Japanese
GRIOTTO
Skream! マガジン 2018年12月号掲載
2018.11.09 @渋谷WWW X
Writer 杉江 由紀
もはや、ロック・フェスとは名ばかりなのか、その中味はアイドルから芸人からなんでもありで、やたらとあからさまな儲け主義が先行するものが多くなってしまった昨今。まだ規模こそややミニマルだとしても、こんなにもロックへの純粋な情熱とバンドへの真摯な愛を持って運営されている音楽イベントは、久々に観た気がする。
"音楽業界を少しでも盛り上げたい、今「本当にカッコいい」音を発信しているアーティストとジャンル、年齢を問わずイベントを作りたい"という想いから3年前に始動したという"GRIOTTO"は、ライヴハウス 渋谷TSUTAYA O-Crestのスタッフであるだいち氏がプロモーターを務めているもので、今回は"GRIOTTO"史上最大キャパである渋谷WWW Xに気鋭の6バンドが集結し、4時間半にわたる熱演が繰り広げられることとなった。
この夜の一番手としてまず威勢のいい狼煙を上げてくれたのは、3ピース・バンドとして10年以上のキャリアを持つリアクション ザ ブッタ。10月17日にリリースされたばかりの最新ミニ・アルバム『Single Focus』からの楽曲「Tightrope Dancing」や「You」をはじめとして、全5曲を手練れたプレイとダイナミックなサウンドにて提示してくれることに。
かと思えば、"今を叫ぶバンド"koboreは、今年5月に発表された2ndミニ・アルバム『ヨル ヲ ムカエニ』からの楽曲たちを中心に、「爆音の鳴る場所で」や「ヨルノカタスミ」など全7曲を、零れ出すどころか溢れんばかりの熱量の、圧の高いパフォーマンスで観衆たちにぶつけていく。
一方、"サスフォー"の愛称でも知られている名古屋発のSuspended 4thは、ここまで路上ライヴで叩き上げてきたというバンドとしての底力を、ユニゾンのキメ具合が粋な「INVERSION」や、YouTubeにて40万再生を達成したという「ストラトキャスター・シーサイド」を含めた全5曲で遺憾なく発揮してみせ、いい意味での曲者ぶりを大発揮。
また、"#日曜日だし邦rock好きと繋がりたい"を通じて"こんなライヴどうですか?"とのアピール・ツイートをしたこともあるVOI SQUARE CATは、その言葉どおりのパフォーマンスで盛り上げてみせ、「Jump!Jump!」ではメンバーたちがフリのレクチャーを行うことで、より場の空気を一体化させることに成功したのだった。
はたまた、群馬は前橋の雄として6年以上の活動歴を持つKAKASHIは、来たる12月5日にリリースするという2ndミニ・アルバム『PASSPORT』から「ドブネズミ」をいきなり投下。ありのままの現在進行形なバンドの姿を顕示してみせながら、ビート・ロックのメッカ、群馬の出身らしく骨太で潔いサウンドを武器に攻めていく様は、さすがと言えただろう。
こうして各バンドが凌ぎを削っていくなか、今回の"GRIOTTO"をトリとして締めてくれたのは、10月31日に初のフル・アルバム『HEISEI』をドロップしたバンドハラスメントにほかならない。この日は彼らからしてみるとアルバム・ツアー"バンド名だけでメタルバンドって 勘違いされがちの僕は、バイトの面接に落ちた。全国ツアー2018-2019"の初日でもあったということで、『HEISEI』のリード・チューン「ゼロショウウオ」しかり、じっくりと聴かせにかかる「光線」しかり、アンコールとして演奏された代表曲「君と野獣」しかり、どの曲においても説得力のある旬な音を聴かせてくれていた気がする。"僕らにとってこの[GRIOTTO]は、どのバンドよりも思い入れが強いイベントだという自信があります。だいちとの付き合いも一番長いし、「いつかあのハコを埋めてぇよな!」とか夢もお互いいっぱい語り合ってきて、今こうしてその夢がひとつずつ実現していってる気がします。どんなにすげぇフェスに出たって、どんなにデカいイベントに出たって、この[GRIOTTO]を超えるものに俺は出会ったことがない!"(井深康太/Vo)
次なるシーンの担い手として、高いポテンシャルを持ったロック・バンドたちのみが集ったこの"GRIOTTO"が、ここからより規模を拡大化し強い存在感を持っていくことを、音楽ファンとしてはぜひとも願いたい。
[Setlist]
リアクション ザ ブッタ
1. Tightrope Dancing
2. リード
3. You
4. 火花
5. ヤミクモ
kobore
1. 爆音の鳴る場所で
2. 夜を抜け出して
3. 幸せ
4. ヨルノカタスミ
5. ティーンエイジグラフィティー
6. テレキャスター
7. 君にとって
Suspended 4th
1. INVERSION
2. BIG HEAD
3. Betty
4. ストラトキャスター・シーサイド
5. Sky
VOI SQUARE CAT
1. Re Start
2. 絶対宣言
3. Jump!Jump!
4. 共に
KAKASHI
1. ドブネズミ
2. 本当の事
3. 流星の中で
4. 違うんじゃないか
5. ドラマチック
バンドハラスメント
1. Sally
2. ゼロショウウオ
3. 一人隠れんぼ
4. 解剖傑作
5. 光線
En. 君と野獣
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よりライヴで演奏することを意識して制作されたという4ピース・バンド KAKASHIの1stフル・アルバムは、疾走感のあるアンセム・チューンはもちろん、アイリッシュなリズムが小気味よい楽曲やミドル・ナンバーも含む、緩急巧みな12曲を収録。まるでひとつのステージのような起承転結を、アルバムの中で完成させた。そして、たびたび登場する"僕ら"という主語が象徴するように、聴き手とゼロ距離の言葉選びが光る。常に自らの"今"から削り出す血の通った言葉は、同じ時代を生きる人々の心に自ずと重なる。"こんな世界で僕らは/生きていたいと願って/強くなりたいと願うんだ"(「愛していたい」)と、人との触れ合いを渇望する今、より深くに響くメッセージが詰まっている。(岡部 瑞希)
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劣等感を反逆の意志に変える群馬発の4人組ロック・バンド、KAKASHIの2ndミニ・アルバム『PASSPORT』。初の全国流通盤となった前作『ONE BY ONE』から1年足らずでリリースされた今作は、いかにも彼ららしいタイトルの「ドブネズミ」から始まる。相変わらず物事の"終わり"を夢想しながら、泣きたい夜を越え、それでも信じるものを手離さずに生きていくための泥臭い歌たち。"歌うべきこと"がより研ぎ澄まされた堀越颯太のヴォーカルには、安心して心を委ねられる強さが芽生えた。アルバムのラストには、まるで彼らの主催フェス"灯火祭"のテーマ・ソングのような、優しいメロディで泥まみれの過去を肯定する「愛しき日々よ」を収録。まさに笑い合う未来へのパスポートだ。(秦 理絵)
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地元で開催した自主企画サーキット・イベントをソールド・アウトさせるなど追い風に乗る結成6年目の群馬発4ピースが満を持して初の全国流通盤リリース。初期曲「ドラマチック」とフリー・サンプラーとして配布していた「違うんじゃないか」を収録した全8曲は、アレンジや演奏、言葉の面でもスタートを切ったがむしゃらさと粗削りさを感じさせる。彼らの原動力でもある"劣等感"。そこから生まれる葛藤や焦燥がそのまま投影されたヴォーカルは吐き捨てるように強いエネルギーで言葉を発し、こちらの心情をかき乱すほどに強い想いを孕んでいる。アマチュア・バンドとして自力だけで活動してきた彼らが、その活動で手にしたものを封じ込めた作品だ。アルバムのラストを飾る壮大なミディアム・ナンバーの存在感が光る。(沖 さやこ)
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結成時からストリート・ライヴを積極的に行い、そこで培った確かな演奏力が各方面で絶賛されていた彼ら。当時Kazuki Washiyama(Gt/Vo)は"歌で伝えたいことはあまりない"と話していたが、2020年のコロナ禍を機に、世の中に対して自分が感じていることをメッセージにしようと"歌を立たせるアプローチ"を手に入れた。何より大きな進化と言えば、バンドのアンサンブルが格段に向上したこと。個々の演奏力、ソングライティング力、アンサンブル、それらが渾然一体となって生まれたのが『Travel The Galaxy』だ。リード曲「トラベル・ザ・ギャラクシー」を始め、新曲もリテイク曲も、どれもが演奏力も歌唱力も際立っている。飛躍的な成長を遂げた、まさに軌跡(奇跡)の1枚。(真貝 聡)
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確かな演奏技術とDIYな活動スタイルで、多くのミュージシャンからも支持されているサスフォー。PIZZA OF DEATH RECORDSからデビュー・ミニ・アルバムをリリースし、波に乗り始めていたところでのコロナ禍と、決して恵まれた環境ではなかったが、そんななかでも強い意志で自分たちの音楽を突き詰めてきた彼らは、さらに強靭なロックを打ち鳴らす新作を発表した。これまで地道な活動で繋いできた、音楽への渇望をぶつけるかのような骨太のロック・ナンバー「KARMA」。独特の節回しが魅力的なヴォーカル・バージョンもいいが、グルーヴィで繊細なプレイ・スタイルは、インスト・バージョンも合っている。カップリングは現在入手困難な初期音源収録曲のリテイクということで、こちらも必聴だ。(山本 真由)
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名古屋 栄のストリートを拠点に活動する気鋭バンドが、PIZZA OF DEATH RECORDSとのタッグで全国進出。非凡で卓越した演奏テクニックとジャンルに縛られない幅広い音楽性は、まさにミクスチャー・ロックと呼ぶに相応しいものだ。若年層には今どきのバンドとは一線を画する"初めての衝撃"を与え、オッサン世代なら70~80年代の音楽との共通点にニヤリとするはず。つまり、全方位に向けたジャンルレス/ボーダレスな、最強のロック・アルバムなのだ。しかも、彼らにとってはこの音源が完成形ではなく、ここからライヴを通じて曲がどんどん進化していくのだから、甘く見てはいけない。このCDで彼らに興味を持ったリスナーは、ぜひライヴで曲が"化けて"いく過程を目撃してもらいたい。(西廣 智一)
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切なさ混じる柔らかな春風のような、桜舞う季節にぴったりの爽やかなナンバーが並ぶ本作。ツー・ビートが爽快な「TONIGHT」で勢い良く駆け出すと、ストリングスがラストをドラマチックに彩る「もういちど生まれる」、ちとせみな(カネヨリマサル)とのツイン・ヴォーカルで魅せるkobore流シティ・ポップ「雨恋」では、アレンジャーを迎え新たな一面を見せる。そして「ひとりにしないでよね」で前作から続くキラキラとした瑞々しいサウンドを煌めかせると、最後は弾き語りとシンガロングが印象的な、ライヴハウスで聴きたい泥臭い青春ロック「この夜を抱きしめて」で締めくくった。暖かな季節の訪れに弾む心と、この曲たちをライヴで一緒に歌えることへのワクワク感がリンク。春のセンチメンタルな心も抱きしめたくなる温かさが心地いい。(中尾 佳奈)
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これまで全面に打ち出してきた泥臭いバンド・サウンドから一転、koboreのメジャー2ndアルバムは多彩な楽器の音色を取り入れた、キャッチーでポップな1枚に仕上がった。クラップの打ち込みに乗せて、安藤太一の奏でるギターが、水面に乱反射する光のように美しく煌めく「ジェリーフィッシュ」をはじめ、そこにあるのは勢いや衝動ではなく、一曲一曲に細やかな情景を描く緻密なサウンド・プロダクションだ。"大事なものだけ盗まれて"とコロナ禍の物憂げな心情を吐露するような「微睡」、あっと言う間に過ぎていったふたりの時間に"ありがとう"を歌う「彗星」など、ミディアム・テンポの佳曲が目立つ。アルバムを締めくくる田中そら(Ba)作曲のバラード「きらきら」は、混沌の時代に託す希望か。(秦 理絵)
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koboreの6曲入りEP『Orange』。これまでも楽曲やライヴを通して、自身の大事な想いを真摯に伝え続けてきた彼らだが、今作は特に日々を懸命に生きる人々の力になりそうな言葉が多い印象だ。先行公開された「夜空になりたくて」は、彼らの真骨頂と言える"夜"の匂いがするナンバーで、悩みや迷いを抱える聴き手に寄り添い、心の澱を流してくれるような温かさがある。そして、「灰になるまで」では"転びそうなら背中くらいは押したるわ"と、肩を組んで語り掛けてくれるような頼もしいワードに文字通り背中を押され、「SUNDAY」では"適当にやろうぜ"と、頑張りすぎな人の凝り固まった気持ちをほどくような優しさも見える。バンドの音楽に対する意志が窺える「OITEIKU」の疾走感も痛快だ。(三木 あゆみ)
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ギター・ロックの王道とも言える"koboreらしさ"を研ぎ澄まし、同時に新しい挑戦もはっきり見える意欲作。そして、4年前に出したデモ音源収録の「当たり前の日々に」をメジャー・デビューのタイミングで再録すると決めていたというのはとびきり粋なストーリーだし、何よりその曲が今作の中で一切の違和感なくハマっていることが、彼らのインディーズ5年間の歩みと心意気をすべて表している。新生koboreの楽曲群を楽しむのはもちろんだが、個人的にはやはり収録曲のうち最後に制作した「ボクタチノアシタ」からの「当たり前の日々に」の流れに注力して聴いてみてほしい。何年経ってもどこに立っても、koboreはなんにも変わらない。そのことが手に取るようにわかるから。(岡部 瑞希)
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精力的なツアーとライヴを重ねる府中発の4人組ギター・ロック・バンドの5曲入り1st EP。キャッチーな歌メロ、意志がまっすぐ伝わるストレートな歌詞、力いっぱいの演奏といった、彼らがもともと持っている旨味を生かした楽曲が揃った。表題曲は"自分らしさを失わず自分の音を鳴らそう"と少年少女へのエールを綴り、Track.2やTrack.3では何気ない平凡な日常の素晴らしさを歌う。ソングライターの佐藤 赳(Gt/Vo)の人生哲学が明確に前面に出た楽曲が多い中で、いい異彩を放つのがTrack.4。清涼感と憂いを併せ持つサウンドと、季節の移り変わりを背景にした感情の機微を昇華した歌詞が"躓いてもどこまでも行けるような気がした"と独り言のような一節を効果的に響かせている。(沖 さやこ)
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バンド初のフル・アルバムは、過去にリリースした"夜の3部作"から各1曲と、2018年初夏から秋にかけて開催したツアー中に制作した新曲の計10曲を収録。3年のバンドのキャリアだけでなく、未来に向けて成長をしていく過程をそのままパッケージしたアルバムになった。新曲はコード感が豊かなものが多く、佐藤 赳(Gt/Vo)が零す感傷的な心情をより繊細且つ鮮明に描き出している。特に「ナイトワンダー」はバンドにとっても新しいアプローチ。落ち着いたテンポとギミックが効いたギターのリフレインでグルーヴを作り出し、細部まで凝られたフレージングも楽曲の世界に深みをもたらした。アルバムの頭からラストまで、koboreを軸としたオムニバス映画のように楽曲がリンクしていくのも趣深い。(沖 さやこ)
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1stミニ・アルバム『アケユク ヨル ニ』と1stシングル『アフレル』の流れを汲んで制作された2ndミニ・アルバム。夜明けを迎えたうえで夜に戻ってくるというタイトルのとおり、初期曲と新曲を収録したうえで、現段階でのkoboreの完成形を示す作品となった。着火力の高い約1分の楽曲で幕を開け、これまでのバンド人生を走馬灯のように見せる曲順もドラマチック。佐藤 赳(Gt/Vo)にとっての"音楽とは"が綴られている初期曲「テレキャスター」は、今の彼らがリアレンジしたことでさらに音も言葉もメッセージの威力を増したと言っていい。ラストを飾るタイトル・トラックは夜明けのイメージを与えるサウンドスケープが圧巻だ。衝動も余裕も併せ持つ彼らの音楽が世間を席巻するのは時間の問題かもしれない。(沖 さやこ)
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瑞々しく、切なく、そして少しだけ痛々しい青春の残り香がここには確かに息づいている。音楽的に大別すれば、作詞作曲を手掛ける斉本の冴えたセンスが活きた「君がいて」や、ヴォーカリスト 井深のクリアなハイトーンが刺さってくる「大人になるために」など、平均年齢21歳の彼らが奏でる楽曲たちはギター・ロックの範疇に入るものが多いと言えるのだろう。だがしかし、今作の中には訳あってアラビア語の歌詞を交えたという"陰キャ"の立場から"陽キャ"への憧憬を具現化したパーティー・チューン「アリバイパリナイ」や、ギタリスト ワタさんの弾くとても20代とは思えないようないぶし銀フレーズが光る「サヨナラをした僕等は2度と逢えないから」など、一筋縄ではいかない面白さを感じさせる面も含まれている。熟成の味わいとは明らかに違う、若さという名の可能性が迸る1枚だ。(杉江 由紀)
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