DISC REVIEW
Overseas
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DETROIT SOCIAL CLUB
Existence
KASABIAN、PRIMAL SCREAMのグルーヴと土臭いブルースの薫りに、HAPPY MONDAYSのヘロヘロの恍惚も少し加える。UKロックの伝統とも言えるあのメロディとグルーヴを携えたDETROIT SOCIAL CLUBのデビュー・アルバム。「Northern Man」のような芯の太いロックもさることながら、煌くような美しさを放つダウン・テンポの「Universe」が特に秀逸。2010 年の「Loaded」となるか? これぞUKロックなメロディも、そのソング・ライティング力の高さを感じさせるし、OASIS、PRIMAL SCREAMの前座に抜擢されたという話も納得の実力派。ファーストとしてはTHE MUSIC やKASABIAN登場ほどのインパクトがあるわけではないが、しっかりと根付いていきそうなバンドだ。
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MYSTERY JETS
Serotonin
2006年のデビュー以来独自の感性としなやかさを持ち、異端児とも言われながらその絶妙なバランス感覚でシーンに強烈な世界感を提示して来たMYSTERY JETS。彼らの魅力は魔法にかけられた様にキラキラ輝くメロディと自らの原点と語る80'sロックのエッセンスをたっぷり取り入れ洗練されたサウンド・プロダクション。傑作の2nd『Twenty One』に続いて3年振りにリリースされた今作は、まだ発表してない新曲しか演奏しないというツアーを行ったりしながらバンドとしてまっさらな状態に戻ってから作り始めたという。ソフト・ロック的展開や、サイケデリック色の強いナンバーなど新機軸はあるものの、彼らの持ち味である瑞々しさはさらに研ぎすまされた印象。期待を裏切らない傑作。
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THE TALLEST MAN ON EARTH
The Wild Hunt
スウェーデン出身のSSWの2ndアルバム。初期のBob Dylanとも比較される事の多い彼の音楽はカントリー・フォーク・ギターと耳に残る特徴あるそのしゃがれた歌声ととてもシンプルなものだが、聴き流すという事が出来ないとても説得力のある音楽だ。何かをしながら聴く心地いいBGMとして機能する音楽もあるが、このアルバムにおいてはしっかりと向き合って聴くことをおススメしたい。さらっと流れる様な美しいアルペジオと繊細なメロディを奏でながらも、彼の楽曲からは聴くものに何か伝えようとする情熱や物語がこれでもかと溢れ出している。生まれながらにしてのシンガー・ソング・ライターというのは彼みたいな才能をもった人物のことを言うのだろう。
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Darwin Deez
Darwin Deez
NYからこれまた一癖あるポップ・スター候補が登場というところか。これからファッション誌なんかにも取り上げられるであろうルックスのDarwin Deezは、THE STROKESとPHOENIXの間で、飄々としたポップ・ソングを鳴らす。エレクトロ・ポップを土台持ちつつ、基本はクールな佇まいのモダンなロックンロール。ちょっと甘くメロウなセンスは抜群に良いけれど、ちょっと突き抜け方が足りない気もする。PHOENIXのようなポップ・ソングを期待していたら、ちょっと肩透かしを食らうことになる。ただ、どちらかと言うと自覚的に突き抜けたポップさを避けているのだろう。ドリーミーで多幸感満載のエレクトロ・ポップ全盛の中、これはこれで最近あまりない感触だし、新鮮ではある。
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KELE
The Boxer
BLOC PARTYのヴォーカル、Kele Okereke がKELEとしてソロ・デビュー。SPANK ROCKのトラック・メーカーXxxchangeをプロデューサーに、ダンスホールやグライムを下敷きにしたようなブレイクビーツ、女性Voをフィーチャーしたトラックから、80'sなエレクトロまで。肉体的であると同時に、彼が持つ知的でフェミニンな世界観がアルバムの基調となっている。BLOC PARTY『Intimacy』がそうした世界観をバンドとして構築してみせた作品だとしたら、このソロは、その源泉であるKele Okerekeという特異なキャラクターそのものにスポットライトを当てた作品と言える。それゆえに、肉体性と知性が艶やかに跳ねるこのアルバムは、とても生々しい。
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THE MORNING BENDERS
Big Echo
GIRLSのChristopher Owensを始め多くの地元ミュージシャンが出演した「Excuses」のビデオでも話題を集めたカリフォルニア出身の新人バンド。各メディアでも取り上げられ今旬のバンドの一つと言っても過言ではないだろう。THE BEACH BOYSを彷彿とさせるウォール・オブ・サウンドとグッド・メロディを聴かせてくれる。共同プロデューサーにGRIZZLY BEARのChris Taylorを迎えた事も多きのだろう、ストリングスの使い方も巧みでVAMPIRE WEEKEND と同様にロック・バンド然としたアプローチは薄く、クラシカルな雰囲気を持ちながらもとても刺激的なサウンド・スケープが広がっている。とても美しいアルバムだ。
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PIN ME DOWN
Pin Me Down
長かった…。ついに活動休止から約8ヶ月、UKロック・バンド、BLOCK PARTYのギタリストのRussell Lissackが沈黙を破り、キュートな女性シンガー・Milena Meprisを迎えて男女2人組のデュオ、Pin Me Downを始動させた。メロディアスなギターが刺さる疾走感あふれるサウンドにのせて、ダンスビートが最大限に絡み合う極上の踊れるダンス・ロックを世に放つ。「Time Crisis」ではクセになりそうなメロディ・ラインが印象的に響く。そして、なんと言っても注目したいのはMilenaのヴォーカル。「Curious」では幅を持たせた高音の歌声、ささやくようなヴォーカルは小悪魔的魅力が大爆発している。『Kitsune Maison Compilation 5』に収録され、話題を呼んだ「Cryptic」も完全収録。
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DELOREAN
Subiza
昨年リリースされた『Ayrton Senna』EPに収録されていた昨年屈指のダンス・アンセム「Deli」が収録されていないのは少し残念な気もするけれど、待ちに待ったDELOREANのニュー・アルバムが完成。EPにあったキラキラとしたエレクトロとバレアリックなサウンドがより完成され、全体としてとても統一感ある仕上がり。ダンス・ミュージックとしての機能性も高いが、シリアスな所はなくそれでいてアゲアゲになり過ぎてない所もいい。彼らに向けられた期待感にバッチリ答えた作品と言えるだろう。女性ヴォーカルがループされる「Infinite Desert」のドリーミーでポップな展開も、「Stay Close」の加速してゆく爽快感もこれからの季節にぴったり。
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OLD MAN RIVER
Trust トラスト~絆
2008年に1stアルバム『Good Morning』で日本デビューを果たし、シングル「ラララ‐みんなのうた」は洋楽ラジオ・オンエア・チャート1位を獲得。TVCMにも起用され大ヒットなった。あれから2年半の時を経てセカンド・アルバム『Trust トラスト~絆』がリリース。08年末から09年末にかけてシドニー、ムンバイ、テルアビブの3都市で制作。現地のミュージシャンとともにレコーディングし、英語、ヒンディ語、日本語などを取り入れたり、インド楽器を使用したりと新たな手法にも挑んでいる。そしてとても暖かくて優しさに満ち溢れたボーダーレスな仕上がりとなった。彼自身が父親になったことで作品自体に大いなる愛情が反映されている。
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GENERAL FIASCO
Buildings
情緒不安定な10代の特効薬となる青い衝動、そんな瑞々しくも疾走感溢れるアグレッシヴさがパねぇ!北アイルランド出身の3ピース、GENERAL FIASCO。THE TEMPER TRAP擁するイギリスの有力レーベルInfectiousが激プッシュするニュー・カマーだ。なんだか同郷のASHがデビュー時に描いた世界観を想起するが、こちらはもっと内省的に踏み込んだナイーヴさがある。歌われている内容に、酒に溺れ向上心のかけらもない人間を目の当たりにした環境が反映されているというが、その嘆きの繊細さと反動の力強さで描く日常感が素晴らしいのだ。瞬時に虜とするキャッチーな美メロあり、なんと3人ともイケメンというウワサもあり……世界中でブレイク間違いなしか!?その真相を確かめに、サマソニでのパフォーマンスを見に行きましょう!
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OASIS
Time Flies 1994-2009
OASISのシングル集って、何だよ。全曲知っているし、PVも腐るほど観たよ。屋上で鳴らされる「Super Sonic」。「Wonderwall」のレコードの針。「Champagne Supernova」でのLiamの髭眼鏡。下手くそなのに、公園でも家でも嬉しそうにボールを蹴るOASIS。Noel とLiamの眉毛が、驚くほどに濃かったんだ。眉毛は今も濃いけれど。これは彼らを愛さずにはいられない僕達の卒業アルバムみたいなものだ。ジャケットはもちろんネブワース。あまりにベタ、あまりに傲慢。これがOASISだ。はっきり言って押売りに近いが、僕は喜んで乗っかろう。そんなバンド、他にいないから。何か今さら泣きそうだ。OASISを知らない若人は、ファーストから買うように。
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SOMETREE
Yonder
1997年から13年に渡りドイツ、エモーショナル・ロック・シーンのトップに君臨し続けるベルリンの4人組 SOMETREE。ヨーロッパでのライヴではPOP UNKNOWN、AT THE DRIVE-IN、EDITORS、RADIO4、THE APPLESEED CAST、THE PROMISE RING、SOULWAX、SNOW PATROLなど多数のバンドと共演し、エモ、ポストロック界の一流バンドと肩を並べる存在に。そして遂に5 枚目となる『Yonder』で日本デビューとなった。ポストロック× クラシックの要素に、静寂と激しさが絡み合う美しいサウンドと儚くも繊細なヴォーカルが胸に響いた。聴いていて音に浸食されていくようだ。
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THE DEAD WEATHER
Sea of Cowards
あまりにも唐突で、あまりにも衝撃的だったデビュー・アルバム『Horehound』から一年足らず。この4人の才能はどんどん加速していくようだ。凶暴なブルース・ブギは今回も留まることを知らない。図太くうねり、歪むリズムにViviとJack Whiteの鬼気迫るヴォーカリゼーション。うねりを上げるギター。そして、前作以上に際立つオルガンが妖しくも暴力的な輝きを放つ。この原始的なパッションに溢れていながら、とてつもない知性をも感じさせる全11曲、わずか35分。とてもそうは感じられないほどに濃厚で凶暴なロックンロールが全身を掻き乱すが、逆にそれはほとんど一瞬の出来事のようにも感じられる。ロックンロールが持つ刹那的な美しさを体感するのにこれほどピッタリなアルバムはそうそうない。
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TEENAGE FANCLUB
Shadows
TEENAGE FANCLUBから5年ぶりとなる待望のニュー・アルバム『Shadows』がリリースされる。通算9作目となるこのアルバムは、どこか懐かしくて色褪せることのないメロディとポップで哀愁漂うギターのハーモニーが素晴らしい。5年ぶりだなんて忘れてしまうくらい期待を裏切らない仕上がりになっている。それにしてもこのバンドは90年にデビューして以来、ずっとみんなの心を打ち続けている。変わらないでいられるって意外に難しい。でも結局人は簡単に変わることなんて出来ないし、急に変われたとしてもそのまま満足していられるのだろうか?無理して変わることなんてしなくていい。そう、これは変わらない満足感が味わえるそんなアルバム。
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STONE TEMPLE PILOTS
Stone Temple Pilots
お久しぶりですね。お元気ですか。9年なんてそんな言葉じゃ間に合わない時間のはずだけれど、9年ぶりのこのアルバムを聴くと、お変わりないですねと声を掛けたくなるような出来映えである。90年代、クラシカルなロックとオルタナをバランスよく配合した、ポップなメロディ・ラインでスターダムに君臨した彼ら。2008年に再結成後、初のフル・アルバムとなる本作でも、彼らの持ち味は健在だ。キャッチーなメロディと後期THE BEATLESのようなコーラス・ワークがポップな彩を与える。足取り軽く、重すぎないサイケデリック感も彼ららしい。オールド・スクールなロックンロールが持つポップネスを見事に抽出した貫禄のアルバム。久しぶりに、何にも動じないカラッとしたアメリカン・ロックを聴いた気がする。
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FOALS
Total Life Forever
デビュー・アルバム『Antidotes』での強迫的なスピードと変拍子ビート、まくしたてるようなハイトーン・ヴォーカルも後ろへ下がり、グッとスマートに、シンプルになったFOALSの最新作。エモーショナルな美しさを湛える本作でのバンドのスケール・アップは特筆もの。新人バンドがセカンドやサードでスケール・アップなんて言うと大概がスタジアム・バンドという保守的なステレオ・タイプに陥り、一気に退屈になってしまうわけだけれど、FOALS はそうではない。彼らの特徴であるビート、鋭角なギター・リフへの強迫観念が消え去った結果、好事家だけに向けられたアートでも、退屈なステレオ・タイプでもない場所に彼らは辿り着いている。驚くほどにピュアなその音に打ち震える会心作。
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KULA SHAKER
Pilgrim's Progress
再結成を果たし『Strangefolk』を2007年にリリースしたKULA SHAKER。3年ぶりとなる今作は、ベルギーに建てられたスタジオでレコーディングを行い、その土地の空気に多いに影響を受けたという。自身の中にある物語を高純度で濾過したような、時代性を超越したこのアルバムは、ある意味、仙人的なストーリー・テラーによる美しい物語集と言えるかもしれない。インド趣味が後退し、西洋のスタンダードなロックのフォーマットに重心が移ったことにより、その物語性の高さはよりストレートに浮かび上がっている。このピュアな妄想癖と様式美の塊のようなアルバムは、ある意味KULA SHAKERらしいとも言える。時代とかけ離れたストーリー・テラーは変質的に捉えられがちだが、このアルバムは、素直に美しい。
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DUM DUM GIRLS
I Will Be
GIRLS、THE DRUMSと次々と面白いバンドが登場するUSインディのローファイ・ガレージ・バンド勢。続いて登場するのは、DUM DUM GIRLS。現地では既に話題沸騰中の彼女達だが、例えばVIVIAN GIRLSなどと比べると、随分と人懐っこく、ヴォーカルを前面に配したすっきりとしたサウンド・プロダクションが特徴的。RAMONESからVASELINES、RONNETSなどのガールズ・ポップまでをローファイなウォール・オブ・サウンドで包み込むセンスが抜群にキュート。ちょっと一本調子な感が残るソング・ライティングは今後の成長に期待したいが、今のローファイ・ガレージに共通する、ポップ・ミュージックに対する無邪気な空気がしっかりと反映されたバンドだ。
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GONJASUFI
A Sufi & A Killer
ダウンビート、ドローン、ダブ、サイケにブルース・ロック、フォークを大鍋で煮込んで辿り着いた、ざらついたモノクロームの世界。WARPからの新たな刺客は、摩訶不思議な2010年、宇宙の旅を奏でるGONJASUFI。THE CORALがWARPから出現していたら、きっとこんな感じか。奇妙で斬新。それでいて、ノスタルジックで温かい。彼のしわがれた歌声は、時に荒々しく、時に甘美だ。メキシコとエチオピアのハーフである男が誘う、あらゆる国籍、スタイル、価値観が交わるサウンド・ジャーニー。プロデューサー陣も、FLYNG LOTUS、GASLAMP KILLER、MAINFRAMEとL.Aが誇る才能が揃い踏み。2010年を代表する傑作の一つであることは、疑いの余地がない。
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BLACK FRANCIS
Nonstoperotik
ロックは若さだ。彼らは歳をとったら、どうやって生きていくのだろう。90年代半ば、余計なお世話でしかないそんなことを僕は考えていた。そこで、このPIXESのフロントマン、Black Francis名義の第3作である。僕は歳を重ねていく偉大なアーティストの成熟を耳にする。往年のロック・スターが何十年と同じパフォーマンスを繰り返す、愛すべきマンネリズムとは全く異なる、Black Francisの現在。ヘロヘロの歌声を前面に、掻き鳴らされるギター、時にはキーボードの音もフィーチャーされるこの朴訥とした作品が持つ、無駄がそぎ落ちていったような透明感。それは、若さではない。だが、若さと同じく言い知れぬ魅力に溢れている。オルタナ世代のブルースとでも呼ぶべき味わい深さを湛えた作品である。
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