DISC REVIEW
Overseas
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BLOODY BEACH
Bloody Beach Pirate Radio Presents
BLOODY BEACHはノルウェーのドリーム・ポップ・バンド、YOUNG DREAMSのメンバーでもあるChris Holm率いる5人組。彼らが本作にも収録されている「Bonanza」を無料配信して以来、高まる評判を追い風に遂に完成させたデビュー・アルバム。自ら"トロピデリカ"と掲げる通り、エキゾチックなメロディーを奏でる60's風のサーフ~ガレージ・ロックを軸にしたサイケデリックともレイヴともいえる作品ながら、彼らのサウンドを唯一無二のものにしているのが、ディスコ・ビートのみならず、アフロ・ビートやレゲエ・ビートも使ったリズム・コンシャスなアンサンブル。ユーフォリックであると同時にキッチュなところもあるサウンドはここ日本でも、いや、日本だからこそ歓迎されるに違いない。
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IDLEWILD
Everything Ever Written
2009年に活動を休止したスコットランドの5人組が7作目のアルバムをひっさげ、シーンに帰ってきた。90年代後半、ブリット・ポップ・ブーム終焉後のUKシーンに突如現れた"遅れてきた"ハードコア・バンドはその後、作品を重ねるごとに成熟を遂げてきた。現在の彼らは自分たちの音楽がシーンのトレンドになることはないとしっかり自覚したうえで、だからこそ本当にやりたいことができるんだという信念の下、音楽に取り組んでいるようだ。70年代臭ぷんぷんのブルース・ロック・ナンバーでスタートするこのアルバムもオルタナ世代らしい距離の取り方でさまざまなルーツ・ミュージックを咀嚼しながら、胸を焦がす歌が作品全体を貫いているという意味では、まさにIDLEWILDらしいといえる聴きごたえあるものに。
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ECHO LAKE
Era
デビュー・アルバム『Wild Peace』で注目を集めた、ロンドンのシューゲイズ/ドリーム・ポップ・バンド、ECHO LAKEが3年間の沈黙を破り遂に2ndアルバムをリリース。制作に2年もの歳月をかけ、レコーディングには初めて正式なスタジオを使用した。全7曲とはいえ計45分、半分以上が6分超え(Track.7は10分超え)。ゆるやかに音の渦の中へと引きずり込んでゆく。シューゲイズの内向感をLinda Jarvisのヴォーカルとキーボードによるドリーム・ポップの要素が中和させ、その抽象的な世界はまさしく夢の中のよう。だが時折耳に飛び込むギター・フレーズには肌を刺す寒さのようなリアリティがあり、心地よさだけではない音像で我々を翻弄する。これが毒か蜜かはわからない。だが、ただただこの音に身を任せたい。
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Taylor Locke
Time Stands Still
元ROONEYのギター&ヴォーカル、Taylor Lockeの1stソロ・アルバム。2010年以降ROONEYの活動が休止状態になり、サイド・プロジェクトのTaylor Locke And The Roughs名義で2年間で3枚のアルバムをリリース。プロデュース業やエンジニアリング業を行いつつ、このアルバムの準備を進めてきた。もともとROONEYでも持ち前のポップ・センスを発揮していたが、このアルバムではさらに楽器それぞれの良さを活かす、温かさと一抹の切なさを匂わせるアコースティックな感触のバンド・サウンドで魅了する。アコギを爪弾く音は間近でその音を鳴らされているかのごとく鮮明で、音の響き方の細部までポリシーが貫かれているのがわかる。流行に左右されない音楽の普遍的な魅力を感じていただきたい。
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THE SMASHING PUMPKINS
Monuments To An Elegy
"ティア・ガーデン・バイ・カレイドスコープ"という大きな括りの連作の2枚目にあたる本作。"哀歌の記念碑"を意味するタイトルはスマパンという存在を今、Billy Corgan(Vo)のひとりプロジェクトになってなお、バンドのメランコリックでエモーショナルな核心を美しく閉じる儀式のようにも思える。が、2007年以降加入したギターのJeff Schroeder、そして意外にもドラムはTommy Lee(MOTLEY CRUE!)という、互いに激しさと優雅さを併せ持つミュージシャンの個性を活かしたサウンド・プロダクションはシンプルで、無駄な厚みがない。その代わりに心象の色をさすのはシンセやピアノ。そのせいで重くなりがちなテーマをポップに聴かせている。それにしてもBillyの少年性さえ携えた歌の不変に驚く。
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CARL BARÂT AND THE JACKALS
Let It Reign
THE LIBERTINESのフロントマンのひとり、Carl Baratが新たに組んだバンド、THE JACKALSとリリースする1stアルバム。2作目のソロ・アルバムを作り始めたが、ひとりでの作業に疑問を感じて、Facebookでメンバーを募ったそうだ。しゃがれ声にJoe Strummerの面影が浮かぶオープニングからロックンロールを基調としながらギター、ベース、ドラムという基本編成にとらわれない多彩な曲が並ぶ。アコースティック・ギターの弾き語りにストリングスを加えた曲がある一方で、掛け声風のコーラスで盛り上げるストレートなパンク・ロックもある。ソロ・アルバムのアイディアを、巧みにバンド・サウンドに落とし込んだ結果なのだろう。今後はTHE LIBERTINESと掛け持ちするそうだ。ちょっとドキドキしながら活動を見守りたい。
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Olly Murs
Never Been Better
Michael Jackson風の「Did You Miss Me?」で始まるイギリスのポップ・シンガーによる2年ぶりの新作。ブルーアイド・ソウルを現代風にアップデートした路線を踏襲しながら、フォーク、レゲエと曲調の幅を広げた挑戦からはメイン・ストリームで勝負しているポップ・シンガーならではの矜持と"どんな曲でも歌いこなしてみせる"という自信が窺える。GYM CLASS HEROESのTravie McCoy他、客演および作家陣も華やかだが、何と言っても注目はソウルフルなロック・ナンバーの「Let Me In」を提供したUKロックの重鎮、Paul Wellerの存在。そして、日本盤のみYoko Onoが英語の歌詞を書いた「上を向いて歩こう」のカバー「Look At The Sky」を収録。そんな顔ぶれの豪華さも稀代のポップ・スターならでは。
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BELLE AND SEBASTIAN
Girls In Peacetime Want To Dance
2月に行われるHostess Club Weekender出演が決定したグラスゴーの至宝BELLE AND SEBASTIANのニュー・アルバムが日本先行でリリース。オリジナルのアルバムとしては『Write About Love』以来の作品となる。うっとりと酔いしれ、また力強いアンセムとして心に深く刺さって、揺さぶっていくメロディ、歌、歌の物語を豊かに押し広げていくサウンドで、どっぷりとその世界に浸らせてくれる。そして、自分が見えているようで見てはいなかったものや、漠とした思いといったものにストーリーをもたらす。示唆に富んだその内容に、郷愁感や心強さと同じくらい感情的な痛みがぶり返すことも多いけれど、改めて青くも深みあるベルセバならではの上質なポップ・ミュージックが詰まっていて、時を忘れてしまう。
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SLEATER-KINNEY
No Cities To Love
"Lollapalooza 2006"でのライヴをもって活動を休止していたSLEATER-KINNEY。Corin TuckerはTHE CORIN TUCKER BAND名義でアルバムを発表、Carrie BrownsteinとJanet WeissはWILD FLAGを結成、さらにJanetはQUASIのドラマーとしても活躍するなど、おのおのの活動を経てリリースされる新作だけに、10年前とはまったく違うスタイルになっているのでは?と思ったが、突き抜けるような高揚感は相変わらず。変化といえば、ベースレスのスカスカしたサウンドに、どこか哀愁が漂うようになった。90年代半ば、闘争的な"ライオット・ガール"だった彼女たちは今、ブルージーなロックをかき鳴らしている。
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LOWLY
Coal
NannaとSoffieのふたりによる幻想的なヴォーカルと、やわらかなノイズを活かしたシンセとギター・サウンドとが溶け合って、桃源郷の音楽として響きわたる。変則的なドラム・ビートを活かした「Daydreamers」や、ノイジーなギターやムーグ、リヴァーブのかかったビートで不思議な世界が描かれた「Stones In The Water」など、キャッチーなサウンドの輪郭がある曲もいいが、実験音楽的な空間にヴォーカルをのせた曲や神聖な空気をまとった曲も美しい。デンマークの王立音大で結成された男女5人組による本EPは日本オリジナル企画盤。海外ではBjorkやAsgeirが所属するUKのONE LITTLE INDIANRECORDS内のレーベルWin-Win Recordsと契約しシングルを発表したところなので、これからこの美しい万華鏡的音世界がどう広がるのか楽しみ。
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THE VICKERS
Ghosts
2006年にイタリアで結成された4人組、THE VICKERS。これまでは、THE STROKESやTHE LIBERTINESらに通じるソリッドなロックンロールを鳴らしていた彼らであったが、3作目となる今作で大胆な路線変更。Track.1「She's Lost」から60年代直系のサイケデリック・サウンドが爆発する。いったい彼らに何が起こったのだろうか。調べてみると、2012年11月にTHE BEATLESの「SheSaid She Said」のカバー音源を本国イタリアでリリースしていた。彼らのメロディ・センスとグルーヴ感は一朝一夕のものではなく、サイケデリックなサウンド・アプローチも決して付け焼刃のようなものではない。バンドの地力とセンスが光る1枚だ。
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THE TING TINGS
Super Critical
200万枚を超える1stアルバム『We Started Nothing』の大ヒットを足がかりにマンチェスターのパーティー・シーンから世界に飛び出してきた男女デュオが前作から2年ぶりにリリースした3作目のアルバム。前作は1stアルバムのポスト・パンク/ニュー・ウェイヴ路線から一気に幅を広げた挑戦が印象的だったが、今回はそこから再び方向性を絞って、昔懐かしいディスコ・サウンドにアプローチ。なんでもアルバムを作っていたイビザ島のクラブでEDMばかり耳にした反動だそうだ。「Wrong Club」のPVからは70年代のディスコへの憧れが窺えるが、元DURAN DURANのギタリスト、Andy Taylorが曲作りとプロデュースで参加しているせいか、どこか80年代風にも聴こえ、そんなところがTHE TING TINGSらしいと思わせる。
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KNIFE PARTY
Abandon Ship
PENDULUMの中心メンバー、Rob SwireとGareth McGrillenが新たにスタートさせたユニット、KNIFE PARTY。これまでデジタル配信のみのリリースだった彼らがついにリリースしたデビュー・アルバム。テクノとダンス・ミュージックとロックを融合させ、ここ日本でも大歓迎されたPENDULUMの音楽性を受け継ぎながら、よりハウス/ダブステップに接近した印象。いわゆる歌もののTrack.10 「Superstar」他、EDMにもアプローチしながら、「EDM Trend Machine」なんて皮肉っぽいタイトルをつけてしまうところが彼ららしいというか何というか。そんなところも含め、持ち前のエッジィな感覚はまだまだ健在。無期限活動休止中のPENDULUMの不在を埋める存在として、彼らもまた歓迎されるに違いない。
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SUPERFOOD
Don't Say That
絶妙にダンサブルなギター・ロック・サウンドとうっすらと漂うサイケデリック・ムード。彼らが紹介されるとき、使われるブリット・ポップよりもむしろHAPPY MONDAYSを始めとする80年代のマンチェスター・バンドを思い出した。PEACE、SWIM DEEPを輩出したバーミンガムから現れたUKロック期待の新人、待望のデビュー・アルバム。曲によってはぎくしゃくとしてしまう演奏は90年代オルタナ譲り。このバンドならではと言える個性はまだまだこれからだが、奇をてらわず、シンプルにいい曲を作っていきたいというタイプのバンドなのだろう。憂いを含んだメロディが印象的な曲作りの根底にはTHE BEATLESにまで遡れるブリティッシュ・ロックの伝統がしっかりと息づいている。長い目で成長を見守りたい。
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YO LA TENGO
Extra Painful
日本でも根強い人気を誇るUSインディー・シーンのベテラン・バンドYO LA TENGOが1993年に発売した6枚目のアルバム『Painful』のバンド結成30周年を記念したデラックス・エディション。現在は廃盤となり入手困難なオリジナル・アルバム(Disc1)に加えデモやアコースティック、ライヴ・バージョンを収録したDISC2、さらに90年代初頭のレア音源全17曲のDLクーポン付きという、まさにファン垂涎の作品となっている。静寂とノイズが交差する楽曲たちは発売当時のグランジ・ムーブメントを懐古させつつも現代の音楽シーンの先鞭をつけているようにも聴こえる。より荒々しく聴こえる「Double Dare」のデモ・バージョン等を聴くことができ、マニアックなファンにはたまらないクリスマス・プレゼントだ。
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ARCA
Xen
プロデューサーとしてKanye WestやFKA TWIGSの曲を手掛け、自主リリースしたミックス・テープ『&&&&&』で何者!?とエレクトロ・ファンの心をざわめかせた、ARCA。ベネズエラ出身で現在はロンドンを拠点とする24歳、Alejandro GhersiによるARCAがMUTEよりデビュー・アルバム『Xen』をリリース。ベースには、『&&&&&』での抽象的で、インダストリアル風のひんやりとした感覚がある。一方で、眠っていた記憶を掘り返された後味もある。うっとりと触れたくなる美しさと、居心地の悪さが同時に襲ってくる、その得も言われない感覚は何かともう1度この音世界に分け入っていく。そんな"今の何?"という音の奇妙な影にとりつかれてしまう。どこか"見るなのタブー"にも似た、解き明かしたら2度と味わえない何かを持った音楽。
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NOVEMBERDECEMBER
From The Swing, Into The Deep
デンマーク出身の5人組インディー・フォーク・バンド、NOVEMBERDECEMBER。OH MY!を見出した "Rimeout Recordings"からリリースされる期待の新人は、名前の通り、1年の終わりにさしかかるどこか物悲しくノスタルジックな時節を音楽にしたような趣きがあるバンドだ。フォーキーなサウンドや重厚なコーラス・ワークなどはFLEET FOXESやARCADE FIREに通じる部分があるが、土臭さがなく洗練され、凛としてひたすらロマンチックであるのはさすが北欧といったところだろうか。個人的には休日の夕方に夕日をぼんやり眺めながら聴きたい作品だ。MEWを輩出し、最近ではICEAGEなどの登場で活気づくデンマークの音楽シーンから、これからも目が離せない。
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GHOST TOWN
The After Party
EDM×スクリーモと謳われるハリウッドの4人組、GHOST TOWNによる2作目のアルバム。EDMとはいえ、そこはFueled By Ramen所属のバンド。エレクトロニックなサウンドやダンス・ビートとともにパーティ感覚(ホラー風味を考えれば、ハロウィン・パーティか)を前面に押し出しながら、歌そのものからはFALL OUT BOY以降のR&Bの影響も窺えるし、バラードも含め、じっくりと聴かせる曲もこのタイプのバンドにしてはちょっと多めかもしれない。ピコリーモ以降の、いわゆるアゲアゲのサウンドを期待しすぎると、スクリームの度合いも含め、やや物足りないかも。そこが評価の分かれ目か。しかし、あくまでも歌で勝負するバンドという意味ではやはりFueled By Ramenらしい。
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V.A.
Kitsuné Maison 16 Sweet Sixteen Issue
エレクトロ系中心の仏レーベル、Kitsunéの名物コンピ『Kitsuné Maison』の最新版。筆者にとってKitsunéといえばニューレイヴ。今から7年ほど前、KLAXONSやDIGITALISMらを中心としたニューレイヴ・ムーヴメントが巻き起こったとき、Kitsunéは世界で最も重要なレーベルだった。嗅覚の鋭い音楽好きはみんなこのコンピをチェックしていたものだ。今は時代の中心にいるわけではないけれど、着実にいいものを届けるレーベルとして確固たる地位を築いている。今作は収録アーティストが全体的にしっとりと静謐な世界観を持っていて、"アガる"だけじゃない豊潤な時間を堪能できる。個人的にはJAWSとNIMMO AND THE GAUNTLETTSという2組の英バンドがツボ。
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ANDREW MCMAHON IN THE WILDERNESS
Andrew McMahon In The Wilderness
SOMETHING CORPORATEやJACK'S MANNEQUINの中心人物Andrew McMahon(Vo/pf)によるソロ・プロジェクトANDREW MCMAHON IN THE WILDERNESSの1stアルバムは彼の半生を振り返った自伝的作品だ。難病の克服、結婚、そして愛娘セシリアの誕生、これらのトピックが色濃く反映された本作は力強い生のエネルギーに満ち溢れ、"生きるということ"を高らかに歌い上げるAndrewの歌声は美しく胸を打つ。またアルバムの制作は実生活と切り離すためにカリフォルニア州にある山小屋で行われたため、内容はより深みのあるパーソナルなものとなった。立ち止まってしまった人に対してポンっと背中を押してくれる慎み深い優しさがこの作品には詰まっている。
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