DISC REVIEW
Overseas
-
THE DRUMS
Portamento
ブルックリン出身のインディー・ポップ・バンドの2nd。ギタリストの脱退や今作を作る過程で解散ギリギリのところまでいくなど色々と苦労したらしいが、逆にそんな様々な出来事が今作のエネルギー源になったようで、ピュアなポップさやサーフっぽさなど前作の雰囲気を残しつつも、シンセの音の広がりや妖艶でダークな雰囲気に変化と進化を感じられる意欲作になった。彼らの音楽は別世界に連れて行ってくれるようなものではなく日常を追体験しているようなタイプのものだ。その感覚は今作でも変わらないが、前作よりも内省的な歌詞に注目したい。特に“君がどこに向かって走っているのか分からないけど、僕はいつでもここにいる”と歌う最後の曲の歌詞は今のバンドの立ち位置を象徴しているように思える。
-
THE VINES
Future Primitive
“生まれ変わった”、と言っても過言ではないのではないだろうか。それは変わってしまった、ということではなく、新たなパワーを吸収し我々の前に帰って来た、ということだ。オーストラリア発の4ピース・バンドTHE VINES、3年振りのリリースとなる5thアルバム。絶叫しガレージ・ロックをブチかましたかと思えば、切なく柔らかいフォーキーなサウンドを聴かせ、打ち込みのプログラミング・サウンドはどこまでも謎めいている。まるで泣いたり笑ったり、感情を全身で表現する赤子を見ているようで目が離せない。4分以上ある曲は無く、全13曲が走り抜けていくように目まぐるしく迫り来る。Craig Nichollsの幼さの残るヴォーカルはひたすらにピュアネス。それは音楽に命を捧げる覚悟を感じさせる気魄がある。
-
VELTPUNCH
His Strange Fighting Pose
1997年に結成されたオルタナティヴ・ロック・バンドVELTPUNCHの通算7枚目のオリジナル・アルバム。新ドラマーにナオキ(ex.キウイロール)を迎えて制作された今作は、メロディアスでハードなサウンドは健在ながら、ポップ且つエネルギッシュなアルバムとなった。長沼&ナカジマの掛け合いによる男女ツイン・ヴォーカルとアンセミックなサビが印象的なオープニングナンバー「The sweetest」から、アグレッシヴで疾走感溢れるナンバーが並び、左右に振り分けられた美しいギター・アンサンブルや静と動と緩急をつけて進む一曲一曲の展開も見事。ラウドで振り切れた激しさもありながらも、作品全体として耳馴染みのいい心地いいサウンドに仕上がっている。
-
BIFFY CLYRO
Revolutions // Live At Wembley
本国イギリスでは、NMEアワードで最優秀ライヴ・バンドを受賞、モンスター・バンドとして破竹の勢いを続ける彼らだけあって、今回のライヴ盤のリリースはまさに待望と言えよう。昨年末、ロンドンのウェンブリ―・アリーナで行われたライヴを収録した今作はバンドの代表曲を網羅したベスト盤的内容。彼らの持ち味とも言えるエネルギッシュなバンド・サウンドはハード・ロックを根底としながらも光るメロディ・センスを携え、観衆を大合唱に導く。こうしたテンションの盛り上げ方ひとつとっても、彼らの魅力はスタジオ音源よりもライヴ盤を聴く方がよく分かるし、UKロックの不振が叫ばれる昨今、彼らの様にひたむきにファンと向き合う姿勢が、絶大な支持を集めるというのは、容易に納得できることなのだ。
-
VIVA BROTHER
Famous First Words
多くのアーティストが“未体験のサウンド”を求め新境地を模索する中、VIVA BROTHERは懐かしのブリット・ポップを陽のあたる場所へと再興させようとしている。デビュー・アルバムにして世界という大舞台へ立った4人の若者は、M-1「New Year’s Day」で強烈なストレートを叩きこむ。90年代を席巻した王道な軽快ロックに、初期のTHE ORDINARY BOYSのように無邪気にパンク要素を当て込んだ簡潔なサウンドがダイレクトに響く。非常に明快なメロディとコーラスが、楽曲とバンドとリスナーの間に強固な一体感を生むのだ。ブリット・ポップという過去の栄光に臆することも媚びることもなく、真正面から挑む強さと誠実さで自分たちのものにしていく。彼らの言う“現実逃避”は、“自分で何かをやってみよう”という実に建設的なものだ。音楽の力を信じてみたいと思う。
-
GYPSY&THE CAT
Gilgamesh
今夏を彩るあなたのサマー・アンセムはなんだろう?南国ムード満載で肉体的な高揚感を湧かすFRIENDLY FIRES?それとも、GIRLSマインドと共振しそうなレトロスペクティヴに青春性の蒼き輝きを放つSMITH WESTERNSだろうか?では、オーストラリアから届けられたこの心地良い波はどうだろう? GYPSY&THE CATのデビュー・アルバム『Gilgamesh』である。あのMark Ronsonがあっぱれ太鼓判を押し、「Time To Wander」の7インチ盤は即完売になるなどクラブ・シーンで熱い注目を集めている彼ら。PASSION PITやEMPIRE OF THE SUN好きにも激プッシュしたいアーティストである。その世界観はTOTOやTEARS FOR FEARSのダンサブルな80’sサウンドをモダンにブラッシュアップし、AIRのメランコリックなオブラートで包むようだ。美しく気分を高めながらも、どこか儚さ漂う、それはさながらサマー・サンセット・タイム・ミュージック。
-
THEORY OF A DEADMAN
The Truth Is...
前作『Scars and Souvenirs』は全米で100万枚以上のセールスを樹立! NICKELBACKのChad Kroegerに才能を認められ音楽シーンに登場した若者たちは、年齢、そしてキャリアの成熟とともに、己の理想の音楽性をさらに確実に見い出した。“ロカビリー風のサウンドがあったので、それをさらに追求したいとHoward(プロデューサー・Howard Benson)と話した”とフロントマンのTyler Connollyはインタビューでも語っているが、そのどこかオールディーズな空気をまとう、良い意味で土臭い感触は今作でも彼らのサウンドの特徴的なポイントになっている。かつ、トイ・ピアノやウクレレなど多彩な楽器も駆使して新たな境地を開拓しようとする、貪欲な姿勢も感じ取ることができる意欲作だ。
-
THE CHEMICAL BROTHERS
Hanna
FUJI ROCK FESTIVAL3日目のヘッドライナーを務める英テクノ・ミュージックの第一人者THE CHEMICAL BROTHERSから、約1年振りとなるフル・アルバムが日本先行発売される。今作は映画『ハンナ』のサウンド・トラック。殺すことだけを教えられ育てられた16歳の少女ハンナの哀しき運命を描いた映画だ。映画音楽のサントラ作成は初挑戦の彼らだが非常にストーリーに沿った内容になっている。巧みなケミカル・ビーツで織り成される16歳の少女のあどけなさや可愛らしさ、葛藤や苦悩、悲しみ。スクリーンの中の世界に生きる"ハンナ"という少女の生き様を通して奏でられた音楽は、これまでの彼らの音楽で感じることの出来なかった温度がある。派手さは無いが、心にずしりと響く全20曲。
-
THE SUZUKIS
The Suzukis
2000年前半のロックンロール・リバイバル期にデビューしたTHE MOONEY SUZUKIというバンドがいたが、「SUZUKI」という名前は向こうにとってどれほどインパクトがあるのか聞いてみたい所だがそれはさておき。マンチェスター出身THE SUZUKISのデビュー・アルバムは伝統的なUKパンクの流れを受け継ぎながら、切なくもメロディアスで力強い楽曲が並ぶ渾身の一枚。ヴォーカルChris Veaseyの鬼気迫るパワフルな歌声ももちろん聴き所なのだが、アルバム全体を流れるイギリスのバンドらしい男臭さや、シンプルでストレートなビートにやられる。疾走感も合わせ持ちながらしっかりと聴かせる部分があるのが、彼らの魅力の一つでもあるだろう。
-
THE BLACK ANGELS
Phosphene Dream
そのバンド名はTHE VELVET UNDERGROUNDの曲名から取られたという、USのサイケデリック・ロック・バンドTHE BLACK ANGELSの3rdアルバム。USのサイケ、そしてフォーク・シーンを含めれば注目すべきバンドは沢山いるが、ALL TOMORROW'S PARTIESを始め数多くのフェスでの圧倒的なパフォーマンス、そして本国では昨年秋にリリースされたこのアルバムで彼らは一つ飛び抜けた存在となっている。LOVEを彷彿とさせる様なメロディアスでブルージーなサイケデリック・サウンドは伝統的なものも受け継ぎながら、近年のTHE HORRORSと共振するようなダークでコズミックな雰囲気も持ち合わせている。サウンド・プロダクションも含めとても完成度の高い作品だ。
-
THE WELLINGTONS
In Transit
もし友人が答えの出ない悩みにモヤモヤしてたら、ぼくは迷わずこのCDを差し出すよ。「黙って身を委ねろ!」って。この煌びやかなメロディ、男女混声ヴォーカルの爽快なハーモニー、そしてどこまでも突き抜けるエモーショナルが解決してくれるから。え?そんなに物事は単純じゃない?夢見たこと言うなって?うんうん、確かにそうだね。でも夢見たっていいじゃん、だってこれは純度120%のパワー・ポップなんだから!幸福なイマジネーションが溢れてしょうがない!もう本年度のパワポ・グランプリはこの1枚じゃない?メルボルン出身、メンバー・チェンジを経た新生WELLINGTONSから待望の新作が到着。全曲ハイライトで駆け抜けるこの気持ち良さに言葉はいらない。聴き終わった後、心はポジティヴに漂白されている。
-
GIVERS
In Light
軽快なハンド・クラップとトロピカル・フレーバーたっぷりな1曲目「Up Up Up」から高揚感溢れる楽しい一枚。VAMPIRE WEEKEND以降のビートとneco眠るを彷彿とさせるような印象的なギター・フレーズ。一筋縄ではいかない一曲一曲の曲展開。男女の掛け合うヴォーカル・メロディも含め、ポップな感性とアヴァンギャルドな展開が絶妙なバランス感覚で成り立っている。ルイジアナで09年結成された彼らは、今年のSXSWフェスのベスト・アクト10組に選ばれた様に今年注目のバンドである事は間違いないだろう。カントリー・テイストの曲もあったりアルバム全体のバラエティも豊か。今後のインディ・シーンの中心となれるか!?そのくらいのポテンシャルを秘めたバンドだと思う。
-
EL PERRO DEL MAR
Love Is Not Pop
ベリー・ショートにばっちりアイラインの入った大きな目、ボーダーのシャツ…これはもうフレンチ・ポップ炸裂かと思いきや、スウェディッシュ直系の独自の浮遊感を帯びた音がスローモーションのように流れ込んできた――。スウェーデン発の女性シンガー・ソング・ライターSarah Assbringによるソロ・プロジェクトEL PERRO DEL MARの最新作。Kate Bushを彷彿とされることが多いアーティストのようだが、それも納得。水面下で囁くような、妖艶なヴォーカルは、愛らしい色香を放ち、しなやかな曲線美と少女のあどけなさの両面を兼ね備える。捉えどころのない魔性の魅力を、彼女もまた持っているのだ。そんなヴォーカルと、いくつもの音が重なり合う耽美的なサウンドが混ざり合い、優雅に鳴り響くのもまたフェミニン。
-
BATHS
Cerulean
WASHED OUTにしても、Toro Y Moiにしても、命の輝きを垣間見るような、一瞬の煌めきというものを目の前に放たれてしまうと、もうどうにもならない。涙線がどうのこうのの前に、そもそもそんなものの存在さえ忘れ、魂のみがそれに共鳴しているかのような、なんとも根源的な部分が目を覚まし、反応してしまう。そしてただただ立ちすくむのだ。本アーティストBATHSは本作発表時なんとまだ21歳。そんな、彼の描く音もまた、前述のアーティストと同様に、ただこの身の周りをたゆたうだけのアンビエント・ミュージックであるのにも関わらず、その音は官能や神秘の秘薬のように、私たちを呪縛し支配する。これは、単にその途方ない眩しさと美しさによってもたらされるオーガズムのようなものなのか…。
-
JAVELIN
No Más
2005年、ヒップホップ・エレクトロをベースとして結成された従兄弟ユニット、JAVELIN。現在はブルックリンを拠点に活動する彼らの初となるフル・アルバム。本作はヒップホップ、エレクトロ、インディー・ポップなどなど様々な要素が詰まった、音のコラージュ・アートのような作品だ。鍵盤やギターなどは勿論、ターンテーブル、バイオリンのような弦楽器、フルートのような吹奏楽器など、楽器の種類も多種多様。だが全体的にUSインディーを彷彿させるようなローファイ・テイストに仕上がっているため、不思議な統一感がある。ファルセットの効いたヴォーカルがまた音とよく溶け合い、インストでも歌モノでもない曖昧で心地良い気だるさを醸し出す。理屈不要の音楽。これぞポップスの織り成す醍醐味だろう。
-
Justin Kline
Justin Kline
米SSWポップ界期待のホープ、Justin Klineのデビュー・アルバム。まるでオープニング・セレモニーのようなキラキラのポップ・ナンバーで幕を開けると、ページをめくる度に驚かされる飛び出す絵本のごとく、始まりから終わりまでハラハラドキドキさせられっぱなし。まさに、夢と希望を詰め込んだアミューズメント・パークに来たような、弾け飛んだポップ・ワールドが詰まっている。でありながら、その甘い声とおとぎ話のようなメロディで、しっかりロマンチックな気分にもしてくれる。そして、輝きの中に時折垣間見える多幸感と愛は、キッチュなMIKAを連想させる。MIKAの愛は世界を染め上げるように壮大であるならば、彼は、この手に溢れんばかりの幸せで私たちの顔をほころばせてくれる。
-
SMITH WESTERNS
Dye It Blonde
シカゴのティーンネイジャー、Cullen&Cameron Omori兄弟、Max Kakacekの3人は、温かい空気の中で自由気ままな感性を育む。ガレージ・ロックを基軸とした骨組みの中に、ブリット・ポップ的な装飾を施し、キラキラとしながらも少年らしさの残るサウンドを完成させた。MGMTやGILRSのように遠くから鳴り響いてくるような軽快なサウンドと、若干のチープさを残した荒削りな音が心地よい。そのサウンドに虜になったMGMTのオープニングに抜擢され、すでに実力を見せつけた。日本デビューを飾る『Dye It Blonde』は、「Weekend」に始まり「Dye The World」に終わる。実に若者らしい感覚と自己の存在の位置づけに、力強ささえ伺える。今夏のSUMMER SONICで初来日が決定しているSMITH WESTERNS。極めて限定的な空間である“週末”の中、溺れていく感覚は甘く気だるいのだ。
-
SVOY
Grow Up
ロシア生まれのソロ・アーティストSVOY(スヴォイ)の3rdアルバム。幼少時にクラシックとジャズ・ピアノのレッスンを受け、10代の頃にはトップ・ジャズ・ミュージシャンの手ほどきを受ける。その後、ボストンのバークリー音楽院へ進学し、さらなる音楽の探究を開始…。その半生からも分かる通り、音楽の英才教育によって育った音楽解釈とエレクトロ・ビートとのスマートなる融合が、このなだらかな景色と疾走感を生みだしたのだろう。まずはそのメロディ・センス。雨の日の憂鬱と静けさも、心地良い気だるさへと変わっていくような、淡く流麗で滑らか、そしてシンプルなメロディは秀逸の一言に尽きる。これが都会的なエレクトロ・ポップと出会った時、洗練された中に滲みだすのは透明で美しいサウンド・スケープだ。
-
TIM & JEAN
Like What
PASSION PIT、そして最近国内盤が出たばかりのTHE NAKED AND FAMOUSを彷彿とさせる様なエレクトロ・ポップ・ユニットがオーストラリアから登場。それぞれ別バンドをやっていた二人が意気投合し、ベッドルームのキーボードを叩きながら作り出したという楽曲群は、昨今のシンセ・ポップの良い所をそのまま吸収した様なキャッチーで多幸感溢れるナンバーばかり。上記の2バンドが好きなら必ず気に入るであろうキラキラしたポップ・ソングが満載の一枚だ。ハイトーン・ヴォーカルにカラフルなシンセ・サウンドというスタイル自体には新しさは感じないが、それ故に彼らの作り出すメロディの良さが際立っている。二人ともまだ10代。これからが楽しみなバンドだ。
-
KAISER CHIEFS
The Future Is Medieval
"脱"国民的バンド、というヒネリからか?約3年のインターバルから突如として帰還した5人組は、英国伝統の歌心になにやら不穏な空気を纏っていた。それは単にダークとして片付けられない、独創的なサイケデリア。紛うことなく、これまでのイメージを覆すKAISER CHIEFSの新境地だ。通算4枚目の野心作『The Future Is Medieval』。エレクトロのダンス・ビートに力点を置いた前作での作りは後退し、オープニングのインスト(日本盤のみ)に象徴されるが、あらゆる音響のグラデーションから絶妙なニュアンスを模索するように、空間的な意匠を強く感じる。「Starts With Nothing」はまるでSPIRITUALIZEDが描く宇宙遊泳のような音響構築を拡げ、「Out Of Focus」ではMGMTへ回答するかのトリップ感が......この変化と勇気に、結果これまで以上に愛される存在となるであろう。
FREE MAGAZINE
-
Cover Artists
ASP
Skream! 2024年09月号