DISC REVIEW
Overseas
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DIRTY PROJECTORS
Lamp Lit Prose
メンバーとの別離で失意の色が濃かったセルフ・タイトルの前作から一転、Dave Longstreth(Vo/Gt)、および現在を生き抜く再生のパワーを実感させる新作。音数を少なく、印象的なサウンドで構築するサウンド・プロダクションはこれまでの手法を踏襲しつつ、今作の鍵はギター、ホーン、そしてDaveの優しくもアップリフティングな声だ。Syd Tha Kyd(THE INTERNET)の声も印象的な、ウォームなソウルがオーガニックに響く「Right Now」、FLEET FOXESのRobin Pecknold、元VAMPIRE WEEKENDのRostam Batmanglijが参加し、3声のテノールが醸し出すハーモニーが緊張を解く「You're The One」など、光に満ち溢れた仕上がりに。丁寧な音の構築がその明るさに真実味を添え、深い感銘を受ける。
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NINE INCH NAILS
Bad Witch
3部作の第1弾EP『Not The Actual Events』ではネガティヴな感情との格闘を、第2弾EP『Add Violence』ではノイジーでヴァイオレントな作風に時代を超えたある種のキャッチーさ、ロックのヤバい匂いを表出させてきたTrent Reznor(Vo/Electronics/Gt)。この最終作が今作だ。怜悧でノイジーでヘヴィという初期NINがもたらしたカタルシスに通じる「Shit Mirror」、人力ドラムンベースとエディットで挟まれるシャウトが不穏そのものな「Ahead Of Ourselves」、サックスとシロフォンが断片的に鳴っているのが不気味な「God Break Down The Door」、インダストリアルとSF的なエレメントが融合した「Over And Out」。怒りと虚無感から90年代的なヘヴィさを除いたような音像が妙にリアルだ。
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PEACE
Kindness Is The New Rock And Roll
イギリスの4人組ロック・バンド PEACEが、アメリカに渡って、ウッドストックにある森に囲まれたスタジオでレコーディングした3rdアルバム。ソウル・ミュージックやゴスペルの影響を絶妙のさじ加減で取り入れたことで、UKギター・ロック然とした前2作とは違うバンド像を打ち出している。ちょっと後期のTHE BEATLESを思わせるところもある。プロデューサーは米英でNo.1になったTHE LUMINEERSの『Cleopatra』を手掛け、プロデューサーとして名を上げたシンガー・ソングライター、Simone Felice。サウンド面もさることながら、スピリチュアルな面で彼が与えた影響は大きかったようだ。"慈愛こそが新しいロックンロール"というSimoneらしいメッセージは、バンドと彼の魂の交歓の賜物だ。
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MAYDAY PARADE
Sunnyland
2000年代を代表するエモ・バンドのひとつ、MAYDAY PARADEのニュー・アルバムは、長年所属していたFearless Recordsを離れ、この春に契約が発表されたRise Recordsからのリリースとなる。これまでコンスタントに作品を発表してきた彼らの集大成とも言えるような今作は、王道エモの美しいメロディはもちろん、アップテンポなポップ・パンク、切ないアコースティック・バラードなど、バンドの持ち味が余すところなく発揮された充実の内容に仕上がった。また、Howard BensonやJohn Feldmann(GOLDFINGER/Vo/Gt)といった大物プロデューサーともタッグを組んでいるのも納得な重厚感のあるサウンドで、激しい曲としっとりした曲の振れ幅の広い作品を、ダイナミックにまとめ上げている。
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GANG GANG DANCE
Kazuashita
ANIMAL COLLECTIVEやLCD SOUNDSYSTEMら先鋭的なアーティストを生んだ00年代NYの傑出した音楽集団が7年の沈黙を破り新作をリリース。エイリアンが登場しそうなオーバーチュアに始まり、エレクトロとシューゲイズ・サウンドがエキゾチックに融合したアルバムでもハイライトとなる「J-TREE」や、どこか東洋的な神秘性を感じる「Lotus」など、エッジーなのに深い癒しも感じる楽曲が揃う。巫女的なLizzi Bougatsosの生身の人間離れしたヴォーカルも、その効果を増幅する。気楽に忘我の境地に浸るのもいいだろう。なお10月にはDEERHUNTERとともにレーベル"4AD"のオムニバス・ライヴ"Revue"での来日も決定しており、音楽とアートが溶け合うエクスペリメントな空間に期待したい。
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5 SECONDS OF SUMMER
Youngblood
ポップ・パンクをルーツに持ちながらひとつの型にハマらないオーストラリアの4人組ロック・バンドが、前2作の成功をステップに、いよいよ持ち前のポップ志向を露にしながらその可能性を追求し始めた。ONE DIRECTIONのヒット曲を手掛けたCarl FalkとRami Yacoubのコンビをはじめ、多くのプロデューサー、ソングライターとコラボした全19曲(※うち3曲は日本盤ボーナス・トラック)は、現在のポップ・シーンのトレンドを集めたと言えるものに。ギター・ロックにとらわれない大胆な挑戦が、彼らのミュージシャンシップの高さを物語っていると思う一方で、ジレンマに感じるバンドとしてのアイデンティティの在り処を問うことは、楽曲単位で音楽を楽しむ今の時代、もはや古いものなのだろう。
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THIRTY SECONDS TO MARS
America
近年、バンドの顔のJared Leto(Vo/Gt)が映画"ブレードランナー2049"など、俳優として知名度をさらに上げているなか、バンドとして約5年ぶりのニュー・アルバム。「Walk On Water」のOPから、力強く打ち鳴らされるリズムと民衆の声の如きコーラスが聴き手を鼓舞する。現行のUSシーンの常道となっている他ジャンルのクリエイターとのコラボも、R&Bとロックの融合ではなく、EDM人気の中心人物 ZEDDと共作したエレクトロニックでセンシュアルな「Dangerous Night Produced By ZEDD」、ラッパーのA$AP ROCKYをフィーチャーした「One Track Mind Feat. A$AP ROCKY」、新世代SSWのHALSEYを迎えた「Love Is Madness Feat. HALSEY」など、今のアメリカを実直に表現していて芯がある。
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CHVRCHES
Love Is Dead
"FUJI ROCK FESTIVAL '18"に出演する英グラスゴーのエレポップ・トリオによる2年8ヶ月ぶりの3rdアルバム。R&Bやヒップホップに頼らず、自分たちのエレポップ・サウンドを貫いているところが、とにかく痛快にして、爽快。3人の迷いのなさは、ポップな曲調とは裏腹に切れ味鋭い演奏と紅一点シンガー、Lauren Mayberryの、どこまでも伸びていくようなヴォーカルにもしっかりと表れている。曲ごとに緩急をつけた全16曲。どの曲にもキャッチーなフックが効いているのは、プロデューサーに迎えた現代のポップ・マエストロ、Greg Kurstinとの共同作業によるところも大きいのだろう。"これまでで最もポップな作品"とLaurenは言っているが、まさにそのとおりの作品になっている。
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SNOW PATROL
Wildness
もはやUKロックの正統派と言える英グラスゴーの5人組が『Greatest Hits』(2013年)を挟んで、前作『Fallen Empires』から約6年半ぶりにリリースした7thアルバム。大きな聴きどころはふたつ。まずは、ほぼ全曲で力強いリズムとともにアコースティック・ギターを軽やかに鳴らしたバンド・アンサンブル。シンセやストリングスといった装飾も使いながら、結果、バンドが持つ骨っぽさをアピールしている。そして、もうひとつはピアノ・バラードの「What If This Is All The Love You Ever Get?」に顕著なR&Bの影響だ。中でも、モダンなR&Bをバンド・サウンドで表現したような「A Youth Written In Fire」は、そんなアプローチの大きな成果と言ってもいい。結成から25年目で、バンドはまだまだ前進し続けている。
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HOOBASTANK
Push Pull
何をHOOBASTANKらしさと考えるかで評価が変わりそうな8作目のアルバム。しかしもともと、いわゆるラウドロックの範疇に収まり切らない表現を追求してきたバンドだ。ファルセットを交えたDoug Robb(Vo)の歌唱も含め、今回のR&Bおよびファンク・サウンドの導入もその延長と考えれば、全然不思議なことではない。懐かしいTEARS FOR FEARSの「Head Over Heels」のカバーを含む前半は、80年代のファンク・サウンドがインスピレーションになっているんじゃないか。歪ませたギターの音が足りないというファンには後半がオススメ。R&Bの影響が色濃い楽曲にヘヴィなリフを巧みに組み合わせることで、哀愁のHOOBASTANK節は新境地と言えるアンサンブルをものにしている。
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ASH
Islands
復活をアピールした『Kablammo!』からおよそ3年。北アイルランドの3人組が新作をリリース。多彩な楽曲が集大成を思わせた前作から一転、今回は、まずグランジ世代のパワー・ポップ/ギター・ポップ・バンドの矜持を印象づけたうえで、ダンス・ビート、ハード・ロッキンないなたいリフ、THE BEACH BOYS風のハーモニーを交え、抜群のアレンジ・センスを見せつける。「Incoming Waves」はピアノとアコースティック・ギターのシンプルなアンサンブルから壮大に展開するドリーム・ポップ・ナンバーだ。直球のパワー・ポップ・チューン「Buzzkill」では、同郷の大先輩であるTHE UNDERTONESのメンバーが客演するという、パワー・ポップ・ファンには嬉しいサプライズも。
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SIMIAN MOBILE DISCO
Murmurations
ソリッドなニュアンスもアンビエントな作風も打ち出してきたSMDが、デビューから10年の節目の先に提示した本作。エレクトロ・アーティストがデジタル・クワイアなど、人間の声のレイヤーに意識的なのは昨今の潮流だが、SMDは今作の軸に、イギリスのハックニーを拠点に活動する女性ヴォーカル・コレクティヴのDEEP THROAT CHOIRを起用。シンセのような女性の合唱、いや、逆に合唱がヒントでシンセが発明されたのでは? という、根源的な問いがリスナーの心の内に発生しそうな、先鋭的と原初的が対立しない音像。ともあれムクドリの大群の集団行動にヒントを得たというタイトルよろしく、動物の行動や自然現象にも似たクワイアと必要最低限のエレクトロが溶け合う新しい音楽体験に身を委ねてほしい。
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Jack White
Boarding House Reach
Jack Whiteの新たな覚醒をアピールする3作目のソロ・アルバム。BeyoncéやA TRIBE CALLED QUESTとの共演がその前兆だったのか、大胆にヒップホップ、ファンク、ジャズに接近。そのうえでゴスペル、ジプシー・ジャズ、フォーク、クラウト・ロックといった多彩な要素を散りばめ、これまでで一番自由に楽曲を作り上げている。それでもJack Whiteという個性がこれっぽっちもブレないのは、アルバム全体をブルースとLED ZEPPELIN愛が貫いているからだろう。ジャム・セッション風のフリーキーな楽曲が大半を占めるなか、ラウンジ風のピアノ・バラードにアレンジしたドヴォルザークの「Humoresque」でラストを締めくくり、味わい深い歌の魅力を印象づける。
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THE VACCINES
Combat Sports
前作のリリース後に脱退したPete Robertson(Dr)に替わってYoann Intontiが 加入、さらに前作のツアー・メンバーだったキーボーディストのTimothy Lanhamも加入し、5人の新体制となったTHE VACCINES。そんな彼らがリリースする約3年ぶ りの新作は、まさに原点回帰と言えるような、シンプルなギター・サウンドと、荒々し いガレージ・ロックを全面に押し出した痛快なアルバムだ。THE VACCINESの魅力は、30年前の若者が聴いてもなんの違和感もなくクールだと言うだろうし、おそらく 30年後の若者が聴いてもクールだと言うに違いない、そのタイムレスなキャッチーさだろう。今作には、そんな彼らの魅力と、色褪せないギター・ロックの未来が存分に詰まっている。
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BLOSSOMS
Cool Like You
マンチェスター出身で、Gallagher兄弟の双方と親交もある彼ら。2016年のデビュー・アルバム以来となる2ndアルバムは、先行配信された「I Can't Stand It」にも顕著な、80sを想起させるシンセ・サウンドがかなり前面に押し出された楽曲が並ぶ。が、そこはUSのシンセ・ポップやドリーム・ポップと少々違う彼らの個性で、良く言えばスケールが大きく、悪く言えば、シンセの使い方がかなりベタ。それでもイギリスのバンドらしいマイナー・キーとメジャー・キーが1曲で行き来する自然さや、メロディの美しさ、あどけなさとエモーショナルな力強さを兼ね備えたTom Ogden(Vo)の表現力が、ある種の平板さを忘れさせる牽引力を持っている。楽器主体のアレンジでパワーのあるTrack.8、9はバンド感があり、いいフックに。
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MANIC STREET PREACHERS
Resistance Is Futile
『Everything Must Go』の20周年アニバーサリー・ツアーで一昨年来日を果たしたMANIC STREET PREACHERS。結成32年目を迎えたベテランはこれからどこに向かうのか?という懸念は杞憂だった。「International Blue」の着想は芸術家Yves Kleinが"宇宙の神秘を表現する青"として自分だけの青を作ったことと、地中海の青色が繋がったことで生まれた曲。また「Dylan & Caitlin」は詩人のDylan Marlais Thomas夫妻の陶酔的な関係がインスピレーション源だという。さすが英国バンドの知の巨人。混沌と醜悪さに満ちた世界に対抗するには、深い思考とポップなアウトプットのバランスこそが大事なんだと言われているような心強いアルバム。ギター・バンドである必然、今も新鮮な動機。心揺さぶる快作だ。
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DMA’S
For Now
"OASISの再来"と謳われたオーストラリアの3ピースが、デビュー・アルバムから約2年、成長を遂げて帰ってきた。ブリットポップを基礎とした方向性はそのままに、セルフ・プロデュースであった前作とは趣向を変えて、今作では、同郷のエレクトロニック・デュオ、THE PRESETSのKim Moyes(Dr/Key)を共同プロデューサーに迎えている。そのため、コンパクトで親密感のあるサウンドだった前作と比べると、シンセを取り入れるなどして音の厚みも増し、さらに打ち込みのリズムも取り入れたことで、音楽性の広がりを見せているのだ。それだけでなく、Tommy O'Dell(Vo)の哀愁漂うヴォーカルも表現力がアップし、それぞれの楽曲に自然に溶け込み、気持ち良く聴くことができる。
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CABBAGE
Nihilistic Glamour Shots
むせかえるような不穏な空気にシビれる。2015年の結成以来、ポリティカルなバンドとして注目を集めてきたマンチェスターの5人組が、ALT-J、BLOC PARTYらを擁するInfectiousからついにデビュー・アルバムをリリース。アジテーションっぽいナレーションから始まるTrack.1「Preach To TheConverted」から、いきなり気分は70年代後半~80年代前半のイギリスに! ポスト・パンクはポスト・パンクでも、いまどきMAGAZINEやNick Caveを思い起こさせるバンドも珍しい。中にはTHE CRAMPSっぽいダークなガレージ・ナンバーも! UKシーンをリードする存在になるかどうかはわからない。それよりもマニアに愛されるカルト・バンドとして生き残ってほしい。いかにもなジャケもかっこいい。
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TEENAGE WRIST
Chrome Neon Jesus
近年のEpitaph Recordsは派手さはないものの、若手、ベテラン共に渋めの実力派の作品を揃えている印象だ。そんな中でも、要チェックなのがこの3ピース・オルタナティヴ・ロック・バンド、TEENAGE WRIST。今作がデビュー作だが、その迫力あるサウンドと、どこか浮世離れした浮遊感のあるメロディは聴いていて病みつきになる。ハードコアの下地を感じさせるゴリっとしたベースに、ノイジーな轟音ギター。そこに柔らかなコーラスが伴うサウンドは、90年代エモやポスト・ロック、オルタナ好きにはたまらないはず。ひとつひとつの丁寧な音作りにも好感が持てる。Track.1に、なぜか日本語の台詞のようなものが入っているんだけど、日本語にゆかりがあるなら来日の期待もできるかな?
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STONE TEMPLE PILOTS
Stone Temple Pilots(2018)
90年代のグランジ・ブームに乗り、デビュー時から大ヒットを飛ばした彼らは周囲の目を気にせずに快進撃を続けた。しかし、そんな彼らも10年代に再結成を遂げ、Scott Weiland解雇により、LINKIN PARKのChester Benningtonを迎えて5曲入りEPを発表するなど、紆余曲折の道のりを辿る。そして、ご存知のとおりScottとChesterの両名はすでにこの世にいない。それでもバンドは不撓不屈の精神で、前作に続き2度目のセルフ・タイトルを冠した新作を完成。新たにJeff Gutt(Vo)を招き、「Meadow」を筆頭に腰の据わった芯の太いサウンドとキャッチーな歌メロが見事に共存している。また、グルーヴィなオルタナ・ロックを爆発させた「Roll Me Under」と充実の楽曲群で復活の狼煙を上げている。
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