DISC REVIEW
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空白ごっこ
マイナスゼロ
何もないけど何かある"空(くう)"の世界観を"心"に例えて、その精神世界で遊ぶ(ごっこする)ことをコンセプトにした音楽プロジェクト、空白ごっこが1stフル・アルバム『マイナスゼロ』を発表。"どこまでいってもずっと満たされない感覚がある"という言葉から生まれたというタイトルの通り、貪欲な音楽的探求心が具現化した1枚になった。ポエトリー・リーディングを取り入れた「go around」から疾走感溢れる「ゴウスト」への展開、中毒性抜群の「乱」という冒頭3曲で一気に引き込まれる。葛藤を吐露した内省的な楽曲が多いが、決してダウナーな印象は受けない。それはセツコのエモーショナルな歌声、koyoriと針原 翼が手掛ける色彩豊かな楽曲たちが、アルバムという枠の中で最大限に"ごっこ"しているからなのだろう。
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kalmia
twilight
ライヴをコンスタントに行いつつ、リリースのペースも加速中のkalmia。今年2作目のミニ・アルバムには、自らの王道をアップデートした曲や再録曲を収録しつつ、夏が舞台の青春恋愛ソングや、ウエディング・ソングにも挑戦。千葉一稀(Vo/Gt)のソングライティングの幅は格段に広がった。サウンド面では前作に引き続きシーケンスを導入。総じてポップな方向に舵を切ったように思えるが、バンドのサウンドはむしろよりロックになっている。泣きのギター、力強いベース、キレの良いドラムによるアンサンブルからは、ライヴ・バンドならではの熱量と"4人で鳴らせばkalmiaになる"という自信が感じられた。バンドの音に宿る物語とあなたの人生の物語を重ねながら聴いてほしい。
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u named (radica)
Distance to you
細やかなところまでこだわりが詰まった1枚。ヨシダマサト(Ba)がエンジニアまで手掛けることで、楽曲の世界観が忠実にパッケージされている。大人になることへの葛藤や、置き去りにしてしまった過去といった、心の中で燻り続けている想いに、美しい風景や表現を重ね合わせて、しっくりと寄り添ってくれる歌詞。ロック・バンドという軸足がぶれることなく、アレンジや音色、歌い方などで広がりをもたらした曲調。あらゆるところに、可能性が溢れている。バンドの世界観に宿った少年性/少女性の根幹を形作る令(Vo/Gt)の柔らかく高い、それでいて芯のある歌声も魅力的だ。"失ってから気づくものなんて無かった/常に何かを忘れ続けているだけ"と歌う1曲目「アンファ」にハッとさせられてから全6曲、耳が離せない。
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葛葉
Black Crack
"にじさんじ"所属のVTuber、葛葉の1stシングル。本楽曲は、Netflixのアニメ"グッド・ナイト・ワールド"のOPテーマとなっている。"薄汚い最低現実/反比例さ 目映い架空"と吐き出すように歌い上げると、アグレッシヴなバンド・サウンドになだれ込んでいくという怒濤のオープニング。アニメの世界観に寄り添ったものになっているし、作詞は溝口貴紀が手掛けているものの、これは葛葉自身の心の叫びではなかろうか? と思えるような、現実と仮想空間の狭間での葛葉が矢継ぎ早に歌われている。"心さえ 知らなけりゃ/こんなに 苦しまねえな"という一節は、寂し気であり、温かさもあり、人間味が滲む。カップリングには、先行配信された「Liberty & Freedom」と新曲「Dummy Break」を収録。
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戌亥とこ
Telescope
OSTER projectやmajikoなど、VTuberの世界に詳しくない人にも知られているような名だたるクリエイターが楽曲を提供。すでにVTuberとして多大な人気を博しているとは言え、1stミニ・アルバムとしてはプレッシャーでは......という心配を飄々と跳ね除けるように、多彩な全5曲を魅力的なロー・ヴォイスでのびのびと歌い上げている。特にシティ・ポップのエッセンスの乗りこなし方がしなやかで、VTuberの世界を飛び越えるだけではなく、海外の注目度も高めていきそうな予感がする。ゆったりと聴けるかと思いきや、"腹を空かせた赤鬼が言う「どちらまで?」"と、戌亥とこが見せるひとつの個性=地獄の風景が描かれている「六道伍感さんぽ」など、どの楽曲も聴き応えたっぷりだ。
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GANG PARADE
The Night Park E.P.
新たなクリエイター陣を起用した"夜"をテーマとするコンセプトEP。本作では様々な夜の表情を切り取ったエレクトロやダンス・ミュージックを主軸とした楽曲が、近年でロックを主とした作品を世に送り出してきたギャンパレのイメージをいい意味で壊している。それだけでも十分に意欲作だと言えるが、13人のメンバーそれぞれが作詞作曲に携わり自作のパートを歌唱した「Gangsta Vibes」や、前作に引き続きユニット曲も収録され、聴きどころ満載。作品を丸ごと楽しめることは当然として、今夜の気分に合った曲をセレクトして楽しむのもいいだろう。音楽的には最先端ながらも、ジャンル感としてはPOP(前身グループ)時代からのファンには懐かしさを感じるところもあり、そこがまた良き。
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FAKE TYPE.
FAKE SWING 2
和楽器を融合させた「Toon Bangers feat.DEMONDICE」。ケルト音楽を融合させた「ヨソモノ」。古からの民族音楽と、最先端のエレクトロ・スウィングを掛け合わせた2曲が象徴しているように、FAKE TYPE.だけの楽曲を生み出していくという果敢な挑戦が随所に見えるアルバムとなっている。nqrseや花譜などフィーチャリング・アーティストも豪華だが、エンターテイメント性を広げるだけではなく、トラックやリリックの意味を深めるために招いていることが、聴いているとよくわかる。高速ラップなどの実力も遺憾なく発揮しながら放たれる、リアルもファンタジーも昇華したメッセージがスウィングするダンス・ミュージックに乗って、踊るように日々を生きるエネルギーをくれる快作。
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GLIM SPANKY
The Goldmine
前作から1年3ヶ月というスパンで到着した7thアルバムで、GLIM SPANKYはさらなる扉を開いた。"金脈が見つかる鉱山"という意味を持つタイトルを冠した本作は、タイトル曲をはじめとしたライヴ会場を熱く沸かせるロック・チューンはもちろん、松尾レミ(Vo/Gt)の吠えるような歌声と重厚なグルーヴが絡み合う「Glitter Illusion」や、亀本寛貴(Gt)が奏でる軽やかなカッティングが心地よい海風を運んでくるAOR系統の「ラストシ-ン」、柔らかな光に包み込まれるようなサイケ感のある「真昼の幽霊(Interlude)」~「Summer Letter」など、全11曲、どれもがすべて主役級のクオリティを誇る楽曲ばかり。圧倒的な開放感が全身を突き抜けていく感覚を、音源とライヴでぜひとも感じてもらいたい。
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CANDY GO!GO!
IDOROCK-legacy-
"IDOROCK(アイドロック)の王道、語り継がれゆくこれまでと、突き進むこれから"の意味を持つ"legacy"を冠した、約4年半ぶりのフル・アルバム。無念にもコロナ禍で活動10周年を迎えた2020年発売の10周年記念ソング「Infinity」や「Since 2010~」、力強く前向きな気持ちを歌った「Understeer」(2021年)、勢いと希望に溢れた彼女らの最新型が見える「IN THE GAME」(2022年)。そして本作収録の最新曲たちと、波乱万丈ながら着実に前へ前へと足を進めている彼女らの軌跡が見える。各メンバーが作詞を務め、歌詞を書いた人がリードを取るシステムにより、楽曲からそれぞれの個性や考えが見えてくるのも面白い。曲調だけでなく、現状に満足することなく"こんなもんじゃねぇ"と吠える彼女らの姿勢に"アイドロック"を感じる。
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クジラ夜の街
月で読む絵本
待望のメジャー1stフル・アルバムは既発の「踊ろう命ある限り」や「BOOGIE MAN RADIO」などがこのアルバムの物語を構成するピースだったことが理解できる、よくぞここまで構築したなと驚愕する完成度。小説や映画のネタバレを恐れるのと同じくらい、SEひとつ取ってみても全体のストーリーの重要なピースであると想像できるので、各々の正解を実際にアルバムを通して聴いてもらうのが最良なのだが、強いて言えばラヴ・ストーリーもバディものも、架空の冒険譚と現実社会や生活のリアリティがないまぜになっており、しかも宮崎一晴(Vo/Gt)が描く情景を立体的に押し出す体験的な演奏のアイディアとスキルはさらに向上。そしてトリッキーな曲が多い彼らのレパートリーに直球の名曲「Memory」が加わったことは明らかな新章だ。
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Mirror,Mirror
MIRAISM 03
自分らしく突き進む個性派ピアノコア・アイドルが7~9月に3作連続配信リリースした「Chewing Star」、「REM」、「ココロマリアージュ」を含む、全6曲を収めたミニ・アルバム。5月に開催した3rdワンマンをソールド・アウトできなかった悔しさをバネに、4thワンマンに向けて死ぬ気で頑張った彼女らを支えた楽曲が並んだ今夏の総集編であり、メンバーにとって思い入れの強い作品になった。ポップでキュートな曲からクールでカッコいい曲、ライヴ映え必至の疾走感ある曲と、ミラミラの魅力が様々な角度から見えるカラフルな1枚。また、壮大にドラマチックに軽快にと、曲ごとに表情の異なるピアノの響きが華やかに楽曲を彩る"ピアノコア・サウンド"も聴き応え抜群だ。今作をしっかり聴き込んで、ライヴに挑もう。
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anew
異日常
始動1周年を目前に、待望の1stフル・アルバムが完成。幻想的でサイケデリックな空気を纏ったタイトル曲「異日常」や、骨太なリフを擁したダンス・チューン「ぼくたちに明日はない」、叙情系ハードコアな「偶像依存SHOW」に、タイトルからしてインパクト抜群なエモ・ナンバー「どうせ馬鹿にしてるだろ?」など、英国のJ-POPチャートで首位を叩き出した1stミニ・アルバムからさらに振り幅を広げつつ、より強烈な個性を放つ全10曲が収録された。また、ポップ・パンク的な解釈を施した"伝説のミュージシャン"ノリアキのカバー曲「Debut」や、TOKYO PINK所属のシンガー・ソングライター はる陽。が手掛けた、感傷的でドリーミーな「しゃぼん」など、とにかく良曲目白押し! さらに支持を集めそうな大充実作だ。
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MyGO!!!!!
迷跡波
始動から1年半をかけて放つ初のアルバムは、いい意味で期待を裏切る音楽性の幅の広さと、音楽的な懐の深さを1枚に凝縮した作品に仕上がった。王道ロックを突き詰めた「迷星叫」から始まり、痛快なパンク調の「壱雫空」、疾走感溢れる「碧天伴走」、ダンサブルな「影色舞」、洋楽ポップ・パンクを彷彿とさせる「歌いましょう鳴らしましょう」など、1曲ごとにキャッチフレーズをつけられるぐらい音楽的テーマが明確に感じられ、初のアルバムとは思えないレベルで楽曲が個々に光を放っている。アニメ放映が終わり、その締めくくりとして本作が提示されたことは、終わりを意味するわけではなく、バンドの始まりの物語とこれから始まる快進撃の"狼煙"として受け止めるべき出来事となる。
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Vaundy
replica
メガヒットした単曲の間にアルバム曲を入れることを良しとしなかった結果、コンセプチュアルなDisc 1とヒット曲満載のDisc 2という凄まじいボリュームに着地した本作。大歓声のSEのなか鳴らされる骨太なロック「ZERO」に始まり、R&Rリバイバルやネオ・ソウル、モダンなサイケなどが展開。肌感覚や体感に肉薄するヴォーカルや歌詞表現、「NEO JAPAN」に象徴される現実認識を通過してタイトル・チューンの巨大な音像に辿り着くVaundy流ロック・オペラと呼べそうなDisc 1こそが実質的な2ndアルバムなのだろう。それだけにメガヒットが並ぶDisc 2収録曲の1曲に込めるアイディア、キャッチーさの確度にも舌を巻いてしまう。話題の「トドメの一撃 feat. Cory Wong」のリッチなサウンドは驚きの新境地。
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神はサイコロを振らない
心海
心の海と書いて"心海"。凪、さざ波、荒波と表情を変えていく海のごとく、様々な心情が多彩なサウンド・アプローチで描かれた。自分の思いを音楽で伝えていく葛藤を清涼感あるポップ・サウンドに乗せた「What's a Pop?」や、"言葉一つ"ですべてを失いかねないこのSNS時代に警鐘を鳴らすロック・ナンバー「Division」、バンド全体でグルーヴィ且つ感情的に歌い上げるYaffle編曲の神サイ流ネオ・ソウル「スピリタス・レイク」、夏のきらめきが弾けるポップに振り切ったダンス・チューン「Popcorn 'n' Magic!」、そして最後は静かに孤独と愛を歌う「告白」で温かく包み込む。平和への願いやファンへの思いは切実ながら、大衆に届くようポップに昇華。Rin音やasmiとのコラボ曲も収録した充実の1枚だ。
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LUCY IN THE ROOM
Flowered
メンバーの5人中4人が作詞作曲ができるという強みが、多彩なレパートリーを可能にしているLUCY IN THE ROOM。2023年第2弾シングルの表題曲である「Flowered」はソウルやファンク、フュージョン・サウンドのイメージのある彼らには珍しく、且つ新鮮なアプローチである端正なビートと、どこか80年代のアイドル・ポップスをも想起させるテクノポップ・テイスト。終わってしまった恋愛を花の過去形をモチーフに表現した歌詞、R&Bやソウルの抑揚を抑えて、淡々と重ねていくヴォーカルもバンドにとって新たな側面と言えそう。2曲目の「夕立雨」はロック・テイストの中にジャズのスウィングが出てきたり、男女の視点が変わる歌詞といったさりげないテクニックも聴きどころ。ユニークな存在感を窺わせる1枚になった。
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くるり
感覚は道標
今回、オリジナル・メンバーで制作したのは90年代オルタナティヴ・ロックをひとつのモチーフとしていたからで、森 信行が戻った、というのはニュアンスが違うと本作を聴いて感じた。オルタナ、60年代英国のロックンロールやブギーからラテンまで、3人のセッションを起点に完成していった13曲には当時の焼き切れるような試行錯誤は感じない。でも当時よりカオスも一発鳴らせば吹き飛ぶようなエネルギーもある。特に「世界はこのまま変わらない」(のあとに"君が居なければ"と続くのだけれど)の多言は不要なパワー、「ばらの花」の構造とアレンジがモロに下敷きになっている「朝顔」など、単にいい曲以上の現在の迫力を自らの歴史を使って証明しているんじゃないか? 加えて先人への愛も随所に聴こえるのでぜひ耳を澄ませてみて。
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THE BACK HORN
最後に残るもの
結成25周年シングルの表題である「最後に残るもの」は菅波栄純(Gt)作詞作曲。バンドマンとしてもおそらくひとりの人間としても危ういときに"この手を掴んでくれたあなた"はファンやリスナーだったことを思わせる歌詞に、このバンドの真心が滲む。ごくシンプルな8ビートだが、Bメロのリズムの妙や楽器の抜き差しに実直なバンドが磨いてきた効果的なアレンジ力の高さが見て取れる。カップリングの「フェイクドラマ」は松田晋二(Dr)によるリアルが見えにくい時代だからこそ自分の体感や衝動を信じようという歌詞が山田将司(Vo)によるモダン・ヘヴィ・ロックにファンク要素も加わった曲構成で際立つ。2曲ともすべての楽器が見えそうな削ぎ落とされた生々しくも乾いた音像がこれまでの曲ともまた違うタフなエネルギーを発している。
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SCANDAL
ハイライトの中で僕らずっと
8月21日に結成17周年を迎え、"同一メンバーによる女性最長活動ロックバンド"としてギネス世界記録に認定されたSCANDALの29枚目のシングル。MAMI(Gt/Vo)作詞作曲の表題曲は、バンドの成熟した姿がそのまま反映されたかのようなクールなサウンドで、シンプルながら凝ったアレンジが印象的。SCANDALならではの構成で楽しませる。バンド人生の数々のハイライトをリスナーと共に過ごしてきた誇り、この先もともにハイライトを迎えたいという想い。その想いが色濃く表れた"いつか いつか命果てるまで/何度 何度でも分かち合おう"というフレーズには17年のすべてと新たな覚悟が込められているかのようで感慨深い。TOMOMI(Ba/Vo)作詞作曲の「CANDY」で見せるまた違う表情も頼もしい。さらに軽やかに、さらにたくましく。4人の強い意思を感じる1枚。
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Academic BANANA
Love Letter
前作『SEASON』から1年、作詞/作曲を手掛ける齋藤知輝(Vo)とアレンジを担当する萩原健太(Ba)のふたり体制となったAcademic BANANAの2ndアルバム。1曲目のリード曲「五月雨」はバンドの真骨頂というべきジャジーで都会的なネオ歌謡曲となったが、アルバムでは様々なサウンドの曲が並ぶ。今作では通常盤A、通常盤Bと収録曲違いでリリースとなっており、A盤では男性目線の「青いラブレター」、B盤では女性目線の「夕暮れに染まった手紙」を収録。それぞれの立場からの曲を置くことで、それ以降の曲は、同じ曲が収録されながらもドラマの主人公が変わって見えてくるような仕掛けとなっている。齋藤の繊細な歌声やその歌が表現する心の機微がシンプルに引き立ったそれぞれの曲も魅力で、余白の効いたラヴ・レターとなった。
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