DISC REVIEW
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ボンジュール鈴木
Sweetie Sweetie
自身で作詞、作曲、編曲を手掛け、心の内に広がる、秘密のファンタジックな異郷を繊細なサウンドで生み出しているボンジュール鈴木。3作目となるこのEPでは初めて4人のトラックメイカーとのタッグを組み、新たなアプローチやキャッチーさを加えることで、彼女自身が描く濃密な世界への橋渡しができる作品となった。普段クラシックや、幼心に刻まれてきた欧州文化や、教会音楽的な要素が色濃くその曲に反映していたが、今回は作曲段階からJ-POP的な構成やコード進行等を意識。またそのことで、ボンジュール鈴木の個性とも言える、ウィスパー・ヴォイスでの儚くアンニュイな陰影のある歌や、詩的表現、愛らしさと毒っぽさとが引き立ったようにも思う。エアリーであるけれど、どこか危険な香りも纏ったポップスだ。
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LiSA
unlasting
今年、初の紅白出場も決定したLiSAが、16枚目のシングルをリリース。表題曲は、彼女がメジャー・デビューして間もないころよりタイアップしているアニメ"ソードアート・オンライン"の世界観と再びひとつになったEDテーマだ。前作シングル「紅蓮華」と同じく、LiSAの楽曲を多く手掛ける草野華余子が作曲を担当しているが、ロックなカッコ良さが前面に出た前作とは対照的に、浮遊感のあるゆったりした曲調とR&Bのようなグルーヴ感、東洋的な音色の和洋折衷による不思議な響きが印象的。c/wの軽やかなポップ・ソング「ハウル」、ひねくれたダンス・チューン「Chill-Chill-Dal-Da」(期間生産限定盤のみ収録)も、それぞれに彼女の表現の幅広さを存分に生かした楽曲として聴きごたえあり。
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GLIM SPANKY
ストーリーの先に
現代の若者が主人公の映画やドラマの主題歌が続くGLIM SPANKYだが、今回はドラマ"Re:フォロワー"への書き下ろし。オンラインに絡めとられていても、人間としての野生や感受性は決してなくならないことを、明け方の夜に共有するような確かな歌詞とサウンドで示唆している。選び抜かれたピアノ・リフとギター・フレーズの豊かさ、祈りのような淡々としたAメロの磨かれたコード進行が、不安な気持ちを鎮めてくれる。Track.2のタフなブルースは、さらにその先をどう生きていくのかを問うような叫びだ。さらに、未知の明日に手ぶらで旅立つ心持ちを"どこかへ渡る小さな鳥"に喩えるTrack.3と、身ひとつで生きる自由へと誘う。個別に作られたはずの3曲があなた自身のストーリーになる。
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Yogee New Waves
to the MOON e.p.
『PARAISO』、『WAVES』、『BLUEHARLEM』の"島3部作"を経てヨギーが向かったのは月だった――というのは比喩として、表題曲に溢れるリバービーでどこか幻惑的、メジャー・コードのサイケ感は、たしかに月に向かって車を走らせるようなSFムードに満ちている。東京ニーゼロニーゼロと五輪に向け浮き足立つ東京とは別の自分の東京を生きるのだ、そんな生き様がサウンドにも歌詞にも現れる。この浮遊感、フィッシュマンズ「WALKING IN THE RHYTHM」も彷彿する。シャッフルで少し軽快になるTrack.2、再び超リバービーで響きの中に溺れてしまいそうな、ロマンチックなTrack.3など、自分が美しいと思うものを美しいと言えばいいという角舘健悟(Vo/Gt)のイズム満載。
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PELICAN FANCLUB
三原色
メジャー1stシングルの表題曲は彼らにとって初のタイアップで、TVアニメ"Dr.STONE"OPテーマへの書き下ろしだ。彼らの強みは、エンドウアンリ(Vo/Gt)の独特のワーディングや脳内世界を共有し、人間の肉体を構成する細胞や筋肉のようにアンサンブルを編み上げる、意思疎通のスムーズさにあるとこの曲のアレンジを聴くと痛感する。三原色の理論を詩的な比喩に置き換えた歌と相まって、細胞がドライヴする。パーソナルな歌詞でありつつ、息の合ったアンサンブルで時代を超える、インディー・ポップ「Dayload_Run_Letter」、インディーズ時代からの代表曲「記憶について」の2019年バージョンも収録。コンパクトだが、彼らの特徴を改めて知るには絶好のシングルと言えるだろう。
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河内REDS
オリオン座
地元大阪を中心にファン・ベースを築き、2018年に"関西発!才能発掘TVマンモスター+"のバンド・オーディションでグランプリを獲得し、2019年8月にメジャー・デビュー。数々のフェスにも出演するなど、今最もキテいるバンドのひとつとなった"河内REDS"。メジャー・デビュー作となった前作シングル『東京ガール』に引き続き、寺岡呼人による全面プロデュースも話題の今作は、さらに踏み込んで彼らの魅力を知ることができる作品だ。全編にわたる、どこか懐かしいフォーク・ソング的な等身大の詞世界と、ポップにロックにパンキッシュに、カントリー風に懐メロ風に、くるくると様相を変える音楽性。瑞々しいコーラス・ワークも歌メロのキャッチーさを引き立てていて魅力的だ。
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vivid undress
混在ニューウェーブ
完全セルフ・マネジメントによる再出発とその後の精力的な活動がついに今回のメジャー・デビューに実ったとも言えるわけで。紅一点シンガー kiilaが、彼女のもとに集まったそれぞれに活動歴を持つ腕利きたちと2014年に結成した5人組。自ら掲げる"J-POP 突然変異型 ROCK クインテット"は今回、グッとファンクの影響が色濃いものに! kiilaがラップ調の歌を聴かせる「アブラカタブラ」は、ヴィヴィアン流のディスコ・ナンバー。傷ついた魂を抱え、救いを求めながら闘い続けるkiilaが時折逆ギレしながらも、「まるで夜」で安息を見つけるように"おやすみ"と終わるラストは、現代を彷徨うように生きる若者たちをどれだけ勇気づけることだろう。そんなところにも根強い人気の理由がありそうだ。
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mol-74
Teenager
今年4月にリリースされたメジャー・デビュー作『mol-74』が、既存曲の再録を含むアルバムだったのに対し、本作は収録曲のすべてがメジャー・デビュー後に制作された新曲だ。上モノのきらびやかなサウンドが開放感を演出する表題曲「Teenager」。8分の6拍子で滑らかに円を描く「Couverture」。偶数拍にアクセントをつけるスネアのリズムが特徴的な「Playback」。ループするコードを主軸とした「約束」。4曲が共通して描くのは、いかなるときも時間は平等に流れゆくものだということ。その事実は人によって希望にも絶望にもなりえるが、雪解け水のような武市和希のヴォーカルは聴き手の背を叩きも、腕を引きもしない。その温度感が心地よい。
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Seebirds
Lossphilia
mol-74のベーシストでもあるRyoma Takahashiがヴォーカルを務める、Toshitaka Nikiとのふたり組バンド、Seebirdsがおよそ3年半ぶりにリリースする。エレクトロニカ、シューゲイザーの要素を感じるサウンドと柔らかく繊細なヴォーカル。ギター、ベース、ドラムによるバンド・サウンドが基軸となっているが、メンバーの編成や楽器の種類に捉われないようなトラックメイク。浮遊感のあるサウンドが時折生っぽくなり、牙を剥く瞬間にドキッとさせられる。本作は"失うこと"をテーマに据えた作品とのこと。とはいえ、喪失に伴う悲しみや苦みそのものよりも、記憶の断片が乱反射する様子が音や曲として表現されている。輝けば輝くほど切なく感じられる音楽。
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BOYS END SWING GIRL
STAND ALONE
ライヴ・バトル優勝と今年6月のメジャー・デビューも大いに頷けるポップな魅力を持った4人組による半年ぶりのリリースとなるミニ・アルバム。J-POPと互角に戦えるポップ・ソングを、UKロックの影響を思わせるバンド・サウンドとともに聴かせる全6曲。ライヴハウス育ちならではの熱量をしっかりと込めながら、あくまでも爽やかというところが彼らならではだと思うが、より大きなステージで鳴らすことを意識したと思しきリード曲の「ラックマン」をはじめ、バラードからダンサブルなものまで、曲ごとに趣向を凝らした幅広いアレンジと演奏が物語るのは、確かなテクニックに裏打ちされた実力派の顔。理想の自分を求める葛藤を歌った歌詞も含め、単にポップのひと言では語りきれない魅力が凝縮されている。
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UMEILO
春火鉢
北海道在住の若き4人組、UMEILO。"小説のような世界観"が評判を呼ぶなか、今回はヴォーカルの伊藤純輔が書き下ろした小説に、2曲入りのシングルCDがパッケージされた作品をリリースする。"文学系ギター・ロック・バンド"というキャッチコピーに説得力を感じさせる、結成2年目の決定打だ。「春火鉢」は寒い土地から生まれたバンドならではの温かさや、20歳という狭間の年齢の伊藤が歌う青春のリアリティが伝わってくる。「夢路を終えて」は5分半を超える尺にたっぷりと言葉が詰まった切なく壮大な1曲。さらりとは受け流せない、いい意味で重みのある作品だ。伊藤やバンドの成長と共に世界観や音楽性が変化していくバンドのような気もするので、これからも楽しみに見守りたい。
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Lucie,Too
CHIME
待望の全国流通盤は、ポップでキュートな"片想い盤"デビュー・ミニ・アルバム『LUCKY』と、ダウナーな面を押し出し大人な魅力も見せた前作『exlover』の、両方の旨みを絶妙に昇華した、また新たな一面を見せるものになった。リリース時期となる冷たい風が吹き始める季節に似合う、爽やかさと切なさが詰まった今作。2分台の楽曲が続き、55秒のショート・チューンで締めくくる作品には、粒立ちのいい音が詰まっていて耳に心地よい。また、カナダやアジアでのライヴやアメリカでのCMタイアップ、海外バンドの来日公演のサポート・アクトも務めてきた彼女たち。リード曲「あなたの光」のMVには海外からのコメントも多く、その活動ひとつひとつでしっかりファンを獲得していることが窺える。
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ラックライフ
Unbreakable
所属事務所移籍後初となる音源。そこに彼らは、ここから再び走り始める決意をしっかりと刻み込んだ。シンガロング/コーラスを擁した「理想像」で、込み上げてくる思いを力強く叫ぶPON(Vo/Gt)の歌声は、いつにも増してエモーショナルで、いつも以上に4人の姿が目に浮かんでくる躍動的なバンド・アンサンブルは、アップテンポなものだけでなく、壮大なスロー・ナンバー「朝が来る前に」でも、生々しく胸に迫ってくる。ユニークなリフレインが一瞬で耳から離れなくなる(けど、歌詞の内容は"超"がつくほどエモい)「けんけんぱ」や、「Don't you say」のような肩の力を抜いた曲もありつつ、決して"壊れることのない"自分たちの意志、そして音楽への情熱をまっすぐに燃やしている。
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山本彩
α
グループ卒業後初のアルバムは全曲山本の作詞作曲。しかも9人のアレンジャー&プロデューサーを迎えるというSSWならではの挑戦を見せる。そもそも同じ時期のアーティストが、根岸孝旨プロデュースでドラムにCrossfaithのTatsuyaを迎えた、ヘヴィ&ラウドな「棘」から、LUCKY TAPESのKai Takahashiが手掛けた、チルなオルタナティヴ・ソウル「feel the night」まで、幅広い楽曲を違和感なくまとめられることが驚異的。加えてアレンジも演奏もACIDMANによる「TRUE BLUE」や、素朴なフォーク・テイストの「君とフィルムカメラ」など、同じ顔の山本彩はいない。それでも作品が成立しているのは揺るぎない音楽への誠意があるからではないだろうか。
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山本彩
追憶の光
2019年3枚目のシングル。小林武史をプロデューサーに迎えた表題曲は、失恋の悲しみに暮れる女性の心情を細やかに伝える冬のバラード。ストリングスと優しいタッチのバンド・サウンド、切ない心情を切々と歌い上げる憂いのある歌声が、募る想いをクリアに表現している。c/wにはMori Zentaroプロデュースのもと"ありのまま"や"素直でいる"というテーマを綴ったクールでラフなムードのあるミッド・ナンバー「stay free」、通常盤のみライヴ・バンド・メンバーでレコーディングした爽快なポップ・ロック・ナンバー「Weeeekend☆」を収録。サウンドのカラーに合う楽曲を作るソングライティング力、無理なく歌いこなすヴォーカリゼーションなど、アーティスト 山本彩のバランス感覚を再確認する。
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ぜんぶ君のせいだ。
或夢命
新体制初となる5作目のアルバム『或夢命』。今年に入り、メンバー脱退、そして新メンバー2名が加入し、休む間もなく全国ツアーという激動の時を過ごしてきた。印象的には4年間の活動の中でも、グループの佇まいや歌声などの面で一番の変化があったが、今作で感じるのは、ここまで紡いできたぜんぶ君のせいだ。の歴史を否定することなく、背負いながら前に進み、音楽的にもスキル的にも進化をしているということ。メンバー5人がそのことに意識的であり、それを暑苦しくなく、ナチュラルに音楽としてポップにロックに、ユーモラスにと表現している。その空気感がいい。試みのある新曲をはじめ、ライヴの定番曲の2019年版も収録。今作だから歌える「世界にたった一人ちっぽけな君を」の温かな眼差しにも注目だ。
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私立恵比寿中学
playlist
"永遠に中学生"を掲げる、"エビ中"こと私立恵比寿中学の結成10周年イヤーのクライマックスを飾る記念碑的アルバム。川谷絵音(ゲスの極み乙女。/indigo la End/ジェニーハイ etc)、ポルカドットスティングレイ、マカロニえんぴつといった豪華でフレッシュな作家陣が参加した曲たちや、初めてグループとして作詞を行った「HISTORY」など、本作からは"攻め"や"チャレンジ"といった姿勢が強く感じられる。アコースティック・ギターやストリングスが彩る、壮大でエモーショナルなリード曲「ジャンプ」は、石崎ひゅーいによる作詞作曲。ファンならずとも必聴の名曲だ。10周年とは言っても決して守りには入らず、すでに11年目を見据えているエビ中の目線が窺えるような1枚に仕上がった。
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マチカドラマ
だれかの日々に。
結成以来"3ピース"編成にこだわり続けてきた新潟発のギター・ロック・バンド、マチカドラマが、心機一転、新ギタリスト 三宮広大(ex-午前四時、朝焼けにツキ)を迎えた4人編成でリリースする2ndミニ・アルバム『だれかの日々に。』。手数の多いリード・ギターの存在感を全面に打ち出した、疾走感溢れる「スタートライン」に始まり、臆病な片思いのバラード「ワンシーン」など、より厚みの増したサウンドが全7曲を表情豊かに彩る。等身大の視点はすべて恋愛の曲。"君が描いてる 理想の人にはなれてないけれど"(「口約束」)と、常に自分自身に対する見積もりは低めだが、掴めそうで掴めないもの、簡単に手からすり抜けてゆくものを守ろうとする、健気な想いをパッケージした1枚だ。
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まねきケチャ
あるわけないの
まねきケチャにとって2枚目、新メンバー 篠原 葵が加入してからは初となるフル・アルバム。TVアニメ"ゲゲゲの鬼太郎"のエンディング・テーマである2曲「鏡の中から」、「あるわけないのその奥に」のスリリングな世界観から、大人のテーマに挑戦した「愛と狂気とカタルシス」で得られる、まさに"カタルシス"な流れなど、曲と作品全体が持つドラマ性を見事に体現するパフォーマンス力は、まさにまねきケチャが新たなフェーズに入ったことを示している。またライヴでも定番の既発曲や、それぞれのソロ曲なども、再度録り直したことでアップデート。この先のライヴがますます楽しみになる1枚だ。
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Non Stop Rabbit
細胞分裂
フル・アルバムとしては前作『全A面』から約1年半ぶりとなる進化作。バンドの規模感が広がりつつある現状を踏まえて完成させた今作は、これまで以上に幅広くスケール感のある1枚になった。「排他的王道主義」をはじめダンサブルな要素を積極的に取り入れたが、やはり際立つのはロック・バンドとしての鋭さだ。無難に"置きにいく"のではなく、全力で"刺しにいく"。その精神はいっそう研ぎ澄まされている。彼らの原点にある"童謡×ロック"を掛け合わせた初のクリスマス・ソング「aiai」のほか、音でも歌詞でもLINEを表現した「LINEのうた」など、聴き手を飽きさせない全10曲。全体に攻撃力の高いアルバムだが、最後に収録される「二十五の自白」はあまりにも無防備で赤裸々だった。
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