DISC REVIEW
Overseas
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TEEN DAZE
All Of Us, Together
WASHED OUTやBLACKBIRD BLACKBIRDなど数多くのアーティストのリミックスを手掛けてきたことで知られるカナダ、バンクーバーのJamison DickによるTEEN DAZEが遂に待望のフル・アルバムを完成。再生スイッチを押した途端、身体が自然に動かずにはいられないほど、シンプルで小気味のよいリズミカルさ。そしてどこまでも優しい雰囲気のドリーミーなインスト曲が最初から最後までぎっしりと詰め込まれている。唯一インストではないM6 は女性ヴォーカルSTEFFALOOをフィーチャーし、もはや浮遊感、幻惑感は最高潮。まさにベスト・オブ・ドリーミーな1曲である。チルウェイヴ好きは勿論のこと、そうでなくとも見逃せない快作。
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YOUNG STATUES
Young Statues
ギター・ポップ/ロックは大好きだったけど、最近はあんまり聴かなくなったなあなんていう人は、これを聴いたら昔のことを思い出すかもしれない。バンドをやっていた人だったら、初めて楽器に触れたときのことを思い出すかもしれない。少年と呼ばれていた頃のことを思い出させる雰囲気がある。シンガー・ソングライターのCarmen Cirignanoを中心とした5人組バンドのデビュー・アルバムに詰め込まれているのはそんな音楽だ。ギター・ポップ/ロックのど真ん中を行くサウンドが展開されている。軽く歪ませていたり、フォーキーであったりするギターが軽快に走り、すっきりと甘いメロディが風のように流れていく。思わず青春という言葉を使いたくなってしまう清々しい風を吹かせる作品。
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AVA LUNA
Ice level
ブルックリンを拠点に活動する男女混合バンドAVA LUNA。ロック、R&B、ヒップホップ、ファンクなど様々なジャンルを混ぜ合わせたサウンドは、一度聴いたら病み付きになること間違いなし。女性3人のコーラス・ワークは、DIRTY PROJECTORSを思い起こさせる。複雑に刻まれたビートと透明感のあるコーラスが絶妙に組み合わさり、異空間へと連れて行ってくれるが、どこか現実の汚さを感じされる、なんとも不思議な感覚に陥る。リズムに合わせ体を揺らすというより、メンタルに訴えかけ感情的な部分を掴まれることにより、身動きが取れないほど集中してしまう。一曲ずつバンドの色を変えてくるので、飽きることのない長く聴ける一枚である。
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Mat. McHugh
Love Come Save Me
オーストラリアを代表するオーガニック・ロック・バンドTHE BEAUTIFUL GIRLSのフロント・マンMat. McHughによるソロ・プロジェクト。シンプルで心に響くアコースティック・ギターやハーモニカの音色は、常に様々なジャンルを取り入れ新しいものを生み出してきた彼の、音楽の原点とも言える。余計なものを取り払い、等身大のMat. McHughを、惜しげもなく見せつけてくれる今作。軽快でありながらゆったりと流れるリズムは、晴天下の浜辺で海を見ながらのんびりと聴きたいものである。これからやってくる暑い夏をさわやかに乗り切るために、手に入れて間違いはない一枚。マリン・スポーツやドライブにも最適な曲が詰まっている。
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THE CULT
Choice Of Weapon
1983年結成、前作『Born Into This』からは実に5年ぶりとなるアルバム。1曲目の「Honey from a Knife」から純度の高いアグレッシヴなロックを展開する。リフの1つ1つが意思を持っているかのようにシンプルでも生き物のように蠢き、Ian Astbury(Vo)のヴォーカルは年月が経てば経つほど逞しくなる雄大な巨木のように響き渡る。2009-2010には足がけ2年に渡り初期の代表作である『Love』を全て演奏するというコンセプト・ツアーを大成功に終わらせている。今作のサウンド・アプローチがロックの持っている原始的な響きに回帰しているのもその影響もあるかもしれない。積み上げたキャリアも、プレイ、サウンド・メイク等細部に渡り完成度の高さは言うまでもないが、CULTは決して高みの見物をしない。全く隙の無い研ぎ澄まされた彼らの牙を感じて欲しい。
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HERE WE GO MAGIC
A Different Ship
RADIOHEADのプロデューサーであり、時には6人目のメンバーとして称されるNigel Godrichがライヴを観て気に入りプロデュースを申し出制作されたという今作。ブルックリンを中心に活動を続ける彼らは今までに2枚のアルバムをリリース。フォーキーでサイケデリックなサウンドとヴォーカルLuke Templeが歌うどこかノスタルジックなメロディ・ライン。VAMPIRE WEEKEND以降を代表するUSインディー・シーンのバンドとして評価を受けて来たが今作で一皮剥けた印象。緊張感ある緻密なサウンドとARCADE FIREを彷彿とさせる壮大でメランコリックな世界感。6月にはHostess Club Weekenderでの来日も。これは見逃せないでしょう。
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SIMIAN MOBILE DISCO
Unpatterns
James FordとJas ShawからなるSIMIAN MOBILE DISCOが帰って来た。かつてはJUSTICEやDIGITALISM、BLACK STROBE等とエレクトロ・ロック・ブームの立役者となり、片割れJamesはARCTIC MONKEYSやKLAXONSなど00年代インディ・ロックの重要作を司るプロデューサーともなった。その動向はいつでも注目を集めるが、約3年振りの3rdアルバム『Unpatterns』もまた期待を裏切らない快作である。上述したエレクトロ・バンドが新作ごとにフロアをいっそう揺らすべく、BPMを上げより激しくアグレッシヴに変貌していくならば、こちらはストイックな内省感を強めるように、緩やかで心地良い、洗練されたサウンドが広がっている。例えるなら、アーバン・アンビエント・ミニマル・ダンス?FATBOY SLIMことNorman Cookが“新鮮で他にはない!”と太鼓判をおしているが、唯一無二のSMD節がフロアを揺さ振る光景が目に浮かぶ。
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ELECTRIC TOUCH
Never Look Back
耳の早いリスナーはもう彼らのことを嗅ぎつけているのではないだろうか。まだ日本デビューこそしていないが、SXSWやCoachellaなど多数の有名フェスに出演し、現在アメリカやイギリスを中心に知名度を伸ばしているのがこのELECTRIC TOUCHだ。イギリス生まれのフロント・マンに、他のメンバーはアメリカはテキサス出身というユニークな構成の彼ら。今作がメジャー1stアルバムになるのだが“Never Look Back(後ろを振り返るな)”というアルバム・タイトル通り勢いのある作品だ。シンセが疾走感を生む骨太で華やかなサウンドはイギリスのパンク・ロックやアメリカのクラシック・ロックへのリスペクトを感じさせる。様々な表情を見せる情熱的なShane Lawlorのヴォーカルが強く胸を打つ。
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GARBAGE
Not Your Kind Of People
USの紅一点ポップ・ロック・バンドGARBAGEから7年振り5作目となる待望のオリジナル・アルバムが到着。活動休止中、ドラムスのButch VigはMUSE、GREEN DAY、FOO FIGHTERSなどのプロデュースを手掛けるなど精力的な活動を行なっていたとのこと。メンバーそれぞれが新たな英気を養いバンドへと戻ってきた今作、とにかくエネルギッシュである。ポップ、ヒップホップ、エレクトロニカ、ロックなどのバラエティに富んだ楽曲が感情を抑えきれないとばかりにはち切れる。そこに美しく輝くのがShirley Mansonのヴォーカル。服を着替えるように、曲ごとに違う魅力的な表情を見せてくれる。多彩なキャリアとバンド活動18年にして尚もこの実験性、チャレンジ精神に感服!
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CITIZENS!
Here We Are
TWO DOOR CINEMA CLUBを世界的ヒットに導いたKITSUNÉより期待の新人がデビュー。UKロック界の巨匠FRANZ FERDINANDのAlexander Kapranos (Vo&Gt)が、制作全般を受け持つほどに惚れ込んだバンドCITIZENS!は、デビュー前にも関わらず既にロンドンで大きな話題を呼んでいる。ヴォーカルのMartynは、可愛らしい顔つきとは異なる大人っぽく艶やかな歌声を響かせる。電子音を巧みに使いこなす一方、ドラムの音をあまり加工せずに“生”の音を活かすことで、よりバンド感を与えている。1曲目の「True Romance」はピアノを用いた爽やかな曲であるが、アルバムを聴き進めているうちに気づけばコテコテのUKロックを聴いていた……というように様々な顔を覗かせる。キャッチ―なメロディから、ダンス・ミュージックまで幅広く手掛ける彼らは、UKロック界の革命児と呼ぶにふさわしいだろう。
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MYSTERY JETS
Radlands
日本でも熱狂的な支持を得ているMYSTERY JETSの約2年ぶり通算4枚目となるフル・アルバム。まず冒頭を飾るタイトル曲「Radlands」から漂う80'sの空気感に溶け込む美しいメロディと洗練されたバンド・サウンドに今作の完成度の高さが伺える。そしてホーム・ページにて先行公開された「Someone Purer」のポップなコーラスはライヴで大合唱間違いなしだろうし、ドリーミーな浮遊感が心地よい「The Nothing」やオーガニックな要素と女性ゲスト・ヴォーカルを取り入れた「Roses」など新境地への挑戦も垣間見える。ガレージ、サイケデリック、プログレッシヴなど、様々なジャンルを独自の世界へと変えてしまう確固たるオリジナリティで貫かれた名作。
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Maya Vik
Chateau Faux-Coupe
70年代のジャズやフュージョンと80年代のディスコやファンクを混ぜ合わせて、その中に90年代のヒップホップを溶かし込んだようなサウンドはどこか懐かしい。しかしそこにMaya Vikの艶かしい歌声が絡みついていくと、近未来的とでも言えそうな、ちょっと浮世離れした雰囲気が広がり、全体のサウンドが新鮮に響きだす。ノルウェーのグラミー賞を受賞したロック・バンドMONTEEのベーシストであり、A-HAのメンバーであるPaul WaaktaarのバンドSAVOYでもプレイしていたという経歴を持つ彼女。このデビュー・アルバムではすべての楽器を自身で手がけ、グラミー賞を4度受賞した、プロデューサー/エンジニアのJimmy Douglassがミックスを行っている。
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QUIET COMPANY
We Are All Where We Belong
アメリカの無料音楽ストリーミング・サイト“grooveshark”を発火点に爆発的人気を獲得したテキサス出身の4人組インディ・ロック・バンドQUIET COMPANYの日本デビュー作。音楽性はBEIRUTやTHE NATIONALにもつながるアコースティックを基調としたチェンバー・ポップであり、情緒的に聴かせるヴォーカルは時に厚みのあるコーラスも手伝ってか、かなりホロリとさせられるナンバーが多数。かと思えば、日本でいうところの疾走感あるメロコアもアリ。ネットでバズった事ことが結果的に彼らの名を広く知らしめる契機となったとはいえ、結成以来、精力的なライヴ活動を続けてきたからこそのエモーションがこの音楽にはある。アルバム・タイトルは彼らからのそういったメッセージの表れのようでもある。
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SPACE KELLY
Bist Du Dabei?
90年代に活躍したギター・ポップ・バンドの名前をいくつか出せば説明できてしまいそうな、何の変哲もない、しごくまっとうなギター・ポップ・サウンド。というのはイヤミでも何でもなくて、ヒネリのないサウンドだからこそなのか、ただひたすら気持ちいい。キラキラと輝くギター・ポップに乗せて展開される、心の中にスッと滑り込んでくるような素直でまっすぐなメロディが、夏のよく晴れた日の青い空を想起させる。よくありそうな音楽に思えるのだけど、最近ではあまり聴くことのなかった音楽ではないだろうか。日系ドイツ人、Ken Steenによるソロ・ユニット、SPACE KELLYの10年ぶりとなる3作目のフル・アルバムはそんな作品だ。ここには青く瑞々しい世界が広がっている。
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Joe Robinson
Let Me Introduce You
ポストJohn Clayton Mayerと名高い、オーストラリアの21歳の少年がメジャー・デビュー。ベテラン・ギタリストTommy Emmanuelの愛弟子であり、世界中のギター・プロが太鼓判を押す彼の魅力はなんといっても、歌心満載のメロディ。いきなり超絶技連発の極上フュージョンで始まったかと思えば、アコギのタッピングを駆使した爽やかな楽曲へと展開。晴天の朝日のような暖かく包容力のある歌声は、のんびりとそよ風を浴びて聴きたい、デトックス効果のある代物。ただ、ギターのテクニックを披露しているだけじゃなく、フル・バンドで骨太な演奏もあれば、繊細な一面もしっかりと見せる驚異の幅広さは、多くのギター・ファンだけでなく、ジャズやロック・ファンも虜になること間違いなし。
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V.A.
BRAiNMATHS
James BlakeやSBTRKT、Zombyといった現行のベース・ミュージック・シーンを牽引するアーティストたちをコンパイルしたUKの名門レーベルRAMPの日本独自コンピレーション『R-Way Junction』のリリースに引き続き、サブ・レーベルであるBRAiNMATHSの初のコンピレーションが登場。上記3人以外に、ROSKAの別名義BakongoにUntold、 James BlakeバンドのギタリストでもあるAirheadが参加している今作は、彼らの初期音源やヴァイナルでしか手に入らなかったものがCD化された極めてレアなもの。Burialの影響を感じさせるJames BlakeとAirheadの「Pembroke」はその後の作品にも通じる白眉の出来だ。
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HOSPITALITY
Hospitality
2007年にNYのブルックリンで結成されたHOSPITALITYのデビュー・アルバム。全曲シングル・カットできそうなポップで爽やかな楽曲が並んでおり、一枚を通して同じ雰囲気が感じられるほどまとまりがあるので、歯切れが良くあっさりと聴き終えられる。キーボードやギターだけではなく、シンセサイザーやホルン等の様々なサウンドが複雑に絡み合っているが、それがシンプルで耳馴染みの良いポップ・ソングに仕上がっているところが何より素晴らしい。ヴォーカルAmberの甘く切なく可愛らしい歌声も楽曲を大いに引き立てている。いわゆる低俗なポップではなく、クレバーなポップ・ソング。こんなアルバムがヒット・チャートに入ってくることを期待してしまう完成度の高い作品だ。
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LA SERA
Sees The Light
昨年BLACK LIPSと共にカップリング・ツアーを行ったUSインディ界のアイドル・ガレージ・バンド、VIVIAN GIRLS。ここ日本でも刺激的かつチャーミングなパフォーマンスで多くの音楽ファンを魅了した彼女らだったが、そのルックスと佇まいでとりわけ男子をノック・アウトしたベーシストのKaty Goodmanがソロ・ユニットLA SERAとして、こんなに愛くるしい作品を作っていたとは!ニューヨークからカリフォルニアへと住まいを移したという点も制作に影響しているのか、レイド・バックした心地よいドリーミーさが漂い、VIVIAN GIRLSで聴けるメロディやコーラスの美しさを更にクリアーな形で全面に押し出したことによって、かなりポップでキュートな仕上がりに。たまりません。
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EXLOVERS
Moth
日本でも限定生産のデビューEPが即完したほど話題となったロンドン出身の5人組EXLOVERSが待望のデビュー・アルバムを完成させた。FLORENCE & THE MACHINEやTHE BIG PINK等のプロデュースで知られる話題のプロデューサー・デュオDemian Castellanos & Jimmy Robertsonが手掛け、全編を通して奥行と広がりのある洗練されたサウンドに仕上がった。ドリーム・ポップ・サウンドを軸に、序盤は疾走感のある楽曲で惹き付けられるが、中盤以降のしっとりとした楽曲も魅力的だ。ソフトで浮遊感のあるPeterとLaurelの男女ツイン・ヴォーカルが特徴的で、特に中盤「Unlovable」で聴ける綺麗なハーモニーは永遠に聴いていたいぐらい美しい。楽曲の幅が広いので今後どういった方向に向かうのかにもとても興味が持てる魅力的な一枚。
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M. Ward
A Wasteland Companion
多彩なフォークの音色が紡ぐグッド・メロディ集は、暖かくも優しく、そして輝かしい小さな幸福の結晶のようで、聴き終えた後の心は感動的な想いで満ち足りているだろう。現代アメリカの良心や至宝と呼んで過言ではないSSW、M.Wardがソロ名義としては約3年振りの新作をリリースする。その歌心は古き良きノスタルジーであり、まったりとした叙情的変化を感じるが、世界観のテーマは音楽旅行記だという。地元ポートランドからNY、イギリスのブリストルなど世界各地でレコーディングされた楽曲は、まさしく吟遊詩人のような空気に情景、ストーリーを想像する。多岐に渡る活動で知られるが、SHE&HIMの相方Zooey Deschanel、SONIC YOUTHのSteve ShelleyにBRIGHT EYESのMike Mogisなど豪華なゲストもトピックだ。この季節だけに、桜道のBGMとして本作はどうだろうか?
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