DISC REVIEW
Overseas
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HOWLER
America Give Up
ビートニクのAllen Ginsberg著作の“HOWL”から取ったと思われるこのバンド名にこのタイトル…それだけで十分魅力的だ。THE STROKESやTHE LIBERTINESを発掘した事でも知られる老舗レーベルのRough Trade Recordsが契約したという話題先行で注目が集まる彼らだが、一聴してまず感じたのは、60年代~00年代のガレージ・ロック・リヴァイバルに至るロック史に刻まれた音の数々を凝縮したようなバンドであるという事。それはGIRLSの様に円熟したバンドならまだしも、Julian CasablancasやAlex Kapranosの様な色気の持つこのヴォーカリストは未だ19歳!THE VACCINESと共にツアーでここ日本にもやってくる。いち早くチェックしておいた方がいいかもしれない。
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TEAM ME
To The Treetops
昨年リリースされたEPがここ日本でも話題となり、今作を非常に楽しみにしていた方も多かったと思う。期待していい。このアルバムには何かを始めようとする時の衝動やワクワクが、はちきれんばかりに詰まったとっても素敵なアルバムなのだから!ノルウェー出身のこの男女6人組は、元はバンドと偽ったソロ・プロジェクトで人気を獲得しつつあったMarius(Vo& Gt)がバンドお披露目の前日に、せっせと一晩のうちに友人に声をかけて結成。LOS CAMPESINOS!のキラキラ感、同じ北欧のLACROSSEが持つ抒情性を纏い、個々の感性を尊重しているこの若く民主的なバンドは、6人の持ってるおもちゃを使って何かしてやろうというピュアな気概と冒険心に満ちている。皆で楽しむ――この結束は何よりも固い。
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FEEDER
Generation Freakshow
昨年でデビューから15周年を迎えたFEEDERの通算8枚目のオリジナル・アルバムがついにリリース。ヘヴィなギター・サウンド、キャッチーなメロディ、温かみのあるアコースティック・サウンド、どんな曲調の曲にも自然に絡み合うヴォーカルGrantの歌声。そんな彼らの全ての魅力が今作に詰まっていると言っても過言ではない。全曲これぞまさにFEEDERだ! と叫びたくなるような要素が満載で、尚且つ新鮮味と勢いを感じられるのが嬉しい。東日本大震災を受けてチャリティー・シングルとしてリリースした「Side By Side」も本編最後に収録されており、もうすぐ1年経つ今聴くとまた違った深みがあって感慨深い。まだ一度も彼らの音楽に触れたことのない人への入門編としてもオススメできる快心作だ。
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PERFUME GENIUS
Put Your Back N 2 It
現代のSyd BarrettかNick Drakeか……。その薫りは、あまりにも芳醇で上品で甘美なものだ。しかしその本質は、直視するにはあまりにも重すぎる不安や恐怖や孤独の痛みである――その過激でリアルな内容を赤裸々に曝け出した前作『Learning』で注目を集めたPERFUME GENIUSことMike Hadreasというリリストが、第2章を刻む。美しい歌声とピアノから、触れれば崩れてしまいそうな均衡で成り立つ世界観は前作の延長線にあるが、幸福な心境の変化があったのだろうか、比較的に開放感ある曲調も垣間見せる。本作は初スタジオ・レコーディング作品でもあり、クリアとなったサウンドからはより彼の無垢で繊細な“呼吸”を感じ取ることができるだろう。純粋に歌わなければならない歌の数々が心を揺さ振る。願わくば、この音楽があなたの救いとなりますように。
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THE CRANBERRIES
Roses
U2やEnyaに続き、アイルランドで成功したアーティストとして知られるTHE CRANBERRIESが11年ぶりとなる新作を発表。フォークを基調としたバンド・サウンドと、静謐ながらも力強さを秘めたDolores(Vo,Gt&Key)の歌声は未だ健在で、本作では過去5作の中で時折見られたロック色の強さはあまり感じられない。プロデューサーも長年タッグを組んできたStephen Streetだけあって、ファンなら初期の彼らをついつい期待してしまうだろうが、決して本作は単なる原点回帰や復帰作で終わらない。それは人生を考察し詞作に活かしてきたDoloresをはじめとするメンバーの人生観が見事な形で結実しているに他ならない。これをキッカケにTHE CRANBERRIESを聴く人が増えるといい。
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ROSE HILL DRIVE
Americana
なんか……ダサくない? ロン毛&髭モッサリ、ヨレヨレのTシャツ着て荒々しい70年代ハード・ロックなテイストを紡ぐ。名前もROSE HILL DRIVEって(苦笑)、なにからなにまで大仰で古典的で、彼らはタイム・マシンに乗ってこの時代にやってきたのか?でも……聴いていくとなんだか熱い感情が沸き起こる。エッジーなギター・リフにハイトーン・ヴォイスはまるでWHITE STRIPESのJack Whiteが憑依したようだぜ! Daniel&JacobのSproul兄弟が中心の4人組天然ロッカーズ、ROSE HILL DRIVE。その熱いスタイルが話題を集め、THE WHOからAEROSMITH、VAN HALENにTHE BLACK CROWESにWILCOにQOTSAと、錚々たる面々からラヴ・コールを受けている。本作は約3年半振りのサード・アルバムである。ド真ん中に剛速球を投げる王道感は、日本でいうギターウルフに近い感じかな。なんか……かっこいいぞ!
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Bill Wells
Lemondale
奇跡を操るとまで形容されるスコットランドの奇才Bill Wellsがかねてから親交のあったテニスコーツ、二階堂和美、Jim O'Rourke、青柳拓次ら日本人のミュージシャンと作り上げた今作。彼の音楽は圧倒的に美しい。勿論今作のベースになっているのもジャズなのだが、わずか1日という限られた時間で、彼の描く華美な装飾の施されていない美しい世界を、日本を代表するミュージシャンたちが自由に紡ぎあげていった様子が窺い知れる。そしてアルバムの半分を占める二階堂和美とテニスコーツのさやがヴォーカルを務める楽曲では、彼女たちの新たな側面を引き出し、アルバムに色を添えている。Jim O'Rourkeが参加しているから持ち出すわけではないが、まるでGASTR DEL SOLのような、甘美な完成されたポップ・ミュージックだ。
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CLOUD NOTHINGS
Attack On Memory
どうしたCLOUD NOTHINGS! 驚異の飛躍というか、深化系変貌。90年代にシカゴ音響派周辺に浸っていたおっさん(俺もね)はとにかくオープニング・ナンバーで感涙だろう。ポスト・ロックやエモなんてカテゴライズもなかったあの時代、張り詰めた緊張感と“静と動”のエモーショナルな美をみせたSLINTによる名盤『Spiderland』の幻影が! こんな裏切りは想像できなかったが、レコーディング・エンジニアはノイズ御大Steve Albiniという納得の起用。昨年リリースされた泣きメロ満載のデビュー・アルバムはローファイ・リヴァイヴァルの追い風にも乗り注目を集めたが、ついに覚醒である。主要メンバーDylan Baldi曰く“前作のポップ・パンクとは対立するものとして、新作をロック・アルバムと呼びたい”と。逞しく成長した姿を見るにつけ、俄然来日を切望!
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Alex Winston
King Con
この音源を聴いてからというもの、僕はずっとこのアーティストに夢中だ。圧倒的なポップネス、高揚を促すユーフォリア、そして甘美なるノスタルジー…この、アメリカはミシガン州出身のシンガー・ソングライターAlexandra Winstonは数々の楽器を操り、Chuck BerryやTHE ROLLING STONES、MUMFORD&SONSといったアーティストのカヴァー曲を配信したことと2010年の「Choise Notes」のヒットで一躍話題になった。そんな彼女の待望のファースト・アルバムが本作である。時間を練られて制作されたのか、一曲一曲のクオリティが非常に高い。Joanna NewsomやLykke Liに比肩する憂いを帯びた歌声で、今後多くのリスナーを魅了することだろう。そう言えるだけの根拠がこのアルバムにはある。
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ICEAGE
New Brigade
聴くとなんだか無性にバンドを組みたくなる。本能に突き刺してくる鋭利なサウンドに言葉、ってことかな。すべてに唾を吐き出すようなアナーキズム、自暴自棄なほど疾走するニヒリスティックと、とにかくこのモヤモヤをどうにかしてくれ!とばかりに“不機嫌な子供たち”がデンマークはコペンハーゲンから登場した。すでに昨夏海外ではリリースされ瞬く間に注目を集めているが、まだ全員10代の4人組、ICEAGEがいよいよ日本デビューである。GANG OF FOURやJOY DIVISIONの尖った知性を80年代USハード・コアばりのテンションで駆け抜けるかっこよさ、そしてコンセプチュアル・アート指向な美意識も完遂されていて気持ちいい。これは若気の至りではない、本物と断言する。この冷めた時代、シーンも己も“健全”であるがための音楽がここに。
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THE FRAY
Scars & Stories
THE FRAY、3年振り3枚目のオリジナル・アルバムは、とにかく外へと開けている。世界各国を舞台にする航海のように雄大でロマンに満ちた作品だ。ルワンダを旅したときに受けたインスピレーションにより完成した「Heartbeat」、ツアー生活を歌った「48 To Go」、ベルリンのことを歌った「1961」、「Rainy Zurich」「Munich」など、その場所で受けた刺激を心の中に取り込み昇華する。以前まではIssac Sladeのピアノがバンドの音を率いているような印象もあったが、今作はいい意味でそれが主役ではない音作り。特にJoe Kingのリード・ギターの存在感が増し、よりロック・バンドとしてのサウンドを聴き手の心に打ちつけている。美しく勇敢な物語。そのまっすぐな強さとぬくもりに酔いしれる。
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THE BIG PINK
Future This
悲しみに満ちた痛々しくも美しい愛の物語を散りばめた『A Brief History Of Love』で、UKシーンに大きな衝撃を与えたTHE BIG PINK。そんな鮮烈デビューから早2年……第2章となる本作は、前作同様Phil Spectorの“ウォール・オブ・サウンド”を彷彿とさせる完成度の高いポップ・アルバムに仕上がった。前作は彼らの失恋直後に作られた作品ということもあり、ポップでありながらも大きく影を落とした悲哀の色を滲ませていた。だが今作は違う。前に突き進もうとするポジティヴなエネルギーが詰まっているのだ。「Stay Gold」や「Hit The Ground」で聴けるアンセム級のフックが何よりもそれを強く感じさせる。2012年、輝かしい未来の幕開けにふさわしい、多幸感に満ちたアルバムだ。
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PLASTIC OPERATOR
Before The Day Is Out
4年振りにPLASTIC OPERATORが帰ってきた! 前作『Different Places』がUKでは“POSTAL SERVICEの『Give Up』以来の衝撃”と評され、日本でも耳の肥えたリスナーがこぞって踊りだすほどの支持を得ていた彼ら。非常に緻密な音の配列、滲み出るインテリジェンス、何より鳥肌が立つくらい耳触りの良いメロディ、UNITED STATE OF ELECTRONICAのような全力で突き抜けたポップさとは違った少しローファイな心地よいビート……。近年チラホラ見かける、過剰なまでの装飾が施された人工的に煌びやかな作品とは確実に一線を画す。非常に職人気質な温もりを感じる良質なエレポップだ。
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SHORTSTRAW
You’re Underfed, I’m Wonderful
SHORTSTRAWは2008年にギター&ドラムの2ピースから始まり、徐々に様々な音楽性を取り入れ、現在は5人編成となった南アフリカ出身のインディ・バンド。アコースティック・ギターを主軸としながら、軽快なリズムと共に展開してゆくサウンド。ブルースやファンクといったジャンルを横断したG.LOVEを引き合いに出したくなるほどに、爽快で屈託のない明るさがある。某大物俳優の名前を連呼するキャッチー&バカで楽しい曲もあって、ノリはZEBRAHEADにも通じるかも? これぞトロピカルな南アフリカの地域性も影響するところなのだろうか。とにかく興味を持った方は、リード曲である「Underfed」を聴いてみるといい。ペシミストたちの音楽ばかりじゃあ踊れないだろう?
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OCEAN OF LOTION
Dive In
ノルウェーを拠点に活動中の、ノルウェー人とイギリス人のユニットのデビュー・アルバム。アーティスト写真や曲はふざけているのが一目瞭然(笑)。肝心の楽曲もかなりぶっ飛んでるかと思いきや、なんとこちらは意外と真面目。80年代のエレクトロ・ポップとディスコ・サウンドを軸に、アルバム後半には北欧ならではの哀愁感が漂う曲もあり、異なるサウンドが上手く混ざり合う面白さがある。聴いているうちに様々なアーティストの名前が浮かぶという点ではもう少し際立った個性が欲しいが、これから他とどう差別化していくのか楽しみでもある。キワモノ扱いせずに多くの人に聴いてもらいたい。逆にキワモノな部分を楽しみたい人はおふざけ満載の歌詞を読み込んで、チープ感が最高なPVを堪能すべし!
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BETH JEANS HOUGHTON AND THE HOOVES OF DESTINY
Yours Truly, Cellophane Nose
派手なヘア・スタイルに奇抜なメイク。ヴィジュアルから個人的に真っ先に連想したのはGwen Stefaniである。だが、聴こえてきた1曲目の「Sweet Tooth Bird」のイントロはTHE BEATLESを思い出すような正統派サウンド。更に聴き進めていけば、まぎれもないブリティッシュ・フォーク・ソングでヴィジュアルのイメージから想像したR&B等の要素は全くないのである。このギャップは流石に度肝を抜いた。更に21歳とは思えないほど甘さとセクシーさを兼ね備えた声は蠱惑的である。しかも、BLURやDEPECHE MODEを手掛けたBen Hillierがプロデュースを担当したというのだから、デビュー・アルバムから大物感の漂う1枚である。
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PULLED APART BY HORSES
Tough Love
のっけから勢いよく耳に飛び込んでくるのはギターと大音量の重低音ベースのユニゾン。ポイント・ポイントではバスドラまで重なってくる。しかも今時のお洒落なフレーズなんかではなく、ロック・リスナーであれば誰もが聴き馴染んできたベタベタのフレーズをガツガツ弾いてくれちゃうのだ。笑ってしまうくらいシンプルで馬鹿馬鹿しさすら覚えるのだけれど、それが清々しくて心地良い。「馬裂きの刑」なんていうおどろおどろしいバンド名だが、サウンドに感じるのは馬が駆け出す勢いだろう。ライヴでは間違いなくファンがピョンピョン跳びはねたくなるようなエネルギッシュなパフォーマンスを魅せてくれるにちがいない。パンクなのだろうかとかメタルなのだろうかとかいろいろ小難しく考える必要はない。頭をからっぽにして楽しんでみてほしい。
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THE MACCABEES
Given To The Wild
英国のインディー・ロック・バンドTHE MACCABEESの待望のサード・アルバム。一聴してまず驚いたのがサウンドの変化。前作までの踊れるアップ・ビートな曲を期待している人は必ず裏切られるだろう。アルバム全曲がダークで深く、そして繊細なサウンドで統一されている。一聴するとシンプルに聴こえるが、聴き込むうちに細かい音の作り込みが感じられ、今作の制作に12カ月も費やしたというのも頷ける。THE DRUMSのセカンド・アルバムと似た雰囲気を感じたが、どうやら彼らの大ファンらしいので偶然ではないかも。曲と曲を繋ぐ流れと緩急があり、それぞれの曲に異なった特徴はあるが、聴き終わると全ての曲が同じ方向を向いていると感じられるまとまりのある作品。久々に“アルバムとは本来そういうものだ”と実感できた秀作だ。
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それ以染に
時代にレクイエム
関西を中心に注目を集めるトライバル・サイケデリック・ポップ・バンド、それ以染にの1stミニ・アルバム。肉体性の高いグルーヴィなサウンドと、アンダーグラウンドな匂いから溢れ出す中毒性あるメロディが彼らの魅力だろう。民族音楽や、プログレ、サイケデリック・ロック、USインディー・ギター・ポップを混ぜ合わせ、独自の感性で作り上げたサウンドは、新しさもありながらどこかノスタルジック。個性的と言えばそうだけど、楽曲それぞれがあらゆる音楽ファンに訴えかけうるフックを持っているところが、彼らのポテンシャルの高さだろう。ジャンル分け出来ない不気味さも含め、今作を聴いてライヴをすぐにでも観たいと思ったのは僕だけじゃないはずだ。
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V.A.
Hostess presents NO SHIT! 2
2000年創立以来、旬なアーティストや海外でも評価の高いバンドを次々とリリースして来たホステス・エンターテインメントのレーベル・コンピ第2弾が登場。前作も充実の内容だったが今作はそれを上回る豪華さ。RADIOHEADやARCTIC MONKEYSの新作からはもちろん、2011年の年間ベストに軒並みランク・インしているBON IVERなどが収録されたDISC1は今年の洋楽シーンを手っ取り早く知る意味では最適の1枚。続くDISC2は話題沸騰のHOWLERを始めICEAGEなどこれからが期待される新人が並ぶ。ジャンルを横断しながら今の空気をしっかりと伝えるセレクト。個人的にはDISC2をしっかり聴き込んでほしい。とにかくお得なアルバムだ。
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