並大抵ではないキャリアを歩んできたバンドのメジャー・デビュー10周年記念アルバムだが、そもそもの発端であるwowaka(Vo/Gt)という稀代の表現者の痕跡は、2024年リリースの「NOTOK」をシノダVoバージョンで収録するという方法である種決着。3人体制になった後のライヴ経験や、シノダのオルタナティヴ・ロック志向が明快になった先行シングル「ジャガーノート」を起点に、すでにライヴで披露されている「耽美歌」、イガラシ(Ba)作曲の「Quadrilat e r a l Va s e」、ハチロクの大きなグルーヴとオルタナの手触りを持つ「おやすみなさい」等に新たな傾向は顕著だ。そんななか、ゆーまお(Dr)作の打ち込みによるハウス調の「Shadowpray」がいいフックになっている。
"本質的で大衆的である"ことをコンセプトとし、"踊れるポップス"というテーマのもと制作されたAile The Shota初のアルバム。艶やかなシルキー・ヴォイスとビートの心地よさに思わず身体を揺らしたくなるTrack.1「踊りませんか?」や、ほろ苦く切ない恋模様を描き、"ねぇ 酔ったときだけ 電話しないで"というフレーズも印象的なTrack.4「さよならシティライト」、軽快なリリックと晴れやかなサウンドに背中を押されるようなTrack.6「Yumeiro」等、バラエティに富んだ全11曲が収録された。ダンス・ミュージックを軸にしながらも、シティ・ポップといったJ-POPと高い親和性を持ち、"存在がジャンル"という彼の唯一無二の音楽性を存分に感じられる。
映画"ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ"で自身が演じるキャラクターにインスパイアを受け制作されたアルバム『Harlequin』は、ジャズを基調とした楽曲を中心に、ドリーミーな心地よさが感じられるTrack.4「World On A String」、サックスが絡み異国情緒漂うTrack.7「Smile」等、ミュージカルを鑑賞しているかのようなサウンド、楽曲構成が印象的な1枚。要所に収録されたゴスペルやフォークの名曲カバーは彼女の世界観をより深く覗かせるように、作品に立体感を与えている。世界のポップ・アイコンが"道化師"となって提供したエンターテイメントは圧巻だ。陽気な雰囲気のなか、本作では異質な不穏さが同居するTrack.8「The Joker」のサビにおける唯一無二のフロウには舌を巻く。
ポストパンク、ゴシック・ロックを代表する存在として語られ、長年多くのファンに愛されてきた、THE CURE。実に16年ぶりのニュー・アルバムとなる『Songs Of A Lost World』は、心が締め付けらるような、純粋で耽美なロマンチシズムを湛えたサウンドが全編に渡り鳴り響く、感動的な作品となっている。Robert Smithのナイーヴな表情を映した歌謡曲的なヴォーカルと、重厚感のあるバンド・アンサンブルのドラマチックなアレンジも相まって切なさが加速する。"Songs Of A Lost World(失われた世界の歌)"なんて、一見陳腐に見えてしまうようなアルバムのタイトルが極めて詩的に感じられるのは、THE CUREというバンドが持つ独特の空気感によるものが大きいだろう。
UK出身のエレクトロ・ポップ・デュオ HONNEが3年ぶりのアルバムをリリース。自身の人生について歌われた本作は、彼等の持ち味であるハートフルな温かみがより色濃く反映された。パートナーとの結婚、親になることへの想い等、生活を取り巻く環境が変化したことに対して綴られた"本音"は、パーソナルでありながら我々リスナーの生活にも寄り添う、幸せな情景が描かれている。「Girl In The Orchestra」や「Imaginary」の柔らかなコーラスや跳ねるようなローズ・ピアノが、アルバム全体を明るく心地よいトーンに引き上げた、16曲49分と非常にタイトで聴きやすい1枚(※日本盤はボーナス・トラックあり)。愛らしいアニメーションや家族が出演するMVでも視覚的にハッピーな空気が感じ取れる。
往年のロック・スターたちを彷彿させるピュア・ロック・スタイルで、レトロ・ロック・ファンの好感度百万点の新世代ロックンローラー、Tuk Smith。そんな彼が率いるTUK SMITH & THE RESTLESS HEARTSにとって2作目のアルバムである『Rogue To Redemption』は、懐かしさのあるクラシック・ロックとマニア心をくすぐるハード・ロックに、Tuk Smithのルーツでもある70'sパンクの力強さ、グラム・ロックのドラマ性、パワー・ポップのキャッチーさ等が合わさった胸が弾む内容だ。絶妙にカッコ付けたリリック・センスも、1周回って新鮮で面白い。この『Rogue To Redemption』を引っ提げての初来日公演も決まり、勢いに乗るバンドの充実ぶりが窺える1作となっている。
FOSTER THE PEOPLEが約7年ぶりのアルバムをリリース。70年代ディスコやファンク、R&B、ソウルと縦横無尽にミックスされたグルーヴィなダンス・ミュージックで彩られる本作は、喜びや楽しさに焦点が当てられた、開放感のある1枚だ。ストリングスの甘美なメロディが心地よいTrack.2のレトロフューチャー感、緩やかなネオ・ソウルのTrack.4やスローモー・ディスコのTrack.8に抱く安らぎ、アルバムを締めくくる(※日本盤はボーナス・トラックあり)Track.11のシンセによる浮遊感。楽園へと向かって弾むポップネスは輝きを放つ一方、あらゆる社会不況に反抗するかのようにロックな一面も携える。アヴァンギャルドな攻撃性を"喜び"という純粋さで昇華させたアイディアに感服する。
2022年には名盤『The Invisible Band』の再現ライヴで来日し、変わらぬ人気ぶりを示したTRAVIS。10作目のアルバムは、フロントマンのFran Healy(Vo/Gt)が生活の拠点を置くロサンゼルスをタイトルに掲げた作品となった。彼が通ったNYのバーを騒々しく偲ぶTrack.2「Raze The Bar」、別れた妻に捧げるTrack.3「Live It All Again」、友人との死別を反映し生きる意味を改めて見つめ直すTrack.5「Alive」などパーソナルな内容だが、彼ららしい美しいメロディと優しくも切ないアンサンブルに昇華されたメッセージは、リスナーの心にも染み入ることだろう。ラップ調のVoを取り入れたTrack.10「L.A. Times」や、DX版のアコースティック音源も妙味がある。
北欧フィンランドから新星が登場だ。2021年に結成した5人組バンドで、イギリスやヨーロッパでのライヴが話題を呼んでいたUSがデビュー・アルバムを発表した。2000年代のガレージ・ロック・リヴァイヴァルを支えたTHE LIBERTINESのスタジオにて1日で録音された、という背景にもグッとくるが、本作で彼らが提示したのはピュアでソリッドなロックンロール。時に荒々しく、時にサイケデリックに鳴らされるギターや、タイトなリズム隊、そして"こんなに格好いい楽器だったのか"と改めて痛感させられるようなハーモニカのパフォーマンスなど、シンプルでありながら奥深さも持ち合わせた楽曲は痛快。出演が決定している"FUJI ROCK FESTIVAL '24"では大いに注目を集めそうだ。