DISC REVIEW
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フィロソフィーのダンス
ドント・ストップ・ザ・ダンス
業界内外の音楽通をうならせてきたフィロソフィーのダンスが、ニュー・シングル『ドント・ストップ・ザ・ダンス』でいよいよメジャー・デビューを果たした。表題曲には、テレビ番組で彼女たちを評価する発言をしていたヒャダインが作詞で参加。メジャー・デビューという一大転機においてもまったく軸がぶれずに、彼女たちらしいアシッド・ジャズを鳴らしているあたりは、これまでやってきた音楽への確固たる自信の表れだろう。カップリングには、クール且つ大人な表情で魅せる「なんで?」と、明るく開けたサウンドのパーティー・チューン「オプティミスティック・ラブ」を収録。徹頭徹尾、とにかく隙のないシングルに仕上がった印象だ。新たなステージへと歩みだした彼女たちがお茶の間を踊らせる日も近い。
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爆弾ジョニー
H1OPE
爆弾ジョニーが結成10周年に届ける新作は、所属レーベルや事務所から独立し、メンバー5人で作り上げた"自家製"アルバム。フロントマン りょーめー&ギタリストのキョウスケは、今年新プロジェクト SAMURAIMANZ GROOVEでも作品を発表したが、その別方向での活動があったからこそ、本作『H1OPE』は溌剌とした爆弾ジョニーらしさが味わえる仕上がりに。ライヴハウスを震わせるような生きた音で、時流など気にせず、自身が大好きなロックンロールやポップ・チューン、はたまたヒップホップまでを一丸となって鳴らし、彼らならではの言葉選びで笑顔に(時折目頭を熱くも)させてくれる曲の数々。10周年でこうして仲間との遊びと純粋な想いに溢れた作品を生み出した彼らこそが、希望だと思う。
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the paddles
THE ERA
大阪 寝屋川発の3ピースの2ndミニ・アルバム。感情を爆発させたサウンドに"根拠など どこにもない"、"それでも唸り続ける/魂と愛の歌"と乗せエネルギーを迸らせる「原動力」で始まる。突き進んでいく道にためらい、不安が滲んでも、そのたびに自分の原点的な衝動感やきらめきをもう一度握りしめてまた歩んでいく。そんな決意表明的な曲を筆頭にまっすぐな目線で綴られた曲が並ぶ。ステイホーム期間中に書かれただろう、コミュニケーションの気づきを歌う「シュークリーム」や、大人になったからこそ、目線の温かさが沁みる「カーネーション」など、いずれも些細な日常の有り様かもしれないが、その小さな結びつきが大きなものを生み出していることをてらいなく歌にする。今に刺さる真摯なギター・ロックだ。
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(sic)boy, KM
CHAOS TAPE
ヒップホップとJ-ROCKを融合するトラックメーカー (sic)boyと、ヒップホップに根差しながら多ジャンルとのクロスオーバーを試みるプロデューサー KMが"ジャンル東京"をテーマに作り上げた1stアルバム。JUBEE(Creative Drug Store)、vividboooy、LEX、Only Uら、東京のヒップホップ・シーンの次世代を担うゲストを迎えた楽曲群が印象づけるのは、新たなミクスチャー・ロック・サウンドと彼らが求める魂の解放だ。その意味では、90年代以降のラウドロックとドープなヒップホップに加え、そのふたつを繋ぐゴスペルの要素も聴き逃せない。すでに書いたように彼らが求めているのは魂の救済ではなく、あくまでも解放。そこには彼らなりのアンチテーゼもあるようだ。
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DeNeel
MASK
大阪から昨年上京し、現在東京で活動中の4人組バンド、DeNeelから初の全国流通作品が到着。"OSAKA REVIVAL POP"を掲げる彼らの曲は、ダークなムードを纏ったずっしりした感覚のあるロックでありながら、各音が洗練された"踊れる"仕上がりになっている。そこにフロントマン 中野エイトの、艶がありつつも言葉を届ける意志のあるヴォーカルが乗り、一曲一曲の輪郭をよりくっきりと浮かび上がらせる。外から見える自分と、自らで思う自分とには差があり、見る人やタイミングによっても様々な人物像がある。そんな"MASK"=仮面について、リード曲「IF」を皮切りに気持ちを巡らせた全6曲。バンドの新境地的サウンドのラスト・チューン「Some day」まで聴き終えたとき、胸がすく思いがした。
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PICKLES
どんナモンJAY!!
結成7周年を迎えた生粋のライヴ・バンド PICKLESが、タイトル"どんナモンJAY!!"の通り、自信を持って世に届ける1stフル・アルバム。これまでも見せてきたパワフルさは、そのさらに上をいくものになっており、遊び心満載でMVも楽しい「イキサラSAY!」はもちろん彼女たちらしさ全開だし、誰かの背中を押すような芯のあるメッセージを歌う「ALLY DAYS」などもまた、今のバンドの核になっているものだと感じる。そして、地に足のついたバンド・サウンドにドラマチックなピアノが加わった「始まりの合図」、新たな表情を見せるクールな「SOS」と、全12曲のサウンドのバラエティも豊か。これでもかというほどにバンドの魅力を詰め込んだ作品であり、自然と元気を貰える1枚だ。
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工藤晴香
POWER CHORD
2020年3月にソロ・アーティストとしてデビューした声優、工藤晴香。次世代ガールズ・バンド・プロジェクト"バンドリ!"の氷川紗夜役で、Roseliaのギター担当としても知られる彼女の2ndミニ・アルバムがリリースされた。彼女が手掛けた歌詞からは、自分自身にきちんと向き合ったことで生まれた感情や、音楽そのものに対する想い、先が見えない不安な世の中でも進み続けようというポジティヴな気持ちが感じられ、受け手も自然と前を向けるような1枚となっている。スタジアム・ロック感のある「GROOVY MUSIC TAPE」、今作の中でもひと際ヘヴィで、ラップにも挑戦した「KEEP THE FAITH」など、サウンドのバラエティも豊か。工藤が初めて作曲した「Magic Love」も必聴だ。
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YENMA(ex-Charles)
Piñata
Keyを交えた4人編成となりバンド名をCharlesからYENMAに改名しての1stアルバム。どこか懐かしいポップスの香りが漂い、カラフルでスピード感溢れる音の嵐で、ひと息でリスナーの心をさらう「シャンデリア」に始まり、10代で"閃光ライオット"出演時にあった曲がアップデートされた「さよなら」、男女Voだからこそのデュエット・ソング「Blue Monday」など幅広い曲が揃う。アレンジのアイディアも多彩で、他ジャンルを恐れなく投入して調理する大胆さがあり、松岡モトキ、ヒダカトオル(THE STARBEMS/GALLOWの日高 央)を編曲に迎え貪欲に栄養を摂取し、成長を遂げている。4人の頭の中にはたくさんのポップ設計図があって、高いテンションでそれを形にしている楽しさが伝わる。
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THE BACK HORN
この気持ちもいつか忘れる
5曲入りEPという形態ではあるが、THE BACK HORNにとっての"この気持ちもいつか忘れる"という物語が5曲で紡がれている印象も。そのスタンスがいい意味でバランスを取りすぎることなく、各楽曲でひとつのテーマや、それが導くイメージを音像やアレンジに落とし込んでいるのが面白い。すでにライヴでも定番になった「ハナレバナレ」の中間部での宇宙的な展開、ラウドでヘヴィ且つタイトな聴感が新しい「突風」、木琴の音色やポップス的なメロディが愛らしい「君を隠してあげよう」、世武裕子が歌うことで主人公の他者との関係を示唆する「輪郭 ~interlude~」、そしてバンドの素を思わせるオルタナティヴな「輪郭」。この楽曲では作詞に住野よるが参加。コラボの濃度を高めているように思える。
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PULPS(ex-南蛮キャメロ)
the the the
大阪は八尾市発の幼馴染4人組バンドの初全国流通盤。古き良きUKロックや、フォーク・ソング、歌謡曲などを、2020年代を生きる彼らの感覚で採り入れた全5曲は、時代や世代を超えて多くの人に届くこと間違いなし。ニューミュージック調の「青い鳥」で幕を開け、吉田拓郎や原田知世を意識したという、ささやかながら温もりが染みわたる愛の歌「クチナシの部屋」、彼らの思うロック・バンドへのこだわりが見え隠れする「1989」、軽快に突っ走る「untitle crown」と畳み掛け、"どうしても届けたい/君だけへの歌がある"と飛びっきり美しいメロディと、叫ぶのではなくリスナーを包み込むように歌心を響かせる「Flower」が締めくくる。ライヴハウスで彼らの鳴らす生音をたまらなく聴きたくなった。
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INORAN
Libertine Dreams
○○をしなくてはいけない。はたまた○○をしてはいけない、などと。気づけば、決まりごとの類いが増えてしまっていたこの世相のせいもあるのだろうか。今作の中に詰まっている自由でボーダレスな音たちは、なんだかやたらと心地いい。単なるロック・サウンドとは明らかに違うし、そこここにはクラブ・ミュージックの要素も孕みつつ、ポップ・ミュージックとしての素養もありながらにして、どこか無国籍なニュアンスまでをも含んでいることにより、この『Libertine Dreams』は不思議且つ伸び伸びとした音に溢れかえっているのだ。LUNA SEAのギタリスト INORANのソロ作という肩書きにさえ一切縛られることのない、貪欲なクリエイティヴィティが具現化したこの音の持つ奔放さは実に素晴らしい。
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FES☆TIVE
心拍白昼夢(シンパクデイドリーム)
FES☆TIVEの11thシングル。これまでのシングル表題曲は彼女たちの代名詞とも言える"お祭り系EDM"な曲が多かったが、今回の「心拍白昼夢(シンパクデイドリーム)」は、新メンバーの八木ひなたを迎えたこともあり、ひと味違う1曲に。音からも歌詞からもあえてお祭り要素を取りのぞき、バンド・サウンドに乗せて切ない恋心を歌った歌詞とエモーショナルな歌声は、ポジティヴでアクティヴなイメージの彼女たちから新たな魅力を引き出している。カップリングは、彼女たちにとっての王道「サカサマサマー」や、クールなラップで魅せる「Crystal Bullet」、独特すぎる世界観が癖になる「カマキリさんVSひつじさん」、そして初期FES☆TIVEを彷彿させる"和"のナンバーと、とにかく表情豊か。
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片平里菜
HEY! Darling EP
表題の2曲に小品と言える「星空」、「水の中で泳ぐ太陽」、さらに「Darling」の"acoustic guitar mix"と「HEY!」のスタジオ・ライヴによる"acoustic ver."を加えた6曲を収録。"伝える"をテーマに作ったそうだ。リスナーに直接伝えることができない今、改めてその大切さについて考えたのだと思うが、テーマに対する様々なアプローチがメッセージ・ソング「HEY!」、ラヴ・ソング「Darling」に結実。共にバンド・サウンドながら、前者のカントリー・タッチ、後者のR&Bとサウンド面のアプローチも聴き逃せない。小品と表現した2曲の楽器の使い方や歌の生々しさが際立つ「Darling」の"acoustic guitar mix"からは、EPならではの遊び心も。その試みが今後どう生かされるか楽しみだ。
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Creepy Nuts(R-指定&DJ松永)
かつて天才だった俺たちへ
今や音楽関係のみならず、多方面で目にする存在になった彼ら。その躍進の中で得たものを落とし込みながら、ヒップホップ然としたコア部分も研ぎ澄まされた見事な作品だ。菅田将暉を迎えたロック調の「サントラ」は、ビッグなコラボのインパクトに負けないふたりの気合が爆発し、菅田と亀田誠治、ピエール中野(凛として時雨/Dr)、加藤隆志(東京スカパラダイスオーケストラ/Gt)、津野米咲(赤い公園/Gt)が参加の「日曜日よりの使者」は、原曲へのリスペクト満載のリリックが加わり気さくな魅力を生む。そんな客演を迎えた曲を挟む形で、自虐的な彼らならではのフローで未来を切り拓く表題曲、ライヴへの欲求を禁断症状的に妖しく炸裂させる「ヘルレイザー」などを収録。聴くほど気づきがあり、彼らの包容力に触れられる。
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OKAMOTO'S
Welcome My Friend
デビュー10周年というキャリアもあるが、彼らはTHE WHOらが編んできた物語性のあるロック・ミュージックを作れる数少ない日本のロック・バンドであることを改めて実感する。音数を整理したRED HOT CHILI PEPPERSのようなアンサンブルで生業について歌う表題曲にしろ、反復するビートに乗せ、世界で起こっている暴動を身近に感じながら、しかしこの国では起こらないであろう虚無感が滲む「Riot」にしろ、以前、彼らが『OPERA』で実現したことのさらに図太いやり口に感じられる。BRIAN SHINSEKAIがアレンジで参加している「MOTEL」のピアノもギターのどこか70年代風なムードも不穏且つ耳新しい。このEPは2020年のOKAMOTO'Sの全容のさわり且つ大事な伏線である予感がする。
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Gorilla Attack
GORILLA CITY
昨年リリースした1stシングルが噂を呼ぶラッパー・ユニットの1st EP。ダークでオルタナティヴなR&Bを軸とした世界観は現実の東京渋谷の延長線上のイメージ。複数の共同プロデューサーを迎えているのも特徴的で、Yaffleとの「Gorilla Step」は2ステップのビート、Loyly Lewis(ケンカイヨシ)との「隔世 gorilla」にはインダストリアルな凶暴さ、Tepppeiとの「ゴリラ・バカンス」は悪夢的で不思議なバカンス感が漂う。コンクリート・ジャングルの王者=ゴリラに限りなく近い存在だと自認しながら、強くて優しい本物のゴリラにはなれない人間らしい感情の矛盾。それが日常も哲学も飲み込んだリリックと独自のフロウを持つヴォーカル&ラップで表現された怪作だ。
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HXEROS SYNDROMES
Wake Up H×ERO! feat.炎城烈人(CV:松岡禎丞)
多くの人気アニメのテーマ曲を手掛けてきたBURNOUT SYNDROMESによる最新プロジェクトが、このバーチャル・アーティスト HXEROS SYNDROMES。TVアニメ"ド級編隊エグゼロス"のためにバーンアウトがプロデュースするユニットで、主題歌となる表題曲は主人公の声もフィーチャーするという新しい試みになっている。今回はバーンアウト節でありつつも、より作品に振り切ったサウンドと内容になっていて、これぞアニソンというキャッチーなメロから、ヒーローもののカタルシスたっぷりの管弦アレンジで聴かせる。またヒップホップからアッパーなポップ・チューンまで、作品をインスピレーションに自由な発想で制作を楽しんでいる。アニメが好きな彼らにとって音楽家冥利に尽きるコラボだ。
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松尾太陽
うたうたい
ソロ・ライヴでははっぴいえんどやシュガー・ベイブもカバーしてきた"超特急のタカシ"が本名でソロ・デビュー。本作もシティ・ポップをテーマにしているが、作家ごとにその解釈が違う点が音楽的なレンジを拡張。大塚 愛はドリーム・ポップ~EDM寄り、She Her Her Hersはエレクトロなインディ・ポップと現代のサウンドやアレンジ。対してリード曲であるVaundyや堂島孝平の提供曲は80年代ニュー・ミュージックとJ-POP黎明期の間あたりを感じさせる、キラキラした音像が特徴的だ。松尾自身のペンによる「掌」は王道のピアノ・ポップ。時空を超えて日本のポップスが消化してきた洋楽のエッセンスを並列しているニュアンスも面白い。自然で飾らない歌唱スタイルが一貫していて、多彩な6曲にもまとまりが。
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超能力戦士ドリアン
マジすげぇ傑作
前作を発売した4日後に、ステイホームのお供にとなんと8週連続で新曲を配信リリースすることを発表したドリアン。その8曲+未発表曲+ボートラ収録というミニ・アルバムのボリュームを超えた1枚が到着した。やっさん(Gt/Vo)の思いつきツイートに寄せられた、リスナーの"やりたいけど自粛してること"を曲の中で実現させた「今は曲の中やけど」は心が温まるし、けつぷり(Gt/Cho)が"カンデミーナグミ"好きを公言していたことから決定したタイアップ曲「カンデみ~んなハッピー!」は、このなんでもありな彼らほど"タイアップ"に適任のバンドはいないのではと思うほどの仕上がり。Twitterに投稿されている各曲の手作り感溢れる映像&"フラッシュ動画"を彷彿させる「万有インド力」MVも併せて楽しもう。
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そこに鳴る
超越
破壊的な「Lament Moment」以下、そこに鳴るならではの魅力を全9曲約30分にぎゅっと凝縮した1stフル・アルバム。超絶テクニカル・サウンドと男女ヴォーカルの掛け合いという超個性を持つ歌モノのギター・ロックの可能性を、曲ごとに趣向を凝らしたアプローチで追求するという意味では、これまでの集大成とも言えるが、デビューから5年の活動で彼らが研ぎ澄ましてきた感性が、極めて鋭いものになっていることを感じ取りたい。そして、その感性が冒頭に書いた破壊的な方向にもポップな方向にも思いっきり振れることを! 聴き手を選ばないラヴ・ソングの「white for」はまさに後者の成果。女性ヴォーカルのバラードとしてJ-POPシーンでも勝負できるそのクオリティは、大きな聴きどころと言えるだろう。
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