DISC REVIEW
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アメノイロ。
薄れる藍の渚にて
ライヴ会場やTOWER RECORDS数店舗、オンラインなどで販売した3作を経て、約4年ぶりの全国流通盤をリリース。広島県出身の3ピース・バンドだが4年の間にメンバーは上京、サーキット出演やEggsなどを通してバンドの知名度は上がり、取り巻く環境は大きく変わった。全体的に生活に寄った歌詞が増えたのは、自分たちの音楽を届けたい相手を明確に想像できるようになったからか。温かさと切なさが滲むギター・ロックが鳴らすのは高純度の恋愛ソングで、インスト含む7曲が描くのはつい思い出すかつての日常。冒頭の「海岸通り」があの恋を忘れられない"僕"を見つめている人目線の歌だとしたら痛ましいものがあるが、疾走するラスト2曲から変化の兆しが。苦く柔らかい春の始まりがここに。
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ハシリコミーズ
チェ
3人編成のバンド、ハシリコミーズの2ndアルバムが到着した。トップバッターを担う「限度がわからない」ではわずか30文字の歌詞とアグレッシヴな8ビート・サウンドが耳になだれ込んできて、オープニングからインパクト大。さらに甘酸っぱくもシニカルな表題曲「チェ」、男女ツイン・ヴォーカルで歌い上げる「恥をかくより汗をかこう」、ラップっぽい歌い方がクセになる「友達のラップバトルに付き合わされたのさ」など、ニヒリズムを含んだ素直な感情を散りばめた全15曲を収録。盛りだくさんながらもトータル30分以下の疾走感溢れる1枚に仕上げられているのは、若さゆえの勢いがあってこそか。彼らが今後バンド・シーンにどのような旋風を巻き起こすのか、しっかりと目に焼きつけておきたい。
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Yellow Studs
DRAFT
逆境を、ある意味自分たちの売りにしながら、生きる証として音を鳴らしてきたバンドである。そんな5人組による10thアルバムは、いつも以上に気迫に満ちたものになっている。それは18年に迎えた結成15周年を機に、多くの人から好かれたいというスケベ心を捨て、衝動の赴くままやりたい放題やろうと初心に返ったことに加え、ライヴができないフラストレーションを演奏にぶつけたからだ。ブルースとジャズとロカビリーとパンクがごた混ぜになった全9曲。ラテン、ワルツ、ポルカ、パリ・ミュゼットのテイストが感じられる曲もある。聴く者の胸を抉る言葉を突きつける野村太一の嗄れ声の歌はまさに絶唱。流行とは無縁のロックンロールを背負っていこうという意地とプライドが感じられる。
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H△G
瞬きもせずに+
昨年3月にアルバム音源、ライヴ映像、ミュージック・ビデオを収録し、H△Gのクリエイティヴィティをトータルで表現した、新世代パッケージBlu-rayディスク・アルバムとしてリリースされた『瞬きもせずに』のCD化作品。アルバムに収録されていた12曲に加えて、ドラマ"ハルとアオのお弁当箱"主題歌「5センチ先の夢」など、3曲が追加収録される。移りゆく春夏秋冬の中で経験する別れや悲しみを受け入れ、夢に向かって突き進むという『瞬きもせずに』のストーリーに新たな要素が加わったことで、H△Gが放つポジティヴなパワーがより強く浮き彫りになった。中でも言葉遊びのサビが軽やかに踊る「卒業の唄」は、人生は卒業の連続であるというH△Gの永遠のテーマに触れる珠玉のポップ・ソング。
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ぜんぶ君のせいだ。
堕堕
解散したレーベル・メイト、ゆくえしれずつれづれからメイユイメイ、个喆のふたりが新メンバーに加わって、新たな5人体制でリリースした前作『インソムニア』から、さらに7人体制になりパワーアップしたぜん君。のニュー・シングル。「インソムニア」が脱退したメンバーの想いも汲み、それをまた背負っていく曲なら、今回はc/wの「never ending xxx」と「堕堕」で、新たなぜん君。で思い切りアクセルを踏み込んで暴れまわっている。ゆくえしれずつれづれの武器であったシャウトもたっぷりと盛り込み、勢い余ってスピンするようなハイパーなミクスチャー・サウンドにのせ、カラフルな7人のヴォーカルが四方八方から飛び出してくる。遊び心を全面に、フルスロットルで恋に、君に堕ちていくライヴ・チューンだ。
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SHE'S
追い風
"生きていく者だけに吹く 追い風"。そんな力強いフレーズが、痛みを背負いながらも懸命に生きる私たちの背中を押すSHE'Sのニュー・シングル。寂寥感を孕んだエレクトロな音の粒が、やがて華やかに開放されていく美しいサウンド・アプローチは、今年結成10周年を迎えるバンドがこれまで積み重ねてきたものが凝縮された1曲になった。ドラマ"青のSP(スクールポリス)-学校内警察・嶋田隆平-"の主題歌の書き下ろしだが、"いかに生きるか"を主軸にしたテーマはバンドとの親和性も高い。カップリングの新機軸となった味わい深いバラード「Mirai」、ステイホーム期間にファンと共に完成させたカントリー・ソング「In Your Room」も含めて、先の見えない未来に優しく光を照らすような3曲。
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INORAN
Between The World And Me
それでも日々は続いてゆく。パンデミックが勃発しようとも、意外と世界というものは終わらないものらしい。深刻なニュースが氾濫したとて、また朝がくればそれなりに凡庸とした日常が無慈悲に始まっていくことを、この1年ほどで我々は思い知るハメとなってしまったではないか。昨年9月に発表された前作『Libertine Dreams』と今作は、この容赦なき不穏な時代をINORANというアーティストが彼ならではのフィルターを通して克明に描きだしたドキュメンタリー的音楽作品となる。シニカルで閉鎖的な色合いも漂っていた前作と、どこか平穏を取り戻し空気が動き出したことを感じさせる今作。根底では繋がっていながら、確実な変化を見せているこの2枚を改めて対のものとして味わうことをぜひお勧めしたい。
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THEティバ
THE PLANET TIVA part.2
18年結成の2ピース・ガールズ・ロック・バンドが2nd EPと2.5th EPを連続リリース。岩本岳士(QUATTRO/Vo/Gt/Key)をプロデューサーに迎えたレコーディング・セッションからの選曲ということで、ともにローファイ感覚のインディー・ロックという共通点があるなか、彼女たちいわくポップ・パンク寄りというこちらは「I want nothing to do any more」をはじめ、アップテンポの曲を中心に外に開けた印象がある。疾走感あふれる前半から、ぐっとテンポを落とした「Monday」ではキャッチーなリフを閃かせ、94年にデビューしたあのバンドも彷彿とさせる。最後を締めくくる「Sunny Side」はサイケなスロー・ナンバー。息の合ったダイナミックな演奏は、THEティバの真骨頂だ。
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THEティバ
THE PLANET TIVA part.1
18年結成の2ピース・ガールズ・ロック・バンドが2nd EPと2.5th EPを連続リリース。岩本岳士(QUATTRO/Vo/Gt/Key)をプロデューサーに迎えたレコーディング・セッションからの選曲ということで、ともにローファイ感覚のインディー・ロックという共通点があるなか、こちらはミッド~スロー・テンポの5曲を収録。外に開かれたpart.2とは逆に内向きという印象もありつつ、ギターの轟音が鳴る演奏はダイナミックで、サイケデリックな音像とともに聴き手の気持ちをじわじわと絡めとるような魅力がある。「Cloud nine」や「If I find my shoe」からはフォークの影響も窺える。圧巻はラストの「Sweet liar」。ゆったりとしたテンポの演奏の中にTHEティバのすべてが詰まっている。
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緑黄色社会
結証
2021年、第1弾シングル。表題曲「結証」はアニメ"半妖の夜叉姫"のエンディング・テーマであり、強さの中に憂いや感情の機微を湛えている長屋晴子の歌と、ドラマチックに高揚していくサウンドに心掴まれる曲だ。全体に瀟洒なストリングス・アレンジが施されているが、ピアノ、ギター、ベースは、アクセントのあるフレーズや音作りを生かした構築的なバンド・サウンドとなっていて、曲をタフにしている。重厚なだけでなく、洗練されたアンサンブル感が気持ちいい。カップリング「LADYBUG」はエキゾチックな異国感のあるアレンジで、また「Copy」はメロディやサウンドは共に美しくクラシカルだが、そこに心を引く音色や音響が散りばめられ胸をざわつかせる。リョクシャカのさりげない音のマジックが効いている。
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須田景凪
Billow
2019年のメジャー・デビュー以降初のフル・アルバム。収録曲数15曲というボリュームに活動の充実ぶりが表れているほか、サビとそれ以外で音像を大胆に変える「Vanilla」、ジャズ由来のアプローチがアクセントとなる「刹那の渦」、ドープな「メメント」や「風の姿」......と、クリエイティヴィティの光る曲が揃っている。メジャー・デビュー以降の須田は、タイアップ曲も多数手掛け、他者と交わることでどんどん開けていった。その一方で深く潜る=振り切ったサウンドを鳴らすことにも、思い切り挑戦できるようになったのだろう。平衡感覚を失った心地にさせられる不思議で仄暗いサウンドは、正しくいられずとも懸命に生きる者を肯定するかのよう。ヴォーカルの独特な膨らみも際立たせる。
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アイナ・ジ・エンド
THE END
天性のハスキーな声質、感情の表現力、歌唱技術の高さ。その唯一無二の歌声で、ここ最近はフィーチャリングやトリビュート作品に引っ張りだこのアイナ・ジ・エンド(BiSH)が、全曲本人による作詞作曲、サウンド・プロデュースを亀田誠治が手掛けた(「死にたい夜にかぎって」は除く)ソロ1stアルバムを完成させた。このアーティストが只者ではないことはBiSHの活動でもわかっていたことだが、この作品で感じさせた詩世界の奥行きと深み、メロディ・センスの高さは、本作を機に彼女が遥かな高みへと羽ばたいていく予感を抱くには十分すぎる。Disc2は、これまでに外仕事として参加してきた曲を1枚にまとめた"AiNA WORKS"。多様なジャンルや曲調に乗せた名楽器"アイナ・ジ・エンド"の響きを堪能すべし。
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阿部真央
MY INNER CHILD MUSEUM
歌手になりたかった彼女が、期せずしてシンガー・ソングライターとして自分の言葉と曲を掘り下げた11年間が、逆照射されるような初のカバー・アルバム。上手さのはるか上をいく選んだ曲たちへの愛情やアーティストへのリスペクト、メロディの咀嚼力で一気に聴ける。ピアノ1本のSIA「Alive」での胸を引き裂かれる冷静さと爆発、ボカロ名曲「千本桜」の正確さ、「もののけ姫」やCELTIC WOMAN曲での徹底した透明感や柔らかさなど、声の魅力ももちろんだが、エレクトロニックなラガ・アレンジの宇多田ヒカル「SAKURAドロップス」や、カントリー・テイストの広瀬香美「ロマンスの神様」など音像も楽しい。自身で弾いたピアノ・バージョンの「いつの日も」セルフ・カバーで、"今の素顔"に辿り着く構成もいい。
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凛として時雨
Perfake Perfect
熱狂的なファンも多いSF作品"PSYCHO-PASS"シリーズのオリジナル舞台作"Virtue and Vice 2"の主題歌として、凛として時雨が書き下ろした新曲がこちら。2019年公演の前作に続いての楽曲提供となるが、テレビ・シリーズや劇場版の主題歌も担当してきたことから、"PSYCHO-PASSと言えば時雨"と思っているファンは多いはず。それだけPPの世界観と彼らの楽曲の親和性は高い。スリリングで知的で、残酷で美しい、そんなPP×時雨の魅力をこの新曲「Perfake Perfect」でも存分に味わうことができる。もちろん舞台関係なしに楽曲を聴いても、その濃密で中毒性のあるサウンドは素晴らしいが、音圧に押しつぶされそうな轟音を劇場で体感できた人はラッキーだ。
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ヤバイTシャツ屋さん
こうえんデビュー
新曲を耳にすると、"こんな曲名を付けるのはあとにも先にもヤバTしかいない"と思うのはもはや毎度のことだが、"くそ現代っ子ごみかす20代"はさすがに衝撃を受けた。自身だけでなくファンのメイン層も含む20代というあまりにも大きな対象を、"ごみかす"と称するのはいかがなものかとも思うが、いざ聴いてみるとそんな自虐も一転、今の時代にマッチした自己肯定ソングとなっているんだから、本当に彼らには何度も驚かされる。また、初のドラマ主題歌でもある「Bluetooth Love」は得意のメロコア・サウンドで魅せつつも、主人公の名前をちゃっかり歌詞に交える遊び心も忘れていない。加えて2021年はうるう年ではないのに、いや、だからこそ「2月29日」を歌うのもヤバTらしい。
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四星球
ガッツ・エンターテイメント
スマートとは言えない、けど思いやりと信念が表れた作品名。四星球にしかできない術で、疲弊しかけた私たちを笑顔にする1枚が届いた。リード曲「ライブハウス音頭」は彼らの戦友である関係者、アーティスト100名以上がコーラス参加。ライヴハウスあるあるに頷き頬がほころぶと同時に、"ガラガラのライブハウスは いつだって最先端"などグッとくる一節も。また2度目のアルバム収録となった「運動会やりたい」も笑ったし、"段ボーラー"に続き、あるドラマーを描いたナンバーも意外と(?)名曲! シンガー、北島康雄節満載の愛の歌「シンガーソングライダー」はテッパンの温かな仕上がりで、あの曲のアンサー・ソング「早朝高速」にはリアルなバンドの生きる姿が刻まれていていい。やっぱりエンタメって絶対、何にも代えられない。
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ハンブレッダーズ
COLORS
昨年メジャー・デビューを果たしたハンブレッダーズが、満を持して1stシングルをリリース。TVアニメ主題歌として書き下ろした表題曲「COLORS」は、彼らのことを知らなかったアニメ視聴者の耳にも引っ掛かるであろう、疾走感溢れるエネルギッシュな1曲となっている。カップリングには、"好きな曲を誰にも知られたくないのに誰かにわかってほしい"と矛盾しつつも音楽好きならきっと共感する気持ちをリズミカルなメロディに乗せた「フェイバリットソング」と、恋人がいなくなった部屋で寂寥感に浸るバラード・ナンバー「パーカー」の2曲を収録し、聴きごたえのある色とりどりな1枚に。"ネバーエンディング思春期"を掲げ、甘酸っぱい曲を届けてきた彼らが少し大人びて見えるようになったのは私だけだろうか。
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Uru
ファーストラヴ
昨年、LiSAとのコラボや数多くのタイアップ曲でその名をさらに広めたUruの2021年第1弾シングル。北川景子主演の映画"ファーストラヴ"主題歌として書き下ろされた映画と同名の表題曲は、暗闇をそっと照らす柔らかい光のような、心の澱を優しく流すような、透き通った彼女の歌声がじんわりと胸に沁みるバラードだ。彼女が"この映画に心を重ねました"と語るとおり、映画のストーリーや登場人物たちにもリンクする部分があり、同楽曲が使用された映画の予告編を観ただけでも込み上げてくるものがある。また同映画の挿入歌「無機質」も収録される。c/wには今話題の優里「ドライフラワー」のカバーと、昨年リリースのシングル「Break」のセルフ・カバーが収められ、こちらも聴き逃せない。
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秋山黄色
アイデンティティ
"生命"を肯定する音楽はいくらでも見つけられるが、秋山黄色のそれは傷だらけの必死な"生命"を誇る歌だ。TVアニメ"約束のネバーランド"第2期のOPを飾る表題曲は、物語の幕開けを感じさせる爽快感あるサビや歌メロはもちろんだが、イントロの硬質で刺すようなギター・サウンドと、感情を噛み締めるように続く歌がとにかく胸に迫る。見えない檻に囲まれているかのような閉塞感の中で過ごす日常では、心を殺し痛みから目を逸らしていたほうが楽に生きられるだろう。しかし、そんな生き方をしている自分は"歩く死人"に過ぎないのかもしれない。地べたを這うような惨めさも、どうにも消えない息苦しさも、どんな痛みや癒えない傷跡でさえも自分自身のアイデンティティであると、彼の歌は思い出させてくれる。
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小林私
健康を患う
新鋭シンガー・ソングライター、小林私の1stオリジナル・アルバム。SNSに投稿している動画や昨年秋の初ワンマンが弾き語り中心だったように、芯にあるのは、自身のヴォーカルとギター――特に"この声で歌えば小林私になる"レベルでインパクトの強いしゃがれ声だ。一方メロディは、フォーク歌謡からVOCALOIDまで吸収したもの。且つ3名のアレンジャーの手により各曲が異なる色に染められているため、グランジありネオ・ソウルあり、鳴っている音は多様だ。1stアルバムだからこそ制限を設けず、どんなものができるのか試してみたのかもしれないが、この人の場合、照準を絞らないままのほうが面白くなりそうな予感。歌詞のレトリック含め、自由に音楽を楽しんでいることが伝わってくる。
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