DISC REVIEW
Overseas
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ANDREW W.K.
You're Not Alone
ご存じ"永遠のパーティー・キング"ANDREW W.K.兄貴が、実に12年ぶりとなる待望のフル・アルバム『You're Not Alone』をリリース。"音楽こそが生きがい"と熱い想いを高らかに歌うアンセム「Music Is Worth Living For」や、"法もキリストもなんもわからねぇけど大丈夫!"と叫ぶ「I Don't Know Anything」など、キャッチーなメロディとどこか懐かしいロック・サウンドは健在。美麗なハーモニーの「Give Up On You」、タイトル・トラック「You're Not Alone」ではアーティスティックな側面も存分に発揮。作品の根幹を成す、パーティーを原動力に人生の苦難に立ち向かう"パーティー哲学"とでも言うべきポジティヴなメッセージからは、きっと得るものがあるはずだ。
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THE WOMBATS
Beautiful People Will Ruin Your Life
前作『Glitterbug』が全世界で2億回以上デジタル・ストリーミングされた、まさに現代のオルタナ・ポップの標準をゆく3人組が3年ぶりのアルバムをリリース。リバプール出身だが、今はロンドン、LA、オスロと遠距離活動する彼らだからこその、随所に顔を出す英国的な鬱屈感や陰のあるメロディは健在。現代風解釈のマンチェ・ビートと言えそうなTrack.1「Cheetah Tongue」のグルーヴ、ディレイがかかったギターとシンセが空間を広げるシンセ・ポップ・ロックの「Turn」、往年のBLURを思わせる捻れたアレンジの「Black Flamingo」もフックが効いているし、THE STROKESのようなクールでシンプルな「Ice Cream」といったナンバーも。この聴き疲れしない感じがまさに今のポップ感。
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FRANZ FERDINAND
Always Ascending
英国紳士的なシニシズムとユーモア、00年代初期のダンス・ロックを象徴するFFによる約4年半ぶりのアルバム。タイトル・チューンが先行配信され、白昼夢的なサウンドスケープと微妙な90年代のテクノ/ハウス的なビートの融合に驚かされたが、バンドが"過去のFRANZは忘れてほしい"というほど別物になったわけじゃないことがアルバムで明確になった。というのも基本にはミニマムなポスト・パンク的なビートがどの曲にも存在し、そこにエキゾティシズムを掛け合わせた「Lazy Boy」、エコーがかかったサイケデリックなオルガンが特徴的な「Finally」など、上モノにはエレクトロを通過した浮遊感やサイケ感がある。派手に踊らせるアルバムではないが、英国ならではの陰とオペラ風な物語性は健在なのだ。
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MARMOZETS
Knowing What You Know Now
UK発の5人組オルタナティヴ・ロック・バンドの2014年にリリースしたデビュー作『The Weird And Wonderful Marmozets』以来2年半ぶりとなる2ndアルバム。2015年に初来日して話題となっていただけに待望のアルバムだ。「Meant To Be」、「Major System Error」など、ノイジーでドライヴ感満点のはみ出しまくりのサウンドと、とにもかくにも紅一点ヴォーカル Becca Macintyreの存在感がすごい。特に揺らぎのある音像と、あどけないような歌声で淡々と進む「Insomnia」は出色の出来。シンフォニックに盛り上がりつつノイズで破壊する様は、いつ発狂するかわからない病んだ少女の脳内を見せられているようで、その世界にどっぷり浸ることができる。危うさのあるバンドが好きな方にはたまらない作品だろう。
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NO AGE
Snares Like A Haircu
ロサンゼルスのノイズ・ロック・デュオ NO AGEの、2013年『An Object』以来約4年半ぶりとなる5枚目のスタジオ・アルバム。序盤の「Cruise Control」、「Stuck In The Changer」、「Drippy」といった楽曲は豪快に突っ走るパワフルなもの。このあたりが日本の音楽にはない"オルタナティヴ・ロックなんだけど爽快感があり、だけどなんとなく陰気"という、USインディー・ロックの特徴を表している。タイトル曲「Snares Like A Haircut」や、「Third Grade Rave」といったインストもいい。後半になるにつれてどんどん脳を揺らすようなサイケでノイジーな曲が増え、くぐもった音像がリスナーをさらにサウンドの沼に引きずり込んでいく。個性的なジャケットのアートワークも最高にカッコいい。
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BLACK REBEL MOTORCYCLE CLUB
Wrong Creatures
先行配信されていた中でも珍しくアッパーでマンチェ・ビートを思わせるグルーヴ・チューン「Little Thing Gone Wild」が新鮮だが、5年ぶりの新作でも漆黒のロックンロールは健在だ。だが、ノイジーなギターとリズム・セクションが醸す重量感と、ディレイが醸す浮遊感が同時に存在しており、どこか白日夢めいたナンバーが多いのは、作品のテーマによるものなのかも。THE VELVET UNDERGROUNDにエレクトロな要素を加味したような不思議な酩酊感のある「Echo」で、いったん開かれた印象になりつつ、ラストでは錆びた遊具のようなSEが滅んだあとの世界を想起させたりと、"間違った生き物は、我々人間なのか?"と思わせる、彼らならではのサイケなディストピアが味わえる"らしい"アルバムだ。
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STARCRAWLER
Starcrawler
ギター・バンド、ロック・バンド、ロックンロールが日本以上に存在価値を失っているような今のアメリカに、印象的なアンプの歪みだけで鳴っているようなリフでノック・アウトするティーンズ・バンドの登場は刺激的だ。時代は違うがTHE STOOGES、RAMONES、THE STROKESなど第一声でまず"カッコいい"が出てくる類のバンドに共通する存在感。Ozzy Osbourne好きというヴォーカルのArrow De Wildeは流行りのラップ・ミュージックなどには目もくれず、まるで70年代の"男性"ロック・スターのような佇まいでアンニュイ且つ幼さを残す歌を聴かせる。スタンダードすぎて誰もやらないことを、若さという危うい魅力でねじ伏せるのも才能。3月には早くもジャパン・ツアーが決定している。
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THE XX
Remixes
"FUJI ROCK FESTIVAL '17"では、会場の雰囲気と彼らのキャリアとのケミストリーもあって、ベスト・アクトに挙げる人も多かったTHE XX。2月の単独来日公演を前に、メンバー自らが監修した日本のファン向けのリミックス集だ。Jamie xxが手掛けた「Reconsider」のどこまでも静謐な、エレクトロなのにむしろ現代においては自然に限りなく感覚のアンビエンス。ベース・ミュージック寄りの「Sunset」など、いずれも今時のスタンダードと呼べそうなサウンド・デザインだ。ミニマルでありつつふたりの声を大事にした、FOUR TETらしいリミックスの「VCR」、ビート使いが独特なPEARSON SOUNDによる「Fiction」などを経てJamie xxが再構築した名曲「On Hold」までの時間すべてが至福。
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Björk
Utopia
Björkは今作について英国の新聞"The Guardian"紙で、自身が考えるユートピアとは"環境破壊の末に生まれた、新たな生命に満ち溢れた島なのかもしれない"と語っており、ジャケットなどのアート・ワークに関してはその言説も腑に落ちる。アーティスト写真も示唆しているように、素朴な笛から、オーケストラでのフルートのアンサンブル、鳥の鳴き声のようなSEなど、声に近い呼吸から生まれる音が印象的だ。今回もトラック・メイキングのほとんどを手掛けたARCAのサウンドは、人間の肉体の躍動や軋轢を音やビートに変換してるようで、そのアブストラクトな質感とヴァーチャルな自然の質感が融合したサウンド・デザインは幸福なだけではない。聴感は明るいがBjörkが描く未来は一筋縄でいかない。
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GREEN DAY
Greatest Hits: God's Favorite Band
インディーズ時代も含めGREEN DAYの代表曲を網羅したベスト盤。2001年にリリースした『International Superhits!』と収録曲のダブりがあるとはいえ、彼らの第2の黄金時代を作った『American Idiot』(2004年)以降の活動もフォロー。『American Idiot』リリース時に間に合わなかった若いファンが彼らの軌跡を知るには便利な全22曲。『Revolution Radio』(2016年)収録のアコースティック・ナンバー「Ordinary World」は再録バージョンで収録し、2014年のグラミー賞の授賞式でBillie Joe Armstrong(Vo/Gt)とデュエットした人気カントリー・シンガー、Miranda Lambertとの再共演が実現。最後に加えられた新曲「Back In The USA」は、これぞGREEN DAYと言えるポップ・パンク・ナンバーだ。
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MAROON 5
Red Pill Blues
エレクトロニックなファンク、バンドで構築するモダンなR&Bを軸とするMAROON 5が、ここ数年USでドラスティックに音楽シーンのトップを奪取したという事実に欠かせなかったもの、それは間違いなくラップ・ミュージックだ。2016年にリリースしたKendrick Lamarをフィーチャリングした「Don't Wanna Know」での驚きと、それを飲み込んででも彼らのサウンドとして確立できるのか? という疑問を、今となっては抱く余地はないだろう。音数を絞り込み、今のビートでトラックを構築したうえでMAROON 5らしさが滲み出るのは、Adam Levineのスムーズでエモーショナルなヴォーカルの強さとバンドらしいグルーヴがあるからに違いない。親しみやすい形でジャンルやカテゴリを横断した快作。
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THE MOVIELIFE
Cities In Search Of A Heart
2014年に再結成したニューヨーク州ロング・アイランド出身のメロディック・ハードコア・バンドが前作『Forty Hour Train Back To Penn』以来、14年ぶりとなる新作をリリース。1曲目こそ疾走感がカッコいいメロコア・ナンバーだが、ぐっとテンポを落として、リフで聴かせる2曲目以降は、例えばWEEZERを連想させるパワー・ポップや、ストリングスをフィーチャーしたアコースティック・ナンバーなど、メロコアに留まらない曲の数々でアプローチし、再結成後もバンドが進化を続けていることをアピール。終盤、再びメロコアを畳み掛け、"おぉっ"と思わせたあと、ラストを飾るのがゴス味もあるバラードというところに単なる懐古を拒否するバンドの心意気を感じ取りたい。
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LOST HORIZONS
Ojalá
ex-COCTEAU TWINSのマルチ・インストゥルメンタリスト Simon RaymondeがTHE JESUS AND MARY CHAINでの活動でも知られるドラマー Richard Thomasと結成した新バンドのデビュー・アルバム。Simonのセンスは自身で設立したレーベルからBEACH HOUSEやVERONICA FALLSを輩出したことで知られるところ。本作ではSimonの弾くピアノとタイトなリズム隊によるクリアな音像が意外だが、清潔さとアンニュイさ、儚さと強さを兼ね備えた複数の女性ヴォーカルのディレクションはさすがだ。男性ではex-MIDLAKEのTim Smithがひとりでハーモニーを歌う曲の構造が美しく、Lou Reedに似たGHOSTPOETの歌もいい。寒さの中で灯火を見るような希望的作品。
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CHAPEL
Sunday Brunch
ダブステップの影響や厚いシンセが今っぽいと思わせるところもあるが、全7曲に共通する80年代調のエレポップ・サウンドを聴き、懐かしいと思った筆者は、彼らが掲げる"We play music our parents like."というステートメントを知って、思わず絶句してしまった。R&Bにもアプローチする異色のメタルコア・バンド、ISSUESのTyler Carter(Vo)がマネジメントするCHAPELは、それぞれNIGHTMARES、FAVORITE WEAPONなるメタルコア・バンドの元メンバーだった男性Voと女性Drからなるふたり組。なるほど、出自は隠せないものなのか、R&Bを歌うにはこのヴォーカルは、ややストレートすぎるきらいがあるものの、その熱い歌声がこのデュオの存在をユニークなものにしている。
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THE FRONT BOTTOMS
Going Grey
エモ・ポップ・パンク系のバンドが多く所属するレーベル"Fueled By Ramen"からリリースされる、ニュージャージー州出身のふたり組インディー・ロック・バンドの新作。『Back On Top』(2015年)以来4作目となる本作は、オープニングを飾る「You Used To Say (Holy Fuck)」、「Bae」、「Vacation Town」など、ほどよいスカスカ感のあるバンドの演奏とBrian Sella(Vo/Gt)の決して上手くはないが味のある歌声になんだかホッとする。シングル・カットもされている「Raining」は、BPMは速いものの聴いているうちにちょっとのんびりした牧歌的な気分に。効果的に使われているシンセの音も心地よく、ラストの「Ocean」のちょっと感動的な締めに、まんまとリピートしたくなってしまった。
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NOEL GALLAGHER'S HIGH FLYING BIRDS
Who Built The Moon?
ダイナミックなホーンが印象的なウォール・オブ・サウンドで高らかに歌う1stシングル「Holy Mountain」からも伝わる、大きなエナジーに満ちた、これまでとは一線を画す3作目。映画"オーシャンズ"シリーズやPRIMAL SCREAMの『Xtrmntr』などで知られるプロデューサー David Holmesと組んだことが効果を生み、エレクトロの攻撃性とロックンロールにより起きた化学反応が、とてつもなくビッグなサウンドに結実。その音の壁に負けず、かつてないパワフルなヴォーカルで曲そのものを牽引するNoelに、初めて聴く衝撃と共に信頼感が湧き起こる。地元マンチェスターでのテロは彼に憎悪ではなく毅然と前を向かせる作品を作らせたのかもしれない。齢50にして再びキャリアのピークを刻む傑作。
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WEEZER
Pacific Daydream
WEEZERが作った小粋なポップ・アルバム、そんな印象の11作目。前作『Weezer(White Album)』は、現在のメインストリームにおけるポップ・ソング作りのマナーを意識した作品だったが、今回は多分にインディー風。そこを小粋という言葉で表現してみたい。デビューから20余年でさらにひと皮剥けた印象を与えることは、現在進行形のアーティストとしては称賛に値するものだ。特に、前作で急接近したR&Bの影響を消化したうえで、レゲエやディスコ・ビートをさりげなく取り入れたリズム・アプローチはさすがのひと言。ただし、ファンがそういう変化を求めているかどうかはまた別の問題。少なくとも歪ませたギターをギャーンと鳴らして、泣きを含んだポップ・メロディを歌うWEEZERはここにはもういない。
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ST. VINCENT
Masseduction
女性を全面に打ち出しながら、同時に強烈過ぎて笑ってしまうし、アートにすら見えるジャケットが示唆しているとおり、この5枚目のアルバムでアヴァンギャルドとポップの境界線を完全に溶かしてしまった。タイトル・チューンは、女の子の声による日本語の"政権の腐敗!"というリフレインから始まり、ストリングスも入ったいわゆるビッグ・ソングと内面的な印象のミニマルなパートを行き来するし、ピアノがSSW的なニュアンスの「New York」、その曲のモチーフの一部でもあるDavid Bowieの面影は、「Pills」でのロック然としたハードさとファンキーさを兼ね備え、今の彼女が示すポップ・スター像へ焦点を結ぶ。価値観が多様化する時代にあってもあらゆるリスナーに新しさを感じさせる稀有な作品。
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BECK
Colors
3年半ぶりの新作は、グラミー賞の3部門を受賞した『Morning Phase』から一転、売れっ子プロデューサー、Greg Kurstinとともに完成させた極上のポップ・アルバム。いわゆるブルー・アイド・ソウルを、80'sっぽいきらびやかなシンセで飾り、現代的なグルーヴでバウンシーに聴かせるサウンドは、まさにモダン・ポップ職人Kurstinと組んだ成果。Bruno Marsとはまた違った形で、最新のポップスの在り方を提示することに挑んだ1枚と言ってみたい。しかし、それだけで終わらないのがBECK。ガレージ・ロックっぽいギターが鳴る「I'm So Free」、ブギウギ・ピアノが跳ねるTHE BEATLES風ポップ・ナンバー「DearLife」、ヒップホップの「Wow」といった変化球を加え、BECK印をしっかり刻み込む。
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KITTY, DAISY & LEWIS
Superscope
ソウル、ブルース、ロックンロールといったルーツ・ミュージックを卓越したセンスで現代のポップ・ロックへと昇華するロンドン出身3兄弟の2年ぶりの新作。冒頭の「You're So Fine」から気怠く"いなたい"サウンドに惹きつけられる。軽妙な「Black Van」や3拍子のバラード「Love Me So」、疾走するロックンロール「Down OnMy Knees」など、曲の構造は単純でオーセンティックだが、古びたものに感じないのは、彼らが自分の血となり肉となっているサウンドを流行り廃り関係なく生み出しているからだろう。曲ごとに男女交互で歌うヴォーカルも楽しい。ハモンド・オルガンの音色もクールなインスト・ファンク・チューン「Broccoli Tempura」で締める、最高のダンス・ミュージック・アルバム。
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