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DISC REVIEW

Overseas

Long Way Home

LAPSLEY

Long Way Home

超名門インディー・レーベル"XL Recordings"が放つ2016年最初の超大型新人、LAPSLEY。ポスト・ダブステップの文脈でソフィスティケイトされた最先端のレディ・ソウルを聴かせる彼女のデビュー作を多くの人はこう形容するだろう――"James Blake meets Adele"。アトモスフェリックなシンセ・サウンドが醸成する濃密な空気と、彼女の哀しくも強かな歌声が胸に迫る「Hurt Me」の説得力たるや凄まじく、ひとつひとつのビートにまで細やかな洗練が宿る。しかし一方で、"そのつもりなんだったら、もっと傷つけたらどう?"と失われた恋を前に歌われる心模様は紛れもなく19歳の乙女のそれと言える。プロデューサーにTHE XX、DAUGHTERらも手掛けるRodaidh McDonaldを迎えたこの作品が世を席巻するのは間違いないだろう。

Distance Inbetween

THE CORAL

Distance Inbetween

5年間の活動休止を経てリリースされる7枚目のアルバム。収録曲の大半は生演奏の一発録りでレコーディングしているとのこと。不穏なギター・リフの音色から始まるTrack.1「Connector」、フロアタムを活かした土着的なリズムがひたすら続き、エスニックなアレンジで夢に憑りつかれたような気分に誘われるTrack.3「Chasing The Tail Of A Dream」、疾走感のある演奏とサイケな音像を兼ね備えたリード・シングルのTrack.6「Miss Fortune」など、5人編成によるポップで迫力のあるサウンドが楽しめる。文句なしの傑作アルバムだけに、モノクロ映画が幕を閉じるようなインストTrack.12「End Credits」のあとに入る日本盤ボーナス・トラックのTrack.13「Unforgiven」は蛇足のような気も。

You Know Who You Are

NADA SURF

You Know Who You Are

アジカン後藤正文の熱心なフックアップもあり、ここ日本でも地位を獲得しつつあるUSオルタナティヴ・ロックの偉大なる中堅どころの8作目。前半こそ従来のグッド・メロディが並ぶが、Matthew Cawsの声がけだるさと情熱の間を振れゆく様がたまらない「Rushing」、ストーンズ・ライクなリフを軸としたフォーク・ロックの「Animal」、これまでの足跡を辿るかのようにノー・ギミックでミディアム・ビートを刻んでいく「Gold Sounds」~「Victory's Yours」と後半の流れが素晴らしい。20年の総括と共に、向かう先の光が見えるいぶし銀な魅力に溢れている。大ブレイクはないものの真摯に活動を続けてきた彼らだからこそ出せる哀愁、居直りも含めたNADA SURF印の風格が感じられる。

Full Circle

HÆLOS

Full Circle

ブリストルやマンチェスターを感じるロンドン出身とは。この時代に珍しくも一聴しただけでUKと断定できた純度の高い初作。MASSIVE ATTACKやPORTISHEADといったトリップ・ホップがよぎるが、サンプリングやダンス・ミュージック/ヒップホップ的な要素は希薄で、バンド・サウンドを意識したトラック・メイキングになっている点は2010年代的だ。また紅一点のArthurDelaneyが、CHVRCHESや SUNFLOWER BEANのような同世代男女3人組とは違い、バンド・アイコンとして突出するでもなく、全員フラットにヴォーカルをとる光景も新鮮。すでにイギリス各地のフェスも沸かしており、今後、曲の幅の広がりも見えれば新たなUKシーンの旗手となりうる。

Out Of Order

ADVENTURE MAN

Out Of Order

SawagiやQUATTROとのツアーで日本でも人気が広がりつつある南アフリカのポップ・ロック・バンドSHORTSTR AW。そのキーボード担当のGad Da Combesを中心とした5人組による初作。底抜けに晴れ渡る常夏感満載のポップ・チューンが並んでいる点は本体と同様だが、ウクレレやバンジョーをフィーチャーし、さらにトロピカルな面をブースト。必要以上に新機軸を追い求めず、一緒にやりたい人とやる気負いのないサウンドはホフディランの小宮山雄飛における"THE YOU・HE・S"のような質感で楽しい。DESMOND & THE TUTUSやSHORTSTRAW、そして彼らと、ワールド・ミュージック的文脈ではない南アフリカ・シーンの概観が日本でも容易に描けるようになってきている。

Warrior Sound

THE QEMISTS

Warrior Sound

2009年にデビューするやいなや、THE PRODIGY直系の大型新人として脚光を浴びたイギリスはブライトン出身のダンス・ロック・アクト、THE QEMISTS。その彼らがライヴ・メンバーだったMCとヴォーカリストを正式メンバーに迎え、前作から6年ぶりにアルバムをリリース。ミクスチャー・ロックをベースにドラムンベースなど、最新のダンス・ミュージックにアプローチしながら、彼らが作り出してきた暴れることもできるダンス・ロック・サウンドにEDM由来の高速ビートを取り入れ、さらに進化を遂げている。映画"ターミネーター:新起動/ジェニシス"のワールドワイド版トレーラーに使われた「Run You」に加え、2013年にシングルとしてリリースした「No More」も収録。6年待った甲斐があると言える充実作だ。

K 2.0

KULA SHAKER

K 2.0

デビューから20年、そして再結成から10年という記念すべき年にリリースする5作目のアルバム。前作から実に6年ぶりではあるけれど、ブレみたいなものはこれっぽっちも感じられない。すなわちインド音楽からの影響を始めとする東洋の神秘と60~70年代のブリティッシュ・ロックへの憧れを、そのまま反映させたサイケデリック且つグルーヴィなロック・サウンドはここでも健在。円熟味で勝負するこのアルバムを、"衝撃"と語られることが多い最初の2枚と比べるのは野暮ってものだろう。トラッド・フォークやウェスタンの影響を、エキゾチシズムのひとつとして取り入れているあたりはまさにKULA SHAKER。ファンキーなTrack.10「Get Right Get Ready」からロック・バンドとしての芯の太さが感じられる。

Thank Your Lucky Stars

BEACH HOUSE

Thank Your Lucky Stars

前作『Depression Cherry』からたった2ヶ月で届けられたボルチモア出身のドリーム・ポップ・デュオによる6枚目。スパンの短さは決してサプライズ的ではなく、創作の泉が湧き続けたゆえで、いつだって彼らは自然体だ。この2枚で無理にアプローチを変えたり、対となる要素を持たせることもなく、まるで同じ方向を向いている。ただ新たな創作の刺激となったのはVictoria Legrandが数曲ベースやギターを弾いていることだろう。前々作『Bloom』までのシンメトリーで幾何学的な美しさを持つメロディと規則正しいサウンドが、彼女の絶妙な拙さによって歪み、グルーヴが引き出されることで新たな心地良さを生む。彼らの航路は少しずつだが着実に舵を切っている。

Amen & Goodbye

YEASAYER

Amen & Goodbye

MGMTやANIMAL COLLECTIVEらと共に2000年代中盤NYブルックリンから登場した、全員がヴォーカル/ソングライティングをとる3人組による3年半ぶり の4作目。これまで良くも悪くもクラブナイズされたエギゾチカ・ポップ・バンドという印象があったが、本作でシンガロングできるようなキャッチーなものは「DeadS ea S crolls」のみ。先行公開されている「I A mChemistry」も大ヒット・アンセム「O.N.E.」に通じるダイナミックな曲展開を持つが、マッチョな演奏とコーラスでよりトライバルに進化。これまでの作品を昇華しながら有機的なサウンドで彩ったグルーヴの坩堝となっている。新陳代謝の激しいブルックリンだが、アニコレも新作を発表する中でさらなる成熟と進化が見える。

SVIIB

SCHOOL OF SEVEN BELLS

SVIIB

元ON!AIR!LIBRARY!のAlejandraとClaudiaの美人双子姉妹とSECRET MACHINESの元メンバーであるBenjamin Curtisによるドリーム・ポップ・グループ。2010年、2ndアルバムをリリースしたあと、双子の片割れClaudiaが突如脱退。そして、2012年より新作の録音を進めていた中、BenjaminはT細胞性リンパ芽球性リンパ腫を患い2013年、逝去。彼が残した最後の音源を元に完成。"始めから終わりまでラヴ・レター"だという今作は、美しいヴォーカルと浮遊感ただようドリーミーなサウンドが溶け込み、まるで白昼夢を見ているよう。持ち味でもある見事なコーラス・ワークはもちろん、シューゲイザー、エレクトロニックなどを飲み込むSCHOOL OF SEVEN BELLSの集大成となっている。まさにベスト盤だ。

Human Ceremony

SUNFLOWER BEAN

Human Ceremony

特異な音楽的美意識を持つ街ブルックリンから、新星3ピースによる1stアルバム。フロントに立つJulia Cumming(Vo/Ba)はファッション・ブランド"Saint Laurent"などでモデルも務め、トムボーイな容姿でファッション・アイコンとしても注目されている。ニューヨーク・パンクを基調としたソリッドでシンプルなビートだが、サイケなギター・フレーズと、Juliaのベース・ヴォーカルならではの手グセ感のあるメロディアスなベース・ライン、THE CARDIGANSのNina Perssonを思わせるアンニュイな声の奇妙なバランスによってポップたらしめている。昨年ブレイクしたロンドンのWOLF ALICEと双璧を成して、COCTEAU TWINSやTHE BREEDERS、ELASTICAといったフィメイル・オルタナ・ロックの系譜を引き継いでいる。

New Misery

Cullen Omori

New Misery

00年代のUSインディー・ムーヴメントにおいて、徒花的存在感を示したSMITH WESTERNS。そのフロントマン、Cullen Omoriがバンド解散後にソロ名義で完成させた1stアルバムが到着。甘くポップなキッチュさのあるサウンドで、ロックンロールの刹那性を感じさせたバンド時代とは異なり、ソロ第1作では熟達したソングライティングをアピールする。作品の肝となるのはTHE CUREなどにも通じる、あたたかくもメランコリックな80'sシンセ・サウンドを基調とした濃密な音像。喪失感が通奏低音的に響く今作には、ギター・ポップ的な軽快さを覗かせるTrack.3や、英国的な憂いを含んだメロウなTrack.8、サイケな酩酊感のあるTrack.11など、作品性を保ちながらも幅のある楽曲が収録される。気だるげなポップさの中にTHE BEATLESの影がちらつくのがたまらなくいい。

Hills End

DMA’S

Hills End

2015年11月に初来日公演を行ったオーストラリアはシドニー出身の3ピース・バンドによるデビュー・アルバム。主にJohnny Took(Gt)の寝室でレコーディングされたというセルフ・プロデュース作で、前作EPにも収録されており、地元で大ヒットしたというTrack.3「Delete」を始め、Track.4「Too Soon」、Track.5「In The Moment」など、その楽曲には影響を受けたことを公言しているOASISやTHE STONE ROSESを彷彿とさせるウェットさと浮遊感があり耳馴染みが良い。ノイズの洪水に包まれて後半に向けて破壊的な展開をみせるTrack.8「Melbourne」やカオティックなTrack.12「Play It Out」では単なるブリット・ポップのリバイバルに終わらない気概を見せている。ダサかっこいいヴィジュアルも含めて日本で愛される要素満載のバンドだ。

Need Your Light

RA RA RIOT

Need Your Light

ブルックリンのシーンの中でもある種の素朴さとスウィートなキャラクターがRA RA RIOTの作品の人懐こさにも繋がっているのは間違いない。特徴だった弦のパートが後退したのは前作『Beta Love』同様なのだが、VAMPIRE WEEKENDのRostam Batmanglij(Key/Vo)と共作した「Water」の民族性とマンチェ・ビートが融合したような印象的なミディアム・テンポ感や、同じくRostamと共作した「I Need Your Light」での朗らかさとホーリー感が自然と同居する感覚は彼ららしさを残しつつの新機軸。今や常道になった生音とシンセの配分も、彼らの手にかかるとどこか手作り感溢れるものになる。洗練されすぎず、でも今の感覚でポジティヴな感覚を残してくれる、日常への親和性の高い良作。

Songs For Our Mothers

FAT WHITE FAMILY

Songs For Our Mothers

サウス・ロンドンの荒くれもの6人による3年ぶりの2ndアルバム。カントリー・サイケ・ガレージなサウンドとダーティなビートで反体制を歌い、破壊行為もいとわない狂気的なライヴで登場し、瞬く間にオーバーグラウンドまで上り詰めた彼ら。本作でその攻撃性はそのままに、じっくり腰を据えてサウンドを構築していった印象。「Satisfied」では共作にSean Lennonを迎え、キャッチーではあるがダウナーなメロディはまるで荒廃しきったTHE BEATLESの「Yellow Submarine」だ。HOMESHAKE、Travis BretzerなどのMac DeMarco周辺がAORやポップなサウンドで登場する中、彼らと共鳴するローファイな部分はあれど真逆の方向に振り切ってしまった愛すべきチンピラ野郎どもだ。

I Like It When You Sleep, For You Are So Beautiful Yet So Unaware Of It

THE 1975

I Like It When You Sleep, For You Are So Beautiful Yet So Unaware Of It

やたら長いアルバム・タイトルと、グラム・ロックとPRINCEがマリアージュしたような先行配信ナンバー「Love Me」、「Ugh!」が話題で、1月の来日公演も即完売。と、ここまで書いて、今、そんなロック・スターめいた"洋楽バンド"他にいる? と思うわけだ。若干の"暗さ"をマンチェスターという出自と結びつけていた1stと比較すると、今作は前述の2曲を始めとする80sフレイヴァーでミニマル・ファンク調にハジケたポップ・チューンや、USのトレンドであるエレクトロ/R&B、スタジアム・バンドで言えばCOLDPLAYのお株を奪い去りそうなスケール感。しかもシンセ・ポップ経由のドラマチックなナンバーが居並ぶのだから、さらに全世界を魅了する可能性大。サウンドとしてのロックを漂白してもロック的という不思議な作品。

Chaos & The Calm

James Bay

Chaos & The Calm

第58回グラミー賞の"最優秀新人賞"にノミネートされるなど、期待を集めるイギリス出身の新鋭シンガー・ソングライターの日本デビュー・アルバム。同作もすでに全英チャート1位を獲得、"最優秀ロック・アルバム"にもノミネートされているだけあって、さすがにクオリティが高く録音の良さも際立っている。微妙にハスキーな歌声はどこか儚げで、なお且つ情熱的に胸に迫ってくる。Track.2「Hold Back The River」は思わずグッと身を乗り出して聴きたくなるくらい惹きつけられてしまった。アコースティック・ギター中心のサウンドだが、これだけ歌の表現力があれば今後の作品でいろんなアレンジが試せるのではないだろうか。3月に控える初来日公演が楽しみだ。

Curve Of The Earth

MYSTERY JETS

Curve Of The Earth

2000年代半ば、イギリスで起こった空前のインディー・ロック・ブーム のさなかに世に見出された MYSTERY JETS。今年で デビューから10年を迎える彼らが、バンドの成熟を印象づけた前作『Radlands』を最後に古巣"Rough Trade"から離れ、DIYの精神で5作目となるアルバム『Curve OfThe Earth』を完成させた。今作は、ジャケットやそのタイトルから窺わせる通り、70~80年代のプログレッシヴ・ロックの妙味を感じさせるスケールの大きな楽曲が中核を成している。中でも神秘的なムードを纏った「Bombay Blue」、そしてYESやPINK FLOYDの名曲にも比肩するコズミックなメロウさを湛えた「BloodRed Balloon」は今作の白眉と言える。10年のときを経て、頼もしく成長したバンド像を提示する野心作。

Hymns

BLOC PARTY

Hymns

鋭角的なギター・ロック/ポスト・パンクをベースにした、フィジカルなサウンドを聴かせた前作『Four』でロック・シーンに帰還を果たしたBLOC PARTY。彼らの約3年半振り5作目となる今作は、シンセのサウンドが中心に据えられたバンドのイメージを刷新する仕上がりに。リズム隊を一新した新体制ということも大いに関係があるだろうが、性急なビートとアグレッシヴなギター・サウンドは鳴りを潜め、グッとレイドバックしたグルーヴのシンセ・ポップを聴かせる。インディーR&BやUSシンセ・ポップ勢に目配せしたような、ソフト且つモダンなサウンド・アプローチながらも、Kele Okerekeのヴォーカリゼーションによって確固としたBLOC PARTYの音楽として成立しているのが面白い。常に新しい風を吹かせ、変化を求めてきた彼らが辿りついた新境地と言えるアルバムだ。

Adore Life

SAVAGES

Adore Life

色彩を排したモノトーンのポスト・パンク/オルタナティヴ・サウンドで鮮烈な世界デビューを果たしてから早3年。"獰猛"をその名に掲げるライオット・ガールによる2作目となる今作。基本的には前作にあったシンプルで硬派なサウンドに磨きがかかった作品と言えるが、何かをひたすらに渇望するような狂おしさやストイックさは減退。ソリッドで鋭利というよりも、どこかグラマラスで妖しい響きがある。作品名に付せられた"Adore"という言葉や、作中で頻出する"Love"という単語、「When In Love」なんて曲まであることからも、何やらバンドにラディカルな変化があったことを窺わせてならない。そして2015年、傑作というべき2ndアルバムを生み落としたALABAMA SHAKESとの共振性を滲ませるのも気になるポイントだ。だがしかし、頑固一徹に前だけを鋭く見据えるその姿勢にはやはり痺れるほかない。