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DISC REVIEW

Overseas

Lazaretto

Jack White

Lazaretto

ジャズ、ブルース、R&B、フォーク、カントリーといったアメリカの大衆音楽をネタに思いっきり楽しんでいるという意味では全米No.1になった前作と同路線と言えよう。しかし、2年2ヶ月ぶりとなるソロ第2弾は、より自由に楽しんでいるという印象。Jack流のラップやレゲエのリズムの導入など、さらなるアイディアの閃きも感じられる。ソロ・アーティストとして自覚が芽生えたことも大きいようだ。THE WHITE STRIPESの影は、ほとんど感じられない。前作発表後、ツアーを共にしてきたメンバーとライヴ・レコーディングを行い、その後、時間をかけて編集し、曲を練り上げたそうだ。ルーツに根ざしながら、決して型にはまらないブロークンな表現は、何が飛び出すかわからない面白さでいっぱいだ。

Ghost Stories

COLDPLAY

Ghost Stories

私はこのアルバムを、あえてCOLDPLAYの"復活作"と呼びたい。Brian Enoをプロデューサーに迎えた前々作『美しき生命』と前作『Mylo Xyloto』で見せた、実験的な音作りとスケールのデカいポップネスを融合させたスタジアム・ロックも、もちろんCOLDPLAYにしか作り得ない世界ではあった。が、あの2作において、音の実験性――とりわけビートに対する探究心と、とにかく壮大さを求めていくドラマティックなメロディの過剰さは、本来のCOLDPLAY最大の魅力である、生活の片隅にこそ小さな幸せを見出すような繊細なロマンティシズムを、その音楽から消し去ってしまっていた。しかし本作にはそれがある。このアルバムを覆うのは、メロウで静謐な、まるで私たちの日々にそっと寄り添うかのような孤独で優しげな音世界。こんなCOLDPLAYが聴きたかった。

Parade In Picture Perfect

THE LIGHT ASSEMBLY

Parade In Picture Perfect

デジタル・シングルがロンドンのインディー・シーンで話題を呼び、THE HEARTBREAKSが所属するレーベルがその才能に惚れ込んだという4ピース・バンドのデビュー・アルバムが、本国イギリスよりも大先行で日本リリース。今日はSWIM DEEPやTHE 1975などの若手の台頭が目立つUKロック・シーン。THE LIGHT ASSEMBLYの楽曲群もその流れに位置するブリット・ポップ的なテイストが光る。リフレインするフレーズと人懐こいメロディがキュートで甘美だ。それに加え、THE CUREを彷彿させる内省的なセンシティヴさ、ネオアコ風のアプローチ、力強いビートにダンスの要素......と自身が感銘を受けた音楽のニュアンスを多分に取り込み、遊び心溢れるポップ・ソングへと昇華している。

Are We There

Sharon Van Etten

Are We There

ねっとりした歌声で歌うメランコリックな歌の数々に充満する息が詰まるような緊張感を考えると、誰が聴いても楽しめる作品ではない。しかし、その存在感は圧倒的。いや、この4作目のアルバムでさらにスケール・アップしていると言ってもいい。USインディーのミューズと謳われるブルックリン出身の女性シンガー・ソングライター。ざっくりとした質感のサウンドを求めながら、アンビエント調からピアノの弾き語りまで、曲ごとに趣向を変える多彩なアレンジが作品全体に作りだした起伏のある流れもスケール・アップを印象づける理由の1つだろう。ゆったりとしたグルーヴを描きながらバンドがダイナミックな演奏を繰り広げるTrack.3「Your Love Is Killing Me」は、往年のPatti Smithを彷彿とさせる。

The Moon Rang Like A Bell

HUNDRED WATERS

The Moon Rang Like A Bell

これはポスト・ダブステップ、フォークトロニカのアーティストとしては久々の、狭義のファン層を超えてリスナーを獲得しうる作品かもしれない。PitchforkでBEST NEW TRACKを獲得した「Down From The Rafters」はハルモニウムの不穏な響きや、エレクトロ版協会音楽的なダークな側面を映していてむしろ本作では異色。他の曲では生ピアノのダイナミズムが活かされた「Murmurs」、ヴォイス・パフォーマンス的なNicole Miglisの歌声も開かれた印象の「Out Alee」、「[Animal]」「Xtalk」などはリズミックでもあるし、なんと言ってもクリーンでクリアなサウンド・プロダクションはアップデートされたポップスと呼んでもおかしくないほど。なるほどSKRILLEXのレーベル"OWSLA"が契約するわけだ。

il abanico

SALT CATHEDRAL

il abanico

レーベル契約前にNorthside FestivalやSXSWなどに出演し注目を集め、日本にて世界初流通となるデビューEPを昨年12月にリリースした、NYはブルックリンで活動するSALT CATHEDRAL。6月末からregaとの東名阪ツアーが決定している彼女たちが、初来日を記念してバンド初期のレア音源を急遽リリース。エレクトロニカ的なサウンドが際立つデビューEPに比べこの初期音源はインディー・ロック色が色濃く、そこに絡む南米の民族音楽的なリズムが肉体的に聴き手を突き動かす。透明感のあるソフトなJulianaのヴォーカルもその音に触発されるように感情的で、彼女たちの初期衝動を堪能できる。ちなみにアルバム・タイトルはバークリー大学での結成時のバンド名とのこと。

La Petite Mort

JAMES

La Petite Mort

6年の活動休止を経て、2007年に復活してからも精力的に活動を続けている6人組、JAMESによる11作目のアルバム。U2、THE SMITHSに続くバンドとして、90年代に一時代を築いた彼らだが、ここではその頃を彷彿とさせるニュー・ウェイヴ風味のロック・サウンドを基本路線としながらアコースティック・ナンバーからストリングスやホーンも使ったチェンバー・ポップまで、多彩な楽曲作りに挑んでいる。中でも彼らなりに現在のトレンドにアプローチしたとも言えるエレポップ・ナンバーは復活後の活動が決して懐古的なものではないことをアピールするものだ。もっとも、不世出のヴォーカリスト、Tim Boothが歌えば、どんな曲でもJAMES印になるのだろう。朗々と歌い上げるBoothの歌声が実に心地いい。

Range Of Light

S. Carey

Range Of Light

Justin Vernon率いるアメリカのフォーク・ロック・バンド、BON IVERでDrとVoを担当しているS.CareyことSean Careyの4年振りとなるフル・アルバム。19世紀の"自然と人間との共生"を説いたナチュラリストの草分け的存在John Muirから取られたアルバム・タイトルが示す通り、楽曲の隅々にまで風通しの良い空気感が漂っている。弦が入った「Crown The Pines」やピアノを中心にした「Alpenglow」など、穏やかな旋律に寄りそう美しい楽器の演奏、呟くようなヴォーカルに心癒される。深夜に聴きたくなる1人用ラウンジ・ミュージック的な楽曲は轟音のライヴ帰り等、耳がお疲れの時におすすめ。

Candy For The Clowns

NINE BLACK ALPS

Candy For The Clowns

UKロックの異端児と呼ばれたデビューから早11年、新ベーシストのKarl Astburyと共にゼロから作り上げたこの5thアルバムは、前作『Sirens』に続いてセルフ・プロデュースの力作となった。"人形"や"道化師"をモチーフにしたアートワークおよび歌詞も興味深いが、DINOSAUR JR.やNIRVANA、そしてHOLEといった米オルタナ・バンドからの影響が、かつてなくダイレクトに反映されたサウンドにも注目。NBAの初期衝動を思わせるファズ・ギターと、フロントマンSam Forrestの壮絶なシャウトの応酬には否が応でも血がたぎる。本国では相変わらずシーンから孤立無援の状態だが、近年のグランジ再評価と上手くハマれば再ブレイクも期待できるのでは?

Only Run

CLAP YOUR HANDS SAY YEAH

Only Run

セルフ・ネームのデビュー・アルバムで痛快なポジティヴティを発揮したCYHSYがなんと結成10周年!光陰矢のごとしとはこのことか......。今作は1st同様、リード・シンガー・ソングライターのAlec Ounsworthがレコーディング以前に大半の楽曲を完成。まさに彼の個のアイデアと脳みそを具体に落とし込んだような凄まじい自由度だ。人力ダブステップにAlecのあのヨレヨレなのにどこまでも伸びやかな声が乗るオープニング・ナンバーから既に、エレクトロ以降の時代のSSW、2014年のBob DylanやLou Reedのような替えの効かないSSWとしての存在感が際立っている。ミックスはDave Fridmann。細分化するUSインディーの中で特定のクラスタに収まりきれない個性と普遍性を備えた快作だ。

Indie Cindy

PIXIES

Indie Cindy

奇跡の再結成から実に10年。Black Francis(Vo/Gt)率いるボストンの4人組、PIXIESが前作から23年ぶりとなる新作をついにリリース!NIRVANA、WEEZER、そして日本のNUMBER GIRLら、数えきれないほど多くのバンドに影響を与え、90年代オルタナ・ロックを決定づけたロック界のレジェンド。もちろん、90年代とそっくり同じというわけにはいかないが、それでも激情を迸らせながら追求する轟音、歪み、軋みとポップの融合はPIXIES以外の何物でもない。再結成後、世界中をツアーし続けていただけあって演奏の切れ味も抜群だ。Paz Lenchantin(Ba/Vo)を含むラインナップでSUMMER SONIC出演も決定。名前は知っているけどという若い読者もこの機会に、ぜひ!伝説として語るには早すぎる。

Hour Of The Dawn

LA SERA

Hour Of The Dawn

今年、惜しくも解散してしまった2000年代後半のUSインディー・シーンを代表するガールズ・バンド、VIVIAN GIRLS。そのベーシストだったKaty Goodmanのソロ・ユニット、LA SERAの3rdアルバム。僕は取材で1度本人に会ったことがあるが、その凛とした美貌、そして何より"わたし、あんたに興味ないわ"というのをあまりにストレートに態度で表現してしまうそのクール・ビューティっぷりに、思わず"踏まれたい"と心の中で呟いたものである。本作はそんな彼女の才色兼備な魅力が過去最高に詰まった作品で、持ち前の60年代ポップス的メロディアスなソングライティングは更に磨き上げられ、それと同時に今までになかったヘヴィでハード・エッジなロック・チューンも目立つ。もはや"インディー・クイーン"の称号すら小さく見える傑作だ。

Aurora

Ben Frost

Aurora

ここまでミニマムでクールな音のレイヤーで生々しい緊迫感を表現するインストゥルメンタリストもそうそう存在しないのではないか。再評価著しいSWANSの前作「The Seer」への参加や、Brian Enoからの依頼で映画"惑星ソラリス"に触発されたエクスペリメンタル・ミュージックを制作、またBjorkの「Desire Constellation」のリミックスなどでも知られる彼。MVも好評な「Flex」は感覚としては映画"ゼロ・グラヴィディ"劇伴の静かに迫り来る危機感を音楽へ昇華した感覚に近いが、この人の場合、どこか精神性としてインダストリアルやシューゲイズといったロックを宿している気がしてならない。中盤の1分半の暴力的なまでの轟音トラック「Secant」以外などは特に。恐怖と快楽は紙一重的な体感。

Nikki Nack

TUNE-YARDS

Nikki Nack

この春はARCADE FIREのオープニング・アクトとしてUSツアーに帯同した、tUnE-yArDsことMerrill Garbus。カリフォルニアを拠点に活動をする彼女の面白さは、アーティスティックで実験性に富んだハイブリッドなサウンドを、カラフルで、子どもたちをもワクワクさせるようなリズミカルでハッピーな音楽へと昇華してしまうこと。トライバルなビートや、隙間のたっぷりとあるサウンド、多重性のあるコーラスを巧みに組み合わせながら、ダンサブルなハレのサウンドを生みだし、また変則ビートやポリリズムでチルアウトさせる。楽器は最小限、リズム、ビートのバリエーションで、これほど色のある世界が描けるものかと気づかされる。MVなどで窺える彼女のファンキーなキャラクター、そしてパワフルな歌もビートをポップに彩っている。

Arcadia

RAMONA LISA

Arcadia

NYはブルックリンのシンセ・ポップ・デュオCHAIRLIFTのヴォーカリスト、Caroline Polachekによるソロ名義=Ramona Lisaの1stアルバム。タイトルに関せられた"アルカディア"とは古代ギリシャから伝わる牧歌的な理想郷を意味するが、本作『Arcadia』は、まさにそんな理想郷=アルカディアを夢想させるに相応しい1枚だ。都会的なポップネスを持っているCHAIRLIFTとは異なり、Carolineの艶やかで幽玄なヴォーカル・ハーモニーと牧歌的なメロディ、そしてそこに何重にもレイヤーをかけた白昼夢のようなアレンジは、聴き手を"ここではないどこか"へと誘うような非現実味を帯びている。アルバム全体に流れるエレクトロニック・ビートは、まるで洞窟の奥深くへと案内する不穏な足音のようだ。このくだらない現実から一時離れるにはうってつけの甘美な作品。

Pick-Up, Lift-Off, Space, Time

ELECTRIC EYE

Pick-Up, Lift-Off, Space, Time

こいつはぶっ飛ぶ!ノルウェーはベルゲン出身の4ピース・バンド、ELECTRIC EYEの1stフル・アルバム。60年代サイケデリック・ロックの絡みつくようなアシッド感に、同時期のクラウト・ロックが持つ無邪気で大胆なエクスペリメンタルさ、さらに00年代以降のポスト・ロックが抱えた"意味"と"物語"を切断し虚無を暴くようなストイシズム――そんな古今東西様々な"ロックの向こう側"の音楽を昇華した、超絶ノイジーでスペーシーでハイボルテージなトリップ・ミュージック。ディープな音像を奏でるノイジーなギターの海の中にも、ブルージーな渋みとメランコリックなポップネスを強く残しているところが特にいい。もうなんとなくの逃避なんていらない。無理やりでもいいから、境界線の向こうのヤバい世界に引きずり込まれたい――そんなあなたにおススメ。

Sugar

G. LOVE & SPECIAL SAUCE

Sugar

Jack Johnson主宰レーベルでの5作目となるG.LOVEのニュー・アルバムは、バンド名義でのデビュー作から20周年を迎えることもあり、当時のメンバーであるJimmie Prescott(Ba)、Jeffrey Clemens(Dr)が再集結した原点回帰的作品。ブルースとヒップホップを大胆にシェイクしたストリート感と、粋でとんがっているけれど、どこかユル~っとした雰囲気で親しみがある音楽で90年代の空気を体現していたG.LOVE。今作はその、勢いのあるラフ・スケッチの空気感や軽やかなサウンドのミックス感を、味のあるしなやかなタッチで聴かせてくれる。Ben Harper等のゲストも迎えた、シンプルでありながら饒舌でリズミカルなセッションが心地好い。懐かしさもあるけれど、やっぱりこの遊び、ノリやグルーヴは新鮮。

Luminous

THE HORRORS

Luminous

THE NATIONALやARCTIC MONKEYSらを手掛けてきたCraig Silveyを共同プロデューサーに迎え、15ヶ月の期間を掛けて制作された、THE HORRORSの3年ぶりとなる待望の4thアルバム。今作はエレクトロニックな要素と、彼らの持ち味でもあるシューゲーズ・サウンドとを巧みに掛け合わせ、これまでの作品よりも明るくポジティヴなものに昇華させている。Track.1の冒頭ではどこかエスニックな雰囲気も醸し、静かに作品の始まりを告げる。ロンドンにてThurston Moore(SONIC YOUTH)をゲストに迎えてのライヴで初披露したことでも話題となった、7分半を超える大作「I See You」も収録されており、アルバムの中でも大きな存在感を示している。

Enclosure

John Frusciante

Enclosure

天才ギタリストがギターをシンセに持ち替え、音響も含め、新たな可能性を追求した一連のプロジェクトが遂に完結?!John自ら集大成と語る最新アルバムが登場。シンセとエキセントリックなビートの組み合わせを軸にしているという意味では『PBX Funicular Intaglio Zone』の延長と言えるものの、決定的な違いはJohnがこれまで内に秘めていたと思しき歌心を思う存分、オープンにしていることだ。00年代前半のRED HOT CHILI PEPPERSの快進撃はJohnが支えていたんだと改めて実感。ファルセットを交え、Johnが歌い上げる美しいメロディに心が洗われる。トラック・メイキングが若干いびつに感じられるのは、僕らが凡人だからだ。天才である彼の目の前にはこの世で1番美しい世界が広がっているにちがいない。

To Be Kind

SWANS

To Be Kind

Michael Gira率いるUSオルタナの真の帝王、SWANSはいま再びキャリアにおける絶頂を迎えたようだ。再結成第2弾アルバムだった前作『The Seer』は彼らの最高傑作と謳われたが、それから2年、彼らはそれを遥かに凌駕する新作を完成させてしまった。CD2枚組全9曲2時間超の大作。ツアー中のジャム・セッションを発展させ、スタジオで丹念に作り上げたという。その世界を表現する言葉はアート・パンク、アメリカーナ、ドゥーム・メタル~ドローン、ゴシックと枚挙に暇がないが、ここではアメリカに対する地下世界からの呪詛だと言ってみたい。圧巻はドローン効果を追求した34分のTrack.4「Bring The Sun」。とは言え、長尺だからすごいのではない。そこに渦巻くどす黒い情念の濃密さが重要なのだ。