DISC REVIEW
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kittone
独白
2020年に結成し、昨年HANA(Vo)、ヤマザキユウキ(Ba/Composer)の体制となった音楽ユニット、kittone。ヤマザキが曲を手掛けるようになって初の配信限定アルバムは"独白"と名付けられた。このタイトルは、誰かに向けてというよりも、形にしたい美しい音楽にだけ純粋に向き合って、音や言葉を紡いだ作品を象徴する言葉だったとヤマザキは語っている。人生で初めて作詞/作曲するにあたってまずはひとつの小説、物語を書き、その様々なシーンが曲となった。必然的に自己とも向き合う作業だったという『独白』をキャッチーにしているのが、軽やかでどこか懐かしさも覚える瀟洒なアレンジが効いたJ-POPサウンドと、ほのかにメランコリーを帯びた優しいHANAの歌声。読み聞かせるような音楽のタッチが、心に響くアルバムだ。
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BREIMEN
AVEANTIN
ファンクやネオ・ソウルがベーシックにある現行のバンドの中でも、卓越したプレイにケレン味と遊び心をたっぷり充填しているのがBREIMENならではの個性だろう。現体制4作目且つメジャー1stアルバムとなる今作は、ビートや構成がよりキャッチーになった印象だ。怒濤の早口ヴォーカル、精緻に刻まれるビートやアレンジのクレイジーさに舌を巻く「乱痴気」、ここからバンドがどんな方向性で進んでいくのかが窺える自己紹介的なニュアンスのあるリード曲「ブレイクスルー」、AORフレーバーと日本の家庭に風景や記憶が交錯する「眼差し」、ODD Foot WorksのPecori(Rap)がラップ・パートに参加していることでむしろBREIMENのスタンスが明快になる「T・P・P feat.Pecori」など日常の勢いと彩度を上げてくれそうな全11曲。
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家主
石のような自由
2023年12月に配信リリースした3rdアルバムにCDだけのボーナス・トラック3曲を加えたフィジカル版。メンバーのうち3人が作詞作曲し、担当した曲のヴォーカルをとるスタイルならではの、ひとつのバンドの世界観と曲の多彩さ。登場当時からそうだが、例えば、今THE BEATLESを初めて聴いてもおそらくカッコいいとかメロディが素晴らしいとか感じるのに近い感動をもたらすこの奇跡のバンド。しかも本作で録り音やミックスの解像度が上がり、聴くことのカタルシスも増したのは嬉しい限り。名前の付かない感情にフォーカスする歌詞の的を射た表現も、絡まった気持ちを解してくれたり、少し前を向けたりするのもいい。普遍的だが、それはしっかり現代の悩みや喜びを描いているからにほかならない。呼吸が深くなる。
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離婚伝説
離婚伝説
その中毒性とクオリティの高さが話題を呼び1stシングルにして代表曲となった「愛が一層メロウ」が、"関ジャム 完全燃SHOW"の"プロが選ぶ年間マイベスト10曲"に選出されるなど今注目を集める離婚伝説。セルフタイトルとなる1stアルバムには、同曲を筆頭に心躍るライヴ定番曲「あらわれないで」、シティ・ポップ系サマー・チューン「眩しい、眩しすぎる」、メロディアスな極上バラード「萌」、ほのぼのとしたピースフル・ナンバー「さらまっぽ」など珠玉の10曲が収められた。全体的に軽やかで小気味良く洗練されていながら、昭和歌謡的な泣きのギター・ソロがレトロなムードを引き立て、甘く儚い歌声と哀愁漂うメロディの美しさが胸を打つ。この殺伐とした時代に"愛"をテーマに掲げ活動する、センス溢れるニューカマーに期待。
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BIN
Melt
山上(Vo)、トマト(illustration)、T(music)からなる音楽ユニットによる、約3年ぶりのアルバムであり、2ndアルバム。ジャジーな大人っぽいムード、シティ・ポップな懐かしさ、オリエンタルな情緒など、様々な舞台を行き来するトラックの上で、凛と澄んだ山上の歌声が響き渡る。全員が"ここでしかできない"、"今しかできない"ことに挑戦していると伝わってくる、実験的な表現の数々。イラストのトーンが象徴的だけれど、ほとんどの楽曲に共通しているのは、ひんやりと鋭利な質感だ。様々なジャンルや音色を包括する"なんでもあり"なカオスの中に、刹那や孤独が"当たり前にある"と感じられる世界観は、現代の写し鏡のよう。ラストの「Sybil」のアコースティックな温かさが、救いのような余韻を残す。
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梓川
Shifter
2020年4月に音楽活動を開始し、SNSに"歌ってみた"を投稿。2022年からはオリジナル曲を発表してきた梓川が、待望の1stアルバムをリリースした。牛肉、雄之助、tokiwa、SHOW、wotaku、higma、水槽、是、ポリスピカデリーといった、錚々たるクリエイターが参加。楽曲もバラエティに富んでいるが、ラップも歌謡曲もダンス・ミュージックも梓川は艶やかに歌い上げている。注目は、梓川自身が作詞/作曲に携わった「ナーヴ」と「パラノイア」(「ナーヴ」編曲はbnbnと共作。「パラノイア」編曲は雄之助)。様々な楽曲に向き合う器用さの一方で、"逃げんな/もう理想なんて要らない"と叫ぶように歌う「ナーヴ」と、"明日も塗り替えて/考えないで 振り返らないで!"と軽やかに言い切る「パラノイア」からは、一本気な性格が見えてくる。
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ukka
Overnight Rainbow
昨年末をもってリーダーの川瀬あやめがグループを卒業、今年1月には宮沢 友と若菜こはるの新メンバー2名を迎えた新体制でのパフォーマンスをお披露目したばかりのukka。ジャンルレスな楽曲を詰め込んだメジャー1stフル・アルバム『青春小節~音楽紀行~』の充実ぶりも記憶に新しいが、そんな彼女たちからメジャー2枚目となるシングルが届いた。本作には、爽やかなシティ・ポップの表題曲「Overnight Rainbow」、プロデュース・デュオ tee tea楽曲提供の「透明」ほか、各曲のインストゥルメンタルを含む全6曲を収録。"まだ見えてない景色 何度だって見に行こうよ"と高らかに歌い上げるTrack.1、"透明な明日が色付くように"と希求するTrack.2と、彼女たちの新たな旅立ちを印象づける1枚に仕上がっている。
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NANIMONO
インキャのキャキャキャ / オタ恋
NANIMONOは、インキャの子たちが集まったグループ。明るくポップに弾けた「インキャのキャキャキャ」は、ネット民として生きてきた自分たちの人生を否定するのではなく、"最後は必ずインキャが勝つ!"とポジティヴな力に変え、同じインキャでオタクな人たちに生きる希望を与えてゆく楽曲。「オタ恋」は、アイドルに恋の妄想を抱くオタクの純粋でまっすぐな恋心を描いたミドル&メロウなバラード。片や本人側からの、もう片方では、ファン側からの視点でオタク心を描写。2曲共に、主人公のオタク心を少しシニカルに表現。オタク特有の自己否定しがちな感情を認めたうえで、そんな自分に自信を持とうと勇気や生きる希望を与えてゆく、まさにオタクのための、オタクに向けた、オタク賛歌作。
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S.O.H.B
Inner Voice
名古屋市在住のNatsumi Nishiiを中心としたクリエイティヴ・ユニット S.O.H.Bが、『2021』以来となるアルバムをリリース。今作は、前回のEP『美しいあなた -EP』(2022年)でも描き、また多くの人にとって普遍的テーマと言える孤独と、自立がテーマとなったという。S.O.H.Bが紡ぐ孤独は、寂しさや悲しみから生じる感覚でなく、日々のなかで、人との関わりのなかで芽生える喜怒哀楽をひとり味わうような時間だ。自身の内に芽生えた小さな引っかかりや声、気持ちに点を打ちながら、心の景色や人生の地図を描いていく曲たちは、混沌を手探りで進む人の琴線にも触れるのではと思う。ゴスペルの多声感やソウルフルなエレクトロ、またピアノに乗せ語り掛ける平熱の歌声も心地よい。
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Hakubi
throw
片桐(Vo/Gt)が紡ぐ真正直な言葉と、美しくリアルで切実な歌声。歌に乗せた想いや感情を丁寧になぞる、ヤスカワアル(Ba)、マツイユウキ(Dr)の構築する独創的な楽曲世界。バンドの振り幅を大きく広げた2ndフル・アルバム『Eye』を経ての今作は、"自分にしかできない表現"に立ち返った原点回帰的な気持ちと、ここまで培ったキャリアやスキルを存分に発揮した高い表現力から生まれた、Hakubiならではの世界観を堪能させてくれる。自分の言葉かのように深く胸に突き刺さる、片桐のパーソナル且つネガティヴなワード。誰にも言えない想いが音楽と共に昇華されて、少しだけ気持ちが楽になる。眠れない夜、今作にひとりどっぷり浸るのもいいが、「Decadance」、「Heart Beat」といったライヴ仕様の楽曲を生で体感するのもオススメです!(フジジュン)
救いを求める情景が鮮明な2ndフル・アルバム『Eye』と地続きにある印象のミニ・アルバム『throw』。しかし今作では自身を内省した先にある"空虚"への解像度がこれまで以上に高く、形容し難い感情を真正面からパワフルに歌い上げた全7曲が収録される。エモーショナルな片桐(Vo/Gt)のヴォーカルと感情を吐露する歌詞に加え、アップビートな疾走感溢れる「Heart Beat」やピアノ・アレンジが染みるバラード「拝啓」など、幅広いアプローチで構成された叙情的なサウンドは、孤独や焦燥を抱えた"心"そのものを映す。一人称ベースの詞世界が聴き手の心にも向き合うのは、心情を描いたテーマのみならず、バンドとして前進してきた過去があるからだろう。ふたつとない未来への舵を切っていくHakubiの原点回帰的アルバムとなりそうだ。
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MYTH & ROID
VERDE
"彫刻をめぐる物語"を展開する連作コンセプト・ミニ・アルバムの後編。ひとつの島が海に沈んだ前編から、後編では画家の少女を中心にストーリーが進んでいく。絵を描きたいというピュアな衝動を、ダークながらもダンサブルなサウンドに乗せて炸裂させる「Palette of Passion」や、理不尽な規則に湧き上がる葛藤や怒りを叫ぶ「DiLeMMa」、柔らかな手触りの中にも悲しみや儚さが漂う「Dizzy, Giddy」に、透明感のある美しいコーラスを湛えたホーリーな「Whiter-than-white」など、現実世界の出来事を自ずと想起させながらも、MYTH & ROIDらしいスタイリッシュなサウンドで繰り広げられる音物語は、とにかく凄まじい没入感。聴き終えたあと、温かな光が胸に宿るような感覚を覚える。
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SODA KIT
ロングラン
"群像劇"というテーマによって、メンバー全員の個性が炸裂し、さらに新たなる挑戦もちりばめられた2ndミニ・アルバム。メンバーひとりひとりが喜怒哀楽、ひとつひとつの感情を表現した楽曲の主人公となっており、「ナッチャッタ!」はYupsilonが主人公として喜を表現したキャッチーなナンバー。「徒然論怒」はMugeiが主人公として怒を表現した、攻撃的なラップ・ソング。「カゲボウシ」はFigaroが主人公として哀を表現した、切なすぎるラヴ・バラード。「一刀両断」はRasetsuが主人公として楽を表現した、ライヴ映え必至のパーティー・チューン。そして、喜怒哀楽すべての感情を集約させた表題曲「ロングラン」は、FAKE TYPE.が楽曲提供! SODA KITの声の力、グループの可能性が発揮されている。
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有馬元気
not end
メジャー・デビューから約1年、3枚目のシングル。ピアノのイントロと出だしのフレーズからその世界へと一気に惹き込む表題曲は、残酷なほどの絶望のなか、最後に伸ばした手だけが唯一の救いとなる、彼にしか書けない希望の物語。1番と2番とで話す人物が変わる仕掛けのせいか、いろんな場面のいろんな感情に自分を重ねてしまう。バンド・サウンド全開の楽曲に乗せ、叶わぬ恋をユーモアたっぷりに描いた「裸」、限られた命を、細やかで壮大なアレンジで優しく、美しく表現した「あと少し」。三種三様の物語にひとつだけ共通点があるとしたら、それは有馬元気の寄り添いたい、伝えたいという強い想いだけ。それぞれの主人公に自分を重ねながら、誰かを重ねながら、泣いたり笑ったりして、その想いを受け取ってほしい。
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SAKANAMON
liverally.ep
ストリングス入り編成に初挑戦した7thフル・アルバム『HAKKOH』、フィーチャリング・ゲストを迎えた配信シングル"PLUS ONE"シリーズを経て、今改めて放つ剥き身の3ピース・サウンド。歌や各楽器がかち合っては全力疾走しているほか、"どうしてそうなる?"的な捻りを効かせたワールド全開の展開も満載。リード曲の「おつかれさま」からは結成17年目を迎えた今だからこその温かい眼差しが感じられる曲で、総じて、現在進行形のバンドの魅力を真空パックしたような作品だ。お題があるからこそ自由になれる大喜利と同じ原理で、ライヴをテーマにした藤森元生(Vo/Gt)のソングライティングは抜群の仕上がり。15周年ツアー・ファイナルのライヴ音源も収録されている。
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綾野ましろ
FLAVOR.
アニソン・シンガーとして多数の作品に携わり、2021年より活動休止していた綾野ましろが本EPで活動を再開する。今作では、和楽器バンドのベーシストでボカロPの亜沙がプロデュースを手掛け、また綾野自身で作詞やジャケット・アートワーク、ヴィジュアル面も担当。ロックで伸びやかなヴォーカルによる表現に加え、リード曲「FLAVOR.(GUM)」ではキュートさや毒っぽい雰囲気も交え、アップダウンするメロディやラップ的なノリを軽々と乗りこなして自由に歌う。休止中は様々な歌唱のスタイルに挑戦して、その引き出しを増やすこともしていたという。正統派としてのこれまでのまっすぐさ、真面目さも垣間見せつつ、より楽しみながらヴォーカルの可能性を広げているようで、その声は開放的。そんな始まりの晴れやかさがある。
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Laughing Hick
カフェオレ
昨年ベースのあかりを正式メンバーに迎え、それ以降デジタル・シングルのリリース、各地ライヴ・サーキットへの出演、リリース・ライヴなど、精力的に活動を続けてきたLaughing Hickの今年初となる作品。様々な恋愛模様をテーマに、それぞれの主人公が奔放に、それでいてまっすぐに自分を生き切る様を描いた全4曲は、このバンドならではという物語の仕上がりに。ストリングスを取り入れた表題曲「カフェオレ」から、すべてを全力で振り切ったダンサブルな「休憩と宿泊」まで、そこには楽曲に対する自信と信頼がひたすらみなぎり、そのうえで丁寧に重ねた新たな挑戦には、たくましさと頼もしさが感じられる。自らの強みを知り、その強みを迷いなく出し切ることで辿りついたバンド史上最高地点。間違いなくバンド史上最高の1枚。
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AKUMATICA
MEGATON PUNCH!!!
"悪魔的な中毒性を武器に、混沌たるこの世界に風穴を!!"というキャッチフレーズを掲げ、2023年2月に始動した女性3人組グループによる初のアルバム。2ビートでパワフルに突き進んでいく「未完成MONSTER」に始まり、デジタル・ハードコア的な「AKUMATIC RESISTANCE」やシリアスな「ギィーク セット ガニナ?」、感傷的な空気を纏った「僕が僕じゃないみたいな青い春」、「ふたつ星。」に、グループの代表曲であり、青空が目に浮かんでくるような爽快感のある「瞬間アンビシャス」など、全10曲を収録。どれも骨太なバンド・サウンドを軸にしつつもメロディアスで、聴き手を選ばずするりと入ってくるキャッチーさ、親しみやすさがあるものばかり。
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Mr.ふぉるて
音生 -onsei-
"その涙の行方を僕の親指に/託してくれないかい?"と歌う「涙の行方」で始まり、"笑わせてみせるよ"と歌う「Chaplin」、そしてインスト曲である表題曲で締めくくられる2ndフル・アルバム。コロナ禍でのデビュー、メンバーの病気療養などこのバンドには紆余曲折あったが、だからこそ、生きづらさを抱えながらも、"生きたい"という本能と共に壁をなんとか乗り越えようとする人の心に寄り添うことができる。ストレートなロックを鳴らしながら勇気あるメッセージを発したり、あえてポップなサウンドに悲哀の詞を乗せたり、寂しげなピアノ・リフと共に物思いに沈んだり......と、愛し愛されることを諦めきれない人間の性(さが)を、様々なカラーで表現するバンドの手腕は見事だ。
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ヤングスキニー
不器用な私だから
全国ツアーを開催すれば軒並みソールド・アウト、今勢いに乗るヤングスキニーのメジャー2nd EP。忘れられない匂いを軸に未練を歌う「雪月花」や、失恋のその先を描くポジティヴ・ソング「恋は盲目」など、4人だけで鳴らす原点回帰的なサウンドを中心に収録し、誰がなんと言おうと"ロックだ うるせえ"と叫ぶ「精神ロック」なんかは最高にロックだが、そんななかで戦慄かなのを迎えたデュエット曲「ベランダ feat.戦慄かなの」が異彩を放つ。女性目線が多いヤングスキニーの歌詞はよりリアリティを増し、さらにラップも取り入れ新境地のチルなメロウ・チューンに仕上がっている。ラストには、キーを上げ爽やかなポップ・ロックに生まれ変わった「別れ話」の再録版を収録。ロック・バンドとしてのプライドをもってJ-POPシーンに挑む彼らのスタンスが窺える。
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OKAMOTO'S
この愛に敵うもんはない
戸塚慶文原作の人気漫画"アンデッドアンラック"がアニメ化、その第2クールのエンディング・テーマに書き下ろした「この愛に敵うもんはない」。原作のファンだというオカモトショウ(Vo)が、主人公ふたりがリアルの世界に生きていると想定して書いたという歌詞は、愛する相手の悲しみや苦しみすべてを引き受けるという、原作に通じるもの。特異なストーリーがストレートなラヴ・ソングを生む好例だ。ドライヴするユニークなギター・サウンドをフックに開かれたR&Rに落とし込んでいるのも、何周か回って十八番を堂々と鳴らしている印象。2曲目の「カーニバル」はオカモトコウキ(Gt)の作詞作曲。彼の作風には珍しいオーセンティックなフォーク・ロックで、ナチュラルな音像だが、知らないどこかを夢想しているような新鮮な1曲。
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