DISC REVIEW
Overseas
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THE VICKERS
Fine For Now
イタリア発、06年結成の4人組THE VICKERSの、2ndアルバムにして日本デビュー作。GIRLSを聴いた時のような瑞々しいときめきを思い起こさせるのは、きっと全ての音がセンチメンタルを帯びた輝きに満ちているからだ。そして、その輝きの正体とは、VAMPIRE WEEKENDのようなトロピカルな音が寄せては返す波のごとく心地良く主張したりと、ちょっぴりサーフ・ロック寄りな穏やかさと爽やかさの中に、90年代のロックの衝撃を再び蘇らせたような“やんちゃさ”が全面に迸っているという点にある。膝小僧には絆創膏をした悪戯坊主が、兄ちゃんの部屋から勝手に持ち出したTHE STROESのCDを聴きながら走り回っているような、好奇心旺盛な少年の画が広がってきて、どうにもむずむずしてくるのだ。
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CHASE & STATUS
No More Idols
エッヂの効いたロックで、ヘヴィなビートが炸裂するエレクトロニカ。スリリングなHIPHOPで、哀愁のあるR&B。それでいてポップ! 近年ではJAY-Zのリミックスを手掛け、THE PRODIGYの復帰作やRIHANNAの『R指定』に共同プロデューサーとして関わり、注目度が高まるロンドン出身のドラムン・ベース / ダブ・ステップ・デュオCHASE & STATUS。2ndアルバムとなる今作ではPLAN B、TINIE TEMPAH、WHITE LIESなど多種多様なゲスト・ミュージシャンを招へい、彩り鮮やかな作品に仕上がった。起用アーティストによって楽曲アプローチを変え、そのアーティストの持つ個性は勿論、新たな魅力を引き出す。様々な音色を巧妙に操るその手腕は、マジシャンさながら。
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MINI MANSIONS
Mini Mansions
穏やかなピアノとギターの音色、土に染み込んでいく水のように清いコーラス・ワーク。なのに何故こんなにも、無性に胸を掻き毟るのだろう。米ハード・ロック・バンドQUEENS OF THE STONE AGEのベーシスト、Michael Shumanが中心となって結成されたスリー・ピース・バンドのデビュー・アルバム。美しく繊細な不協和音は懐かしくもあり、まだ見ぬ森の奥を感じさせるような絶妙な不穏感も持ち合わせている。何ともシュールなサイケデリアは非常に高い中毒性があり、ぼんやりしていると飲みこまれそうになってくる。バロックやゴシックを感じさせるオルガンも、純粋なのにどことなく悲しげだ。黄金色に光る西日の中にぽつりとひとり残されたような、ぬくもりと切なさを醸し出す。
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Liam Finn
Fomo
本国ニュージーランドのMusic AwardsではTop New Actを受賞したバンドBETCHADUPAのフロントマンLiam Finnのソロ最新作がこちら。冒頭曲「Neurotic World」の静かで流麗な始まり、続く「Don't Even Know Your Name」で徐々にグルーヴィに波打ち、はじけ飛んでいく展開は思わず体を揺らしてしまったが、そのまま少しずつ呼吸を整えるように更にテンポを落とし、物憂げな表情へと転じていくのがとてもセクシー。そして、囁きが幾重にも重なり合ったような、全てがコーラス・ラインのごとく耳に優しいヴォーカルが、そのままふわりと抱き上げ、ベッドルームへと運んでいく。それはもう、メロディは勿論のこと、全ての音の主軸にもなる、音響的にも作用するヴォーカルの美しさ故の甘い展開であること言うまでもない。
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NORTON
Layers Of Love United
文化は国境を越えるとはよく言ったものだ。物理的な距離からいえば、日本から遥か遠く離れたヨーロッパの空気に触れるのは生易しいことではない。しかし音楽を媒介とすれば、たちどころにその空気の匂いや温度を感じることができる。ポルトガルのバンド・NORTONもまた、はっきりとした粒でサウンドを形作り、遠くの地においてもその感触を擬似体験させてくれる。TWO DOOR CINEMA CLUBよりも色香を滲ませ、DEATH CAB FOR CUTIEよりも無邪気で口当たりがよい。局所的に沸点を上げ急激に麻痺させる対照的に、ほろ酔いのようなじんわりとした心地よさで満たす。ダンサブルなサウンドに傾倒することのない、バランスの良さが程よく力の抜けた空間を創り出す。彼ら自身、ワンダーランドな「Japan」を創り出し、足を踏み入れている。それは、現実非現実の境をさまよう白昼夢なのかもしれない。
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Tom Vek
Leisure Seizure
ロンドン出身の奇才Tom Vekより、デビュー・アルバム『We Have Sound』から実に6年ぶりとなるニュー・アルバムが到着!当時はBeckがツアーのSEで使用したり、The RaptureやLCD Soundsystemと比較されるなど、業界内での注目度が高かった彼。当時の映像を見直してみたのだが、全て独学で学んだマルチ・プレイヤーというだけあり、引きこもって一人遊びばかりしていた少年が、成長し青年となり、そのまま世間に出てきてしまったような、ちぐはぐな世界観は今尚新鮮であった。そこらへんも、デビュー時はローファイを通り越してへっぽこだったBeckとかぶるのだが、最新作は、その完全独自主義を貫いた一人遊びの延長戦上のような世界はそのままに、きちんと2011年版に整理されスタイリッシュになっていることに驚くばかり。ちゃんと時代にフィットしてます。
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ALEX TURNER
Submarine - OST
自分の吸っている空気や重力が変わってしまうような出会いは確かに存在する。映画「Submarine」でも、ひとりの少女との出会いで15歳の少年の全てが変わる。同作のサントラであるAlex Turnerのソロアルバムを耳にし、まるで恋に落ちるような心の震えを体験した。それは燃え上がるような激しさではなく、自分の奥深い部分に身を沈めたような根源的なものだ。くすんだウェールズの情景の中、Alexの存在は自然にそこにあるものとして感じられる。目には見えないほどにささやかな雨のように、心地よく濡らし包み込む。時に、弾むように無邪気に跳ねて魅せる。わずか20分という時間の中、とても深い部分で傷を慰撫し、柔らかくほぐれた心を優しく連れ出してくれるのだ。繊細な暖かさに泣きたくなってしまう。
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VELVET DAVENPORT
Warmy Girls
天才メロディメーカーと称されるParker Sproutを中心とする6人組バンドが今作で日本デビュー。フロントマンのParker SproutはARIEL PINK'S HAUNTED GRAFFITIに類まれなメロディセンスを見出された。そんな経緯もあってAriel Pinkのような心地良いローファイサウンドをしっかり受け継いでいる。60年代サイケデリックポップの香りを色濃く残したゆるゆるな音の断片が脳内を駆け巡り、絶妙なストレンジさが病みつきに。じわりじわりと体を蝕んでいくように時間をかけて脳内を侵食されていく感覚は愛おしい過去の記憶を画質の荒い映像で見ているみたいだ。力を抜いて気の合う仲間とビールでもどう? って気分になるこの1枚。白昼夢のような至福な時間に酔いしれたい。
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ZA!
Megaflow
スペイン・ヴァルセロナを拠点に活動する注目ユニット。ギターとドラムの構成だけれど時にはギターの彼がドラムを叩いたり、トランペットを吹いたり!? とにかく自由すぎる。ギターカッティングがキレキレ、声もひとつの楽器のように扱い、奇想天外な音を作り出していく。ノイズまじりのごりごりなロックが来た! と思ったら次なる曲ではムーディにと思ったら急な展開があったり、ラジオ番組風なトラックもあったり……。なんじゃコレ!? と思っているうちに気付くと虜になっている、なんともいえない中毒性。ポストBATTLESと呼び声の高い彼ら。とんでもない人達、出てきちゃった、そんな雰囲気がムンムン。ライヴはもっとカオスティック!! この人達、面白すぎるやろ!
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NEWEST ZEALAND
Newest Zealand
ポーランド、ワルシャワ発のポップ・バンドTHE CAR IS ON FIREの中心人物だったBorys Dejnarowiczが、脱退後ソロ活動を経て結成したのがこのNEWEST ZEALAND。今作はバンドにとって初のフル・アルバムとなる。ポスト・ロックやニュー・ウェイブが、ボサノヴァやジャズに姿を変えたとでも言うべきか。お洒落なストリート・カフェが良く似合うモダンな空気感。呟くようなヴォーカルは、軽やかな小鳥の囀りのように穏やかだ。と思えば、不協和音や緊張感のあるウォール・オブ・サウンド色の強いギターはこちらに襲い掛かるように耳に入り込んでくる。心地良さの中にそこはかとなく狂気を感じたのも事実だ。心をざわめかせる、ちょっと不思議なポップ・サウンド。
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DIGITALISM
I Love You, Dude
インタヴューで発言していた「僕らはバンドだと思っている」という言葉が印象的だった。バンドとしての側面、エレクトロ・デュオとしての側面、どちらもDIGITALISMを構成する必要不可欠な要素だ。デビュー・アルバムから4年の歳月を経て作られた今作は"洗練"の一言に尽きる。もともと"Tourism"というタイトルになる予定だったアルバムだけあり、全編通して彼らと一緒に旅をしているような気分だ。その旅は、楽しいだけではなく苦しいこともある。だが、そんな喜怒哀楽の感情全てを含めた壮大な物語がこのアルバムには封じ込まれている。鋭いビートと幸福に満ちたメロディはひたすらに自然体。外界からの刺激を素直に受け入れた彼らの純粋さに胸が焦がれる。貪欲に成長を求める人間の生き様、此処に在り。
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GLASVEGAS
EUPHORIC///HEARTBREAK\\\
デビュー・アルバム『GLASVEGAS』から約3年振りのリリースとなる2ndアルバム。デモ録音から完成までに1年を費やしたという意欲作だ。分厚い轟音は今作も健在。そして以前よりも、よりJames Allanという表現者の深層心理に近付く作品でもある。非常に叙情的かつ官能的なヴォーカルが耳に入るたび、ここまで踏み込んで良いものかこちらが躊躇してしまう。ダイレクトに迫り来る情熱が、聴き手の感情をかき乱すほど奮い立たせるのは必然だろう。シューゲイズ・ノイズは耳に心地良く反響し、極上の眠りも誘うようである。彼らの作り出したGLASVEGASという世界は、グラスゴーの青い世界やラスベガスの眠らないパーティーの空間を逸する、まったくの別次元。だがそこには揺るぎ無いリアルが存在する。
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OWL CITY
All Things Bright And Beautiful
シングル「Fireflies」が全世界で1200万枚(!)売り上げるなど破格の成功を果たしたOWL CITYだが、そんな環境の激変で彼の姿勢が変化することはなかった。というより、彼の音楽の魅力はさらに磨きをかけている。この2ndアルバムを一言で言うなら、美しい。「Alligator Sky」ではShawn Chrystopherのラップをフィーチャーするなどアッパーなリズム感を演出しながら、作品全体で強い印象を残すのはやはり美しいサウンド・レイヤー。メロディ、ダンサブルなリズム、それを包むきめ細やかな音の粒......。全ての要素の重なりは、本当に優しい感触で心に染みる。All Things Bright And Beautiful――全ては輝き、美しい。必ずしも幸せばかりではないものがあふれるこの世界が輝き、美しくあるように......。アルバム・タイトルとこの楽曲たちは、OWL CITYの平和への願いかもしれない。
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MY MORNING JACKET
Circuital
現在のアメリカを代表すると言っても良い人気バンドとなったMY MORNING JACKET、3年振り6枚目のフル・アルバムがついに登場。地元のケンタッキー州に戻り、ほとんど一発録りで作られたというセルフ・プロデュース作品だ。レコーディングには古い教会を利用し、鳥や風の音などもそのまま収録しているが、それはまさしく自然との共作と言って良いだろう。木漏れ日のようにきらめくキーボード、鳥が翼を広げる様なしなやかさのギター、動物の歩みを感じさせるドラムス......。天然の環境は彼らの奏でる音を、軽やかに美しく、クリアに響かせてゆく。壮大なバラード、王道ロック、心あたたまるアコースティック・ナンバーなど、MY MORNING JACKETが歩んできた軌跡が凝縮。滲むような柔らかいハーモニーは聴く者をゆったりと眠りに誘う。
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EMMY THE GREAT
Virtue
驚くべきことに、冒頭曲「Dinosaur Sex」は原子力発電所から漏れ出した放射能の影響で荒れ果てた未来を描いている。当然、時期的にこの楽曲が福島の原発事故をモチーフにしたものではないが、このリアリティはあまりにも重く響くだろう。UK新世代フォーク・シーンの歌姫、EMMY THE GREATの2ndアルバム。やはり今作も純粋に作りたいものを作るという彼女ならではDIY精神があり、アルバム制作はファンから制作費を募るファンド形式で行われた。サウンドはシンプルに、前作のままフォーキーなトーンで構築し、神話やおとぎ話を現代に織り交ぜた詩世界が歌われているというが、上記のエピソードが物語るように、これはぜひとも対訳を読みながら反芻するように味わってほしい。そして、あなたの“virtue(美徳)”を考えてほしい。
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ISLET
Celebrate This Place With Me
既存のカテゴリーに属さないものに対面した時、私たちは拒否反応を起こしがちだ。願わくば自分は安全な場所で傍観していたい。しかし、ISLETは拒否反応を起こす隙さえ与えてはくれない。一瞬にして“ISLET=隔離されたどこか”へ連れて行かれる。おそらくは現実ではないどこかだ。同じパターンをいくつも重ねた複合的音像。唐突すぎる場面展開。固定したパートを決めず流動的にプレイするサウンドは、破壊的なドラム・デュオとノイズに裏打ちされた妖艶な空気が漂う。ゴシックなTHESE NEW PURITANSのパンクよりエキゾチックで、高尚なSteve Reichのミニマル・ミュージックより暴力的。中毒性を帯びたサウンドは、視界を塞がれてしまったかのような錯覚を起こし、眠っている記憶に揺さぶりを掛ける。
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Thurston Moore
Demolished Thoughts
SONIC YOUTHのフロント・マンであるThurston Mooreの3枚目のスタジオ・ソロ・アルバムが到着。なんと今作は、あのBECKがプロデュース。BECKのプロデュースといえば09年のCharlotte Gainsbourgの『Irm』やJamie Lidellの作品などが思い浮かぶが、今作はその2作にある先鋭的でクールな音像とは違い、Thurston Mooreが紡ぎ出す歌をシンプルに暖かく描き出す様なプロダクション。前作同様に、SONIC YOUTHの轟音サウンドとは違い、パーソナルで、とても繊細な歌声とメロディが心地よく響く。大胆に取り入れられたストリングスも、あのBECKの傑作『Sea Change』を彷彿とさせるようだ。
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DANGER MOUSE&Daniele Luppi
Rome
『Roma』なる架空のサウンド・トラックが届けられた。差出人はBROKEN BELLSとしての活動も記憶に新しいDANGER MOUSEから。おや? この壮大で荘厳なサウンド・スケープはなんだ!これまでの作品とは一線を画すものだ。まるで映画音楽の巨匠Ennio Morriconeへの挑戦状? DANGER MOUSEことBrian Burtonと、イタリア出身のコンポーザーDaniele Luppiが手を組んだこのプロジェクト。お互いイタリア映画音楽好きで、この分野で一緒に何かやろうと意気投合したのがきっかけのようだが、なるほど、マカロニ・ウェスタンの空気が満ちている。さらに驚くべきことに、ヴォーカルとして迎えたのはJack WhiteとNorah Jones!渋みと甘さが絶妙に絡む歌声を披露し、楽曲の味わい深さをより強めている。しかし、天才の名をほしいままにするBrianの動向は予想だにできない。彼の脳内はさながら小宇宙だろうか?
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MOBY
Destroyed
ギーク? ナード? いやいや、エレクトロ界のメガネ・プリンスMOBYが帰ってきました!デビュー以降、プロデュースやリミックス作品含めコンスタントな活動が目立つが、オリジナル・アルバムとしては約2年振りである。ツアー先のホテルの部屋で書き綴ったという本作のコンセプトは、MOBYいわく"午前2時に誰もいない街で流れているような、メロディックでエレクトロニックな音楽"らしいが、オープニング・ナンバー「The Broken Places」のチル・アウトな空気感はまさにそれだ。昨今の作品同様、全体的に内省的なアンビエント・ワークスの色合いを強く感じるものの、持ち前の渋い歌声、そして美しくダンサブルな楽曲もあるからご安心を。両極のサウンドを変幻自在に操る腕前は、さすがテッパン!ご機嫌で極上の午前2時である。
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OKKERVIL RIVER
I Am Very Far
Norah Jones の傑作「The Fall」に楽曲を提供したことでも話題を集めたソング・ライターWill Sheff率いるOKKERVIL RIVERの新作が登場。共同制作したRoky Ericksonのカムバック作がグラミー賞の“Best Album Notes”にノミネートされたり、あのLou Reedも絶賛するというUSインディー・シーン随一の詩人Will がアレンジ、プロデュースを全て手掛けたという今作は、オーセンティックなアメリカン・ロックを基本としながら様々な音楽を取り込んだフリーキーなサウンドが魅力的。Willのメランコリックでセクシーなヴォーカルに導かれ、世界中を旅している様な気分にさせてくれるとても不思議な魅力を持ったアルバムだ。現在のUSのインディ・ロックを熱心に聴いている音楽ファンにぜひ聴いてもらいたい傑作。
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