DISC REVIEW
Overseas
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FOALS
Holy Fire (Deluxe Edition)
エレクトロ・ダンス・パンクの新鋭としてシーンに現れてから6年目にリリースした3作目のアルバム。アート・ロックからアリーナあるいはスタジアムで鳴ってこそ映えるビッグ・ロック・サウンドへの転身が賛否を呼んだ。メンバー自らライヴにおけるサウンドを反映させた結果と語っているように、それは自然な変化だったようだが、バンドのスケール・アップを受け入れたうえで新たな表現に挑んだところに彼ららしい気概が窺える。楽曲の振り幅が持つダイナミクスをよりはっきりと描き出すことで、本来の魅力がさらにわかりやすい形で伝わるようになった。結果、全英2位の大ヒットを記録。来日に合わせリリースされるツアー・エディションには2013年3月28日のロイヤル・アルバート・ホール公演の模様を収録したDVDがカップリングされる。
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MAXIMO PARK
Too Much Information
前作『The National Health』から2年ぶりの5thアルバムは、地元、英・ニューカッスルにてセルフ・プロデュースで制作。Gil Nortonを迎え制作されたソリッドでロック色が濃厚な前作とはまたちがった、繊細な陰影のあるギター・サウンドに仕上がっている。彼らならではの憂いあるメロディから色っぽさがにじみ出てきて、雰囲気のあるアルバム。前作でPIXIES的に鋭くタフに尖らせたポップ感を、今一度英国風に還元して、毒っぽくユーモラスなサウンドへと編み上げていて面白い。さりげなくも濃い印象を残すエレクトロや、細やかなギターのフレージングなど、空間をたっぷりと使ったアンサンブルになっているので、聴くほどに気づきのある作品だ。『The National Health』の邦盤化と4月には久々の来日公演も決定と、俄かに騒がしくなってきた。
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Olly Murs
Right Place Right Time 来日記念スペシャル・エディション
大盛況だった前回からわずか3ヶ月で実現する再来日公演に合わせ、イギリスのポップ・スター/シンガー・ソングライター、Olly Mursによる大ヒット・アルバムの来日記念スペシャル・エディションが緊急リリース。元々は2012年にリリースされ、見事、全英No.1に輝いた3作目のアルバム。今回、リリースされる来日記念スペシャル・エディションはオリジナルに3曲プラスされた日本盤に、さらに6曲を加え、全21曲を収録した日本だけの完全版。R&Bの影響を受けながらロック・サウンドやオーケストラも取り入れ、アンセミックなポップ・ソングとしてアピールする彼の魅力がたっぷりと味わえる。今まで聴きそびれていたという人はこの機会にぜひ! Bruno Mars、OWL CITY、MAROON 5のファンにもオススメだ。
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CLOUD CONTROL
Dream Cave
FOO FIGHTERSやVAMPIRE WEEKENDらのオープニング・アクトに次々と抜擢されブレイクを果たした、オーストラリア出身のロック・バンドCLOUD CONTROLがリリースする3年ぶりの2ndアルバム。良い意味で気持ち悪いチャント風のコーラスが癖になる「Scream Rave」から始まり、引きずり気味のビートに乗ったAlister Wrightの気だるい歌声が印象的な「Dojo Rising」など、冒頭から個性溢れる楽曲が続く。ニュー・ウェーヴ色が強い「Ice Age Heatwave」のサビのコーラス部分はSPARKSの「Instant Weight Loss」を彷彿とさせる。多彩な楽曲の数々も、アルバムを通して聴くとまるで一貫した1冊の物語を読み終わったかのような感覚になる。タイトル通り"夢の洞窟"の世界に飲み込まれるような作品。
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TEMPLES
Sun Structures
ここ最近、活況を呈するUKギター・ミュージック・シーンの面白いところは、出てくるバンドそれぞれがまったく異なった音楽的アプローチをしている点にある。このTEMPLESはその最たる例で、なんでこんな60~70年代のサイケデリック・ロック直系の音楽性で、しかもMarc Bolanみたいな髪型した奴のいるバンドが突然現れるのか、一昔前なら意味不明だろう。しかし、今はこれが"あり"で、最先端で、実際、このアルバムは最高だ。どっしりと力強いビート。摩訶不思議で物憂げ、だけどポップなメロディとハーモニー。エレキ・ギターのダイレクトな質感と幽玄なフォーク・テイストの混ざり具合も絶妙な、スケールのデカいサイケ・ロック。これを懐古趣味と言う人がいれば、考えを改めたほうがいい。だってこれ、凄く"今"だから。
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PROVIANT AUDIO
Drift Days & Disco Nights
LINDSTROMやPrins Thomasなどの天才を数多く排出してきたノルウェーのダンス・ミュージック・シーンに現れたニュー・スターPROVIANT AUDIO。プロデューサー/DJである21歳の天才マルチ・インストゥルメンタリストMathias Stubeを中心とした9人組ユニットがついに日本デビュー。煌びやかな80年代的ディスコ・ファンクのスタイルに、北欧ディスコ・エッセンスとフレッシュな次世代センス、さらにはジャズやヒップホップをもミックスした極上の最新型ディスコ・サウンドは目を見張るものがある。ファットでグルーヴィなビートとキャッチーでソウルフルなメロディのミックスが何ともクール。これまでディスコをあまり聴いてこなかった人も一聴の価値ありの傑作だ。
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Ásgeir
In The Silence
2012年、Bjorkも所属するONE LITTLE INDIANよりリリースしたデビュー作『Dyrd I daudathogn』は、出身のアイスランド史上最速で売れたアルバムとなり、全人口の10%が持つ売り上げを誇った、シンガー・ソングライターÁsgeir。2作目の今作は、アコースティック・ギターやピアノを基調に、エレクトロやバンド・アンサンブルで描くサウンドは、時空をたゆたう幽玄的な世界からジャングリーで奇天烈なポップ世界までと様々。柔らかなファルセットVoが、様々に散らばる世界をひとつに結んで一篇の映画を観るようなアルバムにしている。Todd Rundgrenの時間軸をねじ曲げるような音遊びや積み重ねを、テクノロジーでよりモダンにし、かつ美しくエヴァーグリーンなメロディが懐かしさをも誘う。新しくもどこかで出会っている、この感覚がいい。
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CAPITAL CITIES
In A Tidal Wave Of Mystery
2014年1月に実現する来日ツアーを記念して、CAPITAL CITIESのデビュー・アルバムがついに日本盤化された。ディスコ・ビートや80年代風のシンセ・サウンドといったどこか懐かしいエレクトロかつポップなロック・サウンドが歓迎されたロサンゼルスのデュオ。SUMMER SONIC 2013の会場をダンス・フロアーに変えた本作収録の「Safe And Sound」がグラミーのベスト・ミュージック・ビデオ部門にノミネートされ、彼らの人気はさらにもうひと盛り上がりしそうな気配。そんなタイミングでリリースされた日本盤には、映画『Iron Man 3』に提供した「One Minutes More」やBEE GEESの「Stayin' Alive」のカヴァーなど、ファンなら聴き逃せないボーナス・トラックが4曲追加されている。
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DUM DUM GIRLS
Too True
ネオ・ガレージ、シューゲイザーといったシーンにリンクしながらドリーミーかつノスタルジックなポップ・ミュージックを作ってきたロサンゼルスの女性4人組。前作から3年ぶりとなる3作目のアルバムはRAMONESやBLONDIEからRONETTESあるいはSHANGRI-LASに遡ることができるポップ・センスという意味では彼女たちらしいものながら、バラードも歌う新境地も含め、成長を洗練という形でアピールするニュー・ウェイヴ・サウンドは、バンドが転機を迎えたことを印象づける。そんな変化はファンを驚かせそうだが、彼女たちのファンならクールにハンマー・ビートを打ち鳴らす「Lost Boys And Girls Club」のかっこよさに溜飲が下がるはず。JESUS & MARY CHAINやVELVET UNDERGROUNDへの憧憬が窺える。
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DRESSES
Sun Shy
フォーク・ミュージックの影響も感じられるものの、トラディショナルに追求すると言うよりもあくまでも今の時代にふさわしいモダンなインディー・ポップとしてアピールしていこうという想いが窺える。それが今のところベストと言える形に結実したのがダンス・ビートが軽やかにハネるアルバム表題曲だ。ポートランドの男女デュオ、DRESSESのデビュー・アルバム。爽やかかつ、どこか切ないポップ・ソングはすでに本国では"幸せなラヴ・ソング" "完璧なポップ・ソング"と注目を集めている。因みにレーベルはFLOGGING MOLLYで知られるロサンゼルスの硬派インディー、SideOneDummy。レーベル・カラーを考えると、異色とも言えるリリースは、レーベルがこのデュオに寄せる大きな期待の表れと言ってもいい。
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OH MY!
Slow Moves
ハイクオリティなアーティストを輩出し続けるスウェーデンのインディー・シーンから現れたニュー・カマー、OH MY!。北欧のTHE STROKESなどとも称される彼らがついにデビュー・アルバムをリリース。PHOENIXから影響を受けたというのも納得の、スタイリッシュで洗練されたポップ・センス。キャッチーで気づけば思わず口ずさんでしまうメロディ、荒々しくもクールなロック・マインドと、スウェーデンのバンドならではのセンチメンタルで甘酸っぱいスリリングなバンド・サウンドが心を掴んで離さない。ローファイ気味なアナログの感触に懐かしさを覚えるが、どこか都会的な若々しいエネルギッシュさも感じられる。デビュー・アルバムとは信じがたいほどの完成度で、彼らの楽曲をもっと聴きたくなる。国内盤に収録されるボーナス・トラックも楽しみだ。
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KREWELLA
Get Wet
「Alive」の大ヒットをきっかけに現在、EDMシーンで注目されているシカゴのトリオ、KREWELLA待望のデビュー・アルバム。ヴォーカルを担当するJahanとYasmineのYousaf姉妹とDJ/プロデューサー、Rain Manからなる彼らはEDM系のフェスでヘッドライナーを務める人気者。ポップにハジける楽曲をアピールしつつ、ブロステップのエグさを刺激的に効かせたサウンドももちろん、グループの顔としてちょっとワルッぽい姉妹をフロントに立てた打ち出し方も彼らが歓迎された理由のひとつだろう。USダンス・チャートNo.1に加え、全米チャートでも8位に食い込む大健闘。Track.6「Dancing With The Devil」にFALL OUT BOYのPatrick StumpとBLINK-182のTravis Barkerがゲスト参加している。
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KEANE
The Best Of Keane
"心臓が止まるほど美しい"と評されたデビュー作『Hopes And Fears』から10年を経たUK発の4ピース、KEANE。作品は毎作UKチャート1位となり、日本でもこれぞUKロックたる叙情性の高い鍵盤サウンド、繊細で憂いがあり、かつ大らかでアンセム的なメロディ・ラインが人気の彼らの、初のベスト・アルバム。2枚組で、1枚はシングルや定番曲のベスト・セレクション、もう1枚は初CD化となる曲などをセレクトしている。泣きの琴線に触れるだけでなく、ブライトで高揚感のあるスケール感たっぷりのサウンドもこのバンドの真骨頂。ドラマ性の高い王道感を、正攻法で形にしてプレイするというアプローチがリスナーの裾野を広げている。この真っ直ぐな姿勢を磨いた、重厚な10年が詰まっている。
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Avicii
True
R&Bシンガー、Aloe Blaccの歌声をフィーチャーした「Wake Me Up」の大ヒットによって、EDMの範疇を越えた注目を集めているAvicii。現在24歳というスウェーデンのDJ/プロデューサーは、このデビュー・アルバムをきっかけに、より多くの、そしてさらに幅広いリスナーにアピールするに違いない。ポップな歌を聴かせるアーティストが多いEDM界において、Aviciiがここで目指したのは単にポップなだけではない、より味わい深い歌の追求。Aloe Blaccの他、Audra Mae、Dan Tyminskiといったルーツ・ミュージック界隈のヴォーカリストの起用からも彼の狙いは明らかだろう。これがEDMの最進化系か?いや、ここでは敢えて現代のソウル・ミュージックと紹介してみたい。
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HOCKEY
Wyeth Is
ソリッドでダンサブルなサウンドを展開したデビュー・アルバム『Mind Chaos』で、THE STOROKESやTHE KOOKSと比較されるなど大注目のHOCKEYによる、4年ぶりのニュー・アルバム。2010年にメンバーが2人になったことでスケール・ダウンするかと思いきや、アルバムの冒頭「Wild Style」から、研ぎ澄まされたギター・ロック・サウンドが心地良く、むしろ自由度が増している。Track.4の「Dancer」は、ヴォーカルBenのソウルフルな歌声と遠くまで響き渡るようなドラムが印象的で、大ホールでのライヴにトリップしたような感覚に陥る。前作『Mind Chaos』同様さまざまなジャンルの音楽を駆使した多彩さはそのままに、落ち着いて丸くなり幅広い世代に聴きやすくなったのではないだろうか。
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ACTIVE CHILD
Rapor Ep
LA出身のPat Grossiのソロ・プロジェクト、ACTIVE CHILDによる2011年のデビュー・アルバム以来となる新作。収録された6曲は全て彼の自宅スタジオで書き下ろされたものとのことだ。Rihannaのヒット・シングル「Stay」にフィーチャーされたことで有名なアメリカのシンガー・ソングライターでありプロデューサーのMikky Ekkoをフィーチャーした「Subtle」を筆頭に、チルウェイブやシンセ・ポップの域に収まりきらないディープな音像を構築。Ellie Gouldingをゲストに招いた「Silhouette」ではEllieと中性的なPatのヴォーカルによるコーラス・ワークと、徐々にスケールを増す音色に恍惚とした。ドリーミーななかに漂う毒気がひやりと心地よい。
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Neko Case
The Worse Things Get,The Harder I Fight, The harder I Fight, The More I Love You
USオルタナ・フォーク・カントリー・シーンきっての歌姫、約4年ぶりのニュー・アルバム。CALEXICOやLOS LOBOS、MUDHONEYや、自身のバンドNEW PORNOGRAPHERSら、ミュージシャンは前作までとほぼ変わりないようだが、Bill Frisellとの仕事で知られるエンジニア、Tucker Martinのセンスが冴えている。革命家のような凛とした側面と少女性を併せ持つNekoの声が前面に出た曲が並ぶ中でも、オーガニックとエレクトロが融合した「Calling Cards」や、透徹した孤独感が漂う「Afraid」、MUMFORD & SONS的なトラディショナルと今のUSインディーが合体したような「City Swans」など、今年のセンスでもって、オルタナ・カントリーの解像度を上げ立体的にした作品と言えそう。
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GO CHIC
We Ain't Home
FUJI ROCK FESTIVAL '10のROOKIE A GO-GOや、SUMMER SONIC 2013のMIDNIGHT SONICへの出演を果たした台湾発のエレクトロ・ポップ・バンドGO CHICの初となるフル・アルバム。ひたすらファットなリズム・マシンとシンセの音色、ディストーション・ギターが隙間なく空間を埋めるダンス・チューン満載のアルバム。聴き進むうちに繁華街のゲームセンターにいるような気分になるのは良いのか悪いのか。とにかくちょっと下世話なくらいの夜遊び感は、彼女たちの音楽に惚れ込んだエレクトロ・ポップの女帝PEACHESのプロデュースのなせる技とも言える。CSSをもっとケバケバしくしたような印象で、彼女たちのフォロワーといえなくもない存在感を示す作品。
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THE FLAMING LIPS
The Terror
ストレートに"恐れ"とタイトルされた全編シームレスに続くひとつの詩のような、ひとつの曲のようなアルバムだ。恐怖から逃れることはできるのか?愛するほどに傷つくのか?でも結局、自分の手に負えないものからの支配と破壊の欲求によって人は跳躍できるのではないか。そんな自問に似た真摯な歌が、静かな熱気を湛えたバンド・アンサンブルとエレクトロが感覚を増幅させるサウンドとともに淡々と紡がれていく。コラージュ/ミュージック・コンクレート的な手法も、ノイズ・ギターも必要とあらば同じ俎上に乗せつつ、決して過剰にならないサウンドスケープは、聴感上はロック的ではないけれど、このエモーションはインストのカット・アップでは決して味わえないTHE FLAMING LIPSというバンド作品の強みだ。
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SALT CATHEDRAL
Salt Cathedral
レゲエ・ビートが軽やかな「Move Along」で幕を開けるSALT CATHEDRALのデビューEP。コロンビア出身の女性シンガー、Juliana Ronderosを擁するブルックリンの5人組は、すでに海外では話題の存在だという。フォークロアあるいはエキゾチシズムのニュー・ウェイヴ的な解釈とでも言えそうな音楽性は、同郷のDIRTY PROJECTORSや、さらに遡ってTALKING HEADSからの系譜を思わせるが、単にフォロワーとは言えない個性を印象づけているのがJulianaのハイトーン・ヴォイスだ。その奔放なヴォーカルは、早くもカリスマをアピール。リズムを執拗に刻みつづけるギターを軸とした緊張感あふれる演奏とともにヒプノティックな空間にリスナーを誘いこむ。全5曲収録。もっと聴きたい!
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