Japanese
KAKASHI presents "灯火祭2017"
Skream! マガジン 2017年10月号掲載
2017.10.28 @高崎clubFLEEZ / 高崎clubFLEEZ-Asile / 群馬SUNBURST
Writer 沖 さやこ
時代を作るのはフェスだろうか。メディアだろうか。SNSだろうか。否、時代を作るのはライヴハウスであると提言したい。時代はいまこの瞬間もライヴハウス、中でもその土地に根づいた小さいキャパシティのライヴハウスで確実に動いている。第一線で活躍するあのバンドも、世代を超えて愛されているあのバンドも、もともとはバンドにとって身近な小さなライヴハウスから始まった。もちろんライヴハウス以外にも、インターネットや路上ライヴなどからムーヴメントが起こることもある。だが、ライヴハウスは演者、観客、スタッフなど、音楽を愛するものが一堂に会する場所。狭くて暗い箱の中で音楽や想いを全身で発信し吸収し交換する、その純度や濃度の高さは抜きん出ていると言ってもいい。
"灯火祭"は群馬県前橋市出身の4人組バンド、KAKASHIが主催するサーキット・イベントで、2016年に始動した。初年度は高崎clubFLEEZと高崎clubFLEEZ-Asileで17組の熱演が繰り広げられ、2回目となる今年はさらに規模を拡大。群馬SUNBURSTを加えた全3会場に、総勢28組が出演した。
彼らは開催のきっかけを"群馬のライヴハウスのスケジュールを見て地元バンド、ツアー・バンドが減ったと感じ、このままでは群馬のライヴハウスの灯りが消えてしまうのではと思ってしまった"と話す。結成から2年ほどで拠点を東京に移し、思い入れのある地元を客観的に見ることができた若者ならではの発想だろう。群馬を離れ東京で揉まれてきたアマチュア・バンドの彼らが、群馬以外の場所で出会い、信頼関係を築いた同世代のバンドや尊敬する先輩バンドを率いて帰郷する――並々ならぬ覚悟が必要だったことは想像に難くない。
当日午前11時30分、高崎clubFLEEZ。すでに建物の前には出演するバンドマンや、若い観客が男女多数集まっていた。会場整理をしていた人物に受付を問うと、KAKASHIのメンバーがやってきて直々に応対してくれた。灯火祭は企画、運営などすべてがKAKASHIメンバーによるDIY。メンバー全員で業務を手分けしながら当日を取り仕切っていた。
オープニング・アクトとして登場したのはハザマリツシ。ex-寸止海峡のフロントマンで、KAKASHIの堀越颯太(Vo/Gt)、中屋敷智裕(Ba/Cho)、齊藤雅弘(Gt)の専門学校の同級生でもある。オケを流して歌とラップを披露するスタイルで、フロアの真ん中に入ってパフォーマンスをしたり、フリップを使ってKAKASHIをいじりまくり、スタッフに背中を叩かれながら歌い人力オートチューンを披露するなど、たった10分に真面目におバカなステージを凝縮。観客からも笑いが絶えず、KAKASHIのメンバーもその様子をステージ袖や舞台端から微笑ましく見守っていた。そのあとの主催挨拶では中屋敷が"灯火祭は1年の集大成"と語り、齊藤は"今日来てくださったみなさんが楽しんで帰ってくれたら嬉しい"と続ける。ふたりの"灯火祭、始まります!"の掛け声とともにトップバッター・KOTORIのライヴがスタートし、とうとう灯火祭の幕が開けた。
灯火祭は出演者すべてがKAKASHIと縁の深いアーティストたちだ。2016年に"MASH FIGHT!vol.5"のグランプリを獲得し、今年5月に初の全国流通盤をリリースしたSaucy Dogは"仲間が作るイベントは自然と気合が入る"と話す。25分で計5曲を演奏し、素朴ながらにドラマ性の高い曲展開と音作り、曲の情景を繊細に描くヴォーカルで観客を魅了した。
そのあとすぐSUNBURSTに移動しkoboreを観に行くもすでに会場は満員で、観客はフロアの外の階段まで溢れていた。できる限り近づいてみるも入り口前までが限界。ただ音漏れを聴くだけでも夏よりもバンドの骨太度は上がっていて、スケールも大きくなっていた。伝えたいことを楽曲とMCでもってしっかりとストーリーにしたうえでハートをぶつけていく。注目度の高さに比例し、バンドも脂が乗っているようだ。
the ironyはリハから本番さながらの演奏。本編でも曲を颯爽と着こなすようにスマートなライヴを展開する。シンガロング、クラップ、テンポのいい曲運びと、全方位のツボを押さえたパフォーマンス。ダンス・ロック好きにも歌モノ好きにも、聴き入りたい人にも盛り上がりたい人にも対応した、まさにライヴ・シーンの盛り上がりが生んだバンドと言ってもいいだろう。華やかなステージングに観客も見惚れていた。
再びFLEEZに戻ると、ステージにはircle。河内健悟(Vo/Gt)がしゃがれ声で"KAKASHIにもっと火つけるぞ!"と叫び、「呼吸を忘れて」、「セブンティーン」を畳み掛ける。牙を剥いて掴みかかるような彼らのパワーの源は、この先も音楽に人生を捧げる覚悟だろう。そんな彼らのステージは観客ひとりひとりに"お前はどう生きていく?"と問い掛けるようだ。生き様をぶつけるライヴは、先輩から後輩に捧げる最大のリスペクトだった。
リハでライヴの定番曲「ドア」と「唄う」を演奏したWOMCADOLEは、未発表の新曲「絶望を撃て」、「月」を交えたセット・リストで攻める。この日はフロントマン/ソングライターの樋口侑希(Vo/Gt)の人間力が楽曲と演奏の核となるライヴだった。それは、トラブルで黒野滉大(Ba)の音が止まり観客の視線が彼に集中したとき、咄嗟に"そっち(※ベース側)見んじゃねぇ、俺を見ろよ!"と叫んだ樋口の言葉にも明確に表れていたと思う。喉を枯らし叫び、身体を振り絞り歌う彼も、懸命に音を鳴らし続ける楽器隊も、刹那的な美しさを放っていた。
FLEEZに隣接するAsileでは千葉県佐倉市出身の月がさのアクト。爆音とともに男気を叩きつける硬派なステージかと思いきや、手拍子を求めるというキャッチーな一面も持ち合わせる。"俺らの火を灯しに参りました"という言葉のとおり、同世代の仲間の祭りを最大限に盛り上げた。そして月がさと同じく佐倉市出身のHalo at 四畳半もKAKASHIの盟友。大トリのKAKASHIの前にFLEEZのステージに登場した彼らは、KAKASHIへの想いを嘘偽りなく、誤魔化さずまっすぐに語る。「シャロン」、「ステラ・ノヴァ」、「ユーフォリア」、「モールス」と、輝きを帯びた楽曲たちもこの日はさらに煌めいていた。
27組のライヴが終わり、20時を過ぎとうとうKAKASHIの出番がやってきた。"新しい時代を作りにきました、全速力でやろうぜ!"と堀越が叫び、溜め込んだ力を放出させるように「失くせないから」、「流星の中で」を届ける。KAKASHIは4人が一丸となって音を発するバンド。中でも関 佑介のパンキッシュなドラミングは弦楽器隊の発射隊のようだ。両脇の舞台袖からは出演者たちが彼らに熱視線を向けていた。「灯京」は堀越が歌詞を噛みしめて歌い、そこに想いを重ねるように3人が音を重ねていく。群馬随一のライヴハウスであるFLEEZで聴く「灯京」は、東京で音楽を続けていくという強さや決意はもちろん、東京で得たものをホームに持ち帰るような優しさとあたたかさが垣間見られた。
Halo at 四畳半のMCを受けて堀越は、仲間がどんどん成功していくことを喜ばしく思うと同時に心の底から悔しかったと話す。"だけどここで止まったら何もかも終わっちまうから、腐らず、投げ出さず、折れずに、今日まで走ってきました。その先にこんな日があるなら、いままでの悔しさや、先に行く背中を見送る気持ちも悪くねぇと思った。でも現状を自分の力で変えられない自分が不甲斐なくて情けない。でも言っても始まらないから歌うんだよ"と言い「違うんじゃないか」を歌い出した。すると袖で見ていたバンドマンがステージからフロアに飛び込む。サビやアウトロで次々とバンドマンたちがダイヴし、ステージの上には笑顔を浮かべた出演者たちで溢れる――堀越は"こんな景色が見られると思ってなかった"と言っていたが、KAKASHIの"悔しい"と"音楽を諦めたくない"という人間臭い正直さが観客や同志たちを刺激し、純粋で本能的な空間を作り上げたのだろう。本編ラストの「ドラマチック」はこの日のために作られたようなお誂え向きの曲。様々な仲間の背中を見送ってきたKAKASHIが、いまは仲間たちに背中を見守られ演奏することに加え、彼らの目の前にはその音を受け取る大勢の観客がいる。それはとてもあたたかく幸せな光景であり、未来へ繋がる大きな扉を開くようなエネルギーが漲っていた。
アンコールで堀越が初の全国流通盤『ONE BY ONE』を来年1月にリリースすることを発表する。"結成から全国流通盤リリースまで5年かかった。長かった。まじで長かった、めちゃくちゃ長かったよ"と涙ぐむ彼に、しばらく拍手が鳴りやまない。"この曲を持って全国を走り回って全国制覇します"と言い、同作から「本当の事」を演奏。堀越がまっすぐ前に向かって拳を突き出すと、観客が一斉に拳を掲げた瞬間は、この日のシンボルと言っていいほどの圧巻のシーンだった。急遽決定したダブル・アンコールの「風を纏って」は出演者たちが次々とフロアにダイヴ。晴れやかな演奏で最後を華々しく飾った。
ステージを去るとき、メンバーは穏やかな表情で客席をゆっくりと見渡した。5年間という過去を振り返ったときよりも、未来への野望を語ったときよりも、いまこの瞬間を噛みしめていたあの表情が、最も柔らかくあたたかかったことが印象に残っている。この日、彼らの歴史に新しい火が灯った。この火は間違いなく、これからも続く彼らの道を照らすものになるだろう。
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よりライヴで演奏することを意識して制作されたという4ピース・バンド KAKASHIの1stフル・アルバムは、疾走感のあるアンセム・チューンはもちろん、アイリッシュなリズムが小気味よい楽曲やミドル・ナンバーも含む、緩急巧みな12曲を収録。まるでひとつのステージのような起承転結を、アルバムの中で完成させた。そして、たびたび登場する"僕ら"という主語が象徴するように、聴き手とゼロ距離の言葉選びが光る。常に自らの"今"から削り出す血の通った言葉は、同じ時代を生きる人々の心に自ずと重なる。"こんな世界で僕らは/生きていたいと願って/強くなりたいと願うんだ"(「愛していたい」)と、人との触れ合いを渇望する今、より深くに響くメッセージが詰まっている。(岡部 瑞希)
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劣等感を反逆の意志に変える群馬発の4人組ロック・バンド、KAKASHIの2ndミニ・アルバム『PASSPORT』。初の全国流通盤となった前作『ONE BY ONE』から1年足らずでリリースされた今作は、いかにも彼ららしいタイトルの「ドブネズミ」から始まる。相変わらず物事の"終わり"を夢想しながら、泣きたい夜を越え、それでも信じるものを手離さずに生きていくための泥臭い歌たち。"歌うべきこと"がより研ぎ澄まされた堀越颯太のヴォーカルには、安心して心を委ねられる強さが芽生えた。アルバムのラストには、まるで彼らの主催フェス"灯火祭"のテーマ・ソングのような、優しいメロディで泥まみれの過去を肯定する「愛しき日々よ」を収録。まさに笑い合う未来へのパスポートだ。(秦 理絵)
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カントリー調の「ねえダーリン」、前作に引き続きピアノを使ったスロー・ナンバー「Heaven's city light」といった曲も中盤に収録しつつ、全体としてはヒリヒリとした感覚も含め、エモコアなんて言いたい激しさが戻ってきた印象がある。やっぱり彼らはこうでなきゃ。レクイエムと思しき「ばいばい」が、激しさの中に切なさが滲む曲調になったことに加え、歌詞にあえて汚い言葉を使ったところも彼ららしい。じゃあ、原点回帰なのか? いや、2分足らずのハードコア・ナンバーとポエトリー・リーディングの組曲とも言える「アンドロメダの涙」と「ペルセウスの涙」が新境地を思わせることを考えると、そうとも言えない。ircleは常に転がりながら前に進んでいる。そんなところが一番、彼ららしい。 (山口 智男)
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2017年に、同郷大分の後輩SIX LOUNGEとスプリットCD『地獄盤』をリリースし、全国ツーマン・ツアーを開催したircle。そのツアー・ファイナルでリリースを発表したミニ・アルバムがついにリリースされる。切羽詰まったところから生まれるフォーキーな歌と爆音のバンド・サウンドというircleらしさは相変わらずながら、これまで以上にポジティヴなヴァイブスが感じられるのは、ピアノやオルガンも使ってアンサンブルの幅を広げることに挑んでいるからか。"ラララ"という合唱コーラスを加えたリード曲の「あふれだす」(Track.2)は、シンセを使ってアンビエントな音像を作り上げた「Sunday morning relight」(Track.5)の挑戦とともに、今後何かを変えていきそうだ。(山口智男)
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ともにライヴハウス・シーンで人気を伸ばしている大分県別府市出身の先輩後輩バンドによるスプリットCDが、後輩であるSIX LOUNGEから話を持ち掛け、実現したそうだ。それぞれに新曲を2曲ずつ提供している。そのSIX LOUNGEはともにストレートなロックンロールの「STARSHIP」、「STRAWBERRY」で爽やかさと向こう意気が入り混じる個性をアピール。一方、ircleは「瞬」、「HUMANisM」の2曲で、それぞれ2ビートと言葉を畳み掛ける歌という新境地にチャレンジ。なぜ自分は歌うのか、何を歌うべきなのかというテーマと改めて向き合った歌詞が胸を打つ。別府の観光名所、地獄めぐりに由来するおどろおどろしいタイトルとは裏腹に、激しい演奏と詩情が交差する美しい1枚だ。(山口 智男)
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前作『光の向こうへ』からわずか4ヶ月でリリースするニュー・ミニ・アルバム。自分たちを知らない人たちにも興味を持ってもらうことをテーマに間口を広げることに挑んだ前作を踏まえたうえで、改めてircleらしさをアピールする全6曲。メンバー自ら純度100パーセント以上のircleらしさが感じられると語る「orange」では、弾き語りのフォーク・ナンバーがエモーショナルなガレージ・ロックに転じるアレンジがドラマチック。メンバーの実人生から生まれた言葉の数々とともに切なさ、悲しみ、苛立ちを歌いながら、バンドの所信表明とも言えるラストの「Blackbird」では前進する意思を歌い上げているところがいい。曲ごとにバンドが持つ豊かなバックグラウンドを物語る閃きに満ちたアレンジも聴きどころだ。(山口 智男)
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今年の4月に枚数限定でリリースしたシングル『失敗作』を見事に即完させ、勢いに乗っている4ピース・ギター・ロック・バンド、ircle。そんな話題の同シングルを含んだ1stフル・アルバムをついにリリースする。攻め立てるようなギターに乗せて"俺が俺で無くなるのが嫌なだけ。"(「セブンティーン」)と歌う河内健悟のヴォーカルが印象的で、聴き手に強く訴えかけてくる迫力がある。"iしかない"という彼らの衝動がひしひしと音を通して伝わってくるようだ。型を崩すことで"今ある世界に新しい風穴をあける"というバンドの思いのもと、今のロック・シーンに新しい旋風を巻き起こしていくことだろう。(齋藤 日穂)
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東京を中心に精力的なライヴ活動で知名度を拡大している別府出身の4ピース・ギター・ロック・バンド、ircle(アークル)。バンド名には円(circle)の持つ完全の象徴という意味合いを、頭文字のCをはずし、型を崩すことで"今ある世界に新しい風穴をあける"という思いが込められている。朗らかなヴォーカルが際立つ軽やかでキャッチーなTrack.1から、攻勢的なギターが炸裂するTrack.2、ポスト・ロック的なサウンド展開とポップネスが融合するTrack.3という畳み掛けは、バンドのアプローチの振り幅を見せつける。激突するように共鳴する各楽器が作り出す空気感は、中学時代から音を奏で続けている4人の阿吽の呼吸だろうか。結成からの12年間という歳月をコンパイルした瑞々しい作品だ。(沖 さやこ)
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切なさ混じる柔らかな春風のような、桜舞う季節にぴったりの爽やかなナンバーが並ぶ本作。ツー・ビートが爽快な「TONIGHT」で勢い良く駆け出すと、ストリングスがラストをドラマチックに彩る「もういちど生まれる」、ちとせみな(カネヨリマサル)とのツイン・ヴォーカルで魅せるkobore流シティ・ポップ「雨恋」では、アレンジャーを迎え新たな一面を見せる。そして「ひとりにしないでよね」で前作から続くキラキラとした瑞々しいサウンドを煌めかせると、最後は弾き語りとシンガロングが印象的な、ライヴハウスで聴きたい泥臭い青春ロック「この夜を抱きしめて」で締めくくった。暖かな季節の訪れに弾む心と、この曲たちをライヴで一緒に歌えることへのワクワク感がリンク。春のセンチメンタルな心も抱きしめたくなる温かさが心地いい。(中尾 佳奈)
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これまで全面に打ち出してきた泥臭いバンド・サウンドから一転、koboreのメジャー2ndアルバムは多彩な楽器の音色を取り入れた、キャッチーでポップな1枚に仕上がった。クラップの打ち込みに乗せて、安藤太一の奏でるギターが、水面に乱反射する光のように美しく煌めく「ジェリーフィッシュ」をはじめ、そこにあるのは勢いや衝動ではなく、一曲一曲に細やかな情景を描く緻密なサウンド・プロダクションだ。"大事なものだけ盗まれて"とコロナ禍の物憂げな心情を吐露するような「微睡」、あっと言う間に過ぎていったふたりの時間に"ありがとう"を歌う「彗星」など、ミディアム・テンポの佳曲が目立つ。アルバムを締めくくる田中そら(Ba)作曲のバラード「きらきら」は、混沌の時代に託す希望か。(秦 理絵)
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koboreの6曲入りEP『Orange』。これまでも楽曲やライヴを通して、自身の大事な想いを真摯に伝え続けてきた彼らだが、今作は特に日々を懸命に生きる人々の力になりそうな言葉が多い印象だ。先行公開された「夜空になりたくて」は、彼らの真骨頂と言える"夜"の匂いがするナンバーで、悩みや迷いを抱える聴き手に寄り添い、心の澱を流してくれるような温かさがある。そして、「灰になるまで」では"転びそうなら背中くらいは押したるわ"と、肩を組んで語り掛けてくれるような頼もしいワードに文字通り背中を押され、「SUNDAY」では"適当にやろうぜ"と、頑張りすぎな人の凝り固まった気持ちをほどくような優しさも見える。バンドの音楽に対する意志が窺える「OITEIKU」の疾走感も痛快だ。(三木 あゆみ)
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ギター・ロックの王道とも言える"koboreらしさ"を研ぎ澄まし、同時に新しい挑戦もはっきり見える意欲作。そして、4年前に出したデモ音源収録の「当たり前の日々に」をメジャー・デビューのタイミングで再録すると決めていたというのはとびきり粋なストーリーだし、何よりその曲が今作の中で一切の違和感なくハマっていることが、彼らのインディーズ5年間の歩みと心意気をすべて表している。新生koboreの楽曲群を楽しむのはもちろんだが、個人的にはやはり収録曲のうち最後に制作した「ボクタチノアシタ」からの「当たり前の日々に」の流れに注力して聴いてみてほしい。何年経ってもどこに立っても、koboreはなんにも変わらない。そのことが手に取るようにわかるから。(岡部 瑞希)
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精力的なツアーとライヴを重ねる府中発の4人組ギター・ロック・バンドの5曲入り1st EP。キャッチーな歌メロ、意志がまっすぐ伝わるストレートな歌詞、力いっぱいの演奏といった、彼らがもともと持っている旨味を生かした楽曲が揃った。表題曲は"自分らしさを失わず自分の音を鳴らそう"と少年少女へのエールを綴り、Track.2やTrack.3では何気ない平凡な日常の素晴らしさを歌う。ソングライターの佐藤 赳(Gt/Vo)の人生哲学が明確に前面に出た楽曲が多い中で、いい異彩を放つのがTrack.4。清涼感と憂いを併せ持つサウンドと、季節の移り変わりを背景にした感情の機微を昇華した歌詞が"躓いてもどこまでも行けるような気がした"と独り言のような一節を効果的に響かせている。(沖 さやこ)
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バンド初のフル・アルバムは、過去にリリースした"夜の3部作"から各1曲と、2018年初夏から秋にかけて開催したツアー中に制作した新曲の計10曲を収録。3年のバンドのキャリアだけでなく、未来に向けて成長をしていく過程をそのままパッケージしたアルバムになった。新曲はコード感が豊かなものが多く、佐藤 赳(Gt/Vo)が零す感傷的な心情をより繊細且つ鮮明に描き出している。特に「ナイトワンダー」はバンドにとっても新しいアプローチ。落ち着いたテンポとギミックが効いたギターのリフレインでグルーヴを作り出し、細部まで凝られたフレージングも楽曲の世界に深みをもたらした。アルバムの頭からラストまで、koboreを軸としたオムニバス映画のように楽曲がリンクしていくのも趣深い。(沖 さやこ)
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1stミニ・アルバム『アケユク ヨル ニ』と1stシングル『アフレル』の流れを汲んで制作された2ndミニ・アルバム。夜明けを迎えたうえで夜に戻ってくるというタイトルのとおり、初期曲と新曲を収録したうえで、現段階でのkoboreの完成形を示す作品となった。着火力の高い約1分の楽曲で幕を開け、これまでのバンド人生を走馬灯のように見せる曲順もドラマチック。佐藤 赳(Gt/Vo)にとっての"音楽とは"が綴られている初期曲「テレキャスター」は、今の彼らがリアレンジしたことでさらに音も言葉もメッセージの威力を増したと言っていい。ラストを飾るタイトル・トラックは夜明けのイメージを与えるサウンドスケープが圧巻だ。衝動も余裕も併せ持つ彼らの音楽が世間を席巻するのは時間の問題かもしれない。(沖 さやこ)
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府中発の4ピース・ギター・ロック・バンド、koboreにとって初のシングル。3分弱のショート・チューン「君にとって」、ミディアム・バラード「僕の全部」、初期曲「声」の再録バージョンを収録。三者三様の3曲はバンドのポテンシャルを十分にアピールしてくれるが、全曲に共通しているのは、"koboreはなぜ歌うのか"に迫るような内容であること、そのメッセージを強調するためにシンプルな曲構成が採用されていること、そして歌詞の起伏を体現するようにドラマチックなサウンドが鳴らされていること。脇目も振らず、このバンドの核にある"伝える"という点を研ぎ澄ましてみせた今回のシングルは、ファンはもちろん、これからkoboreを知っていく人にもおすすめしたい作品だ。(蜂須賀 ちなみ)
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東京・府中発の4ピース・バンド、koboreにとって初の全国流通盤。"今を歌うバンド"としてのバンドの在り方をそのまま託した「幸せ」を1曲目に配置することによって、そのあとに続く曲で歌われるモヤモヤとした葛藤も、少しの意地や強がりも、拭えない情けなさも、全部ひっくるめて"幸せだ生きてる"と大きく肯定していく眩しさたるや。歌詞の内容は案外ポジティヴとは言いがたいが、爽快なほどに直球ストレートなギター・ロック・サウンドは後ろを振り返るためでなく、前に突き進むためだけに絶えず鳴らされている。平均年齢20歳の彼らが今しか鳴らせない音楽に真っ向から挑んでいる印象だが、このバンドはこれから、どのように歳を重ねていくのだろうか。キャンバスはまだ白い。(蜂須賀 ちなみ)
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九州出身の4人組ギター・ロック・バンド、the ironyによる3rdミニ・アルバム。船津陽史(Vo/Gt)の圧倒的な歌唱力とノスタルジーを誘う美しいメロディを武器とする、自他共に認める王道歌モノ・バンドが、自らのアイデンティティを最大限に発揮した渾身の1枚を完成させた。エッジの効いたロック・サウンドに綴る負け犬たちのラヴ・ソング「アンダードッグ」に始まり、優しいメロディがふたりの門出を祝福するウェディング・ソング「ラストダンス」、毎日の生活で疲弊する心を風船に喩えた軽妙なカントリー・ポップ「balloon」など、愚直な愛も皮肉も呑み込んだ6曲の"良い歌"たち。ピアノの伴奏から幕を開ける珠玉のナンバー「Hallelujah」。地元・福岡を舞台に悲しい別れを描いた渾身のバラードには、the ironyというバンドの真価が詰まっている。(秦 理絵)
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九州出身の4人組バンド the irony(ザ・アイロニー)による2枚目の全国流通ミニ・アルバム。どこか懐かしくて美しいメロディを、船津陽史(Vo/Gt)の切実な歌声で紡ぐ極めて王道のギター・ロック・アルバムだが、そのサウンドメイキングは、UK/USロックをルーツに持つ脇屋周平(Gt)が中心的な役割を担うことで、大胆に織り込まれる洋楽的なエッセンスがスリリングだ。離れた"君"へエールを送るリード曲「幻影少女」の他、人間の隠れた二面性を暴くエッジの効いたロック・ナンバー「ERROR」、切ない別れを叙情的に綴るバラード「白い花」など、全5曲を収録。不器用でもまっすぐに人との絆や愛について歌う歌詞からは、人として大切な何かを気づかせてくれる。バンドが普遍への第一歩を刻む大切な1枚となった。(秦 理絵)
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下北沢や渋谷を中心に活動する4人組ロック・バンド、the irony。彼らが、いい意味でひねりのないまっすぐなギター・サウンドに、ひたすらに柔らかく優しい言葉を刻み込んでいくたび、じんわりと思いが沁み渡る。人は悲しいから、愛おしいから、祈りたいから歌うのかもしれない。"僕"と"君"の繋がりを確かめたくて歌うのかもしれない。明るい未来があることを信じたくて歌うのかもしれない――こんなことを、the ironyの音楽を聴くと思う。今作の最後を飾るナンバー「ヒカリ」の持つ奥行きや温かさに触れた瞬間、耳元から世界が広がっていく感覚を覚えた。聴けばわかるなんて適当なことは言いたくないが、聴けばわかる。安直なギター・ロックだと思っていたら損をするぞ。さあ、君も新しい世界に出会ってくれ。(堀内 章加)