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DISC REVIEW

Ballad Of A Misspent Youth

TUK SMITH & THE RESTLESS HEARTS

Ballad Of A Misspent Youth

70年代のグラマラスなロックを継承した"遅れて来たロック・スター"ことTuk Smith率いるTUK SMITH & THE RESTLESS HEARTS。MÖTLEY CRÜEとDEF LEPPARDのツアー・オープニング・アクトに抜擢(コロナ禍で開催は実現せず)されるなど、結成当初から注目の実力派だ。男臭いハード・ロックではなく、青春してる爽やかさがあって、聴く人を選ばない。懐古主義的ノスタルジックな魅力だけでなく、エネルギッシュなロックの魅力に気づいたMÅNESKIN以降の若いロック・リスナーにもリーチするフレッシュなサウンドは、ライヴハウスでもスタジアムでも輝きそうな柔軟性がある。日本盤のレトロ萌えポイントは、なんと言っても懐かしい邦題("しくじった青春のバラッド")。盤で買う特別感があっていい。

Plain White T's

PLAIN WHITE T'S

Plain White T's

2000年代エモ・シーンの重要バンド、PLAIN WHITE T'S。結成25年を超え、コンスタントにリリースも続ける彼らが、満を持してセルフ・タイトルのアルバムをリリースした。ポップ・パンク/エモ界隈からデビューしたバンドの中でも早い段階から、音楽性をそこまで変えないままポップ・シーンに順応したロックに上手くシフト・チェンジし、息の長い活動を続けてきた彼ら。今作は、そんなバンドの芯の部分が綺麗に磨かれた粒揃いのポップな楽曲が詰まったアルバムだ。エモのキュンとする切なさや、ソフト・ロックの温かなタッチ、ところどころに散りばめられたダンス・ロックの軽やかさ、それらがバランス良く作品としてまとまった、派手さはなくとも飽きが来ないという彼らの強みがとても良くわかる良作。

Transient

HEARSCAPE

Transient

フランスの女性リード・ヴォーカル&キーボード Léa Berthouxが率いるプログレッシヴ・ロック・バンド HEARSCAPEのデビュー・アルバム。RADIOHEADやMUSEといったイギリスのバンドから影響を受けているとのことで、歌詞は英語、かき鳴らす感じのギター、そしてプログレッシヴな曲調と、そのあたりのバンドのファンならばニヤニヤが止まらないようなそれっぽい雰囲気を纏っている。だが、それだけにとどまらないような、ヨーロッパっぽい不思議なおしゃれ感もあり、それに拍車を掛ける女性ヴォーカルの少々クセのある歌唱が堪らない。ピアノを効果的に使った音作りも、楽曲のドラマ性を演出していて引き込まれる要素のひとつだろう。アルバム終盤まで出し惜しみして効果的に用いられるフランス語の歌唱もセクシーでいい。

SURVIVE

キングサリ

SURVIVE

"生きる、活きる、イキる、熱きる、射切る"という、5つの"いきる"をコンセプトに活動しているキングサリが、Noisy IDOLからアルバムをリリース。MOSHIMOの岩淵紗貴(Vo/Gt)と一瀬貴之(Gt)、岡田典之(空想委員会/Ba)、松永天馬(アーバンギャルド/Vo)といった、彼女たちにとってお馴染みの作家陣は本作でも手腕を振るっていて、立ちはだかるものをすべて蹴散らして突き進んでいく姿を彷彿とさせる「王様デスゲーム」、強烈なまでにエモーショナルな「一矢報いて」、血気盛んな祭囃子や口上が飛び出す「金愚上等」といったロック・ナンバーや、新規軸となるクールで清涼感のあるEDM「Cuteness Nemesis」など、全12曲を収録。また、デビュー作『I KILL』収録の4曲も再録され、これまでとこれからが凝縮された1枚に仕上がった。

Beautiful Dreamer

fhána

Beautiful Dreamer

2023年にメジャー・デビュー10周年を迎え、春には日本コロムビアに移籍したfhánaの最新EPは、"夢"、"ドリーマー"がテーマとなった。1曲目「夢」はtowana(Vo)のポエトリー・リーディングでスタートする。誰かの夢、誰かの心にシンクロして静かに呼び掛けていくイマジネイティヴな始まりから、ポップで華やかな曲、メランコリーを帯びた曲が展開していく。日常の心の機微、あるいはめまぐるしく変化する世の中や、流れの速さに気持ちが追いつかないまま置いていかれてしまうやり場のない思いに寄り添って、もう一度夢見ることの尊さを掘り起こしてくれる、そんな6曲が並ぶ。その構築的なサウンドでまばゆく、優しい光を作り出していくような、fhánaというバンドの持つ世界観が凝縮された1枚。

Forbidden Fruit -1st piece-

East Of Eden

Forbidden Fruit -1st piece-

ヴァイオリニスト Ayasaが共演を熱望し、集結した湊 あかね(Vo)、Yuki(Gt)、わかざえもん(Ba)、MIZUKI(Dr)によるロック・バンド East Of Edenのメジャー1stミニ・アルバム。経験豊かなプレイヤーによるテクニカルな演奏と歌唱力抜群の迫力あるヴォーカルは圧倒的で、さらにはバラエティに富んだ楽曲群も秀逸、聴けば聴くほどバンド・アンサンブルの美しさと楽しさに惹き込まれる。8月8日に配信したデビュー曲「Evolve」から、バンドの姿をそのまま表したかのような潔さが爽快な「花美」まで、とても全5曲とは思えないほどの充実感に驚かされるが、この密度の濃さも彼女たちの武器のひとつ。王道ロックからキャッチーなナンバーまでライヴ感溢れる1枚だ。それぞれの持つ力を惜しみなく出し切り、勝負に挑む姿が頼もしい。

〇

いきものがかり

ふたり体制になったいきものがかりの10枚目のアルバムは、タイトルが示す通り、どんな自分にも"〇"(まる)をつけることの大切さを教えてくれる。あれがない、これがない、あれができない、これができないと何かと理由をつけては自分を減点することに慣れてしまっている私たち。そんな人間が自分に"〇"をつけるだなんて、そう簡単なことではない。それでも、それすら踏まえたうえで"〇"をつけていくことでしか、人はこの先の未来へと進んでいくことはできない。あれがない私も"〇"、これができない私も"〇"。ひとつずつでいい、ゆっくりでいい。すべてを抱きしめたとき、信じられないほどの力が湧いてくるから。そのときにしか見えない景色と、本当の意味での勇気が、このアルバムには描かれている。

OZ three

MIGMA SHELTER

OZ three

ミミミユが卒業し7人組になったMIGMA SHELTER。彼女たちによる"オズの魔法使い"×"サイケデリック・トランス"の3部作シングルが本作で完結した。「Brave」はバキバキに攻めたパートとじっくり聴かせるパートの緩急が印象的な1曲。オズで"Brave"="勇気"というと臆病なライオンをイメージさせるが、本楽曲はライオンをフィルターとしてMIGMA SHELTER自身のことを歌っているようにも思える。真偽のほどは定かではないが、いろいろと考察できる楽曲には間違いない。「Any Colours」はめまぐるしい展開に合わせて歌唱、ラップ、語りと様々な声の表現が盛り込まれているところが個性的。3部作の完結に相応しく、ドロシーと物語を総括するような歌詞も注目ポイントだ。

The Pages

町田ちま

The Pages

"にじさんじ"所属のVTuberユニット Nornisとして戌亥とことタッグを組んでいる町田ちまが、このたびソロで1stミニ・アルバムを完成させた。錚々たるクリエイターが紡いだ5つの"物語"を、しなやかにハイトーン・ヴォイスを使いこなしながら歌い上げている。なきそ作詞作曲の「背後に注意」は、"背後に注意"、"吐いたらご自由に"という小気味良くもドキドキするリフレインが、町田がピュアに歌うことによって、より印象的な仕上がりになっている。かと思えば、ひろき(リリィ、さよなら。)作詞作曲の「つぎはぎどうし」は、シンプルなバラードで、疲弊した心身にじんわり染みわたるような温かさがある。まるで短編小説を読んでいるような曲ごとの鮮やかな変化に、町田の表現力が感じられる佳作。

Blue Earth

Alstroemeria

Blue Earth

愛知県豊橋市を拠点に活動するAlstroemeriaが、結成5年にして1stフル・アルバムを完成させた。初期の高校時代、いわゆる王道の邦楽ギター・ロックや2ビートのパンクを鳴らしていた3人が、音楽的にも歌詞表現的にも自然に変化、成長した今を聴くことができる。中でも重層的なギターのアレンジや凝ったコーラスが孤独な深夜の時間帯をイメージさせる「じゃあね、霞む灰色」や、学生のときとは違う友達の大切さに共感できる「7179」、ソングライターのりくお。(Vo/Gt)が初めて女性目線で歌詞を書いたという「つよがり」、2ビートから進化したスピード感をカウパンク調のビートで体現した「セルフィッシュガール」など、バンドの現在地を示唆する10曲。不安や曖昧な気持ちすら愛しく思える、言葉や音のリアリティが聴き手に寄り添う。

BLACK WINE

HANCE

BLACK WINE

"大人の、大人による、大人のためのシネマティックミュージック"を掲げ、洒脱でイマジネイティヴな音楽を編み上げていくHANCEによる2ndアルバム。40代でアーティスト・デビューをした異色の存在だが、社会のなんとなくの常識に構うことなく好きなものを追求していくその贅沢さが、アルバムに詰まっている。アイディアを形にするのは、培ってきた経験や知識であり、磨いてきた美意識。ポップスやロック、フォークやエレクトロ・ミュージック、また映画音楽などからの影響はもちろん、様々なアートや旅、人とのコミュニケーションで日々生まれる心の機微が、ビターな隠し味が効いた甘美なメロディとなって紡がれる。時をかけて熟成されたワインが、誰かとの会話や時間を豊かにしてくれるように、この音楽も饒舌で味わい深い。

カラタチの夢

大橋トリオ

カラタチの夢

今年1月にデビュー15周年を締めくくるコラボ・ベスト・アルバムをリリースした大橋トリオの新作EPは、人気ドラマ"きのう何食べた? season2"OPテーマの「カラタチの夢」をはじめ、ドラマやテレビ番組など映像世界を音楽で彩った楽曲が揃う。ストリングス以外はすべて大橋の演奏による"ひとりグルーヴ"が近い聴感を与え、表題曲ではカントリー調の温かなニュアンスの中で、今を生きることのかけがえのなさが歌われる。アメリカン・フォークを想起させる「黄昏メロウ」(BS-TBS"美しい日本に出会う旅"OPテーマ)の旅情、「7番通りの曲がり角で」でのコラボも記憶に新しいkojikojiが作詞で参加した愛おしいグッド・ミュージック「小さな種たち」や先行配信曲を収録した、現代に深く沁みる名曲集。

マイナスゼロ

空白ごっこ

マイナスゼロ

何もないけど何かある"空(くう)"の世界観を"心"に例えて、その精神世界で遊ぶ(ごっこする)ことをコンセプトにした音楽プロジェクト、空白ごっこが1stフル・アルバム『マイナスゼロ』を発表。"どこまでいってもずっと満たされない感覚がある"という言葉から生まれたというタイトルの通り、貪欲な音楽的探求心が具現化した1枚になった。ポエトリー・リーディングを取り入れた「go around」から疾走感溢れる「ゴウスト」への展開、中毒性抜群の「乱」という冒頭3曲で一気に引き込まれる。葛藤を吐露した内省的な楽曲が多いが、決してダウナーな印象は受けない。それはセツコのエモーショナルな歌声、koyoriと針原 翼が手掛ける色彩豊かな楽曲たちが、アルバムという枠の中で最大限に"ごっこ"しているからなのだろう。

twilight

kalmia

twilight

ライヴをコンスタントに行いつつ、リリースのペースも加速中のkalmia。今年2作目のミニ・アルバムには、自らの王道をアップデートした曲や再録曲を収録しつつ、夏が舞台の青春恋愛ソングや、ウエディング・ソングにも挑戦。千葉一稀(Vo/Gt)のソングライティングの幅は格段に広がった。サウンド面では前作に引き続きシーケンスを導入。総じてポップな方向に舵を切ったように思えるが、バンドのサウンドはむしろよりロックになっている。泣きのギター、力強いベース、キレの良いドラムによるアンサンブルからは、ライヴ・バンドならではの熱量と"4人で鳴らせばkalmiaになる"という自信が感じられた。バンドの音に宿る物語とあなたの人生の物語を重ねながら聴いてほしい。

Distance to you

u named (radica)

Distance to you

細やかなところまでこだわりが詰まった1枚。ヨシダマサト(Ba)がエンジニアまで手掛けることで、楽曲の世界観が忠実にパッケージされている。大人になることへの葛藤や、置き去りにしてしまった過去といった、心の中で燻り続けている想いに、美しい風景や表現を重ね合わせて、しっくりと寄り添ってくれる歌詞。ロック・バンドという軸足がぶれることなく、アレンジや音色、歌い方などで広がりをもたらした曲調。あらゆるところに、可能性が溢れている。バンドの世界観に宿った少年性/少女性の根幹を形作る令(Vo/Gt)の柔らかく高い、それでいて芯のある歌声も魅力的だ。"失ってから気づくものなんて無かった/常に何かを忘れ続けているだけ"と歌う1曲目「アンファ」にハッとさせられてから全6曲、耳が離せない。

Black Crack

葛葉

Black Crack

"にじさんじ"所属のVTuber、葛葉の1stシングル。本楽曲は、Netflixのアニメ"グッド・ナイト・ワールド"のOPテーマとなっている。"薄汚い最低現実/反比例さ 目映い架空"と吐き出すように歌い上げると、アグレッシヴなバンド・サウンドになだれ込んでいくという怒濤のオープニング。アニメの世界観に寄り添ったものになっているし、作詞は溝口貴紀が手掛けているものの、これは葛葉自身の心の叫びではなかろうか? と思えるような、現実と仮想空間の狭間での葛葉が矢継ぎ早に歌われている。"心さえ 知らなけりゃ/こんなに 苦しまねえな"という一節は、寂し気であり、温かさもあり、人間味が滲む。カップリングには、先行配信された「Liberty & Freedom」と新曲「Dummy Break」を収録。

Telescope

戌亥とこ

Telescope

OSTER projectやmajikoなど、VTuberの世界に詳しくない人にも知られているような名だたるクリエイターが楽曲を提供。すでにVTuberとして多大な人気を博しているとは言え、1stミニ・アルバムとしてはプレッシャーでは......という心配を飄々と跳ね除けるように、多彩な全5曲を魅力的なロー・ヴォイスでのびのびと歌い上げている。特にシティ・ポップのエッセンスの乗りこなし方がしなやかで、VTuberの世界を飛び越えるだけではなく、海外の注目度も高めていきそうな予感がする。ゆったりと聴けるかと思いきや、"腹を空かせた赤鬼が言う「どちらまで?」"と、戌亥とこが見せるひとつの個性=地獄の風景が描かれている「六道伍感さんぽ」など、どの楽曲も聴き応えたっぷりだ。

The Night Park E.P.

GANG PARADE

The Night Park E.P.

新たなクリエイター陣を起用した"夜"をテーマとするコンセプトEP。本作では様々な夜の表情を切り取ったエレクトロやダンス・ミュージックを主軸とした楽曲が、近年でロックを主とした作品を世に送り出してきたギャンパレのイメージをいい意味で壊している。それだけでも十分に意欲作だと言えるが、13人のメンバーそれぞれが作詞作曲に携わり自作のパートを歌唱した「Gangsta Vibes」や、前作に引き続きユニット曲も収録され、聴きどころ満載。作品を丸ごと楽しめることは当然として、今夜の気分に合った曲をセレクトして楽しむのもいいだろう。音楽的には最先端ながらも、ジャンル感としてはPOP(前身グループ)時代からのファンには懐かしさを感じるところもあり、そこがまた良き。

FAKE SWING 2

FAKE TYPE.

FAKE SWING 2

和楽器を融合させた「Toon Bangers feat.DEMONDICE」。ケルト音楽を融合させた「ヨソモノ」。古からの民族音楽と、最先端のエレクトロ・スウィングを掛け合わせた2曲が象徴しているように、FAKE TYPE.だけの楽曲を生み出していくという果敢な挑戦が随所に見えるアルバムとなっている。nqrseや花譜などフィーチャリング・アーティストも豪華だが、エンターテイメント性を広げるだけではなく、トラックやリリックの意味を深めるために招いていることが、聴いているとよくわかる。高速ラップなどの実力も遺憾なく発揮しながら放たれる、リアルもファンタジーも昇華したメッセージがスウィングするダンス・ミュージックに乗って、踊るように日々を生きるエネルギーをくれる快作。

Autumn Variations

Ed Sheeran

Autumn Variations

秋をテーマに14人の物語を歌った14曲。恋に落ちる瞬間を描写しながらも哀愁漂うサウンドの「Magical」、小気味良いリズムとは裏腹に重く沈んだ心を映す歌詞が胸に迫る「Plastic Bag」、微笑ましいふたりの些細な幸せを切り取った「American Town」、別れを受け入れられず行き場を失った愛をエモーショナルに歌い上げる「Punchline」、ひとりで過ごす誕生日を切なくも軽やかなメロディに乗せ描いた「The Day I Was Born」など14のリアルなストーリーが、少し感傷的な秋の空気感を纏いパッケージされた。随所に深い悲しみを覗かせる歌詞は前作から通ずるところだが、綴られた美しい言葉たちはより文学的に。ぜひ歌詞カードを片手に聴いてほしい1枚だ。