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DISC REVIEW

あの頃の自分に会えるなら

小林柊矢

あの頃の自分に会えるなら

青春のドキュメントと言えそうなヴィヴィッドな表現、思わず肩入れしたくなる表現を多く持つ小林柊矢の1st EP。現代のJ-POPを代表する、プロデューサー/アレンジャーのトオミヨウを3曲で迎えているが、ストリングスを効果的に導入した「レンズ」や、THE BEATLESから綿々と続くようなエヴァーグリーンな曲調とメロディ、アレンジが一体となった「死ぬまで君を知ろう」など、長く聴かれそうな普遍性が魅力だ。また、恋愛以外の実体験として、野球少年だった小学生時代、理想に手が届かなくても諦めなかった自分を今に重ねた「プレイボール」は、大人になったリスナーにこそ沁みる内容だろう。どの曲も素直に感情を映した歌唱がスッと心に入ってくる印象で、特にエモーショナルなロング・トーンには揺さぶられる。

ユートピア

THE BACK HORN

ユートピア

13thアルバム『アントロギア』からの第2弾先行配信曲「ユートピア」は、THE BACK HORNの新たな代表曲になりそうな試行が投入された1曲。ヘヴィなベースのイントロから楽器の音が生々しく、そして輪郭が明快だ。ダンス・ミュージック的なグルーヴ感やエレクトロニックなSEが新鮮な聴感を残す。ブランニューなアレンジに乗る歌詞も突き抜けた前向きさを醸し、過去の彼らの作品名――"ヘッドフォンチルドレン"なども登場する包括的な視点が逞しい。不器用に誠実に生きてきたバンドとファンが、今こそその蓄積をこの不安な時代をサヴァイヴする糧とし、ディストピアから脱出し、自分たちなりの理想=ユートピアへ辿り着くための、嘘偽りのないユニークなアンセム誕生と言っていいだろう。

Purple

kobore

Purple

これまで全面に打ち出してきた泥臭いバンド・サウンドから一転、koboreのメジャー2ndアルバムは多彩な楽器の音色を取り入れた、キャッチーでポップな1枚に仕上がった。クラップの打ち込みに乗せて、安藤太一の奏でるギターが、水面に乱反射する光のように美しく煌めく「ジェリーフィッシュ」をはじめ、そこにあるのは勢いや衝動ではなく、一曲一曲に細やかな情景を描く緻密なサウンド・プロダクションだ。"大事なものだけ盗まれて"とコロナ禍の物憂げな心情を吐露するような「微睡」、あっと言う間に過ぎていったふたりの時間に"ありがとう"を歌う「彗星」など、ミディアム・テンポの佳曲が目立つ。アルバムを締めくくる田中そら(Ba)作曲のバラード「きらきら」は、混沌の時代に託す希望か。

Sweet Bite

葛葉

Sweet Bite

"甘噛みの狂犬"のふたつ名を持つVTuber 葛葉が名刺代わりの1枚として完成させたメジャー・デビュー作。"THE NIGHT IS LONG THAT NEVER FINDS THE DAY(意訳:明けない夜はない)"というセリフで幕を開ける今作は、0時から明け方の5時までに繰り広げられる様々な人間模様を描く全6曲+インストを収録する。シドのマオ(Vo)と明希(Ba)が手掛けたミステリアスで荘厳な「甘噛み」、元ぼくのりりっくのぼうよみのたなからが提供した先鋭的でエッジの効いた「エンドゲーム」など、多方面のクリエイターが集結した幅広い曲がヴォーカリスト 葛葉の多面的な魅力を引き出す。孤独と享楽をないまぜに進む楽曲の果てに辿り着くラスト曲「debauchery」の人間愛が狂おしい。

Get Set

Awesome City Club

Get Set

「勿忘」のロング・ヒットに始まり、"NHK紅白歌合戦"初出場や日本レコード大賞"優秀作品賞"のほか、多くの音楽賞を受賞したAwesome City Clubの2021年。3rdアルバムのリリース後も、ドラマOPとなった爽快なまでにポップな「夏の午後はコバルト」などシングルを発表、11月より「you」など7作連続で楽曲配信するというアウトプットが続いた。そのいずれもがバンドの芳醇な季節を物語っている。深みを帯びながら、常にフレッシュなオーサム像を見せるひとつのパッケージが、このニュー・アルバム。atagi、PORINの声や歌のグルーヴでオーサム印になるからこその、Track.1でのダイナミズムや和的なTrack.9など、音楽的に自由度高く、クリエイティヴに遊んでいる印象で楽しい。

kolu_kokolu

LEGO BIG MORL

kolu_kokolu

先行シングル「潔癖症」が象徴的だが、他人と会う機会が"コロナで消えた"と歌う「Hello Stray Kitty」など、コロナ禍だから生まれた作品であることをあえて厭わずに作り切ったところに覚悟を感じる1枚。異なる価値観を"愛し合う"と歌う「Gradation~多様性の海~」は、おそらく制作時期には予期していなかっただろうが、ウクライナ情勢の緊迫が深まる今、時代の必然で生まれた平和への祈りのような意味も帯びる。と書くと、社会派な重たい作風に感じるかもしれないが、打ち込みとバンドを融合させたジャンルレスな曲調はどこまでも軽やか。社会に生きる意味と誰かを愛することを、身近な生活の営みとして歌詞に落とし込む手腕はキャリア15年の人間的な深みのなせる業だろう。

トップ・オブ・ザ・ワースト

四星球

トップ・オブ・ザ・ワースト

祝、四星球結成20周年! 彼らのベスト盤が単なるベスト盤であるわけがなく、新曲4曲に、彼らの音源にはお馴染みとも言えるコント4本を収録、というのがトラックリストを見ただけでもわかるが、さらに「薬草」ではコザック前田(ガガガSP/唄い手)がゲスト参加するなど、既存曲も全曲最新バージョンに。おかげで聴き進めると、不意に詰め込まれた遊びに思わず吹き出しそうになったり、涙腺を刺激されてしまったり......。曲という単位ではなくアルバム全体を使い、CDの最大収録時間に差し迫るほどに、サービス精神旺盛な四星球の姿勢をこれでもかと詰め込んだ。1枚通して最後まで聴くと胸が温かくなる、私たちの気持ちを"心の穴の奥そこ"から掬い上げるパワーを閉じ込めた、玉手箱のような作品。(稲垣 遥)

四星球結成20周年を記念して作られた、ベスト盤ではなく"ベスト選曲アルバム"。ライヴでおなじみの楽曲たちはもちろん、4曲の新曲や曲間のコントも収録。ベスト盤として、最新オリジナル・アルバムとして、存分に楽しめるボリューム満点の1枚になっている。アルバムを象徴する曲且つ、四星球の最新型と言える1曲目「トップ・オブ・ザ・ワースト」でガッツリ心を掴まれたと思ったら、コントで四星球の不思議ワールドに誘われ、そこからは急転直下の80分。アルバム中のたくさんのネタフリが後半で回収される作品の物語性や、新曲「リンネリンネ」で終わる美しいラストはちょっと感動的ですらある。軽くネタバレしちゃったけど、あんまり情報を入れずに一気聴きするのがオススメ!

三千世界

伊東歌詞太郎

三千世界

今を生きる人たちに向けた応援歌を、時に辛辣な言葉も交えながら伸びやかな歌声で歌い続けてきたシンガー・ソングライター、伊東歌詞太郎。昨年、メジャー・レーベルと再契約した彼がリリースした自身初のベスト・アルバムは、過去に在籍したレーベルで発表してきたオリジナルに加え、動画サイトに投稿したカバー、さらには過去曲の再録、新曲も収録。CD2枚に目いっぱい収録した全31曲は、まさにオール・タイム・ベストと言えるものになっている。新曲の「絆傷(キズナキズ)」はアーバンなポップス、ジャズ・ロック、バラードも歌う彼のバックボーンがギター・オリエンテッドなロックだということを今一度、物語るロック・ナンバー。シンガロング必至のコーラスがライヴ・アンセムになることを予感させる。

The Warrior

Novelbright

The Warrior

アニメ"リーマンズクラブ"オープニング・テーマを表題に据えた本作。表題曲は疾走感と熱い歌詞で聴く人を鼓舞する、"これぞロック・アニメ・ソング"と言えるナンバーに仕上がった。2曲目は2017年リリースの『Chandelier』収録曲「Black Snow」を再録。行きすぎた愛を生々しい言葉で綴った歌詞が印象的な1曲だ。3曲目は手数の多いドラムや歌うように動くベース、速弾きで魅せるギターと、その確かな演奏力を前面に押し出したインスト曲「Phantom」。これまで竹中雄大の歌声にフォーカスされることが多かったが、その歌声を支え華やかに彩ってきた楽器陣の技術が、爆発するようなエネルギーをもって存分に発揮されている。彼らの現在、過去、未来を映す3曲。

見つけた扉は

宮下 遊

見つけた扉は

愛に飢えた妖(あやかし)、ピアノに寄生する生き物、操られるだけの屍、アンドロイドの虚無感。作品の中には、人ならざるものが人間のように、あるいは人間が人ならざるもののような比喩でこれでもかと描かれる。全10曲から浮かび上がるのは生きづらさに苦悩する悲痛な叫びだ。クリエイター陣にはTom-H@ck、SLAVE.V-V-R、瑛太五月、卯花ロク、Somari、ツミキら、インターネット・シーンで注目を集める気鋭の作家陣が名を連ねた。そういう意味で作り手はバラバラだが、徹底して退廃的な色が貫かれるのが宮下 遊らしい。唯一、本人が手掛けた「Ayka」はハイライト。透明な音像の中で"見つけた扉"の解釈を聴き手に委ねる。アルバム4枚目にして宮下 遊の世界観は混沌を極めた。

ラストストロウ

空白ごっこ

ラストストロウ

"ラストストロウ"とは最後の藁(わら)を意味する。重い荷物を運べるラクダもいつかは限界がくる。最後に乗せた1本の藁がラクダの背を折る、という英語の慣用句から着想を得た言葉だが、空白ごっこの最新シングルはそんなギリギリの緊張感で保たれる"生と死"の境界線がテーマだ。大場つぐみ×小畑 健が原作の人気アニメ"プラチナエンド"のエンディング曲に起用された今作の作曲はメンバー全員で担当。繊細なバラードに乗せて"息をするまでの全部を 抱えきれなくていいから"と歌うセツコのヴォーカルが切実だ。カップリングにはkoyoriとセツコがそれぞれ作詞作曲を手掛けた「カラス」(初回限定盤)と「ふたくち」(通常盤)を収録。人間の心の声を音に変える。今作でもそんな空白ごっこの真価は十二分に発揮されている。

極夜において月は語らず

あたらよ

極夜において月は語らず

"THE FIRST TAKE"でも披露され話題の代表曲「10月無口な君を忘れる」や「夏霞」を始め、忘れられない"君"の残像を探す「交差点」、「極夜」、"君"への思いを日記のようにストレートに綴る「悲しいラブソング」、「嘘つき」など、"悲しみをたべて育つバンド"を象徴する"別れ"を歌った楽曲が並ぶ1stアルバム。ひとみ(Vo/Gt)が紡ぐ、素直な感情を吐露した人間味溢れる"生きた言葉"たちは、儚くも体温のような温かさをもって聴く者の心に溶け込む。そんな彼女の繊細な歌声を引き立て、エモーショナルに盛り上げるバンド・サウンドもまた、多彩なアレンジにより様々な角度から悲しみや孤独を表現。そのどれもが痛いほど胸に突き刺さり、そして寄り添うように心に残っていく。

roman candles | 憧憬蝋燭

Laura day romance

roman candles | 憧憬蝋燭

2021年の「fever」、「東京の夜」、「happyend」の3ヶ月連続配信に続く2ndアルバム。フォーキーでいて都会的な街のざわめきも織り込まれたサウンドも、そこに風のように流れるメロディも、今作ではより洗練され、エヴァーグリーンに磨きがかっている。静かで透明感のあるギター・サウンドに物語を吹き込んでいくのは、井上花月のヴォーカルだ。柔らかく甘みのある声の中に数滴の憂いや毒っぽさが交じって、その歌にアンニュイな陰りを落とすヴォーカル、言葉を漂わせるような発語の心地よさが、現実と音楽との境界をぼやかしてしまう。揺らぐ蝋燭の炎を眺めていると、いつの間にかひとり物思いの時間や静かな記憶に触れるように、マジカルな時間に滑り込んでいく時が味わえる。そばに置いておきたいアルバムだ。

Freestyle

GYROAXIA

Freestyle

アニメ、ゲーム、コミック、声優によるリアル・ライヴなどメディア・ミックス展開をするボーイズ・バンド・プロジェクト"from ARGONAVIS"発の5人組バンドが、今作でメジャー・デビューした。キャラクターを担当するキャスト(小笠原 仁、橋本真一、真野拓実、秋谷啓斗、宮内告典)が実際にパフォーマンスを行っており、表題曲を手掛けた山中拓也(THE ORAL CIGARETTES)やTAKE(FLOW)、SHiNNOSUKE(ROOKiEZ is PUNK'D/S.T.U.W)らが曲提供。「Freestyle」はキャッチーなサビにライヴを意識したシンガロングがある、ノイジーでメロディックなロック・チューンとなっている。そのほかラウドロックからダンサブルな曲など幅広い内容になった。

33

HEESEY

33

イエモンのベーシスト、HEESEYによる4年ぶり3枚目のソロ・アルバム。"33"とは制作期間中にハマったという数秘術にもとづいて計算されたHEESEYの個性を表すナンバー。"変人"の自分を全力で楽しむ気分で制作したことで、ジャンルも言葉遊びもリミッターを解除するような1枚になった。闇の中で高らかなシュプレヒコールを上げる「NEW DAYS」を皮切りに、生のホーン・セクションが新しい世界の幕開けを祝福する「ROCK'N'ROLL SURVIVOR」、孤独に濡れるジャズ・ナンバー「雨音のララバイ」、雷門がテーマの「THUNDER GATE SHUFFLE」から、エヴァーグリーンな名曲「INFINITY OF MY GROOVE」まで。どこを切ってもロックンロールへの愛情が溢れている。

Wolf Complete Works Ⅶ ~Merry-Go-Round Tour 2021~

MAN WITH A MISSION

Wolf Complete Works Ⅶ ~Merry-Go-Round Tour 2021~

2021年12月に横浜、名古屋、大阪の3都市で開催された、約2年ぶりとなるアリーナ・ツアーより、横浜アリーナ公演2日間を収録した映像集がこちら。初日と2日目、それぞれ17曲が収められ、大ボリュームで、初期の楽曲が中心となった初日と2013年から最新楽曲までが披露された2日目と、マンウィズのこれまでの歴史を振り返るような内容となっている。気合の入ったパフォーマンスや迫力のある演出だけでなく、ユーモアたっぷりの面白動画もしっかり収録。メンバーそれぞれを絶妙なアングル(笑)でとらえたカメラ・ワークで、様々な視点から楽しめるのは映像作品ならではだが、メンバーの高揚感からは再び動き出す世界へのポジティヴな感情も伝わるし、フロアの熱量も臨場感満載だ。

Strike It Out

MIYAVI

Strike It Out

自らの才覚と手腕で音楽人としての成功を果たしたうえに、俳優や声優としての活動も行っているほか、最近ではモデルとしてグッチのグローバル・キャンペーンにも起用されているMIYAVI。その経歴は実に華やかである一方、彼はUNHCR親善大使として難民問題に対し献身的アプローチを続けている賢者でもある。それだけの広い視野と多くの経験を経てきているMIYAVIが作詞を手掛け、Jeff Miyaharaが作曲したこの表題曲はアニメ"トライブナイン"OPに起用されているが、すべてを凌駕していくような力強さをもって放たれるこの歌に込められたポジティヴなメッセージには、綺麗事とは違う説得力が濃厚に漂うのだ。なお、通称 サムライ・ギタリストとしての彼のプレイはカップリング曲のほうでもお楽しみあれ。

私立恵比寿中学

私立恵比寿中学

私立恵比寿中学

メジャー・デビュー10周年を迎えるエビ中の新体制初アルバム。本作には、石原慎也(Saucy Dog/Vo/Gt)、大橋ちっぽけ、キタニタツヤら旬のアーティストからの初提供曲や、田村歩美(たむらぱん)らお馴染みの作家陣が手掛けた楽曲といった、エビ中らしく多様性のある全10曲が収められた。彩り豊かな楽曲に染まり、同時にエビ中カラーに染め上げることができる彼女たちの確固たる実力とアイデンティティには舌を巻くばかり。完全生産限定盤A/Bにそれぞれ収録された「なないろ - from THE FIRST TAKE」、「ジャンプ - from THE FIRST TAKE」(私立恵比寿中学 with 石崎ひゅーい)も必聴だ。2022年のシーンを代表するであろう名盤だと太鼓判を押したい。

PARADE GOES ON

GANG PARADE

PARADE GOES ON

待ってました! 2020年3月からGO TO THE BEDSとPARADISESに分裂していたGANG PARADEが、待望――いや、切望されていた再始動を果たしてメジャー2ndシングルをリリース。表題曲「PARADE GOES ON」は、今回の再始動に込められた想いをストレートに歌うロック・ナンバーで、"ただいまだとか/おかえりだとか/ありきたりな言葉じゃ/あらわせないや"という歌い出しから、グッと来る言葉と歌唱のオンパレードだ。一方、c/wの「Period」は四つ打ちのエレクトロ・サウンドで、音楽的には表題曲とは対照的な仕上がりに。ただ、こちらも遊び人(※ファン)なら胸を締めつけられるようなフレーズばかりで涙腺崩壊は必至。パレエドよ、いつまでも続け。

浪漫事変

ぜんぶ君のせいだ。

浪漫事変

2022年は7都市12公演のツアーに始まり、4月3日にはTOKYO DOME CITY HALLでの単独ライヴが控えている"ぜん君。"。メイン・ソングライターに加えて、ぜん君。では初めて様々な作家陣が百花繚乱な曲を書き下ろしたアルバム『FlashBack NightMare』の曲がライヴに新たなエッセンスを加え、7人のぜん君。の面白さが増している今、ニュー・シングルも投下。「浪漫事変」は、"けいおん!"や多くのアーティストの曲を手掛けるTom-H@ckと、杉下トキヤ(ex-Last Note.)が作曲した。世界が色づいていく出会いの瞬間から、猛ダッシュで気持ちが駆け上がっていく顛末がポップに表現された。ぜん君。らしい暴走、妄想にもかわいらしさがあって、よりキャッチーな1曲だ。