DISC REVIEW
タ
-
-
チリヌルヲワカ
it
昨年2枚のアルバムとDVDをリリース、さらにはロング・ツアーを敢行するなど精力的な活動を続けるチリヌルヲワカの5枚目のアルバム。THE COLLECTORSやShe Her Her Hersといったバンドからの混成メンバーながらサブ・プロジェクト感の全くない、息がピッタリと合ったキレッキレのバンド・サウンドが楽しめる。オリエンタルなリフでダークな感情を熟語に込める「it」、テルミンらしき音も聴こえる「印−しるし−」をはじめ、会話のように呼応する2本のギターが常にザクザクと小節をぶった切って行く様は痛快の極み。ドラムもベースも好き勝手に動いているようでしっかりアンサンブルになっているのが百戦錬磨のプレイヤーが集まったバンドならでは。凝ったアレンジの楽曲が並ぶ完成度の高いアルバムであり、ライヴでの再現が観たくなる。
-
-
チリヌルヲワカ
白穴
改めてメンバークレジットを見るとすごいメンツだ。GO!GO!7188のユウ、椎名林檎やスネオヘアーやYUIなど数多くのアーティストのサポートを務めるイワイエイキチ、そしてTHE COLLECTORSの阿部耕作。2006年 4月にシングル『新月』をリリース以来ほぼ活動休止状態となっていたチリヌルヲワカだが、新メンバー坂本夏樹(Gt)を迎え昨年9月より本格始動、遂にニュー・アルバムが完成した。バンド名然り、前作『イロハ』然り、本作もまたユウ独自の語感や音感が光っている。節々に歌謡曲のエッセンスの香り立つメロディや言葉選びは、大正~昭和初期のモダンガールのようにコケティッシュであったり、控えめな中にも艶やかな色香を漂わせるセンスはさすが。ちょっぴり巻き舌で拳の効いたヴォーカルも、そのムードに良く似合っている。
-
-
チーナフィルハーモニックオーケストラ
PUSH
チーナフィルの開会宣言めいた、メロディ楽器がユニゾンでリフを展開する「はじまる」の力強い幕開けから、バンドで表現するフィルハーモニックの楽しさに胸が躍る。「コーラス讃歌」はクラウドファンディングでプロジェクトに参加した人々による、"コーラス参加"が大迫力。"私は歌う歌わずにいられない"というフレーズが一塊の感情となって押し寄せる様に圧倒されてほしい。ハープのイントロが美しい「紙ひこうき」が醸し出す、人と人の繋がりを感じさせる雰囲気も、大所帯で奏でるアンサンブルによっておおらかな印象を残す。ストリングス、ホーン、ハープ、スティールパンなどの音と、母体であるチーナが渾然一体となった生音の楽団ならではのカタルシス、そしてあくまでバンド音楽の延長としてのオリジナリティを両立。
-
-
チーナ
PULL
1曲目からピアノ、ギター、ヴァイオリン、コントラバス、ドラムがビートとして一塊になって前進していく「世界が全部嘘だとしても」に、今のチーナというか、フロントウーマンである椎名杏子(Vo/Pf)の思いが溢れている。そして、チェンバー・ロックの括りに収まり切らないヒップホップ的な「いい人間になりたいよ」や、ポスト・ロック調の「魚」。インストの「Schwarzwald」のピアノとスキャット、ドラムからなる構成は、編成は違うがどこかtricotなどにも通じる透明感と轟音が同居。独り言のような「キャラメルの包み」は、個人的にはきのこ帝国の「クロノスタシス」に通じる愛らしさも。"この世界でどう生きる? 答えはないけど、生きて行こう"――聴き終えてそんな気持ちになれる10曲が詰まっている。
-
-
チーナ
DOCCI
いわゆるギター、ベース、ドラムのロック・バンドのフォーマットに則らない、ヴァイオリンやホーンの入ったバンドが世界各地で頭角を現す今。チーナは日本、そして東京に生きる女の子のリアルをちゃんと封じ込めた音楽として無二の存在と言えるだろう。7曲入りの今作では、コントラバスの林絵里を始め、何人かのメンバーのマスロック志向が表出した「大きな渦」といった新機軸もパッケージ。また、椎名杏子が作る、日常のなにげない事象に対するシニカルな視点や、女の子のいい意味でのしたたかさやあっけらかんとした強さを描いた歌詞が印象的な「テレビドラマ」や「四面楚歌」など、言葉のチョイスも面白い。編成のユニークさのみならず、テーマや楽曲のオンリー・ワンっぷりが増した、最新鋭のロック/ポップ作。
-
-
チーナ
GRANVILLE
ピアノ・ヴォーカル、ヴァイオリン、コントラバス、ギター兼マイクロコルグ、サポート・ドラムという個性的な編成のグループ。クラシック楽器でコミカルに奏でられる楽曲は可愛らしく、オーケストラルな多彩な音色が耳に心地良い。だが、クラシック楽器がサウンドの中心にあるにも関わらず、間違いなくバンド・サウンドになっているのが面白い。そして、サウンド以上に耳が惹かれるのがその歌詞だ。言葉の1つ1つは限りなくシュール。けれども、その言葉が織りなすのは現実とお伽話の狭間にあるような摩訶不思議な世界。ただ無心に音を追おうとする意識に、強引とも思えるくらい強烈に、チーナの紡ぐ物語が刻みつけられる。1度聴けばその世界に捕まってしまう。驚くほどの吸引力をぜひ体感していただきたい。
-
-
月がさ
淀ンダ水ヲノゾク
千葉を拠点に活動する4人組バンドが、下北沢MOSAiCの新レーベル"下北新地録音盤"より第1弾アーティストとしてリリースするTOWER RECORDS限定、初の全国流通作品。鈴木 光(Vo/Gt)による剥き出しになった感情の起伏が街の風景と共に、時に攻撃的に、時に叙情的に歌詞で描かれている。その言葉たちにピッタリ寄り添いながら奏でられるメンバーたちの演奏もまた繊細だったり大胆だったり。言葉の意味を噛みしめながら聴きつつ、演奏の面白さにも気づかされる作品で、美しいアルペジオで幻想的な音像を聴かせる「ジオラマ」、ひと際キャッチーなメロディで印象に残る「イメージ」といった既存曲と書き下ろし曲から、ライヴ感溢れる「not equal」や「loop」、エンディングの「エンドロール」まで、1枚の作品としてテンポよく聴くことができる。
-
-
九十九
こけら落とし
女性ヴォーカルを擁する愛知県岡崎市発の4ピース・バンド、九十九(読み:つくも)の最新作。マイナー調の歌謡ロックというバンドの特色が色濃く出ている一方、例えば、牧 孝奎(Gt)が初めて作詞に挑戦していることや、「オセロ」での引き算のアンサンブルや中盤でのギターの重ね方、レベッカの名曲「フレンズ」のカバーなど、至るところに新しい要素が。フィジカルでのリリースは全国デビュー作以来1年3ヶ月ぶりだが、バンドが新しく生まれ変わるためには、その期間が必要だったのかもしれない。ひと際明るい響きをした「Delight」を冒頭に配置したのは、おそらく彼ら自身が前を向いているのだということを示すためだろう。"カーテンコール"と言いつつも、お行儀良く収まりはしないラストも痛快だ。
-
-
九十九
GIRL MEETS BOY
紅一点ヴォーカリスト擁する愛知県岡崎市出身の4ピースが6曲入りミニ・アルバムで全国デビュー。結成当初からある代表曲Track.1を筆頭に、昭和歌謡的メロディと衝動性と爆発力を持つロック・サウンドを掛け合わせた音楽性が特徴的で、9mm Parabellum Bulletの系譜も感じさせる。ヴォーカルとギターが堂々とした力強さと圧倒的な自信で存在感を放つ一方、リズム隊が曲の緩急や哀愁などの感傷性を巧みに操っているところも特徴的だ。どの曲でも隙を見せず、強い女性であろうとするまめ子のヴォーカル・ワークに、自分自身の姿を重ねる女性も多いのではないだろうか。ミディアム・テンポのTrack.4や、80年代の歌謡テイストを彼らなりに料理したTrack.6などの変化球も含む意欲作。
-
-
つしまみれ
NEW
サポート・メンバーとして海外ツアーにも帯同したまいこ(Dr)を正式メンバーに迎えての新生つしまみれ第1弾が完成。初っ端から「宇宙エレベーター」、「東京ジェリーフィッシュ」と、まり(Vo/Gt)の独特な視点から生み出されるエキセントリックな世界と『SHOCKING』(2012年)以降プロデューサーを務める中村宗一郎との相乗効果ありまくりな耽溺性のある楽曲が並ぶ。お得意の喋り口調のヴォーカルが炸裂する「ハローワールド」、「パンクさん」(『脳みそショートケーキ』収録曲)の続編的楽曲「パンクさん2」と、パンキッシュな魅力も感じさせつつ、素直に胸の内を聴かせる「ひとつ」が心に沁みる。新たに結成されたしげる(ex-嘘つきバービー/Dr)との新バンド"つしまげる"のアルバムも同時発売。
-
-
つしまみれ
つしまみれまみれ
"80歳まで3ピース"の新たなる宣言と言える痛快な新曲「スピーディーワンダー」に始まり、つしまみれ入門編と呼ぶにふさわしい20曲が凝縮された初のベスト・アルバム。コード感がグッとくる名曲「エアコンのリモコン」はリアレンジ版。キテレツなようで実はスキルを秘めた「おじいちゃんのズボン」や「脳みそショートケーキ」や「おちゃっすか」や、音楽的な深みを感じる「ダーウィン」、曲調も歌詞もストレートな「ストロボ」、終わった恋も愛した気持ちも抱えながら自分の一歩を歩き出すような「愛の夢」など、つしまみれの音楽的なレンジの広さと、女性の赤裸々な部分をやりすぎ一歩手前で面白さに転化するセンスが満載。発表された時代はシャッフルされているが、それもまた聴く楽しみのひとつ。
-
-
つしまみれ
つしまみれ
これはヤバい。つしまみれ史上、最も毒々しく、危険極まりない作品である。しかし誤解がないように書いておくと、別に曲が複雑になったり、素っ頓狂なフレーズが出てくるわけではない。むしろ、パンク、J-POP、グランジ、ギター・ポップといった音楽性が、3ピースのバンド・スタイルでストレートに展開された、音楽的には過去最高にシンプルな作品と言えるだろう。だが、それ故にヤバいのだ。余計な装飾が一切排除されているからこそ、その音と言葉に潜む狂気が、まるで原液100パーセントのシロップのようにドロっとした純度を持って、耳に残る。ここには、一口舐めるだけで悶絶してしまうレベルの毒気が満ちているのだ。結成14年、自身のレーベルを立ち上げて3作目。もはや誰も辿り着けない境地に立っている。
-
-
辻村有記
POP
配信限定で「Ame Dance」、「Light」をリリースし"Fox.i.e"名義で海外活動も行ってきた辻村有記のソロEPが完成。2016年にHaKUを解散し、ソングライターとして自分を作り上げたカルチャーに向き合い、その柱となる"POP"を新しいアプローチで構築した。ライヴはひとまず横において、頭に詰まっている音世界、好きな音色やリズム、純粋な想いとメロディを濃いままでアウトプットした感覚だ。R&Bや、オーケストレーションの要素も随所で感じる、饒舌で温かみのあるエレクトロ・サウンドは、バンド時代から考えると新鮮であり、またエッジーで洗練されている。ダンス・ミュージックでもあるが、フィジカルなビートよりも物語性の高さに重きが置かれていて、イマジネイティヴな広がりがある。
-
-
つばき
夜更けの太陽
前作『流星ノート』から1年4ヶ月ぶりに届けられたつばきのニュー・アルバム。今年で結成10周年を迎える彼等の歴史を振り返る様にシンプルで力強いバラードからヒリヒリとしたソリッドなロック・ナンバーまで引き出しの多いつばきの魅力を惜しみなく発揮してくれた渾身の力作だろう。ライヴ・バンドとして成長してきたつばきの演奏力やアレンジも洗練されていてすっと体にしみ込んでくるような聴きやすさがある。その中でも一色徳保の飾らず伸びやかなヴォーカルは、その迫り来るサウンドに対向するように存在感がありとても魅力的だ。センチメンタルな歌詞も優しさが溢れていて、メッセージも純粋でとてもパーソナルな作品に仕上がっている。
-
-
つばきフレンズ
つばきフレンズ
2010年12月、一色(Vo/Gt)の脳の異常による体調不調のため、急遽活動休止となってしまったロック・バンドつばき。先々まで決まっていたライヴは中止せず、つばきの仲間たちが集まり、つばきの楽曲を演奏し、歌い継いだ。それがつばきフレンズの始まりだった。“一色のリハビリ療養のあいだも、つばきの歌を鳴らし続けよう”という趣旨のもと制作されたのが今作。参加者のクレジットを見るだけで圧巻だ。一色が歌う新曲「歩き続ける」も収録。仲間の手によって更に昇華された歌と、新しく紡がれた希望の歌。音楽によって集まった仲間の結束力の結晶だ。こんな音楽の前じゃ誰だって素直にならずにはいられない。普段は気恥ずかしくて言えないのだけれど、このアルバムを聴いたら言える。音楽って素晴らしい!
-
-
ツミキ
SAKKAC CRAFT
処女作にして、ニコニコ動画殿堂入りを果たした「トウキョウダイバアフェイクショウ」から3年、ボカロP ツミキがリリースする初のフル・アルバム。過剰に詰め込んだロック・サウンドにのせた言葉数の多い日本語詞のメロディが人間の存在意義を痛烈に問い掛ける。これまで様々な VOCALOIDで発表してきた楽曲を初音ミク歌唱にリアレンジした既出の8曲に加えて、新曲「レゾンデイトル・カレイドスコウプ」を収録。この世界は偽物か本物か。それすら疑いながら本当の自分を摸索するテーマはツミキが放ち続けてきた思想に深く通底する。アルバム・タイトルの"SAKKAC CRAFT"=錯覚クラフトとは、この錯覚のような世の中で生きる私たちそのものを表しているとしたら、言い得て妙だ。
-
-
ツユ
アンダーメンタリティ
作詞作曲/ギター担当のぷす、ヴォーカル担当の礼衣、ピアノ担当のmiroからなる音楽ユニット、ツユから前作より約2年ぶりのオリジナル・アルバム『アンダーメンタリティ』が届いた。本作には、TVアニメ"『東京リベンジャーズ』聖夜決戦編"ED主題歌「傷つけど、愛してる。」、dアニメストア"#アニメってエネルギーだ"篇のCMソング「これだからやめらんない!」といったタイアップ曲のほか、未発表の新曲も収録。推し/炎上を歌った「いつかオトナになれるといいね。」、トー横/地雷系をテーマにした「アンダーキッズ」、量産型女子を揶揄した「アンダーヒロイン」など、臆面もなく女の子のリアルな本音を吐き出した楽曲は攻撃的な側面も持ちつつも、"マジめんどくせぇ人生"を生きる誰かの救いにもなるはず。
-
-
鶴
普通
"普通"というタイトルに、まったく普通じゃない大胆さを感じさせられる鶴のニュー・アルバム。聴いていても、ノリのいいソウル・ミュージックから、心地いいポップスまで、老若男女を笑顔にする楽曲ばかりなのだが、その中に大胆さが見え隠れする仕上がりになっている。特に、見え隠れどころではなく見えまくっているのは「歩く this way」。曲名から連想されるあの名曲を大胆に引用し、彼らのルーツを再確認させられる。そして、エッジィなファンクに"お母さん"というテーマをのせて"あなたの作る 手料理 マジで 美味い"と歌う「Waiting Mother」も、かなり大胆。そして、そんな彼ららしさをすべて総括したようなハード・ロック「結局そういうことでした」で締めくくるという流れが絶妙だ。
-
-
鶴
バタフライ
小さな蝶の羽ばたきが、いずれ大きな影響をもたらす現象"バタフライ・エフェクト"。鶴のやっていることは、バタフライ・エフェクトの"蝶"のようなものかもしれないとフロントマン、秋野 温は言う。3周目の47都道府県ツアーを完遂した鶴。彼らによる新たな試みである主催フリー・イベント"鶴フェス2019"のテーマ曲「バタフライ」は、意外にもアコギとキーボードの優しい音色から始まるバラードだった。とはいえ、しっとりするだけではなく、サビや後半にかけて力強いバンド・サウンドとストリングスが彩り、聴き手自身も"蝶"になっているんだよと、目いっぱい広げた両手で包み込むような温かいメッセージをくれるのが鶴らしい。前作に続いて収録された50分ものライヴ音源も併せて堪能したい。
-
-
鶴
歩く this way
"いくつになってもゴールがないのは生きている証拠だ"、そんな言葉から始まる作品。爽やかでありながら、胸がきゅっとなる切なさも含んだ横揺れサウンドは、夏が終わりに向かう季節にもマッチする。そして曲中に忍ばせた遊び心、思わず手を叩いて口ずさみたくなるグッド・メロディという磐石の鶴らしさも忘れない。さらに、約50分ものライヴ音源も収録。温かく沁み込む鶴の音とソウルがそのままの空気感で味わえる太っ腹っぷりだ。それぞれのスピードで山や谷を進むようなアートワークも含め、EP全体を通して、15年の活動で培った説得力で、"ついて来い"ではなく"一緒に行こう"と言ってくれている。3度目の47都道府県ツアーという旅に出る彼らは、それを糧にし、また強くなって帰ってくることだろう。
-
-
鶴
僕ナリ
2018年に結成15周年を迎える鶴のアニバーサリー企画第1弾作品。新たな試みとして、数々のアーティストへの楽曲提供、プロデュースでも知られる磯貝サイモンを起用。「低気圧ボーイ」を聴くと、冒頭のギターの不穏なフレーズ、立ち込める雲のようなベース、荒れ狂う空を思わせるドラムと、曲のテーマを演奏で表現するのが本当に得意なバンドだなぁと再認識。クランチな歪みでかき鳴らすギターも新境地を感じさせる。3人の珠玉のコーラスが堪能できる「Keep On Music」、ピアノをバックに秋野温(うたギター)が優しく歌い上げる「真夜中のベイベー」、ミディアム・テンポのどっしりしたサウンドを聴かせる「北極星」など、聴きどころが多い。"ゴールではなくスタート"であることを宣言する力強いアルバム。
-
-
鶴
ニューカマー
前作『ソウルのゆくえ』のリリースから7ヶ月、早くも完成した自主レーベル4枚目のオリジナル・フル・アルバム。"94都道府県ツアー"を終え、次なる挑戦として行われた新曲のみで構成する東名阪ワンマン・ツアー"TOUR 2016「ニューカマー」~94都道府県、その後~"から生まれた楽曲を中心に収録している。そのライヴを目撃した人なら、Track.1「未来は今だ」を聴けばどんな曲が飛び出すのだろう? とワクワクしたオープニングの興奮が甦ってくるはず。リズム隊のふたりもそれぞれ曲を書いており、Track.7「Funky Father」では神田雄一朗(ウキウキベース)のリード・ヴォーカルによる1コード一発のファンク・チューンを聴くことができる。音楽自体を歌うTrack.8「君はワンダー」、"雑味"とかけたTrack.9「THAT'S ME」など、1曲ごとのテーマも興味深い。
-
-
鶴
ソウルのゆくえ
Soul Mate Record設立後にリリースした『SOULMATE』『Love&Soul』に続くソウル三部作の集大成となるフル・アルバム。"94都道府県ツアー"中に生まれた楽曲たちは、全国のソウルメイトたちやメンバー、家族へのメッセージが込められた"泣き笑い"のTrack.2「愛の旅路」から、まだまだ転がり続ける決意を示すラストのTrack.12「ローリングストーン」まで、意図せずとも旅や人生を思わせるものが多い。三部作の集大成であると共に、新しい扉を開けてスタートしようという気持ちが"ソウルのゆくえ"というタイトルに表れたのではないだろうか。それにしても「Funky Magic」の自由すぎる展開はライヴでの再現が楽しみ。こういうアレンジができるのも百戦錬磨のライヴ・バンドならではの余裕!!
-
-
鶴
Live&Soul
47都道府県ツアーのライヴ会場と"鶴ONLINE SHOP"で先行販売されていたミニ・アルバムを改めて全国リリース。ハードロック、ファンク、パンク、弾き語りのバラード有りと、あらゆるジャンルを飲みこんだ鶴のライヴを凝縮したようなバラエティ豊かな6曲が収録されている。ミディアム・テンポの王道ハードロック「Live&Soul」、"鶴としては新しいノリ"というパンキッシュな「あなたのために」、3人それぞれがボーカルを取る疾走感溢れるファンク「Funky Day」など、ライヴ・バンドとしての魅力満載。中でもクールに熱いダンス・ロック「ユラユラ」で聴かせる後半のオールド・テイストなアレンジ、コーラス・ワークは新鮮に聴こえる。ラストの目の前で歌ってくれているような「おいでおいで」はツアーに訪れるお客さんへのあたたかいメッセージだ。
-
-
鶴
Love&Soul
2013年に立ち上げた自主レーベル"Soul Mate Record"からリリースする2作目のアルバム。ゲスト・プレイヤーなどを一切入れずに3人だけでレコーディングされており、首尾一貫ソウル・マナーに則ったメリハリのあるアレンジで楽しませてくれる。ユーモアと愛に満ちた言葉と共に届けられる「U.F.O」、「LoveLoveLove」といったノリノリなディスコ・サウンドがなぜこんなにも体に入ってくるのかというと、単純に"曲がいい"から。流行りの四つ打ちダンス・ロックとはそこに歴然とした差を感じるのだ。そのことを最も感じさせてくれるのが「Intro」に続く「Life is Party」。この"ゆったり感"は最高に心地良い。ロック・ミュージシャンを志す10代には、こういう作品をコピーすることで本物のロックを知ることができると思うのでオススメ。
-
-
THEティバ
On This Planet
連作となった2枚のEPで印象づけた可能性を、バンド・サウンドにとらわれないという自由な発想で一気に開花させた1stフル・アルバム。THEティバのバックボーンであるローファイ感覚のインディー・ロックを軸に、ダークなフォーク/カントリー、アナログ・シンセを鳴らしたサイファイ・ポップ、アシッド・フォーキーな弾き語り、ポップ・パンク、アトモスフェリックなドリーム・ポップと変化をつけた全12曲は、一曲一曲、相応しい音色を追求していったサウンドメイキングも聴きどころ。それをふたりが楽しみながら作っている姿を思い浮かべながら、ぜひ聴いていただきたい。ASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文(Vo/Gt)がマスタリング・エンジニアとして参加したことも話題のひとつだ。
-
-
THEティバ
THE PLANET TIVA part.1
18年結成の2ピース・ガールズ・ロック・バンドが2nd EPと2.5th EPを連続リリース。岩本岳士(QUATTRO/Vo/Gt/Key)をプロデューサーに迎えたレコーディング・セッションからの選曲ということで、ともにローファイ感覚のインディー・ロックという共通点があるなか、こちらはミッド~スロー・テンポの5曲を収録。外に開かれたpart.2とは逆に内向きという印象もありつつ、ギターの轟音が鳴る演奏はダイナミックで、サイケデリックな音像とともに聴き手の気持ちをじわじわと絡めとるような魅力がある。「Cloud nine」や「If I find my shoe」からはフォークの影響も窺える。圧巻はラストの「Sweet liar」。ゆったりとしたテンポの演奏の中にTHEティバのすべてが詰まっている。
-
-
THEティバ
THE PLANET TIVA part.2
18年結成の2ピース・ガールズ・ロック・バンドが2nd EPと2.5th EPを連続リリース。岩本岳士(QUATTRO/Vo/Gt/Key)をプロデューサーに迎えたレコーディング・セッションからの選曲ということで、ともにローファイ感覚のインディー・ロックという共通点があるなか、彼女たちいわくポップ・パンク寄りというこちらは「I want nothing to do any more」をはじめ、アップテンポの曲を中心に外に開けた印象がある。疾走感あふれる前半から、ぐっとテンポを落とした「Monday」ではキャッチーなリフを閃かせ、94年にデビューしたあのバンドも彷彿とさせる。最後を締めくくる「Sunny Side」はサイケなスロー・ナンバー。息の合ったダイナミックな演奏は、THEティバの真骨頂だ。
-
-
TAKECOVER
コネクショナリズム
"兵庫のメロディ・ファクトリー"をコンセプトに結成された神戸発の4ピースが、結成8年にして初の全国流通盤をリリース。そのキャッチフレーズ通り歌やメロディを大事にしたバンドであるが、歌に寄り添いながら各々の我を存分に出す楽器隊によるひとつひとつのフレーズも大きなアクセントだ。今作にはammoflightの津久井恒仁(Vo/Gt)をプロデューサーに招き、歌詞の書き方を中心に様々な挑戦をしたとのこと。明快で聴き心地のいいポップな楽曲から、染み入るバラード、アップテンポな楽曲やテクニカルな楽曲など、バリエーションが豊かだ。会場限定盤『シグナリズム』はバンド・アンサンブルやプレイヤーのスキルが光る楽曲が多く、サウンドの振れ幅は今後も要注目である。
-
-
テスラは泣かない。
Lie to myself
ロックとは騙された者勝ちの音楽だ。このくだらない世界で、たった一瞬でもハイな気分を味わうために自分を騙す――それがロックの本質。その点で、テスラは泣かない。はロック・バンドとして圧倒的に正しい。自分たちを上手く騙しているし、リスナーを騙そうとする気概もある。このメジャー・デビュー・ワンコイン・シングルの表題を飾る「Lie to myself」は、彼らが標榜する"マグマロック"という言葉に相応しい1曲。緊張感のあるピアノの旋律に爆発力のあるギター、ベース、ドラムが絡み合うダイナミズムは、まるで本能が理性を凌駕する瞬間のカタルシスそのもの。この曲が鳴っている間は、今お前が身に纏っている苦悩も嘘も矛盾も、すべて解き放って忘れてしまえと言わんばかりの頼もしい吸引力。最高。プロデュースはクラムボンのミト。
-
-
テスラは泣かない。
High noble march
名門mini muff recordsが新たに世へ送り出す大型新人の登場である。鹿児島県出身の男女混合4ピース・ロック・バンド“テスラは泣かない。”。捻りも効いた力強いサウンドは、美しいピアノの旋律が楽曲へ軽やかで爽やかな印象を与え、良質なメロディを直球で投げかける痛快なフレッシュさに満ちている。歌詞の言葉選びは率直でありながら独特のセンスを感じられるので、そちらにも注目してもらいたい。リード・トラック「cold girl lost fiction」で、ジャズの要素をも独自のロックへと落とし込む手腕は圧巻。バンドのみならず、音楽への新たな可能性を十分に楽しめる。
-
-
鉄風東京
Our Seasons Our Lovers
全国各地の大型フェスに出演する等、勢いが止まらない鉄風東京の最新ミニ・アルバムは、胸の高鳴りがギターの疾走感と絡み合って爆ぜるロック・チューン「Dazzling!!」で幕を開ける。哀愁を漂わせながらも、盲目だった恋の記憶を煌めかせるように畳み掛けるサビの勢いは、切なくもどこか清々しい。季節の移ろいに心情を透過したバラード「金木星」では半音ずつ下がるメロディがキャッチーで、詞と共鳴するようなサウンド・アプローチからも心の機微が読み取れる。忘れたくない"君"の姿が鮮度そのままにパッケージされた本作だが、思い出に浸るだけでは留まらない。早足の四つ打ちが、アルペジオの侘しさが、いつだって盲目な僕等を次の季節まで連れていってくれる。
-
-
テニスコーツ
All Aboard!
テニスコーツは、さや(Vo&Key)植野(Gt)の2人で構成され、PastelsやTape辺りのインディー・バンドとも競演している日本が世界に誇れるアーティストだ。今作では渚にて等で活躍する高橋幾郎(Dr)を加え制作されている。植野のギターは今までの作品で最もエレクトリックでサイケデリックであり、高橋のドラムは絶妙なアクセントを加えている。今までの作品の中で最もロック的なアプローチをしたと言えるかもしれない。それをテニスコーツとして成立させているのは1度聴いただけでそれとわかるさやのヴォーカルと、暖かくも力強いメロディだろう。特にそのメロディが映えている「Simple Re」はテニスコーツ“らしさ”が詰まった牧歌的な子守唄のような優しい曲だ。ロックとテニスコーツの優しい科学反応を感じることができる作品。
-
-
THE天国カー
金
THE天国カーの音楽はブルーズである。ブルーズとは、悲しみを悲しみとして、痛みを痛みとして描くことだ。そうやって描くことで、痛みや悲しみを客観的に、そして多角的に捉えることだ。救いや解決はなくても、そこには生きることの輪郭がはっきりと浮かび上がる。明日なんて来るなとうそぶいても、夜は明ける。ブルーズとは観念の話ではなく、生きること、実存、それらにまつわる極めて具体的な話なのだ。『金』と『銀』、フル・アルバムを2枚同時にリリースという、LINE MUSICが話題のこのご時世になんともけったいな話だが、たしかなものに触れたければ手に入れた方がいい。まるでサイケデリック・ガレージの伝説、BLUE CHEERをバックにエレカシ宮本が叫んでいるような暴走チューンもあれば、(『銀』レビューに続く)
-
-
THE天国カー
銀
(『金』レビューの続き)インディーズ時代の毛皮のマリーズのような、ジャンクでキュートなロックンロールもある。涙が出るほどに穏やかで美しいバラードもある。音楽的な振り幅は異様に広いが、すべてを過剰な熱量がまとめ上げている。"神などいない"と叫び、自らの不遇を呪い、日本と女性に対して強烈な愛憎を滲ませ、最終的には"明日はくるぜ"と、そして"唄をくれないか"と歌う。この音楽に刻まれているのは、生々しく歪な輪郭を纏った男の"生"だ。こうして音楽にならなければ、雑踏に紛れ、出会うこともなかったであろうひとつの"生"。だが、それは音楽になり、私たちに届けられた。人は自分の足でしか歩けないし、自分の手でしか愛することはできない。ならば歩き、愛するしかないのだと、THE天国カーは伝えている。
-
-
天才バンド
アリスとテレス
奇妙礼太郎を擁する"天才バンド"が2ndアルバムにしてメジャー・デビュー作をリリース。今作では、Sundayカミデ(Cho/Pf)がソングライティングしている9曲と、スタジオ・ジャム・セッションの6曲で構成したボリューム満点の15曲を収録。前半では、"えぇ、酸いも甘いもすべて味わって参りました"とでも言っているかのようなイイ感じの年齢3人によるラヴ・ソングの攻撃。Track.3においては、サビの"好きだよ"のあとに1小節の"間"があることで、この楽曲の素晴らしさ(むず痒さ)が際立つ。いつかの思い出を美しい記憶に留めておきたいTrack.5や、誰かと行った海を眺めに行っちゃうTrack.6など、どれも男の本音をハッキリと表現したストレートな楽曲ばかり。秋の夜長に聴きたい哀愁漂う大人のロックンロールな1枚だ。後半では、子供のようにはしゃぐ姿が容易に想像できるジャム・セッションで、一緒に踊り狂えます。
-
-
天才バンド
アインとシュタイン
さまざまな形態で活動するヴォーカリスト、奇妙礼太郎が新たに結成したトリオ・バンドの1stアルバム。ギターは奇妙が担当し、ピアノにはこれまでもライヴ、作品で共演してきたSundayカミデ、ドラムにトラベルスイング楽団で活動を共にするテシマコージを配している。3人によるリズム主体の演奏は、もしかしたら1番彼に合っている編成なのではないだろうか?と思わせるほど見事にマッチしており、Track.1「天王寺ガール」からいきなり心を鷲掴みにされてしまった。ライヴでの人気曲「君が誰かの彼女になりくさっても」の再演も感動的に胸に響く。シンプルなピアノとドラムが運ぶ美しい旋律が力強くも押しつけがましくない奇妙の歌声でより際立っている。2014年の名盤リストに早速入れておきたい1枚、素晴らしいです。
-
-
テンテンコ
工業製品
元BiSのテンテンコが約2年間のフリーランス期間を経て完成させた1stミニ・アルバム。自身のルーツであるテクノ・ポップやエレクトロ・ミュージック、歌謡曲などのエッセンスを随所に散りばめた今作には、全楽曲で異なる7人のミュージシャンが楽曲に参加している。あたかもTHE BEATLESのホワイト・アルバムのようにバラバラな世界観を描きつつも、人間・テンテンコという軸で一本筋の通った作品になった。LOGIC SYSTEMによる幻想的な80年代テクノ歌謡曲「星の電車」を始め、ゴリゴリの重低音が効いたアップ・ナンバー「放課後シンパシー」、七尾旅人がコーラスでも参加している「流氷のこども」、ボアダムスのEYEが編曲した「くるま」など、細部まで工夫を凝らし、心血を注いだ作品に対して、"工業製品"と名づける皮肉がテンテンコらしい。
-
-
電気グルーヴ
20
結成20周年記念となる今回のアルバム『20』は、Disc-1がオリジナル、Disc-2がカラオケ・ヴァージョンとリミックス、そしてPVが収録されたDVD付きと、豪華三枚組仕様となっている。Disc-1は歌モノが主体となっており、近年の歌モノエレクトロ隆盛を多少なりとも意識したのだろうか?と、思いきや、そもそも電気グルーヴは本格テクノと歌を融合させてお茶の間レベルに持ち込んだパイオニア的存在なのだから、そんなことあるはずもない。今まで電気グルーヴを聴いたことがない人にも聴きやすくなっているサービス精神を感じるが、だからと言って従来のファンを裏切るような内容では全くないのでご安心を!まだ電気グルーヴに触れたことがない人は、この機会に火傷必至で触れてみて。
-
-
電波少女
パラノイア
ほぼ全曲がフィーチャリング曲だった昨年リリースの前作『WHO』とは異なり、このユニットの軸を見せるような構成の本作。ラップにおいて重視されがちな言葉の滑り方のみならず、聴き応えのあるメロディ・ラインも特徴的。そのため、ヒップホップというジャンルに変にこだわっていない印象があり、正統な歌モノとして聴くことも可能だ。そんな音楽性の由来にあるのは、彼らの根底にある"枠にハマることに対する窮屈さ"や"匿名性を振りかざして極端な思考を繰り返す人々への違和感"だろう。Track.1「拝啓」に始まり、Track.7「追伸」で終わっていることからも察せられるように、その銃口はあなたの喉元に。"俺達の曲は聴きやすい猛毒"(「追伸」)というフレーズも言い得て妙だ。
LIVE INFO
- 2025.10.30
- 2025.10.31
- 2025.11.01
- 2025.11.02
- 2025.11.03
- 2025.11.04
- 2025.11.05
- 2025.11.06
- 2025.11.08
FREE MAGAZINE

-
Cover Artists
ASP
Skream! 2024年09月号





