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DISC REVIEW

踊りの合図

Lucky Kilimanjaro

踊りの合図

Lucky Kilimanjaroの夏がまたやってきた。タイトル・トラック「踊りの合図」はサンバのリズムを取り入れ、私たちの本能に訴え掛けて、制約だらけの日々に凝り固まり萎縮した心と身体を開放する。南米の情熱的な部分だけでなく、涼しいギターとシンセの音色、そこに時代劇"七人の侍"の登場人物や、"苦しいでござんす"なんて歌詞が出てくる彼らならではのミックス感が趣深く楽しい。そして、"わずらいは踊りの合図"という言葉には、今日を共に生きる人へ寄り添う想いも感じずにいられない。c/wの「あついきもち」はメロウなサウンドの中で、"愛とは?"を描くナンバーだが、恋人や家族の範囲に収まらない、スケールの大きな繋がりを篤実に歌うラヴ・ソングに目頭が熱くなる。

ONE

うみくん

ONE

チャンネル登録者数45万人超の人気YouTuberであり(※2021年7月現在)、歌い手としても活動するうみくんがRhythmic Toy Worldを迎えた初のコラボ・シングル。"Umikun Creative Project 2021"と銘打ち、1年間で4作品を発表するプロジェクトの第2弾となる今作は、疾走感あふれるピアノ・ロックだ。作詞作曲は内田直孝(Rhythmic Toy World/Vo/Gt)が担当。YouTubeを主戦場に歌を届けるうみくんの心情に寄り添い、"前人未到を超えたその先へ"とストレートに前進の意志を綴った。力強さだけではなく、弱さを吐露し、反骨精神が滲むラップ・パートも盛り込むことで、うみくんの変幻自在な歌唱スタイルが存分に生きた1曲。

輝きの中に立っている

時速36km

輝きの中に立っている

ネットの勢いが盛んなこの時代に、ライヴ・シーンからその名を響かせつつある頼もしいバンドが、結成4年半にして投下する初フル・アルバム。"思い出に負けないような日が来るまで生きる"の詞が今にもリンクする「動物的な暮らし」、6分半にノスタルジーを詰め込んだ「素晴らしい日々」など既存6曲に加え、自分流のロックンロールを泥臭く叫ぶ「アンラッキーハッピーエンドロール」、eastern youthやbloodthirsty butchersの影響を色濃く感じる「鮮烈に」など未発表曲も9曲収めた。洒落てもいなければ、"バズる"ようなコミカルさもない。ただ過ぎゆく時の中で感じる少しの変化や寂寥、光を愚直に歌にし、無鉄砲に曝け出しながら生きる。ガツンとくる音楽を求める人には感じるものがあるはず。

Storage time

ザ・モアイズユー

Storage time

青春の日々に追い求めた夢も、それに伴う葛藤も、終わってしまった恋の後悔も、大切なものを失った悲しみも。人生で出会う喜怒哀楽のすべては、心に保存され(=Storage)、それぞれの人間をかたちづくる大切なものである。そんなことに気づかせてくれる、ザ・モアイズユーの1stフル・アルバム。本多真央(Vo/Gt)の朴訥とした歌声で紡ぐセンチメンタルなメロディを軸にしつつ、華やかにホーンを取り入れた「MUSIC!!」、80sなサマー・ソング「ブルースカイブルー」、メロウなラップ曲「求め合うたび」など、丁寧なアプローチで振り幅を広げた全13曲が並ぶ。珠玉は、バラード「Afterglow」。悲しみの残光で未来を照らす、優しい祈りの歌が胸を打つ。

312g

藍色アポロ

312g

2000年代邦ロックの影響を受け継いだ王道のバンド・サウンドに乗せて、内に秘めた衝動を伸びやかに歌い上げる4人組ロック・バンド、藍色アポロ。初の全国流通盤となる今作は、04 Limited Sazabys、THE PINBALLS、reGretGirlらが所属するレーベル No Big Deal Recordsからのリリースになる。抑えようのない前進の意志を加速させる「限界高速」をはじめ、変拍子やシューゲイザーのアプローチに仄暗い憂いを滲ませた「mind」、スリー、ツー、ワンのカウントを合図に軽やかなメロディが弾ける「透明とアシ」など、様々な角度からバンドの魅力を炙り出す5曲を収録。小説のような歌詞は、心の景色を様々な色で捉え、静謐な熱量を湛えながら"君"へと手を伸ばす。

7 ultimate materials

そこに鳴る

7 ultimate materials

"7 ultimate materials"はそこに鳴るが7週連続で「vermisst」、「VortEx」、「渇望の日」、「恣意的三分間」、「回帰」、「雨に消えて」、「brilliant city」の7曲をCDシングルとしてリリースする結成10周年記念企画だ。結成10年目にリリースした1stフル・アルバム『超越』の成熟から今一度、そこに鳴るらしさに回帰するという大きなテーマのもと、超絶テクニカルなサウンドを極限まで鳴らす一方で、歌モノとしての魅力をさらに磨きあげながら、曲ごとにバンドが持つ可能性を追求している。男女ツイン・ヴォーカルを軸にしながら、ハーモニー・ワークにさらに力を入れるという新たな挑戦も。それは7曲に共通する聴きどころとなっている。

風の匂い

インナージャーニー

風の匂い

心の奥にある譲れない想いを柔らかな歌で紡ぎ出すカモシタサラ(Gt/Vo)を中心に、インディー・ロックへのピュアな憧れを音へと投影する4人組バンド、インナージャーニー。先行配信シングル「グッバイ来世でまた会おう」を含む今作は、バンドのアンサンブルが豊かに花開く1枚になった。性急にかき鳴らすアコースティック・ギターに、言葉数の多いメロディが駆け抜ける「夕暮れのシンガー」、もう会えない世界にいってしまった人を思う不思議なポップ・ソング「深海列車」、重たいサウンドに乗せて湿り気を帯びた雨上がりの決意を描いた「ペトリコール」。ベース、ギター、ドラムという3種の楽器が生き生きと共鳴する全5曲には、大切なものを忘れないために歌うという、バンドの信念が力強く刻まれていた。

ダブル・スタンダード

フィロソフィーのダンス

ダブル・スタンダード

表題曲はTVアニメ"魔法科高校の優等生"エンディング・テーマに起用。ストリングスを効かせた、都会的な情景が浮かぶ疾走感のあるダンス・サウンドに乗せて、恋愛の中で生まれる矛盾した感情を歌い上げる。カップリングには、管楽器がゴージャスに彩る情熱的な1曲「ウェイク・アップ・ダンス」、古き良き80sシティ・ポップが香る「サマー・イズ・オーバー」、さらに、韓国のプロデューサー/DJのNight Tempoが2ndシングル『カップラーメン・プログラム』収録曲のリミックスを手掛けた「テレフォニズム (Night Tempo Melting Groove Mix)」も収められた。本作でメジャー3枚目のシングルだが、相変わらず隙がない作品を生み出し続ける"フィロのス"には舌を巻く。

大事な歌

PARADISES

大事な歌

新メンバー"キャ・ノン"の加入、月ノウサギがレンタル移籍から帰還、そしてウタウウタの脱退――大きな変化を迎えたPARADISESの1stシングル。「大事な歌」は、バンド・サウンドで爽やかに駆け抜ける1曲だが、歌い出しの"約束したことも/共に歩いた思い出も/一瞬で消え去るってことを知った"という言葉がグループの今にリンクする。とはいえ"流れぶった切っちゃってグイグイ行かなきゃ"と歌うあたりは実に頼もしい。c/wは月ノ作詞の「Season Song」。多くの出会いと別れを経験したからこそ、真実味と重みを持った言葉と歌が心に沁みる。何があっても"行かなくちゃ/どこへでも/行かなくちゃ"と前を向いて歩き続ける"WACKの楽園"の明日が、雲ひとつない青空のように澄み渡ることを願う。

VISITOR

PIGGS

VISITOR

9月にZAZEN BOYS、アルカラら豪華アーティストとの対バン企画を控えている、プー・ルイ(ex-BiS/BILLIE IDLE)率いる話題のアイドル・グループ PIGGS。4月に発表した1stシングル『T.A.K.O』に続く2ndシングルとなる今作は、彼女たちの唯一無二の個性をより感じることができる1枚になっていると思う。狂気をはらんだ歌とインダストリアル調でヘヴィなサウンド、下着姿のMV含めて衝撃的な「Piggy」、"立ち止まらずに生きるよ"といった言葉に強い覚悟を込めた「VISITOR」、PIGGSの音楽性を決めるきっかけになったという、エモーショナルな歌声を聴かせる「LINK EMOTION」。3曲でここまでの振り幅を見せつけるところに彼女たちの矜持も窺える。

journey

Leo-Wonder

journey

anne、nene、rinの新たな3人体制で始動した第2期Leo-Wonderが、新体制初シングルをリリースした。本作では、第1期から引き続き空想委員会の岡田典之(Ba)がすべての楽曲を手掛け、さらに同じく空想委員会の佐々木直也らがギターに参加したことで、グルーヴ感が一段と向上。そこへ3人の爆発する個性が絡み合い、Leo-Wonderワールドを形作る。新曲は第2期にとっての始まりの1曲であり、新たな旅立ちに相応しい加速感がある「journey」と、縦ノリで飛び跳ねたくなる「world dive」の2曲。第1期のシングルから再録された「アルゴリズム」は、サウンド面も含めてさらなる深化を遂げた。CDは会場限定発売だが、配信リリースもされているので、バンド好きもアイドル好きも、一聴の価値あり。

散漫

挫・人間

散漫

快作『ブラクラ』から1年5ヶ月ぶりのアルバム。ハイテンションな高速デジタル・ハードコア「I LOVE YOU」で幕を開けることが、今作のバンドのモードを物語っている。陽気な南国サウンドのはずが恐怖の人喰いサウナに変貌にする「デスサウナ」、湘南乃風のタオル回しを彷彿とさせる「アイオワの風」など、ノリと勢いで完成させた楽曲たちからはコロナ禍の憂うつなど微塵も感じさせない。相次ぐメンバーの脱退、加入を経て、過剰なまでに詰め込んだ情報量の中に、バンドのロマンチシズムがこれまで以上に滲み出た。きっと誰かのためにこのバンドは存在する。そんな下川リヲ(Vo/Gt)の自覚が顕在化した「誰かを救える歌」は、負け犬の味方であろうとするバンドが放つ熱い援護射撃だ。

月面より

hotobori

月面より

2016年に活動休止に入った"ごっこ"が改名し、配信してきた「あの夏のイマージュ」、「メモリーセブン」のリマスタリングVer.や、前身バンド時代から演奏していた「彼女」、「クイーン」などもまとめた1stアルバム。緩やかなテンポとピアノが特徴的な隙間の多いアンサンブルは、単にオーガニックなだけじゃなく、ギター・ロックを経由してきたサニーデイ・サービスのような、"時間を持て余した恋人同士の夏休み"を思わせつつ、血や汗の匂いはほとんどない。ファンク的なグルーヴを感じる「近未来」も、80年代シティ・ポップスを自分たちなりに消化して、変に背伸びしないアンサンブルなのもいい。素朴なのに、少しサイケデリックだったり、爽やかなのに不気味だったり。型に収まりきらない心地よさがある。

ロスタイム / 春風 / ドライフラワー / life goes on

メメタァ

ロスタイム / 春風 / ドライフラワー / life goes on

2021年4~7月にリリースされた、4ヶ月連続配信シングル。疾走感も青春感も抜群、今を鳴らすバンドとしての情熱を宿すのは、メメタァの新王道「ロスタイム」。シンプルなビートとリフで展開する、"卒業"がテーマのミドル・ナンバーは「春風」。カントリー調で温かみのある「ドライフラワー」は、死生観を感じさせる歌詞とのコントラストが鮮やかだ。そして"君らしくなんかなくても良いから生きてておくれよ"と伝えるのが「life goes on」。真摯なメッセージに胸を打たれるとともに、壮大なバンド・サウンドに新しさを感じた。――といった具合に彩り豊かな楽曲が揃っている。ファンはもちろん、これからメメタァを知っていく人にも入門編としておすすめしたい。

骨格

黒子首

骨格

堀胃あげは(Gt/Vo)が作り出す憂いを帯びた楽曲が独特の世界観を生み出す3ピース・バンド、黒子首。2018年7月の結成から4年目で完成された1stアルバム。アコースティック・ギターの音色を大切にしたジャジーなサウンドを基調に、ホーン・アレンジが煌めきの夜を彩る「magnet gum」、キレ味鋭いシンセが駆け抜けるファンキーなダンス・ナンバー「Driver」、印象的なエレキ・ギターと共にメルヘンチックな物語を紡ぐ「マーメイド」など、様々な楽器を取り入れた新しい黒子首のポップ・ミュージックを切り拓いた。悲しみとの決別を歌う「エンドレスロール」にはじまり、アルバム全体に孤独な気配が漂うが、決して悲壮感はない。寂しさをあっけらかんと歌に仕立てる堀胃の言葉選びがユニーク。

初恋

神はサイコロを振らない

初恋

今年3月のメジャー1stシングル『エーテルの正体』以降、ハイペースな楽曲リリースが続く神はサイコロを振らない、初のコラボレーション楽曲。作曲にヨルシカのコンポーザー n-buna、ヴォーカリストにBiSHのメンバーであり、PEDRO名義の活動も展開するアユニ・Dを迎えるという、2021年代の音楽シーンを象徴するような3組が集結する豪華コラボになった。n-bunaの真骨頂とも言える、ピアノを中心にした清涼感あふれるバンド・サウンドに乗せた楽曲のテーマは、あの夏の日に置き忘れてきた切ない想い。柳田周作とアユニ・Dの男女ヴォーカルが優しく交錯するメロディには、懐かしい匂いが漂う。神サイの楽曲として、初めて柳田以外のコンポーザーが介入した点もバンドとして意義深い。

00

popoq

00

popoq初のフル・アルバムは"00"(読み:リンリン)と名付けられた。コロナ禍によって気持ちや活動の面でもゼロになる、リセットさせることが繰り返されたこと、また強制的に止められた時間の中で、彼らが10代の多感な時期を過ごした00年代へのノスタルジーが湧き上がったこと。制作期間での体験や目まぐるしい情報の変化とディレイ状態の日常とが生む混沌のエネルギーが、曲作りや新たなアイディア、歌を研ぎ澄ませていくことに向けられた。シューゲイザーやポスト・パンク、エレクトロなどに根ざしたpopoqサウンド、そして上條 渉(Vo/Gt)のエアリーなハイトーンで描かれる繊細でドリーミーなメロディは、輝きを増して、心を研ぎほぐすような温もりと美しさを放つ。シビアな現実を、ファンタジックに灯すようなアルバムだ。

旅鴉の鳴き声

WOMCADOLE

旅鴉の鳴き声

ノベル・コンセプトアルバムの第2弾。前作『共鳴howRING』が黒ならば、今作は夕暮れのオレンジが似合う、そんなノスタルジックな1枚だ。勢いに頼らないことで必然的に歌の良さや緻密なアレンジといった部分が底上げされた珠玉の全6曲が並ぶ。理想と現実の狭間にいる嘘のない自分を映し出す「mirror」、素顔の自分を求めて闇に沈み込む「夜間飛行」で幕を開ける今作は、とにかく樋口侑希(Vo/Gt)の歌詞が等身大で生々しい。思春期の大切な感情をパッケージした「ラブレター」や、全国を旅するバンド自身のことを綴った「ペングイン」を経て、やがて人と人とを歌で繋ぐ「hey my friend」に辿り着く頃には、自分が何を大切に生きるのか、という人としての帰るべき場所が浮かび上がる。

Embarking

広瀬大地

Embarking

作詞作曲のみならず、楽器の演奏もすべて自ら手掛けるなどマルチな才能を持つ、シンガー・ソングライター/マルチ・インストゥルメンタリスト、広瀬大地。ひとりで作り上げた前作から1年3ヶ月ぶりにリリースする2ndアルバムは前作同様、ファンクの影響を日本語のポップスに落とし込むというテーマに追求しながら、時代の音を見据え、'80sの影響が色濃いカラフルでダンサブルなポップ・アルバムに。シティ・ポップに通じるところもありながら、変な気取りのないヴォーカルをはじめ、楽曲に滲むエモさはやはり元バンドマンならではか。等身大を思わせ、好感が持てる。彼のルーツのひとつであるTHE BEATLESを彷彿させるバラード「Crossroads」が締めくくるラストは、次回作への布石のようにも思える。

Turn

Newspeak

Turn

約2年ぶりのフル・アルバム。リズミカルなストリングスが眩い光へと導く「Blinding Lights」をはじめ、管楽器アレンジを取り入れた「Generation of Superstitions」、牧歌的なフルートと歪んだシンベが怪しげに絡み合う「Hear It Out」など、00年代以降の洋楽ロックのロマンチックな匂いを継承しつつ、決して枠にとらわれない自由なアプローチがいっそう研ぎ澄まされた全13曲が並ぶ。"朝霞"を意味する「Morning Haze」から開放感に満ちた「Great Pretenders」に繋ぐ、インスト曲を効果的に挟んだ曲順も美しい。ホーリーなラスト・ソング「Parachute Flare」に辿り着いたとき、この困難な時代に捧げる明日への祈りのような想いを感じずにはいられなかった。