DISC REVIEW
Overseas
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TONES AND I
Welcome To The Madhouse
2019年発表の「Dance Monkey」が70億回再生を突破するバイラル・ヒットを記録し、オーストラリアの路上ライヴから世界を舞台に活躍するようになったTONES AND I。そんな彼女の1stアルバムは、活動当初のバンで寝泊まりしていた日々や、ロックダウン中の生活、そして親友"T"の死など、自身にまつわる様々な事柄を題材にした楽曲を収録。ピアノの旋律が耳を惹くポップ・サウンドを軸に、一度聴いたら虜になる持ち前の歌声を深化させ、より幅広い表現を聴かせている。脱力したビートで"成功"後の変化を皮肉るTrack.4、コーラスを従え伸びやかに歌い上げるTrack.5、心躍るサウンドで前向きなメッセージを伝えるTrack.11など、彼女の世界観をまるごと詰め込んだような1枚。
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INHALER
It Won't Always Be Like This
ダブリン発4ピースのデビュー作。NOEL GALLAGHER'S HIGH FLYING BIRDSやTHE COURTEENERSのサポート・アクトを務め、様々なミュージック・アワードでノミネートされるなど王道"ロック・バンド"の登場と高まるなか発表された今作は、アイルランドのバンドとして13年ぶりにデビュー作で全英チャート1位を獲得した。骨太さも繊細さも併せ持ったギター・サウンドからは、THE CUREやJOY DIVISIONの香りが立ち上る。アレンジは雰囲気的だったり冗長だったりする装飾がなく、細やかに音が構築された心地よい緊張感が全体を貫いているのがいい。ソウルフルなグルーヴを帯びたヴォーカルがサウンドに色味を添え華やかに躍動させる。音の一体感、それが呼ぶカタルシスがある。
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MAROON 5
Jordi
2017年の前作『Red Pill Blues』リリース後に亡くなった、バンドのマネージャーでAdam Levine(Vo)の幼馴染でもあったジョーダン・フェルドスタインに捧げられ、彼のニックネームを冠したアルバム。ヒット曲「Memories」を中心に、全体的に哀しみを湛えたムードの本作は、トラップ・ビートや温度感の低いエレクトロ・サウンドも相まって、落ち着いた音像に。誰もが不安や喪失感を抱えた時代にそっと寄り添い、包み込んで癒すような優しさが伝わってくる。巧みなフロウを聴かせるMEGAN THEE STALLION、Adamとのデュエットを響かせるH.E.R.、そしてStevie Nicks(FLEETWOOD MAC/Vo)や故JUICE WRLDなど、客演も豪華だ。
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NOEL GALLAGHER'S HIGH FLYING BIRDS
Back The Way We Came: Vol 1 (2011 - 2021)
ソロ10周年を機にNoel Gallagher自らが選曲したベスト。OASISのメロディ、ソングライト、アンサンブルの要である彼のDNAはギターの一音、第一声に宿り哀愁を帯び、だからこそどんな人にも優しく腹の底から力を漲らせる。DISC1は1st、2nd中心の選曲でブリティッシュ・ロックのエキスが充満。ラストにはそれにしっくりハマる新曲「We're On Our Way Now」を収録。DISC2はエレクトロやフレンチ・サイケデリック・ポップなどを貪欲に消化した3rdや2019年の『Black Star Dancing EP』などからチャレンジングなスタンスを感じさせる曲を収めた。ボーナス・トラックには"FUJI ROCK FESTIVAL 2012"ライヴ音源も。あの日が甦る。
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AFI
Bodies
結成30周年を迎えるAFIの、4年ぶり11作目となる最新作。パンク/ハードコア・シーンに芽を出し、エモやゴス/インダストリアル、ポスト・パンク/ニュー・ウェーヴなど果敢に自らをアップデートしてきた彼らだが、今作ではそうした要素がバランス良く表出した印象。Track.1、2のような耽美さを湛えながら疾走するナンバーを中心に、Davey Havokが妖しげなヴォーカルを聴かせるTrack.3、退廃的なビートに壮大なコーラスが絡むTrack.7、荒々しくうなるギターがエネルギッシュなTrack.10、実験的なテイストも持ったTrack.11まで、進化と成熟の両方を高いレベルで提示している。オルタナティヴなロックからパンクまで、幅広いリスナーのツボを刺激しそうな快作だ。
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TWENTY ONE PILOTS
Scaled And Icy
"scaled back and isolated(規模縮小、隔離)"をもじったタイトルが付けられた3年ぶり最新作は、パンデミックの最中にメンバーふたりの遠距離制作で完成された。前作『Trench』はダークな要素も色濃かったが、今作は制作時の不安に満ちた世相への反動からか、ポジティヴでカラフルな雰囲気だ。瑞々しいピアノが心躍らせるTrack.1に始まり、ポップな中に衝動も覗かせるTrack.3、軽快なビートにあの頃の週末が恋しくなるTrack.5、ふたりの絆を爽快ながら切ないトラックで歌ったTrack.8、TOPらしいトラップ調のTrack.10と、古今のポップ・サウンドを昇華した普遍的な魅力を放つ楽曲は、人々の心に長きにわたって優しく寄り添うことだろう。
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WEEZER
Van Weezer
Rivers Cuomo(Vo/Gt)をはじめ、メンバーが影響を受けた'80sヘヴィ・メタルにオマージュを捧げた15thアルバム。VAN HALENやOzzy Osbourneの曲から拝借した超有名ギター・フレーズなど、デビュー作から表れていたメタルの影響をいつも以上に際立たせたところ、バンドが持つギター・オリエンテッドなロックの魅力を今一度アピールする作品になったところがメタル云々以上に一番の聴きどころになっている。デビュー作や"ザ・グリーン・アルバム"を連想させる曲の数々はある意味、原点回帰と言ってもいいかもしれない。故Eddie Van Halen(VAN HALEN/Gt)と共に、その2枚をプロデュースした故Ric Ocasekに本作が捧げられていることも大いに頷ける。
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THE BLACK KEYS
Delta Kream
2019年の前作『Let's Rock』も好調なセールスを記録し、名実ともに現行のアメリカン・ロックの代表格に君臨するTHE BLACK KEYS。彼らの10作目となるアルバムでは、音楽的ルーツである"ヒル・カントリー・ブルース"のナンバーを大御所ミュージシャンたちとカバー。反復しながらジワジワとコードを展開していくギターと、ビートを強調したパーカッションが織りなすグルーヴが特徴のスタイルだが、それをTHE BLACK KEYS印の骨太なロック・サウンドで鳴らすことで、サイケデリックな感覚を湛えた、心地よい泥沼へとゆっくり引き込まれるような陶酔的な作品に仕上がっている。脱力感と緊張が同居した、生々しいジャム・セッションを余すところなく伝える音像も秀逸。
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THE OFFSPRING
Let The Bad Times Roll
90年代からメロコア・シーンを牽引してきたTHE OFFSPRINGの、約9年ぶり10作目となるニュー・アルバム。ここ最近のアルバムではシリアスな側面が目立っていたが、今回はオフスプらしい皮肉たっぷりのユーモア・センスもしっかり効いた作風に。リラックスした雰囲気とハードなギター・サウンドが同居する表題曲をはじめ、スウィンギンなホーンが炸裂するTrack.7、初期を思わせるファストなパンク・チューンや、名曲「Gone Away」のピアノ・アレンジ版など、約33分の本編に魅力をグッと凝縮。世界の問題を反映した歌詞はダークで痛烈だが、それをキャッチーなメロディと力強いサウンドへと昇華した楽曲からは、この苦境に前向きに立ち向かっていこうというパンク・スピリットが見て取れる。
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FITZ
Head Up High
「Handclap」がワークアウト動画で話題となったFITZ AND THE TANTRUMSの、フロントマン Michael Fitzpatrickがなんと50歳にしてソロ・デビュー。彼自身はもともとソロ活動を考えていたわけではなかったようだが、自粛期間中、今作のアイディアが誕生したという。世界が混乱と悲しみに沈み込むなかにおいて、どうしてこんなにもポジティヴなヴァイブスに満ちた作品が誕生したのだろう。今作は、まさにそんな奇跡のようなアルバムだ。ここに収録されている楽曲の数々は最高にポップで、ダンサブルで、もちろんFITZ AND THE TANTRUMSでやってもいいスタイルではあるが、バンドの持つ派手なグルーヴとは違った、パーソナルなノリが親しみやすさをもたらしている。
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THE SNUTS
W.L.
2015年の結成以来、ライヴ活動やシングル・リリースなどで徐々にファン・ベースを拡大してきたスコットランド出身の4人組、THE SNUTSが待望の1stアルバムを発表。すでにUKチャートでは1位を獲得している本作だが、その注目度の高さにも納得の楽曲がひしめく1枚だ。たおやかなオープニングから始まり、耳に残るフレーズが印象的なTrack.2、エネルギッシュなリフを鳴らすTrack.6、荒々しく弾けるパンク・チューンのTrack.10、壮大なラスト・ナンバーのTrack.13と、インディー・ロックやダンス・ミュージックを俯瞰で解釈したような、踊れるロック・サウンドを展開。デビュー作ながら、今後のUKロックを背負って立つほどの存在となるポテンシャルを感じさせる。
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KINGS OF LEON
When You See Yourself
米ナッシュビル出身4人組の、約5年ぶり8枚目となるアルバム。初の全米アルバム・チャート1位を獲得した前作『Walls』から引き続き、プロデューサーにARCADE FIREやCOLDPLAYを手掛けたMarkus Dravsを迎えているが、きらびやかなディスコ・チューンや疾走感のあるギター・ロックなど華美な印象だった前作に比べると、静かに聴かせる曲も多く、アダルトで落ち着いた雰囲気に。そのぶん、いなたいグルーヴを聴かせる楽器陣と、クセのある歌声で紡がれるどこか切ないメロディが主張していて、じわじわと温かく心地よい音世界に包まれていくかのよう。飾らない、等身大で素朴な姿で聴き手に寄り添う本作は、依然として家で過ごすことの多い今にも合っている気がする。
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Lana Del Rey
Chemtrails Over The Country Club
郷愁と憂いの時を誘う歌声、気だるそうに問わず語りするようなヴォーカルは、虚ろであり同時に甘美な空気を纏う。そんな歌は今作でも健在だ。グラミー賞の最優秀アルバムにノミネートされた前作『Norman fucking Rockwell!』から1年半ぶりで、前作同様Jack Antonoff(FUN. etc.)とのタッグで作り上げた。Taylor Swiftなど女性アーティストの作品を多く手掛け、それぞれの独自性を引き出しつつヒット作品に結びつける手腕は大きく、LANA DEL REYもまた信頼を置いているのだろう。生楽器で丁寧に作り込まれて、必要最小限という趣だけれども彼女のムード、紡ぎ出す言葉の余韻となってその曲を深く色づけている。クラシカルだが、随所で効いた音の遊びが彼女のポップ性とマッチしている。
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SOUNDGARDEN
No One Sings Like You Anymore
2017年にこの世を去ったChris Cornell。彼が生前最後に制作したスタジオ・アルバムは、John LennonやGUNS N' ROSES、ELOなど影響を受けたアーティストの10曲を、プロデューサーとともに演奏し自ら曲順まで決定したというカバー集だ。ソフトで親しみやすいアレンジは、その哀愁漂うしゃがれた歌声を痛烈なほどに際立たせていて、今となっては彼からのメッセージのようにも受け取れるTrack.1から、心揺さぶる絶唱を聴かせるラスト・トラックまで、SOUNDGARDENの楽曲の一節から名付けられたタイトルのとおり、彼がまさに唯一無二のシンガーだったことを再確認させられる。少しでも彼の作品に触れたことがあるなら、ぜひ手にとってほしい1枚だ。
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THE WHITE STRIPES
The White Stripes Greatest Hits
"なぜ今、THE WHITE STRIPES?"と思った方も多いだろう。"再結成でもするの?"と。残念ながら今のところその予定はないようだが、なんと初となるベスト・アルバムがリリースされた。改めて彼らの楽曲を聴いて驚かされるのは、色褪せることのないそのド直球なロック魂だ。純粋に、ただただひたすらカッコいい。クセのあるJack Whiteのギターはもちろんのこと、情熱と音楽への欲だけで叩いているようなシンプルなMeg Whiteのドラムも、唯一無二の彼らだけの世界観だ。ふたりだけの世界だからこその、衝突するような危うさや絶妙なバランス感覚。このベスト盤で、ロックンロール・リバイバル・ブームを知らない世代にも彼らの存在が広く再認識されれば嬉しいし、再結成されたらもっと最高だ。
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SIA
Music - Songs From And Inspired By The Motion Picture
ミステリアスなウィッグがトレードマークの歌姫、SIA。RIHANNAやBEYONCE、Katy Perryなどへの楽曲提供でも知られ、多くの作品でグラミー賞にノミネートされている彼女が、約3年ぶりとなるニュー・アルバムをリリースした。今作はタイトルが示す通り、自身が初めてメガホンをとった映画"Music"のサウンドトラックであり、そのストーリーからインスパイアされた楽曲を収録したもの。そのためアルバム全体を通してドラマチックな空気感を楽しめるし、ノリのいいダンス・チューンやストリングスを用いた壮大な楽曲など、個々の楽曲を聴いてみてもそのひとつひとつが完成された物語のようでもある。シンガー、ソングライター、プロデューサーとして、多角的な才能を持つ彼女を象徴するような作品。
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CLAP YOUR HANDS SAY YEAH
New Fragility
現在はフロントマン Alec Ounsworthの実質的なソロ・プロジェクトとして活動しているCYHSYの、約4年ぶり6作目となるアルバム。現代社会が抱える"新たな脆弱性"について歌った本作は、フォーキーなインディー・ロックを基調に、優しいドリーミーなポップ、そして叙情的なストリングスが同居した、どこか陰りのある作風だ。神秘的なコーラスとともに銃乱射事件の悲劇を歌い上げるTrack.2、1stアルバムのヒットで一変した生活を軽快なビートとどこか不安を煽る旋律で表現したTrack.7など、トレードマークであるヘロヘロとした歌声で紡がれる美しいメロディが、緻密なアレンジで引き立てられていて、CYHSYの作品群の中でもひと際切なく胸を打つアルバムと言えるだろう。
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FOO FIGHTERS
Medicine At Midnight
結成25周年を迎えてなお、斬新なサウンドを開拓し続けるFOO FIGHTERSが、踊れるロック・サウンドを追求した今作。もちろん、これまで同様フーファイらしいメロディや、骨太なロックンロール・サウンドは健在だが、今作ではそこにさらに軽快なリズムやセクシーなグルーヴをプラスし、聴けばもれなく身体が揺れるようなサウンドができあがった。また、パーティーで盛り上がるような楽曲にも、アコースティックでしっとりと癒されるような楽曲にも、FOO FIGHTERSが駆け抜けてきたロックの歴史と、バンドが掴み取ってきた彼らだけの表現というエッセンスが入り混じっていて、新鮮でありながら懐かしさも感じられる作品となっている。あらゆる世代のロック・ファンに楽しんでほしい。
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WHY DON'T WE
The Good Times And The Bad Ones
2016年の結成以降、高い表現力と端正なルックスで人気を博し、新世代のボーイズ・グループとして確固たる地位を築いたWHY DON'T WE。約9ヶ月に及ぶ休止期間を経て、自ら演奏する"バンド"として表舞台に戻ってきた彼らが、待望の2ndアルバムを発表した。新章の開幕を告げる力強いビートのTrack.1を皮切りに、スマパン「1979」をサンプリングした爽快なTrack.2(BLINK-182のTravis Barkerもドラムで参加)、SKRILLEXが手掛けたチルなトラックのTrack.7などのポップなサウンドから、抜群の歌唱力が際立つ壮大なバラードのTrack.6まで、メンバーがプロデュース/作詞作曲を手掛けた楽曲は実にバリエーション豊か。確かな成長を感じる1枚だ。
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RHYE
Home
中性的な声質が特徴のヴォーカルで、"男性版SADE"などとも表現されてきたMichael Miloshのプロジェクト RHYEの最新作。今作では、特にステイホームでもゆったり踊れるようなナンバーが揃い、しっとりしたグルーヴ感に身を委ね、身体を揺らしたくなるような1枚だ。ジャズやフュージョンなどを今っぽい空気感で取り入れ、聴きやすい都会的なポップスに仕立てつつ、マニアックな質感を残しているところは、先天的な彼のセンスによるものだろう。また、どこか神秘的な響きのあるコーラスなどにも引き込まれるものがあり、シンプルながら重厚感がある。自身で手掛けているアートワークの写真やMVにも統一された世界観があり、あえてレトロな風合いを出したアーティスティックな世界観を丸ごと楽しみたい。
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