DISC REVIEW
Overseas
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AUTECHRE
Oversteps
90年代、00年代において、常に飽くなき実験精神を実践してきたテクノ・ユニットAUTECHREによる最新作。僕は、賛否両論が分かれた2000年代に発表されたアルバムについては、正直あまりよく分からなかった人間だ。聴いていて、逃げ場がないような気分になってしまった記憶がある。その頃のAUTECHREのストイックな実験精神が辿り着いた無機質で抽象的な音はここにはない。この新作では、アンビエント的な要素も感じられる音の美しさが何よりも重要なポイントとなっている。一音一音、そして広く使われる空間に温もりと艶が満ちている。(僕が知る中では)これまでのAUTECHREの中で最も美しいアルバム。当時の彼らについていけなかった僕のような人には、是非聴いてもらいたい。
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LIGHTSPEED CHAMPION
Life Is Sweet Nice to Meet You
元祖ニュー・レイヴ・バンドとして颯爽と表れすぐに解散してしまったTEST ICICLESのメンバーだったLIGHTSPEED CHAMPION。解散して間もなく届けられた1stアルバムはニュー・レイヴとはかけ離れたカントリー調の作品だった。それだけにこの人はとてつもないセンスで沢山の音楽を吸収してコロコロと表現を変えていく人なんだろうと思っていた。その期待通り今作は前作を基本とした抜群のメロディがたっぷり詰まった傑作となった。ストリングスやピアノを多用した壮大な曲が収録されているが、彼の作り出す楽曲にはシンプルながら聴く者の胸を打つメロディに溢れている。なおプロデューサーにはANIMAL COLLECTIVEなどを手掛けるBen Allenを迎えている。
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TEENAGE COOL KIDS
Foreign Lands
ネオアコ、はたまたUSオルタナを彷彿とさせるテキサス出身のギター・ロック・バンドTEENAGE COOL KIDS のセカンド・アルバムが登場。まずこんなにストレートなバンド名を聞いたのは久々。他に候補は無かったのかな、なんて思ったり。サウンドはGIRLSを引き合いに出したくなる様なシンプルでスカスカなサウンド。だけど10代の頃の甘酸っぱさを詰め込んだナンバーがあれば疾走感溢れるパンク・ナンバー、そしてシューゲイズ・サウンドと、とにかく曲ごとに新たな彼らの魅力が飛び出してくる。ここまでバラエティに富んだアイデアとポップな楽曲が並んでいるアルバムに出会えるなんてそうそうないかも。胸をくすぐる新たなインディ・バンドの登場だ。
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SADE
Soldier Of Love
これほど寡作でありながら、常に世界から愛され続けているバンドも珍しい。1984年から活動を続けながら、アルバムはたったの6枚しかない。Sade Aduという絶対的カリスマが率いるSADE、『Lovers Rock』以来10年ぶりとなる新作『Soldier Of Love』。相変わらずどこか謎めいた魅力を放つSADEの世界は10年前と何も変わらない。R&Bにレゲエをはじめとしたワールド・ミュージックを絶妙にブレンドして生み出される美しいサウンド・ジャーニーに乗せて、彼女は愛をせつせつと語りかけるように歌う。物悲しいギターとビートを軸にした生々しい音の上で世界を憂い、世界に向けて愛を語るAduの気丈な歌声が響く。真摯過ぎるほどに真摯な彼女の後姿に胸が熱くなる。
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PAVEMENT
The Best Of Pavement
VAMPIRE WEEKENDや春に新作が決定したMGMTなどに大きな影響を与えた伝説的なオルタナティヴ・バンドPAVEMENTが昨年に、2010年限定の再結成を発表し来日目前のタイミングでベスト盤を発表。グランジと呼ばれるシーンの中でローファイと呼ばれるサウンドを生み出した彼らの再評価が高まる中、1年限りではあるが彼らが復帰を遂げたことは今年の大きな出来事の一つだろう。ひねくれ者と言われていた彼らはこのベスト盤でも代表曲をリリース順に並べるということはせずに、年代もバラバラに並べており比較的初期の曲が多い。個人的によく聴いていた6枚目の「Terror Twilight」から一曲というのはちょっと寂しい気もするけれど、一つの流れがあってこれは愛聴しそうだ。
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THE BLACK BOX REVELATION
Silver Threats
ベルギーに拠点を置くベースレスの二人組ガレージ・バンドTHE BLACK BOX REVELATION。猛々しいサイケデリック・ブルースを詰め込んだセカンド・アルバム。基本的には、同じ編成のWHITE STRIPESと同じ流れにある。2007年に発表されたデビュー・アルバムの国内盤が発売されたばかりだが、このアルバムではそのガレージ・サウンドはそのままにサイケデリック・ブルースに真っ向から挑んでいる。その手法はあくまでシンプルかつストレート。力強いドラムと歪みながらも意外とキャッチーなギター・リフが絡み合う、ダークで荒々しい、まさに原初的なブルース・ロックと言うべき音像には、余計な添加物がない分、そこに込められたパッションが噴出している。ガレージ・ロックの肉体性が持つ魅力を再認識させられる。
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SWANTON BOMBS
Mumbo Jumbo Learn Faster
イースト・ロンドンの二人組、SWANTON BOMBSの日本デビュー盤。エッジーで攻撃的なギターとフリーキーなドラムによって、70'sパンクとニューウェーヴを野放図に掻き鳴らす。日本盤に収録されるTHE STROKESのカヴァーが示すように、00年代に影響を受けた若者によるガレージ・パンク。あどけなさの残るルックスに反して、棘がたちまくっているこのバンド。ラフな録音の影響もあってか「二人組とは思えない音圧」なんてものではなく、紛れもない二人組の音。音の隙間も多いのだが、それも計算しているというよりも「二人でやってんだから当り前じゃん。」みたいなノリ重視の姿勢が感じられる。若いやつが「これ、かっこいいじゃん!」と鳴らした音がそのままパッケージされたような瑞々しい初期衝動が詰まっている。
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BAND OF SKULLS
Baby Darling Doll Face Honey
昨年、まったく無名の新人ながらiTunesのSINGLE OF THE WEEKに大抜擢され話題を集めたバンドだ。英国サウサンプトンの出身、BAND OF SKULLS。当時全くの新人が世界共通でSINGLE OF THE WEEKにピックアップされるのは異例ながら、アルバム完成からわずか一ヶ月未満で配信リリースされたことも大きな注目を集めた。デジタル時代ならではの俊敏性だが、そんなトピック以上の魅力として、ささくれ立った荒々しさと相反する静謐さ、艶めかしくもスリリングな緊迫感、泥臭いブルージーなリフ、衝突するような3ピース・アンサンブル......つまりはホワイト・ストライプス以降のモダニズムと土着的なルーツ志向の混成が呼び起こすロックンロールの原初のエネルギーが圧巻なのだ。CD化されるこの機会に、未体験の人は要チェックだ!
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OCEAN COLOUR SCENE
Saturday
結成20年を迎えた境地とは、頑固な親父の背中、そんな燻し銀の匂いが漂っている。60'sブリティッシュ・ビートの憧憬とマッドチェスターの酩酊を併せ持った“黒いグルーヴ”をかき鳴らし続けるOCEAN COLOUR SCENEの通算9作目。「100 Floors Of Perception」や「Word」の世界観からは、どこか『Who’ s Next』期のTHE WHOを想像してしまったのは大袈裟かな?「Mrs Maylie」の組曲的な展開からも窺えるが、偉大な先人同様、OCEANの創作意識も壮大なオペラに向かったのだろうか。しかし、不変のアンセミックなOCEAN節も堪能できるのでご安心を。まさに枯れの妙味といえるSimon Fowler のヴォーカリゼーションの奥深さは、師匠Paul Weller以上にエネルギッシュだ。昨今のチャート・アクションは不振ながらも、愚直に愛する音楽志向を貫く姿勢は素晴らしいです!
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FLASHY PYTHON
Skin And Bones
CLAP YOUR HANDS SAY YEAHのヴォーカリスト、Alec Ounsworthの新プロジェクトFLASHY PYTHONのファースト・アルバム。何の告知もなく、突然WEB 上での発売が始まっていたこの作品。Alec Ounsworth のフリーキーなポップ・センスと伸びやかなヴォーカルはもちろんだが、ダイレクトにバンド・サウンドが表に出ているところが今作の特徴。序盤はヘヴィなベース・ラインを軸にしたオルタナティヴ・ロックなナンバーが続き、そこからAlec Ounsworthらしいコーラス・ワークが美しいサイケデリックなナンバーへと移り変わっていく。CLAP YOUR HANDS SAY YEAHとはまた違うスタイルに挑みながらも、そのセンスは流石の出来。
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WORRIER
Source Errors Spells
今号でレビューが掲載されているNICE NICEと一緒に手に取ってもらいたいバンド。ミルウォーキー出身の3人組WORRIERは、デビュー前からFOALSの09年ツアーの前座に抜擢されるなど、期待の新人として注目されている。基本は!!!やBATTLES界隈のエクスペリメンタル的アプローチなのだが、彼らの場合、複雑怪奇さはあまりなく、よく聴くと結構ストレート。リズム的にシンプルなミニマル・ビートの反復が多く、尺もコンパクトにまとめられているから余計にそう聴こえるのかな。うねるグルーヴの高揚感(エロさ)というよりも、神経質なポストパンク的要素の方が勝っているので、全体的に冷たい感じなんだけど、それが逆に良かったり。「Stripping My Heart Flat」から聴いてみてください。
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HOT LITTLE HANDS
Dynamite In Black & White
オーストラリア・メルボルン出身のHOT LITTLE HANDSのデビュー・アルバム。彼らが発するグラマラスなポップネスはSCISSOR SISTERSのようでもあるが、このバンドはそこに豪快さとブルースを持ち込む。一言で言えば、SCISSOR SISTERSとJETの真ん中にいるバンドだ。そんなこと言われても意味が分からないでしょ?だからこそ、そこに自然に立ってしまう感性が素敵なのだ。ジャンルの横断や折衷が当たり前になった今でも、80’sエレクトロからガレージ、グラム・ロックまでを横断する振れ幅の広さとセンスはかなりのもの。「Dynamite In Black & White」の大真面目に馬鹿なことをやりきっているPVを見れば、彼らを愛させずにはいられないはずだ。
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NICE NICE
Extra Wow
ポートランド出身のJason BuehlerとMark Shiraziの2人によるエクスペリメンタル・ロック・デュオ。現在20周年を迎え、ノリにノっているWARP RECORDSからのデビューということで目下の注目を浴びていますが、もちろん彼らも間違いありません!BATTLESやGANG GANG DANCE やボアダムスなどがよく引き合いに出されて語られており、実際その通りなんだけど、それらのバンドにはない新鮮な高揚感を感じます。こりゃ才能あるわ。こういう音楽を聴いていると、まる一日、ずっとずっと緩くまぐわっているような、終わりのない快感みたいなものを感じます。因みに、この複雑な音をライヴでどう再現するのだろう?と、調べたところ、JasonがGt、Vo、Keyを兼任、MarkがDr、+同期という編成のよう。来日が楽しみ。
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TWO DOOR CINEMA CLUB
Tourist History
昨年12月に行われたBritish Anthemsでのライヴも好評を集めたTWO DOOR CINEMA CLUBがいよいよ1stアルバムをリリース。フランスの人気レーベルでもあるKitsuneが猛プッシュするこの3 ピースへの賞賛は、あのKanye Westがブログで紹介するなど後を絶たない。FRIENDLY FIRESのファンタスティックな部分を取り出してそこに疾走感溢れるバンド・サウンドを足したような感じと言ったら分かるだろうか。全曲3分前後で駆け抜ける今作の勢いはまさに今の彼らを象徴しているかのよう。ちなみにメンバー以外をシャットアウトし3人でのみ曲作りを行うとのこと。とにかくグット・メロディとトロピカル・サウンドが詰まった傑作。皆さん聴き逃し無く。
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THE HORMONAUTS
Spanish Omelette
イタリアのネオロカビリー・バンドTHE HORMONAUTS。このアルバムが日本でどれだけ出回るのかは正直未知数だけれど、とにかくこのアルバムは楽し過ぎる。スウィングするブレイクビーツ×ロックンロールがフロアを煽りに煽るパーティ・トラックが満載だ。ウッドベースにブレイクビーツを重ね合わせるスウィンギン・ビート。THE BPAとBECKとSTRAY CATSを足して3で割ってイタリアの太陽を浴びせまくったゴキゲンなロックンロールは、ロカビリーという枠で語ることなんてほとんど無意味。上昇を続けていく狂騒の夜を愛するならば、THE HORMONAUTSがその道程のどこかであなたを昇天させてくれることになるだろう。レーベルの皆様がこのアルバムを日本に持ち込んでくれることを切に願う。
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CANTERBURY
Thank You
ENTER SHIKARIの2ndアルバム『Common Dreads』って、物凄くいいアルバムだし、Skream!読者層にこそ聴いてほしいんだけど、結果的にラウド層からもインディ層からもほぼ注目されなくて残念だった。今からでも是非聴いてください!そんなことは置いておきまして、イギリス南岸にあるハンプシャー出身の若手バンドCANTERBURYが日本デビュー。“ENTER SHIKARIの弟分”とされていますが、そうは言っても、彼らのようなハードコア的要素は薄く、もっとポップでダンサブル。MUSE以降の壮大で叙情的なオルタナ感を持ちつつ、近年のポップパンクを彷彿とさせるエモっぽいメロディもあったりして、なかなか掴みどころがなくて面白い。掴めないから何回も聴いてしまう。次作で大化けするかも!?
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BLOOD RED SHOES
Fire Like This
彼らの持ち味でもあるストレートで荒いロック・サウンドにフォーカスされた2ndアルバム。2ndともなるともう少し音楽性を広げてくるかなと予想していたが、彼らは自分達のソリッドな部分をさらにいっそう磨き上げてきた。このソリッドなサウンドに大きく貢献したのは前作に引き続きプロデュースを担当したMike Crossey の手腕だろう。ARCTIC MONKEYSの2ndアルバムも手掛けた彼は、外部のミュージシャンをほとんど参加させず二人のギターとドラムの音にこだわった。その事により彼らのアグレッシヴな部分がフォーカスされ、楽曲の力強さもありのままに伝わってくる。ダークになったと言われることもあるようだが、僕はそうは思わない。彼らのルーツでもあるパンクの精神が伝わってくる情熱のロック・アルバム。
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BEACH HOUSE
Teen Dream
あのFLEET FOXESやGRIZZLY BEARも絶賛するボルティモア出身のドリーム・ポップ・デュオBEACH HOUSEから3rdアルバムが届けられた。本人達も自分達のクラシックが作れたと語る本作は、深くそして穏やかで、まるで森の中の優しい雨のように心が洗われる作品だ。前作リリース以降、地元ボルティモアを離れNYの教会を改造したスタジオで作った今作は完成度が高く、1つの世界観で統一されている。スライド・ギターとオルガンとフランス映画音楽の巨匠Michel Legrandの姪であるVictoriaの存在感抜群のヴォーカル。彼らはこの組み合わせだけで幻想的な世界へ僕らをどこまでも連れて行ってくれる。しかしそれは自分の中に閉じこもる様な世界ではなく、とても開放的なものだ。
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THE SOFT PACK
The Soft Pack
これがデビュー・アルバムなのにこんなに変わるってどういうことだ!?ローファイなガレージ・ロックンロールでEPの時点で注目を集めていたサンディエゴ出身のTHE SOFT PACK。どうやら、大きな思い違いをしていたようだ。初期パンク、ガレージの雰囲気は残しつつも、その音は一気にソリッドでクリアに。とは言っても、変なプロデュース感が出たという意味ではない。本当にやりたいことができる環境が整ったのだろう。THE STROKESがTHE VELVET UNDERGROUNDだとすれば、このバンドはTHE MODERN LOVERS。キレのあるギターと洒脱なアレンジ、楽曲をうねらせる骨のあるベース。サイケもパンクも呑み込んだ、最新型ガレージ・ロックンロール。ギター・ロックにまた希望が灯った。
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EELS
End Times
昨年アルバムをリリースしたばかりなのに、早速フル・アルバムが到着。前作がガレージ・ブルース・ロックとでも言うべき力強さが前面に出ていた反動なのか、今回は穏やかなアコースティック・ナンバーがほとんど。特徴的なのは、ほとんどがドラムレスで、ギター、ベースとうっすらとのるキーボードという編成での楽曲であること。「Gone Man」ではカホン(ペルー発祥の打楽器( 体鳴楽器) の一種)を使っているが、「Paradaise Blues」までドラムは出てこない。つまり、このアルバムはE の歌が剥き出しになったアルバムである。タイトルが『End Times』と冠された意味はまだ分からないが、しゃがれたEの声はいつも以上に生々しく、そして力強い。いくつもの悲しみをポジティヴな歌に変えてきたEという生身の人間の姿がそこにある。
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