DISC REVIEW
Overseas
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GRIZZLY BEAR
Shields
現代のUSインディー・ロック・バンドの最高峰とも呼ばれる、ブルックリンを拠点に結成された4人組GRIZZLY BEARの3年ぶりのニュー・アルバム。2009年にリリースされた前作『Veckatimest』がビルボード総合チャートで初登場8位、インディー・チャートで1位を記録し、ピッチフォークやNME等の様々な媒体で軒並み高評価を得た。そんな名盤認定された後の今作はバンドの更なる躍進を予感させる素晴らしい内容に仕上がった。サイケデリックなフォーク・ロックをベースに美しいメロディとハーモニーが折り重なり、複雑ながらも耳馴染みの良い様々な楽器のアンサンブルが一音一音丁寧に鳴っている。全てが成熟し、最高の状態でレコーディングされたことが音の端々から聴きとれる。今までよりも力強さも増し、彼らはまた名盤を生み出した。
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TOY
Toy
元JOE LEAN & THE JING JANG JONGのメンバーを中心に構成されたUKの5人組TOYのデビュー・アルバム。今年のSUMMER SONICに出演していたので一足早く彼らのパフォーマンスを生で観られた方も多いのではないだろうか。ダークでサイケデリックだが柔らかさや温かみのある音なのでとても聴きやすく、心地が良い。アルバム全編を通してまとまりがあり、中盤に置かれたインスト曲もずっと聴いていたいほどクセになる仕上がり。ヘヴィーなギターに珠玉のメロディが乗り、壮大なドリーム・ポップから疾走感のあるヘヴィ・ロックまで見事に独自の世界観を作り上げている。よく引き合いに出されるTHE HORRORS、S.C.U.M等のメロディックなサイケデリック・ロック好きなリスナーには自信を持ってオススメできる一枚。
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MISOPHONE
Another Lost Night
作詞とヴォーカルを担当し、作家でもあるM.A Welshと、作曲と様々な楽器を演奏するというS.Herbertの2人からなるUKのデュオMISOPHONE。彼らのプロフィールは基本的にそれ以外公表されておらず謎に包まれている。日本で言えばトクマルシューゴや蓮沼執太に近いアナログの質感を感じるが、そのどちらとも異なる世界をヴァイオリンやオカリナ等なんと30種類にも及ぶ楽器と、儚げな歌とハーモニーで描く。まるで映画のサウンドトラックのように非常に静かで美しい楽曲が並び、自身の音楽を“キッチン・シンク・フォーク”と自称するように、過去にタイム・スリップしたような感覚の、ノスタルジックなポップさに満ちた普遍的な温もりを感じさせてくれる作品。
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TROUBLE BOOKS & Mark Mcguire
Trouble Books & Mark Mcguire
Mark Mcguireと、男女デュオのKeith FreundとLinda LejsovkaによるTROUBLE BOOKSのコラボレーション・アルバム。限定250枚のみのアナログという超限定でリリースされており、日本では入手困難だった作品にボーナス・トラックを1曲加えリリース。今作は真夏の蒸し暑い夜にリヴィングでのセッションによって作り上げられていったとのこと。TROUBLE BOOKSによる優しいギター・サウンド、男女のツイン・ヴォーカル、Mark Mcguireの暖かく柔らかな質感のエレクトロニクスが絡み合うアンビエントなベッド・ルーム・ソングが非常に心地良い。深い夏の夜にそっと寄り添う大人のポップ・ミュージック。
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MICE PARADE
Candela
数々の客演でも知られるAdam Pierceによるポスト・ロック・バンドMICE PARADEのニュ−・アルバムが到着した。日本でもクラムボンとの共演やFUJI ROCK FESTIVALなど数々の来日を果たしているため人気も高い彼らだが、前作から2年振りとなる今作は“今までとはまったく違う、はるかにいいものになる”と本人が言ったように、よりコンパクトにまとめられメロディを重視した耳馴染みのいいとても心地いい仕上がりだ。持ち味であるパーカッシヴでスリリングなアンサンブルも健在で、複雑なリズムと暖かいギターと柔らかな女性ヴォーカルが胸を打つ。特にタイトル・トラック「Candela」から後半の流れが特に素晴らしく、美しい景色を眺めているようなそんな気分に陥るアルバムだ。
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BEAT CONNECTION
The Palace Garden
THE DRUMSやHOT CHIPを送り出したことでも知られるMoshi Moshiから放たれるシアトルの強力な新人。新人といっても昨年にはEPが輸入盤で話題になっていたので知っている方も多いかもしれない。(今回の日本盤はそのEPもボーナス・トラックとして収録)。VAMPIRE WEEKENDラインの最新型といってもいいだろう。トロピカルなサウンドと華やかなシンセ・フレーズとダンス・ビート。リード・トラックで疾走感溢れる「The Palace Garden, 4am」はこれからのアンセムのひとつと成り得るだろう。ひとつひとつ耳に残るフックが満載。元々魅力的なバンドではあったがEPから一気に化けた印象。ダンス・フィールドからロック・サイドへ様々なリスナーへ届くであろう名盤。今の季節にぴったりそのままで。
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THE BRIGHTS
Full Colour Sound
日本でも熱く支持されている、UKインディー・ロック・バンドの2ndフル・アルバム。きらびやかで少し切ない旋律を奏でるギター・リフと甘く蒼いヴォーカルで聴く者の心を一気に掴んでしまう楽曲が今作には詰まっている。冒頭曲「Don’t Look Back」のポップなコーラスや弾けるサビを聴けば彼らの世界感へ引き込まれること間違いないだろうし、続く「Against The Tide」では真骨頂ともいえる独特な浮遊感の心地よさと力強いバンド・サウンドも楽しめる。古き良き時代のロック精神を今の時代に継承しつつ、決して懐古的なサウンド作りになり過ぎていないのも秀逸。何度でもリピートしたくなる聴きやすさと、その度に新しい魅力に気づかせてくれる珠玉のナンバーが揃った良作だ。
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Lisa Hannigan
Passenger
08年にリリースされた1stアルバム『Sea Sew』がマーキュリー・プライズとアイルランドのチョイス・ミュージック・プライズにダブル・ノミネートされるなど注目を集めたアイルランド出身の女性SSW、Lisa Hanniganの2ndアルバム。音楽的には大らかでどこか生々しさの残ったバンド・サウンドが主体で、ピアノやストリングスが時に華を添えながらも、常にそれぞれの楽器が主張し過ぎることなく自然と融和しながら、穏やかなメロディとLisaのハスキーな歌声に寄り添うように鳴っている。特別な派手さや奇抜さはないが、しっとりと、聴き手の耳と心に絡みつく音楽だ。たとえばEMMY THE GREATやSHARON VAN ETTENの作品ように、長く深く愛せそうな魅力に溢れた1枚である。
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THE VACCINES
The Vaccines Come Of Age
50'Sロックンロールや60'Sポップス、70'Sパンクなどを消化したラウド&ロマンティックなポップス集だった去年のファーストがプラチナを達成。ギター・ロック低迷が叫ばれる英国において救世主的な扱いを受けるTHE VACCINESだが、それがあくまで結果論であり、彼らが純粋に優れたポップ・ミュージックを求めているバンドであることが、このセカンドを聴けばわかる。全体的にまだ荒さも目立っていた前作に比べ、ソングライティングが格段に進化。音楽的参照点に大きな変化はないのだろうが、乱暴に言えばラウドなロックンロールとメロウなバラッドという2本柱によって成り立っていた以前と違い、1曲の中に様々な要素を取り入れ、より表現力豊かになった楽曲が並んでいる。期待を裏切らない充実のセカンドだ。
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TWO DOOR CINEMA CLUB
Beacon
中毒性の高いメロと一言でダンス・ポップと片付けられないビザール感で、1stアルバム『Tourist History』を全世界で100万枚以上売り上げたTDCC、待望の2nd。プロデューサーにU2やBLOC PARTYを手がけたJacknife Leeを迎え、LAでレコーディングしたという外的要因は、アルバム後半に並ぶスケール感のある「Spring」「Pyramid」などに顕著。新鮮なところではTrack.1「Next Year」でのエレクトロ・ファンク、彼らが北アイルランド出身であることを思い起こさせる「Settle」あたりか。でもご安心を。いきなり大味になることなく、クセになるヴォーカルとそこに突っ込みを入れるようなセンス一発勝負のギターやシンセも健在。太く、しかもよく唄うようになったベースとともに一筋縄でいかないポップの強度を増している。
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THE HEAVY
The Glorious Dead
英国南部出身、前作収録「How You Like Me Now?」が大ヒットを博した後の3作目。ロックとブルース、ファンクといった黒いグルーヴにサイケを注入!前作以上にスケールはデカく豪奢で、レコーディング・スタジオから自分たちでおっ建て、ヴィンテージ機材を買い込む程の気迫の入れよう。多種多様な音楽性をアピールしつつも、バンド・サウンド自体は非常に重厚である。基盤の強固さがブルージーでアグレッシヴな上モノを支えつつ、しかし、あくまでも中心にあるのはKelvin Swabyの力強くソウルフルな歌。今作のテーマは“B級ホラー”で、アメリカ南部を舞台とした視覚的でオーケストラ的な作品にしたかったという。スウィートでノスタルジックな「Blood Dirt Love Stop」を聴き終える頃にはお腹いっぱいです!
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THE ORB featuring LEE SCRATCH PERRY
The Orbserver In The Star House
これは素晴らしい!アンビエント・テクノの先駆THE ORBがDavid Gilmoreとのカップリング作に引き続き、今回はなんとルーツ・レゲエの始祖ともいえるLee Scratch Perry御大を迎え、アルバムを完成させた。近年THE ORBはオリジナル・メンバーのAlexとベルリン・ミニマル・テクノの重要人物Thomasの2人で活動しており、作風の変遷からLee Perryとの邂逅は必然だったとも言える。ハウスやレゲエ、「Thirsty」をはじめとするブレイクビーツのダブ・オリエンテッドなトラックと御年80を迎えようとしているLee Perryのスモーキーなトースティングが織りなす呪術めいた音世界。中でも「Golden Cloud」と「Congo」の危うすぎる陶酔感ったら!
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OBERHOFER
Time Capsules II
ニューヨークのブルックリンを拠点に活動をしている4人組ロック・バンドのデビュー・アルバム。全曲キャッチーなメロディにカラフルなポップ・ロック・サウンド。静かなピアノのイントロから始まり、流れるように軽快なポップ・ソングを次々と畳み掛ける。ここまでポジティブさが伝わってくるアルバムも久しぶりかもしれない。U2やTHE ROLLING STONES等を手掛けた名プロデューサーSteve Lillywhiteの手腕が発揮されているのは明らかで、ポップ、ロック、サイケが絶妙なバランスで融合されていて病みつきになる。逆にキレイにまとまりすぎていて少し面白味がない気もするが、その点はライヴで化けるのでは。よく使う言葉だがこれほど彼らにぴったりの言葉が見つからない、“期待の新人バンド”の出来すぎのデビュー・アルバムだ。
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Dana Buoy
Summer Bodies
AKRON/FAMILYでドラムやパーカッション等を担当しているDana JanssenがDana Buoy名義でリリースするソロ・アルバム。聴いた瞬間に南国をイメージするようなトロピカルな雰囲気がアルバム全体を通して貫かれている。Danaがほとんど1人でこなしたという様々な楽器に、アナログ・シンセサイザーやiPodのアプリ等を加えて完成させたという楽曲は、生楽器と機械音のバランスが絶妙でとても心地が良い。 ゆったりとしたフォーク・サウンドからスペイシーなシンセ・サウンドを経て、最後は賛美歌のような神秘的なポップ・サウンドにたどり着く。聴き終わると夏の終わりに思い出の写真を1枚ずつ眺めていたようで少し物悲しさが残る。Danaが自身のサウンドを“トロピコア”と呼んでいるらしいが、その名に相応しい夏にぴったりのドリーム・ポップ集だ。
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Adrian Sherwood
Survival & Resistance
英国産ダブのオリジネーターであり、名プロデューサーのAdrian Sherwoodが主宰するOn-Uも昨年で30周年を迎え、来日イベント開催、故Ali UpとのNEW AGE STEPPERSのリリースといった目下精力的な活動を経て、ようやく6年ぶり、待望のソロ作が到着した。“抵抗して生き延びる”という彼らしいモットーを冠した本作はクレジットを見る限り、信頼できる人選に絞った充実作。相変わらずの素晴らしい空間処理に耳を惹くも、随所に美しいピアノをはじめとするメロディと音色の豊かさに驚く。これら全く独自な音にしているのは、1音1音スピードを落とし、引き伸ばすといったチューニングという手法を施しているからだとか。なるほど、ヘヴィなダブの中にも円熟したチルアウト・アンビエントの響きを感じる。
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CLOCK OPERA
Ways To Forget
Kitsuneからシングルをリリースし注目を集めるロンドン出身のニュー・バンド。この春にはTHE TEMPER TRAPの前座にも抜擢され、このアルバムでさらに彼らがステップ・アップしていくのは間違いないだろう。COLDPLAYやSNOW PATROLを彷彿とさせる壮大で儚く美しいメロディとエレクトロとロックをまた新しい形で融合させた様なサウンドが魅力的である。オープニングを飾る「Once And For All」のMV(必見!)で描かれるストーリーのように楽曲もアルバムもとてもドラマティックだ。この楽曲はAndrew Weatherallがリミックスを手掛け、バンド自身もMETRONOMY等のリミックスを担当するなどダンス・フィールドでも活躍している。今後がとても楽しみなバンドだ。
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OWL CITY
The Midsummer Station
Adam Youngのソロ・プロジェクトOWL CITYの、通算3作目となるオリジナル・アルバム。過去作は全てAdamが手掛けてきたが、今作は積極的に共作者や外部のプロデューサーを起用している。自分を守るために音楽を作り、1人で慎重に楽曲の世界を構築してきた彼にとってこれは大きなチャレンジだっただろう。彼は様々な人々と制作する上で"聴き手の心を動かすための芸術作品として曲を大切にすることを学んだ"という。煌びやかで叙情的なポップなシンセ・サウンドはそのままに、堂々としたリズムとダンス・ビートが躍動。ドリーミーな世界から飛び出した音は更に外向的になり、手と手を取り合うような多幸感と包容力を生み出した。大胆で甘酸っぱい、まさにミッドサマーな1枚だ。
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Chilly Gonzales
Solo Piano II
カナダ出身で現在はパリを拠点に活動しているChilly Gonzales。ピアニストやソングライターとしてだけではなくプロデューサーとしても有名で、Jane Birkinのアルバム『Rendez-Vous』をプロデュースして一躍注目を浴び、iPod nanoのCMソングにもなったFeistの「1234」をプロデュースしたことでも知られている。2004年にリリースしたピアノ作品集『Solo Piano』の続編と呼べる今作は、タイトル通り“ピアノだけ”の純粋で深みのあるアルバムに仕上がっている。カナダに居た頃に無声映画にピアノの伴奏をつける仕事をしていたことがあるからかもしれないが、1曲1曲に風景が思い浮かぶようにドラマティックで映画のサウンド・トラックを聴いているよう。壮大ではあるが仰々しい感じはなく、叙情的でどこか切なくなるのがピアノのみでも飽きずに聴ける理由かもしれない。
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D'EON
LP
THE BIG PINKやPEAKING LIGHTSといったアーティストのリミックスを手掛け、GRIMESとスプリット・シングルを発表したことでも話題を集めた、新進気鋭のアーティストD’EON(ディオン)。今最も注目されているLAの最先端レーベルHippos in Tanksから待望のアルバムが遂にリリース。ソウルフルな歌声が男らしさを感じさせる一方、繊細で特徴的なリズムを奏でるシンセ音がなんとも切ない。スネアやクラップ、キックにハイハット、それに輪をかけてリムショットやトムトム、カウベルなどのエキゾチックなパーカッションを組み合わせた構成によって、革新的で創造的な音を可能にした唯一無二の1枚となっている。
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Evan Voytas
I Took A Trip On A Plane
Flying LotusやGONJASUFIのキーボーディストを務める、超実力派アーティストEvan Voytasが遂に日本デビュー。数々の芸術家を輩出したアートの街、ペンシルベニア州のカッズタウンで生まれ育ったEvanは、幼い頃から色彩豊かな環境で個性を磨いていた。その環境もあってか、今作に収録されている楽曲は様々な色が混ざりあい、類を見ない独自の色を形成している。また、MGMT meets PASSION PITと称され、ミニマル・ポップとディスコ・サウンドの理想的な巡り合わせとも言える曲調は、エレクトロでありながら“ダンス”ではなく“昼寝”という言葉がよく似合うほど、ゆるくメランコリックである。
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