DISC REVIEW
Overseas
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Angel Olsen
My Woman
米シカゴを拠点に活動するアシッド・フォーク系女性SSWの3rdアルバム。前作収録の「Hi-Five」のようなサウンドですらラウドに聞こえるほど、今作ではドラムやベースが最低限しか鳴っていないうえに、ギター・サウンドもどこかサイケデリックでメランコリックだ。そこに彼女独特の舌足らずで不思議な声の伸ばし方をするヴォーカルが乗ると、さらに幻惑的な世界が広がる。今回はCHARLI XCXやSky Ferreiraなど、時代を映す女性アーティストを手掛けてきたJustin Raisenがプロデュースしていることも、そんなサウンドの一因かも。銀髪姿も披露するなど"シルバー"が印象的なMVが制作された「Intern」のようなビートレスのシンセ・サウンドはこの曲だけだが、たとえギター・サウンドでもミニマルで極私的な空間を作り上げているのが肝。
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SAINT MOTEL
Saintmotelevision
2014年リリースの楽曲「My Type」が全米ビルボードのオルタナティヴ・ソングスTOP10にチャート・インし早耳リスナーの間で話題となったロサンゼルス発の4人組インディー・ポップ・バンド、SAINT MOTEL。前作より約4年ぶりとなる待望の2ndアルバムは、サックスやトランペットなどのホーン隊が前衛を守るとにかくファンキー且つポップなサウンドでご機嫌な幕開けとなるTrack.1や、ミドル・テンポで落ち着かせつつも後半のヴォーカルの掛け合いで高揚させるニクい演出を仕掛けてくるTrack.4。さらにTrack.7はそのタイトルどおり、さりげなく間奏にベートーヴェンの「エリーゼのために」をぶっ込んできて、そのオシャレ具合にはお手上げ。FOSTER THE PEOPLEやPHOENIX好きにはオススメしたい1枚だ。
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THE QEMISTS
Warrior Soundsystem
今年2月にアルバム『Warrior Sound』をリリースし、日本でヘッドライン・ツアーを敢行したイギリス・ブライトン出身のTHE QEMISTS。このニューEPはアルバムの延長線上にある作品で、バキバキにラウドなビートで攻め立てる「Stepping Stones」に始まり、共にツアーを回ったKORNのカバー曲「Blind」やリミックスなど全6曲を収録。インダストリアルでブルータルなビートを軸に、ノイジーなエレクトロ・サウンドが展開する1枚だ。アッパーな攻撃性はもちろん、KORNの持つ陰鬱とした、地の底から揺るがすパワーをTHE QEMISTSとして表現した「Blind」での、殺伐としたムードがハマッている。個人的にはこのダークネスや、彼らならではのひんやりとした鋭さをさらにエレガントに突き詰めてほしいところがある。そして、その気配も感じるEPでもある。
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NIGHT RIOTS
Love Gloom
カリフォルニア・サンルイスオビスポ出身のオルタナティヴ・ロック・バンドがSumerian Recordsからリリースする1stフル・アルバム。Track.3「Fangs」、Track.4「Contagious」など、アルバム全体を覆っているのは憂いのある音像。出身地カリフォルニアから連想する明るさはなく、かと言って過度に陰鬱でもない。穏やかな前半部分、スケールの大きなメロディを聴かせるサビの展開など、思わず引き合いに出したくなるのはU2。それはBonoを思わせるTravis Hawleyのヴォーカルによるところも大きい。要所に数十秒のインタールードを挿入して場面転換していくところは決して新しい手法ではないかもしれないが、次にどんな曲がくるのかグッと耳を引き寄せられる。
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JOYCE MANOR
Cody
カリフォルニアを拠点に活動するインディー・ロック・バンドの4枚目のフル・アルバム。ほぼ2年おきにコンスタントにアルバムをリリースしている。パンク・バンドと紹介されることの多い彼らだが、ミディアムのシャッフル・ナンバー「Angel In The Snow」(Track.3)や続く美しい旋律のバラード「Do You Really Want To Not Get Better?」(Track.4/※タイトルの長さに反して曲は1分半以下)といった豊かな表現力を持った曲たちが収録されている。キラキラしたギターから始まるTrack.7「Over Before It Began」の叙情性溢れるメロディは日本のギター・ロック好きにも広く受け入れられそう。パンキッシュなTrack.10「This Song Is A Mess But So Am I」まで全10曲、元気がもらえる充実作。ツアーでの再来日に期待したい。
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BODY/HEAD
No Waves
SONIC YOUTHのKim GordonとBill Naceによるエクスペリメンタル・デュオのライヴ・アルバム。音源でもかなり即興性の高いアヴァンギャルドな作品を聴かせるふたりだが、さらにライヴではKimのヴォーカルとギターも、Billのギターも"音楽以前"の感情やインスピレーションを原始的に表出させた演奏を担っていて、どちらかと言えば2本のギターによるアート、もしくは音のインスタレーションといった印象が強い。しかもノイジーで規則性のないそれは、予測不可能という意味で音のアクシデント、もしくは交信の途絶えた宇宙の彼方で鳴らされる絶望的で、でも人間が発するシグナルとしては最強に切実なものだ。ライヴ・パフォーマンスが少ないという意味では貴重だが、やはり生で観てこそ響くものがある気もする。
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SLEIGH BELLS
Jessica Rabbit
メタルコア・バンド出身の男性ギタリストと子役~ガールズ・グループという経歴を持つ女性シンガーが結成したニューヨークの男女デュオによる4作目のアルバム。ふたりのバックグラウンドをストレートに反映させたエレクトロ・パンク・サウンドは、これまで以上にソング・オリエンテッドなものになると同時に豪快に鳴るパンク/メタル・ギターもTrack.4「I Can't Stand You Anymore」が象徴するようにアリーナで轟かせることを意識したダイナミックなものに。ドリーミーなトラックも含め、王道のポップ感を増したことを考えると、サウンドのエッジはともあれ、パンクという言葉はもう彼らには相応しくないかも。自主レーベルからの第1弾にふたりが込めた情熱はオープン・マインドな作風に結実したようだ。
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YOUNG THE GIANT
Home Of The Strange
"American Idol"、"Glee"といった人気テレビ番組に曲が使われ、注目を集め始めたカリフォルニア州オレンジ・カウンティの5人組が全米7位を記録した『Mind Over Matter』から約2年半ぶりにリリースした3作目のアルバム。にわかにはアメリカのバンドとは信じられないニュー・ウェーヴ・サウンドが彼らの身上だが、DURAN DURANを連想させるファンキーなTrack.9「Art Exhibit」を始め、80sリバイバルを基調にしながら、それだけに収まらない奇矯なアレンジを絶妙に織り交ぜ、彼らならではのユニークさをアピールしている。ウッ、ハッという掛け声がクセになるTrack.2「Something To Believe In」などは、ある意味キャッチーと言ってもいい魅力が感じられる。
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BUSTED
Night Driver
人気絶頂のさなかの解散からこの10年、再結成が望まれながら絶対ありえないと言われてきたイギリスの国民的人気ポップ・バンド、BUSTEDが奇跡の再結成。10万枚のチケットが1時間で売り切れてしまった(んだから解散後も衰えなかった人気が窺える)というイギリス国内ツアーに続いて、13年ぶりとなるニュー・アルバムがリリースされる。彼らの曲をカバーしてきたONE DIRECTION、THE VAMPS、5 SECONDS OF SUMMERらを魅了したポップ・メロディは変わらないものの、当時流行っていたポップ・パンク寄りのギター・ロックから一転、80s調のエレポップ・サウンドに挑戦。ダンス・ナンバーからバラードまで、煌びやかなシンセの音色とともに13年分の成熟をアピールしている。
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KLANGSTOF
Close Eyes To Exit
オランダのインディーズ・バンド MOSSの元メンバーで、アムステルダムを拠点に活動するノルウェー人アーティスト Koen Van De Wardtによるソロ・プロジェクト"KLANGSTOF"のデビュー・アルバム。10代のころにRADIOHEADの『OK Computer』に影響を受けて音楽を始めたのだという。「Hostage」の序盤は単純なリズム・トラックとゆるやかに流れるシンセで作られたアンビエントな音像から時間をかけて構築していき、終盤でノイジーに迫ってくるサウンドは壮大で圧倒的なクオリティ。ヴォーカルも表現力豊かで、ファルセットのハミングが印象的な「Seasons」、美しいアコースティック・ギターに乗せた歌い出しから感動的な展開となる「We Are Your Receiver」が聴きどころ。
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CRX
New Skin
THE STROKESのギタリスト Nick Valensiがギターのみならず、ヴォーカルも務めるバンド"CRX"によるデビュー・アルバム。ライヴをやるためにロサンゼルス・シーンの精鋭たちと結成したそうだが、曲そのものは何年も前からNickがこつこつと作りためていたものだという。THE ROLLING STONES風のリフを閃かせるTrack.1「Ways To Fake It」を始め、ブルースやハードコアの影響も散りばめながら、曲ごとに変化をつけたロックンロールが並んでいるが、それらを特徴づけているのはニュー・ウェーヴ風の煌びやかなサウンドだ。彼のロックンロール愛を雄弁に物語る一方で、THE STROKESサウンドの外枠を担っていたのがNickだったと改めて教えてくれる1枚でもある。
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KAISER CHIEFS
Stay Together
"Brit Awards"の常連であり、2012年のロンドン五輪の閉会式でプレイするなど、すっかりイギリスの国民的バンドとしての貫禄を身につけているKAISER CHIEFS。キャリアにあぐらをかくことなく常に先進的な音を追求し、ロック・ミュージックの野心と、ポップスとしての貪欲なモダンさと、キャッチーさやUKバンドらしいアンセム感とを丹念に磨いたのが、2年ぶりの6thアルバムだ。各曲、個にスポットを当て掘り下げ、その多様なドラマを大らかに抱き締めるようなサウンドのスケール感がある。Michael JacksonやTaylor Swift、THE WEEKENDなどの作品を手掛けるミキサー Serban Gheneaを迎え、彼らの持つ細やかな遊び心、そしてダイナミズムを盤に刻み込んだ。
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PIXIES
Head Carrier
2年前の『Indie Cindy』以降、ベースにPaz Lenchantinが正式メンバーとして加入。そして、ROYAL BLOODのブレイクに貢献したプロデューサー、Tom Dalgetyを迎えたこの新作。もはやBlack Francis(Vo)ぐらいしか"オルタナ"のオリジンを名乗ってはいけないのでは? というほど人生と化したノイズ・ギターと美メロの極限まで高められたアンサンブルが全編を貫いている。と同時に、ひと回りも年下のPazのコーラスはキュート且つ素朴な味わいもあり、剛腕ベーシストの側面といいギャップを生んでいて、このベテラン・バンドのある種カレッジ・バンド的なイノセンスにも胸が締めつけられる。死に体の"オルタナ"というタグの本当の意味は、ここにあるギター・サウンドが蘇らせるのでは。
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Jeff Wootton
The Way The Light
ノイジーなギター・サウンドとサイケデリアにまみれたディレイ&ループする言葉の数々、それらすべてを切り裂くかのようなドラムの鋭利さが高揚感を掻き立ててくるJeff Woottonの1stアルバムが到着。今作のイントロにあたる夜明けのようなインスト・ナンバーのTrack.1「Sea Of Sound」と、OASISのようなビック・メロディを奏でるTrack.2「Venus」を聴くだけですでにノックアウト。かわいい新人だと思ってなめていると食われてしまうので要注意。それもそのはず、BLURのDamon Albarnや元OASISのGallagher兄弟にもその才能を認められているUKロック血統書付の実力派。アシッドでトリッピー、アンビエントでダークなトリップ・ホップへと誘ってくれる1枚だ。
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KINGS OF LEON
Walls
ナッシュビル出身4人組ロック・バンドの約3年ぶり通算7作目となるニュー・アルバム。これまでのアルバムすべてを手掛けてきたプロデューサーに代わりCOLDPLAYやARCADE FIREなどを手掛けたMarkus Dravsを迎えて制作された今作は、1stシングルとなった「Waste A Moment」を始め、大きい音の広がりを感じさせる楽曲が並んでいる。そこには数々の大型フェスのヘッドライナーを務めてきた彼らならではの音楽で人々を巻き込んでいく力を感じさせる。あたたかくキラキラしたポップスで踊らせる「Around The World」、スリリングな「Find Me」など、表情豊かな曲たちは、"ファンとの壁がなくなる"という意味が含まれた歌詞"walls come down"を歌う表題曲「Walls」が象徴しているように多くの人に受け入れられそうだ。
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FEEDER
All Bright Electric
メンバーであるGrant Nicholas(Vo/Gt)とTaka Hirose(Ba)がそれぞれに取り組んでいたバンド外活動を経て、前作『Generation Freakshow』から約4年ぶりにリリースした9作目のアルバム。美しいメロディと轟音で鳴るギターはFEEDERらしいと言えるものながら、そこに中期のTHE BEATLESを連想させる展開を加えた1曲目の「Universe Of Life」から奥行きがあるというか深みのあるアプローチの曲が並んでいる。ハンドクラップとともに跳ねるリズムが印象的なTrack.4「Paperweight」、どこかウェスタン風のTrack.6「Oh Mary」、FEEDER流のダンス・ナンバーと言ってみたいTrack.10「Holy Water」など、曲ごとに趣向を凝らした、日本盤ボーナス・トラックを含む全14曲は聴き応え満点だ。
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AMERICAN FOOTBALL
American Football
OWENことMike Kinsella(Vo/Gt)率いるレジェンド・バンド、AMERICAN FOOTBALLのニュー・アルバム。1999年のデビュー・アルバム以来実に17年ぶりとなるアルバムだ。2014年に突如再結成、翌年には奇跡の来日公演を行ったことで大きな話題を呼んだ彼ら。ファン待望の作品となる今作は、1stと同じセルフ・タイトルなのがすでに固定観念を覆している。ジャケットは前作の家の外観から玄関に入っているあたり、より彼らの内面に我々を招き入れてくれているのだろうか。時を隔てて過去からやってきたように静かにフェード・インしてくるギターのアルペジオから始まる冒頭の「Where Are We Now?」でそんな気分に浸りながら、Kinsella兄弟を中心とした4人で奏でられる楽曲たちに身を委ねて聴き入っているうちに、あっという間に時間が経ってしまった。
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BIG JESUS
Oneiric
GOOD CHARLOTTEのBenji Madden(Gt/Vo)とJoel Madden(Vo)が主宰する"MDDN"がマネージメントを務める新人ではあるけれど、ポップ・パンク・バンドではない。満を持してリリースしたこのデビュー・アルバムから判断するなら、ジョージア州アトランタの4人組、BIG JESUSはグランジ・バンドとなるだろう。歪ませたギターをかき鳴らすリフやパワフルなドラムはNIRVANAを連想させるが、滑らかなSpencer Ussery(Ba/Vo)の、場合によっては女性の声にも聞こえるヴォーカルはその不思議な魅力とともにバンドの存在を際立たせている。CJ Ridings(Gt)は29歳。この音がやりたいという思いを貫き、デビューが遅れたそうだ。風向きが変わり始めた。BIG JESUSはすでに90'sオルタナを蘇らせる期待の新人として注目を集めている。
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JIMMY EAT WORLD
Integrity Blues
前作から3年ぶりにリリースした9作目のアルバム。シンセ・ベースを使った1曲目の「You With Me」を聴いただけで、新たなサウンドを求めたチャレンジングなアルバムだということはわかる。彼らを彼らたらしめている、切ないとも美しいとも言えるメロディは健在だが、彼らの代名詞とも言える「Sweetness」のようなエモーショナル且つストレートなギター・ロック・ナンバーは全11曲の中で、Track.9の「Through」しか収録されていない。その他の曲の、空間というか、音響を意識したポスト・ロック的なアプローチをどう受け止めるかが本作に対する評価を決めるポイントだ。中にはポスト・パンク/ニュー・ウェーヴ的なアプローチもある。結成から20余年。彼らが挑んだ新境地は刺激的且つ新鮮だ。
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GREEN DAY
Revolution Radio
前作が3部作だったこともあって、彼らの新作が聴けるのはもう少し先なんじゃないかと思っていたので、これは嬉しいサプライズ。バンドというものは、長く活動しているとどうしても楽曲が落ち着いてきたり、逆に同じような作品の焼き増しになってしまうのが世の常だが、彼らは本当に特例中の特例だ。もちろん今作でも年齢を感じさせない、エネルギッシュでフレッシュなサウンドで、そのうえキャリアの蓄積が作品のクオリティをグッと上級なものに仕立てている。アルバムごとに、バンドのそのときの状況や時代背景が反映されているが、今作はいろいろなものを乗り越えてきた彼らだからこそ堂々と歌える時代のリアルと、長年音楽と共に生きて来た彼らだからこそ歌える本当に自由なロックが詰まっている。
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