DISC REVIEW
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WOMCADOLE
ヒカリナキセカイ
吠えろ、挑め、燃やせ――表題曲の約4分、一貫してそう猛々しく叫ぶWOMCADOLEは、相変わらず手加減というものを知らないバンドだ。"いつか差し込む/あの光を信じろ"と強引なまでに我々を奮い立たせる気迫は、かつての当たり前を失い絶望と隣り合わせの今の時代に文字どおり"一閃の光"であり"絶望を壊すシンボル"になり得ると確信した。そんなニュー・アンセムに加え、ディストーションの利いた骨太な「YOU KNOW?」と、一転して大人の色香を醸す「doubt」を収録した今作は、改めてフィジカル勝負なロック・バンドとしてのタフさも感じた1枚。吠えろと煽られて叫び、挑めと焚きつけられて拳を上げたい。彼らのせいで、熱狂のライヴハウスにどうしようもなく帰りたくなった。
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PEDRO
浪漫
"人生は不条理で溢れてるけど、意外とロマンチックなんだよ"。そんな言葉を伝えたかったという、PEDROの2ndフル・アルバム。全編通してガレージ、オルタナを軸にしたロック・サウンドがカッコいいなかで、とりわけ注目すべき点は、「浪漫」と「へなちょこ」でアユニ自身が作詞作曲を行っていることだろう。前者は、日常のふとした幸せを感じながらも夢を見るような歌詞と、優しいサウンドが相まって温かい聴き心地に。後者は青春パンクのエッセンスをPEDROのサウンドに取り入れた1曲。"泣きたい夜は泣いていいですか"と問い掛けるサビが、最後に"泣きたい夜に泣けばいいよ"と変化するあたりが、PEDROの活動を経て変化した現在のアユニを反映しているようで感慨深い。
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PEDRO
来ないでワールドエンド
BiSHのアユニ・Dによるソロ・バンド・プロジェクト PEDROの1stシングル。表題曲は、アユニ・Dのベース、田渕ひさ子(NUMBER GIRL/toddle)のギター、毛利匠太のドラムが三位一体となった、今やPEDRO節とも言えるガレージ・ロック、オルタナ・ロック調のサウンドがカッコ良すぎてイントロから痺れた。生きる意味を求め続けながらも、そんな旅の途中での出会いによって得た幸せを歌った歌詞は、叙情的であり物語的だ。c/wは「pistol in my hand」。サビがすべて英語詞になっているのは、PEDROの活動を通じて触れる機会の増えた洋楽の影響だろう。新たな扉を開き、常に進化を続けるPEDROは、我々の想像を超える景色を見せてくれる、そんな未来を思い描いた1枚。
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コレサワ
憂鬱も愛して
コレサワがデビュー前に会場限定で販売していた自主制作盤のタイトル・トラック「憂鬱も愛して」。入手困難だった同曲が6年の時を経てリアレンジされ、初CDシングルとして発表された。いつだって様々な理由で、それぞれの憂鬱を抱える人がいる。そんななか、ギター1本の弾き語り風で"自分だけじゃないけど/自分だけな気がする"と、訥々と落ち着いたトーンで歌い出すこの曲は、再生した瞬間に耳を引きつける。きれいさっぱり嫌なことを忘れ去らなくても、憂鬱を愛せればいいというメッセージ。そして、それが"愛そう"ではなく、"愛していたい"と願いの言葉で綴られるのが彼女らしい。通常盤と、ぬいぐるみ付きの"れ子ちゃん盤"で表情の異なるc/w(こちらも聴き応えあり)と併せて、丁寧な表現と歌心が染みわたる。
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sajou no hana
青嵐のあとで
数々のヒット・ソングを手掛ける作曲/作詞家 渡辺 翔。作詞/作曲、ベーシスト、SSWと幅広く活動するキタニタツヤ。実力派ヴォーカリスト sanaを擁するsajou no hanaは、もはやバンドと言うよりクリエイター集団と言ったほうがしっくりくるかもしれない。青嵐とは、初夏に青葉を揺らす強い風のことだが、サウンドの輪郭を押し広げていく清涼で爽やかなギター・フレーズはまさに吹き抜ける青嵐そのもの。そしてc/wも含め、トラック内での各楽器の音の配置を大胆に振り分けたミックスが、立体的で臨場感のある音像を作り出し、目を閉じれば聴き手を取り囲んで音が鳴っているような感覚を生み出している。分析的な聴き方を好むリスナーならば、試しにイヤホンを片耳外してみるのも一興だ。
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Lucky Kilimanjaro
太陽
結成以来、一貫して"踊ろう"と打ち出してきた彼らだが、ダンスはダンスでもこう来たか! という「太陽」。南米の部族的なビートから始まりつつ、サビでは"さぁ踊らにゃ損!/踊れや!ほいやっさ!"と神輿の掛け声のような言葉を乗せる展開には驚きだ。注目を集め始めたバンドだが、都会的、洒脱なといった決まった枠には収まらないし、もっと根本的な部分で踊りたいという意志の表れなのかも。ヴォーカル 熊木幸丸以外のメンバーも参加した自由な掛け声も相まってなんとも愉快で、歌詞中の遊び心も粋だ。一方の「Deadline Dancer」は、実際に熊木がRECの締め切りに追われるなかで書いた曲ということで、夏休みの宿題を終わりのほうにバタバタとするタイプの人には、耳が痛いながらも楽しい曲のはず。
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ペンギンラッシュ
皆空色
収録曲3曲が先行配信され、少しずつその全貌が見え始めたメジャー・デビュー・アルバム『皆空色』。予測不能な曲展開は健在。だが決して振り回される感覚ではなく、ジャンルの垣根を悠々と行き来する軽やかな足取りにむしろ惚れ惚れする。ハスキーで成熟した魅力を持つ望世の歌い回しも多彩になり、とりわけ柔らかなヴォーカリゼーションは今作で新たに花開いた印象だ。さらに、「色彩」のエッセイの中で"便利すぎる時代は/情報の雨の中にいるようだ"と表現したように、今の時代風景を秀逸に捉え文学的に昇華させているところも、ファンが音楽通だけに留まらない理由のひとつだと思う。スキル、センス、好奇心、探求心、etc.を詰め込み、彼女たちは威風堂々メジャー・シーンへ船出する。
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Easycome
レイドバック
昨年開催した初の東京/大阪でのワンマン・ライヴがソールド・アウトするなど、注目を集めているバンド、EasycomeがEP『レイドバック』をリリース。本作には、タイトルの通り、ゆったりとしたオールドスクールな極上ポップスが凝縮されている。ナイアガラ・サウンドを彷彿とさせるグッド・メロディ、バラエティ豊かなサウンド・アプローチ、それらをちーかまの伸びやかな歌声がグッとひとつにまとめ上げ、一曲一曲がきらめきを放つ。包み込むような優しさを有するちーかまの存在感ある歌声は、バンドの軸となっている。歌詞にもある"柔らかい風"が吹くような「スピーチ」から、再レコーディングされた「crispy crispy」まで全5曲。このさらりとした心地よい音楽にぜひ触れていただきたい。
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blgtz
Feature EP
01年1月、田村昭太(Vo/Gt/Key)を中心に結成。以来、彼のソロ・ユニットとバンド・スタイルを行ったり来たりしながら活動してきたblgtz(ビルゲイツ)が、前作から9年ぶりにリリースするCDは、4人の正式メンバーとレコーディングした全5曲を収録。ポエトリー・リーディングでいきなり意表を突く「Feature」以下、曲ごとに変化をつけながら、根底に80年代のUKニュー・ウェーヴを感じてしまうのは、筆者の世代ゆえか。「カタルシスは突然に」のポスト・パンクなサウンドは時代を意識しているのかしないのか。聴きながらあれこれと考えさせるようなところが心地いい。ラストを飾る「ファミレス天使」は本作中最も穏やかな曲だが、田村の奔放な歌の魅力が一番出ていると思う。
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Nothing's Carved In Stone
Futures
配信シングル「NEW HORIZON」、「Dream in the Dark」を含む2枚組全20曲収録の今作は、ナッシングス初のセルフ・カバー・ベスト盤。ライヴで磨き込まれ、強度を増したサウンドでリテイクされた最新のナッシングスがパッケージされた。トレンドに左右されず、ギター・オリエンテッドなロック・ミュージックが生み出すダイナミズムや高揚感、きらびやかで痺れるような甘美さをアップデートしてきた彼ら。「NEW HORIZON」などはその最たる形だ。曲の展開図としてはアンセミックなシンガロングやアイディアたっぷりのフレーズ、インプロ的な醍醐味もあるアンサンブルなど面白さは尽きない。そして何よりその音に触れたときに弾けるような衝撃を持つ。今作ではバンドの放つその衝撃を何度も味わえる。
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キタニタツヤ
DEMAGOG
先行公開曲「ハイドアンドシーク」を含む3枚目のアルバム。前作『Seven Girls' H(e)avens』で獲得したシンセ・ポップのアプローチを、自身の原点であるオルタナティヴ・ロックと融合させることで、新たなキタニサウンドを確立した。全曲のマスタリングに世界的エンジニア、John Greenhamを起用して完成させた統一感のある音質はコンセプチュアルな作風との相性もいい。タイトルに掲げる"デマゴーグ"とは、扇動者の意味。新型コロナの流行という先の見えない混沌の中で、祈るように光へと導いていく作品になった。相互監視社会や悪意といった人間の嫌な部分を掘り下げながら、それでも愚かで孤独な人間そのものを愛せずにはいられない、そんなキタニタツヤの思想に救われる。
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ニノミヤユイ
つらぬいて憂鬱
今年、アルバム『愛とか感情』でアーティスト・デビューを果たした、ニノミヤユイの1stシングルが到着した。表題曲は、自身が声優"二ノ宮ゆい"として出演するTVアニメ"ピーター・グリルと賢者の時間"のOP主題歌に起用。キャッチーなメロディや、耳に残るベース・ラインをはじめとした洒落たサウンドで、一度聴いたら頭から離れない仕上がりに。"陰キャのカリスマ"らしく暗い感情を携えつつも前を向いていくような歌詞は、きっと多くの"陰キャ"から共感を得られるだろう。ニノミヤユイ本人が作詞を手掛けたカップリングの「re:flection」は、複雑な曲展開で何度聴いても聴き手を飽きさせず、中毒性の高い1曲。詩的な表現が印象的な歌詞と、彼女史上、最も難易度が高い歌唱も聴きどころ。
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BiS
ANTi CONFORMiST SUPERSTAR
即完したゲリラ・リリース作品を含む第3期BiSのメジャー1st EP。開幕の「DESTROY」は、"敷かれたレール壊し/ギャンギャンならそう/うわべだけなら死んで欲しいです"と歌う攻撃的な歌詞が痛快だ。スカのビートで心躍るAメロ、Bメロから疾走感のあるサビメロへの流れもいい。衝撃的なMVが公開されている「CURTAiN CALL」は、タイトル通りにライヴのフィナーレで最大威力を発揮しそうな1曲。"死ぬまで歌わせてよ"と、BiSとして歌い続ける気概に胸が熱くなる。個人的な推し曲はパンク・ロック調の「DiRTY and BEAUTY」。大枠としては恋愛をテーマにしている曲と捉えられるが、心の中に美醜が共存する人間臭い歌詞がとにかく突き刺さった。ライヴで聴ける日が待ち遠しい......!
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MELiSSA
GATHERWAY
アイドル・グループ アイドルカレッジから派生したロック・ユニット、MELiSSAが新体制で1stアルバムをリリースする。新体制での新録はBLUE盤に収録された「UTPA(God Seven Ver.)」と、形態共通の「レクイエム」の2曲。前者は、個性的な歌声を持つ新メンバー3人が加わったことで、よりカラフルなライヴ・アンセムに生まれ変わった印象だ。後者は、別れと旅立ちのニュアンスを孕んだ歌詞をエモーショナルに歌い上げる壮大なロック・バラードで、今後のグループの歴史を語るうえで重要な1曲になっていくことだろう。そのほか松隈ケンタ率いるSCRAMBLESによる曲が多数収められ、ライヴで威力を発揮しそうなナンバーが揃った。本作を携えた新生MELiSSAの活躍に期待が高まる。
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ビッケブランカ
ミラージュ
7月28日スタートのドラマ"竜の道 二つの顔の復讐者"のOPテーマとして書き下ろされた新曲「ミラージュ」。ひんやりとしたシンセと打ち込みのビートで始まり、徐々にその心の内や感情のうねりが露わになっていくような重厚なバンド・サウンドへと、ドラマ性を帯びていく展開が印象的だ。音の配置やアンサンブルの妙で、リアルと幻想とが隣り合わせで時にシンクロし合っていく、ヒリヒリとした感触を呼び起こす。憂いがたゆたうメロウな歌と絶妙なグラデーションを持ったサウンドとの、歪にして心地いいハーモニーがドラマにおいてどんな役割を果たすのか。角度によってネガにもポジにも転じそうな曲の色味はまさに蜃気楼=ミラージュだろう。音楽を味わい楽しむことへの贅を尽くした曲になっている。
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17歳とベルリンの壁
Abstract
13年の結成以来シューゲイザー、ギター・ポップ、ドリーム・ポップに影響を受けた音像とポップながらどこか低体温なメロディを掲げ、ある意味エクスペリメンタルなポップ・ミュージックを追求してきた男女ツインVoの4人組、17歳とベルリンの壁。それぞれに違う方向性でバンドの可能性を表現してきた4部作シリーズの最終作となる、この4thミニ・アルバムでは、大胆にシンセの音色を使ってシューゲイザーとエレクトロニックとの融合を試みている――という小難しい字面からは意外なほど曲そのものはポップなところが大きな魅力だ。アーバンなサウンドに挑んだ「凍結地 - Frozen Place」のような曲もあるが、基本、ギミックに頼らずにメロディそのものでポップネスを追求する曲作りに美学を感じる。
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kobore
風景になって
ギター・ロックの王道とも言える"koboreらしさ"を研ぎ澄まし、同時に新しい挑戦もはっきり見える意欲作。そして、4年前に出したデモ音源収録の「当たり前の日々に」をメジャー・デビューのタイミングで再録すると決めていたというのはとびきり粋なストーリーだし、何よりその曲が今作の中で一切の違和感なくハマっていることが、彼らのインディーズ5年間の歩みと心意気をすべて表している。新生koboreの楽曲群を楽しむのはもちろんだが、個人的にはやはり収録曲のうち最後に制作した「ボクタチノアシタ」からの「当たり前の日々に」の流れに注力して聴いてみてほしい。何年経ってもどこに立っても、koboreはなんにも変わらない。そのことが手に取るようにわかるから。
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Ran
無垢
福岡県出身のSSW、Ranによるデビュー・ミニ・アルバムは、"自身に向き合った嘘のないもの"をテーマとした6曲入り。冒頭のシューゲイザー風のギターからダークな一面が垣間見える「黒い息」、"今日も外面は笑っていて心の中では泣いていました"というストレートながらに本質的な思いが受け取れる「蘇生」、芯のあるバンド・サウンドに乗せて鬱憤とした感情を吐き出した「悲劇ごっこ」、届きそうで届かない想いを切なくピュアに描いた「靡かない」、軽快なサウンドの中に刺さる言葉を散りばめた「環」、未来への決意も窺える「ご飯の食べ方」と、くるくると変わる感情のひとつひとつをそれぞれ歌として昇華している。何より彼女の爽やかで一本筋の通った歌声は、聴く者の心をスッと軽くする力があると思う。
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popoq
Crystallize
疾走感のある硬質のギター・サウンドと、プリズムが柔らかに跳ねるような上條 渉のヴォーカルとのコントラストが、清らかで美しい「holy」で始まる2ndミニ・アルバム。結晶化させる、具体化するというタイトルが示すように、今作は頭の中や心の内でおぼろげながらも確かに存在する音のきらめき、プリミティヴな叫びなど、形なきものたちを丁寧に拾い上げてコードやリズム、旋律に映した作品だ。前ミニ・アルバム『Essence』からさらに踏み込んで曲のあるべき形が追求されている。バンド・サウンドとのバランスを計ることなく、必要ならばエレクトロ要素も強めながら曲の持つ情景や温度が描かれたゆえ、リスナーは素直にこの音楽に飛び込んで五感を開放すればいい。甘美な時間をくれる作品だ。
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ExWHYZ(ex-EMPiRE)
SUPER COOL EP
開幕の「This is EMPiRE SOUNDS」は、"これぞEMPiRE!"というスタイリッシュなダンス・チューンに乗せて、彼女たちがネクスト・ステージへと向かう強気な姿勢を歌った1曲。タイトルに"EMPiRE"を冠する曲はこれで3曲目だが、自身のスタイルに確信を持った歌詞になっているあたりが感慨深い。続くフューチャー・ベース調の「SUPER FEELiNG GOOD」は、ファンが自由に踊り出すEMPiREならではのライヴの光景が目に浮かんだ。そんな"SUPER COOL"="超カッコいい"本作のラストは、EMPiREにとっての新境地となるシューゲイザーのエッセンスを加えた「ORDiNARY」。優しさと轟音のコントラストで絶妙に作品を締める。SUPER COOL!!
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