DISC REVIEW
Overseas
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CRYSTAL CASTLES
Amnesty (I)
カナダのエレクトロ・ロック・デュオによる待望の4作目。前作リリース後、2014年にヴォーカリストのAlice Glassが脱退。2015年4月に沈黙を破り新曲「Frail」をネットで公開し、同年11月には新ヴォーカリストのEdith Francesを迎えた新体制でライヴを行い再始動した彼ら。ダンサブルな曲が多かった前作と比べ、パンク・ノイズ寄りの1枚となっている印象だ。讃美歌を思わせる「Femen」に始まり、鼓膜を突き破らんばかりの轟音が響く「Fleece」、「Frail」、派手なエレクトロ・ポップの「Char」で破壊的且つドリーミーな両面を聴かせるヴォーカルはインパクト大。暗澹とした気分をより暗くしたいときにオススメ。THE SLITSあたりのポスト・パンク好きな人も気に入るかも。
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WARPAINT
Heads Up
デビュー作が世界各国メディアの年間ベスト・アルバム上位にランクインした実績を持つ、ロサンゼルスの女性4人組による3作目。Jenny Lee Lindberg(Ba)がソロ作を発表、Stella Mozgawa(Dr)がJamie xx やKurt Vileのアルバムに参加するなど、メンバー個々で力を蓄えた昨年。その成果を発揮するかのように4人のアイディアが盛り込まれた今作は、バンドのネクスト・フェーズを感じさせる仕上がりだ。ダークで物悲しい雰囲気を纏いながらアートさながらに構築していく音像はより洗練されたうえに、ダンサブルなビートを前面に押し出したTrack.3、耽美的な冒頭から急ぎ足で駆け抜ける曲と声の重なりとの絡みが絶妙で心地よいTrack.9を筆頭に、全編新鮮に楽しめる。メランコリックを極めたTrack.11で最後に胸を締めつけて終わる、その余韻も素晴らしい。
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GROUPLOVE
Big Mess
2010年代前半のミュージック・シーンのムードのひとつだったユーフォリアを、バンド・サウンドの核に持っているロサンゼルスの男女5人組が3年ぶりにリリースする3枚目のアルバム。前2作はメンバーによるプロデュースだったが、今回はメンバーたちが愛してやまないバンド、MODEST MOUSEなどを手掛けてきたPhil Ekをプロデューサーに迎え、タイトルとは裏腹に1曲1曲を、ケレンに頼らずポップ・ソングとしてじっくりと聴かせるウェルメイドな作品になっている。やや落ち着いた印象はなきにしもあらずだが、もちろん、男女ヴォーカルの掛け合い、エレクトロニックな音色を帯びた演奏から滲むユーフォリックな魅力はこれまでどおり。むしろ、これまで以上に際立ったようにも感じられる。
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WHITE LIES
Friends
デビュー盤からハズレなしにヒットを飛ばしてきたロンドンの3ピース・バンドによる4作目。シンセを主体としたJOY DIVISIONに通ずるポスト・パンク・サウンドに加えて、ニュー・ウェーヴやニュー・ロマンティックの香りを漂わせる本作は、10代でのデビュー時と比べるとスタジアム級のサウンドへと進化していることを感じさせる。冒頭「Take It Out On Me」のループするフレーズをドラマチックに盛り上げる構成や、「Don't Want To Feel It All」のスティールパンの音色を思わせるポップなエキゾチカなど、その多様性は全盛期のU2に通じる勢いを思わせ、急勾配なフェードアウトや散りばめられた80's要素にもニヤついてしまう。現代にコミットしたシンガロング・ナンバーが満載の1枚だ。
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BLOSSOMS
Blossoms
マンチェスター出身の注目バンドのデビュー・アルバム。PEACEの来日サポート・アクトを務めるとともに単独公演も行い、2016年6月には地元マンチェスターで行われたTHE STONE ROSESのライヴでオープニング・アクトとして出演し、"SUMMER SONIC 2016"で再び来日と、大いなる期待を背に活動している彼ら。どの曲もポップなメロディと柔らかな演奏で、フロントマン Tom Ogdenの繊細そうな歌声はあどけなさも感じさせて、どこか切なく印象に残る。若いバンドには珍しく王道のシャッフルに乗せたTrack.2や、憂いのあるメロディが美しいTrack.3など強烈なアクはないものの、そのぶん歌モノのロック・バンドとして幅広い音楽ファンから支持を獲得しそうな可能性を感じさせる。
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COMPUTER MAGIC
Obscure But Visible
"不可解だが目に見える"というタイトルも示唆するように、Danielle Johnson(愛称:Danz)のインスピレーションが、これまで以上に高い音楽性と奥行きのあるパースペクティヴで表現されたミニ・アルバム。作品は特定できないが、宮崎駿作品にインスパイアされたというTrack.1の深い聴感やシンセのレイヤーの層の厚さが気持ちいいTrack.2、トライバルなパーカッションとジェット気流のようなサウンドを並列させたTrack.3、珍しくソリッドなギター・サウンドも用いつつもどこか不穏な空気を漂わせ、RADIOHEADにも通じるニュアンスのTrack.4、インディー・ポップなメロディに彼女らしさを感じるTrack.5と、アルバムの尺は短いものの、多様性に富み、深淵な印象を残して聴き応え十分。何よりDanzの声の表現がアートそのものだ。
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TEENAGE FANCLUB
Here
グラスゴーを代表するインディー・ロック・バンドの重鎮が放つ6年ぶり10枚目。いつもどおりNorman Blake(Vo/Gt)、Raymond McGinley(Vo/Gt)、Gerard Love(Vo/Ba)が4曲ずつ持ち寄り、それぞれ自作曲でヴォーカルをとっている。新機軸や明確なコンセプトもなく、ただ機が熟したらセッションして曲作り。こんな"いつもどおり"にたまらなく耳を奪われ、説得力を感じるバンドなんてそういない。Track.1「I'm In Love」の甘酸っぱいメロディと突き抜けるコーラスが幕開けからメロウでうっとり。彼らも50代に突入し、楽曲のトーンも少しミドルエイジがかって三者三様の個性を発揮した幅広さはあるが、極めてバランスが良い。これも意図した仕上がりというよりは長年の活動による阿吽の呼吸だろう。新たな代表作の予感。
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MOTION CITY SOUNDTRACK
Panic Stations
今年3月に無期限活動休止を発表し、現在ワールド・ワイド・ツアーを行っているMOTION CITY SOUNDTRACK。9月には日本でのファイナル・ジャパン・ツアーを控えているが、その前にアメリカで昨年秋に発売された6thアルバムに、2曲のボーナス・トラックを加え日本でのリリースが決定。ポップでシュールなモーグ・サウンドと爆裂なバンド・アンサンブルとの2枚刃と、おセンチ節全開のメロディとで、パンク~パワー・ポップ・ファンの心をこれでもかと掴んで泣かせた必殺技は、1ミリもブレることなくここにある。アルバムとしては久々の作品でもあるので、その健在ぶりがまた切なくもあるが。こうして大人ぶったりかしこまったりすることもなく、エヴァーグリーンなままで突き抜けているのは嬉しいところでもある。普遍の青春サウンドトラックだ。
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FAITH NO MORE
We Care A Lot - Deluxe Band
1982~1998年まで活動し、その後も何度か復活ライヴが行われ、2015年には新作『Sol Invictus』をリリースしたFAITH NO MORE。単なるリユニオンという思い出に浸るのでなく、現在進行形で、その奇妙奇天烈な世界をディープに掘り下げ、拡大していくミクスチャー・サウンドが進化を遂げていることを知らしめ、圧巻のバンド力を見せたが、今回は彼らの初期作のリマスター盤をリリース。Mike Patton(Vo/1988年より参加)加入以前の、Chuck Mosleyがヴォーカルを務めていた当時の1stアルバム。Mike加入以降で、さらに独自の音楽に発展していった感があるが(MR. BUNGLEなどの活動もあって日本では特に変態っぽいイメージが色濃くあるMikeだが)、その萌芽ともいえる実験性や、オルタナティヴな音楽性の面白さを楽しめる。
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MAGIC!
Primary Colours
デビュー・シングル『Rude(邦題:ルード★それでも僕は結婚する)』が全米チャート6週連続1位を記録したカナダ発のレゲエ・ポップ・バンドがお待ちかねの2ndアルバムをリリース。なるほど、リズムはレゲエのバック・ビート主体だが、USのメイン・ストリームでコンポーザーとしても活躍するNasri Atweh(Vo)のポップなメロディ・センスは洋楽を初めて聴くリスナーにも馴染みやすくブライトなサウンドだ。80sのネオアコ・バンドがラテンに接近したニュアンスにも近いTrack.1や、THE POLICEのギター・サウンドにも近い洗練されたTrack.3、シンセ・ポップ好きにも受け入れられそうなTrack.7、Nasriのスウィートな声の魅力が味わえるR&B調のタイトル・チューンなど、ジャンルも洋楽邦楽も問わず夏を彩る決定版を探している人にレコメンド。
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LOCAL NATIVES
Sunlit Youth
前々作『Gorilla Manor』が全米160位だったことを考えれば、前作『Hummingbird』の全米12位がいかに大きな飛躍だったかがわかるだろう。だがその反面、それが大きなプレッシャーにもなったようで、3年ぶりとなる新作は、周囲の期待を一旦忘れて、自分たちが聴きたい曲を作ったという。2010年代前半のUSインディー・シーンの空気を決定づけたバンドのひとつに数えられるロサンゼルスの5人組。彼らの存在を特徴づけていたトライバルなリズムやエスニックなフレーズには頼らず、ここでは曲そのものの魅力で勝負しようとしているようだ。それがUSシーンを代表するバンドに相応しいスケール・アップに繋がった。演奏のテンポを抑えながら、最後まで持続する緊迫感も大きな聴きどころだ。
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MSTRKRFT
Operator
2011年に突然の復活を遂げた、ベーシストとドラマーという組み合わせで爆音ロックを奏でたカナダのDEATH FROM ABOVE 1979。その片割れ、Jesse F. KeelerとプロデューサーのAl-Pによるエレクトロ・ユニットがMSTRKRFTであり、その約7年ぶりの新作が登場。インストで構成された1stから、前作ではゲスト・ヴォーカルを迎えキャッチーな作品を作り上げたが、今回もゲスト・ヴォーカルが多彩。それも、ミニマルで、変態濃度も高めのテクノ・チューンに、パンク/ハードコア系のシンガーの声を素材的にブチ込んで劇薬化していくという、かなり贅沢な使い方だ。Jacob Bannon(CONVERGE)や、Ian Svenonius(THE MAKE-UP)、Sonny Kay(THE VSS)などが参加し、90'sポスト・ハードコアや、GSLや31Gなど異端レーベルを追いかけていたハードコア・キッズには、たまらないアルバムだ。
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CRUISR
s/t
2012年にAndy States(Vo/Gt)が始めたソロ・プロジェクトがバンドに発展したフィラデルフィアの3人組、CRUISR(読み:クルーザー)。アメリカにおける現在のレーベルメイト、THE 1975を始め、IMAGINE DRAGONS、PVRISといった人気バンドとツアーしながら存在をアピールしてきた彼らが、これまで配信リリースしてきた楽曲を1枚にまとめた日本独自企画CDをリリース。60s風のポップ・ソングの数々を、80s風のキラキラしたシンセの音色がふわっと包み込むサウンドは、まさに今のUSインディー・シーンの気分を物語るものだ。それが単にノスタルジックのひと言で片づけられないものになっている理由は、R&Bの影響が色濃いリズム・アプローチ。絶妙にハネる演奏は、曲が持つ魅力をより一層際立たせている。
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JAPANESE BREAKFAST
Psychopomp
フィラデルフィアを拠点として活動するインディー・ロック・バンド LITTLE BIG LEAGUEの紅一点にしてフロントウーマンであるMichelle Zaunerによるソロ・プロジェクト、JAPANESE BREAKFASTがUSレーベル"Dead Oceans"よりデビュー・アルバムをリリース。アメリカではすでにリリースされており、Pitchforkなど数々の音楽メディアからの高い評価も獲得している。Track.3「Rugged Country」で聴ける気怠いヴォーカルをローファイなギター・サウンドに乗せて歌う雰囲気は、初期のBECKを彷彿とさせる。表題曲でインストのTrack.5「Psychopomp」は、"霊魂を死後の世界に運ぶ者"の意。オリエンタルなTrack.6「Jane Cum」、Track.7「Heft」など、どんどん深い世界に入り込んでいくような本作は、アルバム・ジャケットに登場している亡き母を想って作られたそうだ。
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BIFFY CLYRO
Ellipsis
2013年以来の"FUJI ROCK FESTIVAL"出演も決まっているBIFFY CLYROから最高のタイミングで7枚目のアルバムが到着。先行シングル「Wolves Of Winter」で聴けたマイナー~メジャーを行き来するドラマチックなエモ感や音圧はあるが、どこまでも無駄を削ぎ落としたシェイプを聴かせる音像がストイックだ。今年の"Reading and Leeds Festivals"のヘッドライナーを務めるスタジアム・ロック・バンドでありつつ、日本では過小評価されている印象は拭えないが、いい意味でUSのエモやラウドロックのコードをメインで押す力技や突き抜けた明るさとは違う魅力がある。ピアノやアコギが効果的に配された繊細なバラード、スリリングなギター・リフとドラムの抜き差しの曲など、豪快に展開する曲が形成する起伏がカタルシスを生む。
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THE KILLS
Ash & Ice
THE DEAD WEATHERのヴォーカルとしての活躍でも知られるAlison MosshartとJamie Hinceによるロンドンの男女ロック・デュオ THE KILLSが前作『Blood Pressures』から約5年ぶりとなる新作をリリース。NYのスタジオ"Electric Lady Studios"でレコーディングされたという今作はTrack.1「Doing It To Death」でいきなりピコピコ・サウンドが聴こえて面食らったが、すぐにリバーヴがかかった太いディストーション・ギターが登場して従来のガレージ・サウンドが健在であることを教えてくれる。どっしりとしたリズムでブルージーに粘っこく聴かせるTrack.2「Heart Of A Dog」、Track.5「Days Of Why And How」と、キャッチーで踊れるTrack.3「Hard Habit To Break」、Track.4「Bitter Fruit」が聴きどころ。ピアノとアコギで歌われるバラードのTrack.9「That Love」もいい。そしてジャケットも最高。
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MELVINS
Basses Loaded
NIRVANAを筆頭に90年代初頭のグランジ・ムーブメントに多大な影響を与えたことで知られるBuzz Osborne率いる大ベテラン・オルタナティヴ・バンド MELVINSの約2年ぶりとなる新作。昨年11月に行われた"Hostess Club Weekender"初日のトリを務めたことからもわかるように、日本にも熱烈なファンを持つ彼ら。今回は元NIRVANAのKrist Novoselic、昨年メンバーとして来日したBUTTHOLE SURFERSのJeff Pinkusらオルタナ人脈から集まった6人のミュージシャンがベーシストとして参加して制作されている。Track.1「The Decay Of Lying」から続くヘヴィなリズムとノイジーなサウンドにどっぷり浸かりそうになるころに、突如流れてきた聴き覚えのあるポップなイントロはTHE BEATLES「I Want To Tell You」のカバー。わりと忠実に再現しているのがなんとなく嬉しい。
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Jack Garratt
Phase
シンガー・ソングライターおよびトラックメイカーのみならず、マルチ・プレイヤー、さらには類稀なるライヴ・パフォーマーとしての顔も持つUKシーン期待の新人がついに日本デビュー。安易な喩えではあるけれど、James Blakeが作った曲を、Sam Smithが歌っていると言ったら、いきなり全英3位の大ヒットになったこのデビュー・アルバムの雰囲気は伝わるんじゃないか。ずば抜けてユニーク――とまでは言えないが、Sam Smithなどに続く才能であることは十二分にアピールしている。"FUJI ROCK FESTIVAL '16"出演も決定。ひとりでステージに立ち、ギター、キーボード、ドラムなどを操りながら観衆の気持ちを掴むというパフォーマンスを観たら、印象はがらっと変わるかもしれない。
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SUNSET SONS
Very Rarely Say Die
フランスのビーチにあるバーで出会ったサーファー4人で結成された、英・豪出身の混合バンド、SUNSET SONSのデビュー・アルバムが完成。2014年に『Le Surfing EP』を発表し、ファンキーで、スタジアム感のあるロック・サウンドで話題を呼び、IMAGINE DRAGONSのツアー・サポートを務め上げるバンドへと活動もスケールアップしていった。そのタフさがアルバムに映されている。サウンドそのものはオーガニックで、KINGS OF LEONにも通じるヴィンテージの深みある音がメインだ。ハスキーなヴォーカリスト Rory Williamsが奏でるピアノと、Robin Windramのギターの哀愁感ある調べと、Pete Harper(Ba)と Jed Laidlaw(Dr)の跳ねのビートが混じったグルーヴが、心地よいレイドバック感や華やかなサイケデリック感も醸し出す。良い1日の、傍らにあってほしい静かなドラマがある音楽。
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Beth Orton
Kidsticks
イギリスのシンガー・ソングライターによる4年ぶりの新作。夫であるSam Amidonの協力も得ながらアコースティックなセクションを突き詰め、現代のフォークロア・ミュージックとして仕上げた2012年の前作『Sugaring Season』から一転、本作ではAndrew Hung(FUCK BUTTONS)を共同プロデューサーに迎えたエレクトロ・アルバムに大展開。冒頭「Snow」のANIMAL COLLECTIVEを思わせるトライバルなグルーヴなど新鮮な響きに引き込まれる。しかし彼女のどこか所在無げでハスキーな声と紡ぐメロディにブレは1ミリもなし。どんなサウンドであってもエヴァーグリーンな輝きを持つ歌に感嘆。長いキャリアの中で肩の力を抜いて、新たな試みを楽しみながら作られたことのわかる風通しの良い作品。
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