DISC REVIEW
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ガガガSP
THEガガガSP
タイトルからも覚悟や自信が窺える25周年のガガガSPが全身全霊で放つ意欲作。"これぞガガガSP!"と両手を挙げたくなる青春パンクもキャリアとスキルを生かしたプレイやアレンジ、抜群のコーラス・ワークで聴かせる楽曲に仕上がっていたり、歌や詞も、過去も現在も受け入れたうえで進もうとするポジティヴなエネルギーに満ちていたりと、"今が一番カッコいい!"と言いたくなる。「これでいいのだ」で勢い良く始まると、ユーモアや世知辛さもトッピングしたパンク・チューンに高ぶらせ、「ロックンロール」、「遠い遠い」でこれからに大いに期待させて幕を閉じる今作。聴き終えて様々な感情が入り組むなか1曲目に戻ると"いろいろあるけどこれでいいのだ"と大納得。そして2周目へと突入する無限ループにハマっていくのであった。
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竹原ピストル
悄気る街、舌打ちのように歌がある。
6thアルバムからわずか5ヶ月強でミニ・アルバムをリリース。前作は'21年夏にリリースされたものの、全国を旅できていた時期に書いた曲が中心だったが、今作にはコロナ禍における歌うたいとしての想いが刻まれている。唸りを上げるような歌声、重心の低いバンド・サウンドは時代の閉塞した空気を反映したもので、場面に応じて用いられている打ち込みは無慈悲に過ぎる時間を表現しているように感じられた。参拝の情景を内省とともに描く歌詞が見事な「初詣」から民謡的な温度感の表題曲まで、5曲すべてブルースと呼べそうな佇まいで、"生き延びろ"という力強いメッセージが胸に刺さる。なお、初回限定盤付属のDVDには、西川美和の企画/監修によるMV 5作を収録。こちらも必見だ。
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崎山蒼志
Face To Time Case
高校卒業後、上京しミュージシャン専業になった2021年、さらに多様な表現を自由に突き詰めた印象のあるメジャー2ndアルバム。いわゆるモダン・ラウドロック的なバンド・サウンドは「嘘じゃない」、「逆行」など先行発表曲に続き、「Helix」でさらに進化した。「舟を漕ぐ」などは幼少期の記憶と分かち難いパーソナルな世界観だし、リーガルリリーと演奏も含めコラボした「過剰/異常」の共鳴は清々しいほど。一方、石崎ひゅーいや水野良樹(いきものがかり/Gt/Pf)とのタッグはJ-POPを踏まえ、更新する気概に満ちている。また、毎回楽しみな打ち込み多重録音は、インダストリアル・テクノとマンブル・ラップの混成のようで、表現者のポテンシャルをパッケージ。ジャンル語りの無効さを痛感する。
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蒼山幸子
Highlight
元ねごとの蒼山幸子による1stソロ・アルバム。浮遊感のある洗練されたサウンドにJ-POP的なメロディが乗り、新しさと懐かしさが混ざりあう。そこに詩的な歌詞が加わり築かれた独自の世界観は、ソロになったことでより深く、幅広くなった。エレクトロニックな楽曲が多く収録されているが、最後を締めくくるのは本アルバムで最もシンプルなバラード「まぼろし」だ。ソロ初作品の表題曲でもある本楽曲が、弾き語りからバンド・バージョンへとアップデート。ひとりの孤独と自由を綴ったこの曲が、時を経て仲間を携え、彼女がもう孤独ではないことを教えてくれる。切なさを纏いつつも、かすかな希望や心の奥で燃やす"ひみつの炎"が見え隠れする楽曲群は、まさに今の世の中を映したような温度感で、聴く者にそっと寄り添うだろう。
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JYOCHO
しあわせになるから、なろうよ
JYOCHOの3年ぶりとなるアルバムが到着した。アニメのエンディング・テーマとなった「みんなおなじ」やCMに起用された「光あつめておいでよ」を含む全8曲を収録。テクニカルで綿密に構築された演奏は、音数が多く変拍子も巧みに取り入れられ複雑に入り組んでいるが、爽やかに吹き抜ける風のように軽やかで、難解さを感じさせないほどに心地よい。そんな広大な自然を彷彿させるスケールの大きいサウンドに乗せた哲学的な歌詞が、命や人生について考えさせる。直接的な表現が増え、"叶わない夢がある"などところどころで放たれるストレートな言葉にドキッとするが、きっと彼らは現実を見つめたうえで、それらを乗り越えた先にある"しあわせ"を目指し、リスナーを導いていくのだろう。"しあわせになるから、なろうよ"と。
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THE 抱きしめるズ
せかんどふぁーすと
青春パンクをかき鳴らしていたTHE 抱きしめるズが、それまでギタリストだった篠崎大河がリード・ヴォーカルを取る形で復活。メンバー交代も経て、満を持して新体制初アルバムを完成させた。メロディアスなギターから始まるモータウン調のオープニング・チューン「偉大な凡人」から、これまでのイメージをなんとも美しく塗り替える。何度転んでも諦めなかった篠崎だから歌える、再始動を宣言するナンバーに、聴き手を優しく包み込む素朴な歌声がハマっていて好印象だ。リード曲「Have a good life」では爽やかなメロディと、シンセサイザーも採り入れた近未来的サウンドの融合で新境地をアピール。哀愁と深みを増した詞世界と、懐かしさもあるグッド・メロディにキュンとする。意欲溢れるリスタートに拍手を贈りたい。
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ハク。
若者日記
大阪からジワジワ知名度を上げている平均年齢19歳のガールズ・バンドの初ミニ・アルバム。甘酸っぱい恋心を歌うデビュー音源「アップルパイ」や、バンドが初めて作ったまっすぐなロック・チューン「ワタシ」から、オルタナ色の強いメランコリーなリード曲「カランコエ」、タイトなサウンドにメッセージを乗せた「ふたり基地」まで、1枚の中で末恐ろしいほどの成長が感じられる。どの曲も軽やかに透明感を纏いながらも、内側には確かに滾る想いが滲む。そんな心の内を赤裸々に、だけどどこか達観したように綴った全8曲に自ら"若者日記"と名付けるということは、"これは今だからこそ綴れること"と自覚しているのかもと思うと、いっそう輝きを増して届いた。リスナーそれぞれにお気に入りのナンバーが見つかりそうだ。
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BiS
DA DA DA DANCE SONG
約2年ぶりの新メンバー ナノ3が加入したBiSの新体制初シングル。その表題曲「DA DA DA DANCE SONG」は、過激な単語が散りばめられたBiS流の攻撃的なダンス・ロック・チューンだ。BiSのライヴの魅力のひとつに研究員(※BiSファン)と一緒に踊り狂うことがあるとすれば、"なぜ今までなかったんだ?"と感じてしまうくらいにジャンルとの相性の良さを感じさせる。c/wは、表題曲とは対照的にミドル・テンポでゆったりと歌う「とまらない歌」。自分らしさや夢に思い悩む人の背中を押す歌詞にも捉えられるし、視点を変えると全然違うことを歌っている歌詞にも見えるのは、作詞家の妙技だろうか。2曲共に、ナノ3のまっすぐな歌声により先輩メンバー4人の個性もより映えている。今後が楽しみだ。
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緑黄色社会
Actor
陽性のエネルギーに溢れた賑やかな演奏に"産み出された、ただそれだけで意味があるから"と聴き手の命そのものを肯定するような歌詞を乗せた「キャラクター」が、今回のアルバム『Actor』のテーマをくっきりと描き出していた。緑黄色社会が、前作『SINGALONG』の配信から約1年9ヶ月ぶりにリリースする3枚目のフル・アルバムだ。収録曲は「結証」、「ずっとずっとずっと」、「これからのこと、それからのこと」、「LITMUS」など2021年を通じてドラマやCMソングに書き下された楽曲が、半分以上を占める今作。貪欲に様々なアプローチの楽曲にチャレンジした時期だったからこそ、その音楽性はこれまで以上に雑多でありながら、すべてをリョクシャカたらしめる長屋晴子の歌は圧巻だ。
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Crispy Camera Club
季節風
シングル『Apartment Dreams』を挟み、ミニ・アルバムとしては前作『ROMA』から約2年半ぶりとなる7曲入り。ギターの稲本裕太が脱退し、3ピース編成に戻った彼女たちのニュー・モードを感じる1枚になった。先行配信された「季節のはじまり」や、「Orange」など、90年代UKシーンへの憧れをストレートに反映させたアプローチによって、バンドが本来的に持っていたメロディの良さがこれまで以上に冴え渡る。外部のプロデューサーとしてカジヒデキを迎えた「rock'n'roll wind」では、スピッツのサポートで知られるクジヒロコをキーボードに起用。渋谷系ポップスとCCCが融合する新しい感覚のナンバーになった。季節外れの扇風機をデザインしたジャケットにも遊び心を感じる。
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UVERworld
30
映画主題歌「HOURGLASS」や「AS ONE」をはじめ、ドラマ主題歌「AVALANCHE」、「EN」が作品のテーマ性をよりエモーショナルに語る役割を果たしたことも記憶に新しい。11枚目のフル・アルバムは、UVERworldというバンドのスケール感がまだ広がっていくこと、恐れることなくバンド像を打ち壊していく姿が刻まれている。スキルフルで音楽的な精度は上がっているが、その真ん中になぜここまで猛烈な衝動感や胎動感、あるいは飢餓感と言うべき叫びの激流があるのか。一昨年には結成20周年を迎えたが、そのパワーにまず圧倒される。フィーチャリング曲やコライト曲でバンド自身刺激を堪能し、ロック・ミュージックのフロンティア精神を開拓し続ける。前進するそのエンジンはバケモノのようにデカい。
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ザ・クロマニヨンズ
ごくつぶし
ついに6ヶ月に及ぶ"SIX KICKS ROCK&ROLL"企画のラストを飾るシングルが到着、タイトルは"ごくつぶし"。ジャケットでは"59224"と語呂合わせでかわいく表記されているが、"穀潰し"とは無為徒食で役に立たない人を罵る言葉だ。そんな言葉を放つコーラスをよそに"ああ 生まれてよかった"と歌う姿が清々しい。短い単語の組み合わせでパワー・ワードを連発するワード・センスが光る1曲。そしてカップリング曲「イエー! ロックンロール」は、一緒に叫びたくなるようなド直球なタイトルが付けられた。先行きの見えない鬱屈した世の中で、6ヶ月にわたり痛快なロックンロールを届けてくれた彼ら。錆びついた転轍機を持ち上げ、切り替えた進路の先に待つ次なる展開が楽しみだ。
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a flood of circle
伝説の夜を君と
こんなにドラスティックで芯の太いロックンロールを今の時代に真っ向からやれるのは、a flood of circleくらいじゃないか。そんな感想が思わず第一に出るくらい、雄々しく意気盛んなアルバムだ。結成15周年のアニバーサリー・イヤーだった2021年。コロナ禍ではあったが、そのなかでリリースもライヴも最大限にし尽くしてきた年の最後に届けたオール新曲の本作は、ボロボロになりながら、キラキラを振りまきながら、危険な香りもぷんぷんさせながら転がり続けてきたAFOCらしさ全開。リード曲「北極星のメロディー」を筆頭に、自分たちの鳴らす音楽が最高だという自信に満ちたムードがこぼれ出しているのだ。「クレイジー・ギャンブラーズ」の一節"最後は俺らが爆笑だぜ"も、痺れるくらいかっこいい。
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ザ・クロマニヨンズ
縄文BABY
6ヶ月連続でリリースする"SIX KICKS ROCK&ROLL"プロジェクトの第5弾。表題曲「縄文BABY」は、聴けば誰もが温かい気持ちになるラヴ・ソングだ。"カモン"、"縄文"、"土器"、"ドキドキ"と韻を踏む言葉が、シンプルなサウンドの中でいっそう際立っている。さらに後半"シャララ"と歌うコーラスが、楽曲をよりロマンチックに盛り上げる。歌詞に登場する土器、炎、渦巻き、星の屑を表現したジャケットにも注目。そしてカップリングには「ナイフの時代」が収録された。「Anarchy In The U.K」(SEX PISTOLS)を思わせるイントロから、今も青春時代の憧れを追い続ける姿が見て取れる。言葉遊びに名曲のオマージュと、今作も茶目っ気たっぷりの1枚だ。
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ドレスコーズ
バイエル(変奏)
コロナ禍のひとりの時間から生まれたメロディと言葉が、枝葉を伸ばしていく試行そのものが『バイエル』という作品の唯一無二の性質だとすれば、この"変奏"のために初めましてのメンバーが組み上げていったツアーは最も純度が高いものだったのではないだろうか。客席からステージに向かうメンバーの緊張した背中に始まり、おのおのが楽曲に向かう表情や演奏、この変奏のためのアンサンブルが主役の映像作品である。ピュアネスだけで志磨遼平が今回の"バイエル"一連の作品を創作したとは思わない。だが、この未曾有の時代を自分がどう生きたか? をどう遺すのか。その表現方法はアーティストの真髄を映す。今も続く不安な日々の中で絶対譲れないものは何か。あなたにとってのそれを確認できる演奏や瞬間がきっとある。
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ヒトリエ
Amplified Tour 2021 at OSAKA
wowakaの意志を継ぎ、シノダがヴォーカルをとり、イガラシ(Ba)、ゆーまお(Dr)の3人体制となったヒトリエ。2021年に新体制初のアルバム『REAMP』を発表し、全国ツアー"Amplified Tour 2021"を敢行した。今作は大阪BIGCATの2デイズ公演から2日目をフル収録+1日目のみ披露した曲を加えたヒトリエ初のライヴ・アルバム。2020年はベスト盤のリリース・ツアーを予定しながらもコロナ禍で中止になった経緯があるが、そのぶんを制作にあてヒトリエ・サウンドをリビルドした。ヒトリエの歴史と地続きであり、未知の領域にも踏み込んでいった『REAMP』の、ヒリヒリとした爆音、グルーヴとこれまでの曲が怒濤の勢いで混じり、加速するライヴ。その熱がパッケージされた。
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空想委員会
世渡り下手の愛し方
2年間の活動休止を経て、21年4月、活動を再開した空想委員会が『恋愛下手の作り方』で全国デビューしてから10周年という節目にリリースした、全12曲書き下ろしのフル・アルバム。日々の暮らしで感じる生きづらさと、そこに潜む希望の欠片を探す3人組ギター・ロック・バンドと自ら掲げる彼らがここで歌うのは、自分たちも含む"世渡り下手"への愛......ではなく、叱咤激励だ。彼らには不似合いかもしれない叱咤激励という言葉を使いたくなるほど力強くなったメッセージと、ファンクを含めダンサブルなリズムを強化したアレンジに、バンドの成長を感じずにいられない。かつて身上としていた恋愛下手をテーマにした曲は、Track.10「ラブソングゾンビ」のみ。そんなところからも再出発にかけるバンドの思いが窺える。
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マカロニえんぴつ
ハッピーエンドへの期待は
10作のタイアップ曲に提供曲のセルフ・カバーと、その豪華さがメジャー・シーンでの活躍を物語るメジャー1stフル・アルバム。アカペラの多重唱で幕を開ける表題曲、レゲエやジャズなどの要素を盛り込み急展開を見せる「トマソン」など、様々なジャンルをロックに落とし込みマカロニえんぴつ色に染め上げた楽曲が並ぶ。中でもインパクトを残すのは「TONTTU」。重いロック・サウンドにハード・ロック・バンドのヴォーカリストを彷彿させる歌声、オルガンをバックに繰り広げる寸劇......とやりたい放題だ。そんな癖のある遊び心満載な楽曲のほか、待望の音源化となった弾き語り曲「キスをしよう」や温かいラヴ・ソング「なんでもないよ、」などストレートな楽曲も。求められていることに応えつつ、やりたいことを詰め込んだ渾身の1枚。
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リーガルリリー
Cとし生けるもの
『bedtime story』から約2年ぶりの2ndアルバム。3人のアンサンブルやその曲は、よりオルタナティヴでポップにパワフルに、そして洗練されて、ピュアな視線で捉えた景色や心の機微が鮮明に、鋭く、音楽になった。その歌詞は、詩的で、時に暗号やでたらめなピースのパズルを読み解くようなシュールさがあるけれど、それがメロディとなりこの音に乗ったとき、自分の心の記憶や感情に触れて、気持ちが動かされる。小さな子どもが、手をパッと開いてとっておきの宝物を見せてくれたような感覚と言おうか。何気ないものや出来事が愛おしくなる、そんな曲が並ぶ。また「中央線」など中央線や環七が登場する曲では、その舞台の空気やざわめきまでもが聴こえてくる。聴いている間、どこまでも旅ができそうなアルバムだ。
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reGretGirl
生活e.p.
昨年1月にメジャー・デビューした大阪発のセンチメンタル・ギター・ロック・バンド reGretGirlの1st EP『生活e.p.』。全4曲すべてが失恋ソングでありながら、切なさだけでなく人の温もりをも残す傑作だ。心地よく弾むギター・サウンドに乗せて、叶うはずのない淡い期待や望みがリアルな情景描写とともに描かれた「ロードイン」で恋の始まりを懐かしみ、何気ない幸せの時間を切り取る「シャンプー」、キャッチーなメロディの上に綴られた"忘れることをやめた"というメッセージが刺さる「LDK」へと続いていく。ラストで唯一のバラード「オールディーズ」を届けてくれるのだが、2サビで畳み掛ける君との思い出の数々と"どうか君も傷ついてくれないか"の一節に、つい目頭が熱くなる。
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