハイトーンなヴォーカル。オリジナルな音色を鳴らす轟音ギター。PANIC SMILEの吉田肇がプロデュースを手がける本作は、プリミティヴでカオティックな人力ダンス・ミュージックという仕上がり。アンダーグラウンドの匂いが充満しているが、PILLS EMPIREとともに、こういう音がさらに広いところに受け入れられていけば、さらに面白く、自由になると思う。その熱量に圧倒されながらも、気がつくとその変態的グルーヴに侵食されている自分がいる。
-
YONAKA
Don't Wait 'Til Tomorrow
この"YONAKA"という日本語のバンド名が気になって聴いてみたって方も多いのではないか。たしかに"夜中"っぽいしっとりとした暗さや澄んだ空気感が、彼らのメロディにはある。ダークでポップな要素もあるオルタナティヴ・ロックということで、QUEENS OF THE STONE AGEの影響も感じるが、ズバ抜けた歌唱力のあるTheresa Jarvisの、ジャンルにとらわれない表現力のあるヴォーカルは、今よりロックだった頃のPARAMOREのHayley Williamsを少し彷彿させる。流行り廃りのなさそうなエモくて激しいサウンドも悪くない。モデルのようなルックスのTheresaをはじめ見た目もイケてるメンバーが揃っているので、日本でもこれから人気に火がつくかも!?
-
yonawo
Yonawo House
"東京"というテーマも、初めて客演を迎え入れた意味も、聴けばひしひしと感じられる「tokyo feat. 鈴木真海子, Skaai」など、練り上げられたことが伝わってくる全11曲を収録したフル・アルバム。後半のギターからブワーっとパノラマのように視界が広がる「sunset」など、歌詞とシンクロしたアレンジも秀逸だ。生々しい響きを感じるサウンドも、野外で体感したくなった。また、"初回限定盤・映像"には、2021年12月にUSEN STUDIO COASTで開催されたライヴの映像を収録したDVDが、"初回限定盤・音源"には、「tokyo」のリミックス3曲と、「After Party」など今作に収録された楽曲のデモ4曲などが聴ける音源がついてくる。
-
yonawo
明日は当然来ないでしょ
心をチクッと刺激する印象的な作品名にも表れている通り、yonawoの荒谷翔大(Vo)は日本語の使い方が面白い。メロウでロマンチックな音にそんな詞が交じることで、聴き手の想像がかきたてられ、強く心に残る不思議な力があると思う。"空に満月/齧って 頬張る 貴方の大好物/今宵の空には食べ残しが少し"(「トキメキ」)という詞も、とても愛らしい。本作にはそんなyonawoテイストは一貫してありつつ、ひずんだエフェクトが新鮮な「rendez-vous」、繰り返すコーラスが温かな「蒲公英」、部屋の中アコギで弾き語るような「202」、「麗らか」~「close to me」のドラマチックな繋がりなど、その表情は豊かだ。彼らの多彩な魅力に憑りつかれてしまう充実の1stアルバムになった。
-
yonawo
LOBSTER
福岡発の新世代ネオ・ソウル・バンド、yonawo。川谷絵音(ゲスの極み乙女。/indigo la End etc.)にSNSで取り上げられ注目が集まった彼らの初全国流通盤が到着した。メロウなR&Bアンビエント・ミュージックでありながら、一方で「矜羯羅がる」を筆頭に物憂げで荒んだ日本語詞が耳に残るのが新鮮だ。即完の自主制作EPより「矜羯羅がる」、「ijo」、「しあわせ」をバンドで再録し、加えて、ホーンが入った、キメが心地よい人気曲「26時」、ロマンチックなサウンドの中の衝動的なフレーズがフックになる「Mademoiselle」、メジャー・デビュー配信シングル「ミルクチョコ」を収録。ライヴではまったく違うアレンジで演奏しているというので、それもぜひ体感してみたい。
-
YONA YONA WEEKENDERS
into the wind
1曲目「シラフ」からいきなり涙腺を刺激され、いい意味で驚いたYONA YONA WEEKENDERSのニューEP。タイトル通り風を吹かせ気持ちを晴らし、心を軽くしてくれる曲が勢揃いだ。とはいえリラックスさせるだけでなく、颯爽としたギター・リフやキメで腰から揺らすアップテンポなサマー・チューン「into the wind」、原田郁子(クラムボン)の無二の歌唱と磯野くんの美声、ヨナヨナサウンドが絡み合う「眠らないでよ」、複雑なリズムが癖になると共にラストの大展開など演奏力でも魅せる「よしなに」と、新境地を見せるナンバーたちも存分でわくわくさせる。初出演が決まった"フジロック"で聴いたらどれだけ気持ちいいだろうと想いを馳せながらも、もちろん日常の中で聴くのも最高なのだ。この夏を好きに楽しむお供に、絶好の名盤。
-
YONA YONA WEEKENDERS
嗜好性
"思考"のグルーヴと打ち出された先行曲「考え中」や作品名"嗜好性"など、スマートなサウンドに日本語を乗せ冒頭からユーモアを感じさせるYONA YONAのEPだが、その「考え中」は、白か黒かで物事の決断や選択を迫られ迷いがちな私たちに、考えることも悪くないなと思わせてもくれた。さらに1989年生まれの彼らの等身大の好きがパッケージされた「1989's」、シャッフル・ビート・ポップ「Ice Cream Lovers」、蔡 忠浩(bonobos)との抜群のツインVo、ぽっと明かりを灯すような優しいリズム隊、丸みのあるギターが夜を煌めかせる「夜行性」と続き、まさに今前進しようとする瞬間を描いた推進力のあるダンス・チューン「月曜のダンス」で締める。至高のグッド・ミュージックに身を任せてみてほしい。
-
YONA YONA WEEKENDERS
YONA YONA WEEKENDERS
全曲の作詞作曲を手掛ける磯野くん(Vo/Gt)を中心にもともと、それぞれにパンク系のバンドをやっていた4人が集まり結成。ノーマークの新人から注目のニューカマーに成長したYONA YONA WEEKENDERSがメジャー・レーベルからリリースする1stフル・アルバム。磯野くんの声質を生かすためにシティ・ポップ・ブームに共鳴しながら、ソウル、ファンク、ゴスペルの影響を取り入れたポップ・ソングを作り始めたところ、磯野くんをはじめ、メンバーのセンスが開花! のびしろと同時にそんなことを裏づける全10曲。ディスコ・ナンバーからバラードまで、自ら"ツマミになるグッドミュージック"と掲げる通り、主張しすぎないバンド・サウンドがすこぶる心地いい。ここからの成長も楽しみだ。
-
YOU LOVE HER COZ SHE'S DEAD
You Love Her Coz She's Dead
これはちょっと……と思わせるネクロフィリアなアーティスト名とさながらPJ Harveyの傑作『Dry』をブッ刺した様なキワモノ~なジャケ。これだけでも十分強烈なのだが、楽曲がハチャメチャでアッパー!デジタル・ハードコアが代名詞のATARI TEENAGE RIOTとチップチューンを通過した音楽性とパンキッシュなパフォーマンスで評判のCRYSTAL CASTLESを掛け合わせて、ダブステップ以降のベース・ミュージックを取り入れた音楽とでも言おうか。Elle Muerte (Vo)とプログラム担当のJay“Rocky”Deadにより6年の活動を経て届いた本作はインディ・ファンや昨今盛り上がっているブローステップ周りのファンにも受け入れられるだろう秀作。「Mud」なんかはJames Blakeも頭をよぎる。
-
YOU ME AT SIX
Suckapunch
UKを代表するロック・バンドのひとつである、YOU ME AT SIXの2年ぶり7枚目となるアルバム。前作『VI』ではポップ・ミュージックへの接近を見せていた彼らだが、今回はさらにダンス/エレクトロニック路線へと歩を進めた作品に。最新型デジタル・ロックとでも言うべきヘヴィ・サウンドを鳴らすTrack.3、四つ打ちとレイヴィーなフレーズが高揚感をもたらすTrack.5、トラップ・ビートを取り入れたTrack.11など、様々な要素が大胆に楽曲へと反映されているが、全体を貫く陰りのあるトーンや、キャッチーなメロディ、そして自在に表情を変えるJosh Franceschiのヴォーカルによって、一本筋の通ったサウンドに仕上がっている。キャリアの転換点となりそうな、挑戦的な1枚。
- 1
- 2
LIVE INFO
- 2025.01.15
- 2025.01.16
- 2025.01.17
- 2025.01.18
- 2025.01.19
- 2025.01.20
- 2025.01.21
- 2025.01.22
- 2025.01.23
FREE MAGAZINE
-
Cover Artists
ASP
Skream! 2024年09月号