DISC REVIEW
Overseas
-
ALT-J
The Dream
"BRIT Awards"など各賞を受賞してきたUKきってのインディー・バンドでありつつ、ストイックなまでに曲に込める要素をひとつひとつ庭を歩きながら集めるようなスタンスは不変。前作『Relaxer』から約4年半ぶりとなる本作では空間を大きくとりつつ親密さのあるTrack.3もあれば、ドローン・ライクでメランコリックなギターが印象的な導入から、マンチェ・ビートっぽい身体が揺れるセクションに展開するTrack.2もあるし、エレクトロニックな荒野を歩いているなかで上昇するシーケンスに翻弄されるTrack.5もあれば、ダブステップにゴスペル感が融合したTrack.4もある。インディー・ロックの芯の部分と『In Rainbows』期のRADIOHEADが同居したような世間に迎合しない試行が堪能できる。
-
THE WOMBATS
Fix Yourself, Not The World
世界を変えるには、まず自分から――そんなテーマを掲げた本作は、人と人を隔てる昨今の状況はもちろん、バンドにとって大きな挑戦となったリモートでの制作も反映されているのだろう。リヴァプール発の3人組による4年ぶりの新作は、きらびやかなギター・ポップを軸に、チルな雰囲気から壮大なコーラスへと移ろうTrack.5、明るい曲調ながら厭世的な歌詞が刺さるTrack.7、軽快なサウンドが心地いいTrack.11、マイブラを思わせるドリーミーなアウトロのTrack.12など実験的な要素も取り入れながら、"今"の雰囲気を遊び心溢れるキャッチーなサウンドで描いている。バンド初となるUKアルバム・チャート1位を獲得したのも頷ける、この時代を生きる人々にそっと寄り添うような作品だ。
-
BLOOD RED SHOES
Ghosts On Tape
UKブライトン出身の男女オルタナティヴ・ロック・デュオが、約3年ぶり6作目のアルバムを発表。前作『Get Tragic』ではシンセを導入し表現の幅を広げた彼らだが、本作でもその方向性を継承している。荒々しいビートにノイジーなディストーション・ギターのリフを乗せた、バンド本来のサウンドに加えて、ゴス/インダストリアルの影響も感じさせるシンセが退廃的な側面も演出し、ダークなサイケデリアを生み出している。Track.5、9のようにときに激しいシャウトも聴かせるSteven Ansellと、Track.7などで気だるく言葉を紡ぐLaura-Mary Carterという、異なる個性を発揮するヴォーカルも秀逸だ。タイトルどおり音に霊的存在を込めたかのような、緊張感の支配する1枚。
-
THE SHERLOCKS
World I Understand
UKシェフィールド出身の4人組インディー・ロック・バンド THE SHERLOCKSが、ニュー・アルバムをリリース。3枚目となる今作でも変わらず、見た目もサウンドも"これぞまさにUKのバンド"という教科書的なスタイルを貫いている(バンド名もコテコテでいいね(笑)!)。ブリットポップおじさん/おばさんたちが、"ほんと、こういうのでいいんだよ!"と、うんうん頷いちゃう感じ。一曲一曲がキャッチーで親しみやすく、90年代リスペクト的な、少しノスタルジックな響きもいい。捨て曲というか、地味な曲がひとつもなく、丁寧に作られている感じも好印象。奇をてらうでもなく、自分たちの好きなやり方でロックを追求する彼らが、本国でも愛されているのはすごく理解できる。
-
BETWEEN YOU & ME
Armageddon
ポップ・パンクの明るく爽やかなサウンドが前面に押し出されたBETWEEN YOU & MEの2ndアルバム。甘酸っぱい恋心や、SNS時代特有の虚栄心などをテーマに、自分、他人、世界と向き合う現代の若者らしい青さが楽曲の勢いを加速させるが、ラストを飾る「Armageddon」で、本アルバム、そして本楽曲のタイトルが"最終戦争"であることを思い出すことになる。ここまでの9曲とは対照的にゆったりとしたリズム、聴かせるギター・ソロが、現代社会の分断が導く"最終戦争"からの"終末"を見つめるこの曲の儚さ、切なさを引き立たせる。もしいつか"終末"が訪れるなら、この1枚を聴いて、人間関係や見栄に悩んでいたあのころを思い出すのも悪くないだろう。
-
LP(Laura Pergolizzi)
Churches
RihannaやChristina Aguileraなどへの曲提供でも知られるイタリア系のシンガー・ソング・ライターの6thアルバム。ストリーミングで20億回再生を超える彼女の魅力は、ティーンエイジャーのような甘さと繊細さを兼ね備えた耳に残る声と、一気に高音に駆け上がる圧倒的な歌唱力。エレクトロ・ポップな「Goodbye」もあれば、ピアノ・リフで押していくスタンダードなミディアム・ナンバー「Angels」、荘厳なストリングスとスパニッシュ・テイストの生ギターがドラマチックな、EDMをアップデートする「One Last Time」、フォークとオペラが融合したタイトル・チューンなど、凄まじい振り幅も渾身の祈りのごとき歌で束ねきる。ルックスとのギャップにも驚くこと必至。
-
NO ROME
It's All Smiles
フィリピン出身、THE 1975のMatthew Healy(Vo/Gt)に見いだされ現在はロンドンを拠点に活動するNO ROME。CHARLI XCXやA. G. Cookといった名だたるアーティストとのコラボで注目を集める彼の、初となるアルバムが本作だ。共同プロデュースにCHARLI XCX、BON IVERなどを手掛けるBJ BurtonやTHE 1975のGeorge Daniel(Dr)らを迎え、ノイズ・ギターが奏でるオルタナティヴからブレイクビーツによるエモ・ラップ、ベース・ミュージックの要素までシームレスに繋いだサウンドを展開。そこにNO ROMEの憂いを帯びながらもどこか温もりのある歌声が合わさって、センチメンタルながら心地よい世界に浸ることができる。
-
Ed Sheeran
=
"ポケモン GO"との異例のコラボも話題のEd Sheeran。そんな彼の最新作は、"="というタイトルの示す通り、デビュー・アルバム『+』(2011年)から連なるシンボル・アルバム・シリーズの集大成ともなる作品だ。今作は、父となったことをはじめ、この間にプライベートで彼に起こった様々な出来事をテーマとしており、ポジティヴなメッセージと共に人生の美しさを感じられる楽曲が詰まっている。また、喜怒哀楽を表すような、「Shivers」や「Bad Habits」といったダンサブルで艶っぽい魅力のある楽曲もあれば、「First Times」のような涙腺を刺激するアコースティック・ナンバー、「Sandman」のようなかわいらしいポップ・ソングもあるのが面白い。
-
Richard Ashcroft
Acoustic Hymns Vol.1
90年代を代表するロック・バンド、THE VERVEのフロントマンで、ソロでも活躍するRichard Ashcroftが自身のキャリアから12曲を選曲し、アコースティック・バージョンで収録した今作。コロナ禍でのロックダウン規制が緩和されたタイミングでミュージシャンの結束を取り戻すために始めたこのプロジェクト。曲ごとに最適なアレンジを目指したと思われ、名曲「Bittersweet Symphony」は原曲のストリングスの良さを残しつつ、グッと肩の力の抜けたプロダクション。ソロ・キャリアの最初のヒット「A Song For The Lovers」はオーケストレーションとのコラボが優雅だ。盟友、Liam Gallagherとの念願のデュエットが話題のTrack.4には温かさと熱さがこみ上げる。
-
THE WAR ON DRUGS
I Don't Live Here Anymore
USインディー・ロック・シーンの実力派、THE WAR ON DRUGSの4年ぶり5作目のフル・アルバムとなる今作は、約3年という時間をかけてじっくりと楽曲を練り、ADELEの最新作も手掛けたShawn Everettを共同プロデューサーとして迎えて制作された。今作でも、ソングライティングの要を務めるフロントマン Adam Granducielのセンスが光る。派手さのないシンセ使いや、ゆったりとした時間の流れを感じさせるリズム・ライン、そしてAdam特有の力の抜けたヴォーカルも心地よい。そんなどこか懐かしくもあり、タイムレスな魅力を持ったサウンドメイキング、そして普遍的なメロディという、素朴だが奥深い様式美を感じる楽曲の数々は、聴く者を選ばず幅広く愛される作品となるだろう。
-
HONNE
Let's Just Say The World Ended A Week From Now, What Would You Do?
ロンドン出身のエレクトロニック・アーバン・ソウルの名手の新作は長いタイトルが示す通り、ある仮定にもとづいたふたりの物語を軸に展開する。これまでマイナー・キーのメロウで洗練されたネオ・ソウル×エレクトロを持ち味にしてきた彼らが、グッと開かれたトーンのメロディやコードを多用。先行配信された88risingのNIKIをフィーチャーした「Coming Home」や、ブラスが印象的でアップリフティングなニュアンスすらある「Back On Top (Feat. GRIFF)」、デビュー作で2021年のブレイク・アーティストとなったArlo ParksとのTHE CARDIGANSを思わせるナンバー、Sam Smithらとの共作曲など、聴き心地の良さはそのままにポップスの強度を高めた名作。
-
ANGELS AND AIRWAVES
Lifeforms
元BLINK-182のTom DeLongeがフロントマンを務めるバンド、ANGELS AND AIRWAVESの約7年ぶり(=BLINK-182脱退後初)、6作目となるスタジオ・アルバム。UFO研究家でもあるTomの宇宙への憧憬がそのまま音になったような、浮遊感あるスペーシーなオルタナ・ロックを鳴らしてきた彼らだが、今作でもその方向性は健在で、シンセとヴォコーダーを巧みに使ったTrack.1から作品世界へと引き込まれる。重厚なサウンドのTrack.2、軽快なポップ・パンクを奏でるTrack.4、宇宙時代の甘酸っぱいラヴ・ソングなTrack.8など、爽快感のある音像でまとめられたアルバムだ。ポップ・パンクはあんまり......というロック・ファンにもぜひおすすめしたい。
-
THE BAND CAMINO
The Band Camino
2015年にUSテネシー州で結成、2019年のEP『Tryhard』などで早耳リスナーやメディアから注目を集めていたポップ・ロック・トリオが、満を持してのデビュー・アルバムを発表した。バンドのエッジーな部分とソフトなエレクトロを絶妙に融合したアンサンブルに乗せ、タイプの異なるふたりのヴォーカルが抜群のセンスで美しいメロディを歌い上げる楽曲はすでに高い完成度を誇っていて、Track.5やTrack.9ではライヴ・バンドとしても名を馳せる彼ららしいダイナミクスを見せている。80sのダンサブルな雰囲気をまとったTrack.4、アコースティックなバラードのTrack.7など自由度も高く、THE KILLERS、THE 1975らに続くインディー・ロック新世代の筆頭となりそうだ。
-
THE VACCINES
Back In Love City
2011年のデビュー以来日本でも人気を誇るロンドンの5人組ロック・バンド、THE VACCINESがオリジナル・アルバムとしては約3年半ぶりの新作を発表。前作では原点回帰と言うべき泥臭さを持ったギター・ロックを鳴らしていた彼ら。架空の都市をテーマに、RIHANNAなどを手掛けるDaniel Ledinskyをプロデューサーに迎えた今作は、基本姿勢を保ちつつ、80年代シティ・ポップを思わせるジャケットと同様ダンサブルな内容に。裏打ちのビートが夜のネオンとマッチする表題曲に始まり、サーフ・ロックとディスコ・サウンドを絡めたTrack.2、ラウドなギターを響かせるTrack.4、ラテンなメロディもチラつかせるTrack.6など、格段に自由度を広げた楽曲を収めている。
-
LANY
gg bb xx
LAのシンセ・ポップ・バンド LANYが、前作からなんと11ヶ月という短いスパンで新作アルバムをリリース。もともと多作なバンドではあるが、今作に関してはより彼らをクリエイティヴにする状況があったのだろう。前作は、誰もが身近な人との絆の大切さを再確認したパンデミックのなか、自身の家族や育った環境にフォーカスしたアルバム。だが、今作はそういったテーマを設けず、自由に日常を切り取ったのだという。2017年の1stアルバムからヒット作をリリースし続け、大きく動いた日常を自身の中で整理するような意味もあったのかもしれない。そのためか、サウンドのアプローチにも自由度があって、思い出の写真をめくるようなワクワク感がある。魔法のようにカラフルなLANY流ポップをぜひ堪能してほしい。
-
HOMESHAKE
Under The Weather
カナダのシンガー・ソングライター Peter Sagarによるソロ・プロジェクト、HOMESHAKE。Peterは、同じくカナダのシンガー・ソングライターであるMac DeMarcoのライヴ・バンドでギターを担当していたが、このHOMESHAKEに専念するため、そちらの活動からは離れている。そして、そんな彼の描く音楽世界は、ポップで温かみがありつつ、どこか毒っ気もあり、デジタルなサウンドの中に人間味が感じられる。特に、今作では鬱状態にあった2年前の心象風景を描いているということで、晴れやかな内容ではないが、鬱屈した心情を丸みのあるシンセ・ポップに仕立てることで、独特の心地よさを生み出している。深夜にひとりで何も考えず聴くと、疲れた心にほっと休息を与えてくれる作品だ。
-
MÅNESKIN
Teatro D'Ira Vol. I
ABBA、Celine Dionを生んだ欧州最大の音楽の祭典"ユーロヴィジョン・ソング・コンテスト2021"で優勝を果たし、サブスクを中心に一大センセーションを起こしている、平均年齢20歳のイタリアのロック・バンド MÅNESKIN。彼らがブレイク前夜に発表した2ndアルバムが、このたび国内盤でもリリースの運びとなった。優勝への決定打となったロック・アンセムのTrack.1に始まり、ラウドなリフに早口のイタリア語詞でまくし立てるTrack.3、ミニマルな展開から爆発するトラックに官能的な英語詞を乗せたTrack.4などを収録。往年のレジェンドに比肩する華々しさとどこか危険な香り、そしてエネルギーに満ちたサウンドは、まさに時代が求めた新たなロック・スターと言えるだろう。
-
ANDREW W.K.
God Is Partying
パーティーが遠い世界の話となってしまったこのご時世に、我らが"兄貴"ANDREW W.K.が3年ぶり新作を携えて帰ってきた! Napalm Records/メタル・フロンティア移籍作でもある本作。まず再生ボタンを押して耳に入ってくるのは、いつものダミ声ではなく、まるでBruce SpringsteenかRonnie James Dioかと思うような唄心あふれるヴォーカル。モダンなオルタナ・ロックにキーボードがきらびやかな80年代ハード・ロックの雰囲気を足したアンサンブルが、この歌声と見事にマッチしていて、まさに新境地の壮大で重厚なロック・オペラを堪能することができる。重厚になった反面やや薄れたパーティー感を見事に補ってくれる、アッパーなボートラも要チェック。
-
MEET ME @ THE ALTAR
Model Citizen
米フロリダを拠点に活動する若きポップ・パンク・トリオが、老舗名門レーベル Fueled By Ramenからメジャー・デビューEPをリリースした。"ポップ・パンク・バンドがもっと世に出るべき!"という想いで結成されたという彼女たち。先行公開された「Feel A Thing」、「Brighter Days (Are Before Us)」を筆頭に、威勢のいいアグレッシヴなサウンドに、Edith Johnsonの力強く瑞々しい歌声が輝くカラッとしたロックを響かせている。キャッチー且つオーソドックスな中に、活気に満ちたエネルギーが凝縮され、ユニークなフレーズが仕掛けられた楽曲は、3人と同世代の若者だけでなく、幅広い世代の心を捉え"明るい未来"を信じさせてくれそうだ。
-
Paul McCartney(V.A.)
McCartney III Imagined
Paul McCartneyが2020年に発表した『McCartney III』は、(RockとLockdownをかけた)"Rockdown"のなかで彼がひとり生み出した作品だった。その収録曲を、Damon Albarn、BECK、Josh Homme、Ed O'BrienといったPaul自ら選んだ錚々たるアーティストたちがカバー/リミックスしたのが本アルバムだ。自らのカラーを存分に発揮したアレンジや、意表を突くトラックもあれば、キャリアへリスペクトを込めたようなカバーまで、楽曲はまさに十人十色。『McCartney III』が内なる世界への探求だとすれば、本作は人と人の繋がりで生まれる無限の化学反応を示しているかのよう。それぞれ聴き比べるのも面白い。
FREE MAGAZINE
-
Cover Artists
ASP
Skream! 2024年09月号