DISC REVIEW
Overseas
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Matthew Herbert
One Pig
BjorkやREMなど、数多くのアーティストのプロデュースを手掛けるエレクトロニカ・サンプリング界の重鎮、Matthew Herbert。彼の三部作となる「One」シリーズの完結作が本作『One Pig』だ。第一部作『One One』では"ある男の一日"をコンセプトとし、第二部作『One Club』は"とあるクラブに集った人達"の音を、そして本作では、なんと豚の誕生から死まで...そして人に食される瞬間までをサンプリングして作られた!豚の一生をドキュメントしながら、生活音から音楽を再構築するのは、まさに鬼才(奇才)と呼ばれる彼の為せる技。本来逃避的とも言われるこうしたクラブ・ミュージックだが、ここで聴こえる豚の鳴き声は、どんな歌声よりも確かなメッセージを持っているように感じる。
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THE JEZABELS
Prisoner
わずかEP3枚しかリリースしていなかったにも関わらず、SXSW(US)、The Great Escape Festival(UK)、BIGSOUND(AUS)などを筆頭に数々の有名フェスに出演し、今話題のシドニー出身の男女4人組ロック・バンド。母国のiTunesチャートで1位を獲得した「Dark Storm」を含む待望のデビュー・アルバムを遂にリリース!特筆すべきはヴォーカリスト、Hairy Maryの歌声である。PJ Harvey、Kate Bush、Bjorkなどの名だたる歌姫を引き合いに出される彼女の声はとてもピュアで驚くほど表現豊かだ。特に「Dark Storm」と「Easy To Love」は聴いた瞬間、思わずハッとするほど彼女の持つ魅力が存分に発揮されている。
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HOUSSE DE RACKET
Alesia
全欧でラコステのCMに起用される等、とにかくお洒落でポップなフレンチ・ポップ・デュオ、HAUSSE DE RACKET。日本でも大人気のフレンチ・ポップ・バンドのPHOENIXの後継者との呼び声も高い。前作『Forty Love』はリリースされてから1年以上経っているにも関わらず、まだまだUKチャートを賑わせている。今作は前作よりエレクトロ色が強くなったが、エッジの効いたダンス・ビートとシンセの絶妙なバランスはやっぱりお洒落。今作の彼らのサウンドを表現するなら、暗いダンス・ホールで妖しく踊っているような、と言えば想像しやすいのではないだろうか。特に3曲目の「Roman」、5曲目の「Chorus」は彼ららしい哀愁漂うメロディセンスが味わえるのでお勧めしたい。
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STILL CORNERS
Creatures Of An Hour
ロンドンの紅一点のバンドのファースト・フル・アルバム。これまでにEPやシングルを数枚リリースしてきたが、それまでの路線を継続した彼らの現在の集大成といえる一枚。儚げなウィスパー・ヴォイスに官能的且つ退廃的な音が絡み合って、時にサイケデリックに時にドリーミーな世界観を醸し出している。どこか懐かしくも新しいサウンドで、古い青春映画のサウンドトラックを聴いているような気分にもなる。似たような曲が多いのが少し気になるが、それは同時にこれからまだ進化を遂げる可能性を秘めているということでもあり、ファースト・アルバムとしては満点の出来じゃないだろうか。精力的にツアーも行っているようなので、この世界観をどうライヴで表現するのかぜひ観てみたい。
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THE SUBWAYS
Money And Celebrity
05年のシングル「Rock & Roll Queen」で華々しくロック・シーンに登場したTHE SUBWAYSの3年振り、3枚目に当たる作品。オープニング・ナンバーである「It's A Party」が象徴する様に1stアルバムを思わせるストレートでポップなサウンドが見事に復活している。更には08年リリースの2ndアルバムを彷彿とさせるラウドなギター・サウンドも健在。もちろんTHE SUBWAYSを語る上で外せない魅力の一つであるBillyとCharlotteのコーラス・ワークにも磨きがかけられている。そう!彼らの魅力をすべて詰め込んだ理想的な3rdアルバムとなっている。この素晴らしいアルバムが現在の寂しいUKロック・シーンの起爆剤になることを期待したい。
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CLAP YOUR HANDS SAY YEAH
Hysterical
いまやインディ・ロックの重要なアイコンとなりつつあるCLAP YOUR HANDS SAY YEAH(以下CYHSY)。07年リリースの『Some Loud Thunder』以降、作品としてはヴォーカルAlec Ounsworthのソロ作やメンバー個々の別プロジェクトなど課外活動が目立っていたが、ついにCYHSYとして待望の新作が完成した。実に4年振りの3rdアルバム『Hysterical』である。この間、スタジオ入り延期での解散説や来日公演中止など、なにかと負の話題が一人歩きしていたが、すべてを吹き飛ばす快作となっている。繊細であり親しみやすいメロディ、そして温もりあるAlecのヘロヘロ・ヴォイス、ここにしかない世界観はやはり胸を揺さ振るものだ。しかしトータルとしての構築美には本当に驚かされる。完全自主制作でリリースされたデビュー時を想うと、あのいなたさはどこへいったのか!?飛躍したCYHSYに拍手を送り、今後の活動も期待しよう。
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I BREAK HORSES
Hearts
大聖堂で繰り広げられるMY BLOODY VALENTINEの讃美歌か、天国の階段を駆け上がるULRICH SCHNAUSSか……この霧のようなホワイト・ノイズの先には、幾重もの荘厳なイメージが湧き立つだろう。エレクトロ・シューゲイザーの新たな夢想家、スウェーデンはストックホルムから登場したI BREAK HORSESである。上述した例でお分かりのように、古典を紐解き、現代的なアレンジでシューゲイザー文脈を辿っているが、なんといっても魅力はルックス含めヴォーカルMaria Lindénの透徹な囁きだろう。心地良い冷気を纏い陶酔境へ誘うは、まさに新世代の歌姫となる可能性を秘めている。今年8月にBELLA UNIONからデビュー・アルバムをリリース。また、12インチ・シングル「Herts」にはTom Rowlands(THE CHEMICAL BROTHERS)によるノイジーなダンス・リミックスが収録されているので、クラブ・ミュージック・ファンにも注目の存在だ。
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YUCK
Yuck
誰もが予想しなかった成長/飛躍で帰ってきた。「恐るべき子供たち」と謳われ閃光ライオットとなった元CAJUN DANCE PARTYのDaniel Blumberg(Vo)とMax Bloom(Gt)から結成されたYUCK(オエッ!の意)。2010年に7インチ・シングルを数枚リリース後、FAT POSSUMと契約。今年2月にはデビュー・アルバムをリリースし話題となるが、来日公演直前のタイミングでついに日本デビューを果たす。まるでDINOSAUR Jr.とSONIC YOUTHのノイズを純粋培養したような、90年代初期USオルタナティヴの世界観を想起するものだが、さらにはTEENAGE FANCLUBのポップネスも感じさせるから、もう往年のファンはどストライクだろう。まさに新世代オルタナ・ロック・ヒーローの誕生だ。ちなみに日本盤は豪華ボーナス・トラック6曲収録され、ジャケットもオリジナル・アートワーク仕様である。このジャケのセンスが毎回微妙にグロくて面白い。
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GIVERS
In Light
バンド名は“与える人たち”という意味を持つ。男4+女1の5人組は一体何を与えてくれるのかって? それは飛びきりマジカルでドリーミーでサイケでパワフルでダンサブルでキュートでハートフルな音楽の至福だよ! まるでVAMPIRE WEEKENDやtUnE-yArDsが放つアフロ・ポップやトロピカリズモの体裁だが、LOS CAMPESINOS!のヤンチャな遊び心までも見え隠れするオリジナリティだ。そんな反則技、心はワクワク!ドキドキ!スウィングしっぱなしでしょう。09年結成、アメリカはルイジアナ出身のGIVERS。すでに本国メディアでは軒並みネクスト・ブレイクの称賛が送られ、デビュー・アルバム『In Light』は話題のGLASSNOTE RECORDSからリリース。しかし、あまりの楽観的な世界観だけに一部“ディズニー・ソング”と揶揄するインディ・キッズがいるようですが、バンドに変わり反論しておきます。ディズニーなめんな!
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THE RAPTURE
In The Grace Of Your Love
THE RAPTUREより、実に5年ぶりの最新作が到着!メジャー・デビュー作にして多方面を騒がせた『Echoes』。DFA Recordsを離れ、自分たちだけで完成させた『Pieces Of The People We Love』。彼らが彼ら自身を紐解き、力量と秘めたる才能を見いだすことに成功した前作でみせた“会新のTHE RAPTURE”ともいうべき姿。至高の愛のかけらが煌めき飛び交う最高のダンス・ミュージックから5年、本作はその5年間を集約したような、大海を彷徨うような途方もないスケールを持ち合わせる。バンドと供に5年間という空白の時空を一気に越えていくような、雄大にして、優美な世界。今度の彼らは、“ダンス”だけじゃない。“酔いしれるように踊り”、“踊るように酔いしれる”。
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HARD-FI
Killer Sounds
今年は海外の大物アーティストのリリースが絶えないが、HARD-FIの新作もそのうちのひとつだろう。3作目のオリジナル・アルバムは4年待った甲斐が充分ある、非常にポジティヴでエネルギッシュな快作だ。ロンドン郊外にあるステインズ出身の彼らだが、1stと2ndを生みだしたその地元だけに留まらず、ロサンゼルスなどでレコーディングを敢行。新たなプロデューサーを迎え、サウンド面での探究も目まぐるしい。ロックをベーシックに、パンク、ダブ、スカ、レゲエ、ファンクにディスコなどなどカラフルな音楽性と、ダイナミックなヴォーカルやコーラス。身体をスウィングせずにはいられない。彼らが4年掛けて導き出したバンドの在るべき姿と、殺傷能力抜群のミュージック。音を楽しむ、まさしくこれぞ“音楽”!
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RED HOT CHILI PEPPERS
I'm With You
2枚組という大ヴォリュームでリリースされた『Stadium Arcadium』以来、約5年振りの待望のオリジナル・アルバムがとうとうお目見え! Josh Klinghoffer(Gt)が加入して初のリリースとなる本作は、10thアルバムという節目に相応しいユーモアと愛に溢れた作品に仕上がった。未知なる世界を手探りしながら追究し、それを心の底から楽しんでいるような好奇心。そんなやんちゃさと素直さ、大人になったからこそ感じることが出来る様々な想いが、ドラマティックな空間を作り出す。美しいコーラス・ワーク、予測不可能な曲展開、ピアノ等を大胆に取り入れたりと、遊び心はとどまることを知らない。"キャッチー"や"ポップ"という言葉だけでは片付けられない、非常に深みのあるアルバム。名作!
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KASABIAN
Velociraptor!
まったく、彼らはリスナーを飽きさせることを知らない。約2年振りのリリースとなる4枚目のオリジナル・アルバムは、KASABIANの活動の集大成であり、新たな力が凝縮された作品だ。怪しく不穏な閉塞感、獲物を虎視眈々と狙うような危険度。ひたすらに不気味な空気を醸し出すストリングスは、おどろおどろしくも美しい。と思いきや、まどろむ様な優しさ溢れるミディアム・ナンバーや、軽快なヴォーカルが炸裂する人懐っこいキャッチーな側面も。次から次へと目まぐるしいその自由度にどんどん身体も思考も翻弄されて行く。ちなみに"Velociraptor(ヴェロキラプトル)"とは、ティラノサウルスを倒すことが出来た唯一の恐竜。挑戦を止めず、常に攻め続けた彼らが、とうとう最強の猛獣を生み出した。
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STEPHEN MALKMUS & THE JICKS
Mirror Traffic
どうしてもどうしても、PAVEMENTが離れない……!とはアーティストもファンも承知の上でしょう。だからこそ、古参ファンはかつての想いも込めてこの新境地を楽しんでもらいたいし、新参としてはここからこの男の歴史を紐解くといいだろう。きっと、奥深きロー・ファイの真髄を堪能できるから。PAVEMENT のフロントマンStephen MalkmusがSTEPHEN MALKMUS&THE JICKS名義での通算5枚目『Mirror Traffic』をリリース。このポピュラリティ高いノイズ、脱臼感あるメロディとリズム、そして鋭いウィットは、ふたつとないオリジナリティ。それはまさにメイン・ストリームと一線を画すオルタナティヴであり、ささやかに惹きつけられ、揺さぶられる。本作のプロデューサーがBECKというのは最大のトピックだが、ロー・ファイ黄金タッグというイメージを裏切らない痛快な仕上がりだ。
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120 DAYS
120 Days II
ノルウェー出身のダンス・ロック・バンドの5年ぶりの新作。宇宙に迷い込んだかのようなスペイシーなサウンド、森の中を漂っているようなサイケなサウンド、クラブで踊り明かしているようなダンサブルなサウンド、そしてガレージに閉じ込められたようなロックなサウンドと、これだけの色々な要素が奇跡的に上手く混ざり合っているのがとにかく素晴らしく、確実に前作よりも進化している。多様性のあるサウンドに絡み合うヴォーカルの歌声も時に熱っぽく、時に艶っぽく存在感を放っていて、この高揚感はクセになる。定評のあるライヴを早く生で体感したくなる曲ばかりで、目を閉じて聴いていると前後不覚になってしまうので要注意!
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KIDS IN GLASS HOUSES
In Gold Blood
イギリスはサウス・ウェールズ、カーディフ出身のロック・バンド、KIDS IN GLASS HOUSESの3rdアルバム。前作『Dirt』からたった1年という驚きのスピードで届けられたこのアルバムは前作と同じくJason Perryのプロデュースによるものだが、今までとはひと味違う。彼らが元々持つ爽やかさは残しつつもサウンドの厚みがぐっと増し、フロントマンのAled Phillipの伸びやかな声が耳に残る楽曲が並ぶ。 「Only The Brave Die Free」や「Annie May」は、夏の夕暮れに屋外フェスの会場で聴いてみたいと思わせるような華やかなナンバーだ。今まで彼らに魅了されていたロック・キッズ達は勿論のこと、少し落ち着いた大人も聴ける成熟したロック・アルバムに仕上がっている。
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DUM DUM GIRLS
Only In Dreams
昨年リリースされたデビュー・アルバム『I Will Be』から約1年半ぶりの新作が早くも到着。THE DRUMS、BEST COASTらに先駆けてサーフ・ロックにガレージ感を掛け合わせたサウンドをシーンに提示して来た彼女達の新作は、前作にあった勢いはやや押さえ気味なものの、ポップさや楽曲の完成度は明らかに今作のが一枚上だ。プロデュースは前作と同じくRAVEONETTES等を手掛ける大御所Richard Gottehrer。サウンド全体の手触りは変わらないものの、仕上がりは格段に耳馴染みが良く心地良い。ヴォーカルDee Deeの気怠くキュートな歌声も素敵なのだけど、1曲1曲のメロディの良さが際立つ彼女達の成長がしっかりと刻まれた理想的な2ndアルバム。
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JEFF THE BROTHERHOOD
We Are The Champions
元BE YOUR OWN PETのメンバーである兄弟が結成したサイケ・ガレージ・ロック・デュオの日本デビュー盤。THE WHITE STRIPESのJack Whiteのレーベルからライヴ盤をリリースしたり、BEST COASTとスプリット・シングルを発表するなど話題に事欠かない二人だが、そんな前情報も吹き飛ばす豪快で力技なガレージ・パンクがこのアルバムでは展開される。見た目はJETを彷彿とさせる様なハード・ロックな出で立ちながら、キャッチーなフックと耳に残るポップなメロディが満載。サウンドもロー・ファイを基本としながらパンキッシュでジャンク感のある仕上がりで、とにかくパワフルな一枚だ。轟音ライヴも好評とのことなのでぜひ来日を実現させて欲しいところだ。
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SUBMOTION ORCHESTRA
Finest Hour
教会とダブステップ――この2つが結び付くなど誰が想像し得たであろうか。ゴスペルなどソウルフルなサウンドと宗教の結び付きはあったものの、ダブステップとなると話は別だ。しかし、SUBMOTION ORCHESTRAは、“教会での生演奏によるダブステップ”という異色な依頼を受けたことをきっかけに活動をスタートさせた。Nitin Sawhney、Little Dragonらのようにダークでチル・アウトな空気を展開しながらも、より濃厚でアンビエントな空間を作り出す。オーケストラほど飾り過ぎず、ジャズよりも肩の力が抜け、ダンス・ミュージックよりも落ち着いた、実に都会的な色気が満ちているのだ。トランペットを含む7人構成のもと、繊細でありながら、奥が深く厚みのある壮大な、サウンドスケープにまとめ上げられた1作。この幾重にも重なった美しさは、新たなステップへと聴き手を解放してくれるだろう。
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Lenny Kravitz
Black And White America
過去8作のアルバムの売り上げは合計3500万枚超え!これまでに収めてきた破格の成功ぶりからすると、色々な意味で落ち着いて守りに入ることすらもある意味自然なことかも......。そんな定番な予想は、このLenny Kravitzにとってはありえないようだ。何しろ今作は、彼の作品史上でも1、2を争うと言って良いほどバラエティに富んだ痛快な作品なのだから! カラフルなCGとともにハンド・クラップを打ち鳴らすPVが印象的な「Stand」のポップ・センス。「Rock Star City Life」で炸裂するまさにLenny節なギター・サウンド。かと思えば。ヒップ・ホップ界からは帝王JAY-Zと新鋭DRAKEを招き......。尽きることのないレニーの冒険心は、いつでも僕達リスナーの心をときめかせてくれる!
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