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DISC REVIEW

まどろみのひかり

西片梨帆

まどろみのひかり

音楽を軸にしながら、執筆活動やデザイン、舞台の脚本も手掛ける"表現家"西片梨帆による初フル・アルバム。言葉を大切に紡ぐ彼女の歌はするりと心の隙間に入り込み、自分だけが感じていると思っていた小さな気持ちも拾い上げる。優しい慈しみを柔らかなアコギと詩的なリリックに乗せた表題曲、全部がうまくはいかなかったけれど、大事な人と交わした会話を"おまもり"に生きる姿を描く「白昼夢」、負った傷のわけを理解し前を向くその瞬間に寄り添う「桜上水で」、また言葉にこだわる彼女が、友人との会話をきっかけにあえてシンプルなワードで綴った「まちのなか」など、正直な筆致に愛を込めた11曲。弾き語りだけでなく青春パンク的なナンバーから、USインディー風味、ヒップホップと豊かなサウンドも含め飽きのこない仕上がりだ。

サイファールーム

あるくとーーふ

サイファールーム

"攻撃的ポップバンド"を自称する通り、ピアノを擁するきらめくポップ・サウンドに、現実を鋭いまなざしで捉えるエッジの効いた歌詞を両立させる長野発の男女混成5人組バンド。今作のテーマは"脱出ゲーム"。現状に満足しない姿勢を脱出ゲームにたとえ、もっと広い場所へ行きたいと願うハングリー精神を表しているという。圧倒的な中毒性と衝動で駆け抜ける「ダイナマイトタウン」をはじめ、明るい未来への祈りを優しい筆致で綴ったバラード曲「光の栞」、物語のその先に向かう賑やかなポップ・ソング「エピローグからショータイム」へ。物語のその先へと向かってゆくカラフルな全7曲は、偽物の感情や忘れられない思い出、無力な言葉など、どこか過去の作品ともリンクする歌詞が散りばめられ、このバンドの巧みな構成力が光る。

inVisible

SHIFT_CONTROL

inVisible

岐阜発のギター・ロック・バンド SHIFT_CONTROLの3rdミニ・アルバム。ハイトーンが冴え渡り、世界が開けていくような展開のオープニング・トラック「Actor」で、しょっぱなからシフコンというバンドの"らしさ"が全開のロック・サウンドを響かせる。また、ほぼ英詞で構成された表題曲「inVisible」の持つ憂いは、アルバムの核でありながら異彩を放ち、それでいて王道ギター・ロックのど真ん中を攻める絶妙さ。"いまだ歌っていたい"、"夢を見ていたい"、そう歌う「ハイファイナイト」は、踊れるビートでありながら切なさが押し寄せるさまがエモい。"激情系"を掲げ感情が迸るフレーズも相まって、目には見えなくとも(=invisible)バンドの音の存在感を確かなものとして印象づける傑作。

Director's Cut

THREE1989

Director's Cut

"聴く映画"をコンセプトにしたTHREE1989のメジャー1stフル・アルバム。80~90年代のR&Bやソウル・ミュージックという自身のルーツを軸にしながら、インスト曲に楽器以外の音色もふんだんに盛り込んだサウンドは、全26曲というフル・ボリュームでありながら、まったく冗長さを感じさせない遊び心が溢れている。生きる意味、出会いと別れ、はじける夏の恋、孤独なクリスマス、危険な愛のかたち、過去の記憶、現在の渋谷。様々なシチュエーションで描いた7つのパートはそれぞれ異なる物語でありながら、同時に一瞬一瞬を健気に生きる人間の姿が浮かびあがる。コロナ禍を経て、よりShohei(Vo)の歌詞が生々しくなったからこそ、映画というモチーフとTHREE1989との相性の良さが発揮された1枚だ。

Touch the figure

クレナズム

Touch the figure

「酔生夢死」や「積乱雲の下で」、ラッパーのクボタカイをフィーチャリングし、Spotifyで100万回再生を超える「解けない駆け引き」など、先行配信された曲が収録された4作目のミニ・アルバム。萌映のエアリーなきらめきとどこか郷愁を誘う成分が混じり合ったヴォーカルが、キャッチーなメロディや歌の世界観を広げ、ノイジーに歪んだギターやアグレッシヴなビートとエモーショナルなアンサンブルを奏でる。コロナ禍でライヴ活動が減るなか、曲の色彩やサウンドスケープを広げる作業にじっくりと向き合った。凛としたシューゲイザー・サウンドを磨き、同時にヴォーカルのパワーを生かした歌始まりの曲が増えるとともに、一曲一曲その曲が持つ豊かな情緒を紡ぐ繊細さが光る。バンドの大事な時間を感じる1枚だ。

ステレオアーモンド

Half time Old

ステレオアーモンド

"au三太郎シリーズ"のCMで話題になった「みんな自由だ」が収録されたHalf time Oldの6枚目のミニ・アルバム。"希望"の花言葉を持つアーモンドを冠した今作は、こんな時代だからこそネガティヴな気分を吹き飛ばすように、"人生は謎解きなんだぜ"(「スターチス」)と軽やかに歌い、"一生を冒険と呼んで"(「なにもの」)と力強く訴える。ユニバーサル ミュージック内のレーベル ZEN MUSICに移籍し、環境は変わっても、鋭く温かな筆致で綴る鬼頭大晴(Vo/Gt)が自問自答の歌を大切にしたバンドの本質は何も変わらない。コロナ禍も含めたきれいごとのない現実に向き合い、メンバー全員の地力を上げることで、"最新が最高"を掴み取った今作を聴くと、バンドへの信頼感はますます深まる。

Play game/Spotlight

Non-Holic

Play game/Spotlight

人気インフルエンサー 成瀬とRinによる音楽ユニット、Non-Holicのデビュー作。動画クリエイターと俳優。それぞれ異なる活動拠点を持つふたりが、"セロから真剣に音楽を取り込みたい"という想いで完成させた今作には、SSWのハシバタカナリ、ラッパーのC.Karter、ロック・バンド onepageの大八木 神(Vo)らが作曲陣として集結。恋に振り回されるメロウなヒップホップ「Play game」、アップリフティングするEDMに決意を刻んだ「Spotlight」という、タイプの異なるクラブ・ミュージックに仕上がった。特に、"俺を笑ってたあいつも/この歌で喰らわすデンプシーロール"と熱い想いが込められた「Spotlight」には、彼らを突き動かす原動力が真っすぐな言葉で綴られている。

FIGHT CLUB

岡崎体育

FIGHT CLUB

4枚目のフル・アルバム。目標に掲げていたさいたまスーパーアリーナ公演を大成功に収め、音楽人生の新たな一歩となる今作は、岡崎自身が"デビュー当時を彷彿とさせる原点回帰のアルバム"と公言する1枚。岡崎体育の名前を広く知らしめたあるある系のネタ曲「MUSIC VIDEO」の2021年版とも言える「Quick Report」をはじめ、持ち前の発想力と遊び心を全開にした楽曲がパワーアップして復活したことに、今の岡崎体育の吹っ切れたモードを感じる。年を重ねることの悲哀と希望を綴った「おっさん」や「Hospital」、たわいない日常を歌ったポップ・ソング「普通の日」など、同じ時代を生きる人とファイティング・ポーズをとるような今作は、32歳になった岡崎体育の等身大が泥臭く刻まれている。

ANY DAY NOW

INORAN

ANY DAY NOW

そよぐ風が吹き抜け、まばゆい光が降り注ぐような音。明確な意思と、未来や希望を感じさせる歌詞。2020年9月の『Libertine Dreams』、今年2月の『Between The World And Me』に次ぐ、コロナ禍での作品群の第3弾となる今作は、INORANが今年に入ってより強く意識するようになった、"止まっていられない"というスタンスを音楽作品として具現化したものとなる。変に肩肘を張ったようなトゲトゲしさとは無縁の、全編に心地よさとポジティヴな空気感があふれるこの作品からは、このような時代にこそ重要になってきている、"しなやかな強さ"を感じ取ることもできるのだ。アルバム・タイトルは"今すぐにでも"という意味であるだけに、彼のここからの動きもまた非常に気になるところ。

月蝕會議2019・2020年度議事録

月蝕會議

月蝕會議2019・2020年度議事録

全員が作詞/作曲/編曲家であり、アーティストとしても活動する音楽クリエイター・ギルド・バンド、月蝕會議の約2年ぶりとなる通算3枚目のアルバム。ゲーム"Death end re;Quest2"の「BUG FIXER」や「夜光蟲」といったオリジナル曲に加えて、ももいろクローバーZへの提供曲「ロードショー」に大胆なアレンジを加え、女性Vo キリンの歌唱によるセルフ・カバーで収録するなど、月蝕會議の2019年以降の仕事をコンパイルする1枚。自身のオンラインサロンで会員と共作したダーク・ファンタジー風ロック・ナンバー「眞夜中サロン」や爽やかなポップ・ソング「シュワーガール」といった振り幅の広い楽曲からは、プロの音楽職人であり、ロック・バンドであるという彼らの特性が強く浮き彫りになる。

天国発電

ANABANTFULLS

天国発電

『自然発火』から2年ぶりのリリースとなるTOWER RECORDS限定のアルバム。ハード&ヘヴィなリフとともに新たなグルーヴを追求しつつ、持ち前のダンス・グルーヴをスケールアップしたことを思わせる「天国発電」、前作で自家薬籠中のものとした歌モノの魅力を磨き上げた「火種」、ハードコアやメタルの影響を意外なアレンジで聴かせる「スパッタ」他の全6曲が印象づけるのは、ギタリストの脱退やコロナ禍という危機を乗り越えたことで、さらに逞しくなったバンドの姿だ。一度列から外れ、"最後尾から 俺たちは唄う"(「火種」)と宣言するANABANTFULLSがここから始める反撃に思いを馳せれば、ワクワクせずにはいられないはず。それはコロナ禍の今を生きるすべての人の気持ちを代弁しているように聴こえる。


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Love and Hate

シンガーズハイ

Love and Hate

2020年結成の4ピース・バンドが、KOGA RECORDSより初の全国流通盤をリリース。最初に飛び込んでくるのは、内山ショートのハイトーン・ヴォイス。hihiAまでを地声で張り上げる鋭い声はインパクト大だが、"口ずさめるリフ"を志向するリード・ギターも同じくらい存在感抜群。また、リズム隊の手捌きにも工夫が感じられる。"初期衝動をパッケージした"と形容したくなるサウンドだが、歌詞の描写に寄り添ったアレンジが施されていたりと、衝動のひと言では片づけられない構築力も垣間見える。ロック・バンド・ファンの心を突き動かす熱い魅力、まだ若いバンドならではのピュアさを持ちながらも、どこか冷静な視点をも感じさせる、稀有なニューカマーの登場だ。

I was born 10 years ago.~TRIBUTE~

愛はズボーン

I was born 10 years ago.~TRIBUTE~

愛はズボーン結成10周年を記念したトリビュート盤。ラインナップするメンバーは彼らが敬愛する先輩や盟友たちで、轟くシャウトとキレッキレのギターで中毒性の高いリフレインをさらに印象づけるキュウソネコカミの「まさかのイマジネイション」や、オリジナルに忠実ながらも独自のレゲエ・テイストでアルバムのポイントとなるDENIMSの「ゆ~らめりか」など、10バンドによる一曲入魂の全10曲を収める。もともとクセ強めの原曲は、豪華面々のセンスと技と愛情により新たな魅力を引き出され、"愛はズフリーク"も大納得の仕上がりだが、参加バンドのファンにとっても聴きごたえたっぷりだ。また、愛はズが同作に参加した10組の曲をカバーしたアルバムも同発されているので合わせて聴くのもおすすめ。

I was born 10 years ago.~COVER~

愛はズボーン

I was born 10 years ago.~COVER~

バンドの周年を記念して、豪華アーティストがそのバンドの曲をカバーするというのはあっても、さらに、そのトリビュートに参加したアーティストの曲をバンドがカバーした作品集の同時リリースは前代未聞では? そんな愛はズボーンの10周年記念盤が完成。まさにインディーズで戦い続けてきた彼らが、キュウソネコカミの魂を受け継いだとも言える「ウィーアーインディーズバンド!!」、原曲の優しさはそのままに、浮遊感たっぷりのアレンジで歌うことで、ひと味違うエモーショナルなムードを湛え、愛はズの新境地を切り拓いた岡崎体育「エクレア」など全10曲を収めた。企画の面白さのみならず、より個性を研ぎ澄まし、全員が曲作りに積極的に携わるようになった今の愛はズがカバーするからこそ、バンドの最新作としても楽しめる意欲作。

碧

FREE WALK FREE

昭和歌謡を思わせるノスタルジックなメロディと80~90年代のUSパンク/ハードコア由来の激しいサウンドを掛け合わせ、ラウドロック・シーンで異彩を放つ福岡のバンド、FREE WALK FREE。結成から6年、その彼らがライヴの定番に新境地を印象づける新曲を加えた全7曲を収録した1stアルバムで全国デビュー。スカ・パンクの「WALKING DEAD」、ノイズ・ポップの「MEMORIES」、V系かポジティヴ・パンクかなんて言ってみたい「アオ」を聴けば、彼らが冒頭に書いた方向性だけにこだわっているわけではないことがわかるはず。現在の主流の音ではないからこそ、新鮮に聴こえる全7曲は、複雑になりすぎたラウドロックに対する彼らなりの回答という意味も込められている。

夜明け前

あたらよ

夜明け前

どんなに時間を重ねても脳裏から消えない"無口な君"の顔。そんな忘れられない思い出を切々と歌い上げる「10月無口な君を忘れる」が、バンド初のオリジナル曲ながら、2,500万回再生(※2021年9月現在)を記録している4人組バンド、あたらよ。初の7曲入りEPは、"悲しみをたべて育つバンド。"を標榜するバンドのアイデンティティが深く刻まれた1枚だ。ヴォーカル、ひとみが手掛ける繊細なメロディに寄り添い、起伏に富んだアレンジ。ストレートなギター・ロックを主体に、艶やかなピアノにのせて"あの夏"に散った恋心を描いた「夏霞」など、楽曲ごとに異なるアプローチで完成された全7曲からは、2021年下半期に登場した大型新人バンドの"この先"への期待も高まる。

Amulet

SHE'S

Amulet

4thアルバム『Tragicomedy』に引き続き、傑作アルバムの到着だ。バンドの10年が詰まった「追い風」を発端に彩り豊かに展開する構成は、未来への広がりを感じさせるもの。ジャンルレスでいたいという考えを持つバンドだけに幅広いアプローチには納得だが、加えて、どんな人も完璧じゃない、しかしそれこそが個性だと謳う「Imperfect」でゴスペルを取り入れるなど、音と言葉がさらに密接な関係を結ぶようになった。ひとりでいる人に語り掛けるようなピアノの独奏から始まり、誰しもが抱える欠落を肯定する今作のタイトルは、"Amulet"=お守り。海外インディー・ポップ・シーンと共鳴する軽やかな音像、真摯な目線から綴られた言葉は、日々の灯となってくれる。

ガーラ

DADARAY

ガーラ

フル・アルバムとしては約4年ぶりで、リリース自体は約2年ぶり。その間に各々が様々なことを吸収したのだろう。"川谷絵音が手掛けるいちプロジェクト"という当初の印象から脱皮し、メンバー3人の個性がグッと表出するようになった。休日課長のレシピ本が原作のドラマ主題歌「Ordinary days」で新風を吹かせると、以降、えつこが中心となってアレンジを組み立てた八神純子カバー「黄昏のBAY CITY」、課長のベースが炸裂する「fake radio」など幅広く展開。REISのヴォーカルも曲ごとに違う表情を見せる。祝祭を意味する"ガーラ"というタイトルは、バンドの芽吹きを祝しているよう。初期曲「イキツクシ」のリアレンジが収録されているのも象徴的だ。

血を嫌い肉を好む

ドミコ

血を嫌い肉を好む

シーンに登場して以来、唯一無二と言われてきたドミコだが、その音作りは作品を重ねるごとに磨かれた技術を下地にした挑戦や遊び心に溢れ、誰も到達できないところへ到達した。2年8ヶ月ぶりのフル・アルバムだ。先日最新アレンジ版のMVが公開された「問題発生です」と、同曲から派生したであろう「問題は発生しない」。さらに、ライヴでも強烈なインパクトを放つおどろおどろしいナンバー「化けよ」の前にも、「ばける」という新曲が配され、表題でも音像でも連続性を感じさせるトラックたちが目耳を引く。過去作よりダークなアートワークやあくの強いタイトル通り、ドミコの濃厚な"コク"と言える部分をより突き詰めた印象の音の濁流は、もっと彼らのサウンドに浸らせてほしいと思っていたリスナーを、またしても唸らせるに違いない。

証

THE FOREVER YOUNG

"ずっと 独りで寂しかったかい?"と語り掛ける表題曲「証」から始まる、孤独や苦しみの中にいるすべての人へ手を差し伸べる本作。4人体制となり新たなスタートを切るエバヤンの決意の歌「FELLOWS」、クニタケヒロキ(Vo/Ba)の語りが染みる、心で聴く1曲「本当の私になりたい」、"俺たち人間合格"と全肯定する包容力に溢れた「人間合格」など全6曲が収録された。聴く人の背中を力強く押し、同時に自分たちを鼓舞する彼らの魂の叫びとも言えるシンガロングは、泥臭くも透き通る汗のようにまっすぐな輝きを放つ。音源からライヴハウスの熱気、スポットライト、観客の大合唱が伝わってくるような、熱いパフォーマンスが目に浮かぶこの1枚に、彼らが夢を追い続けてきた"証"を刻む。