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DISC REVIEW

ブルーピリオド

Saucy Dog

ブルーピリオド

2019年4月に行われた大阪城音楽堂、日比谷野外音楽堂でのワンマンは両日ソールドし、来春には初の単独ホール・ツアーの開催も決定するなど、ライヴ動員を着実に増やし続けているSaucy Dog。彼らの約1年半ぶりのミニ・アルバムは、そんなバンドの"成長"と"今"を描いた作品となった。楽曲に纏う切なくも優しい空気や、迷いを払拭しようともがく姿、その芯の強さを見せる言葉と声、3人それぞれの感情が乗ったサウンドなど、彼ららしさはそのままに、一曲一曲のクオリティがより高くなったと感じられる。大人になることへの葛藤を綴った「スタンド・バイ・ミー」をはじめ、自身の"青さ"にピリオドを打ち、バンドとしても人間としてもさらに大きくなりたいという意志が窺える1枚。

October.

osage

October.

2017年に精力的に活動を始めてから、"murffin Audition 2018"のグランプリを獲得し、今年4月に『ニュートラルe.p』をリリース、そのツアーも大盛況......と順調に階段を上っている4人組、osage。しかし、今作を聴くと、嗅覚や味覚をも刺激する歌詞も、どんなジャンルにも通底するようなポップ・センスも、器用に見えて"もどかしさ"がガソリンとなっている印象を受ける。その人間臭さに惹かれた。1曲目「アナログ」の歌い出しから炸裂する、儚いほどに美しい山口ケンタのハイトーン・ヴォイスにも、バンドの精神性が表れている気がした。言葉と音の豊かな表現が絡み合う「ginger air」などから、ありきたりとは一線を画す未来も見えてくる1枚。

人の為の愛、人の憂いに謳う

フラスコテーション

人の為の愛、人の憂いに謳う

2017年に神戸で結成されてから、ぐんぐんと頭角を現している男女混成4ピース。このたびリリースされた3rd EPには、ソングライティングも手掛ける佐藤摩実(Vo/Gt)のポエティックな世界観と、それをポップに昇華するメンバーの技量を知らしめる3曲を収録している。特に「泣いてしまえば」は、"月"と"太陽"、"夜"と"朝"という対照的な言葉を配置し、さらに"光"という言葉を散りばめることによって1曲に芯を通し、誰もが感じられるような歌詞に仕上げている。かと思えば、"ゴミ捨て場"、"グチャグチャ"、"うるさいな"などの激しい言葉が並ぶ(でも聴き心地は爽やかな)「spark」もあり。これから、どんなバンドになっていくのか? 楽しみになる。(高橋 美穂)

前作から約1年ぶりのリリースとなる、神戸の4人組 フラスコテーションの3rd EP。タイトルの"人の為の愛、人の憂いに謳う"は、人の為と書いて"偽"と読み、人の憂いと書いて"優"と読む、という組み合わせで意味が様変わりする漢字に、人の心情の複雑さを重ねているようなところが面白い。それぞれ色の違うエモーショナルなギター・ロック・ナンバーを3曲収録した今作には、爽やかさの中にどこか憂いや寂しさのようなものが漂っているように思えるが、そこには強く生きようという確かな意志や、闇を照らすような光を感じることができる。突き抜けるようなギターの音、佐藤摩実(Vo/Gt)の澄んだ歌声はもちろん、輪郭のはっきりとした存在感のあるベースと、タイトなリズムがエモいドラムのサウンドも聴きどころだ。

RUNWAYS

PICKLES

RUNWAYS

"100本ツアー"を"楽しかった!"と終えたパワフル系切な胸キュン・ロック・ガールズ・バンド、PICKLESが放つ初EP。今作は、そんな経験もあってか、前作以上にリスナー="君"にメッセージを届けたい気持ちが前面に出て、よりエネルギッシュに。作品の幕を開ける「stay young」では、"君が段差に つまづいた時に/その手を 掴めるように"とバンドマンとしての姿勢とも取れる歌を聴かせ、終盤の"おおお"というコーラスもスケール感があり、頼もしい。続く「ALIVE」は、3拍目から歌い出すアウフタクトのヴォーカル・メロディが耳に残る技アリな1曲。そしてラストはショート・チューン「フラッグシップ」で、あっという間に駆け抜けていく彼女たちのランウェイは、見通しが良さそうだ。

No Man's Empire

Newspeak

No Man's Empire

出音一発、ビッグなスタジアムでのライヴを想起させる1曲目「Feel Alive」、Tony Hofferがミックスを手掛け、強靭でダンサブルなグルーヴの魅力がさらに膨れ上がった「Wide Bright Eyes」。生ベースをあえて降ろし、Daniel J Schlettがミックスを担当、そのエレクトロニックな側面をさらにブラッシュアップした「Stay Young」。チルアウトな「What's Left In Your Mind」、ユーモアたっぷりのディスコ「Shanghai Disco」、ラストを締める壮大な「See You Again」など、バラエティ豊富な曲群に溢れた1枚。まさにタイトル通り、聴く者の感性の扉を開き、何者にも縛られない帝国へと導いてくれることだろう。

DADABABY

DADARAY

DADABABY

早くも4枚目のミニ・アルバム。川谷絵音のソングライターとしてのひとつのアウトプットでもあるDADARAY、今回は諦観、中毒性など恋愛における少し気怠げな異なるベクトルの曲を収録した印象だ。「刹那誰か」は比較的アップなジャズ・ファンク/レア・グルーヴで、生楽器で実験的なリフやフレーズを忍び込ませることで、ユニットの個性が光る。インディーR&B的な歌の符割りとビートを極力抑えた「singing i love you baby」、流れるようなピアノがまさに雨を想起させる「どうせなら雨が良かった」など、どの曲もアーバン・メロウなトレンドに限りなく近いようで、歌詞の切実さで刺してくる。1曲内容の毛色が違う「mother's piano」も含め、"本当は愛したい"という心情が核にある作品。

ハナヒカリ

リーガルリリー

ハナヒカリ

"きみはおんがくを中途半端にやめた。"と歌う「リッケンバッカー」の刃の純度にやられて、聴き続けているリスナーも多いであろうリーガルリリーは、3作のミニ・アルバムを経て、昨年、ベースの海が加入。今、バンドとして最強の状態にあると言えるだろう。初のシングルは、Vo&Gtのたかはしほのかが高校生の頃熟読した"惡の華"の映画版主題歌と挿入歌。今回挿入歌に起用された「魔女」は、高校時代に書いた、悪意の対象に対する憎悪とそれに苦しめられる"君"も自分も何もできない無力さ、独善的であることが清々しいほどだが、時を経て今書いた「ハナヒカリ」では、美しい"君"には人を殺めてほしくないし、殺されないでほしいという比喩が登場する。大きなグルーヴと徹底した透明感にいつまでも感覚が支配されるようだ。

RUST / 雲雀 / 光芒

ASCA

RUST / 雲雀 / 光芒

あたかも三種の神器のごとく、3曲の珠玉曲が揃った今回のシングルはASCAにとって今の充実した活躍ぶりをそのまま体現したものとなっているのではなかろうか。力強さとしなやかさをともに感じさせる「RUST」でのヴォーカリゼーションは彼女の持ち味を存分に映えさせる曲であるし、「雲雀」はかの梶浦由記氏が作詞作曲アレンジを手掛けたリリカル且つどこかオリエンタルな風情を漂わせた響きの中で、ASCAが繊細で温かな歌を聴かせるあたりが実に乙。なお、この楽曲は現在TVアニメ"ロード・エルメロイII世の事件簿 -魔眼蒐集列車 Grace note-"EDとしてオンエア中とのこと。「光芒」は最もニュートラルなトーンでASCAが持つヴォーカリストとしてのポテンシャルを感じられる仕上がりだ。

断捨離彼氏

ZOC

断捨離彼氏

センセーショナルなタイトルを冠した新作を投下したのは、活動1周年にしてZepp Tokyoで初ワンマンを成功させた、大森靖子率いるアイドル・ユニット ZOCだ。表題曲は、ひどいとわかっていても恋人と縁を切れない女性に釘を刺しつつ、男性にも苦言を呈する、ZOCという誇り高き女性像が投影された曲。大森靖子作品のレコーディング・メンバーでもある鈴木大記が、前作に引き続き編曲を担当している。とりわけ今作では、気鋭のEDMも相まって彼女のソロやこれまでとはひと味違う、ZOCらしさと言えそうな強さを手に入れたよう。一方c/wは"誰にも言えない人生を 抱きしめさせてよ"など、キラーワード連発の優しいナンバーでリスナーを包み込む。新たな"共犯者"を掴む、期待高まる1枚。

Wanderer

MAGIC OF LiFE

Wanderer

約11ヶ月ぶりのリリースは、2019とちぎテレビ高校野球応援ソング「応援歌」、栃木市マスコット・キャラクター"とち介"イメージ・ソング「大福」を含む、8曲入りミニ・アルバム。前々より取り入れていたストリングスやエレクトロ、EDM要素といったバンド外の音との親和性を高め、より包容力のあるサウンドスケープが実現している。人を愛する意味の大きさをまっすぐと歌うバラード「素晴らしくて」、繊細な音使いで爽やかに駆け抜ける「Four Seasons」、バンド・サウンドが前面に表れたエモーショナルな「Anniversary Ring」など、それぞれ趣向の違う楽曲でありながらも、ひたむきに前を見ている姿勢は一貫。美学に向かって邁進していく生き様が、混じり気なく昇華された楽曲が揃った。

In The Sync

POLYSICS

In The Sync

前作から約2年ぶりとなるアルバムは、ガレージ感のあるギター・リフとアグレッシヴなビートに乗せ"Broken Mac!!!"と叫ぶ「Broken Mac」でスタート。毎度アルバムのムードを伝える1曲目に、一発で録りあげたような生々しいアンサンブルを聴かせてくれるのが爽快だ。20年を経てエクストリームに加速するサウンドを聴かせ、また「Belong」ではファンク的なアプローチも健在。「Surprise me」や「Abrinbou」の言葉や語感で遊ぶリズミカルな歌詞とギターとの絡み、というか緩急のある掛け合い漫才のような心地で聴かせるニューウェーヴ感は、彼ららしくもあり、さらに進化している面白さがある。4人のバンドとしての呼吸が冴えている、生身のせめぎ合いが詰まった作品だ。

Scene

飯田カヅキ×判治宏隆

Scene

共にソリッドさと少々のダウナー感を携えた3ピース・バンドのGt/Voである飯田カヅキ(strange world's end)と判治宏隆(SILVER HALATION)が組んだ2ピース・バンドの初フィジカル作。飯田がアコギでリズムやパーカッシヴな側面も打ち出し、判治がリバーブやエレキ・ギターの概念にとらわれないエフェクトを用い、感情や曲の背景、効果音的な音色をクールに鳴らしていくというバランスは、リズム楽器の不在をあまり意識させない。歌メロの強度を保ちながらアンビエントの要素もある聴き疲れしない音像が特徴だ。シーン=情景をイメージさせるサウンドスケープ。雨や水を疑似体験するような「深海の雨」、ループするコードワークが徐々に気持ちを動かす「歩けるか」など、深く感覚にコミットする。

1st V

The Vocoders

1st V

昨年POLYSICSが開催した単独サーキット・イベントから生まれた、全員がヴォコーダーで歌うバンド The Vocodersが、ポリのアルバムと同日に1stアルバムをリリース。"世界唯一のカフェテクノグループ"と称し、会場もカフェを中心にした4人横並びの着席スタイル(とKRAFTWERK的な衣装)でのステージで、よりテクノ色が強いサウンドだ。「Part of me」で幕を開け、新曲、ポリの曲のThe Vocodersバージョン等で構成されるが、特にポリの楽曲の変化が面白い。単に電子音に置き換えたものでなく、新たな解釈と編曲を施していて、ヴォーカルがフラットな印象になるぶん、そのアレンジの幅で各曲を開拓している。振り切った志向で音の追求ができる楽しみに満ちた始まりだ。

POOL e.p.

the band apart

POOL e.p.

□□□ feat. the band apartでの『前へ』では4人各々ヴォーカルをとるという荒技に出たが、今回は4人の個性が窺える4曲入り。川崎亘一(Gt)のテクニカルなリフが新鮮だが、歌メロはポップですらある「ディア・ワンダラー」、夏の終わりのチルなAORをぐっと生なグルーヴで聴かせ、ゲリラ豪雨のごとき展開を一瞬見せ、どちらのタームが現なのか? とギョッとする「夢の中だけで」、わざと緩いチューニングにしてあるようなエフェクティヴなリフがユニークで、社会に出る前の少年の一人称を使っていることも聴きどころの「DEKU NO BOY」、オルタナティヴR&B的な浮遊する音像の平歌部分に驚く「SCHOOL」。各楽器とアンサンブルの可能性をどこまで発見し続けるんだ? とニヤつくこと必至。

PAST MASTERS

THEラブ人間

PAST MASTERS

現メンバーと元メンバーが勢揃いしたジャケット写真から、この11人で作ったバンドだという揺るぎない想いがひしと伝わってくる。今年1月に結成10周年という節目を迎えリリースされるキャリア初のベスト・アルバム。シングル曲や表題曲を時系列に並べるという制約の曲順でありながら、なめらかにドラマが展開していくのは、バンドのぶれない芯があってこそ。ひとりの人間の成長を克明に記している。締めくくりはライヴでも長く演奏されてきた新曲。優雅なヴァイオリンがシンボリックな風通しのいいサウンド、伸びやかなメロディも相まって、苦悩と野望を描いた歌詞の一語一句が艶やかに息づいている。10年という月日が導いた"きっとでっかい花が咲く"という言葉は、バンドの未来を切り拓くであろう。

COMINATCHA!!

WANIMA

COMINATCHA!!

"三ツ矢サイダー2019"のCMソング「夏のどこかへ」、劇場版"ONE PIECE STAMPEDE"主題歌「GONG」など、お馴染みの強力キラーチューンを多数収録した1年9ヶ月ぶりの待望の2ndアルバム。勢い良く"開会"を告げる高速2ビート「JOY」に始まり、「宝物」や「シャララ」といった新たなサウンド・アプローチを取り入れた楽曲を経て、笑顔の再会を約束する「GET DOWN」まで、彼らのライヴを体感するような全15曲は、ライヴという空間を何よりも大切にするWANIMAらしい構成だ。珠玉は、"生きて 生きて 生き抜いてやれ"と力強く歌い上げるバラード「りんどう」。これまでバンドが歌い続けてきた揺るぎないメッセージは、今作でより鋭く、強く浮き彫りになっている。

カルペ・ディエム

THE BACK HORN

カルペ・ディエム

フル・アルバムとしては『運命開花』以来、約4年ぶりとなる本作。結成20周年の期間にインディーズ作品の再録や、ミニ・アルバム『情景泥棒』の制作、ツアーをハードに巡ってきた経験が昇華された、完成度と濃さを持つ作品だ。「心臓が止まるまでは」のSF的なサウンドトラック感やEDMの消化、和のメロディと壮大さが彼ららしいリード曲「太陽の花」、20年経過したうえでのミクスチャー感が冴える「フューチャー・ワールド」、青春の瑞々しさと切なさが溢れる「ソーダ水の泡沫」、物語性と空気感においてTHE BACK HORNの唯一無二の側面を際立たせる「ペトリコール」、一歩踏み出す穏やかな勇気をくれる終盤の「果てなき冒険者」など、メンバー個別のデモから発展させただけあっていずれも純度の高い全11曲。

CARRY LOOSE

CARRY LOOSE

CARRY LOOSE

BiSH、GANG PARADEらが所属する"WACK"の新ユニット CARRY LOOSEが、デビュー作にしていきなりの名盤を完成させた。Track.1「やさしい世界」は、ギター、ベース、ドラムのシンプルなバンド構成で優しく柔らかなサウンドスケープを実現した、チルでロックな珠玉の1曲。作詞の才能が開花したウルウ・ルの美しく叙情的な歌詞も堪能してほしい。続く「CARRY LOOSE」での感情が迸るヴォーカルと、心を揺さぶるようなエモーショナルなサウンドは、YUiNA EMPiREいわく"エモくてカッコいい"を目指しているグループを象徴するナンバーに。そんな軸があるからこそ、エレクトロあり、ロック・ナンバーありと、バラエティ豊かながらもまとまりのある1枚に。

ツバサ

saji(ex-phatmans after school)

ツバサ

phatmans after schoolというバンド名をsajiに改めて、再び歩き始めた彼らの改名後、初の音源。表題曲の「ツバサ」は、TVアニメ"あひるの空"のエンディング・テーマに起用されているが、ヴォーカルでありメイン・コンポーザーのヨシダがかねてより愛読していた作品なこともあり、原作の世界観をしっかりと楽曲に落とし込んでいる。それだけでなく、澄み切った青空が目に浮かぶ爽快感溢れるバンド・サウンドであり、そこに綴られている言葉は、新たな名前で走り出した今の彼らの姿を彷彿とさせるものに。また、甘酸っぱさのある「猫と花火」も、ビッグ・バンドな「まだ何者でもない君へ」も"夢"をテーマに掲げていて、心機一転の第一声に相応しい内容に仕上がっている。

I Love You -EP-

Pororoca

I Love You -EP-

今年7月にベーシストが脱退&加入したPororocaが、現体制初音源をリリース。新しく入った小熊雄大(Ba)がもともと親交のある人物だったこともあってか、本作ではロック・バンドとしての塊感、初期衝動を剥き出しにしたサウンドが鳴っている。歌詞もかなり赤裸々だ。そんななか、食ったリズムとアクセントで勢いをつける「S.B.C」、浮遊感のあるサウンドが新鮮な「彼女は言った」、明るくもどこか哀愁漂う「そのレコードは止まらずに」と1曲たりとも似た曲調のものが存在していないこと――言い換えると、これまでの5年間を背負ったうえでの原点回帰がなされていることも特筆しておきたい。全5曲は彼らがバンドに、そして音楽に向かい続ける理由を何よりも明確に語っている。


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