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DISC REVIEW

Overseas

A Moon Shaped Pool

RADIOHEAD

A Moon Shaped Pool

あくまで直感なのだが、9.11以降の世界のパワー・バランスの崩壊を予見したような不気味な『Kid A』以降、RADIOHEADの不穏な通奏低音は変わらない。だが、この新作はそれでも人が人としてよりよくお互いを思いやり生きるための、何か心のチューニングを整える一歩前に出た印象がある。具体的には近年、フル・オーケストラやイスラエルのミュージシャンとの仕事も行うJonny Greenwoodと、ソロでDJ的な表現も行ったThom Yorke双方のアプローチが並列する「Burn The Witch」、久々にギターらしいギターが聴ける「The Numbers」、抑制されているものの、リズムがサンバであることに驚く「Present Tense」など、音楽があらゆる境界を溶かす静かで微かな希望が聴こえてくるというか、身を浸していると感じられる。

Why Are You OK

BAND OF HORSES

Why Are You OK

シアトルの5人組フォーク・ロック・バンドによる4年ぶり5枚目のアルバム。Neil Young『On The Beach』とROXY MUSIC『Country Life』の名盤2枚を掛け合わせたような印象的なジャケットに違わず、ロック・クラシカルな質感だ。象徴的なのは「In A Drawer」、DINOSAUR JR.のJ Mascisや、バンドの初期メンバーをゲスト・ヴォーカルに迎え、キャリア総ざらいの布陣。美しいコーラスの掛け合いがカタルシスをもたらす、新たなBAND OF HORSESの代表曲となるであろう「Casual Party」を始め、序盤はいなたくも風通しの良いアッパーな楽曲が並ぶ。だが、後半になるにつれフォーク・サウンドに回帰していき、丁寧に現代アメリカーナのど真ん中に着陸していく流れがたまらなく美しい。

Congrats

HOLY FUCK

Congrats

トロント出身の4人組インストゥルメンタル・ロック・バンドによる6年ぶり4作目となるアルバム。前作以降はそれぞれ別バンドやプロデュース・ワークなどのソロ活動期間となり、今作で再び集結。初めて本格的なスタジオでの録音となったのもそういった外部活動での経験を本体に還元できる体制になったゆえであろう。これまで直線的なビートを軸にクラウト・ロック、スカム、インダストリアル、エレクトロニカなローファイ・サウンドで高揚感を積み上げていく作りであったが、さらにパンキッシュ且つトライバルに極彩色を纏わせている。一方で、初めてヴォーカルを歌(≠ノイズ)として機能させることによりポップな面にも気を配っている。CAN、Sun Ra、BOREDOMS、SUICIDEが輪になって盆踊りを踊っているような光景。カオス!

Weezer(White Album)

WEEZER

Weezer(White Album)

4作目のセルフ・タイトルとなる10thアルバム。"White Album"は例によって、便宜上の邦題。セルフ・タイトル作を4枚もリリースするバンドも珍しい。しかし、これはセルフ・タイトルが相応しい。例えば、"Red Album"なんかよりも断然。それもそのはずで、かつてWEEZERのコピー・バンドをやっていた本作のプロデューサー、Jake Sinclair(FALL OUT BOY他)とRivers Cuomo(Vo/Gt)は日本でも未だに人気が高い"Blue Album"と『Pinkerton』を目指したんだそうだ。その狙いは見事、成功。そこにTHE BEACH BOYS風のTrack.4「(Girl We Got A)Good Thing」やR&B風のピアノ・ポップのTrack.9「Jacked Up」が加えられ、バンドのサウンドをアップデート。これを否定できるファンはまずいない。

Mirage

DIGITALISM

Mirage

5年ぶりのニュー・アルバムだが、制作期間は5ヶ月という"インスピレーションで勝負!"な1枚。この間、すっかりEDM優勢になったダンス・ミュージック・シーンだが、"俺はエレクトロ・インディーが聴きたいんだ!"というリスナーをDIGITALISMは裏切らない。1曲1曲が"ミラージュ=蜃気楼"の構成要素であり、ただ機能的にフロアをブチ上げるようなトラックはない。あくまで"曲"なのだ。興味深いのは前半の耽美な「Utopia」や「Destination Breakdown」と、後半のタイトル曲のパート1、2を挟んで情景が変化する展開。ポップ・ソングとして成立する「Indigo Skies」や、彼らには珍しいヒップホップのゲットー感すらある「The Ism」を経て再び光のある場所へ。この新曲群が"SUMMER SONIC 2016"でどう構成されるのか興味深い。

These People

Richard Ashcroft

These People

Richard Ashcroftと言っても、若いリスナーは彼がヴォーカリストを務めていたTHE VERVEのストリングスが美しい「Bitter Sweet Symphony」をギリギリ知っているかどうかだと思う。OASISほどの大成功は収めなかったものの、彼が歌えば"これぞ英国"な力強さとメランコリーが同時に味わえるのは間違いない。さて、6年ぶりとなるソロ4作目。トレードマークと言えるストリングスの美しさにエレクトロニックを持ち込んだオケには少々の無理を感じるが、オーケストレーションやピアノといったドラマチックな音像に、やはり彼の声と歌は最高にハマる。目新しさはないものの、Track.3のサビでの声の重ね方のエモさ、今日的なマットなファンクネスを感じさせるTrack.10など新旧の良さがある。

The Glowing Man

SWANS

The Glowing Man

いわゆるオルタナティヴという概念がロック・シーンに定着する以前は、畏怖の念と共にジャンクと謳われたMichael Gira率いるニューヨークのエクスペリメンタル・ロック・バンド、SWANS。その起源は1982年にまで遡るが、13年の空白を経て、2010年に再結成してからは立て続けに大作を発表してきた。その彼らが再結成後4作目となるアルバムをリリース。本作は現在のラインナップで作る最後の作品。前々作、前作に引き続き、全8曲で2時間を超えるCD2枚組。Giraのうめき声のようなヴォーカルの印象が強烈すぎるせいか、鬼気迫る演奏は彼ら以外の何者でもない。アメリカーナの源流に迫りながら、ゴシック、ドローン、サイケ、スラッジなど、様々な要素が入り混じる底知れなさにこそSWANSの真骨頂がある。

Everybody Wants

THE STRUTS

Everybody Wants

グラム・ロックというからにはもちろん見た目も含め、70年代の前半、時代の徒花として狂い咲いたポップ且つワイルドなロックンロールを現代に蘇らせる4人組、THE STRUTS。もちろん、伊達や酔狂でやっているわけじゃない。そこに本気の思いが感じられるからこそ、イングランド中部の工業都市、ダービーからやってきた彼らはじわじわと注目され、THE ROLLING STONESやMÖTLEY CRÜEといったビッグ・ネームが2012年結成の新進バンドをサポート・アクトに起用したのだ。今作は精力的なツアーが認められ、アメリカでついに火がついた人気に応えるように新曲を加え、出し直したデビュー・アルバムの新装盤。シンガロング必至のロックンロールが満載。Luke Spillerの強烈な巻き舌のヴォーカルにシビれる。

It's The Big Joyous Celebration, Let's Stir The Honeypot

TEEN SUICIDE

It's The Big Joyous Celebration, Let's Stir The Honeypot

2013年より活動休止していたUSインディー・ロック・バンド、TEEN SUICIDE。バンド名からすでにナイスな香りしかしない彼らの4年ぶり2枚目となるアルバムが届いた。アナログ・レコードをそのまま録音したかのような雑なローファイ・サウンドを軸に、陽気な季節にピッタリな鼻歌テイスト且つグッド・メロディを散りばめている。さらに、ポップ、ロック、パンクな楽曲はもちろんアンビエントやエレクトロニカまで、美しいノイズを武器にして天才的なバランス感覚で切り刻むという、インディー・ロックの枠組みなどを取っ払った現代音楽のような若干の狂気さえも感じられる仕上がりとなっている。TEEN SUICIDEにしか表現できない前衛的な全26曲に要注目!

Shelter

DAN SAN

Shelter

ベルギー産インディー・フォーク最重要バンドと称される男女6人組のDAN SAN。カナダのシンガー・ソングライターFEISTがレコーディングしたことでも有名な築200年というマナー・ハウスにあるスタジオにてヴィンテージの機材で録音/制作した2ndアルバムは、前作を超える圧倒的に美しい世界観を堪能できる仕上がりに。フェード・インで厳かにスタートするTrack.1、爪弾くギターと優しい歌声にコーラスが重なるTrack.2などを始め、美しくも儚い幻想的なサウンドスケープが、やわらかく日常に溶け込んでくる音像を描く。前作をリリースしたあと、世界各国で120以上ものライヴを敢行した彼らは、確実に成長を遂げている。2ndアルバムにして重鎮のような存在感を放つDAN SANの極上の1枚に耳を傾けてほしい。

Atomic

MOGWAI

Atomic

この新作はそもそも昨年8月にBBCで放送されたドキュメンタリー"Atomic: Living In Dread and Promise"のサントラをリワークしたもの。もちろん、そこには彼らが過去、来日した際に広島平和記念公園を訪れた経験も反映されている。アルバム・タイトル通り、核に対するシンプルな恐怖心に始まり政治利用としての側面、そしてチェルノブイリや福島で起こった原発の悲劇、もちろん広島・長崎に投下された原爆も下敷きになっている。と同時にレントゲンやMRIスキャンなど医学面での貢献というネガ/ポジ両面の性質を持つ。良くも悪しくも人間自身が自分の手に負えないものを作ってきた現実。錯綜する感情と一歩引いた視点が混在する、彼らの中でも透徹した美しさを持つ音像の理由は、テーマを思うと腑に落ちる。

A Mineral Love

BIBIO

A Mineral Love

"Warp Records"所属のプロデューサーによる、3年ぶり7作目となるアルバム。サンプリングを一切排した今作は、オーガニックとエレクトロを自在に行き来する、言わば"人力フォークトロニカ"。制作においては"多様性"が重要なカギとなっただけあり、チルウェイヴからAOR、もしくはラウンジ・ミュージックといった様々なスタイルの音楽を喚起させるも、雑多な印象はなく、抜群の聴き心地で聴く者をあたたかく包みこむ。SSW然としたポップ・ソングのTrack.4、GOTYEをフィーチャーした幽玄なバラードのTrack.6、シンプル&ミニマルなエレクトロ・チューンのTrack.7など佳曲が揃い、日々のサウンドトラックとしても楽しめる。ディスコやブギーの再興という近年のトレンドに目を配らせつつも、時の洗礼にも耐えうる普遍性を帯びた秀作。

Grey Tickles, Black Pressure

John Grant

Grey Tickles, Black Pressure

前2作が様々なメディアで年間ベストとなり、2014年にはASGEIRの英訳を手掛けたことで一躍注目を集めた、アイスランド在住SSWによる3作目。エレクトロ・ポップと叙情的なフォーク・サウンドの融合は従来を引き継ぐものだが、新境地のラップを核とした「Voodoo Doll」や Tracey Thornが参加した「Disappointing」などでファンク色を強めている。また、ゲイであることや、HIVポジティヴであることはこれまでも公言し楽曲に反映させてきたが、本作では社会問題的に提起するでも愛を追い求めるでもなく、アイデンティティとしてポジティヴ且つウィッ トにひとクセ与えている。ポップ・ソングにおけるそのエディット・センスは手法は違えどBECKを彷彿させるような、頭の切れる働くおじさんだ。

Junk

M83

Junk

"今作では今までと異なる一面を見せたかった"。今作のリリースにあたり、M83の首謀者であるAnthony Gonzalezはこのように語った。彼がかつて標榜したエレクトロ・シューゲイズの金字塔的作品となった前作から早5年。プロデューサー的視点で制作された今作は、これまでのサウンドを面影に残すものの、AORやディスコ・ファンク、フュージョンまでも取り入れた80'sライクの完熟したシンセ・サウンドが基調となる。大胆な路線変更という意味では、今作は賛否両論を呼ぶであろう。しかし、必殺のギター・ソロが響く甘いソウル・ナンバーのTrack.2、BECKをフィーチャーしたブラック・コンテンポラリーを聴かすTrack.13を始め、粒揃いの楽曲が立ち並ぶこの『Junk』が凄まじく完成度の高い作品であるということはまず間違いない。2016年、ハズすことのできない1枚。

The Hope Six Demolition Projec

PJ HARVEY

The Hope Six Demolition Projec

英国・アイルランド最高峰のマーキュリー賞を獲得した2011年の『Let England Shake』以来となる新作は、彼女がコソボ、アフガニスタン、ワシントンD.C.への旅をドキュメントし、しかもレコーディングのプロセスを一般公開するという、タイトル通り"プロジェクト"でもある作品だ。先行配信されたTrack.10「The Wheel」が最も、いわゆるバンド・サウンドであり(クラップが特徴的ではあるが)、統一されたプロダクションとしては、ネオ・クラシカルほどテクニカルではないにせよ、ブラスとストリングスが作品のニュアンスを強く印象づけていること、そしてコーラスというよりは"市民による合唱"的な混声がユニーク。ドキュメントでもありアートでもあるという手法に見る聡明さ、変わらぬ声の力のバランスも無二。

Fever Dream

Ben Watt

Fever Dream

1983年ネオアコの大名盤『North Marine Drive』から前作『Hendra』まで31年もの間隔があったことを思うと調子の良さがうかがえる2年ぶりのソロ3作目。前作に引き続き元SUEDEのBernard Butlerを右腕に据えている。良質なフォーク・ロック作品だがそこに留まるのはもったいない。Track.1の重苦しさから、共演にアシッド・フォーク・シンガーMarissa Nadlerを迎えたラストのTrack.10にかけて、雲の裂け目が広がるような、えも言えぬグラデーションがじんわり染み入る。EVERYTHING BUT THE GIRLでの成功、一時は死の淵までいった長い闘病生活、レーベル"Buzzin' Fly"の運営やDJ活動も経て、彼の年輪が刻み込まれた老成円熟の説得力だ。

Compassion

LUST FOR YOUTH

Compassion

2010年代に入り急速に日本でも注目を集めているコペンハーゲンの音楽シーンを、スウェーデン出身でありながらICEAGEと共に代表する存在となったシンセ・ポップ・バンド。舵を取るHannesに、シーンを代表するレーベル"Posh Isolation"主宰のLoke、すでにキャリアのあるMalthe(元OH NO ONO)が入り、まさに北欧ドリーム・チーム体制となって2作目となる。不敵な顔で坦々とした演奏/歌唱ながら、とびきりに夏を感じさせるシンセ・フレーズ。ポップとエクスペリメンタルの隙間を見事に射抜くバランス感覚には、3人の主張が見事に溶け合っている。中でも最もキャッチーでポップに振り切っているのが「Tokyo」であるところに、3度目の来日もすでに決まっている彼らの遊び心がうかがえる。

Hurt & The Merciless

THE HEAVY

Hurt & The Merciless

ブラック・ミュージックという音楽の背景を紐解くと、そこには虐げられてきた人々の血と汗と涙の――そんなもので簡単に語り尽くすことのできない魂の歴史がある。THE HEAVYはそんな歴史が積み上げてきたものに最大限のリスペクトを払い、今この時代にしか鳴らしえないモダンなロックンロールを紡ぎ上げる。ブルースやソウル、R&Bをサウンドの核として据えながら、ビートはコンテンポラリーでヒップホップ的。ゴスペルの素養もうかがえるKelvin Swabyのヴォーカルには人生の苦みが滲み、抜群の説得力が宿る。テレビCMのタイアップのおかげでお茶の間まで浸透した前作から4年ぶりとなる今作でも、変わらぬ彼らの音楽的精神が貫かれている。まあ何はともあれ、Little RichardからTHE BLACK KEYSまでまとめてぶっ飛ばすTrack.11で痺れていただきたい。

Barbara Barbara, We Face A Shining Future

UNDERWORLD

Barbara Barbara, We Face A Shining Future

先行配信第1弾となった「I Exhale」のまるでLou Reedのごときモノローグ調のKarl Hydeのヴォーカルや、エレクトロで8ビートを表現したような第一印象、かと思えば音のあたりはインダストリアルでもあるこの曲に良くも悪くも驚かされたわけだが、大音量で聴くとじわじわ彼らの先見性が聴こえてきた。続く「If Rah」の読経的な表現とある種古典的なテクノ/ハウスなトラック、しかし耳を澄ますと"楽器演奏的"な何かが明確ではないがうかがえる。その印象は後半の「Ova Nova」での非常に"近い"パースペクティヴを持つ音像からも伝わる。また、ケルトとアラビアンの中間のようなメロディを持つ中盤のインストも大気圏外から地球へのノスタルジーを綴るよう。"未来のフォーク"的なアルバムだ。

Chaosmosis

PRIMAL SCREAM

Chaosmosis

ロックンロールは好きだが、ストーンズ命みたいなオヤジにはならねえぞと思っている人がいたら聴いた方がいい。もっとも、そう言ってしまった時点で、新しい刺激を求める人にはちょっと物足りないということが明らかになってしまうわけだが、ブルースの本質をモダンなサウンドで表現した美しいポップ・アルバムと本人が言っているんだから、3年ぶりとなる11作目のアルバムは、時代を先取りすることがテーマではなかったということだろう。だからって、「Where The Light Gets In」でSky Ferreiraとデュエットだなんてちょっと甘っちょろいんじゃない? いや、それを楽しむ余裕があるということだ。前々作、前作同様、集大成と言える多彩な曲とともに持ち前の歌心はさらに味わい深いものになってきた。