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DISC REVIEW

Overseas

Everything Is Alive

SLOWDIVE

Everything Is Alive

90年代にシューゲイザー・シーンの最盛期を牽引したSLOWDIVEが、再結成後2作目となるアルバムをリリース。復活でファンを歓喜させた前作『Slowdive』(2017年)に引き続き今作も、様々な音楽経験と共に人生経験も積んだメンバーの、しっかりとした音楽観を受け取ることができる良作となっている。シューゲイザーというジャンルの中でも特に、激しい感情を伏せた繊細な音の蓄積が印象的。浮遊感のあるヴォーカルは、薄いヴェールを幾重にもレイヤードしたような、優しい透明感と重厚感が共存している。"FUJI ROCK FESTIVAL '23"での来日も記憶に新しいSLOWDIVEだが、派手さよりも素直な美しさで世界を表現する彼らのサウンドが、今後も途絶えないことを祈る。

The Ballad Of Darren

BLUR

The Ballad Of Darren

正直、今年の"SUMMER SONIC"の大トリが発表されたときは若干の不安があったがこのアルバムでそんなものは吹き飛んだ。すでに絶賛されているこの8年ぶりのオリジナル・アルバムの魅力は傑作『Modern Life Is Rubbish』(1993年)以来のほぼメンバーのみで作り上げたサウンドなこと。英国的な捻ったセンスはギターのGraham Coxonの個性によるところが大きいが、今回のインディー・ギター・ロック・サウンドはまさにそれだ。Track.2のニヒル且つユーモラスなギター・リフ、Track.11の少し調子っぱずれなギター・リフなど、これぞUKのギター・ロックだ。斬新さはないけれど、いいギターの音といい歌メロと悲哀とロマンはこんなにもエモーショナル。サマソニでは過去曲との親和性の高さを実証しそう。

Austin

Post Malone

Austin

ラッパーにしてシンガー・ソングライター、ジャンルにとらわれないコラボレーションで世界を席巻する、Post Malone。そんな彼の5作目となるアルバムは、彼の本名を冠したタイトル"Austin"が表す通り、彼自身の内面にフォーカスした作品となっている。破天荒なラッパーでありながら、耳に残りやすいメロディ性、ポップでスタイリッシュなアレンジなど、親しみやすさが人気のPost Maloneらしさはそのままに、新曲はさらにエモーショナルな方向に一歩踏み込んだ印象。アルバム全編にわたって自らギターを弾くというチャレンジもあり、ただただシンプルに演奏を楽しんでいる様子が伝わってくるようなワクワク感もある。規模の大きな野外会場で聴いたら、本当に最高な時間になるだろうな、という想像も含めて楽しめる作品。

Exorcism Of Youth

THE VIEW

Exorcism Of Youth

昨年2022年に5年ぶりの再結成を果たしたTHE VIEWの、8年ぶりとなるフル・アルバム。3rdアルバム『Bread And Circuses』(2011年)を手掛けたYouthが再びプロデューサーとなっていることからも感じられるが、ファンキーだったりソウルフルだったり、ルーツを掘り下げるようなサウンドを意識していた前作からは一変、ブリティッシュ・ロックのピュアな魅力が前面に際立った作品だ。それでいながら、ヴォーカルひとつとってもかなり洗練された印象で、原点回帰というよりは、自分たちの強みを上手く進化させたサウンド。サウンドの変遷と、バンドとしての紆余曲折、世の中の移り変わり、すべてを通過して今がTHE VIEWにとってベストな時期、と感じさせるような説得力のあるアルバムだ。

Mystical Magical Rhythmical Radical Ride

Jason Mraz

Mystical Magical Rhythmical Radical Ride

Jason Mrazが3年ぶり通算8作目となるアルバムを発売した。前作ではレゲエという分野も開拓し、自身の新たな可能性を引き出した彼だが、今作は純粋なポップ・アルバムとして、ポップ・センスに磨きをかけた形だ。ファンキーなビートの効いたダンサブルな楽曲、甘い歌声にとろけそうなスロー・ナンバーなど、カラフルに彩られた収録曲はどれも粒揃いで魅力的。特にTrack.2は、早口に刻むヴォーカルがひとつの楽器のように曲に馴染み、自然と身体が動くようなグルーヴが印象的なナンバー。この作品はマジカルでミステリアスで過激な人生を乗りこなすためのサウンドトラックだ。自身の変化に富んだ人生をポジティヴなポップ・ソングに昇華させた本作で、彼はソングライターとしてさらなる成長と、衰えない創造性を感じさせてくれた。

The Good Witch

Maisie Peters

The Good Witch

Ed Sheeranが主宰するレーベル Gingerbread Man Recordsと契約し、ますます勢いに乗るUKの新世代ポップ・シンガー、Maisie Petersが2ndアルバムとなる新作をリリース。等身大の日常や失恋を飾らない言葉で描きながらも、それをドラマチックにパッケージするポップスの魔法使い、まさにリスナーにとって彼女はタイトル通りの"The Good Witch(いい魔法使い)"だ。安定感があり力の入りすぎないヴォーカル・スタイルも彼女らしく、気軽に聴けるポップ・ソングとしての魅力を存分に引き出す要素のひとつとなっている。また、バックを飾る90年代っぽいちょっとレトロなシンセも、楽曲をかわいらしく装飾しオシャレに仕立てていて高評価。

Lost In Translation

VALLEY

Lost In Translation

「Like 1999」がTikTokを中心に日本でもヒット、8月には初の来日公演を控えるカナダのオルタナ・ポップ・バンド、VALLEY。TikTokユーザーの心を掴んだ心地よいメロディや男女2声の柔らかなハーモニーはこの2ndアルバムでも堪能することができるが、ノリのいいポップ・ソングだけでなく、鳥のさえずりが聞こえるような落ち着いた楽曲も。不思議な浮遊感漂うサウンドや時折見せるヴォーカルの儚げな表情は、ポップさの中にノスタルジーを感じさせる。そして「Fishbowl」では、物語の終わりを告げ新たな世界へ誘うような壮大なストリングスが広がる。ロマンチックな愛の歌に前向きな失恋ソング、募る後悔を歌うナンバーまで、無邪気な青春を駆け抜け少し大人になった20代の心の機微を映す1枚。

Council Skies

NOEL GALLAGHER’S HIGH FLYING BIRDS

Council Skies

コロナ禍に地元UKに初めてプライベート・スタジオを作ったという事実がなんともNoelらしい。少年の頃の夢も挫折も染みついた場所で地に足を着け、ソロ・キャリア10年を超えて新たなストーリーを生み出そうというのだから。エレクトロやソウルなど驚きに満ちていた前作のパッションは今作で"これぞUK"なメロディ、円熟したアンサンブルや繊細なストリングス・アレンジにその情熱の矛先を転じた印象だ。Johnny Marrのリリカルなギターが堪能できる「Pretty Boy」、サイケデリック且つロマンチックな導入に目の前の世界が変容する「Dead To The World」、パーカッションがラウンジなムードを醸すタイトル・チューンなど、どの曲も体験的。単なる原点回帰に止まらない発想の豊かさに唸る。

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Ed Sheeran

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10年にわたりリリースしてきた"マスマティックス・プロジェクト"の最終作『-』。妊娠中の妻のガン発覚、親友の急逝、盗作疑惑による裁判と、世界的スターに襲い掛かった数々の苦難は、想像もできないほどの大きな不安や悲しみと同時に、かすかな希望を灯す温かな楽曲たちを生み出した。Aaron Dessner(THE NATIONAL/Gt/Key)とタッグを組み制作された本作は、切実な言葉たちを際立たせるように全体的にシンプルな仕上がりに。柔らかなコーラスやオーケストラによるアレンジは、聴く者の心を浄化するように染み入る。彼自身を救うために曲の中で打ち明けられた苦しみや葛藤。乗り越えようとするのではなく、マイナスな感情も包み込むように抱き共に生きていく、そんな様々な経験を経た彼が行き着いた答えが刻まれている。

Heavy Hymnal

VINTAGE TROUBLE

Heavy Hymnal

ソウル・ミュージック界隈だけでなく、ロック・シーンでも熱視線を浴びるバンド、VINTAGE TROUBLEの3rdアルバム。ノリやすいファンキーなサウンドに、ライヴ感のある躍動的な演奏スタイル、リード・シンガー Ty Taylorの柔軟性のある歌声が特徴的だ。思わず聴き入ってしまうようなバラードも、自然と身体が動くファンキーでノリノリな楽曲も、伝統的なソウル・サウンドを大切にしつつ、フレッシュ感のある音作りが光り、聴きやすくアレンジされている。また、ゲスト・ヴォーカルとして参加しているLAのソウル・シンガー LADY BLACKBIRDのスモーキー且つソウルフルな歌声は、VINTAGE TROUBLEのブルージーで温かみのあるサウンドとも相性バツグン。

First Two Pages Of Frankenstein

THE NATIONAL

First Two Pages Of Frankenstein

USインディー・シーンでもっとも愛されているバンドのひとつ、THE NATIONALの通算9作目となるアルバム。嫌味のないソフトなメロディと、透き通るように繊細なハーモニーなど、独特の儚げな響きにはあまりの美しさに胸がギュッと締めつけられる。また、インディー・ロック職人のこだわりが感じられる、耳に残るようなアナログ感のある音作りが、楽曲に深みを与えている。さらに、今作にはゲスト・アーティストとして、幅広い世代から愛されるポップ・アイコン Taylor Swiftや、インディー・ロック・シーンの新星 Phoebe Bridgers、過去にも共演しているSufjan Stevensといった、新旧の盟友たちが参加。多くのミュージシャンから敬愛されるTHE NATIONALならではの豪華な顔ぶれだ。

Plastic Eternity

MUDHONEY

Plastic Eternity

グランジの先駆的存在であり、Sub Popの看板バンドのひとつでもある、MUDHONEY。そんな彼らの11枚目のアルバムは、絶好調にアングラで尖っていて、最高にアグレッシヴだ。洗練されすぎない泥臭さのあるサウンドと、メンバーそれぞれ40年近くの音楽活動歴を持つベテランならではの安定感のある演奏が、絶妙な世界観を生み出している。オルタナというジャンルが古臭く聴こえるような昨今でさえ、Mark Armの吐き捨てるようなヴォーカルやMUDHONEYの叩きつけるような演奏には、衰退したカルチャーの響きはなく、我が道を行く存在としての輝きが見える。むしろ、今作のように純粋な本能で作られた音楽こそ、怒りや感情の爆発を抑え込んでしまっている現代の若者に必要な音楽なんじゃないか。

How To Let Go(Japan Edition)

SIGRID

How To Let Go(Japan Edition)

世界を魅了するモダン・ポップスの潮流がノルウェーから日本へ。ヒット曲をふんだんに詰め込んだ今作で、SIGRIDがついに日本デビューを果たした。本国ノルウェーはもちろん、UKを中心にヨーロッパで高く評価されている、キャッチーな音楽性と清涼感のあるヴォーカル。ワンフレーズ聴けば一瞬で"これは好きなやつ!"と即答できそうなくらいに心地よい。普遍性のある都会的なポップスでありながら、北欧の大自然の空気を感じる、この爽やかさ。さらにBRING ME THE HORIZONとコラボしたエモーショナルな楽曲も。飾らないひとりの女性の等身大の気持ちが描かれたリリックもあいまって、肩肘張らずにリラックスして聴くことができる。よく晴れた日にビール片手に聴くのに最適な1枚。

Superglue

JOAN

Superglue

80年代エレポップを基調とした楽曲が本国のみならずアジア圏でも話題を集め、2022年11月には初来日公演を開催したUSオルタナティヴ・ポップ・デュオのJOAN。彼らの初となるアルバムは、親しみやすいソフトなメロディという持ち味はそのままに、進化と成熟も垣間見える作品になっている。サウンドもさらなる広がりを見せ、00年代のポップ・パンクを思わせる「Loner」や、アコギとストリングスのアレンジが沁みる「Monsters」、甘酸っぱく切ない「Flowers」など粒揃いの楽曲を収録している。メンバーそれぞれが父親になった経験を反映した、壮大なラスト・ナンバー「Superglue」は白眉だ。この普遍的なポップ・サウンドは、洋楽ボーイズ・グループをよく聴いていたという人にもおすすめしたい。

So Much (For) Stardust

FALL OUT BOY

So Much (For) Stardust

ロック・シーンの最前線を走り続けてきたFOBが、ついに今年デビュー20周年を迎える。今作は、そんなアニバーサリーに相応しく原点である古巣 Fueled By Ramenに帰還し、さらには初期の3作品を手掛けたNeal Avronをプロデューサーに迎えて制作された。そんな経緯もあって、前作『M A N I A』(2018年)のようなEDMを強く意識したアプローチは少し抑えめに、どちらかと言えば『Infinity On High』(2007年)や『Folie À Deux』(2008年)あたりのような、バンド演奏に主軸を置いたグルーヴィでダンサブルなロックを貫いている。加えてシンセ・アレンジや壮大なオーケストレーションを盛り込むことで、アップデートされたFOBを印象づける作品となった。

How Many Dreams?

DMA’S

How Many Dreams?

幸福感溢れるシャイニーなギター&エレクトロの洪水の中で、"How many dreams"のリフレインが響くタイトル曲で始まる、豪州発バンド DMA'Sの4thアルバム。90年代UKロック、シューゲイザーなどをルーツにし、ブリットポップの再来と評されたそのサウンドが磨かれたのはもちろん、甘めのメロディ&歌や曲を印象づけるリフの存在感、キャッチーさが際立っている。その骨格が美しいからこそ、どんな装飾やアレンジも映える。Rich Costey(SIGUR RÓS/MUSE etc.)とKonstantin Kersting(TONES AND I etc.)がプロデュースしたシングル「I Don't Need To Hide」での、ミニマルで恍惚感のあるダンサブルなサウンドから、OASIS直系の「Forever」、ポップでサイケデリックな「De Carle」など、新しさとどこか懐かしさがある、いい香りがする作品。

Cracker Island

GORILLAZ

Cracker Island

通算8作目となるGORILLAZのフル・アルバムは、リアルと虚構が錯綜する浮遊感、幸福と哀しみがミックスされたような世界観で、時代が求める甘い救いとビターな代償が音楽で表現されている。時代を先取りしてきたバーチャル・バンドという存在である彼らが描くことによって、それらはより意味深いものになるだろう。フックのあるファンキーなシンセ・ポップも、トロピカルなラテンのビートも、肉感的にならないギリギリのラインでGORILLAZ的な未来感のあるサウンドに仕立てている。今作でももちろん、THUNDERCATやStevie Nicks、TAME IMPALA、BECKなどといった数多くの人気アーティストがゲスト参加し、物語性のあるそれぞれの楽曲に個性際立つ印象を残している。

Trustfall

P!NK

Trustfall

世界中の女性を励まし続けるディーヴァ、P!NKが9枚目のフル・アルバムをリリースした。今作でも、自身の身を切るようなファイト・スタイルもとい、音楽スタイルで心揺さぶる人生賛歌をぶつけてきたP!NK姐さん。特にシングル・カットされた「Never Gonna Not Dance Again」は本当にもう、サイコーのひと言だ。"何を奪われてもかまわないけど、ダンス・シューズを手放すのだけは絶対にイヤ!"という彼女らしい、強烈な"いたしません"ムーヴが最高に痛快でスカッとする。もちろんポップ・ミュージックの煌びやかさとP!NK節の超パワフルなヴォーカルがあってこその、強さと自由のポジティヴな表現になっているわけなので、ほかの誰かがマネできるものではない。元気になりたい人、必聴。

High Drama

Adam Lambert

High Drama

人気オーディション番組"アメリカン・アイドル"で全米を虜にし、その圧倒的な歌唱力とミュージカルで鍛えられた表現力で、スターダムを駆け上がってきたAdam Lambert。現在はQUEENのヴォーカリストとしても活躍する彼が、自身のルーツとも言えるようなアーティストや、共感するアーティストの楽曲をカバーし、1枚のアルバムに仕上げたものがこちら。Adamのパワフルな声量を生かした派手なヴォーカル・ワークはもちろんのこと、中性的なファルセットや、しっとりとした静かな楽曲の中にも、まったくつけ入る隙のない本物の上手さがあり、ただただ脱帽するしかない。各楽曲には大胆なアレンジもあり、懐かしの名曲が斬新なダンス・ポップとして現代に蘇ったという意味でも、非常に音楽的価値のある作品だと思う。

Cuts & Bruises

INHALER

Cuts & Bruises

MÅNESKINらとともに新世代のロックを担う存在として注目されている、INHALER。そんな彼らの2ndアルバムは、誰もが胸を熱くするキャッチーなギター・ロックと、アンニュイなポスト・ロックのエッセンスが、今っぽいスタイリッシュなサウンドに進化したものとなった。ブルージーで骨太なサウンドを奏でても、マッチョでも泥臭くもないのは、声量はあるのに力の入りすぎないElijah Hewsonの味のあるヴォーカルのせいか、それとも軽やかな鍵盤の音がポイントになっているのか。とにかく、すでに大物の貫禄ある堂々たる演奏、直球でわかりやすい音楽性でありながら作り込まれたカラフルなアレンジには、素直に魅了される。"SUMMER SONIC 2023"での来日も要チェックだ。