DISC REVIEW
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大阪☆春夏秋冬
BRAVE SOULS
大阪発のダンス&ヴォーカル・グループによる新作は、90年代インディーズ・パンク/ロック/ミクスチャー好きにはたまらない仕上がりだ。ミニ・アルバムに続きmasasucksがサウンド・プロデュースを務め、作曲/演奏はアイニ(SMORGAS)、津田紀昭(KEMURI)、MASUO(BACK DROP BOMB)、SUNE(GOOD4NOTHING)などその筋のプロフェッショナルが集い、アイドルとストリート音楽がクロスオーバーした攻撃的な曲調が勢揃い。怒濤のスケートコア「AxMxMxRx to The End」、SLAYERを彷彿させるスラッシーな「Get up for your right」、SUNSHINE DUB「SUNSHINE LOVE」のカバーも収録。
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THIS IS JAPAN
new world
ディスジャパのメジャー進出後初となるCDシングルは、アニメ"ノー・ガンズ・ライフ"第2期EDテーマ「new world」だ。アニメのハードボイルドな世界観を意識しつつ、バンドの意志も乗せ、全員で構築していったというこの曲。ガツンと士気が上がるパワフルなナンバーだが、存在感のある水元太郎のベースで幕開けし、かわむらのグルーヴィなドラミング、ツイン・ヴォーカルを存分に生かした杉森ジャックと小山祐樹の掛け合いや、ラップ・パートなど、聴けば聴くほど楽しめる仕上がりに。c/wの「RRRIOT」は曲調的には対照的とも言えるじわりと温かく響く曲だが、共通して、聴いたあとに"やるしかないな"と今を受け入れたうえで前を向ける感覚があり、それこそがディスジャパらしさだと再認識できる。
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めろん畑a go go
to IDOLS to US to YOU
大胆にも歌わない1曲として仕上げた表題曲は、メンバーが"私たちめろん畑a go goはいつでもここにいるよ!"と想いをぶつければ、レコーディングに参加したゴーゴーズ(※ファン)が"俺たちもめろん畑a go goといつまでもここにいる!"と返す、熱すぎるナンバー。半分以上が寸劇で構成(!?)された、昭和の特撮ヒーローもの風の「撃つな琉陀瓶!」は、馬鹿馬鹿しいことを真面目にやる彼女たちの姿がカッコいい。さらにピアノのバラード「いつかの狼」や、彼女たちの新たなテーマ曲とも言える「無敵のIDOL」、新体制ならではの明るさを見せた「海賊QUEEN AMAZONES」も収録。最後は彼女たちらしいロカビリー調の「STILL DEAD OR ALIVE」で締めくくるのもまた良し。
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ReoNa
ANIMA
表題曲は、"ソードアート・オンライン アリシゼーション War of Underworld"最終章のオープニング・テーマ。"魂の色は 何色ですか"と"SAO"にとって重い意味を持つフレーズを繰り返す、激しいアッパー・チューンだ。ReoNaと言えば柔らかな歌声のイメージが強いが、嵐のようなバンド・サウンドの中でも、そのハスキー・ヴォイスは十分存在感を放っている。特に中音域のふくよかな響きが聴きどころだ。伴奏がアコギのみのミディアム・バラード、初回生産限定盤/通常盤に収録の楽曲、期間限定生産盤に収録の「Scar/let」とc/w曲はすべて違う曲調でチャレンジング。全体を通じて魂、精神の在処がテーマになっている物語性の高いシングル。
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fox capture plan
映画「コンフィデンスマンJPプリンセス編」 オリジナルサウンドトラック
"現代版ジャズ・ロック"をコンセプトとしたピアノ・トリオ、fox capture plan。多くのフェスに名を連ねるほか、ドラマ劇伴やCM、ゲームにも楽曲提供をし、何気なく、そして確実に日常を彩るサウンドを生み出す彼らの新作は、ドラマ版でも印象深い"コンフィデンスマンJP"の映画版サントラだ。スリリングでワクワクするメイン・テーマ「We Are Confidence Man」をはじめ、ストーリーの背景となり語り部となり、登場人物の企みを表現し、心の機微を吐露する饒舌で贅沢なサウンド、アンサンブルが数珠繋ぎとなったアルバム。映画音楽ということで作品ありきではあるが、作り手として様々な想像力や筋力を使って描いているクリエイティヴなサウンドは、刺激的で、またキャッチーで、面白い。
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Unknöwn Kun
Stay Forever
ネットから人気に火がついたUnknöwn Kunが、"資生堂アネッサ"のCMに書き下ろした「Stay Forever」に、「ToT」、「ロストシープス」の2曲を加えリリース。"UnknöwnからFamöusになる"という軌跡を辿ろうとしている彼にとって、今回のタイアップはネットにとどまらない、さらに多くの人に知ってもらう大きなチャンスになることは間違いないのだが、英詞も含め、そのタイミングでベッドルームからいきなりグローバル・スタンダードにアプローチしたとも言える、カッティング・エッジなポップ・ソングを選んだところに、アーティストとしての彼の本質が窺える。「ロストシープス」は日本語だが、情報量の多さの中にあえて違和感を残すトラックメイキングは他の2曲と共通している。
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betcover!!
告白
ヤナセジロウのソロ・プロジェクト、betcover!!による2ndアルバム。"2020年の今に望まれたロック・アルバム"と謳われる今作は、"愛"と"悲しみ"の表裏を淡々と歌い上げ、ノスタルジックで情緒溢れるサウンドスケープを描き、独自の感性を叙情詩のように表現した全10曲が収録されている。今作の鍵となるであろう「Love and Destroy」は、新たな試みとしてプロデューサーに小袋成彬を迎えて制作された楽曲。繊細で、しっとりと心に触れるものがあると同時に、"僕の体が道路に落ちても/心はそれを見ているだけ"などの言葉にハッとさせられ、聴き終えてからしばらく考えさせられるような感覚になる。純度の高い彼の音楽は、まさしく彼にしか作れないものだと思う。
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Lucky Kilimanjaro
エモめの夏
"エモめの夏"。真っ向から掲げたこのタイトルでまず興味を惹かれたラッキリの2曲入りシングル。表題曲は、イントロからクラップ音と清涼感のあるシンセがプールの水面のようなきらめきを感じさせる、まさにサマー・チューンだが、ベースも効いていて、サビで縦ノリにもなれるというのが彼らとしてはちょっと新鮮だ。そして、歌詞の面では、恋をして今までの自分ではいられない心もとなさも孕みつつ、"誰がなんと言おうと うるせぇで片がつく"と、自分本位になってしまうくらい舞い上がる気持ちが描かれている。もう一方の曲「新しい夏を駆けて」もまた夏を歌うナンバーだが、こちらは浮遊感たっぷり。熊木幸丸の歌声も含めて涼しげなのに、怒濤のサビが畳み掛けるラストは至極のメロディに胸が高鳴ってしまう。やられた。
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さかいゆう
Soul Rain + Touch The World Instrumentals
さかいゆうが、最新アルバム『Touch The World』に収録されているソウル・バラード「Soul Rain」をシングル・リリース。本作には、同楽曲のアルバムVer.と、今回新録したアコースティックVer.を並べ、アルバムの中でも重要な立ち位置となる同楽曲に、改めてフォーカスを当てた。ピアノと歌のみで一発録りされた「Soul Rain (Acoustic Ver.)」は、ロンドンのアビー・ロード・スタジオで録音された、ゴージャスなストリングスが至高なオリジナル・バージョンとはまた違い、歌と詞がより心に届くものとなり、その場のリアルな緊張感や空気も感じ取ることができるものとなっている。c/wの"雨"にちなんだ選曲のカバーとDisc2の最新アルバムのインスト音源も必聴。
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琴音
キョウソウカ
この春高校を卒業したシンガー・ソングライター、琴音の1stアルバムには、既発のシングルを含む全12曲を収録。なんといってもその歌唱力は絶大で、シンプルなピアノ伴奏に乗せ歌い上げる表題曲や、手嶌 葵の名曲「明日への手紙」のカバーは鳥肌もの。それでいて、ご機嫌に身体を揺らしたくなるリズミカルなナンバーもあり、サックスの音色が印象的な「The moon is beautiful」では、グッとムーディな雰囲気を漂わせるなど、この3年間で広がった自身の音楽性を注ぎ込んだラインナップは、まさに高校時代の音楽活動の総括と呼ぶに相応しい。歌詞からは落ち着いた人物像を想像させる彼女だが、今作の多彩さには、その静けさの奥にある弾けんばかりの好奇心の気配を感じる。
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Maison book girl
Fiction
代表曲を再レコーディングし新たに生まれ変わった冒頭3曲で、現代音楽とポップスを融合した唯一無二の音楽性を再認識した。一方で、表題曲の「Fiction」は、いい意味で珍しくストレートなスロー・ナンバーに。初夏の雨上がりを想起させるような、しっとりとしながらも温かい情景の広がりが心地よく、前面に出たメンバー個々の歌唱も聴きどころだ。打ち込みの四つ打ちで展開するマッシュアップ曲「river」は、そうであることを感じさせない新曲としての立ち居振る舞いをしている――と、ここまであえて書かなかったが、本作はキャリア5年の集大成となるベスト・アルバム。新作と言われても疑われない充実作に仕上がったことがわかるだろう。プロデューサー サクライケンタの音楽家としての矜持も感じさせる1枚。
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KAQRIYOTERROR
BWG
『lilithpride』に続くシングル。ジャンルレスでルール無用なKAQRIYOTERROR節は「BWG」でも加速していて、インダストリアル・ロックをベースに、エキゾチックなフレージングから詩情溢れるピアノの旋律も織り成され、着地点も不明なカオスなサウンドに乗って5人の声が跋扈する。惰性と日常を疑えとばかりの縦横無尽さで、拳を突き上げる曲はまさにKAQRIYOTERRORだ。また、レーベルメイトの少年がミルクと、そのバンド・メンバーであるハヤシタカヒロのタッグで、作詞作曲を手掛けた「なんちゃらバブルス」もまた、「BWG」に共振する内容をポップに描いたもの。禁忌がタブーというマイ・ルールで素っ頓狂なパワーがあるが、2曲共に確実に仕留めにいく鋭さを持つ本領発揮の新作だ。
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sora tob sakana
deep blue
6年の旅路がここで終着。開幕の「信号」で新境地を魅せたのは、最後まで今いいものを作ろうとする姿勢の表れ。再録された曲たちは、時に生楽器を入れ、時にアレンジが変わり、何より6年間の活動の中で培った歌唱技術と、少女から大人へと成長していく過程を経た声そのものの変化で、さらなる高みへと至っている。最後は「ribbon」から連なる「untie」の鍵盤が響いたあとに残る心象風景を、ただただ感じてほしい。ラスト・アルバムとして、ベスト盤として、そして新たな作品として、いずれの性質も内包する深度の高い創作物が生まれた。この作品は、彼女たちが青春時代を生きてきた証。そして彼女たちが作り、遺してくれたsora tob sakanaという名の世界だ。
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浪漫革命
ROMANTIC LOVE
コロナ禍を受けてリリースが決まったのかは定かでないが、各曲の甘酸っぱさが街の匂いを思い出させてくれるようで泣ける。例えば、「ふれたくて」は失恋ソングというより、もっと広い意味での"会いたい"気持ちを歌っているかのようだ。一方、切ないだけでもない。サビが癖になる「あんなつぁ」は民謡テイストながら「カノン」(パッヘルベル)を引用する遊び心も。「ラブソング」はL-Rからのギターが気持ちいいし、そこから「深夜バス」のUKロック的ダイナミズムに繋ぐ流れも熱い。「アバンチュール」はどんどん過剰さが増すのが最高だ(吹き荒れるサックス、3連符のキメ、ハチロク、ラストに銅鑼!)。夕涼みしてから打ち上げに出かけるラストまで、聴き終えたあとの一番の感想は"楽しかった!"でした。
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KAKASHI
Life is beautiful
よりライヴで演奏することを意識して制作されたという4ピース・バンド KAKASHIの1stフル・アルバムは、疾走感のあるアンセム・チューンはもちろん、アイリッシュなリズムが小気味よい楽曲やミドル・ナンバーも含む、緩急巧みな12曲を収録。まるでひとつのステージのような起承転結を、アルバムの中で完成させた。そして、たびたび登場する"僕ら"という主語が象徴するように、聴き手とゼロ距離の言葉選びが光る。常に自らの"今"から削り出す血の通った言葉は、同じ時代を生きる人々の心に自ずと重なる。"こんな世界で僕らは/生きていたいと願って/強くなりたいと願うんだ"(「愛していたい」)と、人との触れ合いを渇望する今、より深くに響くメッセージが詰まっている。
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ayutthaya
I know, right?
2年ぶりとなるEPは、藤谷真吾(Gt/1inamillion/SLEEPLESS)、菱谷"ビッツ"昌弘(Dr/HINTO)と作りあげた。名うてのと紹介したい参加メンバーのバックグラウンドというか、活動している界隈は主にオルタナ、エモであるにもかかわらず、収録されている全5曲がロックンロールに聴こえるのは、タイトながらも、閃きに満ちたバンド・サウンドが持つ生々しさと、そこに感じられる歌心によるところが大きい。なげやりにもリラックスしているようにも聴こえる太田美音の歌声の心地よさは、ナルシシスティックな歌が溢れている昨今だからこそ、余計に稀有に感じられる。そんな歌に時に寄り添い、時に掛け合いながら、もうひとつのメロディ・ラインを担うリード・ギターがあまりにも印象的だ。
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Void_Chords feat. Ryohei & Foggy-D
my ID
作曲家、高橋 諒によるアーティスト・プロジェクト Void_Chordsが、Unlimited toneのRyoheiと、自身がプロデューサーを務めるONE Ⅲ NOTESのFoggy-Dをゲスト・ヴォーカルに迎えたシングルを完成させた。表題曲は、国民的コンテンツ"ウルトラマン"のTVアニメ化作品"ULTRAMAN"のエンディング主題歌に起用。ヘヴィなサウンドに乗せるFoggy-DのラップとRyoheiの歌唱が生み出すスタイリッシュでダークな音風景と、"ULTRAMAN"の世界観が掛け合わされることで、より深く、魅力的なものとして相互作用をもたらしている。モダンでアガれるファンク・チューン「Outer Circulation」のセンスもさすが。
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BiSH
LETTERS
当初はシングルのリリースを予定していたが、コロナ禍による現状を見据えて新たに曲を制作したというメジャー3.5thアルバム。壮大なストリングスで幕を開ける「LETTERS」は、そんな現状をメンバーと共に耐え忍んでいる清掃員(※BiSHファン)に向けて"あなたいるこの世界守りたいと叫ぶ"とストレートに想いを綴ったまさに手紙のような1曲に。「I'm waiting for my dawn」では、暗い話題の多い日々の夜明けをじっと待ちわびている心を歌った歌詞と、メンバーの歌唱をじっくりと受け取ってほしい。東京スカパラダイスオーケストラのホーン隊を招いた「ロケンロー」では、スカパラとの化学反応と彼女たちの新境地を堪能することができる。こんな時代だからこそ生まれた、こんな時代に必要な1枚。
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BiSH
FOR LiVE -BiSH BEST-
BiSH初のベスト・アルバムには、「BiSH -星が瞬く夜に-」、「オーケストラ」、「プロミスザスター」といった代表曲から、「MONSTERS」、「OTNK」、「GiANT KiLLERS」を始めとするキラーチューン、そして最新シングルの「KiND PEOPLE」、「リズム」まで全27曲が収録された。本作の配信は行われずCDショップとそのECサイトのみで販売されるのだが、エイベックスおよびWACKの収益全額は、デビュー以来BiSHがワンマンや自主企画を開催してきた全国のライヴハウスに全額が寄付されるという。今や飛ぶ鳥を落とす勢いとなった、楽器を持たないパンク・バンドのその姿勢と生き様に、そしてそんな彼女たちのエネルギーがぎっしりと詰め込まれた作品に改めて痺れた。
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煮ル果実
SHIMNEY
VOCALOIDプロデューサー"煮ル果実"2枚目のアルバムは、「イヱスマン」、「ハイネとクライネ」などの代表曲を含む全13曲を収録。ギター・ロックやピアノ、アンビエントなどジャンルを縦横無尽に飛び越える楽曲の根底にあるのは、独特の陶酔感とドラマチックでシニカルな世界観だ。煮ル果実によって命を吹き込まれたVOCALOIDの歌声は、浮世離れした響きで強烈な皮肉を歌ったかと思えば、世界への不満を絞り出すように吐き出す。しかし、その厭世的なまでの皮肉さは決して斜に構えたものではなく、本当は世界を、そして自分自身を愛したいという感情の裏返しだ。特に「生活ガ陶冶スル」の飾り気ない言葉からは、その切実な想いを痛いほど感じられる。精密に作り込まれたトラックと天邪鬼な感情が胸に迫る1枚。
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