DISC REVIEW
Overseas
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THE HORRORS
V
THE HORRORSから3年ぶりの新作が到着。プロデューサーにAdeleやCOLDPLAYも手掛けるPaul Epworthを迎えたことで、独特な耽美的なメロウネスもNINE INCHNAILS的なインダストリアルなテイストも内にこもらず、大きなパースペクティヴで鳴っているのが新鮮。エレクトロニック且つ激しい先行トラック「Machine」もあれば、ギターのクリーン・トーンのカッティングがアーバン・ミュージックの要素も感じさせる「Press Enter To Exit」、スタジアムも似合いそうなドラマチックな「It's A Good Life」など、多彩だがメロディの良さとFaris Badwan(Vo)のクールな色気のある声ですべてに芯が通る。BOOMBOOM SATELLITESやD.A.N.、THE NOVEMBERS好きにもオススメしたい作品。
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MUTEMATH
Play Dead
ドラマーのDarren Kingが脱退を発表しているMUTEMATHの5作目のスタジオ・アルバム。前作『Vitals』では煌びやかでダンサブルなインディー・ロックに傾倒していたが、今作はこれまでの自分たちのアルバムを振り返り、各アルバムの魅力的な部分を取り入れて制作したという。シンセやコーラスによる壮大でゴージャスなサウンドから、バンド・アンサンブルとリズムがスリリングなグルーヴを生む楽曲、ノイジーなロック・サウンド、エモーショナルでドラマチックな展開を見せる楽曲など、この多面性は彼らのキャリアの賜物だ。全曲に宿る高い感傷性も艶やかで美しい。だからこそバンドの核であるDarrenの脱退は心痛い。Track.10のタイトル"Marching To The End"とは、そういうことなのか。
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LCD SOUNDSYSTEM
American Dream
奇才であり秀才でもあるJames Murphy率いるLCDSOUNDSYSTEMの実に7年ぶりの新作。ダンスとパンクをマッシュアップさせ、独自のサウンドを構築させた彼らの音楽の最新形は実にバラエティに富んでいる。オープナーを飾るTrack.1にてレア・グルーヴを踏襲し、続くTrack.2ではトライバルなバッキングと世情を切り刻んだような言葉たちが並ぶ。なかには80'sディスコの源流を汲んだTrack.6まで、メッセージ性に加え、1枚を通して世代を横断できるジュークボックスのような側面も持ち合わせた作品だ。1音1曲1作、ひとつとして類似しない楽曲から職人気質な多様性まで、その随所に今作を生み出すきっかけのひとつともなった故David Bowieの言葉たちが息づいている。
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MOGWAI
Every Country's Sun
ポスト・ロック・シーンで不動の地位を誇るバンド、UKはグラスゴー出身のMOGWAIの3年ぶり、通算9枚目となるアルバム。彼ららしい、混沌から光へと連れていくようなドラマチックな展開や、インストゥルメンタル中心とは思えないほど雄弁に響く緻密な構成に惚れ惚れとさせられる。その一方で、軽やかさや柔らかさ、抜けのいい聴き心地も印象的だ。特にTrack.2「Party In The Dark」は、きらきらとしたポップ・センスが発揮されている。1999年に発表された傑作『Come On Die Young』のプロデュースを務めたDave Fridmann(MERCURY REV)と再びタッグを組み、Daveの所有する"Tarbox RoadStudios"でレコーディングしたことも、大いに関わっているのだろう。
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FOO FIGHTERS
Concrete And Gold
今年のサマソニでヘッドライナーを務めたFOO FIGHTERSから待望の新作が到着。様々な実験的要素もあり、遊び心に溢れた前作『Sonic Highways』(2014年)とは違い、今作は"これぞまさにフーファイ!"というような、力強いロック・ナンバーで勝負したストレートな作品だ。グルーヴィなナンバーも、歪みまくった音色で攻めたハードなナンバーも、ドリーミーに囁きかけるナンバーも、すべてがロックンロールのダイナミズム、セクシーさで溢れている。かつて『In Your Honor』(2005年)で、ヘヴィ・サイドとメロウ・サイドを別々に聴かせ、その二面性をアピールした彼らだが、今回はそのヘヴィ・サイドが濃厚に表れつつも、そのなかに光るいぶし銀の芳醇なメロディも同時に味わうことができる。
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MYSTERY SKULLS
One Of Us
70~80年代のポップス、ソウル、R&Bなどのダンス・サウンドをベースに、近未来的なフレーバーを取り入れたサウンドで人気を博しているエレクトロ・アーティスト/プロデューサー/シンガー、MYSTERY SKULLS。約2年ぶりの新作となる2ndアルバム『One Of Us』は、そのマルチな才能を生かし、よりスケール感を増した仕上がりになっている。ディストピアの世界に生きる、アンダーグラウンドなふたりのならず者が、社会を牛耳る影の存在から脱出するために逃走するというストーリーのサウンドトラックをテーマとして描かれた今作。エンターテイメントに昇華されているが、根底に鳴っているのは生々しい現実だ。ストーリーを踏まえて聴くと、また違った味わいが楽しめる。
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COLDPLAY
Kaleidoscope EP
今年4月に開催された東京ドーム公演は完売。2000年以降、名実ともに最も成功したバンドとなったCOLDPLAYによる最新EPは、最近の実験的な試みを血肉化させた新曲のみを収録。初期の不穏な空気感も漂うTrack.1からはメンバー自身の人間的な成長を感じさせ、デトロイトのラッパー Big Seanを招いたTrack.2では爽やかな歌メロとスタイリッシュなフロウが絡み合い、トラック自体の自由度の高さを証明している。何より嬉しいのは、人気EDMデュオ THE CHAINSMOKERSとのコラボレート曲で、東京ドームでのライヴ音源を用いたTrack.4がオフィシャル作品としてパッケージされたことだろう。バンドというスタイルは維持しながらも。音楽性の解放を続ける彼らの深化に触れられる1枚。
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THE CRIBS
24-7 Rock Star Shit
Johnny Marrが在籍していたことでも知られる、ジャーマン3兄弟によるUKロック・バンド THE CRIBS。日本でも人気の高い彼らが2015年『For All My Sisters』以来2年ぶりに放つアルバムは、NIRVANA『In Utero』を始め、オルタナティヴ・ロック・シーンを代表する名エンジニアSteveAlbiniが担当しており、シカゴの"Electrical Audio"でレコーディングされたというグランジ・モードな作品。フィードバック・ノイズから割れんばかりのローファイなサウンドを聴かせるオープニングの「Give Good Time」、静かに秘めた熱量を爆発させる「In Your Palace」など、その楽曲たちは尖っているものの実に爽快感溢れるもので、細かいことを気にしないロックのダイナミズムを体現。「RainbowRidge」で聴かせる間奏の揺らぐギター・サウンドはKurtCobainのプレイを彷彿とさせる。
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FOSTER THE PEOPLE
Sacred Hearts Club
エレクトロニックでダンサブル。しかし、ぐっとメロウになった3年ぶりの3rdアルバム。踊れるロックと謳われる一方で、このバンドが魅力のひとつとして持っていたメロウネスを、さらに打ち出してきた印象だ。ヒップホップ色濃い「Pay The Man」(Track.1)からR&B色濃い曲が続く序盤は、ひょっとしたら地味と受け取られるかもしれない。しかし、そこで絶妙なアンサンブル――センスで聴かせるギター、タイトなドラム、そしてクセになるフレーズを奏でるベースにじっくりと耳を傾けることに慣れておくと、女性シンガーとデュエットするノスタルジックなポップ・ナンバー「Static Space Lover」(Track.7)以降の起伏に富んだ流れをより楽しめるに違いない。終盤はバンド・サウンドにこだわらないアプローチも。
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LANY
Lany
全米ビルボードの新人アーティスト・チャートで1位を獲得、"SUMMER SONIC 2017"への初出演、初来日が決定と、注目を集めているLA発3ピース・バンドの1stアルバム。"世界で一番美しいセツナ・ポップ"というキャッチフレーズどおり、「The Breakup」を始めとする楽曲で聴かせるPaul Klein(Vo/Key/Gt)の儚げな歌声は言葉の壁を越えて胸に迫るものがあり、聴いているうちに徐々に引き込まれる魅力がある。「Super Far」、「Overtime」など、シンセを中心として作られているサウンドには80sのニュー・ウェーヴ、ニューロマンティックの匂いがあり、2014年結成の彼らが楽曲になぜこうしたアレンジを施すようになったのかが興味深い。途中、セリフだけの「Parents」を挟み、日本盤ボーナス・トラック6曲を含め全22曲という大ボリュームの1枚となっている。
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Steven Wilson
To The Bone
90年代、それまで影を潜めていたプログレッシヴ・ロックに再び光をもたらしたバンド PORCUPINE TREEの中心人物でもあるSteven Wilsonによるソロ5作目。今作にはPeter Gabriel、TALK TALKといったプログレからニューロマンティックまでを巡るポップネスが織り込まれた楽曲が並んでおり、その華やかな音像とラウドなアンサンブルから紡がれる音楽絵巻を広げれば、プレイヤー、シンガーとしての非凡な才能に触れることができるはずだ。イスラエルの女性シンガー Ninet Tayebを迎えたTrack.3「Pariah」での覚醒や、9分を超える大曲Track.10「Detonation」など、新たな可能性と類稀なる技術が絶妙にミックスされている。2017年以降のプログレを語るうえでマストな1枚。
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QUEENS OF THE STONE AGE
Villains
全米No.1ヒットになった『...Like Clockwork』以来、4年ぶりとなる7thアルバムは、プロデューサーにMark Ronsonを迎えた話題作。自分たちのサウンドを再定義するというテーマがあったという。なるほど。たしかに前作は洗練を極めた印象があったが、洗練がグラマラスな作風に結実したその前作から一転、今回、ギターによるハード・ロッキンなリフを剥き出しにした彼ららしいロック・ナンバーが再び聴けることはポイントのひとつかもしれない。とはいえ、安易に原点に回帰せず、ディスコ・サウンドとして打ち出したり、ファンキーな味つけを加えたりしていることを考えると、Ronsonの起用も頷ける。一方で、グラマラスな円熟味は「Hideaway」のBryan Ferryばりのダンディズムに実っている。
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Jaymes Young
Feel Something
Ed Sheeran、Andrew McMahon、Austin Mahone......世界で活躍する存在はひと握りで、特に男性ソロ・アーティストは非常にニッチな存在だったりする。そしてその大半は地道な下積みを経てブレイクしていくのだ。シアトルの若き男性SSWのJaymes Youngも2013年のデビューから、途中David Guettaとの邂逅を挟むも、今年ようやくこのフル・アルバムに辿り着いた苦労人である。その苦節は実を結び、エレクトロなサウンドを基調に丁寧なR&Bマナーとメジャーな響きを掛け合わせたニュー・ミュージックとして実に画期的。次にブレイクする可能性は誰にでもあるが、Track.1終盤で訪れるベッドルームとビルボードが繋がるその瞬間、スタジアムで歌う彼の姿を想像した自分を裏切らない結果を今後見せてほしい。
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ARCADE FIRE
Everything Now
2ndトラック「Everything Now」がローンチされた際には、まさにDAFT PUNKのThomas Bangalterのプロデュース色が強いとか、まるでABBAみたいとか、いずれにせよポップで明るいイメージもなくはなかった。が、彼ら自身のSNSでフェイク・ニュースを流していたことは(それこそ)すべて連動していた。すべての物事に今すぐアクセスでき、手に入る状況だけど、もはやリアルかフェイクか判別できない――この世界的な現象をフロントマンのWin Butlerは郊外の閉塞した少年が鳴らした=かの『The Suburbs』でのインディー・ポップも、Thomasを迎えた全世界的にもはやベタなトレンドであるエレクトロ・ファンクも折衷して見せたように思える。啓蒙的なわけじゃなく、聴いて"今を生きている"とは何か? を経験させる、そんなアルバムだ。
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EVERYTHING EVERYTHING
A Fever Dream
日本でも"SUMMER SONIC 2010"に出演するなどして人気を博している、UKマンチェスターのエレクトロ・ポップ・バンド。結成10周年を迎えた彼らが3年ぶりにリリースする4作目のアルバム。制作にはSIMIAN MOBILE DISCOのメンバー、James Fordが参加している。1stシングル曲「Can't Do」を始め、ダンサブルなエレクトロ・ロック色のある楽曲が収録されている一方、「Good Shot, Good Soldier」、「Put Me Together」といったメロウな楽曲では、憂いのあるJonathan Higgsのヴォーカルを聴くことができる。その両方を兼ね備えているのが、一聴すると北欧のポスト・ロックを思わせる深淵な世界観を持つ表題曲。静かな立ち上がりからの、中盤以降のEDM的な展開は聴きどころ。やたらテンションが高いデジタル・サウンドを苦手に感じる人でも聴けるはず。
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THE KOOKS
The Best Of...So Far
UKロック・バンド、THE KOOKSのデビュー10周年を記念してリリースされる初のベスト盤。たびたび来日を果たし、日本でも人気の彼らの代表曲「Naive」から始まり「Always Where I Need To Be」、「She Moves In Her Own Way」といった全英チャート上位に入った曲を中心に、彼らが10年間でリリースしてきた楽曲からのチョイスと新曲2曲を収録している。曲の良さはもちろんのこと、UKロックの歴史を継承したサウンドがたまらなくカッコいい。ロカビリー調の「Sofa Song」など、ディストーションやリヴァーブ頼みじゃない、生音に近い本物のロック・サウンドがここにある。新曲「Be Who You Are」、「Broken Vow」はライヴで人気になりそう。日本盤CDにはデモ音源2曲をボーナス・トラックとして収録しているところも長年のファンにとっては嬉しいプレゼントだ。
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FLEET FOXES
Crack-Up
2006年にデビューしてから、世界各国で大きな評価を受けてきたFLEET FOXES。00年代を代表するバンドとなったものの、ここ5年ほどはパタッと音沙汰がなかった。そしてついにリリースされた、6年ぶりのニュー・アルバム。聴けば、彼らにとってこの時間は必要だったんだ、とわかるような深遠さが感じられる。アコースティック・ギターを始めとした生楽器が奏でる牧歌的な音像と、風景やメッセージを映し出したような壮大なアレンジは変わらぬ魅力だが、様々な音色......"間"さえも取り入れた繊細な表現や、ヘッドフォンで聴いていると包み込まれるような歌声は、今作ならでは。ジャケットに日本の写真家、濱谷 浩の作品が使われているところも、日本人としては嬉しいところだ。
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TIGERS JAW
Spin
アメリカ・ペンシルベニア州スクラントン出身の男女2人組インディー・ロック・バンド、TIGERS JAWの通算5枚目となるニュー・アルバム。数々のインディー・バンドを手掛けてきたプロデューサー、Will Yipが立ち上げた新レーベル"Black Cement Records"からの第1弾リリースとなる作品。1曲目の「Follows」からギターを中心とした演奏と淀んだところのないまっすぐな歌声による楽曲が続く。アコースティック・ギターの音色が美しい「Escape Plan」、物憂げな歌唱が耳に残るフォーキーな「Bullet」、女性ヴォーカル曲「Brass Ring」など、ひたすら歌を聴かせるためのシンプルな演奏は、正直派手なところはまったくないため特別なフックはない。そのぶん、噛めば噛むほど味がする、歌声の魅力がじわじわと胸に残るアルバム。
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TRAIN
A Girl A Bottle A Boat
グラミー賞を三度受賞するなど、20年以上の活動を誇るアメリカのバンド TRAINによる8thアルバム。昨年は敬愛するLED ZEPPELINのカバー・アルバムをリリースし、紆余曲折のあった長い活動歴の原点に立ち返った。今作には、そんな歴史と原点回帰をフレッシュなサウンドで総括した楽曲が満載。1938年にLarry Clintonがヒットさせた「Heart And Soul」のメロディを引用したTrack.2「Play That Song」など、音楽史をサイクルさせていくスタイルも今の彼らにはピッタリ。ブラスやパーカッションも含めたレゲエ色の濃いTrack.10「Lost And Found」もバンドの柔軟な一面を表している。海でも山でも街中でも、場所を問わずに聴ける楽曲たち。この夏、プレイリストに入れておくことをオススメします。
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ANDREW MCMAHON IN THE WILDERNESS
Fire Escape
JACK'S MANNEQUINの活動を解消して、ANDREW MCMAHON IN THE WILDERNESS名義でリリースした前作がメインストリームで歓迎されたことがAndrewの背中を押したようだ。2年7ヶ月ぶりにリリースする新作はTRAINやGOO GOO DOLLSのヒット曲を手掛けたプロデューサーたちを、カリフォルニアの青春の光と影を体現していたAndrewがニューヨークに訪ね、レコーディングを行った。それだけでもこれまでと違う作品を作ろうとしていることが窺えるが、そんな挑戦はR&B、ヒップホップ、ハウス・ミュージックなど、現在のメインストリームで鳴っている最新のポップ・サウンドを取り入れた曲の数々に結実。ダンス・フロアを意識したTrack.3「So Close」のように新境地をアピールする曲も少なくない。
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