DISC REVIEW
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ヤバイTシャツ屋さん
Tank-top Flower for Friends
その類まれなセンスに磨きがかかったヤバT渾身の1枚が到着。モチーフにしたであろうバンドが浮かぶ"バンドあるある"的なコード、曲構成、展開が散りばめられ、思わずクスっと笑ってしまうが、クオリティの高さやメロディの良さ、そして時代を反映した深い歌詞に、ただのおふざけで終わらない絶妙なバランス感覚が光る。中でも特筆したいのは、正体を隠し別名義で配信していた「dabscription」。流行りのメロウ・チューンに乗せてこっそり毒を吐きながらも、後半にはロック・バンドの悲痛な叫びと覚悟が。BGMとして消費されがちなチル系プレイリストに紛れ込みリスナーの度肝を抜いてほしい名曲だ。パンクからシティ・ポップ、教育番組風のピアノ曲、初挑戦の合唱曲、さらには岡崎体育とのコラボ曲まで、とにかくバラエティ豊かな力作揃い。
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ヤングスキニー
歌にしてしまえば、どんなことでも許されると思っていた
TikTok発バイラル・ヒット曲「本当はね、」も収録された、"嘘だらけで、矛盾だらけな日常を歌う"ヤングスキニーの名刺代わりとも言えるアルバムが完成。"ヒモ"なりの愛を歌う「ヒモと愛」や"騙されたあなたが悪いんだよ"と歌う「ゴミ人間、俺」など、いわゆる"クズっぽさ"を前面に出す歌詞や歌声は、かやゆー(Vo/Gt)が憧れているというクリープハイプの影響が大きいだろう。その中でも、"嘘だらけ"な日常を"ありのまま"に綴るまっすぐさは、バンドのひとつの個性になっていきそうだ。さらにメジャー・デビュー・シングルとなった「らしく」では、"いつか僕は誰もが/羨むバンドになってやる"というストレートな決意の言葉も。濁りのないメッセージが詰まった純度の高さ、若さが眩しい、新時代のギター・ロック・バンドに注目。
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kobore
HUG
切なさ混じる柔らかな春風のような、桜舞う季節にぴったりの爽やかなナンバーが並ぶ本作。ツー・ビートが爽快な「TONIGHT」で勢い良く駆け出すと、ストリングスがラストをドラマチックに彩る「もういちど生まれる」、ちとせみな(カネヨリマサル)とのツイン・ヴォーカルで魅せるkobore流シティ・ポップ「雨恋」では、アレンジャーを迎え新たな一面を見せる。そして「ひとりにしないでよね」で前作から続くキラキラとした瑞々しいサウンドを煌めかせると、最後は弾き語りとシンガロングが印象的な、ライヴハウスで聴きたい泥臭い青春ロック「この夜を抱きしめて」で締めくくった。暖かな季節の訪れに弾む心と、この曲たちをライヴで一緒に歌えることへのワクワク感がリンク。春のセンチメンタルな心も抱きしめたくなる温かさが心地いい。
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Hakubi
Eye
昨年以降コンスタントにシングルを発表してきたHakubiが、それらを含むアルバムをリリース。内澤崇仁(androp/Vo/Gt)とタッグを組んだ経験も功を奏し、バンドの世界観が着実に構築されてきた印象だが、同時に聴き手へメッセージを届ける意志も滲むようになった。はやるテンポと鍵盤、言葉を捲し立てるヴォーカルが印象的な表題曲をはじめ、これまでにないHakubiを切り拓く新曲も存在感がある。そしてつぶやくような片桐の歌がグッと距離感を縮めると同時に、消え入りそうな"さよなら"が危うくてドキッとさせる「サイレンと東京」からラスト3曲で畳み掛けていく。無情な世界で傷ついていないふりをする自分に嫌気が差しながらも、"いつか"と微かな光を探す、リスナーと共に生きるバンドの姿勢を示す作品。
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アーバンギャルド
URBANGARDE VIDEOSICK ~アーバンギャルド15周年オールタイムベスト・映像篇~
むろん、アーバンギャルドが音楽作品を生み出すことにおいて優れた手腕を持っていることは間違いないが、そこに映像が伴ったときには情報伝達度と芸術性が一気に爆上がりすることを、今作では自ら証明していることになるだろう。もともと松永天馬(Vo)もおおくぼけい(Key)も共に自主映画の制作経験があるせいか、モデルやナレーションの経験がある歌姫、浜崎容子嬢を主たる被写体として生み出されてきた数々の映像作品は、どれもMVと呼ぶには濃密すぎる内容のものばかり。また、3時間に及ぶオーディオ・コメンタリーにおいてメンバーから明かされる制作秘話も、聞き応えは充分。そして、あの黒宮れい(BRATS/Vo)が出演する「平成死亡遊戯」をAV監督、ターボ向後が手掛けている点も地味に見逃せない。お宝映像満載!
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Lucky Kilimanjaro
Kimochy Season
アルバム・リリースを重ねるたびに曲ごとのサウンドのテクスチャーが明確になってきた、その最新形がこのメジャー4thアルバム。ハウス/テクノ・ビートが多めだが、そこに乗る日本語の新たな用い方もユニークだ。"一筋差す"という感覚的なフレーズをリフのようにビルドしていく「一筋差す」に始まり、「Heat」も歌詞がビートになっている印象。"掃除の機運"というなんともユニークなタイトルを持つ曲では、ブラスのサンプリングがグルーヴを作り、「地獄の踊り場」はドラムンベースに現行の海外シーンも90年代UK感も漂う。そんなダンサブルなアルバムの中で、オーセンティックなリズム・アンド・ブルースのスウィートネスを現代にアップデートしたような「咲まう」や、シティ・ポップ寄りの「山粧う」が実に新鮮なフックに。
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めろん畑a go go
WHITE MELON
既存メンバー4人に新メンバーの皆野うさこを加え、新体制"めろん畑a go go WHITE"としてリリースするミニ・アルバム『WHITE MELON』。同時リリースのミニ・アルバムに共通して収録される「めろん畑a go goの「嗚呼!IDOL真っ最中!」」に加えて、皆野うさこの明るさを反映したかのようにアッパーでロックンロールな楽曲が本作には揃った印象だ。「ダンスホール」、「MANIAC」といった、すでにライヴでは披露されてきたもののCDとして流通されていなかった曲たちも収められており、メンバーいわく"音源に入るということは、「みなさん盛り上げてください」ってことです!"とのこと。本作をじっくり聴き込んで、ライヴで元気に安全に(※ここ重要)暴れてほしい。
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めろん畑a go go
BLACK MELON
クールな新メンバー 玖月琴美が参加したもうひとつの新体制"めろん畑a go go BLACK"としてリリースされるのが、こちらの『BLACK MELON』だ。『WHITE MELON』と比べて、"THEめろん畑a go go"と言える、ロカビリー、サイコビリー楽曲が中心となって本作には収録された。中でも、怪し気でアダルトな雰囲気を身に纏う「ゾンビーブルース」は、この曲を歌いこなせるアイドルは広いシーンの中でも彼女たちくらいしかいないだろうと思わせるほどのフィットぶりだ。上質なメロディを乗せたミドル・ナンバー「シルバージェットと僕たちの物語」は、2作品の中で唯一の完全オリジナル曲。聴いているだけで自然とギュッと拳を握り締め、目頭が熱くなってしまう名曲だ。
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陽南子
love
アイドル・バンド、凸凹凸凹(ルリロリ)解散後初となるシングルは、バンド・サウンドとは打って変わり、彼女自身の日常を切り取ったかのような心温まる1枚となった。自身の生活や普段の何気ないやりとり、それに加え、些細でいて隠しきれない大切な人への想いを正直に綴った「love」、実体験のかわいらしいエピソードをそのまま歌詞に盛り込んだという「Always」、そして、元気いっぱいで屈託のない彼女がそのままパッケージされたかのような「JUMP」。どの曲も陽南子というひとりの女性がリアルに描かれているからこそ、多くの人の心にそっと寄り添うことができるのだろう。まるで日記のような素朴で純真な3曲には、彼女の揺るぎない強さと優しさがひだまりのように流れている。
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有馬元気
フィルター
大切な人へは悔いの残らぬよういつでもほんとの想いを伝えようと歌う「フィルター」、自分の気持ちに嘘をつかず前に進んでほしいと願う「それでも愛は勝つから」、そして初っ端からバンド・サウンド全開の「二人なら」。有馬元気の魅力をギュッと凝縮した全3曲だ。何より3曲とも主人公がちょっと弱いというところが、"痛みに寄り添う曲を歌いたい"と言う彼らしく、勇気を貰えたりもする。人がめんどくさいと思っても、人に救われているのもまた事実で、ひとりでも生きてはいけるけど、気の合う誰かや好きな誰かが一緒のほうが楽しいし、嬉しい。そんな人間関係のもどかしさや難しさもまるっと飲み込み、人へのまっすぐな想いを綴ったニュー・シングル。有馬元気の今がすべてここに詰まっている。
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ASH DA HERO
Judgement
漲りまくりの初期衝動を閉じ込めた現体制初アルバムから、約半年で到着したメジャー1stシングル。TVアニメ"ブルーロック"2クール目オープニング主題歌のタイトル・トラックは、ヒリヒリとした高速ギターとスクラッチが高揚感を激しく煽るなか、"この世は2つに1つ"とシンプル且つ強靭な言葉を叩き込むスリリングなアップテンポ・ナンバーだ。強烈なグルーヴと爆発力たっぷりなバンド・サウンドの上でASHがラップを畳み掛ける「自分革命」(ADH盤収録)も、凄まじい熱に溢れていて血が騒ぐが、バンド結成までの道のりと5人が目指すものを刻みつけたような「最強のエンドロール」(ブルーロック盤収録)が、とにかくドラマチック。これから先彼らがこの曲を大会場で高鳴らす瞬間を想像するだけで心が震える、端的に言えば超激エモ曲!
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Tielle
Light in the Dark
ドラマや映画の主題歌などタイアップ曲が6曲中4曲を占めているものの、タイトルの"Light in the Dark"が示唆するように、現代の暗闇の中にあっても自らの意思で光を見ようとする主人公によって一貫性が保たれたミニ・アルバム。ピアノ・インストの「Noir.」のダークさから続く「In the Dark」に繋がるドラマ性。アルト・ヴォイスの魅力が際立つ。さらに海外シーンとシンクロするようなエレクトロニックなトラックが彼女の個性を際立たせる「CRY」、叫びたいような狂おしい状態を高低差のあるヴォーカルで見事に表現したハード・チューン「BLESSLESS」など、デビュー時からタッグを組むYosh(Survive Said The Prophet)とDAIKIによるプロデュース・チーム"The Hideout Studios"とのコラボもハマっている。ジャンルを超えるポップ・ヴォーカルの可能性が満載。
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ASIAN KUNG-FU GENERATION
宿縁
アジカン×アニメ"NARUTO-ナルト-"シリーズとしては、「ブラッドサーキュレーター」に続く3弾目。ここで"前世からの因縁"を意味する"宿縁"というキーワードを挙げたのは、今の自分の行動があとの世代に与える影響や人間のいい意味での変化について、後藤正文(Vo/Gt)が懲りずに希望を託しているからだと思う。王道ギター・ロック・チューンだが、コードがロング・トーンであることで降りしきる雨=現在の世界を思わせるのはリアルだ。また、後藤&喜多建介(Gt/Vo)の共作で喜多Voの「ウェザーリポート」は、近さを感じるミックスが離れていくふたりという珍しいテーマを自然に聴かせ、『サーフ ブンガク カマクラ』の続編という「日坂ダウンヒル」は、ローファイ・ヒップホップ調。各々今年のアジカンの動向を示唆しているのかも。
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Uru
コントラスト
Uruが約3年ぶり3枚目となるアルバム『コントラスト』をリリースした。本作には、YOASOBIのコンポーザーとしても活動するAyase、wacciの橋口洋平(Vo/Gt)、シンガー・ソングライターの優里といった腕っぷしの強いミュージシャンたちからの提供楽曲や、Uru本人の作詞/作曲による新曲3曲を含めた全13曲が収録。オーセンティックなバラードからシリアスなタッチのアッパー・ナンバーまで、これまでのパブリック・イメージにとらわれない多彩な楽曲が並び、Uruの歌声も一曲一曲で違う表情を見せている。また初回限定生産版"カバー盤"に収められる桑田佳祐「白い恋人達」やスキマスイッチ「奏(かなで)」の新録カバーも聴きどころのひとつで、彼女の卓越した表現力に舌を巻く。
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阿部真央
Not Unusual
ピアノでの曲作りなど、これまでの阿部真央らしさから自分を解放した今の彼女が詰まった10作目のアルバム。先行配信曲でもあるESME MORI編曲の「Never Fear」などファンク/ネオ・ソウル調、抑えめで優しい歌唱が愛情の深さを際立たせるタイトル・チューンや、初めて両親を軸とした家族について歌った「とおせんぼ」などが新鮮だ。そして昨年のライヴでも披露し、改めてグローバルに通用するレベルのヴォーカル表現と歌の力を認識させた「Who Am I」は、音源でもピアノのみの演奏で、ほぼ一発録りに近い手法で収録しているのもニュー・フェーズ。多彩な音楽性に驚くアルバムだからこそ、従来の爆発力を誇るロック・チューン「READY GO」や、「Be My Love」のカタルシスも増す。キャリア最高峰のアルバムと言って異論はないはず。
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アーバンギャルド
URBANGARDE CLASICK ~アーバンギャルド15周年オールタイムベスト~
アカデミックで上品な味わいと、サブカル的な胡散臭さが融合するアーバンギャルドのエキセントリックな濃厚世界は、隙のない作り込みがされた音像を背景に、下世話なほどのポップ・センスが大胆に闊歩する不条理な美しさに充ち満ちている。そんな彼らが歩んできた15年の歴史を包括するこの作品は、新曲にして絶妙なノスタルジーが漂う「いちご黒書」から数々のレア・トラックたちまでを含む全45曲を収録したCD全3枚組のまさにオールタイム・ベストであり、コア・ファンにとっての必携アイテムであるのはもちろん、より深いアーバンギャルド沼にハマりたい方にとってのガイドとしても最適となろう。つくづく、公式に謳われている"二十一世紀東京生まれの「トラウマテクノポップ」バンド"のコピーはガチで伊達じゃない。
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SPARK!!SOUND!!SHOW!!
音樂
圧倒的な独創性とエネルギーで身体と精神を揺さぶる、凄まじいアルバムが完成した。怒りや愛、渦巻くカオスな感情を、ロックにデジタル・ハードコア、ダンス・ミュージック、宗教音楽すらも取り込み、スサシの世界として聴き手に提示する。ただでさえ強烈な個性を放つバンドなのに、客演もアサミサエ(Wienners/Vo/Key/Sampler)、あやぺた(Dizzy Sunfist/Vo/Gt)、高岩 遼(SANABAGUN./Vo)と多彩で、それぞれが爆発のような化学反応を生んでいる。"音を樂しむ"と書いて"音樂"。本作のタイトルはそう名付けられた。いい作品を作るために、時にはバンドという形態にもとらわれず、時には客演を招き、独自のアートを創り出す。誰よりも音楽の力を信じ、音楽を楽しんでいるのは、スサシ自身なのかもしれない。
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SCANDAL
SCANDAL "Documentary film MIRROR"
昨年1月リリースのアルバム『MIRROR』を引っ提げ、日本、北米、欧州をまわる自身2度目のワールド・ツアー[SCANDAL WORLD TOUR 2022 "MIRROR"]を同年3月から9月にかけて開催したSCANDAL。その北米および欧州公演を巡る日々にフォーカスし、最終公演のライヴ映像も一部収めたドキュメンタリー・フィルムが完成した。2020年に開催予定だったワールド・ツアーの中止から2年、コロナ禍でメンバー各々が感じた素直な想いがかたちとなった楽曲が連なる『MIRROR』を携え行われた今回のツアーは、過去最高にタフなものだ。メンバーの新型コロナウイルス感染による複数公演の中止という苦節もありながら、"チームSCANDAL"として国内外のファンの想いを背負い駆け抜けた様子を詰め込んだ、いわば青春日記のような作品に。
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NeruQooNelu
Physical Drafty
メンバー・チェンジを繰り返しながら、長きにわたって活動を続けている3ピースのキャリア初アルバムには、現体制で再構築した既存曲と新曲を合わせた全12曲を収録。歌モノだった原曲をリミックスばりの勢いでインスト曲に再編した「DISCORTION BIG LINE」や、トライバルな趣きもある「Oishiii!!」など、ノイジーでローファイな爆音バンド・アンサンブルと、ミニマル・テクノを彷彿とさせるエレクトロニクスが交錯し、圧巻のサイケデリック空間を生み出している。全編通して変拍子もかなり多いのだが、耳に残るリフや歌メロがしっかりとフックになっていて、聴き手を突き放すことなく、全員まとめてトリップさせていく最高のストレンジ・ポップが、とてつもなくクセになる。 山口 哲生
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BimBamBoom
PILI PILI
16ビートのグルーヴィなファンク・ナンバーが軸にありつつタイトなリズム、ガレージ系やポスト・パンクの匂いも感じるギターがオルタナティヴな、BimBamBoomならではのインストが詰まった4作目のアルバム。今回は2021年からスタートしたコラボ楽曲のバンドでのリミックス6曲と新曲4曲から構成されているが、xiangyuとコラボした「そぼろ弁当」での、新世代ハウス・ミュージックであるGqom(ゴム)へのチャレンジは、インストでさらに際立つ印象だ。アルバム・リード曲の「THE WOMAN」は、幕開けに相応しいテーマ曲的なムードを、ハードなギターをはじめとするアンサンブルで表現している。シンプルなワードが乗ることでジャズ・ファンクに軽妙な痛快さが加味される「AKKAN BEE」、ダビーな音像の「RollerCoaster」など、一気に聴ける全10曲。
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