DISC REVIEW
Overseas
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WE ARE STANDARD
We Are Standard
昨年からフロアを中心に急上昇中のDEROLIANと同じスペインから登場したディスコ・パンク・バンド。縦でも横でもないディスコ・パンク独特の四つ打ちと、マッドチェスターのヘロヘロ・グルーヴを掛け合わせたような、ありそうでなかったサウンド。気だるそうなヴォーカルやキックは、まるでTHE RAPTUREとHAPPY MONDAYSの遺伝子を等しく分け合ったロクデナシのそれだ。何食わぬ顔で誰彼構わず、手をつけては「俺が他の女とキスをしながら、お前に会いたいと思っているなんて知らないだろ」なんて平然と言ってのける傲慢なロマンに溢れた歌詞もいい。HARD FIの登場を思い出すね。社会不適合者の為の、新たなスタンダードとなるか。
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THE DRUMS
The Drums
昨年末にリリースしたEP『Summertime』でリスナーもメディアも虜にし、そのただ1枚で注目を浴びたTHE DRUMS。デビュー前からNME誌の表紙に大抜擢されるなど、海外主要メディアが"今年最高の新人" とこぞって特集を組み、全米最大の音楽ショーケースSXSWでは、彼らを一目見ようと会場は超満員となったという。まさに"待望" の状態でリリースされる1stアルバムは、インディ・ポップ・バンドとインディ・ポップ・サウンドブームの中で、抜きんでたメロディ・センスが光っている。ローファイでありながら、胸高鳴り心弾ませるまさにギター・ポップ直系の切なくドラマティックな世界。先述の華やかな話題なんてなんのその、ピュアで美しくもポップに弾けたなめらかな歌は、そんなこと忘れて私たちを酔わせてくれる。
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クラムボン
2010
一見ゆるふわって感じだけど、手に取ってみたら意外とズッシリ、みたいな。クラムボンの音楽にはいつもそんな感覚を受ける。原田郁子の幼児性帯びた容姿と歌声の強烈なイメージに起因したものだけど、個性ある3者3様の歩みが内包した、音楽的語彙の多様な刺激の重みなのだ。ジャズ、AOR、クラシック、エレクトロニカ、ヒップ・ホップと、触手赴くままに取り入れ、着地は万人を魅了する流麗なクラムボン節となる。ラジカルな前衛性とポップな大衆性の理想的な融合。オリジナル・アルバムとしては07年『Musical』以来実に3年ぶり、8枚目となる『2010』でもその衝撃は変わらない。ハイライトは数あれど、9分の大作「あかり from HERE」の深遠な世界は感動もの。ポップ・ミュージックの神髄、ここにあり。
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NADA SURF
If I Had a Hi-Fi
昨年のNANO MUGEN FES.で初来日を果たしたNADA SURF初のカヴァー・アルバム。彼らのメロディアスなパワー・ポップのルーツを辿りながら、SPOONやSOFT PACKなどもしっかりとセレクトしているところも心憎い。そうかと思えば、DEPECHE MODEにARTHUR RUSSELL、さらにはMOODY BLUESなんて渋いところまでついてくる。また、Bill FoxやMERCROMINAといった、僕も知らなかったアーティストも収録されているのだが、その楽曲がまたいいので、辿ってみよう。そのどれもが、NADA SURFクオリティの泣きのギター・ポップで、安心して聴ける。さらに、日本盤にはアジカン「Mustang」やスピッツ「Sora Mo Toberu Hazu」の英詞カヴァーも収録。
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JJ
n° 3
音楽メディアPitchforkのBest New Musicに選ばれ、THE XXとのUKツアーも決定している、スウェーデンはヨーテポリのミステリアス・デュオJJ の2ndアルバム。本作は、空気のような音が詰まった作品だ。“空気感” ではなく、空気そのもの。音が、声が、全て水蒸気のように空気中に撒かれていくのだ。まるで、本国スウェーデンの空気がそのまま音となり、流れてきたような。雪が深々と降る夜、吐く息は白く、それが見る間に空気に混ざっていくような。ピュアで純真な美しい音が、全てなめらかに混ざり合い、そこにある空気を真っ白な冬にしていく。それも体の芯まで凍りつくような寒さ。しかし、だからこそ、その中で響く暖色の声はとびきり美しく、優しくも時にポップなメロディは暖かみと安心感を与える。静かに、息を吸い込むように聴いて欲しい1枚。
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THE NATIONAL
High Violet
世界的にロング・ヒットを記録した前作『Boxer』から3年、THE NATIONAL通算5枚目のニュー・アルバム。前作の抑制されたシリアスとも言える統一された雰囲気から一転今作はバラエティに跳んでいて、とてもドラマティックでエネルギッシュなアルバムになった。自身のスタジオでリラックスして作られた事も大きいのだろう。彼らの持つ美しくメランコリックなメロディは健在ながら高揚感のある曲も多い。2000年代最高の歌声とも言われるヴォーカルMatt Berningeの歌声もとても伸びやかで素晴らしい。そして外の雑音を物ともせず作り上げられた楽曲それぞれの凛とした佇まい。ブルックリンの最後の大物というその名に恥じない新たな傑作。
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THE WONDER STUFF
Hup : 21st Anniversary Edition
かっこいいアラフォーの逆襲――昨年、デビュー20周年を記念して1st アルバムを再レコーディング盤としてリリースし、約18年ぶりに奇跡の復活来日も大成功に終わったWONDER STUFF から、今年は2ndアルバム『HUP』の現メンバーにて再レコーディング盤が登場です。えっ!あざとい?いやいやいや、新たな渋みを宿した力強さは、そんな揶揄を打ち消す普遍的ロックンロールの証明ですよ! 89 年リリース時は全英5位を記録しBRIT AWARDにもノミネートされるなど、バンドが大きな飛躍を遂げたアルバムだけあり、往年のファンには代表作として人気の高い名盤となっている。当時のシーンを総括するように、ネオアコの繊細さからマッドチェスターのグルーヴ、ほんのりアイリッシュ・トラッドも混ぜ合わせたオリジナリティは色褪せません!
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SMALL BLACK
Small Black EP
ドリーミーでサイケデリックな音像に包まれた新たな刺客がブルックリンから登場。シングル「Despicable Dogs」はPitchforkで絶賛され、『KITSUNE MAISON』の最新作に大きくフューチャーされた同レーベルのWASHED OUTのスプリット・シングルでも大きな注目を集めた彼ら。重なり合うシンセ・サウンドとロウファイなサウンド・プロダクションはMGMT 以降のそれを引き継いでおり、そこに絶妙なビートをブレンドしている。“心を揺さぶる” と評されたメロディはレイドバックしながらも、聴く人々の心をグッと押し上げる様な多幸感に満ちたものだ。秋にはフル・アルバムがリリースされるそうだが、捨て曲無しのこのEP をまず手に入れて欲しい。
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NORTHERN PORTRAIT
Criminal Art Lovers
WOULD-BE-GOOD、THE LUCKSMITHS、RAZORCUTS等の良質なポップソングを数多くリリースしてきた、USのインディー・レーベル「Martinee Recordings」に所属する、デンマークはコペンハーゲン出身の5ピース・バンドNORTHERN PORTRAITのデビューアルバム。既に廃番となっている1st E.P『THE FALLEN ARISTOCRACY』と2nd E.P『NAPOLEON SWEETHEART』が、日本のネオアコ&インディ・ギター・ポップ・ファンの間で話題となり、本作がリリースとなったそうだが、それも納得。胸躍るキラキラしたギターの音色、風がふきぬけるような清涼感と、日の光に包まれているような暖かく穏やかな空気は、どこまでも心地良く、常に優しく、そして楽しい。派手さはないが、何気ない日常を輝かせ、特別にしてしまうこの音楽は、愛おしくてたまらない。ポップでない音など一つもない世界。カラフルな音がそこらじゅうにちりばめられた、至福の空間が広がっている。
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MATT AND KIM
Grand
やはりこの男女デュオを紹介するにあたり、避けては通れないのが「Lessons Learned」の全裸PVだ。公開されるやたちまちネット上で火が付き、昨年のMTV AWARDSにて画期的な作品に贈られるBreakthrougt賞を獲得。最近ではERYKAH BADUもインスピレーションを受け同様のPVを発表し大きな議論を巻き起こしたが、シンプルながらインパクトの強い、そして端的に持ち味である無邪気なまでに音と戯れる姿勢が表現された素晴らしいものだ。キーボード&ドラムのミニマムなスタイルで、アルバムにはチープながらクセのあるフックを随所に散りばめたパーティ・ソングが詰まっているが、どこかメランコリー漂うメロディが印象的。楽しい時間は永遠に続かないことを理解しているのか?2人が紡いだのは、モラトリアムの夜明けなのかもしれない。
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THE GET UP KIDS
Simple Science
長嶋茂雄の名言をなぞり、「わがエモは永久に不滅です!」と言っているように聴こえる。もちろん誤訳ですが、そんなエモーショナルなのだ。大盛況に終わった再結成来日公演も記憶に新しいTHE GET UP KIDSから、世界限定ハンド・ナンバリング入り10,000枚のEPが届けられた。スタジオ作としては4th アルバム『Guilt Show』以来約6年ぶりとなる新作だが、不変の泣きメロは健在!ちょっぴり涙腺をくすぐる切なさと軽やかにアゲる疾走感は、最早職人レベルの域です。メンバー自ら立ち上げたFLYOVER RECORDSから第1弾リリースであり、エモ・シーンの立役者として若手に喝を入れるべく(大沢親分イズム)、気概に満ちた叫びが詰まっています。この存在感は、まさにエモ終身名誉監督な佇まい!と、強引に野球ネタを絡めお伝えしました。
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MIIKE SNOW
Miike Snow
カラフルでメロディアスなポップ職人、MIIKE SNOWがいよいよ日本デビュー。その正体は、Britney Spears「Toxic」など、世界的ヒット・ソングを数多く手がけたスウェーデンのプロデューサー・デュオが結成したバンドである。様々なアーティストに楽曲を提供しながら、バンドを続けてきた彼ら。PASSION PITやMIKA、PETER BJORN AND JOHNといった現代のポップ職人達と並ぶ、どこか切なさも携えた眩いポップ・ソング。エレクトロから、R&B、60's なポップまでを丁寧に現代にアップデートした彼らの音楽には、決して打算的なプロダクションはない。自らのイマジネーションの赴くままに産み落とされた、心踊る楽曲のクオリティの高さに驚かされるばかりだ。
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LCD SOUNDSYSTEM
This Is Happening
DFAのドン、James MurphyによるLCD SOUNDSYSTEMのサード・アルバム。常にシーンに対して問題提起を投げかける音を提示してきたこのプロジェクト。テクノへのアプローチを推し進めながらも、歌ものが増え、ヴォーカルの変化も印象的。例えば前作の「New York, I Love You But~」という完璧なバラードで、彼の歌の美しさは既に証明されたが、今作ではその歌を多様なアプローチで推し進める。深みを増しながらも、胸が高鳴って仕方がないほどエッジーでポップ。まさに、アイデアの宝庫の如きアルバムである。今年40歳を迎えても、彼は相変わらず都会のど真ん中で尖り続けているが、LCDとしてはこれが最後の作品だと言う。2010年を撃ち抜くこの作品、聴き倒させてもらいます。
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GOLD PANDA
Companion
BBC SOUND OF 2010に選ばれるなど、様々なメディアからも新世代のトラック・メイカーとして注目を集めるGOLD PANDA のEPや配信音源をまとめた日本独自編集盤。HIP HOPをルーツに、サンプリングを駆使しながら織り成されるトラックは、エレクトロニカやミニマル・テクノ、ダブステップにジャングルなど様々なエッセンスを感じさせる。そこに、オリエンタルな要素も加味された独自のGOLD PANDAワールド。彼が都会の中で感じる孤独にインスパイアされたと語るその世界観は、実験的でありながらもポップ。日本フリークであり、インド人の祖母を持つ彼が生み出すサウンドは、あらゆる価値観と人種がクロスオーバーし、雑然とした今の世界を象徴していると言えるのかもしれない。
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22-20s
Shake/Shiver/moan
男臭さ全開の荒々しいブルース・ロックで注目を集めた22-20sが、まさかの解散劇から4年を経て、新メンバーとともに再結成を果たした。これは、昨今の同窓会的な再結成ブームとは全く意味が異なる。素晴らしいアルバム一枚だけで解散した彼らは、まだまだ若々しいうちにバンドへの情熱を取り戻したのだから。今作で特徴的なのは、何と言ってもメロディに力点が置かれていることだろう。ブルースを根底に持ちながらも、眩さに満ちた楽曲の力強さと言ったら。まさしく、今の彼らが音楽に希望を抱いているからこそ獲得できた暖かな歌心。タイトル・トラック「Shake,Shiver And Moan」などはFLEET FOXESあたりとも共振しそうな美しさがある。このアルバムには、彼らの希望と情熱が満ち溢れている。
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Damian Jurado
Saint Bartlett
Damian Juradoは、その美しいメロディと天性の歌声で、聴く者の感情の機微に優しく触れながら、隣に寄り添ってみせるベテランのSSWだ。その音楽性の高さから、ミュージシャンからも多くの支持を集めている。Sub Popからも作品をリリースしてきたという経歴が示すように、彼はフォークという枠に留まらない音楽性を持っている。言うならば、オルタナティヴ、ローファイを通過した音響的なフォーク。フィールド・レコーディングで採取した音を散りばめた空間的な音像を持つ彼の歌は、柔らかなバンド・アンサンブルとコーラス・ワークとともに、聴く者をそっとスピリチュアルな世界へ誘ってくれる。Niel Young、WILCOから、SUPPER FURRY ANIMALSあたりが好きな人にもオススメ。
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NEW YOUNG PONY CLUB
The Optimist
ディスコ・パンク、ニュー・レイヴというムーヴメントの渦中に登場したNEW YOUNG PONY CLUB。きらびやかなディスコ・パンクからは距離を置き、今作ではダークなエレクトロ・ニューウェーヴへと向かっている。自主レーベルからのリリースということからも、一過性のムーヴメントとして消費されて終ることを避けようとするバンドの姿勢が明確になっている。前回の焼き増しにならないことを前提に制作されたこの作品で、彼らは確実な進歩を遂げている。THE HORRORSが「Sea Within A Sea」でみせた深化を思い起こさせるサイケデリック・グルーヴを放つ「The Potimist」は出色の出来。エモーショナルで抑揚の効いたこの作品で、彼等は前作とは別種の生々しいバンド・グルーヴを獲得した。
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GOGOL BORDELLO
Trans-Continental Hustle
2008年のFUJI ROCK、そして昨年のSUMMER SONICでの圧巻のライヴ・パフォーマンスを観て彼らの虜になったという人は多いはず。今や夏フェスの欠かせない顔になったGOGOL BORDELLOからニュー・アルバムが登場。今作はパンク・ロックとジプシー・ミュージックを織り交ぜた多国籍なパーティー・サウンドを鳴らしている。一曲目の「Pala Tute」はヴォーカル、Eugeneの濃厚な歌声にヴァイオリンが哀愁漂う旋律を奏でる魅力が詰まったキラー・チューン。そして彼らのごった煮とも言えるミクスチャー・サウンドを華麗にまとめあげたプロデューサーRick Rubinの手腕も光る。夏がやってくるのが楽しみになって来ました。
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MGMT
Congratulations
自転車で思い切り勢いをつけた後、ペダルを漕がないでいる時間って気持ちいいですよね。自由だし。そんな感じでしょうか。『Oracular Spectacular』で世界に衝撃を与えたMGMTだが、新作への期待もどこ吹く風という感じで、1967年のサンフランシスコにトリップしてしまった。プロデューサーにSonic Boomを迎えた今作は、音の質感といい、メロディといい、コーラスといい、そのまんまサマー・オブ・ラヴ。このレイドバックしたトリッピー感は、今の空気を象徴しているのかも。よくも悪くも、人間なんてそんなに変わらない。牛耳るか、諦めるか、それとも反抗するか。立場の違いだけ。2010年、時代の波を自在に乗りこなしながらMGMTが放つカウンター・ミュージック。
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JAMIE LIDELL
Compass
前作『Jim』のポップでソウルフルな作風からまた一歩先へと踏み込んだ意欲作。特に今作はプロデューサーを務めたBECK とのコラボレーションを含めアコースティックな側面や実験的な側面を持つとてもパーソナルな作品だ。しかし、前作同様彼のエンターテイナーとしての魅力も満載で緻密なプロダクションから繰り出されるエレクトロ・ファンク・サウンドと変幻自在のヴォーカリゼーションの組み合わせは至福の心地良さ。Michael Jacksonを意識したと語るアップ・ビートなナンバー「Enough' s Enough」は今作のハイライトの一つ。1ヶ月で一気に作り上げたという事もこの作品に勢いとダイナミズムを与えた要因だろう。進化を恐れない2010年のサウンド・ジャーニー。
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