DISC REVIEW
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Myuk
Arcana
ブレス多めで甘さと芯の強さを併せ持つ声が魅力のMyukの名刺代わりとなる1stアルバム。ネット・ミュージックのクリエイションとの親和性を証明したEve作の「魔法」、ポップなソウルやシティ・ポップのニュアンスで冴えを見せる作曲家 大久保友裕によるスウィートな「Snow」、tofubeats作のピアノ・リフが印象的なテクノ・ポップ「Gift」など、タイトル"Arcana"の"Arca"=容れ物/方舟が象徴するように、どんなジャンルでも消化する彼女の器の大きさを実感。中でも若手クリエーター Guianoによる「Arcana」のソリッドなファンタジーや漢字多めの歌詞の押韻、同じく彼作の「愛の唄」の鋭いトラック、ササノマリイ(ねこぼーろ)による「encore bremen」のエレクトロとジャズの邂逅に乗る歌唱はかなりの中毒性の高さ。
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愛はズボーン
MIRACLE MILK
テーマは"ミラクル"、"マジカル"、"ケミカル"の3ワードという、愛はズボーンの4thフル・アルバム。まさに、それらの感覚が全12曲を通して散りばめられた1枚になっている。赤ちゃんの泣き声や牛の鳴き声を交えながら"また1日が始まる"と切り出す「IN OUT YOU~Good Introduction~」から、言葉遊びと音遊びが炸裂。とはいえ、ぶっ飛んでいるだけではなく、"ヒーローは遅れて現れる/それが愛はズボーン式/スーパーエンターテイメント"という歌詞の通りのストレートな勢いを感じることもできる。ラップと歌を行き来する声に秘めたグッド・メロディと極彩色の音色が描く、混沌としたポップな世界観。皮肉も熱情も真実も溶かした心地いいミルクを飲めば、明日からも踊りながら生きていける。
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め組
七変化
約2年ぶりのパッケージ作品は、4枚目となるミニ・アルバム。キャッチーなワードを盛り込みながら、憤りをポジティヴに爆発させる「咲きたい」や、力強いバンド・サウンドで瑞々しさを放ちつつも、どこか寂しげな「さたやみ」、ストリングスと跳ねるビートが胸を締めつける「ストレージ」など、日常の様々な場面から生まれてきた決して明るくはない感情が綴られた楽曲たちがずらりと並んでいる。また、ダンサブルなエレクトロ・ミュージックの意匠を施しつつも、歌詞の内容はかなり重苦しい「(I am)キッチンドリンカーズハイ」のような、バンドにとってトライな部分もありつつ、それらをラスト・ナンバーの「It's a 大愛万国博覧会」できっちり回収していくようなドラマチックな流れが見事。
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アンと私
FALL DOWN 2
自称"どうせ裏アカでしか呟かれないバンド"、アンと私。どこを切り取ってもインパクトのある生々しい歌詞が並び、そのキャッチーさも相まってTikTokとの相性は抜群。バンド始動から早々にバイラル・ヒットを生んだのももはや必然に思える。そんな彼らの初CD作品は、EP『FALL DOWN』に初期の名曲の再録や新曲を追加し、ここまでの活動の充実度を物語る1stフル・アルバムにしてベスト盤と言える1枚となった。その振り切った歌詞に注目が集まりがちだが、ヘヴィでソリッドな「FALL DOWN」から「Tinder」のような爽やかなロック・チューン、「クソラスト」のようなフロアを無条件に躍らせる四つ打ち曲など、2010年代邦ロックを醸すサウンドの多彩さも秀逸。SNSからライヴハウスまでを席巻していくことだろう。
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群咲
お先☆真っ眩
群咲にとって初の全国流通となる2ndミニ・アルバム。グルーヴィなサウンドで身体を強く揺さぶってくる「ただ、灰に塗れる」に始まり、耳にこびりついて離れなくなる強烈なリフレインを擁した、超アッパーな「一般ピポピポ」、自身の経験をもとに怒りの感情を殴り書いた「模造生活」に近しい雰囲気がありつつも、時折飛び出す痛烈な言葉を荒々しくも艶のある声で歌うダンサブルな「他問他答」など、全6曲を収録。どの楽曲にも、日常生活で感じる息苦しさが通底しているところは、なんともこのユニットらしいところだが、柔らかな歌声とハーモニーで"はじまり"を綴ったスロウ・ナンバー「いつかさよならのためのうた」は、応援歌のようにも響く形になっていて、また新たな表情を見せる楽曲に仕上がった。
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SUIREN
Reverse
TVアニメ"キングダム"第4シリーズOPテーマに「黎-ray-」を書き下ろし、脚光を浴びたSUIRENがメジャー1st EPを完成。モダン・ヘヴィ・ロックやマスロック的な構築美で聴かせつつ、このユニットの本質はSuiの歌とRenのピアノで成立するメロディと骨格の強さにあることを思い知る。ゲーム"STAR OCEAN THE SECOND STORY R"メイン・テーマでもある代表曲「stella」の高音ロング・トーンで際立つSuiのジェンダーレスなヴォーカルが虚無や宇宙を感じる空間をギター、ピアノ、ストリングスの洪水のようなアンサンブルの中でも鮮明に聴こえるカタルシス。インストの「白雨」からラストの「Squalling」に接続する物語性も聴き応え十分。ひとりで物事を真剣に考えるときの脳内を映すような言葉と音像も見事だ。
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DIALOGUE+
イージー?ハード?しかして進めっ!
田淵智也(UNISON SQUARE GARDEN)が音楽プロデューサーを務める女性声優8人組のアーティスト・ユニット、DIALOGUE+の10thシングルは、アニメ"弱キャラ友崎くん 2nd STAGE"のOP&EDテーマをW収録。田淵が作詞作曲、編曲を伊藤 翼が手掛けたOPテーマ「イージー?ハード?しかして進めっ!」は、電子音を効果的に挟み込みつつ、圧倒的なポップさと瑞々しさを振り撒きながら賑やかに駆け抜けていくアップチューン。EDテーマの「誰かじゃないから」は、歌詞を大胡田なつき、作曲を成田ハネダと、パスピエのふたりが担当。ストリングスが流麗に鳴り響く、洒脱でダンサブルなポップ・ナンバーになっている。これまでも良曲を送り出し続けているグループなだけあって、音楽ファンも激しく唸らせる仕上がり。
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ukka
青春小節~音楽紀行~
ukkaがメジャー1stフル・アルバム『青春小節~音楽紀行~』をリリースした。結成から約7年、2022年11月にメジャー・デビューを果たした彼女たちの待望のフル・アルバムは、"音楽紀行"をキーワードに人生(ストーリー)経験を辿るような様々なサウンド/音楽要素を取り入れた1枚に。ライヴのSEとしてもお馴染みのオーバーチュアを皮切りに、爽快なロック・ナンバー「Rising dream」、ukka流ニュートロとも言える「don't say Love」、EDMテイストに仕上げた「コズミック・フロート」、そして昨年をもって卒業したメンバー 川瀬あやめの想いが歌詞とリンクするリード曲「つなぐ」など全12曲を収録。グループとしてひとつの節目を迎えた彼女たちが見せる多彩な音楽性と表現力が凝縮されている。
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MAPA
Snowbud / BIGHOUSE
MAPAの現体制ラスト・シングル。その1曲目「Snowbud」は、ポエトリーと歌唱が行き来するバラード・ナンバーだ。これまでMAPAの音楽プロデュースを務めてきた大森靖子に加えて、グループを率いる古正寺恵巳が制作に参加した歌詞と、メンバーのシリアスな歌唱、そして楽曲を支える四天王バンドが織りなすサウンドスケープは、厳しくも美しい雪景色を思わせ、聴いていて胸をギュッと締めつけられる。もう1曲はジェットコースター的な曲展開が楽しい「BIGHOUSE」。彼女たちのホームであるライヴハウスをテーマにしたハートフルな楽曲で、ところどころでクスッと笑える歌詞と、ハイテンションで楽しそうな4人の歌声が心を解してくれる。冬の魅力、ライヴハウスの魅力を再認識させてくれたシングルだ。
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MGMT
Loss Of Life
MGMTが、約6年ぶり5枚目となる新作を発表した。原点回帰を果たした前作『Little Dark Age』は表題曲がTikTokで人気を集め、新たな層からの支持も得つつある彼らだが、本作では新たなフェーズのポップへの探求へと歩み出したようだ。前半ではOASISを彷彿させるギター・ロックのTrack.2、女性Voとのハーモニーが美しいTrack.3など、バンド・サウンドを軸に普遍的なポップネスを展開。後半ではエクスペリメンタルな側面が顔を覗かせていて、サイケの海に沈みゆくようなTrack.8、グリッチ・サウンドの中で幽玄なヴォーカルが漂うTrack.10と、摩訶不思議だが温かみのある世界へと変化していく様が心地よい。大衆性と実験性を高次元で両立させた意欲作だ。
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THE KILLERS
Rebel Diamonds
THE KILLERSのデビュー作『Hot Fuss』からなんと今年で20年。日本でもクラブ・ヒットした「Mr. Brightside」や「Somebody Told Me」など、すこぶるキャッチーな名曲を収録した同作を聴いて、彼らが一発屋になるんじゃないかと心配した方も多いんじゃなかろうか。ところが彼らはその後20年近く、順調に質を落とさぬポップさと、玄人好みのインディー感も併せ持った不思議な魅力でヒットを飛ばし続けた。このベスト盤は、そんな彼らのすべてのアルバムから、それぞれの作品を代表する粒揃いのダイヤモンドのように煌びやかな楽曲を集めた、美しいジュエリー・ボックスのような1枚。新曲3曲も、懐かしさのあるシンセと伸びやかなメロディが響く、新たなフェス・アンセムとして定着しそうな、これまた名曲だ。
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POP MARSHAL
Rejoice!
2022年、その活動にひと区切りをつけたHEADSPARKS。来日ツアーを行うなど、ここ日本でもUKメロディック・ファンの間で愛されていたそのバンドのメンバーが、POP MARSHALとして再始動。メンバーを変えると、長年愛されたバンドから印象を変えることを目指すバンドも多いが、彼らはあくまで自分たちが積み上げてきたものを上手く生かし、ファンの期待に応えるものを作り上げた。特に、中心メンバーのAndy Barnardは、90年代から様々なバンドでシーンを支えてきた実力派だけあって、安定したメロディメーカーとしての才能を存分に発揮している。耳に残るギター・フレーズ、口ずさみやすいメロディ、ワクワクするようなテンションのリズム、これぞ愛すべきメロディック・パンクだ。
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羊文学
12 hugs (like butterflies)
TVCMや話題のアニメとのタイアップなど着実にその名を広め、この1年でぐっとファン層を拡大した羊文学。海外公演の成功に、初の横浜アリーナワンマン決定など勢いに乗る今、躍進の2023年を締めくくる1枚が到着した。命の灯をそっと手で包み込むような「Hug.m4a」から、クラブ・ミュージック風の四つ打ちが生む推進力と力強い歌詞が背中を押す「more than words」、サウンドの透明感と大切な人を守りたいという想いが眩しい「永遠のブルー」、無自覚に傷ついていく心の奥に秘めた本音を解放する「honestly」など、弱さと向き合い前に進むための12曲が聴く者を優しく抱きしめ癒していく。洗練された空気感はさらに研ぎ澄まされながら、より彩り豊かに。明度を上げさらなる存在感を放つ羊文学に期待。
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Lenny code fiction
花束
約5年ぶりのアルバム『ハッピーエンドを始めたい』を今年7月に発売、同作を引っ提げたリリース・ツアーを現在開催中のLenny code fictionから、早くもニュー・シングルが到着。TVアニメ"新しい上司はど天然"のEDテーマに起用されている表題曲「花束」は、前述したアルバムの世界観と地続きながらも、80'sテイストのシンセはレニーのアンサンブルに心地よい浮遊感と耳新しさを与えている。また、c/wには夜が似合う打ち込みが印象的な「チープナイト」と、ストレートなバンド・サウンドを湛えた「それぞれの青」という、表題曲とは趣向を変えた2曲を収録。片桐 航(Vo/Gt)が自身と向き合うことで生まれた2ndアルバムを経て、今作で綴られた"今贈りたい歌詞"をあなたも受け取ってみては。
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PK shampoo
再定義 E.P
圧倒的な熱量で鳴らすバンド・サウンドと荒々しくも繊細なヴォーカル、綴られた言葉に滲む物語と心揺さぶるグッド・メロディ。2018年の結成以来、各地のライヴハウスを沸かせてきたPK shampooがついにメジャー進出した。過去曲「君の秘密になりたい」から引用された歌詞がロマンチックに響く「死がふたりを分かつまで」、メロコア要素を盛り込んだファスト・チューン「あきらめのすべて」、ヤマトパンクス(Vo/Gt)のソロ曲がよりエモーショナルに生まれ変わった「第三種接近遭遇」、曲の持つエネルギーは残しつつ洗練された名曲「神崎川」の再録と、バンドを"再定義"するための4曲。さらに初回盤には大阪城音楽堂をライヴハウスに変えたあの熱狂のワンマンも収録、メジャー・シーンにその名を轟かしていくであろう彼らの名刺代わりの1枚だ。
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清 竜人
遥か
TVアニメ"Dr.STONE NEW WORLD"第2クールOPテーマとして反響を呼んでいる「遥か」。儚さを内包しながらも力強く歌い上げるヴォーカルに、爽快なギター、重厚感のあるストリングスが押し寄せるグルーヴはアニメの壮大な世界観とリンクする。アニメ主題歌書き下ろしは自身2作目とのことだが、これほど自然に物語との親和性を引き出せるのは、多彩なアプローチで磨かれたポップ・センスと比類なきキャリアによるものだろう。またDVDに収録のMVでは、神聖な世界でひたむきに生きる巫女の姿が描かれており、期待と失望のなかで前を向いて生きる等身大の詞世界が美しさとともに浸透している。遥か先でも歌い続けるという強い意志と素朴な優しさが紡がれた本楽曲は、アニメ・ファンのみならず多くの人に勇気を届けるポップ・ソングだ。
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a子
Steal your heart
生きることがしんどそうなのは誰より常識に違和感を抱いているからで、そのことを自分なりの言葉とメロディと声で表現すると必然的に歪なポップになる。しかもa子はリスナーとして70年代プログレから椎名林檎から、Billie Eilish、MEN I TRUSTなど、いい意味で雑食。それらのエレメントがこの3rd EPではひとまとまりのニュアンスを生んでいる。初のドラマ・タイアップ曲「あたしの全部を愛せない」に始まり、コラボも実現した佐藤千亜妃が"関ジャム 完全燃SHOW"で取り上げた「太陽」まで全5曲を収録した本作は全編で、よりコケティッシュでセンシュアルな側面を加味した独特のウィスパーとエキゾチックなメロディが、淡いイメージであるにもかかわらず挑発的。生音が混じりながら密室的な音像もユニークだ。
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ももすももす
白猫浪漫
ももすももすが、ソニー・ミュージックレーベルズ移籍後初となるニュー・アルバム『白猫浪漫』をリリースした。アルバムには、TVアニメ"魔王学院の不適合者 Ⅱ ~史上最強の魔王の始祖、転生して子孫たちの学校へ通う~"EDテーマ「エソア」や同曲のバラードver.、TVアニメ"帰還者の魔法は特別です"EDテーマ"6を撫でる"、読売テレビ"川島・山内のマンガ沼"EDテーマなど多数のタイアップ曲を含む全13曲を収録。バラエティに富んだ作品に仕上がっている印象を受けるが、本作で窺えるサウンドの幅広さは、真部脩一(ex-相対性理論/Ba)や、ナカシマ(おいしくるメロンパン/Vo/Gt)といった参加ミュージシャンたちの存在によるところも大きいのだろう。シンガー・ソングライターとして新たなスタートを感じる意欲作。
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宮下 遊
白雨の下
ネット・シーンを中心に活動するマルチ・クリエイター 宮下 遊。シンガー、イラストレーターとして、また作詞作曲/編曲のほか、ミックス、マスタリング、またアニメーションMVの制作などの裏方として、その活動は多岐にわたる。今回リリースされる5thアルバムも、シンプルに"音楽"という箱に収まり切らない表現に誘われる、壮大な作品になっている。それを形作るべく、入口となる1曲目の、ばぶちゃん作詞作曲による「夜の積み木部屋」から、多彩なクリエイターが参加。皮肉やユーモアを交えつつ、死生観が覗く歌詞の世界も聴きどころで、自身が作詞作曲/編曲を手掛けた、様々な声色と曲調で物語を紡ぎながら"私 ここが死に場所だった"と締めくくる「白炎」は、物語に潜む本音が見えるようだ。
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QUEENS
冠波心掴
QUEENSの冠を掲げ、新たな波を起こし、ファンの心を動かして、未来をがっちり掴む。そんな意味を含む、グループの決意表明となる造語をタイトルに掲げ、"次のステージに進むための挑戦"をテーマに完成させた、アイドル・グループ QUEENSの1年3ヶ月ぶりとなるシングル。不穏なイントロSEから始まる新曲「WAVE」は、"踊れるロックアイドル"の原点を思わせるストレートなロック・チューンに、ヒップホップ調のラップ・パート、さらにEDM調のエレクトロ・サウンドへと展開。QUEENSの魅力てんこ盛りといった感のある、独創的活動を展開するグループの最新型を具現化した楽曲だ。勢いと壮大さを併せ持つ「Bullet」、パリピ感ある「ANNIVERSARY」と、クセ強な楽曲たちが、次のステージへの無限の可能性を感じさせてくれる。
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