DISC REVIEW
-
マジカル・パンチライン
キラハピ☆THE WORLD
昨年2021年2月に新メンバー3名が加入し、新体制になったことを契機に"世界中の毎日をキラキラハッピーにする!!"というコンセプトを掲げて活動をスタートした5人組アイドル・グループ、"マジパン"ことマジカル・パンチライン。そのコンセプトを体現したのが、2ndアルバム『キラハピ☆THE WORLD』だ。アイドルとしての経験が長い、リーダー兼プロデューサーの沖口優奈の想いや狙いが詰め込まれたアイドルの王道を往く楽曲の数々は、聴き手を1年中"キラハピ"な世界に連れていってくれるはず。マジパンのイメージと離れたクールでモダンなポップ・ソング「やみー」のように振れ幅を広げているあたりも好印象だ。"いや、そもそも「キラハピ」って何?"と思ったあなたへ、入門編としてお勧めしたい1枚。
-
B.O.L.T
B.O.L.T "THE LIVE PACKAGE" 2021
自身初のツアー"#BOLT関東デマス ~初ライブツアーの巻~"のツアー・ファイナルと、恵比寿LIQUIDROOMで行われた"B.O.L.T ONE MAN LIVE 「Voyage」"の2本立てという豪華な映像作品。前者は、初のツアーでの経験を経て成長した4人の姿と、パフォーマンスの充実っぷりが見どころ。2ndアルバム『Attitude』を引っ提げてのツアーということもあり、同作の全曲が収録されているので、CDと共に楽しみたい。後者は、高井千帆のラスト・ティーン・ライヴというメモリアル公演。高井自身が考案した、四季をモチーフにパート分けが施されたコンセプチュアルなセットリストで、"Voyage"のタイトル通りに、メンバーと共に季節を旅する気分を味わうことができる。
-
mzsrz
現在地未明
エイベックス×テレ東によるオーディション"ヨルヤン"を勝ち抜いた女性ヴォーカリスト5人からなるmzsrzの1stアルバム。エレクトロニカを採り入れたバンド・サウンドを得意とするボカロP、DECO*27が全曲プロデュースし、曲によってはTeddyLoidやRockwell、ポリスピカデリーと気鋭のトラックメイカーやアレンジャーを迎え、シティ・ポップ的ナンバーからラウドロックまで幅広いジャンルを横断している。そのどれもを力むことなく自然に乗りこなす歌唱力は、まさに歌/声に照準を絞って実施されたオーディションの賜物。既発曲でもそれは感じられるが、本作に収められた新曲たちでさらに壮大であったりトリッキーであったりとサウンドや歌唱のレンジを広げ、驚かせてくれる。今後への期待も高める1枚だ。
-
PaperCloud
Hello,Manmade Mermaid
現役大学生のベッドルーム・ミュージック・ソロ・プロジェクトだそうだが、エレキもアコギもギターへの偏愛がきっとこの人の音楽を独特のものにしているのではないだろうか。基本的に繊細なアルペジオや心地いいコードが鳴りつつ、ビートがいい意味で拙かったり、ギター主体でありつつインディーR&B感のある歌メロが登場したり、韻踏み遊びがラップのフロウを生み出しつつリズムはマス・ロックだったり。なぜか自由なはずの宅録がチルアウト・ヒップホップばかりなご時世、この"自分の脳内にあるものを気持ちいいほどコラージュしまくる"感覚は爽快ですらある。しかも日本のギター・ロックに馴染んだ耳にもすんなり入るはず。且つ、新鮮な東京の切り取り方という意味では"2022年のサニーデイ・サービス"のようですらある。
-
SHE'S
Blue Thermal
"ブルーサーマル"とは上昇気流の意味。航空部をテーマにしたアニメ映画"ブルーサーマル"の主題歌&挿入歌を収録した、2022年第1弾シングルだ。主題歌「Blue Thermal」は、まさに青く澄み切る大空が似合うブラス・バンドに乗せて、痛みを抱えながらも夢に向かう熱い想いが綴られる。"パーフェクトブルー"、"雲"、"気流"などアニメの世界観に寄り添ったワードを散りばめながら、そこにはバンド自身の在り方もくっきりと重なる。一方、挿入歌「Beautiful Bird」はホーリーなハーモニーで紡ぐ静謐なバラード。"君"の存在が"僕"を未来へと導くという歌詞は、これまでSHE'Sが多くの楽曲で歌ってきたテーマにも通じる。初の武道館ワンマンを経たSHE'Sの11周年の幕開けとなる1枚。
-
神はサイコロを振らない
事象の地平線
荒々しく衝動的なロック・ナンバーから荘厳なバラード、心踊るポップ・ソングまで。どんなジャンルの楽曲でも自分たちの色に染め上げる神サイ。そんな彼らがメジャー・デビューを果たした2020年以降の集大成となる1枚が完成した。2枚組全20曲。その半分がドラマやアニメ、CMソングに書き下した楽曲であり、バンドの知名度を上げたバラード曲「夜永唄」のリアレンジや、昨年n-buna(ヨルシカ/Gt/Composer)やアユニ・D(BiSH/PEDRO)、キタニタツヤを迎えたコラボ作まで、セールス・ポイントは枚挙にいとまがない。そんななか、必聴はラスト・ソングの新録曲「僕だけが失敗作みたいで」だろう。原点回帰となるポスト・ロック・サウンドに乗せ、柳田周作(Vo)が弱さを吐露する歌詞に、神サイの根底にある泥臭い人間味を感じる。
-
栞寧
yadokari
北海道在住シンガー・ソングライター、栞寧によるミニ・アルバム。アコースティック・ギターを抱え、弾き語りでライヴをしているという栞寧だが、今作ではスッとまっすぐに伸びていくヴォーカルを生かした「maru。」での、シンプルなギター・サウンドから、終わった恋愛や相手の影をクールに払うグルーヴィな「関係ない人」、春に向かう今の季節に似合うピアノやストリングスが歌を縁取る「桜風」や「魔法の言葉」など、様々なタッチでその歌を響かせる。自分が思うこと、感じることを歌にしたい、その思いはクセのない凜としたヴォーカルの背骨となって力強く伸びている。「大人になると」では、そのまっすぐだからこその不器用さや割り切れなさが曲に滲んでいるけれど、人間臭く、若い今だから見える景色を歌っているのがいい。
-
澤田空海理(Sori Sawada)
振り返って
約1年半ぶりのミニ・アルバム。ソングライターとしての自身の心情を徹底的に綴った「与太話」に始まり、"そうだ。これは、/手紙であって、私信であって、/謝辞であって、謝罪であって"と歌う「振り返って」で終わる本作では、答えのない内省が繰り返されている。作家としても活動する澤田が、本名名義でアーティスト活動をするのはなぜか。その理由に迫る赤裸々な作品だが、煙草の吸い方を言葉の受け取り方になぞらえた「曖昧に甘い」、カメラロールから読み取れる関係の変遷を歌った「カメラシャイ」など着眼の鋭利さも健在。この恋を聴き手が自分事として捉えられる余白も設けられている。リリースから約3年を経て當山みれいがカバーした「またねがあれば」の再録版も収録。
-
snooty
たゆたう
結成からの4年間で経験してきた揺れ動く感情を込めた1stフル・アルバム。初全国流通盤にして自らバンド第1章のベスト盤と位置づける本作だが、リード曲「一閃」を筆頭にここから前進していく意志が表れた新曲たちを、ピュアに、アグレッシヴに奏でる。その前のめりな想いが先行したような泥臭いサウンドにも彼女たちの意志が感じられた。地元福岡で名を広めるきっかけとなった切実なナンバー「会いたい」、ライヴでのキラーチューンでもある「哀」、深原ぽた(Gt/Vo)のライヴハウス愛を詰め込んだ「マイライフ」、温かい風景がありありと浮かぶポップな「吉祥寺とオレンジ」、snooty流シューゲイズ「青と足跡」など3人が挑戦し、葛藤し、生きてきた軌跡が等身大で凝縮された1枚はリスナーにも寄り添ってくれるはず。
-
じん
アレゴリーズ
創作家の、あるいはこの時代を生きる人間の生々しい叫び声が聞こえるような作品になった。"アレゴリーズ"=寓話集というタイトルを名付けた、マルチ・クリエイター じんによる初の全曲歌唱アルバムだ。死にたいと生きたいの狭間を行き来するような「消えろ」をはじめ、圧倒的な情報量の多さで駆け抜ける狂騒的なロック・ナンバー「ZIGI」、アレンジャーにeijun(菅波栄純/THE BACK HORN/Gt)を迎えたエキゾチックなフォークトロニカ「VANGUARD」など、1曲ごとに別世界を旅していくような本編全9曲。自身の半生を綴った「後日譚」に象徴されるように、文筆家であり、音楽家でもあるという出自ならではの研ぎ澄まされた言葉たちは、まだ誰も表現していない何かを探し求めている。
-
The Grateful a MogAAAz
BLUE WIND
地球防衛軍の6人組マスクド・アイドル"The Grateful a MogAAAz"のミニ・アルバム。表題曲は、グループのキャッチコピーにもなっている"昔見てた夢、今も忘れちゃいないぜ"という言葉を高らかに歌う、どこか懐かしいロック・ナンバーだ。哀愁が漂う、ディストピアな世界観は聴けば聴くほど癖になる。本作にはバリエーション豊かなカバー曲が収められ、SAMURAIの「インテリジェンスミキサー」カバー、BO GUMBOSの「ナイトトリッパー・イエー!!」カバー、チバユウスケ(The Birthday/ex-THEE MICHELLE GUN ELEPHANT)がPUFFYに提供した「君とオートバイ」のカバーも収録。音楽的にもテーマ的にも幅をグッと広げている。
-
太田家
四季織々
作品名にも刻まれている通り、春夏秋冬のお題を掲げた初のコンセプト作となった2ndアルバムがここに到着。前アルバム『愛読書』の完成度にも驚いたが、今作はそれ以上の出来と言えるかもしれない。GReeeeNの「キセキ」、卒業ソングの定番曲「旅立ちの日に」のカバーは太田家テイストに染めつつ、GEEKS/月蝕會議のエンドウ.が作詞作曲を手掛けた「赤赤」は、ミクスチャー・ロック調の展開で魅せ、藍坊主の藤森真一(Ba)が作詞作曲した「イデア」の歌謡メロディっぷりも絶品。オリジナル曲も充実しており特に後半に登場する「哀秋に詠う」、「スノーグローブ」、「四季とカスミソウ」は太田彩華のポップ性に長けた歌メロが素晴らしい。また太田エリカ様(Gt)作によるインスト曲「HIGHER GROUND」も熱い!
-
CYNHN
Blue Cresc.
前アルバムから約2年7ヶ月ぶりとなる、4人体制となったCYNHNの2ndアルバム。青い未完のヴォーカル・ユニットとしてデビューし、これまで様々な"青/蒼"の世界を表現し、作品を重ねながらキャラクターが織りなすハーモニーを探求、構築してきた時間の濃さが本作に詰まっている。メイン・ソングライターの渡辺 翔をはじめ草野華余子、蒼山幸子(ex-ねごと)、mol-74、Kan Sanoや高橋國光(österreich/ex-the cabs)、ケンカイヨシが書き下ろした曲はそれぞれ4人の魅力を引き立てる。デリケートな心情を表現するものから幻想的な世界をたゆたうもの、また実験的なポップスもあり、各曲と向き合い深みある表現を試行錯誤した、ヴォーカル・ユニットの可能性を切り開く姿が映る1枚。
-
小林太郎
合法
フル・アルバムとしては2015年の『URBANO』以来となり、またコロナ禍の世界で生活をしていくなかで、改めて自身の音楽、ロック・ミュージックを奏でる意味合いと向き合ったという最新アルバム。今作の方向性を意識するなかで最初に完成したのが1曲目「骨伝導」だったという。踏み出す一歩をくじく不安や怯えを断ち切るように、鋭いギターのカッティングとビート、これぞ小林太郎という熱くパワフルなヴォーカルを響かせる曲で始まり、アルバムは苛立ちをぶちまけるラウドでミクスチャーな曲や、あるいは心に深く潜って孤独を彷徨うエモーショナルな曲、再び誰かの存在と通じ合う温かな曲と、心情豊かに綴られる。自分自身の心を整えるのはもちろん、曲の向こうにいる人とより密にコミュニケーションを図る作品だ。
-
東京初期衝動
えんど・おぶ・ざ・わーるど
"アイツらを黙らせろ僕が僕である為に"と、バンドの決意表明のように高らかに打ち上げるストレートなロック・ナンバー「腐革命前夜」を皮切りに、底抜けにキュートなポップ・ソングや歪んだガレージ・パンク、淡いミディアム・ナンバーまでをも呑み込んでゆく東京初期衝動の2ndアルバム。前作『SWEET 17 MONSTERS』から約2年3ヶ月ぶりとなる今作は、銀杏BOYZに強いリスペクトを掲げて爆走する彼女たちが、決して単なる勢いや衝動だけでは語れないバンドであることを証明するような1枚になった。聖なるサウンドに乗せて、"2021年もすこし大変な時だったネ"と語り掛ける「クリスマス」など、アルバムの節々でふいに垣間見られるしーなちゃん(Vo/Gt)の優しさにぐっときてしまう。
-
This is LAST
いつか君が大人になった時に
1stシングル『ポニーテールに揺らされて』に引き続き、表題曲に珠玉のバラード・ナンバーを置いたThis is LASTの2022年の第1弾シングル。ピアノとストリングスの旋律を取り入れたドラマチックな表題曲「いつか君が大人になった時に」は、"君"との幸せな未来を想像するようなハートウォーミングなナンバーだ。カップリングには浮気する彼女のワガママな主張を綴った軽快なポップ・ソング「勘弁してくれ」と、恋愛のドス黒い一面を官能的に描いたマイナー調のロック・ナンバー「黒く踊る」を収録。それぞれ単曲でも成立するが、3曲を通して聴くことで報われない恋を歌い続けるソングライター、菊池陽報(Vo/Gt)の悲しい性(さが)がくっきりと浮かび上がる。精緻なアレンジにバンドの進化を感じさせる1枚。
-
Void_Chords
Infocus
アニメ作品のテーマ・ソングおよびサントラやJ-POPナンバーを多数手掛けるクリエイター、高橋 諒によるアーティスト・プロジェクト、Void_Chordsによる1年6ヶ月ぶりのシングルは、TVアニメ"トライブナイン"のエンディング・テーマとして書き下ろした「Infocus」と「VALIDATION」のカップリング。都会的でスタイリッシュな前者は新境地とも言えるエレクトロニックなアプローチと、そこに重ねたラテン、ジャズなど多彩なジャンルのレイヤーが聴きどころ。一方の「VALIDATION」は、高橋によるベース・プレイも含め、生々しい熱度満点のファンク・ナンバー。ともに客演ヴォーカリストにLIOを迎えながら、対極とも言えるアプローチになっているところが興味深い。
-
BRADIO
THE VOLCANOES - EP
配信リリース済みの4曲に新曲2曲を加えたEP。コード進行がおしゃれなR&Bナンバー「瞬き羽ばたき、故に繋がり」、サザンオールスターズやTUBEを彷彿とさせる「夏のエンジェル」など曲調は幅広く、ファンクにあえて照準を絞った前作とは違う方向性であることが窺える。「THE VOLCANOES」にて、従来意欲的に取り込んできた横揺れのダンス・ミュージックではなく、EDMマナーにのっとった縦ノリのアプローチをしているのも象徴的。ブラス入りファンク「Frisbee」、トロフィーを女性のシルエットに見立てた「トロフィー」といった、バンドの得意技が発揮されている曲も音像は新しい。ラストは酒井亮輔(Ba)作詞曲「Yours」で全体を軽やかにまとめる。
-
CHAI
WINK TOGETHER
CHAIは世界の自由人を引き寄せるようで、本作は3rdアルバム『WINK』を世界各国のクリエーターが料理したリワーク集だ。STUTS印なビートと洗練された上モノが気持ちいい「Nobody Knows We Are Fun」、向井秀徳のカッティング・ギターの切れ味、新たに歌詞も追加し歌も歌っている「ACTION」のハマりの良さ。韓国次世代ラッパー BEENZINOが韓国語、英語、日本語を織り交ぜて歌う「Donuts Mind If I Do」は実験的なのにほっこり。いつまでも踊っていたいフレンチ・ハウス仕様の「PING PONG! feat. YMCK」、ビッグ・ビートが痛快な「END」、最新のUSインディー味たっぷりな「Miracle」と、どれも笑顔になれる全6曲。
-
OAU
New Spring Harvest
今必要なのは生きていることを肯定してくれるこんな音楽なんじゃないだろうか。聴いていると散歩でも自転車でもいい。風に吹かれて見晴らしのいい場所に行きたくなってしまった。すでに2021年1~2月のホール・ツアーで初披露されて以来、人気の「世界は変わる」は替わりのいないあなたへ贈られる歌だ。人と出会うことで世界は変わるし、それを意識することで今の世界も変わる、そんな二重の意味を感じる。スライド・ギターとウクレレが張り詰めた心を緩め、再会を願う「Sunny Day」、MARTIN(Vo/Vn/A.Gt)の朴訥と誠実さが溢れる穏やかなカントリー調の「Life」、軽快なアコギのカッティングとヴァイオリンの誘うような旋律に思わず踊りだしたくなる「Peach Melba」など、インストも心身を解放してくれる。
FREE MAGAZINE
-
Cover Artists
ASP
Skream! 2024年09月号