DISC REVIEW
Overseas
-
!!!
Certified Heavy Kats
2019年夏に8thアルバム『Wallop』をリリースしたばかりの!!!が、1年足らずの新作となるデジタルEPを発表した。今回は『Wallop』のチルな雰囲気を引き継ぎつつ、様々なクラブ・ミュージックをさらに大胆に取り入れた作風に。2ステップ/ガラージの影響が色濃いTrack.1や、ハイテンポでポップなジューク/フットワーク調のTrack.2、ウッド・ベースのリフにハウス・ビートが絶妙に絡みつくTrack.5と、あらゆるスタイルを飲み込みつつ、!!!らしい身も心も揺さぶるようなエネルギーに満ちたトラックを作り上げている。東京やデトロイトなど世界各地の都市名が歌詞に組み込まれた、約7分半の長尺曲で余韻を残しながら締めくくる構成も巧みで、ついリピートしたくなる。
-
Declan McKenna
Zeros
デビューするや否や、矛盾と葛藤に満ちたこの世界を見据えた舌鋒鋭いプロテスト・ソングが歓迎され、社会派と謳われたイギリスのシンガー・ソングライター。デビューから3年。21歳になった彼がリリースした2ndアルバムは、楽曲の多彩さに可能性を見いだした前作から一転、ロックやライヴのエネルギーの影響を受け作り上げた。未来派というか、アートワークにも顕著な、宇宙派ガレージ/サイケなんて言えるサウンドは、巷間言われるDavid BowieやPINK FLOYDなど、かつてのブリット・ポップにも通じるUKロックの伝統が根っこにしっかりと息づき、マニアほど狂喜するに違いない。そういう作品が懐古調にならず、彼ならではと言えるユニークなものになっているところに大きな意味がある。
-
THE BETHS
Jump Rope Gazers
女性ヴォーカル擁するニュージーランドはオークランド出身のバンド、THE BETHSの2ndアルバム。2018年のデビュー・アルバム『Future Me Hates Me』で得た成功への葛藤から生まれたという本作は、前作で見せた躍動感溢れるキュートで軽快なポップ・ロックだけでなく、少しセンチメンタルでアンニュイなムードも併せ持っている。インディー・ロック調のメロウなアレンジが冴える表題曲や、90年代オルタナのような重さとキャッチーさを感じさせる「Acrid」、「Don't Go Away」、しっとりとしたフォーク・サウンドの「Do You Want Me Now」など、ヒネりのきいたコーラスやメロディも含めてバンドとしての着実な成長が詰め込まれている1枚だ。
-
Alec Benjamin
These Two Windows
2018年のシングル「Let Me Down Slowly」がプラチナ・ディスクに認定され、2019年には"SUMMER SONIC"で初来日を果たした注目のSSW、Alec Benjaminのメジャー・デビュー・アルバム。"天使の歌声"と讃えられる透き通った声質は実に魅力たっぷりで、ソフトでローファイな感触で整えられたトラックに、ヒップホップ/レゲエの素養を感じるフロウも随所に織り込まれているのも現代的だ。また自らを"語り手"と称するように、実体験に基づいた精緻な描写の歌詞も聴き応え十分。思春期の揺れ動く心のように、ナイーヴで美しいポップ・ソングが収録されている。日本盤ボーナス・トラックには、コロナ禍における自粛生活やソーシャル・ディスタンスに着想を得た新曲を収録。
-
ERASURE
The Neon
80年代から活動を続ける、Andy Bell(Vo)と元DEPECHE MODEのVince Clarke(Key)によるエレクトロ・ポップ・デュオが、実に18枚目となるアルバムをリリースする。想像上に存在する、光り輝く場所をイメージして制作されたという今作は、そのタイトルの通りに明るく温もりのある作風に仕上がった。軽快なリズムに乗せてピースフルなヴォーカルが響くTrack.1、ホーリーなメロディが印象的なTrack.7と、フロアの光景が脳裏に浮かぶダンサブルできらびやかなシンセ・ポップが収められている。ピアノ伴奏でソフトに歌い上げるバラードのTrack.8も絶妙。コロナ禍を受け、世界や人々の心からもネオンの灯りが消えつつある昨今だからこそ聴きたい1枚だ。
-
Tyler Carter
Moonshine (Acoustic)
メタルコア・バンド、ISSUESのクリーン・ヴォーカルとして知られるTyler Carterが、2019年にリリースしたソロ・デビュー・アルバム『Moonshine』は、彼のR&Bシンガーという側面をフィーチャーした作品だった。本作ではそんな『Moonshine』の楽曲のアコースティック版と、新曲2曲を収録したEPとなっており、スムースで洗練された印象の原曲と比べ、より力強く、いい意味でラフな歌唱を披露していて、また新たなTylerのヴォーカリストとしての魅力が発見できる1枚に仕上がっている。カントリー調に生まれ変わったTrack.5、6などアレンジも秀逸で、自身のルーツだというFLEETWOOD MACの名曲をカバーしたTrack.3は会心の出来だ。
-
THE 1975
Notes On A Conditional Form
2018年の前作『A Brief Inquiry Into Online Relationships』と対になるニュー・アルバム。環境活動家 グレタ・トゥーンベリのスピーチに端を発し、UKガラージ、アンビエント、ヒップホップ、果てはインダストリアル・パンクまで多種多様な音楽的背景、地球温暖化やLGBTQなどの社会的トピックが22曲に詰め込まれ、まるで現代社会の混沌をパッケージしたかのよう。そんな一歩間違えば雑多な作品になりかねない題材を、洗練されたサウンドへと見事にまとめ上げるのがTHE 1975という稀代のバンドのなせる業なのだろう。変化し続ける世界に道標を立て続ける旅のような作品で、それだけにバンド・メンバーへの愛を歌うラスト・トラック「Guys」が胸を打つ。
-
Hayley Williams
Petals For Armor
PARAMOREのシンガー Hayley Williamsの初となるソロ・アルバムは、メンバーも制作に関わっているものの、PARAMOREで築いたオルタナ・ロックの歌姫というパブリック・イメージを覆すような作品となった。アルバムは3部構成で、RADIOHEADやBjörkを髣髴させるダークでウェットな楽曲が並ぶ第1章、80sエレクトロ・ポップを軸に徐々に前向きさを取り戻していく第2章(Track.9には若手女性SSWのスーパー・グループ BOYGENIUSがコーラスで参加)、エレポップ/ファンクに乗せて再び前進していく第3章と、感情の移り変わりとともに多彩なサウンドを展開。Hayleyの歌唱も実に表情豊かで、パーソナルな歌詞と併せて、彼女の新たな側面に触れることができるだろう。
-
AUSTRA
Hirudin
カナダはトロントのヴォーカリスト兼プロデューサー、Katie Austra Stelmanisによるプロジェクトの4thアルバム。タイトルはヒルが吸血の際に分泌する抗凝固剤を指していて、中毒的な関係のメタファーになっているのだとか。Katieのオペラ歌唱を用いた歌声と、ポップ~エレクトロニカを横断するサウンドが織り成すサウンドスケープは神秘的な美を構築していて、誰かのもとを離れる恐怖を歌ったTrack.1から、不思議な作品世界へと聴き手を引きずり込んでいく。揺蕩うようなビートが心地よいTrack.5、子供の合唱がイノセントな雰囲気を醸し出すTrack.8などを経て、シンセとコーラスで浄化されるようなTrack.11でクライマックスを迎える流れも見事。
-
GROUPLOVE
Healer
iPod touchのTVCMソングに使用された「Tongue Tied」でブレイクを果たしたLA出身の米英男女混合5人組バンドが、約3年ぶり4枚目となるアルバムをリリースした。鮮やかなメロディと、タイプの異なる男女ヴォーカルの掛け合いというGROUPLOVEのトレードマークはもちろん健在だが、少し落ち着いた印象も垣間見える。性急なビートとサビのフレーズが耳に残るアッパー・チューンの「Deleter」に始まり、憂いを帯びたギターとキーボードが絡み合う「The Great Unknown」、エモーショナルに死生観を歌い上げる「Burial」と、変幻自在のサウンドでポップネスを響かせる本作は、デビューから10年を迎えたバンドの変化と、新たな側面を見せた1枚と言えるだろう。
-
V.A.
Birds Of Prey: The Album
"スーサイド・スクワッド"でも屈指の人気を誇るスーパー・ヴィランを主役に据えた映画"ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY"のサントラは、ハーレイが作中で結成するガールズ・チームよろしく、個性豊かな女性ミュージシャンが集結。ド派手なアクション・シーンが目に浮かぶような、HALSEYによるヘヴィ・チューンのTrack.8を筆頭に、元FIFTH HARMONYのNORMANIが注目のラッパー MEGAN THEE STALLIONとコラボしたTrack.3、映画に登場する歌姫 ブラックキャナリーがJames BrownをカバーしたTrack.13など、次世代のアーティストが自由に躍動している。劇伴としてだけでなく、今の音楽シーンを知るうえでもおすすめ。
-
NAKED SIX
Lost Art Of Conversation
英国ギター・ロックの伝統を引き継ぐ新たな才能がここに! 3ピースのエネルギッシュなロック・バンド、NAKED SIXのデビュー・アルバムがリリースされた。若者のロック離れなんてなんのその、時代の移り変わりには、必ずロックの芽が息吹く。NAKED SIXのサウンドには、そんな空気を感じさせるパワーがある。根底にはUKギター・ロックのシンプルな魅力がありながら、ガレージ・ロック、オルタナ、パンクなどのアグレッシヴな面も併せ持ち、時折ブルージーで影のある顔ものぞかせる。だが、そんな複雑なことは考えず、頭を空っぽにして楽しめるアルバムだ。その証拠にほら、曲の頭で"ワァーオ、イエー!!"って気持ちよく叫んでる曲が2曲も。今の君に必要なのはこの"ワァーオ、イエー!!"ですよ。
-
GREEN DAY
Father Of All...
期待通り、なのにまったく新しいGREEN DAYがここに! ポップ・パンク/ポップ・ロック・シーンのヒット請負人、Butch Walkerをプロデューサーに迎えた新作。前作が社会的な問題を盛り込みつつ、比較的シンプルなパンク・ロック・スタイルで攻めていたのに対し、今作は遊びの要素がありエンターテイメント性が高い作品となった。ブラック・ミュージックを意識したような裏声を使った歌唱やハンズ・クラップのリズム、そして、それがGREEN DAY節のポップなロックにハマった気持ち良さ。Billie Joe Armstrong(Vo/Gt)の息子、JoeyがSWMRSでレトロな音楽を若い感性で取り入れているし、お互いにいい刺激を与え合っているのかも? なんて考えてしまう。
-
GRIMES
Miss Anthropocene
エキセントリックで刺激的な新世代のポップ・アイコン、GRIMESが気候変動をテーマにした壮大なコンセプト・アルバムを完成させた。"Miss Anthropocene(人新世=人為的要因の気候変動などによってもたらされる想定上の地質時代)"と題された今作は、世界の終焉を楽しむ気候変動の女神をGRIMESが演じ、楽曲制作やプロダクションだけでなく、ヴィジュアル・イメージなど統括的なアートワークをひとりでこなしている。エキゾチックでミステリアスなメロディや、北欧神話のような神秘性を秘めた楽曲のダイナミズム、洗練されたEDMのポップネス、オルタナティヴ・ロック的なギター・サウンドの存在感。それらすべてが不思議な調和で交じり合う未知の感覚が癖になる。
-
LAUV
~How I'm Feeling~
LAを拠点に活動するシンガー・ソングライター、LAUV。耳心地のよい優しいタッチの楽曲と、SNS世代の若者の声を代弁するようなリリックが共感を呼び、新世代ポップ・スターとも称される彼が、初のフル・アルバムをリリースする。すでにヒット・シングルをいくつもリリースしているので、もはやこれが現状のベスト盤と言ってもいいくらいの充実した内容だ。なんでもない日常の美しく煌めく刹那を拾い上げ、そして、危うい心の内を曝け出す、そのピュアな美しさがいい意味でとてつもなくしんどい。穏やかな曲調なのに、冒険心のあるリズムやセクシーなグルーヴで遊び、メロディの美しさを際立たせている。細かい音の使い方やエフェクトのひとつひとつにも神経の行き届いた完成度の高い作品。
-
TAME IMPALA
The Slow Rush
奇才、Kevin Parker(Vo/Gt)率いるオーストラリアのサイケデリック・ロック・バンドがバレンタインデーに新アルバムをドロップ。数々のフェスでヘッドライナーを務めただけでなく、昨年は結婚し、公私共に充実していたKevinが、今作でもすべての楽器を演奏しているほか、ミックスやプロダクションも兼任している。細かいことはいろいろやっているのに、テクニカルな印象というよりは、80'sっぽいアナログなシンセ・サウンドの温かみや、自然と引きずり込まれるような根源的なリズムが印象的。才能が溢れ出すぎて怖いけど、それがちっとも嫌味じゃない、ナチュラルで我が道を行く雰囲気もすごい。TAME IMPALAの真骨頂とも言えるアートを超えたポップの世界をご堪能あれ。
-
STONE TEMPLE PILOTS
Perdida
新ヴォーカリスト Jeff Guttを迎え復活を果たし、2018年にはバンドとして2度目のセルフ・タイトル・アルバムをリリースしたSTONE TEMPLE PILOTS。彼らが現体制2作目のオリジナル・アルバムにして、バンド初となる全編アコースティックの作品を作り上げた。アコースティック・ギターをはじめ、フルートやアルト・サックス、マーキソフォンなどの楽器も取り入れられた、ブルージーな枯れた味わいのサウンドは、スペイン語で"喪失"を意味するタイトルも相まって、バンドが辿ってきた歴史と思わず重ね合わせてしまうような哀愁を帯びている。一方で、温もりのあるJeffの歌声からは希望も感じさせる。過去を受け入れながらも、着実に前へ進んでいくというバンドの意志が窺える作品だ。
-
NEW HOPE CLUB
New Hope Club
イギリスの3人組ポップ・バンド、NEW HOPE CLUB。昨年行った初の単独来日公演も盛況だった彼らが、満を持してデビュー・アルバムをリリース。哀愁を帯びたメロディにR&Bやラテン・ミュージック、エレクトロ・ポップなど様々なダンス・ミュージックを混ぜ合わせ、オリジナルな世界観を作り出している。USっぽいサウンドなのかなと思いきや、シンプルな楽曲の中には、しっかり彼らのバックグラウンドにあるUKロックの片鱗を感じ取ることができる。何しろ若いし顔がいいので、アイドル的な目で見られてしまいそうだが、3人ともマルチ・プレイヤーで、とにかく、ソングライティングのセンスもアレンジメントのセンスも抜群の音楽エリートなので、幅広い世代に聴いてほしい。
-
TONES AND I
The Kids Are Coming
シンプルだが印象的なピアノ・イントロに、一度聴いたら耳から離れない強烈な歌声――「Dance Monkey」が30ヶ国以上のシングル・チャートで1位を獲得し、YouTubeではMVが7億回再生を超えるなど大ヒットを記録している、シンガー・ソングライター Toni Watsonのソロ・プロジェクト TONES AND I。彼女のデビューEPは、その歌声を存分に堪能できる内容に仕上がっている。しっとりと歌い上げるTrack.3、5や、軽快なリズムが心地よいTrack.4など、楽曲ごとに多彩な表情を見せるヴォーカルは、オーストラリアの路上から1年で世界的なスターへと上り詰めた実力を証明している。日本盤には「Dance Monkey」のピアノ弾き語りバージョンも収録。
-
BOMBAY BICYCLE CLUB
Everything Else Has Gone Wrong
3年間の活動休止を経て2019年にシーンへ復帰したロンドン北部出身の4人組インディー・ロック・バンドが、約6年ぶり5枚目となるアルバムをリリースした。ポスト・パンクの影響を受けたギター・ロックに端を発し、静謐なフォークからきらびやかなエレクトロまで、アルバムごとに大胆な変化を見せてきた彼らだが、今回はバンド独自のキャラクターを確立し、全英1位を獲得した前作『So Long, See You Tomorrow』の流れを汲みつつ、より洗練させた音楽性の、まさに復帰作に相応しい内容に。エレクトロニクスとバンド・アンサンブルを巧みに折り重ねた色彩豊かなサウンドと、美メロを紡ぐドリーミーな歌声が生み出すソフトでポップな世界は、何度でも訪れたくなるほどの心地よさだ。
FREE MAGAZINE
-
Cover Artists
ASP
Skream! 2024年09月号