DISC REVIEW
Overseas
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HOT CHIP
One Life Stand
HOT CHIPの5枚目のアルバム。アンダー・グラウンドからもオーヴァー・グラウンドからも愛される彼らは、今作であまりにも開放的で美しい音世界を提示している。前作のエレクトロ・ディスコ路線も残しつつ、今回はストリングスや生楽器を多用して、さらに温かみのあるダンス・ミュージックがメイン。ゴスペルのような伸びやかで美しいメロディを持つ歌が印象的。「Brothers」からピアノ・バラード「Slush」の流れは号泣必至なのだが、他の楽曲も自然と涙腺が緩んでしまう。このアルバムに収められた楽曲群は、これからいくつものダンス・フロアに甘美で美しい物語を生み出していくことになるだろう。「人間的であることが大切なんだ」という彼らの言葉がどれだけ誠実なものかは、このアルバムを聴けば分かる。
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LOS CAMPESINOS!
Romance Is Boring
前2作でおもちゃ箱をひっくり返しながら遊ぶ子供のような無邪気なポップ・ソングを鳴らしたウェールズの男女7人組LOS CAMPESINOS!。彼等の持ち味であるポップネスをしっかりと保ちながらも、前2作とは異質の鬱屈を吐き出しながら転がっていく今作。胸をかきむしられるようなオルタナティヴ・サウンドには、瑞々しい若さから一歩進み、焦燥感と「生と死」といった重たくのしかかってくる哲学的命題に向き合う若き知性が噴出している。時にポップに駆け回り、時にヘヴィなサイケデリアに溺れる幅広さと奥行きからは、分裂症気味に躁鬱を繰り返すある種の混乱すら感じられる。しかし、それでも彼等はポップであろうとする。そのせめぎ合いが、聴く者の胸をざわつかせるダイナミズムを生み出している。
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HADOUKEN!
For The Masses
Skream!読者の皆さんは、HADOUKEN!に対してどんな印象を持っていましたか?最近のエレクトロ系として聴くにはクールさが足りなくて、インディ・ロックというよりはラウドロックに聴こえたのでは?しかも、例えるならばRAGE AGAINST THE MACHINEというよりは、LIMP BIZKITみたいな。ちょっとうるさ過ぎるし、BPMも速過ぎるって思ってたでしょ?でも、今回の新作は、ヴォーカルのJamesが言っている通り、断然RATM側に近くなってると思います。単純に、音的に言えば、俄然THE PRODIGY寄りに。BPMは大分落ち着いて130前後のものが多くなり、強烈なフックが少し薄れた分、ビートが太くなって、ダンス・ミュージックとしての機能が超倍増されてます。手放しでかっこいい!
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JAMIE CULLUM
Pursuit
UKジャズで最も売れたアーティストとしても有名なJAIMIE CULLUMが4年振りに新作をリリース。ジャズという括りではまったく収まらない彼の魅力は今作でも溢れており、JEFF BECKとのライヴでの共演もあったようにアグレッシヴな側面も、また踊り出したくなる様なポップな路線の曲も健在でバラエティに富んでいる。しかし今作の基本的なトーンであるのはRIHANNAのカヴァー「Don't Stop The Music」で魅せるロマンティックな世界観である。ピアノを爆破させているジャケットから路線変更を予想したが、彼の根底に流れるものは変わっていないようだ。センスの良い彼だからこそ作り得た安心の1枚。
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BLACKMARKET
St. Vincent Decor
2008年のFUJI ROCK FESTIVALに出演し、新たなポスト・エモ・ロックの旗手としてここ日本でも人気を集めBLACKMARKET から2ndアルバムが届けられた。前作から約2年のインターバルを経て届けられた本作は、ダークな世界観はそのままに、よりソリッドに研ぎすまされた印象だ。オープニングを飾る「Tongue Twister Typo」はそれをまさに象徴しており、走り出したドラムを追う様にギターが絡み合い疾走するパワフルなトラック。そしてアルバム全体を通してもヴォーカルDarylの存在感は大きく、特に中盤のミドル・テンポのナンバーでは彼の歌声に圧倒される。メンバーが1人抜け3ピースになっても彼らの目指す所は変わってない。
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JAMIE T
Kings & Queens
UK版BECKとも謳われるJAMIE Tのセカンド・アルバムがいよいよ日本発売となる。2007年に発表されたファースト・アルバムは天才誕生を予感させる傑作で、本国では賞賛を持って迎えられたが、残念ながら日本ではほとんど相手にされなかった。JAMIE Tは、日本とUKの温度差がかなり大きいアーティストの一人だ。サンプリングも駆使した遊び心満載のドリーミーなトラックや、ヒップホップからテムズビートまで自由に行来するビート、ラップと語りと歌の間を行き来するような独特のメロディ・ライン。このセカンド・アルバムではそのしなやかなセンスにさらに磨きがかかり、ファースト以上に風通しのよいポップネスを獲得している。ようやく、JAMIE Tという天才が日本に本格上陸する。
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THE SUNSHINE UNDERGROUND
Nobody's Coming To Save You
デビュー当時はニュー・レイヴ・バンドの1つとして紹介されていたTHE SUNSHINE UNDERGROUND。実際はそのシーンに括られている他のバンドたちと比較するとより生々しいグルーヴを全面に押し出すバンドであった。そして今回のニュー・アルバム『Nobody' s Coming To Save You』では1stに収録されているヒット・ナンバー「Put In Your Place」でキラリと光っていたダンサブルなグルーヴはそのままにさらにへヴィでダークになった印象だ。本人達が語る様に政治的な歌詞を盛り込んだせいかも知れない。たった4週間という短い制作スパンで作られた今作は、その勢いをそのままパッケージに詰めこんだかのような新鮮さを感じさせる。
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DELPHIC
Acolyte
「何事も無く過ぎていく今日」とリフレインされる2009年屈指のアンセム「Counterpoint」1曲で全世界の注目を集めたDELPHIC.。SUMMER SONIC09ではトップバッターながら沢山の観客を集め、11月に行われた来日公演も大盛況のうち幕を閉じた。みんなが首を長くして待っていたアルバムというのはまさにこの一枚の事だろう。90年代のダンス・ミュージックにマンチェスターの伝統から受け継ぐメランコリックなメロディ。この二つを掛け合わせただけなのにどこまでも新しい。「Counterpoint」に並ぶキラー・トラックも兼ね備えながら、アルバムは川の流れの様に統一感があり且つ美しい。2010年の始まりを告げる傑作。
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STEREOPHONICS
Keep Calm and Carry On
2008年にベスト・アルバムを発表し、オリジナル・アルバムとしては約3年振りとなSTEREOPHONICSの通算7枚目の新作が届けられた。プロデューサーにKASABIANなどを手掛けるJim Abissを迎え作られた今作は、前作『Pull the Pin』にあった様な、STEREOPHONICS節とも言えるメロディアスな側面を全面に押し出したアルバムだ。力強く大きなスケールで描き出されるバラードやピアノをフィーチャーした瑞々しくアップテンポなナンバーまで今の彼らの充実ぶりを象徴するように響いてくる。テーマは10代の頃の自由と言う様に、今作でSTEREOPHONICSは新たなスタートを切ったようだ。
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BLACK LIPS
Good Bad Not Evil
何故に今頃?と思ったら、映画とのタイアップなんですね。でも、何にしてもいいアルバムにスポットが当たるのはいいことだ。USインディのガレージ番長BLACK LIPS が2007年に放った『Good Bad Not Evil』がようやく日本盤化。ジャンクでサイケ、そしてグッド・メロディ満載のゴキゲンなガレージ・ロックンロール。危うさを漂わせる詩的な感覚もこのバンドの大きな魅力だ。THE VELVET UNDERGROUNDとTHE BEATLESとTHE DOORSが喧嘩しながらも、賑やかに音を鳴らしてみた。そんな感じ。時代感覚なんて超越しながら、今を捉えまくるBLACK LIPS。2009年リリースの『2000 Million Thousand』も素晴らしいので、こちらも是非。
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Charlotte Gainsbourg
Irm
Serge GainsbourgとJane Birkinを両親に持つCharlotte Gainsbourg。80年代から女優として活躍しながら、これまで2枚のアルバムを発表してきた。そして、この3 年ぶりとなるアルバムはBECKが全面プロデュース、さらには全曲作曲も手がけ、作詞も共同で行っているが、二人の個性がうまく融合している。生音を多用した捻くれたサウンド・プロダクションとBECKらしいビート感が、Charlotteの持つアンニュイな雰囲気を醸し出す歌声とよくマッチしている。また、英語で歌われる曲ではBECKとのコラボレーションならではの色がよく出ているし、フランス語で歌う曲ではBECKが一歩引いて、妖しい色香を漂わせるChrlotteの個性がより際立っているところも面白い。
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HOPE SANDOVAL & THE WARM INVENTIONS
Through The Devil Softly
MAZZY STARの歌姫Hope SandovalとMY BLOODY VALENTINEのColm O'Ciosoigによるユニットの8年ぶりの新作アルバム。ノスタルジックなアコースティック・サウンドに載せて、物憂げな歌声で物語るように歌うHope Sandoval。リヴァーヴがかかった、揺らぐようなリズムと悲しげに爪弾かれるアコースティック・ギターやストリングスの音色。全体を覆うような深淵なサウンド・スケープ。深い森の中を漂うような幻想的な闇夜の世界を築き上げる、ストーリー性の高いコンセプチャルなアルバムだ。それにしても、Hope Sandoval の妖艶でありながら少女性を失わない歌声を聴いていると、一体何歳なんだろうと余計なことまで考えてしまう。
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THE CHAPMAN FAMILY
Kids
ノイズを撒き散らしながら、鬱屈した感情を吐き出すようなパンキッシュでロックンロールを爆音で鳴らすTHE CHAPMAN FAMILYの日本デビューとなるミニ・アルバム。陰鬱なニュー・ウェーヴと初期衝動全開のパンクの間で不協和音を撒き散らすようなスタイルは、既に本国イギリスでは注目を集め始めている。John Lennonを殺害したMark Chapmanの想像上の子供達が、父親の釈放を願う歌を歌うというアイデアから付けられたこの物騒なバンド名からして、本国ではカルト的な非難と賞賛を同時に集めているというが、ここまでギター、ベース、ドラム、ヴォーカルあらゆる音に棘が立ちまくっているバンドも最近では珍しいし、胸をざわつかせる何かが感じられる。
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VAMPIRE WEEKEND
Contra
いや、もう名盤である。それでいいんじゃないかなと思ってしまう。アルバムの冒頭を飾る「Horchata」からラスト「I Think Ur Contra」での心地よいクールダウンまで、高揚感は途切れることなく上昇していく。引き締まったサウンド・プロダクションも特徴的だし、シンセ等のエレクトロ、はたまた弦楽器を取り入れてみたりとトピックは多い。ただ、それ以上にこの知的でクレイジーな音が、多幸感と高揚感の最果てまで肉体と意識をぶっ飛ばす為に鳴っていることこそが重要だ。トロピカルやアフロ、変則的なビート、そういう音を鳴らすことが目的化したようなバンドとはもう次元が違う。これはもう、一つの体験と言っていい。2010年、祝祭のど真ん中にいるのは、VAMPIRE WEEKENDだ。
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THE TAKEOVER UK
Running With The Wasters
輸入盤のみで脅威の売り上げを記録した期待の新人ロックンロール・バンドTHE TAKEOVER UKの日本盤がいよいよ登場だ。ストレートなパワー・ポップ・サウンドにしゃがれた歌声に元気一杯の「シャラララ」コーラス。シングルである「Ah La La」は早くもインディ・アンセムの香りが漂う。思い出すのはデビュー当時のSUPERGRASSやTHE FRATELLIS。個人的には、この手のがむしゃら疾走系サウンドには滅法弱い。二人のソング・ライターが織りなすメロディは何処か懐かしさを感じさせ暖かい。新たな僕等バンドの登場です。
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OK GO
Of the Blue Colour of the Sky
ミュージシャンとして成長すると、表現の幅がどんどん広がっていくのは自然なことなのだろう。OK GOにとって3作目であるこのアルバムも、「俺達ってこんなことも出来るんだぜ!」という、メンバーの誇らしげな顔が思い浮かぶような作品だ。PRINCEの『Purple Rain』にインスパイアされて制作されたと聞いた時には、そこをベースにOK GO"らしい"パワーポップ的要素をプラスしたようなサウンドなのかと想像したが、実際に聴いてみると、そこに"らしさ"はあまりなく、歌い方も含めて、忠実に『Purple Rain』の雰囲気を再現している曲が多く入っていることにびっくりした。これは思い切ったなぁ~。シングル曲の「WTF?」を始め、スロー・テンポのニューウェーヴ/ ファンクナンバーが続く。それが正解かどうかはわからないけど、面白い。
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THESE NEW PURITANS
Hidden
2008年、『Beat Pyramid』で衝撃のデビューを飾ったTHESE NEW PURITANSのニュー・アルバム。あのつんのめった性急なビート感は、このコンセプチュアルな新作にはない。様々なスタイルを呑み込んだビート・ミュージックを基盤としているという出発地点は変わらないが、このアルバムでは『Beat Pyramid』とは全く異なるベクトルを描いている。徹底的に研ぎ澄まされたサウンド・プロダクションは、前作のある種の乱雑さ故に生まれたあの高揚感を生み出すのではなく、脳内に浸透するように響いてくる。驚くほど高性能な脳内トリップの為のビート・ミュージック。正直、いきなりこんなところへ辿り着くとは思ってもみなかったが、彼らの才能の奥深さを見せ付けられる快心作。
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MOTION CITY SOUNDTRACK
My Dinosaur Life
彼らを男の子に例えるなら、一般的にかっこいいわけじゃないけど、優しくて、一緒にいると楽しくて、でも彼だけの世界に自分をあんまり入れてくれないから、ちょっと悔しくて、つい意地悪したくなっちゃうんだけど、なんだかほっとけない男の子。要するに強烈なインパクトとか、斬新なインスピレーションを与えてくれるわけじゃないんだけど、グッと切り込んでくるメロディがあって、なんだか無性に聴きたくなるっていうか。バンドにとっては4 枚目のフルアルバムであり、メジャー移籍第一弾でもある今作も、優しいんだけどほろ苦いメロディが詰まっています。最近の"エモ"バンドって全然ピンと来ないけど、WEEZERだけは別格で好きなんだよねっていう貴方にこそオススメしたい作品です。
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THE HOTRATS
Turn Ons
洋邦問わず様々なカヴァー集がリリースされる昨今。新たな表現の模索として、ルーツ史観や純粋な音楽嗜好(遊び心も)で創作意識の抜本的な再解釈や原点回帰という意味合いを持つが、このカヴァー集は原型を留めぬほどオリジナリティに溢れ「ひとつの作品」として成立させる軸がある。SUPERGRASSのGaz&DannyとプロデューサーNigel Godrichによるスーパー・バンド、THE HOTRATS。SEX PISTOLSからDAVID BOWIEにBEASTIE BOYSと、ヴァラエティ豊かな楽曲群をエッジーなブリティッシュ・ビートで小気味良く纏めてみせる。自由奔放な音から垣間見えてくるのは、SUPERGRASSの進化/深化の秘訣、そしてなぜ彼らが狂騒のブリット・ポップから生き残れたのか、その答えだろう。
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BIFFY CLYRO
Only Revolutions
前作『Puzzle』で全英2位を獲得し、スターダムにのし上がったスコットランドのBIFFY CLYRO通算5枚目のアルバムとなる本作。力強いメロディとアグレッシヴなオルタナティヴ・サウンドには、ダイナミックなロマンが感じられる。細分化の流れが加速する現代のシーンは、面白い音が次から次へと登場する反面、小粒な印象は否めない。それはそれで僕は楽しいし、皆も楽しんでいるだろう。だが、ロックという言葉自体が、もっと普遍的でドラマチックな輝きを失っていくようにも映る。僕が彼等の音にその輝きを感じるのは、90年代オルタナへの懐古趣味なのかもしれないが、このアルバムが持つ輝きはそんなものではないはずだ。ここには、男のロマンが鳴っている。特にM-3「Bubbles」には目頭が熱くなる。
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Skream! 2024年09月号